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{{フレーバー}} '''弱アイソスピン'''(じゃくあいそすぴん、{{lang-en-short|weak isospin}})は、[[弱い相互作用]]が働く[[素粒子]]のみが持つ[[量子数]]である。 弱アイソスピンの量は[[弱い相互作用|弱い力]]との相互作用のしやすさ([[チャージ (物理学)|チャージ]])でもあるため、'''弱荷'''とも呼ばれる。これは、[[強い相互作用]]に対する[[カラーチャージ]]、[[電磁相互作用]]に対する[[電荷]]、および[[重力相互作用]]に対する[[質量]]に当たる。 == 概要 == 弱アイソスピンは、[[強い相互作用]]における[[アイソスピン]]と対をなす概念である。弱アイソスピンを表す記号は、通常''T''または''I''であり、その第三成分は''T<sub>z</sub>''、''T<sub>3</sub>''、''I''<sub>z</sub>または''I''<sub>3</sub>と表記される<ref>曖昧性:''I''は'通常の'[[アイソスピン]]を表す場合にも用いられ、その第三成分も同じく''I''<sub>3</sub>または''I''<sub>z</sub>と表記される。''T''は[[トップネス]]を表す場合にも用いられる。<!--本記事では、''T''および''T''<sub>3</sub>の表記を用いる。--></ref>。弱アイソスピンは、[[電磁相互作用]]および[[弱い相互作用]]を統一する[[弱超電荷]]の成分である。 '''弱アイソスピン保存則'''は''T''<sub>3</sub>の保存に関係する。すなわち、全ての弱い相互作用は''T''<sub>3</sub>を保存しなくてはならない。この値はまた他の[[基本相互作用]]によっても保存する一般的な保存量である。この理由により、''T''<sub>3</sub>は''T''より重要であり、"弱アイソスピン"はよく"弱アイソスピンの第三成分"のみを意味する。 電荷''Q''、弱アイソスピンの第三成分''T''<sub>3</sub>、および[[弱超電荷]]''Y''<sub>W</sub>の間には次の関係が成り立つ: :<math> Q = T_3 +Y_\text{w}</math> == 性質 == 弱い相互作用によって起こる代表的な現象である[[ベータ崩壊]]は :<math>d \longrightarrow u + e + \overline{\nu_e}</math> と表すことができる。(u:[[アップクォーク]]、d:[[ダウンクォーク]]、e:[[電子]]、ν<sub>e</sub>:[[電子ニュートリノ]]で、オーバーラインは[[反粒子]]を表す。) ある粒子はその反粒子が時間をさかのぼる姿と解釈できるので、 :<math>d + \nu_e \longrightarrow u + e</math> と書き換えることができる。 すなわち、ダウンクォークが電子ニュートリノと衝突し、[[弱い相互作用]]によってダウンクォークがアップクォークに、電子ニュートリノが電子に転換したと考えることができる。 さらに考えをおしすすめると、弱い相互作用において相互転換する2つの素粒子は、同じ素粒子の電荷や質量が異なる状態と見なし、弱い相互作用によってその状態間の転換が起こったものと考えることができる。 [[アイソスピン]]において[[陽子]]と[[中性子]]が同じ素粒子の電荷のみが異なる状態だと考えたのと同様である。 この状態を表す[[パラメータ]]として弱アイソスピンが導入される。 ただし、この弱アイソスピン二重項を作る2つの状態は一般に質量が異なっており、この2つを入れ替える変換([[ゲージ理論|ゲージ変換]])に対して物理は不変ではないように見える。これは[[ヒッグス粒子]]との結合によって[[自発的対称性の破れ|対称性が自発的に破れている]]ためである。 弱アイソスピンのカレントには正負の荷電カレントと中性カレントが存在し、それぞれ[[ウィークボソン|W<sup>±</sup>]]、W<sup>0</sup>と結合する。W<sup>0</sup>は超電荷ゲージボソンBと[[混合]]し、[[Zボソン]]となる。 弱アイソスピンには[[スピン角運動量|スピン]]、アイソスピンと同様[[パウリ行列]]による数学的記述が成立し、弱い相互作用において相互転換する2つの素粒子は弱アイソスピン1/2を持ち、そのz成分は1/2、-1/2の2つの値をとる。 通常はこのz成分が'''弱アイソスピン量子数'''と呼ばれる。 例えば電子は弱アイソスピン量子数1/2、電子ニュートリノは弱アイソスピン量子数-1/2を持つ。 [[レプトン (素粒子)|レプトン]]については、電子-電子ニュートリノ、[[ミュー粒子]]-[[ミューニュートリノ]]、[[タウ粒子]]-[[タウニュートリノ]]がこの対を作っており、対の中でのみ転換が起こる。<ref>ただしこれはニュートリノを質量ゼロと考えた場合である。現在はニュートリノ質量が観測された事によってレプトンの場合も混合を考える。この混合により[[ニュートリノ振動]]が起こる。</ref> それに対しクォークについてはダウンクォークだけでなくストレンジクォークがアップクォークに転換する現象も知られている。 それ故にアップクォークと対を作っているのはダウンクォークとストレンジクォークが混合した粒子ということになる。 この粒子の混合現象をカビボ混合という。 この考えをさらに推し進めた[[小林誠 (物理学者)|小林誠]]と[[益川敏英]]は、混合する粒子が三世代あった場合には弱い相互作用において[[CP対称性の破れ]]が起こりうる事を示した。([[小林・益川理論]]) また、ベータ崩壊で生成される[[反電子ニュートリノ]]はすべて[[ヘリシティー (素粒子)|ヘリシティー]]が1/2([[右巻き、左巻き|右巻き]])である。 そのため、弱い相互作用はヘリシティー1/2の反粒子、あるいはヘリシティー-1/2([[右巻き、左巻き|左巻き]])の粒子のみにしか働かず、弱アイソスピンを持つのも同様と考えられている。 ==脚注== {{reflist}} ==参考文献== *E Abers, B Lee "Gauge theories", Physics Reports (1973) ==関連項目== * [[ワインバーグ=サラム理論]] * [[弱超電荷]] * [[標準模型]] {{DEFAULTSORT:しやくあいそすひん}} [[Category:量子数]] [[Category:素粒子物理学]] [[Category:標準模型]]
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