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'''慣性半径'''(かんせいはんけい、[[:en:Radius of gyration]])とは、ある[[回転軸]]回りの物体の、ある1点にその物体の全ての質量を集めても、その物体の元の質量分布での[[慣性モーメント]]と変わらない、点と回転軸との距離として定義される[[半径]]。 ==数学的表現== 数学的には、慣性半径は物体の各微小領域の、回転軸ないしは重心<ref>回転軸との距離を取ることが一般的だが、一部の応用領域では重心との距離として取る場合がある。</ref>との距離に対する[[二乗平均平方根]]距離となる。点質量と回転軸との垂直距離と考えてもよい。また、動く点の軌跡を物体として捉える事もでき、その場合にはその点がどのくらい移動したかを表現する代表的な指標として利用することも出来る。 n個の粒子からなる物体を考える。それぞれの粒子の質量を<math>m</math>、ある回転軸からの垂直距離を<math>r_1, r_2, r_3, \dots , r_n</math>とする。その時、その物体のある回転軸に対する慣性モーメント<math>I</math>は以下のように表せる。 :<math>I = m_1 r_1^2 + m_2 r_2^2 + \cdots + m_n r_n^2</math> : ここで全ての粒子の質量が<math>m</math>で等しいとすると、慣性モーメントは<math>I=m(r_1^2+r_2^2+\cdots+r_n^2)</math>として表すことが出来る。 その物体の総質量を<math>M</math>とすると、<math>m = M/n</math>となるから、以下のように変形できる。 :<math>I=M(r_1^2+r_2^2+\cdots+r_n^2)/n</math> 慣性半径を<math>R_{\mathrm{g}}^2</math>とすると、慣性半径の定義から上の式を変形して以下の式を得る。 :<math>MR_{\mathrm{g}}^2=M(r_1^2+r_2^2+\cdots+r_n^2)/n</math> : これを以下のように変形すると、慣性半径が各質点の二乗平均平方根距離であることを導ける。 :<math>R_{\mathrm{g}}^2=(r_1^2+r_2^2+\cdots+r_n^2)/n</math> : {{Quote box | title = [[International Union of Pure and Applied Physics|IUPAP]] での定義 | quote = 高分子科学における'''慣性半径''' (<math>s</math>, 単位 : nm ないしは m): n個の質点からなる高分子において、各質点の質量を<math>m_i</math>, <math>i</math>=1,2,…,<math>n</math>とする。それらが重心から距離<math>s_i</math>だけ離れている時、慣性半径は全ての質点について<math>s_i^2</math>を質量平均した値の平方根となる。すなわち、 :<math> s=\left(\sum_{i=1}^{n} m_i s_i^2 / \sum_{i=1}^{n} m_i \right)^{1/2} </math> Note: 各質点は高分子を構成する骨格ごとに計算するのが一般的である。例えば、ポリメチレンでは–CH<sub>2</sub>–を単位として計算する。<ref>{{cite journal |author1=Stepto, R. |author2=Chang, T. |author3=Kratochvíl, P. |author4=Hess, M. |author5=Horie, K. |author6=Sato, T. |author7=Vohlídal, J. |title=Definitions of terms relating to individual macromolecules, macromolecular assemblies, polymer solutions, and amorphous bulk polymers (IUPAC Recommendations 2014). |journal=Pure Appl Chem |date=2015 |volume=87 |issue=1 |page=71 |doi=10.1515/pac-2013-0201 |url=https://www.degruyter.com/downloadpdf/j/pac.2015.87.issue-1/pac-2013-0201/pac-2013-0201.pdf}}</ref> | align = right | width = 30% }} ==構造工学での応用== [[構造工学]]における応用は[[断面回転半径]]を参照。 ==機械工学での応用== [[機械工学]]における応用は[[断面回転半径]]を参照。 ==分子での応用== [[高分子物理学|高分子科学]]においては慣性半径は[[高分子]][[理想鎖|鎖]]の空間的な大きさを表現するのに使われる。 ある単一の重合度Nのホモポリマーのある時刻での慣性半径は以下のように定義される。<ref>{{Cite journal|last=Fixman|first=Marshall|date=1962|title=Radius of Gyration of Polymer Chains|journal=The Journal of Chemical Physics|volume=36|issue=2|pages=306–310|doi=10.1063/1.1732501|bibcode=1962JChPh..36..306F}}</ref> :<math> R_\mathrm{g}^2 \ \stackrel{\mathrm{def}}{=}\ \frac{1}{N} \sum_{k=1}^{N} \left|\mathbf{r}_k - \mathbf{r}_\mathrm{mean} \right|^2 </math> ここで、<math>\mathbf{r}_\mathrm{mean}</math>はモノマー単位の[[平均]]座標である。 以下に示す通り、慣性半径は各モノマー間の距離の平均二乗距離に比例する長さとしても定義できる。 :<math> R_\mathrm{g}^2 \ \stackrel{\mathrm{def}}{=}\ \frac{1}{2N^2} \sum_{i,j} \left| \mathbf{r}_i - \mathbf{r}_j \right|^2 </math> 3つめの方法として、慣性半径は慣性モーメントテンソルの3つの主モーメントの和としても計算することが出来る。 高分子鎖の[[コンフォメーション]]は実質的にほぼ無数にあり、時々刻々と変化するため、高分子科学で議論される慣性半径はあるサンプルの全ての高分子の一定時間における平均ということになる。そのため、慣性半径は時間平均ないしは[[統計集団|アンサンブル]]として測定される。 :<math> R_{\mathrm{g}}^2 \ \stackrel{\mathrm{def}}{=}\ \frac{1}{N} \left\langle \sum_{k=1}^{N} \left| \mathbf{r}_k - \mathbf{r}_\mathrm{mean} \right|^2 \right\rangle </math> ここで、<math>\langle \ldots \rangle</math>は[[統計集団|アンサンブル平均]]を表す。 エントロピーに支配されたポリマー鎖(シータ条件とも呼ばれる)は三次元のランダムウォークに従うと考えられている。その時の慣性半径は以下の式で与えられる。 :<math>R_\mathrm{g} = \frac{1}{\sqrt{6}\ } \ \sqrt{N}\ a</math> ここで、<math>aN</math>は経路長(contour長)であるが、実効的なセグメント長である<math>a</math>はポリマー鎖のしなやかさによって数桁変化する事が知られており、それに応じて<math>N</math>も変化する。 慣性半径が重要な特性である理由の一つは、慣性半径が静的光散乱法や、[[中性子散乱|小角中性子散乱]]や[[X線小角散乱|小角X線散乱]]などで実験的に測定出来ることがある。この事によって、高分子物理の理論家は彼らのモデルが実際と合致しているかどうかを確かめることが出来る。流体力学的半径は数値的に近い概念であり、動的光散乱法で実験的に測定することが出来る。 ===2つの定義が一致する事の導出=== 高分子科学における慣性半径<math>R_{\mathrm{g}}^2</math>の2つの定義が一致する事を示すために、まず最初の定義の内部の積を書き下す事から始める。 :<math> R_{\mathrm{g}}^{2} \ \stackrel{\mathrm{def}}{=}\ \frac{1}{N} \sum_{k=1}^{N} \left( \mathbf{r}_{k} - \mathbf{r}_{\mathrm{mean}} \right)^{2} = \frac{1}{N} \sum_{k=1}^{N} \left[ \mathbf{r}_{k} \cdot \mathbf{r}_{k} + \mathbf{r}_{\mathrm{mean}} \cdot \mathbf{r}_{\mathrm{mean}} - 2 \mathbf{r}_{k} \cdot \mathbf{r}_{\mathrm{mean}} \right] </math> <math>\mathbf{r}_{\mathrm{mean}}</math>の定義を利用して、和の計算を実行すると以下の式となる。 :<math> R_{\mathrm{g}}^{2} \ \stackrel{\mathrm{def}}{=}\ -\mathbf{r}_{\mathrm{mean}} \cdot \mathbf{r}_{\mathrm{mean}} + \frac{1}{N} \sum_{k=1}^{N} \left( \mathbf{r}_{k} \cdot \mathbf{r}_{k} \right) </math> 一方、2つ目の定義の積を同じように計算すると、以下のように計算できる。 :<math> \begin{align} R_{\mathrm{g}}^{2} \ &\stackrel{\mathrm{def}}{=}\ \frac{1}{2N^2} \sum_{i,j} \left| \mathbf{r}_i - \mathbf{r}_j \right|^2 \\ &= \frac{1}{2N^2} \sum_{i,j} \left( \mathbf{r}_{i} \cdot \mathbf{r}_{i} - 2 \mathbf{r}_{i} \cdot \mathbf{r}_{j} + \mathbf{r}_{j} \cdot \mathbf{r}_{j} \right) \\ &= \frac{1}{2N^2} \left[ N \sum_{i} \left(\mathbf{r}_{i} \cdot \mathbf{r}_{I} \right) - 2 \sum_{i,j} \left(\mathbf{r}_{i} \cdot \mathbf{r}_{j} \right) + N \sum_{j} \left( \mathbf{r}_{j} \cdot \mathbf{r}_{j}\right) \right] \\ &= \frac{1}{N} \sum_{k}^{N} \left( \mathbf{r}_{k} \cdot \mathbf{r}_{k} \right)- \frac{1}{N^2} \sum_{i,j} \left(\mathbf{r}_{i} \cdot \mathbf{r}_{j} \right) \\ &= \frac{1}{N} \sum_{k}^{N} \left(\mathbf{r}_{k} \cdot \mathbf{r}_{k} \right)- \mathbf{r}_{\mathrm{mean}} \cdot \mathbf{r}_{\mathrm{mean}} \end{align} </math> 最後の変形は、i,jについてそれぞれ和を展開することで以下のように変形できる事を利用した。こうして、2つ目の定義と1つ目の定義が一致することが示せた。 :<math> \begin{align} \frac{1}{N^2}\sum_{i,j} \left(\mathbf{r}_{i} \cdot \mathbf{r}_{j} \right) &= \frac{1}{N^2} \sum_{i} \mathbf{r}_{i} \cdot \left( \sum_{j} \mathbf{r}_{j} \right) \\ &= \frac{1}{N} \sum_{i} \mathbf{r}_{i}\cdot \mathbf{r}_{\mathrm{mean}} \\ &= \mathbf{r}_{\mathrm{mean}} \cdot \mathbf{r}_{\mathrm{mean}} \end{align} </math> ==地理的なデータ分析での応用== データ分析において慣性半径は地理的な広がりを含む多数の異なる統計を計算するために利用されている。地理的な場所はソーシャルメディアのユーザーから収集され、典型的に彼らがどのユーザーについて言及するかを調査するのに利用されている。この指標はソーシャルメディアでのあるユーザー集団がどのようにプラットフォームを使うかを理解するのに有益になりうる。 :<math> R_{\mathrm{g}} = \sqrt{\frac{\sum_{i=1}^{N}m_i(r_i-r_{C})^2}{\sum_{i=1}^{N}m_i}} </math> == 脚注 == <references /> == 外部リンク == * Grosberg AY and Khokhlov AR. (1994) ''Statistical Physics of Macromolecules'' (translated by Atanov YA), AIP Press. {{ISBN|1-56396-071-0}} * Flory PJ. (1953) ''Principles of Polymer Chemistry'', Cornell University, pp. 428–429 (Appendix C of Chapter X). {{数学}} {{DEFAULTSORT:かんせいはんけい}} [[Category:高分子化学]] [[Category:固体力学]] [[Category:応用力学]] [[Category:構造力学]] [[Category:応用物理学と学際物理学]]
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