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大気化学
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{{出典の明記|date=2011年11月}} '''大気化学'''(たいきかがく、[[英語]]:atmospheric chemistry)とは、[[大気]]中の[[化学物質]]の挙動や[[気象|気象現象]]との関連を扱う学問分野である。関係の深い分野には[[物理学]]、[[気象学]]、コンピューターモデリング、[[海洋学]]、[[地質学]]、[[火山学]]などがある。 大気の組成は生物活動との関係によって変化する。また[[オゾン層破壊]]、[[地球温暖化]]、[[酸性雨]]、[[気候変動]]なども大気化学に関連する重要な社会問題となっている。 日本では[[気象学]]の一分野として扱われることが多い。'''気象化学'''とも呼ばれるが、大気化学の呼称が一般的である。また[[惑星]]大気を対象に入れることがあり、[[惑星科学]]の一分野としても扱われる。 [[1995年]]に、[[ドイツ]]の[[パウル・クルッツェン|クルッツェン]]、[[アメリカ合衆国|アメリカ]]の[[マリオ・モリーナ|モリーナ]]、[[シャーウッド・ローランド|ローランド]]の3名は、大気化学の分野における[[オゾン]]の生成と分解に関する研究により、[[ノーベル化学賞]]を受賞した。 == 大気現象のスケール == [[太陽]]からの放射は[[シュテファン=ボルツマンの法則]]により波長約500nm付近にピークを持つスペクトル分布を示す。これらは大気中の物質により吸収されるため、地表に到達する波長成分の一部分は、気体の吸収スペクトルに合わせて大きく減衰している。その作用の顕著な気体は[[酸素]]、[[水蒸気]]、[[二酸化炭素]]、[[オゾン]]である。 太陽放射のエネルギーを受けることにより、大気中では数多くの[[化学反応]]が生成される。大気中の物質が生成され、消滅するまでの平均的な寿命は物質の種類によって大きく異なる。物質の寿命は空間スケールとほぼ比例するので、これらは[[気象]]現象のスケールと対応付けられている。 *マイクロスケール(Microscale、~100m):OHラジカル、三酸化窒素:都市の大気汚染 *ローカルスケール(Local scale、~10km):硫化ジメチル、窒素酸化物、[[過酸化水素]]: [[対流圏]]と[[成層圏]]の物質交換 *メソスケール(Mesoscale、~数100km):オゾン、[[エアロゾル]]、[[一酸化炭素]]: [[酸性雨]] *グローバルスケール(Global Scale、数100km~):メタン、一酸化二窒素、フロン: [[エアロゾル]]と気候変動の関係、[[温室効果ガス]]、[[成層圏]][[オゾン]]の減少 == 大気中の化学物質 == === 硫黄化合物 === 大気中の硫黄化合物は、酸化還元反応をもたらす点と、不揮発性の[[硫酸]][[エアロゾル]]を形成する点で、大気中の化学反応に非常に大きな効果をもたらしている。主要な物質としては[[硫化水素]]、[[硫化ジメチル]](CH<sub>3</sub>SCH<sub>3</sub>)、[[二硫化炭素]]、硫化カルボニル、[[二酸化硫黄]]などがある。このうち二酸化硫黄の排出量と[[二酸化炭素]]の排出量には強い相関があることが分かっている。 [[産業革命]]が生成する以前は、海洋の[[プランクトン]]が硫化ジメチルを介して大気中の硫黄化合物の反応を支配していたとされる。 === 窒素化合物 === 窒素は通常の状態では反応性に乏しいが、太陽放射のエネルギーを受けることにより化学反応に寄与する。また[[アンモニア]](NH<sub>3</sub>)をはじめとして生命活動の関連も強い。[[窒素酸化物]](NOx、ノックス)としては[[一酸化窒素]]、[[二酸化窒素]]、[[一酸化二窒素]]、[[五酸化二窒素]]などがある。 窒素酸化物は大気中で反応して[[硝酸]]となり、酸性雨の原因となったり呼吸器に影響を与えたりする他、太陽からの[[紫外線]]を受けることにより[[光化学反応]]物質が生成され、[[光化学スモッグ]]の原因となる。また、[[花粉症]]は花粉と窒素酸化物が結合した物質により[[アレルギー]]が引き起こされるとする説もある。 === 炭化水素 === 大気に含まれる[[炭化水素]]のうち最も重要なものは[[メタン]]であり、自然起源や[[化石燃料]]の使用により発生するほか、[[対流圏]]で[[ヒドロキシルラジカル|OHラジカル]]と反応することにより、硫黄化合物やハロゲン化物の各種反応に寄与している。また温室効果ガスとしての作用を持つ。ただし組成比としては[[排気ガス]]の影響によりメタンよりも[[エタン]]、[[エテン]]、[[プロペン]]、[[イソプレン]]、[[アセチレン]]などが多いことがある。 近年、[[塗料]]や[[溶媒|溶剤]]の使用により、都市大気中の揮発系有機化合物(VOC)が増加している。呼吸器に対する発癌性や、光化学反応物質への影響が問題となっている。VOCは植物からも発生し、主な例として[[テルペン]]類が挙げられる。VOCが光化学酸化反応を経ることで生成する半揮発性有機化合物は、大気中の粉塵に凝縮することで二次有機エアロゾル(Secondary Organic Aerosol)を生成し雲凝結核(Cloud Condensation Nuclei)となることから気候変動へ影響を及ぼすと考えられ、近年注目されている。 === ハロゲン化物 === 大気に含まれるハロゲン化物は次のように分類される。 *ハロカーボン類 *[[フルオロカーボン]]類(FCs) *クロロフルオロカーボン類(CFCs) *ハイドロクロロフルオロカーボン類(HCFCs) *ハイドロフルオロカーボン類(HFCs) *パーハロカーボン類 *[[ハロン (化合物)|ハロン]]類 これは[[スプレー]]や[[消火器|消化剤]]に用いられているが、[[オゾン層]]を破壊するために、使用が規制されている。[[温室効果ガス]]でもある。 === オゾン === {{For2|成層圏の[[オゾン]]|オゾン層}} 対流圏のオゾンは成層圏とは異なり、増加していることが分かっている。対流圏の下層においては夏半球で高濃度となり、また[[アフリカ]]や[[南アメリカ|南米]]で夏季に行われる[[野焼き]]によって大量のオゾン前駆物質が生成され、オゾン濃度が上昇する。オゾンの[[分圧]]比は高度20~25km程度で最大となる。また[[海洋]]や[[熱帯雨林]]よりも[[都市]]域の方が濃度が高い。 === 粒子状物質 === 大気中の微粒子([[粉塵]]、[[粒子状物質]]、[[エアロゾル]])はシリカ([[珪素]])、[[炭素]]粒子、[[塩化ナトリウム]]、[[硫酸アンモニウム]]、[[硫酸]]、各種の金属粒子などがある。[[火山]]の噴火、海塩粒子、[[花粉]]や[[カビ]]などの生物が原因となる自然起源のもの、人間活動に伴って放出される人為起源のものがある。不溶性の粒子は吸入すると[[呼吸器]]に付着し、[[呼吸器疾患]]の原因となることがある。 そのため大気汚染の激しい地域では大気中の[[浮遊粒子状物質]](SPM)の測定が定期的に行われている。測定には[[フィルター]]を通して一定時間空気を吸入しフィルターに付着した物質を分析する'''サンプラー'''や、水平板に降下する煤塵を測定する'''ダストジャー'''などの装置が用いられる。 また近年では、優れた時間分解能で粒子中の成分をオンラインで測定する装置が開発されている(例:Aerosol Mass Spectrometer)。しかしながら、オンラインで測定できる対象は粒子濃度、粒子中の無機物、有機物のフラグメントなどに限られているため、フィルターを用いた分析手法と併用することが必要となる。 また、現在の分析技術では大気粉塵中の有機物の数%しか同定することが出来ないため、分析技術の発展が望まれている。 === 有害物質 === [[1989年]]に[[カリフォルニア州]]が大気中の有害物質を定めている。[[ベンゼン]]、二臭化エチレン、「二塩化エチレン、[[六価クロム]]、[[ダイオキシン]]、[[アスベスト]]、[[カドミウム]]などがある。 == 大気中の光化学 == === 対流圏 === 対流圏におけるオゾンの供給源は、対流圏での光化学反応による生成や、成層圏からの移流によるものである。対流圏のオゾンの存在量は大気中の全量の10%にも満たないが、酸化力が強く光化学反応に重要な役割を占めていること、赤外域にも吸収特性を持ち[[温室効果]]の原因となることから、大気化学の中では重要な意味を持つ。 また、対流圏のオゾンが高濃度になると、人体への影響がある。 === 成層圏 === [[成層圏]]には一般に[[雲]]は存在しないが、極付近の冬季には氷点下90℃近くの低温となるため、わずかな量の水蒸気でも凝結し'''極成層雲'''(PSCs)を形成する。それらは[[硝酸]]の3水和物、硝酸および[[硫酸]]の液滴、氷晶から構成されている。また極成層雲において[[塩化水素]]および亜硝酸が存在すると、次の化学反応によりオゾンが分解される。 <center> <math>{\rm HCl}+{\rm NO}_2+2{\rm O}_3 \to {\rm ClO} + {\rm HNO}_3 +2{\rm O}_2</math> </center> なお、成層圏の[[オゾン]]([[オゾン層]])は減少しているが、対流圏のオゾンは増加していることが分かっている。対流圏の下層においては夏半球で高濃度となり、また[[アフリカ]]や[[南アメリカ|南米]]で夏季に行われる野焼きによって大量のオゾン前駆物質が生成され、オゾン濃度が上昇する。オゾンの分圧比は高度20~25km程度で最大となる。また海洋や熱帯雨林よりも都市域の方が濃度が高い。 成層圏のオゾンは原始大気に存在した成分ではない。[[1930年]]にチャップマンにより提唱されたチャップマン機構により、成層圏におけるオゾンの生成過程が示唆された。主に高度100km以上の成層圏で酸素分子に紫外線が作用することによりオゾンが生成される。 <center> {| border="0" |-align=left | <math>{\rm O}_2 + h\nu \to {\rm O}+{\rm O}</math> |- | <math>{\rm O} + {\rm O}_2+ {\rm M} \to {\rm O}_3+{\rm M}</math> |- | <math>{\rm O_3} + h\nu \to {\rm O}+{\rm O}_2</math> |- | <math>{\rm O} +{\rm O}_3 \to 2{\rm O}_2</math> |} </center> (<math>h\nu </math>は紫外線を示す) しかし実際に成層圏で観測されるオゾンは、チャップマン機構により予測されるオゾンの存在量よりもはるかに少ない。これは成層圏に存在する水素酸化物、窒素酸化物、塩素酸化物などの微量成分による[[触媒]]作用によってオゾンが消滅するためであることが分かっている。 == 雲物理学 == [[雲]]物理学とは、大気中の[[雨]]や[[雪]]の生成過程を扱う学問分野の一つであり、大気化学、気象学の一つの分野として考えられる。 == 惑星大気 == 地球大気は主に[[窒素]]と[[酸素]]から構成されているが、この特徴は他の[[惑星]]と非常に異なるものである。例えば[[金星]]、[[火星]]大気の主要成分は二酸化炭素、木星大気の主要成分は[[水素]]である。地球大気に二酸化炭素が少ない原因は、大気、陸、海の水循環の過程において炭酸塩が海中に蓄積されることが大きく作用している。[[植物]]の光合成の影響はそれほど大きくない。 == 関連項目 == *[[大気]] *[[地球科学]] - [[惑星科学]] *[[気象学]] *[[気候]] {{地球科学}} {{オゾン層破壊}} {{大気汚染}} {{Normdaten}} {{DEFAULTSORT:たいきかかく}} [[Category:地球科学の分野]] [[Category:大気科学]] [[Category:気象学]] [[Category:化学の分野]] [[Category:大気]] [[Category:オゾン層破壊]] [[Category:大気汚染]] [[Category:大気拡散モデリング]]
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