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{{参照方法|date=2016年10月}} '''密度行列繰り込み群法'''(みつどぎょうれつくりこみぐんほう {{lang-en-short|density matrix renormalization group; DMRG}})は、[[多体問題 (量子論)|量子多体系]]における低エネルギー物理を高精度に計算するために考案された数値[[変分法]]である。[[1992年]]に {{Lang|en|Steven R. White}} により開発された{{Sfn|White|1992|p=}}。 == DMRG の背景にある考え方 == 量子多体系の物理に関して主に問題となるのは、[[ヒルベルト空間]]が[[指数関数]]的に大きくなることである。例えば、長さ {{Mvar|L}} の{{仮リンク|スピン 1/2|en|Spin-1/2}} チェインは、{{Math|2<sup>''L''</sup>}} の[[自由度]]をもつ。DMRG法は[[反復法 (数値計算)|反復的]]な変分法であり、問題の[[量子状態]]についてもっとも重要な[[自由度]]にのみ有効自由度を絞り込むことができる。問題とされるのは[[基底状態]]であることが多い。 この手法では、ウォームアップサイクル後に系を(同じサイズとは限らない)二つのブロックと、その間に位置するの二つのサイトに分ける。ウォームアップ中に、各ブロックを「代表する」一連の状態を選定する。左ブロック + 二つのサイト + 右ブロックを合わせてスーパーブロックと呼ばれる。スーパーブロックは全系よりも自由度が低減しており、基底状態の候補が見付けやすい。その代償として精度は低下するが、下記の反復法により向上させることができる。 見付かった基底状態の候補を、名前の通り[[密度行列]]を用いて各ブロックに対応する部分空間上に[[射影作用素|射影]]する。これにより、各ブロックの「関連する状態」が更新される。 ここで、片方のブロックを大きくし、もう片方を小さくして同じ手続きを繰り返す。大きくしたブロックが最大サイズに到達したら、かわりにもう片方を大きくする。最初の(等しいサイズの)状況に立ち戻ったとき、「掃引」が完了したという。1 次元格子ならば通常、数回の掃引で {{Val||e=10}} 分の 1 の精度を得るのに十分である。 DMRG法は {{Lang|en|Steven White}} と {{Lang|en|Reinhard Noack}} により、1 次元箱内の[[スピン角運動量|スピン]] 0 粒子のスペクトルを求めるという[[トイモデル]]に対して始めて適用された。このモデルは[[ケネス・ウィルソン]]により、何らかの新しい[[くりこみ群]]の方法をテストするために考案された。このような単純な問題でも、正しく解けない方法ばかりだったのである。DMRG法は従来のくりこみ群の方法にあった問題点を、系を一つのブロックと一つのサイトに分けるのではなく二つのブロックを二つのサイトで繋ぐように分け、さらに各ステップの最後に最も重要で保存するべき状態を密度行列を用いて識別することにより克服している。 このトイモデルを解くことに成功したのち、DRMG法は{{仮リンク|ハイゼンベルクモデル|en|Heisenberg_model_(quantum)}}にも適用され、成功している。 == 実装上の技術的詳細 == DMRGアルゴリズムの実用的実装は長大な作業である。次のような計算上のトリックが主に用いられている。 * スーパーブロックの基底状態は[[ランチョス法]]による[[対角化|行列対角化]]により求める。他にも、特に非[[エルミート行列]]を扱う場合は{{仮リンク|アーノルディ法|en|Arnoldi_iteration}}を使うこともある。 * ランチョス法はランダムなシードから開始することが多いが、DMRG法ではあるステップで得られた解を適切に変換してシードとする法が良い場合がある。 * 対称性のある系の場合、例えばハイゼンベルクモデルにおける総スピンなど、保存される量子数がある場合がある。これにより[[ヒルベルト空間]]を分割し、そのそれぞれについて基底状態を求めるのが便利である。 * 例として、{{仮リンク|ハイゼンベルクモデルに対するDMRG法|en|Dmrg_of_Heisenberg_model}}が挙げられる。 == 応用 == DMRG法は、横磁場[[イジング模型|イジングモデル]]や{{仮リンク|ハイゼンベルクモデル|en|Heisenberg_model_(quantum)}}など、および[[ハバードモデル]]などの[[フェルミ粒子|フェルミオン]]系、[[近藤効果]]などの欠陥のある問題、[[ボース粒子|ボソン]]系、{{仮リンク|量子ワイヤー|en|Quantum_wire}}に接続された[[量子ドット]]の物理など、スピンチェインの低エネルギー物性を得るための応用が成功している。樹状グラフを扱えるよう拡張されたものもあり、[[デンドリマー]]の研究に応用されている。片方の次元がもう片方よりも非常に大きいような二次元系も精度よく扱えるため、ラダーの研究にも有用であることが知られている。 二次元系の平衡状態についての[[統計力学]]的研究向けや、一次元系の[[熱力学#非平衡熱力学|非平衡]]現象の解析向けの拡張も存在する。 [[量子化学]]分野においては強相関系を扱うための応用もされている。 == 行列積仮設 == DRMG法が一次元系で成功した背景には、これが[[行列積状態]]空間上における変分法であるという事実がある。行列積状態とは、次の形式で表わされる状態である。 : <math>\sum_{s_1\cdots s_N} \operatorname{Tr}(A^{s_1}\cdots A^{s_N}) | s_1 \cdots s_N\rangle</math> ここで、{{Math|''s''<sub>1</sub> … ''s''<sub>''N''</sub>}} は例えばスピンチェイン上のスピンの {{Mvar|z}} 成分であり、 {{Math|''A''<sup>''s''<sub>i</sub></sup>}} は任意の {{Mvar|m}} 次元行列である。{{Math|''m'' → ∞}} の極限において、この表現は厳密となる。このことは {{Lang|en|S. Rommer}} と {{Lang|en|S. Ostlund}} により理論化された。 == DMRG の拡張 == [[2004年]]、行列積状態の実時間発展向けに{{仮リンク|時間発展ブロックデシメーション法|en|Time-evolving_block_decimation}}が実装された。このアイデアは[[量子コンピュータ]]の古典シミュレーションに基いている。続いて、DRMG形式の実時間発展を計算する新手法が考案された。これについては {{Lang|en|A. Feiguin}} と {{Lang|en|S.R. White}} による論文を参照のこと。 近年、行列積状態の定義を拡張することにより、二次元および三次元へと拡張する提案がなされている。これについては {{Lang|en|F. Verstraete}} と {{Lang|en|I. Cirac}} による論文を参照のこと。 == 出典 == {{Reflist|30em}} == 参考文献 == * {{cite journal|date=Nov 1992|title=Density matrix formulation for quantum renormalization groups|url=http://hedrock.ps.uci.edu/dmrgpaper/dmrgpap.pdf|journal=[[Phys. Rev. Lett.]]|volume=69|issue=19|pages=2863–2866|format=PDF|ref=harv|first1=Steven R.|last1=White|doi=10.1103/PhysRevLett.69.2863}}(原論文) * {{cite journal|author=|year=2006|title=New trends in density matrix renormalization|url=https://doi.org/10.1080/00018730600766432|journal=Advances in Physics|volume=55|issue=5-6|page=|pages=477–526|ref=harv|arxiv=cond-mat/0609039|first1=Karen A.|last1=Hallberg|doi=10.1080/00018730600766432}}(総説) * {{cite journal|author=|date=2005年4月|title=The density-matrix renormalization group|url=http://link.aps.org/doi/10.1103/RevModPhys.77.259|journal=Rev. Mod. Phys.|volume=77|issue=1|page=|pages=259–315|ref=harv|arxiv=cond-mat/0409292|first1=U.|last1=Schollwöck|doi=10.1103/RevModPhys.77.259}}(元々の定式化に基いたレビュー) * {{cite journal|author=|year=2011|title=The density-matrix renormalization group in the age of matrix product states|url=http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0003491610001752|journal=Annals of Physics|volume=326|issue=1|page=|pages=96–192|ref=harv|arxiv=1008.3477|issn=0003-4916|first1=Ulrich|last1=Schollwöck|doi=10.1016/j.aop.2010.09.012}}(行列積状態を用いたレビュー) * {{Cite thesis |degree=Ph. D|chapter=|title=Real Space Renormalization Group Techniques and Applications|url=|author=Javier Rodríguez Laguna|year=|publisher=|accessdate=|docket=|oclc=|arxiv=cond-mat/0207340}} * {{cite journal|year=2008|title=Density Matrix Renormalization Group for Dummies|url=http://www.ingentaconnect.com/content/asp/jctn/2008/00000005/00000007/art00011|journal=Journal of Computational and Theoretical Nanoscience|volume=5|issue=7|pages=1277–1288|ref=harv|issn=1546-1955|first1=Gabriele|last1=De chiara|first2=Matteo|last2=Rizzi|first3=Davide|last3=Rossini|first4=Simone|last4=Montangero|doi=10.1166/jctn.2008.011}}(DRMGとその時間依存拡張への入門) * arxiv.org 上の[http://quattro.phys.sci.kobe-u.ac.jp/dmrg/condmat.html DRMG関連のプレプリント一覧] * {{Cite thesis |degree=Ph. D|chapter=|title=Accurate variational electronic structure calculations with the density matrix renormalization group|url=|author=Sebastian Wouters|year=|publisher=Ghent University|accessdate=|docket=|oclc=|arxiv=1405.1225|ISBN=9789461971944}}([[非経験的分子軌道法]]向けのDRMGについてのまとめを含む学位論文) * [https://doi.org/10.11540/bjsiam.10.3_218 常次 宏一, 柴田 尚和:「有限温度密度行列繰り込み群とその数理」,応用数理、2000年、10巻、3号、p.218-228] == 関連ソフトウェア == * [http://qti.sns.it/dmrg/phome.html Powder with Power]: [[FORTRAN|Fortran]] で書かれた時間依存DMRG法用フリープログラム * [http://alps.comp-phys.org/ The ALPS Project]: [[C++]] で書かれた時間非依存DMRGおよび量子モンテカルロ用フリープログラム * [http://www.ornl.gov/~gz1/dmrgPlusPlus/ DMRG++]: C++ で書かれたフリーなDMRG実装 * [http://itensor.org/ ITensor] (Intelligent Tensor) ライブラリ: C++ で書かれた[[テンソル積]]状態および行列積状態に基くDMRG計算用のライブラリ * [https://github.com/entron/snake-dmrg Snake DMRG program]: C++ で書かれたDMRG, tDMRG および有限温度DMRG用プログラム * [https://github.com/SebWouters/CheMPS2 CheMPS2]: C++ で書かれた非経験的分子軌道法向けスピン適合DRMG用オープンソースプログラム ** {{cite journal|year=2014|title=CheMPS2: A free open-source spin-adapted implementation of the density matrix renormalization group for ab initio quantum chemistry|url=http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0010465514000496|journal=Computer Physics Communications|volume=185|issue=6|pages=1501–1514|ref=harv|issn=0010-4655|first1=Sebastian|last1=Wouters|first2=Ward|last2=Poelmans|first3=Paul W.|last3=Ayers|first4=Dimitri Van|last4=Neck|doi=10.1016/j.cpc.2014.01.019}} * [https://github.com/sanshar/Block Block]: C++ で書かれた量子化学およびモデルハミルトニアン向けのDMRGオープンソースフレームワーク。{{Math|SU(2)}} および一般的な[[非可換類体論|非アーベル対称性]]をサポート。 == 関連項目 == * [[量子モンテカルロ]] * {{仮リンク|ハイゼンベルクモデルにおける密度行列繰り込み群法|en|Dmrg_of_Heisenberg_model}} * {{仮リンク|時間発展ブロックデシメーション法|en|Time-evolving_block_decimation}} * [[配置間相互作用|配置間相互作用法]] [[Category:統計力学]] [[Category:理論物理学]] {{DEFAULTSORT:みつときようれつくりこみくんほう}}
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