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大統一理論
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{{標準模型を超える物理}} '''大統一理論'''(だいとういつりろん、{{lang-en|grand unified theory}}, '''GUT''')とは、[[電磁相互作用]]、[[弱い相互作用]]と[[強い相互作用]]を統一する[[理論]]である。幾つかの[[モデル (自然科学)|モデル]]が作られているが、未完成の理論である。 電磁相互作用と弱い相互作用の統一は[[ワインバーグ=サラム理論|電弱統一理論(ワインバーグ=サラム理論)]]として[[シェルドン・グラショウ]]、[[スティーヴン・ワインバーグ]]、[[アブドゥッサラーム|アブドゥ・サラム]]により完成されている。 == 概要 == {{Unsolved|物理学|標準模型の3つの力を統一させることはできるか。どの対称性によって統一できるか。その統一理論によってフェルミオンの世代数と質量を説明できるか。}} 「自然界は四つの基本的な力([[電磁相互作用]]、[[弱い相互作用]]、[[強い相互作用]]、[[重力]])で表される」とする。 「[[宇宙]]の始まりに存在したのは唯1つの[[力 (物理学)|力]]だけで、その後これらの四つに分かれた」という考え方から、これら四つの力を一つの形で表して統一しようとする理論がいくつかあるが、大統一理論(GUT)はそのひとつである。 GUTはこれらの力のうち、重力を除いた前者三つを一つの形に統一しようとしている。 大統一理論は[[重力]]については考えていない。重力までも統一する理論のことを'''超大統一理論'''ないし'''[[万物の理論]]'''という。 == GUTの歴史 == この理論の歴史を源流まで遡るならば、[[ジェームズ・クラーク・マクスウェル|マクスウェル]]による[[場の方程式]]による[[電磁場理論]]によって電気と磁気が統一されたことから始まる、と言ってもよい。[[アルベルト・アインシュタイン|アインシュタイン]]の[[一般相対性理論]]に大きな影響を及ぼし、「[[統一場理論]]」への夢につながった。その後電磁相互作用と弱い相互作用が統一された。その後作られたこの大統一理論は、三つめの「強い相互作用」も統一しようとする理論である。 ;提唱年と提唱者 歴史的に言うと、最初のまぎれもない大統一理論が提唱されたのは[[1974年]]のことで、[[ハワード・ジョージ]]と[[シェルドン・グラショー]]によるものであった。 「[[ゲージ理論|ゲージ変換]]」という、ある式にある操作を施しても対称性(ゲージ対称性)が保たれるという[[数学]]的手法を使い、知られている性質を説明し未知の性質を[[予言]]し、それを[[検証]]することによって理論を確認しようとしている。 ;近年の動向 [[標準理論]]では説明できない現象を説明しようとして作られたこの理論は、[[ビッグバン|ビッグバン理論]]([[インフレーション宇宙|インフレーション宇宙論]])の基礎ともなっているため、様々な検証がおこなわれている。[[カミオカンデ]]の実験により最初の大統一理論は否定され、[[超対称性]]という概念を加えた新しい大統一理論を検証の対象としている。ひとつは、({{いつ|date=2015年7月}}..年から)[[東京大学]]の[[森俊則]]教授の率いる日本・スイス・イタリア・ロシア・米国の国際チームがスイス・[[ポールシェラー研究所]]で行っているのが、[[ミュー粒子]]が崩壊して電子とガンマ線になること(μ→eγ(ミューイーガンマ)崩壊)を観測する[[実験]]である。標準理論では起こらないが、大統一理論では数千億から数兆分の一の[[確率]]で起こることが[[予想]]されていた。2011年9月に発表された5年間の5千億個の実験による中間報告<ref>[http://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2011/30.html ミュー粒子の崩壊から素粒子の大統一理論を探る 東京大学理学部プレスリリース 2011年9月27日]</ref>では発見できなかったため、実験を2年間継続し10兆個のミュー粒子で検証することになった。2013年までスイスで行われたMEG実験では2.4兆個観測では崩壊が見つからなかった。なお研究は継続中であり、約10倍の実験感度を改善し、3年間で25兆個を観測するMEGⅡ実験の2021年開始を目指している<ref>{{Cite web|url=https://indico.cern.ch/event/914018/contributions/3874440/attachments/2047970/3431715/ICEPPGuidance_MEG_ILC.pdf|title=ICEPP研究紹介|accessdate=2021-2-20}}</ref><ref>数兆個で1個の割合の場合、仮にそういう現象が存在しても、25兆個でも見つからない可能性はある。</ref>。 == GUTのモデル == {| class="wikitable" style="float:right;" |+ 標準模型のフェルミオンと表現 |- ! 粒子名 !! 記号 !! 表現 |- | クォーク | style="text-align:center;" | Q ||('''3''', '''2''')<sub>+1/6</sub> |- | 上系列反クォーク | style="text-align:center;" | U ||('''3'''<sup>*</sup>, '''1''')<sub>-2/3</sub> |- | 下系列反クォーク | style="text-align:center;" | D ||('''3'''<sup>*</sup>, '''1''')<sub>+1/3</sub> |- | レプトン | style="text-align:center;" | L ||('''1''', '''2''')<sub>-1/2</sub> |- | 反荷電レプトン | style="text-align:center;" | E ||('''1''', '''1''')<sub>+1</sub> |- | 反ニュートリノ<ref name="anti-neutrino">反ニュートリノの存在は必然ではない。</ref> | style="text-align:center;" | N ||('''1''', '''1''')<sub>0</sub> |} {{seealso|標準模型}} 現在、一定の成功をおさめている[[標準模型]]は、[[ゲージ群]] {{Indent| <math>G_s = SU(3)_c \times SU(2)_L \times U(1)_Y</math> }} に対する[[ゲージ理論]]であり、大統一理論は基本的にこのゲージ群を含む更に大きなゲージ群に対するゲージ理論である。 G<sub>s</sub>は三つのゲージ群の積の形になっていて、それぞれにゲージ[[結合定数 (物理学)|結合定数]]を持つ。 力を統一するということは、一つのゲージ群として表し、結合定数を1つにすることである。 G<sub>s</sub> はランク4である。 大統一理論のモデルとしてはランクが4以上のゲージ群となる。 G<sub>s</sub> の次元は12でそれに対応して12個のゲージ場を持つ。 大統一理論のゲージ群では次元が増え、それに対応してゲージ場も増える。 標準模型は電弱相互作用が破れるウィークスケール {{Indent| <math>M_W \sim M_Z \sim 10^2 \,\mathrm{GeV}</math> }} での理論である。 大統一理論はそれより高いエネルギースケール(GUTスケール)で破れる。 大統一理論で新たに増えるゲージ場は対称性が破れると、GUTスケール程度の質量を持つ。 対称性が高くなると、幾つかのフェルミオンがまとまって記述される。 === SU(5) モデル === 大統一理論の最小モデルとしてはランク4の SU(5) モデルが考えられている<ref>[[#georgi|Georgi and Glashow (1974)]]</ref>。 {{indent| <math>SU(5) \supset SU(3)_c \times SU(2)_L \times U(1)_Y</math> }} この理論ではいくつかのことが予言されている。[[陽子崩壊]]現象、<!--[[ニュートリノ振動]]現象、宇宙初期における[[インフレーション理論|インフレーション]]とそれに伴う-->[[磁気単極子]]や[[宇宙ひも]]の存在がこれにあたる。 但し、陽子崩壊の予言は観測と食い違っており、従って単純な SU(5)GUT は排除されている。 SU(5)モデルによる[[陽子]]の寿命は10<sup>30</sup> - 10<sup>32</sup>年であるが、[[神岡鉱山]]の[[カミオカンデ]]・[[スーパーカミオカンデ]]における実験結果では陽子崩壊が観測されず、実際の寿命はそれ以上、少なくとも10<sup>34</sup>年はあり、大きくくい違っている。 ==== ゲージボソン ==== SU(5) の次元は24であり、対応する24個のゲージ場が存在する。 ゲージ対称性が破れると、ゲージ場は次のように分かれる。 {{Indent| <math>\mathbf{24} \to(\mathbf{8}, \mathbf{1})_0 +(\mathbf{1}, \mathbf{3})_0 +(\mathbf{1}, \mathbf{1})_0 +(\mathbf{3}, \mathbf{2})_{-5/6} +(\overline{\mathbf{3}}, \mathbf{2})_{+5/6} </math> }} (8,1)<sub>0</sub> は SU(3)<sub>c</sub> に対応する8個のグルーオン、(1,3)<sub>0</sub> は SU(2)<sub>L</sub> に、(1,1)<sub>0</sub> は U(1)<sub>Y</sub> に対応するゲージ場である。 (3,2)<sub>-5/6</sub> と <math>(\overline{\mathbf{3}}, \mathbf{2})_{+5/6}</math> はSU(5)GUTにおいて新たに導入されるゲージ場で、両者は互いに反粒子の関係にある。 電弱対称性が破れるスケールでは、[[XボソンとYボソン]]と呼ばれる。 ==== フェルミオン ==== {{Indent| <math>\mathbf{10} \to(\mathbf{3}, \mathbf{2})_{+1/6} \oplus(\overline{\mathbf{3}}, \mathbf{1})_{-2/3} \oplus(\mathbf{1}, \mathbf{1})_{+1} </math> }} {{Indent| <math>\overline{\mathbf{5}} \to(\overline{\mathbf{3}}, \mathbf{1})_{+1/3} \oplus(\mathbf{1}, \mathbf{2})_{-1/2} </math> }} {{Indent| <math>\mathbf{1} \to(\mathbf{1}, \mathbf{1})_{0} </math><ref name="anti-neutrino"/> }} === SUSY SU(5) === SU(5)大統一理論に[[超対称性]]と呼ばれる要素を加えた[[超対称大統一理論]]では陽子の寿命はさらに延びることになり、実験結果を説明できる可能性がある。 === SO(10) モデル === 大統一理論の最小モデルとしての単純な SU(5) モデルは実験とは整合せず排除されている。 SU(5) の次に小さなモデルとして SO(10) モデルが考えられている。 SO(10) はランク5なので extra U(1) が存在する。 SO(10) の次元は45である。 {{Indent| <math>SO(10) \supset SU(5) \times U(1)_X </math> }} ;ゲージボソン :<math>\mathbf{45} \to \mathbf{24}_0 \oplus \mathbf{10}_{-4} \oplus \overline{\mathbf{10}}_4 \oplus 1_0</math> ;フェルミオン :<math>\mathbf{16} \to \mathbf{10}_1 \oplus \overline{\mathbf{5}}_{-3} \oplus \mathbf{1}_5</math> U(1)<sub>X</sub> に対応する[[ネーターの定理|ネーター・チャージ]]は[[X荷|Xチャージ]]と呼ばれる。 これは[[バリオン数]]と[[レプトン数]]の差([[B-L]])と関連した対称性である。 SO(10) は[[カイラルアノマリー]]はない。 SO(10) モデルは右巻き[[ニュートリノ]]を含む1世代分のフェルミオンが一つの多重項にまとまる。 SU(5) モデルでは右巻きニュートリノの存在は必然ではないが、SO(10)モデルでは、右巻きニュートリノが必然的に含まれる。 GUTスケール程度のマヨラナ質量を右巻きニュートリノが持てば、[[シーソー機構]]により、ニュートリノが他の粒子に比べてゼロでないが極端に小さい質量を持つ事が説明できる。 === E<sub>6</sub>, E<sub>7</sub>及びE<sub>8</sub> === [[リー群]]の言葉では、SU(5)及びSO(10)は古典型の単純リー群でそれぞれ A<sub>4</sub>, D<sub>5</sub> と呼ばれるが、例外型の単純リー群のE系列 E<sub>6</sub>, E<sub>7</sub>, E<sub>8</sub> の自然な拡張として、 {{indent| <math>E_8 \supset E_7 \supset E_6 \supset E_5=D_5=SO(10) \supset E_4=A_4=SU(5) \supset E_3=SU(3)\times SU(2)</math> }} と見ることが出来る。これらE系列の例外群をゲージ群とするゲージ理論も大統一理論の候補として考えられている。 特に E<sub>8</sub> はこの系列では最も大きなリー群でそれ以上の拡張が出来ないことや、 超弦理論との関連もあり、また SO(10) の1世代分のフェルミオン多重項を3つ分含み、3世代の繰り返しとの関連性なども考えられている。E<sub>8</sub>理論からは、加えて重力場を導出する事も可能であり、[[An Exceptionally Simple Theory of Everything]]という超統一理論のモデルが提案されている。 === パティ・サラムモデル === クォークの[[カラーチャージ|カラー]] SU(3) を SU(4) へと拡張し、カラーの四番目の成分をレプトンとみなしてフェルミオンを統一しようとするモデルが考えられている<ref>[[#pati|Pati and Salam (1974)]]</ref>。 左手型と右手型を対称に扱うために、右手型"弱い相互作用" SU(2)<sub>R</sub> も考える。 SU(2)<sub>R</sub> のゲージ場は[[W'ボソンとZ'ボソン]]である。 {{Indent| <math>SU(4)_\mathrm{PS} \times SU(2)_L \times SU(2)_R \supset SU(3)_c \times SU(2)_L \times U(1)_Y \times U(1)_{B-L}</math> }} ;フェルミオン :<math>(\mathbf{4},\mathbf{2},\mathbf{1}) \to (\mathbf{3},\mathbf{2})_{+1/6,1/3} \oplus (\mathbf{1},\mathbf{2})_{-1/2,-1}</math> :<math>(\overline{\mathbf{4}},\mathbf{1},\mathbf{2}) \to (\overline{\mathbf{3}},\mathbf{1})_{-2/3,-1/3} \oplus (\overline{\mathbf{3}},\mathbf{1})_{1/3,-1/3} \oplus (\mathbf{1},\mathbf{1})_{+1,1} \oplus (\mathbf{1},\mathbf{1})_{0,1}</math> 右手型のフェルミオンは SU(2)<sub>R</sub> の下で二重項をなす。 また、右手型ニュートリノも必然的に含まれる。 フェルミオンは統一的に扱えるが、ゲージ群が積の形になっていて、力の統一はなされていない。 SO(10)はパティ・サラムモデルを含む。 {{Indent| <math>SO(10) \supset SU(4)_\mathrm{PS} \times SU(2)_L \times SU(2)_R</math> }} ;フェルミオン :<math>\mathbf{16} \to (\mathbf{4},\mathbf{2},\mathbf{1}) \oplus (\overline{\mathbf{4}},\mathbf{1},\mathbf{2})</math> == 脚注 == <references/> == 参考文献 == * {{Cite journal |author= H. Georgi and S. L. Glashow |title=Unity of All Elementary Particle Forces |journal=Phys. Rev. Lett. |volume=32 |pages=438 |year=1974 |doi=10.1103/PhysRevLett.32.438 |ref=georgi }} * {{Cite journal |author=J. C. Pati and A. Salam |title=Lepton Number as the Fourth Color |journal=Phys. Rev. D |volume=10 |pages=275 |year=1974 |doi=10.1103/PhysRevD.10.275 |ref=pati }} == 関連項目 == * [[標準模型]] <!-- == 外部リンク == *[http://kamakura.ryoma.co.jp/~aoki/paradigm/GrandUnificationTheory.htm 大統一理論] --> {{Normdaten}} {{DEFAULTSORT:たいとういつりろん}} [[Category:素粒子物理学]] [[Category:統一場理論]] [[Category:標準模型を超える物理]]
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