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子午線弧
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{{測地学}} [[File:Latitude_and_longitude_graticule_on_an_ellipsoid.svg|thumb|160px|緯度角(<math>\phi</math>)に対応する[[弧 (幾何学)|弧]]が子午線弧。]] '''子午線弧'''(しごせんこ、Meridian arc)とは、[[測地学]]において地球表面または[[地球楕円体]]に沿った[[子午線]]([[経線]])の[[弧 (幾何学)|弧]]を指す。[[子午線]]は[[楕円]][[弧 (幾何学)|弧]]で南北方向に延びる[[測地線]]となる。<!--地球楕円体で[[経線]]([[子午線]])に沿う[[楕円]]の[[弧 (幾何学)|弧]]となる。--> [[天文学]]において、2地点の[[緯度#天文緯度 (astronomical latitude)|天文緯度]]測定と子午線弧の長さとを結合することで地球の[[円周]]・[[半径]]を決定した。その始まりは、紀元前3世紀の[[エジプト]]の[[エラトステネス]]で、地球が[[球体]]であることを定量的に示した。 <!--初期の地球半径の決定は、[[紀元前3世紀]]の[[エジプト]]において、[[エラトステネス]]がシエネ(現在の[[アスワン]])と[[アレクサンドリア]]の[[距離]]を測定し地球半径の見積もり、および地球が[[球体]]であることを示したことより始まる。--> [[緯度]]差1[[分 (角度)|分]]に相当する子午線弧長は、[[海里]]の定義にも参考にされた。 == エラトステネスによる子午線弧長の推定 == [[アレクサンドリア]]の科学者[[エラトステネス]]による測定は、地球の[[大円]][[周長]]を計算した最初であった。彼は、[[夏至]]の[[正午]]において、[[太陽]]が[[古代エジプト]]の都市シエネ(現在の[[アスワン]])で[[天頂]]を[[通過 (天文)|通過]]するということを知っていた。一方で、彼は自身の測定結果から、彼の居住地であるアレクサンドリアで、同時刻の[[太陽]][[角距離#天文学における角距離|天頂距離]]が[[天球]]大円周長の1/50であるということも日時計が作る角度(7.2°)によって既知としており、天球と地球は同心であることから、アレクサンドリアがシエネの[[真北]]にあるならばアレクサンドリア-シエネ間の距離は地球の大円周長の1/50でなければならないと結論づけた。[[隊商]]の往来日数のデータを使って、彼はアレクサンドリア-シエネ間の距離を5,000[[スタディオン|スタディア]]であると推定した。 この結果は250,000スタディアの地球周長を意味し、単位スタディオンを[[アッティカ]]スタディオン (185 m) と仮定すると、これは46,250 kmに相当し、現在の値から約16%大きい。しかし、エラトステネスがエジプトスタディオン (157.5 m) を使ったとすれば、彼の測定値は 39,375 km(わずか1%程度の[[誤差]])であることが分かる。いずれにしても、幾何設定と古代の状況を斟酌すれば、16%の誤差は称賛に値するものである。 シエネは、正確にアレクサンドリアの真南にはなく、太陽の[[軌道 (力学)|軌道]]は想定よりも0.5°傾いていた。また、[[ナイル川]]に沿って、または、[[砂漠]]を行旅することからの陸路の距離はおよそ10%程度の誤差があったとされる。 エラトステネスによる地球形状の見積もりは、その後何百年もの間受け入れられた。およそ150年後に[[ポセイドニオス]]が同様の方法によりアレクサンドリア-[[ロドス島]]間の緯度差を測定するとともに、子午線弧長を[[船]]の[[速度]]と[[航海]]の期間から仮想的に割り出し、地球周長の算出を試みた。 これら古代の計測は、以下のような限界があった。まず、いずれもたった二つの地点の緯度差と距離のみを用いている。さらに、計測者が実際に計測したのは、自らの拠点とする地点の緯度のみで、もう一つの地点の緯度や距離は、先人の計測や伝聞に依存している。また、二つの地点の選択は、観測拠点や伝聞情報の有無で決まったのであって、計画的に選択したのではない。 == 中世から近世にかけての子午線弧の測量 == 中世に入ると、国家が関与した大規模な計測事業が行われる。古代の試みと異なり、当初から計画的に同一の子午線上に沿って計測を進め、緯度も距離も改めて実測している。 まず、[[8世紀]]の中国において、[[北極]]や太陽の高度と距離の関係を確かめる計測が行われた。中国は[[地球球体説]]をとっていないが、得られた数値から北極の高度と距離の間の比例関係を認めている。この事業は[[玄宗 (唐)|玄宗]]より新暦編纂の勅命を受けた僧[[一行]]と南宮説によってなされた。彼らは、黄河南岸の南北に連なる、北極の高度が0.5中国度異なる4つの地点を選び出し、太陽の高度と相互の距離を実測した。また、[[鉄勒]]から[[交州]]にかけて10数か所の地点を選び、北極と太陽の高度を実測し、地図と突き合わせて検証に用いた。その結果、北極の高度の1中国度(≒0.9856度)の変化は351里80歩にあたると算出した。これは、緯度1度当たり154 - 158 km程度で、誤差は40パーセント前後である{{Efn|以下の二つの論文を参照<ref>{{Cite journal|last=Wenren|first=J.|last2=Li|first2=L.|year=1991|title=Numerical Study of Survey Under Direction of Nangong Yue and Yixing|journal=Chinese Historians|volume=4|issue=2|pages=80–86|doi=10.1080/1043643X.1991.11876881}}</ref><ref>{{Cite journal|和書|author=篠原俊次|date=1985-10-30|title=魏志倭人伝の里程単位「一寸千(短)里」説批判|journal=計量史研究|volume=7|issue=1|pages=7–22|publisher=日本計量史学会}}</ref>。どちらも、1里<nowiki>=</nowiki>300歩<nowiki>=</nowiki>6唐小尺としているが、唐小尺の推測値に若干の差がある。}}。 [[9世紀]]前期には、[[アッバース朝]]第7代[[カリフ]]である[[マアムーン|アル=マアムーン]]の命により、[[フワーリズミー|アル=フワーリズミー]]がシンジャール平原において実施した、[[角度]]測量によって多少良い結果が算出された。 [[ヨーロッパ]]では、それまで子午線弧長測量が行われた記録が残っておらず、[[14世紀]]に[[ジョン・マンデヴィル]]が編纂したとされる"[https://web.archive.org/web/20091016102942/http://www.planetnana.co.il/notes/books/mandeville.htm ''The Travels of Sir John Mandeville'']" ([[大場正史]]訳「東方旅行記」, [[東洋文庫 (平凡社)|東洋文庫]]第19巻, [[平凡社]], 1964, ISBN 9784582800197)において地球が球形であることが言及されている程度であったが、[[16世紀]]になって、もともと[[医師]]、[[生理学者]]であり、[[天文学]]、[[数学]]にも関心を持った{{仮リンク|ジャン・フェルネル|fr|Jean Fernel|en|Jean Fernel}}が、[[経度]]がほぼ等しい[[パリ]]-[[アミアン]]間の緯度差を1[[度 (角度)|度]]とみなした上で、[[荷車]]の[[車軸]]の[[回転数]]からその子午線弧長を決定したことを、著書"[http://www.e-rara.ch/doi/10.3931/e-rara-1294 ''Ioannis Fernelii Ambianatis Cosmotheoria, libros duos complexa'']" (1528)に書き記している。 [[1615年]]には[[三角測量]]によるものとしては最初の子午線弧長測量が[[ヴィレブロルト・スネル]]により行われたが、測量結果には数パーセントの誤差があった。その約半世紀後の[[1669年]]に[[ジャン・ピカール]]が本格的な三角測量を行い、[[緯度]]差1度に相当する子午線弧長を0.3%程度の精度で測定した。しかしながら、この頃辺りまでは地球の形状はあくまでも真球であるという前提の下に議論が行われていた。 == フランス科学アカデミー遠征隊のペルーとラップランドへの派遣 == {{main|フランス科学アカデミーによる測地遠征}} ピカールによる測量以降、測量精度が向上するにつれて、地球の正確な形状についての問題が顕在化し、地球は正確には真球より[[回転楕円体]]と考えるべきとの意見が多くなったが、[[長球]]なのか[[扁球]]なのかについて議論が分かれていた。[[ジャック・カッシーニ]]は、[[1713年]]に自らが行ったダンケルク-[[ペルピニャン]]間の測量結果を『地球の大きさと形状』([https://books.google.co.jp/books?id=jTYAAAAAQAAJ&hl=ja&pg=PP1 ''De la grandeur et de la figure de la terre'']、[[1720年]])に取りまとめ、この結果と[[ルネ・デカルト]]の[[渦動説]]から、地球が南北に長い長球であることを提唱した。一方では、[[振り子時計]]をパリから赤道付近へ持ってゆくと遅くなるという[[ジャン・リシェ]]による報告からの推測により、[[アイザック・ニュートン]]が発表した[[万有引力]]の理論から赤道方向に長い扁球であると主張する学者も多数いた。 これを受け、18世紀半ば([[1735年]] - [[1740年]])には、[[フランス科学アカデミー]]が、地球楕円体の形状の論争に決着をつけるために赤道近傍と北極近傍の子午線弧長を比較した。この測量事業は、[[ピエール・ブーゲ]]、[[ルイ・ゴダン]]、[[シャルル=マリー・ド・ラ・コンダミーヌ]]、[[ピエール・ルイ・モーペルテュイ]]及び[[アントニオ・デ・ウジョーア]]らによって[[ペルー]](現在の[[エクアドル]]){{Efn|18世紀においては、エクアドルという国はまだ存在していなかった。当該地域は、当時[[スペイン]]の管轄下に置かれており、後の[[キト]]市となる“キト[[特別行政区]]”と呼ばれていた。[[1830年]]に独立を果たした際に国の名称として採用された“エクアドル共和国”(「エクアドル」にはスペイン語で『赤道』の意味がある)には、“赤道付近の地域”として選ばれたこの地において実施されることとなった、フランス測地測量事業の名声が影響していると考えられている。}}と[[ラップランド]]([[トルネ谷]])で実行された。 測量結果は2地域の同緯度差での子午線弧長に対する有意差を示し、極付近の[[弧長]]が赤道付近の弧長よりも大きいというものであった。これは赤道付近のほうが極付近よりも[[曲率]]が大きいことを示唆しており、[[1687年]]にニュートンが彼の著書『[[自然哲学の数学的諸原理]]』の第3巻において提唱したとおり、地球の数学的形状は扁球として解釈できることが確認された。カッシーニが得た測量結果が不正確であったことは、彼の弟子ともいうべき[[ニコラ・ルイ・ド・ラカーユ]]が[[1739年]]から2年を費やして再測量を行うことにより確認された。 [[18世紀]]後半にかけて、[[科学アカデミー (フランス)|フランス科学アカデミー]]によって[[ダンケルク]]-[[バルセロナ]]間の子午線弧長の[[測量]]が行われ、[[メートル]]の定義のために使われた。 == 伊能忠敬による子午線弧の測量 == 日本では[[伊能忠敬]]が第二次測量([[1801年]])の結果から緯度1度に相当する子午線弧長を28.2[[里]]と導き出している。 == 子午線弧長の計算 == [[地球楕円体]]に基づく子午線弧長の計算は[[地図投影法]]、特に[[横メルカトル図法]]([[ガウス・クリューゲル図法]])において重要な役割を果たす。またその面上の二点間測地線距離(最短距離)を求める問題もこれに帰着される。<!--現在では、測地学において地球楕円体の子午線弧長が単純に用いられることはなく、グローバルな測地基準点網が用いられるが、--> [[赤道]]から[[緯度#地理緯度 (geographic latitude)|地理緯度]] <math>\varphi</math> までの子午線弧長 <math>S(\varphi)</math> は、[[楕円積分]]が含まれているため、[[初等関数]]では表すことができないが、<math>\varphi</math> の一次[[単項式]]と <math>\varphi</math> の偶数倍を[[位相]]とする[[正弦]][[高調波]]の[[無限級数]]の一般式で書き表すことができる。またこれを指定した次数で打ち切れば[[有限級数]]の形で近似計算に用いることができる。 === 第三離心率を用いた一般式 === [[オイラー]]は[[1755年]]に第三[[離心率]] <math>e^{\prime\prime}\,</math> の二乗を微小量として用いて[[無限級数]]の一般式を得た<ref>{{cite journal |ref = harv |year = 1755 |last = Euler |first = L. |title = Élémens de la trigonométrie sphéroïdique tirés de la méthode des plus grands et plus petits |journal = Mémoires de l'Académie Royale des Sciences de Berlin 1753 |pages = 258–293 |volume = 9 |url = https://books.google.co.jp/books?id=QIIfAAAAYAAJ&pg=PA258&redir_esc=y&hl=ja |postscript = . [https://books.google.co.jp/books?id=QIIfAAAAYAAJ&pg=PA362-IA1&redir_esc=y&hl=ja Figures]. }}</ref>。 === 第一離心率を用いた表式 === [[地球楕円体]]の[[長半径]]を <math>a</math>、第一[[離心率]]を <math>e</math>として、子午線[[曲率半径]]{{Efn|子午線曲率半径は[[平面曲線]]([[楕円]])の幾何学的性質から初等的に求められる。例えば、Rapp, R, (1991): [https://hdl.handle.net/1811/24333 Geometric Geodesy, Part I], §3.5.1, pp. 28–32参照。}}は <math>M_\varphi = \frac{a(1-e^2)}{(1-e^2\sin^2\varphi)^{3/2}}</math> となる。[[赤道]]から[[緯度#地理緯度 (geographic latitude)|地理緯度]] <math>\varphi\,</math> までの子午線弧長 <math>S(\varphi)</math> は以下のように <math>M_\varphi</math> の部分積分で与えられる。 :<math> S(\varphi)=\int_0^\varphi M_\theta\mathrm{d}\theta=a(1-e^2)\Pi(e^2;\varphi,e) </math> <!--上式には[[楕円積分]]が含まれているため、[[初等関数]]では表すことができないが、<math>\varphi\,</math> の一次[[単項式]]と <math>\varphi\,</math> の偶数倍を[[位相]]とする[[正弦]][[高調波]]の[[無限級数]]で書き下すことができる。[[1755年]]に[[オイラー]]が第三[[離心率]]<math>e^{\prime\prime}\,</math>の二乗を微小量として用いて[[無限級数]]の一般式を得た。--> 歴史的に広く用いられてきた <math>S(\varphi)</math> の無限級数一般式は、[[ジャン=バティスト・ジョゼフ・ドランブル]]が[[1799年]]に公表<ref>Delambre, J. B. J. (1799): [https://echo.mpiwg-berlin.mpg.de/ECHOdocuView?pn=92&ws=1.5&ww=1&wh=1&mode=imagepath&url=/mpiwg/online/permanent/library/YTQVS0WC/pageimg ''Méthodes Analytiques pour la Détermination d'un Arc du Méridien''; précédées d'un mémoire sur le même sujet par A. M. Legendre], De L'Imprimerie de Crapelet, Paris, 72–73.</ref>し、共通係数として率直に <math>a (1-e^2)</math>を括り出し、<math>e^2</math> を微小量として級数展開したものである{{Efn|この式は日本でも広く用いられ、昭和61年版から平成21年版までの[[理科年表]](地学部)にも掲載されていた。}}。<!--<math>e^8</math> で打ち切った近似式は下記となる。この無限級数の、確認できる最も古い近似導出は、メートルの定義のために実施されたフランス科学アカデミーによるダンケルク-バルセロナ間の子午線弧長測量に参加した、--> :<math> \begin{align}S \left(\varphi\right) &= a \left(1 - e^2 \right) \left(D_0\varphi+D_2\sin 2\varphi+D_4\sin4\varphi+D_6\sin6\varphi+D_8\sin8\varphi+\cdots \right),\\ D_0 &= 1 + \tfrac{3}{4} e^2 + \tfrac{45}{64} e^4 + \tfrac{175}{256} e^6 + \tfrac{11025}{16384} e^8 + \cdots, \\ D_2 &= - \tfrac{3}{8} e^2 \left(1 + \tfrac{5}{4} e^2 + \tfrac{175}{128} e^4 + \tfrac{735}{512} e^6 + \cdots\right), \\ D_4 &= \tfrac{15}{256} e^4 \left( 1 + \tfrac{7}{4} e^2 + \tfrac{147}{64} e^4 + \cdots\right), \\ D_6 &= - \tfrac{35}{3072} e^6 \left(1 + \tfrac{9}{4} e^2 + \cdots\right), \\ D_8 &= \tfrac{315}{131072} e^8 \left(1 + \cdots\right).\end{align} </math> <!--:<math> \begin{align}S(\varphi)\approx &\;a(1-e^2)\left\{\left(1+\frac{3}{4}e^2+\frac{45}{64}e^4+\frac{175}{256}e^6+\frac{11025}{16384}e^8\right)\varphi\right. \\ &\ -\frac{1}{2}\left(\frac{3}{4}e^2+\frac{15}{16}e^4+\frac{525}{512}e^6+\frac{2205}{2048}e^8\right)\sin 2\varphi \\ &\ +\frac{1}{4}\left(\frac{15}{64}e^4+\frac{105}{256}e^6+\frac{2205}{4096}e^8\right)\sin 4\varphi \\ &\ -\frac{1}{6}\left(\frac{35}{512}e^6+\frac{315}{2048}e^8\right)\sin 6\varphi \\ &\ +\frac{1}{8}\left.\left(\frac{315}{16384}e^8\right)\sin 8\varphi\right\}\\ \end{align} </math>--> しかしながら、これはヘルメルトの式などに比べると、係数 <math>D</math> の <math>(\ )</math> 内に <math>e^2,\ e^6,\ \cdots</math> の項が現れ、多くの項数を必要とする。また共通係数として <math>(1-e^2)</math> を括り出していることが原因で{{Efn|共通係数 <math>(1-e^2)</math> を括り出さずに級数に組み込むか、もしくは<math>\left(1-\frac{1}{4}e^2\right)</math> を括り出すなどで、収束性は改善される。}}、<math>\left(\cdots\right)</math> 内で <math>e^2</math> の冪乗の[[級数]]の[[収束性]]が劣る。 === 第三扁平率を用いた表式 === ==== 更成緯度で表した表式 ==== [[フリードリヒ・ヴィルヘルム・ベッセル]]は[[1825年]]に[[緯度#更成緯度 (reduced latitude)|更成緯度]]<!--(reduced latitude, parametric latitude)--> <math>\beta=\tan^{-1}\left(\sqrt{1-e^2}\tan\varphi\right)</math> で表した子午線弧長 <math>S(\beta)</math> に対して、[[扁平率#第三扁平率|第三扁平率]] <math>n=\frac{1-\sqrt{1-e^2}}{1+\sqrt{1-e^2}} </math> を用い、共通係数として <math>\frac{a}{1+n}</math> を括り出し微小量として <math>n</math> を用いて[[二項定理]]を利用し[[フーリエ級数]]展開を行った一般式を得た<ref>Bessel, F. W. (1825): [https://articles.adsabs.harvard.edu/cgi-bin/nph-iarticle_query?db_key=AST&bibcode=1825AN......4..241B&letter=0&classic=YES&defaultprint=YES&whole_paper=YES&page=241%2F242&epage=241%2F242&send=Send+PDF&filetype=.pdf Ueber die Berechnung der geographischen Längen und Breiten aus geodätischen Vermessungen], Astronomische Nachrichten '''4''', 241–254.</ref> {{Efn|[[二項定理]]を利用した級数展開は、 :<math> \begin{align} & \left(1+2n\cos\theta+n^2\right)^\alpha \\ &= \left(1+n\, e^{i\theta}\right)^\alpha \left(1+n\, e^{-i\theta}\right)^\alpha \\ &= \left(\sum_{k=0}^\infty \binom{\alpha}{k} n^k e^{ik\theta} \right) \left(\sum_{k=0}^\infty \binom{\alpha}{k} n^k\, e^{-ik\theta} \right) \\ &= \sum_{k=0}^\infty \binom{\alpha}{k}^2 n^{2k} + 2 \sum_{l=1}^\infty \sum_{k=0}^\infty \binom{\alpha}{k} \binom{\alpha}{k+l}\, n^{2k+l} \cos l\theta \\ \end{align} </math> }}。その級数係数は <math>n</math> の偶数もしくは奇数[[冪乗]]の[[冪級数]]となる。<!--[[扁平率#第三扁平率|第三扁平率]] <math>n=\frac{1-\sqrt{1-e^2}}{1+\sqrt{1-e^2}}</math> の冪級数で表した。--> :<math> \begin{align} S(\beta) &= \frac{a}{1+n} \int_0^\beta \sqrt{1-2n\cos2\beta+n^2} \, d\beta \\ &=\frac{a}{1+n}\left( c_0 \beta + \sum_{l=1}^\infty (-1)^l \frac{c_l}{l} \sin 2 l \beta \right) . \\ c_l &= \sum_{k=0}^\infty a_k \, a_{k+l} .\\ a_k &= \binom{1/2}{k} n^k = (-1)^{k+1} \frac{\left(2k-3\right)!!}{\left(2k\right)!!} n^k . \end{align} </math> ここで、<math>j!!</math> は <math>j</math> の[[二重階乗]]を表す。ただしこの式は子午線弧長の計算には広くは用いられなかった。なお一般式ではないがベッセルは、[[緯度#求長緯度 (rectifying latitude)|求長緯度]] <math>\mu = \frac{\pi}{2}\,\frac{S}{S\!\left(\pi/2\right)}</math> で <math>\beta</math> を表す[[逆関数]]に当たる級数展開も示している。 ==== 地理緯度で表した表式 ==== ここで楕円積分の関係式及び <math>n</math> の符号反転を考えると、地理緯度 <math>\varphi</math> で <math>S</math> を表した一般式が得られる。これらの級数の収束性は他に知られている計算式よりも優れている(級数展開に <math>n</math> の奇数次項が現れないなど)。 :<math> \begin{align} S(\varphi) &=\frac{a}{1+n} \int_0^\varphi \frac{\left(1-n^2\right)^2}{\left(1+2n\cos2\varphi+n^2\right)^{\frac{3}{2}}} \, d\varphi \\ &=\frac{a}{1+n}\left( \int_0^\varphi \sqrt{1+2n\cos2\varphi+n^2} \, d\varphi - \frac{2n \sin2\varphi}{\sqrt{1 + 2n \cos2\varphi + n^2}} \right) \\ &=\frac{a}{1+n}\left( c_0 \varphi + \sum_{l=1}^\infty \frac{c_l}{l} \sin 2 l \varphi - \frac{2n \sin2\varphi}{\sqrt{1 + 2n \cos2\varphi + n^2}} \right) \end{align} </math> これらの無限級数は、含まれる <math>n</math> の次数を <math>l_\max</math> で打ち切れば有限級数となる。すなわち、<math>c_l</math> を下記のように近似することになる。 :<math> c_{l,\,\textrm{approx}} = \begin{cases} \sum_{k=0}^{\lfloor (l_{\max}-l)/2\rfloor} a_k \, a_{k+l} & (l \le l_{\max}) \\ 0 & (l>l_{\max}) \end{cases} </math> ただし、<math>\lfloor x\rfloor</math> は[[床関数]](<math>x</math> を超えない最大の[[整数]])を表すものとする。 ===== ヘルメルト・ベッセルの式 ===== ベッセルはまた[[1837年]]に上記の <math>S(\varphi)</math> に対しても同じく二項定理の手法で級数展開一般式を得た<ref>Bessel, F. W. (1837): [https://articles.adsabs.harvard.edu/cgi-bin/nph-iarticle_query?1837AN.....14..333B&data_type=PDF_HIGH&whole_paper=YES&type=PRINTER&filetype=.pdf Bestimmung der Axen des elliptischen Rotationssphäroids, welches den vorhandenen Messungen von Meridianbögen der Erde am meisten entspricht], Astronomische Nachrichten, '''14''', 333–346.</ref>。括り出された共通係数は <math>a(1-n)^2(1+n)</math> だった。 <!--ベッセルの得た結果は、次のとおりである。 :<math> S(\varphi)=a(1-n)^2(1+n)N\left(\phi-\alpha\sin 2\phi+\frac{1}{2}\alpha'\sin4\phi-\frac{1}{3}\alpha''\sin6\phi+\cdots\right) </math> ここで、 :<math> \begin{align} N &= 1+\frac{9}{4}n^2+\frac{225}{64}n^4+\cdots,\\[2pt] N\alpha &= \frac{3}{2}n+\frac{45}{16}n^3+\frac{525}{128}n^5+\cdots,\\[2pt] N\alpha' &= \frac{15}{8}n^2+\frac{105}{32}n^4+\cdots,\\[2pt] N\alpha'' &= \frac{35}{16}n^3+\frac{945}{256}n^5+\cdots \end{align} </math> である。上式は、<math>e^2</math> の4分の1程度のパラメータである <math>n</math> での展開であることもさることながら、展開の冪乗数が交互に現れ、効率的な収束性を有している。--> さらに、[[1880年]]に[[フリードリヒ・ロベルト・ヘルメルト]]が、括り出す共通係数を前節と同じ <math>\frac{a}{1+n}</math> へ変更し、<!--ベッセルの展開式中にある係数 <math>(1-n)^2(1+n)\,</math> を含め、展開項の寄与の一部を分母因子 <math>(1+n)\,</math> に繰り込んだ、それの <math>n</math> の高次係数が小さくなるよう整理し --><math>n^4</math> で打切った[[近似式]]を提示した<ref>Helmert, F. R. (1880): [https://books.google.co.jp/books?id=0l0OAAAAYAAJ&ots=vxcdkrFb0M&dq=Die%20mathematischen%20und%20physikalischen%20Theorieen%20der%20h%C3%B6heren%20Geod%C3%A4sie&pg=PA44#v=onepage&q&f=false ''Die mathematischen und physikalischen Theorieen der höheren Geodäsie'', Einleitung und 1 Teil], Druck und Verlag von B. G. Teubner, Leipzig, 44–48.</ref>{{Efn|ヘルメルトの提示では実際には式の形にまとまっていなかったが、[[1912年]]に{{仮リンク|ヨハン・ハインリヒ・ルイ・クリューゲル|de|Johann Heinrich Louis Krüger}}がヘルメルトの結果を式の形に取りまとめている<ref>Krüger, L. (1912): ''[https://doi.org/10.2312/GFZ.b103-krueger28 Konforme Abbildung des Erdellipsoids in der Ebene]'', Veröffentlichung Königlich Preuszischen geodätischen Institutes, Neue Folge, '''52''', Druck und Verlag von B. G. Teubner, Potsdam, 12.</ref>。}}。 :<math> \begin{align} S(\varphi)\approx &\;\frac{a}{1+n}\left\{\left(1+\frac{n^2}{4}+\frac{n^4}{64}\right)\varphi-\frac{3}{2} n \left(1-\frac{n^2}{8}\right)\sin 2\varphi\right. \\ &\ \left.+\frac{15}{16} n^2 \left(1-\frac{n^2}{4}\right)\sin 4\varphi-\frac{35}{48}n^3\sin 6\varphi+\frac{315}{512}n^4\sin 8\varphi\right\}\\ \end{align} </math> これは<!--このヘルメルトの式は級数の収束性を改善しており-->一般式にするならば下記となる。 :<math> \begin{align} S(\varphi) &=\frac{a}{1+n}\left( c_0 \varphi + \sum_{l=1}^\infty \left(1 - 4 l^2\right) \frac{c_l}{l} \sin 2 l \varphi \right) . \end{align} </math> しかしながら前節の一般式と比べるならば <math>\frac{-2n \sin2\varphi}{\sqrt{1 + 2n \cos2\varphi + n^2}}</math> の項{{Efn|この項は、不完全楕円積分項の <math>\varphi </math> に関する二階微分に等しいので、級数展開形では乗数 <math>- 4 l^2</math> が得られる。}}も級数展開したことは収束性を悪くしており、乗数の中には <math>- 4 l^2</math> が加わっている。 加えて、ヘルメルトによる導出過程は一般論としては不備があり、一般式の導出・証明には至らないものだった。しかしヘルメルトの式は簡潔で精度も良いため近似式としては普及した。<!--通常の計算には概ね十分な結果を与えるが、ヘルメルトの文献はより高次の展開項の導出について必ずしも明確な指針を与えたものではなかった。--> ===== 河瀬の式 ===== 一般式としてのヘルメルトの式の証明自体については長年放置されていたが、 <!--また上記で紹介した一般式では、各 <math>c_l</math> が独立した[[無限和]]で構成されている。--><!--一見簡潔に整理されているように見えるが、--><!--おり、<math>n\,</math> についてある次数までで打ち切った近似式を得るのは上記のように容易だが、系統的に求めるには多少見通しが悪い--><!--非常に取扱いが困難であった--> 最終的に[[2009年]]に[[国土地理院]]の[[河瀬和重]]により証明<!--一般式の導出-->が行われた<ref>{{Cite journal|和書|author=河瀬和重|author-link=河瀬和重|date=2009-12-28|title=緯度を与えて赤道からの子午線弧長を求める一般的な計算式|url=https://www.gsi.go.jp/common/000054736.pdf|journal=国土地理院時報|volume=119|pages=45–55|publisher=[[国土地理院]]}}</ref>。 その際に用いられた一般式は、二項定理を経由するものではなく、[[ゲーゲンバウアー多項式]]による級数展開を利用し一種類の無限和に集約された形であった<!-- 全体としてただ一種類の無限和のみに集約された形の、[[ゲーゲンバウアー多項式]]を利用した級数展開による一般式が、[[2009年]]に河瀬和重により次式のように導出された-->{{Efn|ゲーゲンバウアー多項式を利用した級数展開は、二項定理を利用した級数展開の和の取りまとめ方を変えることでも同様の結果が得られるが、 :<math> \begin{align} & \left(1+2n\cos\theta+n^2\right)^\alpha \\ &= \sum_{k=0}^\infty (-n)^k C_k^{(-\alpha)}(\cos\theta) \\ &= \sum_{k=0}^\infty (-n)^k \sum_{l=0}^k \binom{k-l-\alpha-1}{k-l} \binom{l-\alpha-1}{l} \cos (k-2l)\theta \\ &= \sum_{j=0}^\infty\left(\prod_{k=1}^j \nu_k^\alpha\right)^2\left(1+2\sum_{l=1}^{2j}\cos 2l\theta\prod_{m=1}^{l}\left(\nu_{j+(-1)^m\lfloor m/2\rfloor}^\alpha\right)^{(-1)^m}\right) \\ \end{align} </math> ただし、<math>\nu_i^\alpha=\left(\frac{\alpha+1}{i}-1\right)n</math> である。 }}。 :<math> \begin{align} S(\varphi)&=\frac{a}{1+n}\sum_{j=0}^\infty\left(\prod_{k=1}^j\varepsilon_k\right)^2\left\{\varphi+\sum_{l=1}^{2j}\left(\frac{1}{l}-4l\right)\sin 2l\varphi\prod_{m=1}^l\varepsilon_{j+(-1)^m\lfloor m/2\rfloor}^{(-1)^m}\right\} \\ \end{align} </math> ここで、<math>\varepsilon_i=\frac{3n}{2i}-n</math> である。上式で <math>j=2</math> まで取れば、ヘルメルトの提示した近似式が得られる{{Efn|平成23年版の理科年表から、それまで掲載されていたドランブルの近似式に取って代わり、河瀬の一般式とヘルメルトの近似式が掲載されている。}}{{Efn|<!-- 以降の記述は冗長でしょう。-->同じ考え方に立てば、ベッセルが1825年に得た <math>S(\beta)</math> 及び1837年に得た <math>S(\varphi)</math> を次のように書き下すこともできる。 :<math> \begin{align} S(\beta)&=\frac{a}{1+n}\sum_{j=0}^\infty\left(\prod_{k=1}^j\bar{\varepsilon}_k\right)^2\left(\beta+\sum_{l=1}^{2j}\frac{\sin 2l\beta}{l}\prod_{m=1}^{l}\bar{\varepsilon}_{j+(-1)^m\lfloor m/2\rfloor}^{(-1)^m}\right) ,\\ S(\varphi)&=\frac{a(1-n^2)^2}{1+n}\sum_{j=0}^\infty\left(\prod_{k=1}^j \delta_k\right)^2\left(\varphi+\sum_{l=1}^{2j}\frac{\sin 2l\varphi}{l}\prod_{m=1}^{l}\delta_{j+(-1)^m\lfloor m/2\rfloor}^{(-1)^m}\right) . \end{align} </math> ただし、<math>\bar{\varepsilon}_i=-\varepsilon_i=n-\frac{3n}{2i}</math> 及び <math>\delta_i=-\frac{n}{2i}-n</math> である。}}。級数を <math>j=J</math> で打ち切れば、<math>n</math> について <math>2J</math> 次までで打ち切った近似式が得られることになる。 == 脚注 == {{脚注ヘルプ}} === 注釈 === {{Notelist}} === 出典 === {{Reflist}} == 参考文献 == * {{cite book |title=L'épopée du méridien terrestre (Le procès des étoiles)|last=Florence |first=Trystram |year= 2001 |publisher= |location= |isbn=978-2277220138 |oclc= |url= |accessdate=}} * {{cite book |和書 |title=地球を測った男たち|last=Florence |first=Trystram |year=1983-07 |publisher=[[リブロポート]]|location= |isbn=978-4845700974 |oclc= |url= |accessdate=}} * {{Cite journal|和書|author=飛田幹男|author-link=飛田幹男|author2=河瀬和重|author2-link=河瀬和重|author3=政春尋志|author3-link=政春尋志|year=2009|title=赤道からある緯度までの子午線長を計算する3つの計算式の比較|journal=測地学会誌|volume=55|issue=3|pages=315–324|publisher=日本測地学会|doi=10.11366/sokuchi.55.315}} == 関連項目 == {{Commonscat|Meridian arc}} * [[弧 (幾何学)]] * [[大圏コース]] * [[シュトルーヴェの測地弧]] * [[トルネ谷]] * [[フランス科学アカデミーによる測地遠征]] * [[緯度#求長緯度 (rectifying latitude)|求長緯度]] * [[経緯度]] * [[地球半径]] * [[測地線#回転楕円体面上の測地線]] == 外部リンク == * [http://www.junko-k.com/collo/collo236.htm#1747 Weekend Mathematics: コロキウム室 No.1747] {{デフォルトソート:しこせんこ}} [[Category:測地学]] [[Category:地球物理学]] [[Category:測量]] [[Category:測定]] [[Category:経線]] [[Category:曲線]] [[Category:科学史]] [[Category:天文学に関する記事]]
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