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{{出典の明記|date=2011年11月}} {{Thermodynamics sidebar}} '''定積過程'''(ていせきかてい、{{lang-en-short|isochoric process}})とは、[[系 (自然科学)|系]]の[[体積]]を一定に保ちながら、系をある状態から別の状態へと変化させる[[熱力学]]過程のことである。等容変化ともいう。[[準静的過程]]とは限らない。例えば、[[燃焼熱]]を測定する際に[[熱量計#ボンベ熱量計|ボンベ熱量計]]の中で起こる過程は、[[不可逆]]な定積過程である。容積一定の容器の中で起こる熱力学過程は、定積過程として解析できることが多い。例えば、容積一定の容器に入れた[[気体]]や[[液体]]を温めたり冷やしたりする過程は、典型的な定積過程である。このような過程でも準静的過程には限らない。過程の途中で容器内の温度や圧力が不均一であってもよいし、[[過冷却]]や[[過飽和]]などが起こっていてもよい。 [[閉じた系]]の体積 V を一定に保ちながら、ある平衡状態Aから別の平衡状態Bに移行させる定積過程について考える。 系の体積が一定に保たれるので、系の体積変化に伴う[[仕事 (熱力学)|仕事]]はない。よって、電気的仕事などのその他の仕事もないときには、[[熱力学第一法則]]により、定積過程の[[内部エネルギー]]変化 ΔU は系が外部から得た[[熱]] Q に等しい。 {{Indent| <math>\Delta U = Q</math> }} [[エンタルピー]] H の変化は H = U + PV より {{Indent| <math>\Delta H = Q + V\Delta P</math> }} となる。ただし ΔP は過程に伴う系の圧力変化 {{Indent| <math>\Delta P = P_\text{B} - P_\text{A}</math> }} である。 内部エネルギー U と容器の容積 V により系の状態を一意に指定できる場合には、系の温度 T を (U,V) の関数として {{Indent| <math>T = T(U,V)</math> }} と表すことができる。T(U,V) の関数形は容器の中にある物質の量と種類で決まる。 一般には、内部エネルギー U と容器の容積 V だけで系の状態を一意に指定できるとは限らない。例えば、燃焼などの化学反応が容積一定の[[断熱過程|断熱]]容器の中で起こった場合は ΔU = Q = 0 であるが、容器内の温度は変化する。よってこの場合は、系の温度 T を (U,V) の関数として表すことはできない。以下では断りのない限り、 系の状態が (U,V) により一意に定まる場合について述べる。 == 定積過程における状態量の変化 == 内部エネルギーが U で体積が V のときの系の温度を T(U,V) とするなら[[エントロピー]] S の変化は {{Indent| <math>\Delta S = \int_{U_\text{A}}^{U_\text{B}} \frac{dU}{T(U,V)} </math> }} である。なぜなら、系の温度が T(U,V) のとき、環境の温度 T{{sub|ex}} を T{{sub|ex}} = T(U,V) + δT と設定して系に熱量 d'Q を与えるなら、 温度差 δT が十分に小さいときにこの過程は準静的微小変化になり、さらに定積過程であれば dU = d'Q なので、エントロピーの定義により {{Indent| <math> dS = \frac{d'Q}{T_\text{ex}} = \frac{dU}{T(U,V)} </math> }} となるからである。 [[ヘルムホルツエネルギー]] F の変化は、F = U - TS の関係を使って {{Indent| <math>\Delta F = \Delta(U-TS)=Q-T_\text{B}\Delta S - S_\text{A}\Delta T</math> }} となる。 [[ギブズエネルギー]] G の変化は、G = F + PV の関係を使って {{Indent| <math>\Delta G = \Delta F + V\Delta P</math> }} となる。 以上より、体積 V が一定の過程における U, H, S, F, G の変化量は、系が外部から得た熱 Q と過程に伴う系の圧力変化 ΔP と始状態のエントロピー S{{sub|A}} と 関数 T(U, V) から求められることが分かる。 == 定積等温過程における状態量の変化 == [[等温過程]]では ΔT = 0 であるので、定積等温過程では U, H, S, F, G の変化量は、以下の式で与えられる。 {{Indent| <math>\Delta U = Q</math> }} {{Indent| <math>\Delta H = Q + V\Delta P</math> }} {{Indent| <math>\Delta S = \frac{Q}{T_\text{A}} </math> }} {{Indent| <math>\Delta F = Q - T_\text{B}\frac{Q}{T_\text{A}} = 0</math> }} {{Indent| <math>\Delta G = V\Delta P</math> }} 定積等温過程ではヘルムホルツエネルギー F は変化しない。 適当な量の[[純物質]]が封入された密閉容器を加熱することで、定積等温過程を実現することができる。すなわち、固相と気相の二相共存の状態にある系を加熱していくと、純物質の量が適当な量であれば[[三重点]]に達して、固相と気相と液相の三相共存状態になる。液相が現れてから固相が消えるまでは、定積等温過程である。三重点で加えられた熱量の分だけ系の内部エネルギーは増加するが、三相が共存している間はヘルムホルツエネルギーは変化しない。 == 温度による表示 == 系の状態は (U, V) の関数として表すよりも、(T, V) の関数として表したほうが実用上は便利である。 純物質の三重点のように (T, V) だけでは系の状態が一意に定まらない場合もあるが、ここでは始状態が (T{{sub|A}}, V) で、終状態が (T{{sub|B}}, V) でそれぞれ一意に定まる場合について述べる。 一般に、系の温度 T(U, V) は 有限個の点を除いて U で偏微分可能であり {{Indent| <math>\left( \frac{\partial T}{\partial U} \right)_V \geq 0</math> }} である。 {{math|1=(∂T/∂U){{msub|V}} > 0}} となる範囲と {{math|1=(∂T/∂U){{msub|V}} = 0}} となる範囲を分けて考えれば、定積過程では内部エネルギー U の変化は {{Indent| <math>\Delta U = \int_{U_\text{A}}^{U_\text{B}} dU =\int_{T_\text{A}}^{T_\text{B}}\left( \frac{\partial U}{\partial T} \right)_V dT + \sum_{i} \Delta_i U(T_{i},V)</math> }} となる。ここで最右辺の第二項の和は、T{{sub|A}} とT{{sub|B}} の間にある、{{math|1=(∂T/∂U){{msub|V}} = 0}} となる温度 T についてとる。温度 T{{sub|i}} は T{{sub|A}} から T{{sub|B}} まで準静的に変化させたときに定積等温過程となる i 番目の温度であり、Δ{{sub|i}}U(T{{sub|i}}, V) はその等温過程で外界から吸収する熱 Q である。 エントロピー S の変化も同様に考えると {{Indent| <math>\Delta S = \int_{U_\text{A}}^{U_\text{B}} \frac{dU}{T(U,V)} =\int_{T_\text{A}}^{T_\text{B}}\frac{1}{T}\left( \frac{\partial U}{\partial T} \right)_V dT + \sum_{i} \frac{\Delta_i U(T_{i},V)}{T_i}</math> }} となる。 系の定積[[熱容量]]を {{Indent| <math>C_V(T,V) = \left( \frac{\partial U}{\partial T} \right)_V</math> }} で定義すると U と S の変化はそれぞれ {{Indent| <math>\Delta U =\int_{T_\text{A}}^{T_\text{B}}C_V(T,V) dT + \sum_{i} \Delta_i U(T_{i},V)</math> }} {{Indent| <math>\Delta S =\int_{T_\text{A}}^{T_\text{B}}\frac{C_V(T,V)}{T} dT + \sum_{i} \frac{\Delta_i U(T_{i},V)}{T_i}</math> }} と表される。また (T, V) の関数として S が一意に定まる温度範囲で {{Indent| <math>\Delta S =\int_{T_\text{A}}^{T_\text{B}}\left( \frac{\partial S}{\partial T} \right)_V dT</math> }} であることから {{Indent| <math>\left( \frac{\partial S}{\partial T} \right)_V = \frac{C_V(T,V)}{T}</math> }} が成り立つ。 ヘルムホルツエネルギー F の変化は、定積等温過程では ΔF = 0 なので {{Indent| <math>\Delta F = \Delta U-T_\text{B}\Delta S - S_\text{A}\Delta T =\int_{T_\text{A}}^{T_\text{B}}(T-T_\text{B})\left( \frac{\partial S}{\partial T} \right)_V dT - S_\text{A}\Delta T =-\int_{T_\text{A}}^{T_\text{B}}S(T,V)dT</math> }} となる。また {{Indent| <math>\Delta F =\int_{T_\text{A}}^{T_\text{B}}\left( \frac{\partial F}{\partial T} \right)_V dT</math> }} であることから {{Indent| <math>\left( \frac{\partial F}{\partial T} \right)_V = -S(T,V)</math> }} が成り立つ。 エンタルピー H とギブズエネルギー G の変化はそれぞれ {{Indent| <math>\Delta H = \Delta U + V\Delta P</math> }} {{Indent| <math>\Delta G = \Delta F + V\Delta P</math> }} である。 以上より、体積 V が一定の過程における U, S, F, H, G の変化量は、系の定積熱容量 C{{sub|V}}(T, V) と過程に伴う系の圧力変化 ΔP と始状態のエントロピー S{{sub|A}} と C{{sub|V}}(T, V) が発散する温度 T{{sub|i}} における内部エネルギーの跳び Δ{{sub|i}}U(T{{sub|i}}, V) から求められることが分かる。 == 理想気体の定積過程 == 容積 V の容器に入った物質量 n の[[理想気体]]を状態Aから状態Bに移行させる定積過程について考える。理想気体の[[定積モル熱容量]] C{{sub|V,m}} は体積 V に依らない。簡単のため、ここでは C{{sub|V,m}} が温度 T にも依らない定数とする。 [[内部エネルギー]] U と[[エントロピー]] S の変化はそれぞれ {{Indent| <math>\Delta U =\int_{T_\text{A}}^{T_\text{B}} n C_{V,\text{m}} dT = n C_{V,\text{m}} \Delta T </math> }} {{Indent| <math>\Delta S =\int_{T_\text{A}}^{T_\text{B}}\frac{ n C_{V,\text{m}}}{T} dT = n C_{V,\text{m}}\ln\frac{T_\text{B}}{T_\text{A}}</math> }} である。 [[ヘルムホルツエネルギー]] F の変化は {{Indent| <math>\Delta F = \Delta U-T_\text{B}\Delta S - S_\text{A}\Delta T =n\left(C_{V,\text{m}} - S_\text{m}(T_\text{A},V_\text{m})\right)\Delta T- n C_{V,\text{m}}T_\text{B}\ln\frac{T_\text{B}}{T_\text{A}}</math> }} となる。ただし S{{sub|m}}(T,V{{sub|m}}) は、温度 T、[[モル体積]] V{{sub|m}} = V/n におけるこの理想気体のモルエントロピーである。 [[エンタルピー]] H の変化は、[[理想気体の状態方程式]] PV = nRT と[[マイヤーの関係式]] C{{sub|P,m}}(T) = C{{sub|V,m}}(T) + R を使うと {{Indent| <math>\Delta H =\Delta U + \Delta(PV) = n( C_{V,\text{m}} + R) \Delta T =n C_{P,\text{m}} \Delta T</math> }} となる。[[ギブズエネルギー]] G の変化も同様に {{Indent| <math>\Delta G =\Delta F + \Delta(PV) =n\left(C_{P,\text{m}} - S_\text{m}(T_\text{A},V_\text{m})\right)\Delta T- n C_{V,\text{m}}T_\text{B}\ln\frac{T_\text{B}}{T_\text{A}}</math> }} となる。 定積過程では、理想気体は外部に[[仕事 (熱力学)|仕事]] W をしない。 {{Indent|<math>W=0</math>}} 定積過程で理想気体が外部から得る[[熱]] Q は {{Indent| <math>Q = \Delta U = n C_{V,\text{m}} \Delta T </math> }} である。 == 理想気体の定積過程 (初等的な説明) == [[File:Isochoric process.png|thumb|right|240px]] [[理想気体]]を状態Aから状態Bへと移行させる定積過程を考える。このとき[[熱力学第一法則]]より、 {{Indent|<math>\Delta U=Q-W</math>}} ただし<math>\Delta U</math>は過程による理想気体の[[内部エネルギー]]の変化、<math>Q</math>は過程中に理想気体に与えられた[[熱量]]、<math>W</math>は理想気体が外部にした[[仕事 (熱力学)|仕事]]である。ここで、この過程を無限に分割した微小過程を考えると、その微小過程中に外部にする仕事<math>dW</math>は、 {{Indent|<math>dW=Fdx=PSdx=PdV</math>}} である。ここで<math>P</math>は圧力、<math>dV</math>は微小体積変化である。定積過程においては体積が一定なので、 {{Indent|<math>dV=0</math>}} {{Indent|<math>dW=PdV=0</math>}} となる。よって、熱力学第一法則の式は、 {{Indent|<math>\Delta U=Q</math>}} と書き直せる。ここで、定積過程における気体の、単位物質量あたりの[[比熱]]を'''[[定積モル比熱]]'''と命名し<math>c_V</math>とすると、比熱の定義より、 {{Indent|<math>Q=nc_V \Delta T</math>}} となる。ここでnは理想気体の[[物質量]]、Tは[[絶対温度]]である。 以上のことから気体の内部エネルギーと定積モル比熱について次の関係が成り立つ。 {{Indent|<math>\Delta U=nc_V \Delta T</math>}} [[内部エネルギー]]の変化量 <math>\Delta U</math> も[[絶対温度]]の変化量 <math>\Delta T</math> も、ともに過程によらず始点と終点の状態のみに依存する[[物理量]]なので、この等式は定積過程に限らずあらゆる過程で成り立つ(ただし、 <math>Q=nc_V \Delta T</math> は定積過程でのみ成り立つ。)。 == 関連項目 == * [[定圧過程]] * [[等温過程]] * [[断熱過程]] * [[可逆]] * [[比熱]] {{DEFAULTSORT:ていせきかてい}} [[Category:熱力学行程]]
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