最大と最小のソースを表示

[[数学]]、特に{{仮リンク|順序論|en|Order theory}}において、[[順序集合|半順序集合]]の[[部分集合]] {{mvar|S}} の'''最大元'''（さいだいげん、<span style="font-family:arial;">{{lang-en|greatest element|links=no}}</span>）とは、{{mvar|S}} の全ての[[元 (数学)|元]]の中で最も大きいものである。また、半順序集合の部分集合 {{mvar|S}} の'''最小元'''（さいしょうげん、<span style="font-family:arial;">{{lang-en|least element|links=no}}</span>, {{en|smallest element}}）とは、{{mvar|S}} の全ての元の中で最も小さいものである。最大元（resp. 最小元）は最小元（resp. 最大元）の{{仮リンク|双対性 (順序論)|label=双対概念|en|Duality (order theory)}}である{{sfn|松坂|1968|pp=90-97}}。

本項では数学での用語について述べ、それ以外は「その他」に記載している。

== 厳密な定義 ==
正式には次のように定義される。{{math|(''P'', ≦)}} を 1 つの半順序集合とし、{{mvar|S}} を {{mvar|P}} の 1 つの部分集合とする。そのとき、次の条件
{{indent|{{mvar|S}} の任意の元 {{mvar|s}} に対して、{{math|''s'' ≦ ''g''}}}}
を満たす {{mvar|S}} の元 {{mvar|g}} を {{mvar|S}} の'''最大元'''という。また、次の条件
{{indent|{{mvar|S}} の任意の元 {{mvar|s}} に対して、{{math|''g'' ≦ ''s''}}}}
を満たす {{mvar|S}} の元 {{mvar|g}} を {{mvar|S}} の'''最小元'''という。定義より、{{mvar|S}} の最大元（resp. 最小元）は {{mvar|S}} の 1 つの{{仮リンク|上界と下界|label=上界|en|Upper and lower bounds|redirect=1}}（resp. 下界）である{{sfn|松坂|1968|pp=90-97}}。また、{{mvar|S}} の最大元（resp. 最小元）が存在するならば、それはただ 1 つだけ存在する{{sfn|松坂|1968|pp=90-97}}。

; 注
: 上界と同様に、最大元は必ずしも存在しない{{sfn|松坂|1968|pp=90-97}}。たとえある集合が上界や{{仮リンク|下限と上限|label=上限|en|Infimum and supremum|redirect=1}}を持っていたとしても、その集合が最大元も持つとは限らない{{sfn|松坂|1968|pp=90-97}}。例えば、[[実数]]全体の集合 {{mathbf|R}} において、[[正の数と負の数|負の実数]]全体の集合は無数の上界と上限 {{math|0}} を持つが、最大元を持たない。最小元と下界と下限とについても同様である{{sfn|松坂|1968|pp=90-97}}。有限全順序集合の[[空集合|空]]でない部分集合は常に最大元と最小元とを持つ。
: 最大元を{{仮リンク|極大元と極小元|label=極大元|en|Maximal and minimal elements|redirect=1}}と混同してはならない。たとえある集合が極大元を持っていたとしても、その集合が最大元も持つとは限らない{{sfn|松坂|1968|pp=90-97}}。しかしながら、もしも最大元が存在するならば、それは唯一の極大元である{{sfn|松坂|1968|pp=90-97}}。最小元と極小元とについても同様である{{sfn|松坂|1968|pp=90-97}}。

{{anchors|top|bot|bottom|topとbottom}}半順序集合 {{mvar|S}} 自身の最小元と最大元とを、それぞれ <span lang="en" style="font-family:arial;">bottom</span> と <span lang="en" style="font-family:arial;">top</span> あるいは <span lang="en" style="font-family:arial;">zero</span> （{{math|0}}） と <span lang="en" style="font-family:arial;">unit</span> （{{math|1}}） ということもある。また、その最小元と最大元とを、それぞれ記号 {{math|⊥}} と {{math|&#8868;}} とで表すこともある。半順序集合自身の最小元と最大元とが存在する場合、その半順序集合を <span lang="en" style="font-family:arial;">bounded poset</span> という。半順序集合が[[可補束]]であるとき、記号 {{math|0}} と {{math|1}} とが好んで使われる。

{{See2|さらに初歩の情報については「{{仮リンク|順序論|en|Order theory}}」を}}

== 全順序に関する最大元・最小元 ==
[[全順序|全順序集合]]においては、極大元は必ず最大元であり、それを <span lang="en" style="font-family:arial;">maximum</span>{{efn2|name="pl"|単数形が "-um", 複数形は "-a"}} とも呼ぶ。同様に極小元は最小元であり <span lang="en" style="font-family:arial;">minimum</span>{{efn2|name="pl"}} と呼び、最大元と最小元をまとめて extremum{{efn2|name="pl"}} と呼ぶ。<ref name="nlab1">{{nlab|urlname=extremum#idea|title=extremum: 1. Idea.}}</ref>

また、特に[[確率論]]などにおいては（[[指示関数]]との親和性のために）実数 {{math|''a'', ''b'' &isin; {{mathbf|R}}}} の最大値と最小値（{{math|{{mset|''a'', ''b''}} &sub; {{mathbf|R}}}} の最大元と最小元）をそれぞれ
:<math> a \vee b = \max\{a, b\}, \quad a \wedge b = \min\{a, b\} </math>
のように表記することがある<ref>{{cite book
|last=Billingsley
|first=P.
|title=Probability and Measure
|edition=Anniversary
|publisher=Wiley
|year=2012
|isbn=978-1-118-12237-2
|page=572
}}</ref>{{efn2|<math> a \vee b </math> と <math> a \wedge b </math> は通常の順序に関して実数全体がなす[[束 (束論)|束]]の交わりと結びでもある。}}。

; 注: [[実数値関数]]（の{{ill2|値 (数学)|en|Value (mathematics)|label=値}}）に関する文脈では&mdash;順序論と解析学とで用語法がややバッティングするので&mdash;注意が必要である<ref name="nlab1" />。適当な点の近傍における函数の値の集合（これは全順序集合 {{mathbf|R}} の部分集合でそれ自体が全順序集合）においても上で述べた通り極大元と最大元は一致するが、それは[[極大値]] (maximal, maximal value) と呼ばれる{{efn2|これと極大元とを混同すべきではない。極小元と極小値についてもそう。}}。単に'''最大値''' (maximum, maximum value) という場合には、それは函数の[[値域]]（取りうるすべての値からなる集合）の最大元を指すものである。絶対的最大値 (<span lang="en" style="font-family:arial;">absolute maximum</span>) や 全域的最大値 (global maximum)<ref>{{MathWorld|urlname=GlobalMaximum|title=Global Maximum}}</ref> と呼び、対して極大値のことを局所的最大値 (local maximum)<ref>{{MathWorld|urlname=LocalMaximum|title=Local Maximum}}</ref> または相対的最大値 (relative maximum) と呼んで明確に区別することもある。最小値（と極小値）に関しても同様、またこの場合の最大値と最小値の総称として、絶対的極値 (<span lang="en" style="font-family:arial;">absolute extremum</span>) や全域的極値 (global extremum) などを使うこともできる<ref name="extrema">{{MathWorld|urlname=Extremum|title=Extremum}}, {{PlanetMath|urlname=extremum|title=extremum}}, {{nlab|urlname=extremum#local_extrema_of_differentiable_functions|title=extremum, 2. Local extrema of differentiable functions}}</ref>が、ふつう日本語で単に[[極値]]と言えば局所的の意味である{{efn2|極値 (extremal value) を最大値・最小値あるいは極大値・極小値の総称として用いるものもある。<ref name="extrema" /><ref>{{SpringerEOM|urlname=Maximum_and_minimum_of_a_function|title=Maximum and minimum of a function}}</ref>}}。より詳細は[[極値]]の項に譲る。
: また、函数の定義域における最大元・最小元のことは、しばしば端点 (end point) や限界 (limit) と言う。定義域の元を「点」と呼び値域の元を「値」と呼んで区別する慣習を踏襲して、函数が最大値をとる点を最大点や最大値点 (maximum point) などと呼ぶことができる（最小値あるいは極値についても同様）<ref>{{SpringerEOM|urlname=Maximum_and_minimum_points|title=Maximum and minimum points}}</ref>。

==例==
*{{mathbf|R}} において、[[整数]]全体の集合 {{mathbf|Z}} は上界を持たない。
*[[有理数]]全体の集合 {{mathbf|Q}} において、{{math|1=''S'' = {{mset| ''x'' ∈ ''Q'' | ''x'' < {{sqrt|2}}&nbsp;}}}} は無数の上界を持つが、上限も最大元も持たない。
*{{mathbf|R}} において、{{math|1}} より小さい実数全体の集合は上限 {{math|1}} を持つが、最大元を持たない。
*{{mathbf|R}} において、{{math|1}} 以下の実数全体の集合は最大元 {{math|1}} を持つ。そしてその最大元は上限でもある。
*{{math|1=''S'' = {{mset| (''x'', ''y'') ∈ '''R'''×'''R''' | 0 < ''x'' < 1&nbsp;}}}} とすれば、{{mvar|S}} は {{mathbf|R}}×{{mathbf|R}} の部分集合である。{{mathbf|R}}×{{mathbf|R}} に[[直積順序]]を導入するとき、{{mvar|S}} は上界を持たない。一方で、{{mathbf|R}}×{{mathbf|R}} に[[辞書式順序]]を導入するとき、{{mvar|S}} は上界を持ち（例えば、{{math|(1, 0) ∈ '''R'''×'''R'''}}）、上限を持たない。
==その他==
*[[統計学]]においては数値データは昇順に[[ソート]]されており、最初の値を最小値、最後の値を最大値と呼ぶ{{sfn|西岡|2013|p=8|ps=&nbsp;「1.4 度数分布」}}。
*日常会話では、「非常に巨大な最小値」や「非常に小さい最大値」は最大や最小と言わずに別の表現に置き換える場合がある（数学としての定義ではその空間上に「コンビニ」という物が存在すれば、全ての場所に「最寄りのコンビニ」が存在するが、日常会話としてはあまりにも距離が長い場合は「最寄りのコンビニ」は無いという回答をするのが普通である。）。「最短ルート」という言葉も長すぎる距離の場合は最短ルートとは通常は言わない。
*日常会話での最小の定義も文脈により異なり、「０に近い物」又は数学の定義と同じ「－∞に近い物」のどちらかとなる。
*日常会話では「巨大な数値の集合」での最大値は「全て大きい」、最小値は「無い」となる。
*[[モハメド・アリ]]は「私は最強ではない、二倍最強である」　(“I’m not the greatest, I’m the double greatest.”)と新聞の[[USAトゥデイ]]が取り上げている<ref>USA-Todayの記事[https://www.usatoday.com/story/sports/boxing/2016/06/03/muhammad-ali-best-quotes-boxing/85370850/]</ref>。報道された著名人の発言であるが、数学的には反する点がある。
*[[秤]]における「最小測定量」とはそのはかりで精度の保証ができる最小の測定値の事を示し、目盛の最小値の事ではない<ref>[https://www.aandd.co.jp/products/balance/tecdoc_usp.html]</ref>（目盛の最大値は「ひょう量」と呼ばれる。）。

== 注 ==
=== 注釈 ===
{{notelist2}}
=== 出典 ===
{{脚注ヘルプ}}
<references/>
==参考文献==
*{{Citation|和書|last=西岡|first=康夫|year=2013|title=数学チュートリアル やさしく語る 確率統計|publisher=オーム社|isbn=9784274214073}}
*{{Citation|和書|last=松坂|first=和夫|author-link=松坂和夫|year=1968|title=集合・位相入門|publisher=岩波書店|isbn=4-00-005424-4}}
==関連項目==
*{{仮リンク|完備性 (順序論)|en|Completeness (order theory)}}
*{{仮リンク|極大元と極小元|en|Maximal and minimal elements}}
*[[極値]]
*[[最大値最小値定理|最大値・最小値の定理]]
*{{仮リンク|上界と下界|en|Upper and lower bounds}}
*{{仮リンク|整列原理|en|Well-ordering principle}}

== 外部リンク ==
* {{ProofWiki|urlname=Definition:Greatest|title=Definition:Greatest}} / {{ProofWiki|urlname=Definition:Smallest|title=Definition:Smallest}}

{{DEFAULTSORT:さいたいとさいしよう}}
[[Category:順序構造]]
[[Category:数学に関する記事]]