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捩れ (代数学)
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{{for||ねじれ}} [[抽象代数学]]において、'''捩れ'''(ねじれ、{{lang-en-short|torsion}})は、[[群 (数学)|群]]の場合は、有限[[位数 (群論)|位数]]の元を言い、また[[環 (数学)|環]]上の加群の場合は、環のある[[零因子|正則元]]によって零化される[[環上の加群|加群]]の元を言う。捩れという言葉は、捩れた図形の[[ホモロジー群]]に有限位数の元が現れることに由来する{{Sfn|Stillwell|2009|p=8}}。 == 定義 == 捩れは群の元と環上の加群の元とに対してそれぞれ定義される。任意の[[アーベル群]]は[[整数]]環 '''Z''' の上の加群と見ることができ、この場合は 2つの捩れの考え方は一致する。 === 群に対して === [[群 (数学)|群]] ''G'' の元 ''g'' は、有限[[位数 (群論)|位数]]を持つとき、つまり、正の[[整数]]が存在し、''g''<sup>''m''</sup> = ''e'' となるようなとき、群の'''捩れ元''' {{en|(torsion element)}} と呼ぶ。ここで ''e'' は群の[[単位元]]を、 ''g''<sup>''m''</sup> は ''m'' 個の ''g'' のコピーの積を表す。群は、すべての元が捩れ元であるとき、'''捩れ群''' {{en|(torsion group)}}、あるいは'''周期群''' {{en|(periodic group)}} といい、捩れ元が単位元のみ場合を'''捩れのない群''' {{en|(torsion-free group)}} という{{sfn|Robinson|1996|p={{google books quote|id=zLfkBwAAQBAJ|page=12|12}}|refname=Robinson1996-12}}。[[アーベル群]] ''A'' の捩れ元全体 ''T'' は部分群をなし、'''捩れ部分群''' {{en|(torsion-subgroup)}} と呼ばれる{{sfn|Robinson|1996|p={{google books quote|id=zLfkBwAAQBAJ|page=93|93}}|refname=Robinson1996-93}}。このとき ''A''/''T'' は捩れのない群である。 === 加群に対して === [[環 (数学)|環]] ''R'' 上の[[環上の加群|加群]] ''M'' の元 ''m'' は、環の[[零因子|正則元]]<ref group="注">すべての 0 ≠ ''s'' ∈ ''R'' に対して ''rs'' ≠ 0 ≠ ''sr'' が成り立つような元 ''r'' ∈ ''R'' を正則元という。</ref> ''r'' が存在して、''m'' を零化する、すなわち {{nowrap|1=''r'' ''m'' = 0}} となるとき、加群の'''捩れ元''' {{en|(torsion element)}} という{{sfn|Cohn|2003|p={{google books quote|id=VESm0MJOiDQC|page=90|90}}|refname=Cohn2003-90}}<ref group="注">[[整域]](零因子が 0 のみの[[可換環]])では、全ての非零元が正則であるので、整域上の加群の捩れ元は、整域の非零元により零化される元であり、これを捩れ元の定義として使っている著者もいる。しかしこの定義は、一般の環の上ではうまくいかない(例えば後述の捩れがない加群は、零因子を持つ環上零加群しか存在しなくなってしまう)。</ref>。加群 ''M'' の捩れ元すべてからなる集合を ''t''(''M'') と表す。 環 ''R'' 上の加群 ''M'' は、''t''(''M'') = ''M'' であるとき、'''捩れ加群''' {{en|(torsion module)}} と呼ばれ、''t''(''M'') = 0 であるとき、'''[[捩れのない加群|捩れがない]]''' {{en|(torsion-free)}} と言う。''t''(''M'') が ''M'' の部分加群をなすとき、''t''(''M'') を'''捩れ部分加群''' {{en|(torsion submodule)}} という。環 ''R'' が可換であれば、''t''(''M'') は捩れ部分加群である。''R'' が非可換であれば ''t''(''M'') は部分加群になるとは限らない。''R'' が右{{仮リンク|Ore条件|label=Ore環|en|Ore condition}}であることと、''t''(''M'') がすべての右 ''R'' 加群に対して ''M'' の部分加群であることとは同値である{{sfn|Lam|2007|loc={{google books quote|id=LKMCTP4EecYC|page=233|Ex. 10. 19}}|refname=Lam2007-233}}。右[[ネーター環|ネーター]][[非可換整域|域]]は Ore であるので、これは、''R'' が右ネーター域の場合を含んでいる。 より一般的に、''M'' を環 ''R'' 上の加群とし、''S'' を ''R'' の[[積閉集合]]とする。このとき標準的な写像 ''M'' → ''M''<sub>''S''</sub> の核を ''t''<sub>''S''</sub>(''M'') と表す。''t''<sub>''S''</sub>(''M'') = ''M'' のとき、つまり ''M'' のすべての元 ''m'' は、''S'' のある元 ''s'' によって零化されるとき、''M'' は '''''S''-捩れ''' {{en|(''S''-torsion)}} と呼ばれる{{sfn|Auslander|Buchsbaum|2014|p={{google books quote|id=VW2TAwAAQBAJ|page=318|318}}|refname=AuslanderBuchsbaum2014-318}}。また ''t''<sub>''S''</sub>(''M'') = 0 のとき、''M'' は'''''S''-捻れなし''' {{en|(''S''-torsionless)}} という。特に、''S'' を環 ''R'' の正則元全体の集合ととると上記の定義が再現される。 == 例 == === 群に対して === * 任意の[[有限群]]は周期的で有限生成である。{{仮リンク|バーンサイド問題|en|Burnside's problem|preserve=1}}は、逆に、任意の有限生成の周期群は必ず有限であるかという問題である。(答えは、たとえ周期が固定されていても、一般には否定的である。) *行列式が 1 の 2×2 整数行列の群 SL(2, '''Z''') を中心で割った[[モジュラー群]] '''Γ''' において、任意の非自明な捩れ元は、位数 2 で元 ''S'' に共役であるか、あるいは、位数 3 で元 ''ST'' に共役であるかのいずれかである。この場合、捩れ元全体は部分群をなさない。例えば、''S''・''ST'' = ''T'' であるが、この位数は無限大である。 * mod 1 での有理数からなるアーベル群 '''Q'''/'''Z''' は周期的である。類似して、一変数[[多項式]]環 ''R'' = '''K'''[''t''] 上の加群 '''K'''(''t'')/'''K'''[''t''] は pure torsion である。これらの例を次のように一般化することができる。''R'' が可換整域で ''Q'' がその分数体であれば、''Q''/''R'' は捩れ ''R''-加群である。 * 加法群 '''R'''/'''Z''' の[[捩れ部分群]]は '''Q'''/'''Z''' であり、一方、加法群 '''R''' や '''Z''' は捩れがない。{{仮リンク|捩れのないアーベル群|en|torsion-free abelian group}}の部分群による商が捩れなしであるのは、ちょうど、その部分群が{{仮リンク|pure subgroup|en|pure subgroup}}であるときである。 === 加群に対して === * ''M'' を任意の環 ''R'' 上の[[自由加群]]とすると、定義より直ちに、''M'' は捩れがないことが分かる。特に、任意の[[自由アーベル群]]は捩れを持たず、体 '''K''' 上の[[ベクトル空間]]は '''K''' 上の加群と見たとき、捩れがない。 * 有限次元ベクトル空間 ''V'' に作用する線型作用素 ''L'' を考える。''V'' を自然な方法で ''F''[''L'']-加群と見ると、(多くのことの結果として、単純に有限次元性から、あるいは[[ケイリー・ハミルトンの定理]]によって)''V'' は捩れ ''F''[''L''] 加群である。 == 主イデアル整域の場合 == ''R'' を(可換)[[主イデアル整域]]とし、''M'' を[[有限生成加群|有限生成 ''R''-加群]]とすると、[[単項イデアル整域#特徴づけ|主イデアル整域上の有限生成加群の構造定理]]は、同型を除き加群 ''M'' の詳細な記述を与える。特に、この定理は、 : <math> M \simeq F\oplus t(M), </math> であることを言っている。ここに ''F'' は(''M'' のみに依存する)有限な階数の[[自由加群|自由]] ''R''-加群であり、 ''t''(''M'') は ''M'' の捩れ部分加群である。系として、有限生成で捩れのない ''R'' 上の任意の加群は自由である。この系はより一般の可換整域に対しては''成り立たず''、2変数多項式環 ''R'' = '''K'''[''x'', ''y''] に対してさえ成り立たない。有限生成でない加群に対しては、上の直和分解は正しくない。アーベル群の捩れ部分群はその直和因子になるとは限らない。 == 捩れと局所化 == ''R'' を可換な整域で、''M'' を ''R''-加群と仮定する。また、''Q'' を環 ''R'' の[[分数体]]とする。すると、''M'' から{{仮リンク|係数拡大|en|extension of scalars}}により与えられる ''Q''-加群 : <math> M_Q = M \otimes_R Q </math> を考えることができる。''Q'' は[[可換体|体]]であるから、''Q'' 上の加群は[[ベクトル空間]]である(無限次元かもしれない)。''M'' から ''M''<sub>''Q''</sub> へのアーベル群の標準的な準同型が存在し、この準同型の[[核 (代数学)|核]]は捩れ部分加群 ''t''(''M'') である。より一般に、''S'' を環 ''R'' の積閉部分集合とすると、''R'' 加群 ''M'' の[[加群の局所化|局所化]] : <math> M_S = M \otimes_R R_S</math> を考えることができる。これは、[[環の局所化|局所化]] ''R''<sub>''S''</sub> 上の加群である。''M'' から ''M''<sub>''S''</sub> への標準的な準同型が存在し、その核がちょうど ''M'' の ''S''-捩れ部分加群となる。したがって、''M'' の捩れ部分加群は、「局所化したときに消える」元全体の集合と解釈することができる。同じ解釈が、非可換な場合にも、Ore 条件を満たす環に対して、あるいはより一般に、[[:en:Ore condition#Multiplicative sets|右支配的集合]] ''S'' と右 ''R''-加群 ''M'' に対して、成り立つ。 == ホモロジー代数における捩れ == 捩れの概念は[[ホモロジー代数]]において重要な役割を果たす。''M'' と ''N'' を可換環 ''R'' 上の加群とすると、[[Tor函手]]は ''R''-加群 Tor{{su|b=''i''|p=''R''}}(''M'', ''N'') の族を与える。''R''-加群 ''M'' の ''S''-捩れ ''t''<sub>''S''</sub>(''M'') は、標準的に Tor{{su|b=1|p=''R''}}(''M'', ''R''<sub>''S''</sub>/''R'') と同型となる。この函手を表す記号 Tor はこの代数的な捩れとの関係を反映している。非可換環の場合でも ''S'' が[[:en:Ore condition#Multiplicative sets|右支配的集合]]である限りは、同じ結果が成り立つ。 == アーベル多様体 == [[Image:Lattice torsion points.svg|right|thumb|300px|複素数体上の楕円曲線の 4-捩れ部分群]] [[アーベル多様体]]の捩れ元は、'''捩れ点'''、あるいは、古い用語では、'''分割点'''と呼ばれる。[[楕円曲線]]上では、捩れ元は{{仮リンク|分割多項式|en|division polynomials}}(division polynomials)の項として計算される。 == 脚注 == ===注=== {{reflist|group="注"}} ===出典=== {{reflist|30em}} == 参考文献 == *{{cite book |last1 = Auslander |first1 = Maurice |last2 = Buchsbaum |first2 = David |year = 2014 |title = Groups, Rings, Modules |url = {{google books|MVEuBAAAQBAJ|plainurl=yes}} |publisher = Dover |isbn = 978-0-486-49082-3 |ref = harv }} * {{cite book |last1 = Cohn |first1 = P. M. |year = 2003 |title = Basic algebra: groups, rings, and fields |url = {{google books|VESm0MJOiDQC|plainurl=yes}} |publisher = Springer |isbn = 1-85233-587-4 |mr = 1935285 |ref = harv }} *Ernst Kunz, "Introduction to Commutative algebra and algebraic geometry", Birkhauser 1985, ISBN 0-8176-3065-1 *Irving Kaplansky, "Infinite abelian groups", University of Michigan, 1954. *{{SpringerEOM|title=Torsion submodule|author=[[Michiel Hazewinkel]]|urlname=Torsion_submodule}} *{{citation |last=Lam|first=T. Y. |title=Exercises in modules and rings |series=Problem Books in Mathematics |publisher=Springer |place=New York |year=2007 |pages=xviii+412 |isbn=978-0-387-98850-4 |mr=2278849 |doi=10.1007/978-0-387-48899-8 |url={{google books|LKMCTP4EecYC|plainurl=yes}}}} * {{cite book |last1 = Robinson |first1 = Derek |year = 1996 |title = A course in the theory of groups |edition = Second |series = Graduate Texts in Mathematics |volume = 80 |url = {{google books|zLfkBwAAQBAJ|plainurl=yes}} |publisher = Springer-Verlag |isbn = 0-387-94461-3 |mr = 1357169 |zbl = 0836.20001 |ref = harv }} * {{Cite web| title = Poincare: Papers on Topology | url = https://www.maths.ed.ac.uk/~v1ranick/papers/poincare2009.pdf | first = John | last = Stillwell | year = 2009 | ref = harv | accessdate = 2022-05-08 }} == 関連項目 == * [[解析的トーション]] * [[数論力学]] * [[平坦加群]] * [[加群の局所化]] * [[アーベル群のランク]] * [[解析的トーション|レイ・シンガーのトーション]] * [[捩れ部分群]] * {{仮リンク|捩れのないアーベル群|en|Torsion-free abelian group}} * [[普遍係数定理]] {{DEFAULTSORT:ねしれ たいすうかく}} [[Category:アーベル群論]] [[Category:加群論]] [[Category:ホモロジー代数]] [[Category:数学に関する記事]]
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