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'''擬ハロゲン'''(ぎハロゲン、{{lang-en-short|pseudohalogen}})または'''プソイドハロゲン'''は、[[ハロゲン]]原子に類似した性質を持つ[[原子団]]である。Ps と表される。擬ハロゲンの[[二量体]]分子は擬ハロゲン分子 Ps<sub>2</sub> と言われる。 == 擬ハロゲン分子 == 擬ハロゲンは、ハロゲンと同様に'''擬ハロゲン化物イオン''' Ps<sup>−</sup>と、二量体分子である'''擬ハロゲン分子''' Ps<sub>2</sub> が存在し、互いに[[酸化還元反応]]により変換しあう。ただし、[[アジ化物]]のように擬ハロゲン化物イオン N<sub>3</sub><sup>−</sup> が存在するものの二量体分子が安定に存在しないものもある。二量体分子は一般的に揮発性が高く、[[酸化力]]は電位が示す通り一般的にハロゲンより弱い。 : Ps<sub>2</sub> + 2 e<sup>−</sup> → 2 Ps<sup>−</sup>(aq) : (CN)<sub>2</sub> + 2 e<sup>−</sup> → 2 CN<sup>−</sup>(aq), ''E''°= 0.375 V 二量体である擬ハロゲン分子は、ハロゲンと同様に塩基性水溶液中で[[不均化]]するものもある<ref name=Cotton> F.A. コットン, G. ウィルキンソン著, 中原 勝儼訳 『コットン・ウィルキンソン無機化学』 培風館、1987年</ref>。 : (CN)<sub>2</sub> + 2 OH<sup>−</sup> → CN<sup>−</sup> + OCN<sup>−</sup> + H<sub>2</sub>O 対称的な擬ハロゲン分子 (Ps-Ps) には[[ジシアン]] (CN)<sub>2</sub>、[[チオシアン]] (SCN)<sub>2</sub>、[[セレノシアン]] (SeCN)<sub>2</sub>、[[アジドジチオ炭酸]] (N<sub>3</sub>CS<sub>2</sub>)<sub>2</sub> などがあり、対称的な擬ハロゲン[[錯体]]には[[ジコバルトオクタカルボニル]] Co<sub>2</sub>(CO)<sub>8</sub> がある。これは、仮想的なテトラカルボニルコバルト Co(CO)<sub>4</sub> の二量体であると考えることができる。対称的でない擬ハロゲン (Ps-X) には[[ハロゲン化シアン]] (ClCN, BrCN, ICN) などがある。しばしば[[塩化ニトロシル]] NOCl も擬ハロゲンであると言われることがある。 [[トリフルオロメチル基]]も擬ハロゲンと言われ、例えば[[ジメチル水銀]]は油状液体であるのに対し、[[ビス(トリフルオロメチル)水銀]]は水溶性の固体であり、水溶液は電導性を示す<ref>[http://www.journalarchive.jst.go.jp/jnlpdf.php?cdjournal=yukigoseikyokaishi1943&cdvol=31&noissue=6&startpage=495&chr=ja]{{リンク切れ|date=2023-09}}</ref>。 また、[[超原子]]である[[アルミニウム]]の[[ナノクラスター]]は振る舞いがハロゲンによく似ており、I<sub>3</sub><sup>−</sup> の[[アナログ (化学)|アナログ]]である Al<sub>13</sub>I<sub>2</sub><sup>−</sup> のようなイオンを形成するため、擬ハロゲンであると考えられる。これは極小スケールでの[[金属結合]]の効果に起因している。 == 擬ハロゲン化物 == '''擬ハロゲン化物'''(ぎハロゲンかぶつ、{{lang-en-short|pseudohalide}})は、擬ハロゲンがそれ以外の原子団や原子と結合した化合物である。[[シアン化物]]、[[イソシアン化物]]、[[チオシアン化物]]などがある。対応するアニオンは'''擬ハロゲン化物イオン'''と言う。 錯体擬ハロゲン化物には[[テトラカルボニルヒドリドコバルト(I)]] CoH(CO)<sub>4</sub> がある。これは[[溶解度]]の低さにより、真の[[ハロゲン化水素]]ほどではないが、十分強い酸である。 擬ハロゲン化物の挙動と化学的特性は、真のハロゲン化物とほとんど同じである。その内部の[[多重結合]]は擬ハロゲンの挙動に影響しない。強酸の擬ハロゲン化水素 HPs や、金属と反応して擬ハロゲン化物塩 MPs も形成する。 [[銀]](I)塩 AgPs、[[鉛]](II)塩 PbPs<sub>2</sub>、[[水銀]](I)塩 Hg<sub>2</sub>Ps<sub>2</sub> などは一般的に水に難溶であり、これらの[[HSAB則|軟らかい]]金属イオンと[[配位結合]]して[[錯体]]を形成しやすい<ref name=daijiten>『化学大辞典』 共立出版、1993年</ref>。 : PsX <math> \rightleftarrows\ </math> H<sup>+</sup> + Ps<sup>−</sup> : Ag<sup>+</sup> + 2 Ps<sup>−</sup> <math> \rightleftarrows\ </math> [AgPs<sub>2</sub>]<sup>−</sup> [[有機化合物]]中において、擬ハロゲノ基は一般的に強力な[[電子求引基]]として働く。 == 擬ハロゲンおよび対応するアニオンと酸 == {| class="wikitable" style="text-align: center;" |- ! colspan="6" style="text-align:center; white-space:nowrap;" |[[ハロゲン]] |- ! ! ハロゲン ! アニオン ! [[標準酸化還元電位|''E'' °]]<ref name=Allen>Allen J. Bard, Roger Parsons, Joseph Jordan, Standard Potentials in Aqueous Solution, Marcel Dekker Inc (1985).</ref> ! [[ハロゲン化水素]] ! [[酸解離定数|p''K''<sub>a</sub>]] |- | [[フッ素]] | F<sub>2</sub> | F<sup>−</sup> | 2.87 V | [[フッ化水素|HF]] | 3.17 |- | [[塩素]] | Cl<sub>2</sub> | Cl<sup>−</sup> | 1.35828 V | [[塩化水素|HCl]] | −7 |- | [[臭素]] | Br<sub>2</sub> | Br<sup>−</sup> | 1.0652 V | [[臭化水素|HBr]] | −9 |- | [[ヨウ素]] | I<sub>2</sub> | I<sup>−</sup> | 0.5355 V | [[ヨウ化水素|HI]] | −10 |- ! colspan="6" style="text-align:center; white-space:nowrap;" |擬ハロゲン |- ! ! 擬ハロゲン ! アニオン ! ''E'' ° ! 擬ハロゲン化水素 ! p''K''<sub>a</sub> |- | [[ジシアン]] | (CN)<sub>2</sub> | CN<sup>−</sup> | 0.375 V | [[シアン化水素|HCN]] | 9.21 |- | オキソシアン | (OCN)<sub>2</sub>(未知) | OCN<sup>−</sup> | | [[シアン酸|HNCO]] | 3.48 |- | チオシアン | (SCN)<sub>2</sub> | SCN<sup>−</sup> | 0.77 V | [[チオシアン酸|HNCS]] | −1.32 |- | セレノシアン | (NCSe)<sub>2</sub> | SeCN<sup>−</sup> | | HNCSe | − |- | [[雷酸塩]] | (CNO)<sub>2</sub>(未知) | CNO<sup>−</sup> | | [[雷酸|HCNO]] | − |- |[[アジド]] | [[ヘキサジン|(N<sub>3</sub>)<sub>2</sub>]](未知) | N<sub>3</sub><sup>−</sup> | | [[アジ化水素|HN<sub>3</sub>]] | 4.65 |- | [[ジコバルトオクタカルボニル]] | [Co(CO)<sub>4</sub>]<sub>2</sub> | [Co(CO)<sub>4</sub>]<sup>−</sup> | −0.4 V | H[Co(CO)<sub>4</sub>] | − |} == 脚注 == {{Reflist}} {{DEFAULTSORT:きはろけん}} [[Category:ハロゲン化合物]] [[Category:無機化合物]] [[Category:官能基]]
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