弾力性のソースを表示

{{Otheruseslist|経済学に於ける弾力性|[[物理学]]・[[力学]]的な「弾んだり、歪みを吸収し蓄える」性質|弾性|価格が変化したときの需要の反応の弾力性|需要の価格弾力性|所得が変化したときの需要の反応の弾力性|需要の所得弾力性|ある財の価格が変化したときの別の財の需要の反応の弾力性|交差弾力性|2つの財の相対価格が変化したときの相対需要の反応の弾力性|代替の弾力性}}
{{経済学のサイドバー}}
[[経済学]]における'''弾力性'''（だんりょくせい、{{Lang-en-short|elasticity}}）とは、ある変数の[[変化率]]ともう1つの変数の変化率の比<ref name=":1">{{Cite web|last=Hayes|first=Adam|title=What Is Elasticity in Finance; How Does it Work (with Example)?|url=https://www.investopedia.com/terms/e/elasticity.asp|date=2022-07-05|access-date=2023-03-31|website=Investopedia|language=en}}</ref>。一般に、「''A''の''B''弾力性」という使い方がされ、''B''の1%の変化に対する''A''の変化率（= ''A''の変化率/''B''の変化率）を意味する。''B''の変化に対して''A''が大きく変化するとき、「弾力的だ」と言い、''B''の変化に対して''A''があまり変化しないとき「非弾力的だ」と言う<ref>{{Cite web |title=Elasticity: What It Means in Economics, Formula, and Examples |url=https://www.investopedia.com/terms/e/elastic.asp |access-date=2023-04-20 |website=Investopedia |language=en}}</ref>。

==定義==
弾力性とは、ある変数を1%変化させたときの別の変数の変化率のことである<ref>{{Cite web |title=The Economic Times: Business News, Personal Finance, Financial News, India Stock Market Investing, Economy News, SENSEX, NIFTY, NSE, BSE Live, IPO News |url=https://economictimes.indiatimes.com/defaultinterstitial.cms |access-date=2023-04-20 |website=economictimes.indiatimes.com}}</ref>。「''y''の''x''弾力性」（多くの場合その絶対値）が大きいとき、''x''の変化に対して''y''が大きく変化することを意味する。数式では、''y''の変化率を''x''の変化率で割ったものとなる。
:''y''の''x''弾力性: <math>e_{yx} = \frac{d y / y}{d x / x}= \frac{dy}{dx}\frac{x}{y}</math>
[[需要の価格弾力性]]など、通常[[負の数|負の値]]をとるものについては、これの[[絶対値]]をとることがある<ref name="Gwartney425">Gwartney, Yaw Bugyei-Kyei.James D.; Stroup, Richard L.; Sobel, Russell S. (2008). p.&nbsp;425.</ref>。

[[経済学]]では、[[需要の価格弾力性]]、[[供給の価格弾力性]]、[[交差弾力性]]、[[代替の弾力性]]などがあるが、すべて基本的には同じ式である<ref>{{Cite web |title=Elasticity: What It Means in Economics, Formula, and Examples |url=https://www.investopedia.com/terms/e/elastic.asp |access-date=2023-04-20 |website=Investopedia |language=en}}</ref>
。関数<math>y(x)</math>が離散的であれば、
:<math>e_{yx} = \frac{\frac{y_2 - y_1}{y_1}}{\frac{x_2 - x_1}{x_1}}</math>
と書け、関数<math>y(x)</math>が微分可能であれば、
:<math>e_{yx} = \frac{d \ln y}{d \ln x}</math>
と書ける。弾力性は単位のない指標であり、「''y''の''x''弾力性, <math>e_{yx}</math>」は''x''と''y''が何であれ同じ解釈ができる。


弾力的かどうかは以下のように判断される。
{| class="wikitable"
|-
| <math>|e_{yx}|>1</math> || 弾力的（Elastic） || ''y''の変化率が''x''の変化率よりも大きい。
|-
| <math>|e_{yx}|=1</math> || 単位弾力的（Unit elastic） || ''y''の変化率が''x''の変化率と同じ。
|-
| <math>|e_{yx}|<1</math> || 非弾力的（Inelastic） || ''y''の変化率が''x''の変化率よりも小さい。
|}

ある財の価格が1%上昇したとする。供給の変化率が0.5%であれば、供給の変化率の方が価格の変化率よりも小さいので、非弾力的ということになる。もし供給の変化率も1%であれば、単位弾力的ということになる。もし供給の変化が2%であれば、供給の変化率の方が価格の変化率よりも大きいので、弾力的ということになる。

以下のような特殊ケースもある。
:完全に弾力的: <math>e_{yx}\rightarrow\infty</math>; ''x''の変化に対する''y''の変化率が無限大である。
:完全に非弾力的: <math>e_{yx}=0</math>; ''x''の変化に対する''y''の変化率がゼロである。

弾力性は初期時点における''x''や''y''の値に依存して変化することがある。例えば、生産者は、低価格のときは価格の増加に対して弾力的に供給を増やし、高価格のときは価格が上昇しても供給をあまり増やさないかもしれない<ref>{{Cite web |title=Categories of Elasticity {{!}} Macroeconomics |url=https://courses.lumenlearning.com/wm-macroeconomics/chapter/categories-of-elasticity/ |access-date=2023-04-20 |website=courses.lumenlearning.com}}</ref>。

縦軸に価格、横軸に数量をとった図で、需要曲線が直線で書かれるとき、需要の価格弾力性は曲線上で変化する<ref>{{cite book|last=Ruffin|first=Roy J.|author2=Gregory, Paul R.|title=Principles of Economics|publisher=Scott, Foresman|location=Glenview, Illinois|year=1988|edition=3rd|isbn=978-0-673-18871-7}}</ref><ref>{{cite book|last=McConnell|first=Campbell R.|author2=Brue, Stanley L.|title=Economics: Principles, Problems, and Policies|publisher=McGraw-Hill|location=New York|year=1990|edition=11th|isbn=978-0-07-044967-1}}</ref>。しかし、[[CES型関数|CES型効用関数]]から導かれる<math>q = a \times p^{-1/\sigma }</math>のような非線形の需要曲線であれば、需要の価格弾力性は計測点にかかわらず定数となる。

[[回帰分析]]を用いた実証研究では、被説明変数が<math>\ln y</math>（''y''の[[自然対数]]値）で、説明変数が<math>\ln x</math>（''x''の自然対数値）であるとき、推定される説明変数の係数は「''y''の''x''弾力性, <math>e_{yx}</math>」になる。弾力性は変数の単位に影響されないことから、実証分析では重宝される<ref>{{Cite web |title=13.5 Interpretation of Regression Coefficients: Elasticity and Logarithmic Transformation - Introductory Business Statistics {{!}} OpenStax |url=https://openstax.org/books/introductory-business-statistics/pages/13-5-interpretation-of-regression-coefficients-elasticity-and-logarithmic-transformation |access-date=2023-04-20 |website=openstax.org |language=en}}</ref>。

{|
|[[File:04 perfect P-elasticity.png|thumb|upright|200px|''Q''が''P''の変化に対して完全に弾力的であるケース。]]
|[[File:04 perfect P-inelasticity.png|thumb|upright|200px|''Q''が''P''の変化に対して完全に非弾力的であるケース。]]
|[[File:04 elasticity scheme1.png|thumb|upright|200px|右下がりの需要曲線で、QがPの変化に対してほどほどに弾力的であるケース。]]
|}

{|
|[[File:04 elasticity scheme2.png|thumb|upright|200px|''Q''の''P''に対する弾力性が定数のケース。]]
|[[File:04 elasticity scheme3.png|thumb|upright|200px|供給の弾力性がそれぞれ異なるケース。]]
|[[File:04 elasticity scheme4.png|thumb|upright|200px|非線形の供給曲線で、供給の弾力性が曲線上で変化するケース。]]
|}

==概念==
価格弾力性の概念は、[[1890年]]に[[アルフレッド・マーシャル]]が『{{仮リンク|経済学原理|en|Principles of Economics (Marshall book)}}』で初めて提示した<ref name="Concept of elasticity">{{cite journal |last1=L.F.G. |first1=López |title=The concept of elasticity and strategies for teaching it in introductory courses of economics |journal=Semestre Económico |date=Apr–Jun 2019 |volume=22 |issue=51 |pages=149–167 |doi=10.22395/seec.v22n51a7 |doi-access=free }}</ref>。その後、[[1960年]]代後半にジョシュア・レヴィ（Joshua Levy）とトレバー・ポロック（Trevor Pollock）が、財の「供給の価格弾力性」と「需要の価格弾力性」についての実証研究を行い、広く知られるようになった<ref>{{cite book|last1=Taylor|first1=Lester D.|last2=Houthakker|first2=H.S.|title=Consumer demand in the United States : prices, income, and consumption behavior|date=2010|publisher=Springer|edition=3rd|isbn=978-1-4419-0510-9|type=Originally published by Harvard University Press, 2005}}</ref>。

弾力性は[[新古典派経済学]]において必須の概念であり、税の負担率、企業理論における限界収入、[[消費者余剰]]、[[生産者余剰]]、厚生の分配など、様々な経済的メカニズムを理解する上で重要な役割を果たす<ref>{{Cite book |last=Vekstein |first=G. E. |chapter=The Theory of Elasticity |chapter-url=https://www.taylorfrancis.com/chapters/mono/10.1201/9781003062882-15/theory-elasticity-vekstein |title=Physics of Continuous Media |doi=10.1201/9781003062882 }}</ref>。弾力性の概念は、[[需要の価格弾力性]]、[[供給の価格弾力性]]、[[需要の所得弾力性]]、生産要素間の[[代替の弾力性]]、[[交差弾力性]]、異時点間の代替の弾力性など、多くの指標に適用されている<ref>{{Cite web |title=Elasticity Theory - an overview {{!}} ScienceDirect Topics |url=https://www.sciencedirect.com/topics/engineering/elasticity-theory |access-date=2023-04-20 |website=www.sciencedirect.com}}</ref>。

ミクロ経済学では、弾力性と傾きは密接に関連している。需要の価格弾力性の場合、横軸と縦軸上の2つの変数間の関係は、[[需要曲線]]または供給曲線の直線の傾き、または曲線上の点の接線を計算することで計測できる<ref>{{cite journal |last1=Chen |first1=Xudong |title=Elasticity as Relative Slopes: A Graphical Approach to Linking the Concepts of Elasticity and Slope |journal=The American Economist |date=October 1, 2017 |volume=62 |issue=2 |pages=258–267 |doi=10.1177/0569434516682713 |s2cid=157222255 }}</ref>。縦軸に価格、横軸に数量をとった図で、需要曲線の傾きが急である（垂直に近い）ということは、需要の価格弾力性が小さいということである。需要曲線の傾きが小さい（水平に近い）ということは、需要の価格弾力性が大きいということである。

==例==
=== 需要の価格弾力性 ===
[[需要の価格弾力性]]を考えてみる。価格の変化率（%）に対する需要の変化率（%）が需要の価格弾力性と呼ばれるものである。1%価格が変化したときに、需要が何％変化するかを表すことになる。変化率（%）を用いるのは、例えば100円変化した時の需要の変化は、もともと100円の商品なのか10,000円の商品なのかで意味が大きく異なるからである。

弾力性の絶対値が1を越えると弾力的、1を下回ると非弾力的と呼ぶ。
* 需要の価格弾力性が弾力的であれば、[[需要曲線]]の傾きは緩やかになる。この場合、値上げすると需要が急に小さくなる。
* 需要の価格弾力性が非弾力的であれば、需要曲線の傾きは急になる。この場合、値上げしても需要は大きく変化しない。

=== 需要の所得弾力性 ===
[[所得]]が1%増えたときに、増える需要の変化率を、需要の所得弾力性という。必需品は、所得に関係なく、需要がある。よって、必需品は需要の所得弾力性が小さい。

贅沢品（奢侈品）は、需要の所得弾力性が1より大きく、必需品は、1より小さい。

=== その他の例 ===
同様に次のような弾力性が考えられる。
* 供給の価格弾力性
* 供給の所得弾力性

== 価格弾力性の決定要因 ==
価格弾力性を決める要因は、[[代替財]]と[[時間]]に大別できる。食料品などの他の財で代替することの困難な財の価格は概して非弾力的となる。また[[原油価格]]が急上昇した場合など、長期に対して短期では概して価格はより非弾力的となる。これは代替財を見つけるのに時間がかかることがその一因と考えられる。

== 関連項目 ==
* [[交差弾力性]]
* [[ラムゼイルール]] - 超過負担を与えない税率と需要の価格弾力性の関係

==出典==
{{Reflist|2}}

== 外部リンク ==
* {{Kotobank}}
* {{Kotobank|価格弾力性}}

{{ミクロ経済学}}
{{経済学}}
{{Normdaten}}
{{デフォルトソート:たんりよくせい}}
[[Category:ミクロ経済学]]
[[Category:無次元数]]