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{{経済学のサイドバー}} '''有効保護率'''(ゆうこうほごりつ、[[英語|英]]:The effective rate of protection)は、[[最終財]]に課された[[関税]]率のみならず、その最終財を生産するのに使用する[[中間財]]への関税率も考慮して計算された産業の保護率のこと<ref name="suzuki1">{{Cite journal|last1=鈴木|first1=克彦|date=1976|title=有効保護の理論|url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/kokusaikeizai1951/1976/27/1976_27_105/_article/-char/ja/|journal=国際経済|volume=1976|issue=26|pages=105–112}}</ref>。'''実効保護率'''、'''有効関税率'''、'''付加価値保護率'''(英:The rate of protection of value added)、'''絶対保護率'''(英:The implicit rate of protection)とも呼ばれる<ref name="yamamoto">{{Cite journal|last1=山本|first1=繁綽|date=1968|title=関税構造と保護の効果|url=https://kansai-u.repo.nii.ac.jp/records/6798|journal=關西大學經済論集|volume=18|issue=3|pages=281–293}}</ref><ref name="iwata">岩田, 一政(2000)『新経済学ライブラリ-6 国際経済学 第2版』新世社, 67頁.</ref>{{Efn2|税関が提供している「実行関税率表」は、実際に適用されている関税率という意味での「実行」であり、最終財のみならず中間財への関税率も考慮した「実質的な」という意味の「実効(effective)」とは異なるので注意して欲しい。}}。 ==概要== 最終財のみならず中間財も貿易される場合は、最終財の生産者の保護が関税政策の目的であるとき、最終財への関税率を高水準に維持して生産に使用される中間財への関税率を低水準にすると、その最終財の生産者が国内市場において生み出せる付加価値が大きくなる<ref name="suzuki1"/>。この考え方を基に考案された指標が有効保護率であり、{{仮リンク|マックス・コーデン|en|Max Corden}}、[[ベラ・バラッサ]]、[[ハリー・G・ジョンソン]]らが最初に提案した指標とされる<ref name="coden">{{Cite journal|last1=Corden|first1=W. Max||date=1966|title=The Structure of a Tariff System and the Effective Protective Rate|url=https://www.jstor.org/stable/1861768|journal=Journal of Political Economy|volume=74|issue=3|pages=221–237}}</ref><ref name="balassa">{{Cite journal|last1=Balassa|first1=Bela|date=1965|title=Tariff Protection in Industrial Countries: An Evaluation|url=https://www.jstor.org/stable/1829884|journal=Journal of Political Economy|volume=73|issue=6|pages=573-594}}</ref><ref name="johnson">{{Cite journal|last1=Johnson|first1=Harry G.||date=1965|title=The Theory of Tariff Structure with Special Reference to World Trade and Development|url=https://cir.nii.ac.jp/crid/1571417124689479296|journal=Trade and Developement|volume=|issue=|pages=9-29}}edited by H. G. Johnson and P. B. Kenen.</ref>。 財<math>i</math>(あるいは産業<math>i</math>)の実効関税率<math>ERP_{i}</math>は以下のように書ける<ref name="suzuki1"/><ref name="iwata"/>。 {{Indent|<math>ERP_{i}=\frac{v^{\prime}_{i}-v_{i}}{v_{i}}=\frac{ \left[(1+t_{i}) - \sum_{k}a_{ik}(1+t_{k}) \right] -(1 - \sum_{k}a_{ik}) }{1 - \sum_{k}a_{ik}}=\frac{t_{i} - \sum_{k}a_{ik}t_{k} }{1 - \sum_{k}a_{ik}} </math>}} ただし<math>v^{\prime}_{i}</math>は関税率変更後の財<math>i</math>の付加価値、<math>v_{i}</math>は関税率変更前の付加価値である。最初の式は、有効保護率とは即ち関税率の変更による財<math>i</math>の付加価値の変化率であることを示しており、有効保護率が「付加価値保護率」とも呼ばれる所以が見て取れる。 2つ目の式の<math>t_{i}</math>は財<math>i</math>への関税率、<math>a_{ik}</math>は中間財として使用する財<math>k</math>の投入額を財<math>i</math>を生産額で割ったもの(産出投入係数)である。つまり、分子は最終財の関税率から「中間財に課される関税率を産出投入係数をウェイトとして用いて平均した加重平均関税率」を引いたものである。分母は1から中間財の貢献割合を引いたものなので、即ち財<math>i</math>の付加価値率と解釈できる。 上の式の2つ目の等号が成立するためには、 # すべての財の生産関数が規模に関して収穫一定、 # 産出投入係数<math>a_{ik}</math>が関税率の変更によって変動しない、 # 国内価格と世界価格の差が関税分に等しい、 # 関税の賦課前と賦課後でともにすべての財の生産と貿易が行われている、 # 自国の輸出財に対する外国の需要の弾力性が無限大、自国の輸入中間財に対する外国の供給の弾力性が無限大、国内の非貿易中間財の供給の弾力性が無限大、 という一連の仮定が必要である<ref name="kimura">木村, 福成; 小浜, 裕久(1995)『実証 国際経済学入門』日本評論社, 86-89頁.</ref>。 (1)マックス・コーデンの有効保護率と(2)ベラ・バラッサ、ハリー・G・ジョンソンの有効保護率は厳密には異なっている<ref name="suzuki2">{{Cite journal|last1=鈴木|first1=克彦|date=1976|title=非貿易中間財と有効保護率|url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/kokusaikeizai1951/1979/30/1979_30_108/_article/-char/ja/|journal=国際経済|volume=1979|issue=30|pages=108-114}}</ref>。(1)は初期時点の産出投入係数を用いて関税の変更後の付加価値を計算して得た「単位生産あたりの付加価値の変化率」で、(2)は産出投入係数が変化することを許容して得た「単位生産あたりの付加価値の変化率」であると整理できる<ref name="suzuki2"/>。 ===例=== 10万円の携帯電話を生産するのに2万円分の半導体と3万円分の金属が必要であるとする{{Efn2|これと似た例が国際経済学の入門書に掲載されている<ref name="kimura"/>。}}。このとき携帯電話の生産者の付加価値は、 {{Indent|10万円—2万円—3万円=5万円}} となる。携帯電話、半導体、金属の3つの財すべてに50%の関税を賦課すると、関税率変更後の付加価値は、 {{Indent|10万円<math>\times (1+0.5)</math>—2万円<math>\times (1+0.5)</math>—3万円<math>\times (1+0.5)</math>=5万円}} となり、関税率変更前と同じであるので、有効保護率は(5万円—5万円)/5万円=0となる。 一方で、携帯電話に50%の関税を賦課し、半導体に20%の関税を賦課し、金属に10%の関税を賦課したとする{{Efn2|このような、最終財に高関税を課し中間財に比較的低い関税率を設定する関税構造を「関税のエスカレーション構造」と呼ぶ<ref name="kimura"/>。}}。このとき、関税率変更後の付加価値は、 {{Indent|10万円<math>\times (1+0.5)</math>—2万円<math>\times (1+0.2)</math>—3万円<math>\times (1+0.1)</math>=9.3万円}} となり、関税賦課前と比較すると有効保護率は(9.3万円—5万円)/5万円=0.86(86%)となる。 ==萌芽== 中間財への関税の賦課がその中間財を使用して生産される最終財の保護を弱めるように機能することは、[[フランク・タウシッグ]]が[[1890年]]に「ネット・プロテクション(Net protection)」という言葉を用いて説明していた<ref name="Taussig">Taussig, Frank William (1890) [https://mises.org/library/book/tariff-history-united-states ''Tariff History of the United States.''] G.P. Putnam’s Sons New York and London and The Knickerbocker Press. </ref><ref name="Adachi">{{Cite journal|last1=安達|first1=清昭|date=1999|title=有効保護概念の歴史的起源と 1887 年カナダ関税改革:タリフエスカレーションへの挑戦|url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/jyu/11/2/11_KJ00000194986/_article/-char/ja/|journal=四日市大学論集|volume=11|issue=2|pages=37-59}}</ref>。[[1955年]]の論文で{{仮リンク|クレアランス・バーバー|en|Clarence Barber}}が[[カナダ]]の関税政策を議論する際にも同様の概念が用いられている<ref name="Adachi"/><ref name="Barber">{{Cite journal|last1=Barber|first1=Clarence L.||date=1955|title=Canadian Tariff Policy|url=https://www.cambridge.org/core/journals/canadian-journal-of-economics-and-political-science-revue-canadienne-de-economiques-et-science-politique/article/abs/canadian-tariff-policy/332984E4CEE63AAA7172FCE992E06527|journal= Canadian Journal of Economics and Political Science/Revue canadienne de economiques et science politique|volume=21|issue=4|pages=513-530}}</ref>。マックス・コーデンによると、有効保護率を基準に関税政策を実施したのは[[1956年]]の[[スウェーデン]]の政策が最初である<ref name="Adachi"/><ref name="Coden2">Coden, W. Max (1971) [https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-02-9780198281719 ''The Theory of Protection.''] Oxford University Press. </ref>。マックス・コーデン、ベラ・バラッサ、ハリー・G・ジョンソンらの貢献で有効保護率の定式化が本格的の進んだのは[[1960年]]代であり、その年代に理論研究が進んだ背景として、同時期に[[ワシリー・レオンチェフ]]が[[産業連関表]]を用いた分析手法を開発したことがある<ref name="Adachi"/>。 ==資源再配分の指標== [[1960年]]代と[[1970年]]代の[[国際貿易論]]の理論研究では、「有効保護率が関税政策の変更によって引き起こされる産業間の資源再配分を予測する指標として用いられるか」「常にそのような指標として用いることができないのであれば、どのような理論的条件下で資源再配分を予測する指標として用いられるのか」が盛んに研究された<ref name="suzuki1"/>。そのような理論的検討をする際の前提条件として、以下を仮定する<ref name="suzuki1"/>。 * 輸入財の国内価格はちょうど関税分だけ国際価格から乖離している。 * 各財の生産関数は連続的で2回[[微分可能]]で、各変数について非減少関数で、[[一次同次]]で、準[[凹関数]]である。 * 生産要素は国内産業間(財間)を移動できるが国際的な生産要素の移動は許容しない。そして各生産要素の[[供給]]量は一定である。 * 対象となる経済は小国である。つまり世界価格を所与とみなす。 * 輸入中間財は国内で生産されない。 * 関税率の変更後もすべての最終財が国内で生産され続ける。 * 生産要素市場と財市場は[[完全競争]]的である。 以上の仮定が成立する下で、有効保護率が国内資源配分の移動を予測する指標となり得るためには、 # ある産業(ここから「財」を「産業」と言い換える)の有効保護率が上昇すれば、その産業に資源が流入し、別の産業で有効保護率が低下すればその産業から資源が流出するということが起こる。 # 有効保護率の数値が、一般均衡体系を解かなくてもデータから観察できる。 の2つが成立していなければならない<ref name="suzuki1"/>。 ===固定的産出投入係数の場合=== 産出投入係数<math>a_{ik}</math>が関税率の変更によって変動せず固定的である場合は、上記式の有効保護率は上記の2つの条件を満たし、有効保護率が国内資源配分の移動を予測する指標となり得る<ref name="suzuki1"/>。 ===可変産出投入係数の場合=== 産出投入係数<math>a_{ik}</math>が関税率の変更によって変動する場合は、上記式の有効保護率は、無条件で国内資源配分の移動を予測する指標となり得るわけではない<ref name="suzuki1"/>。しかし、生産関数が特定の条件を満たす場合は、国内資源配分の移動を予測する指標となり得ることが[[上河泰男]]はじめ多くの研究者によって示されている<ref name="suzuki1"/><ref name="khang">{{Cite journal|last1=Khang|first1=Chulsoon||date=1973|title=Factor substitution in the theory of effective protection: A general equilibrium analysis|url=https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/0022199673900159|journal=Journal of International Economics|volume=3|issue=3|pages=227-243}}</ref><ref name="Bruno">{{Cite journal|last1=Bruno|first1=M.||date=1973|title=Protection and tariff change under general equilibrium|url=https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0022199673900147|journal=Journal of International Economics|volume=3|issue=3|pages=205-225}}</ref><ref name="Bhagwati1">{{Cite journal|last1=Bhagwati|first1=Jagdish N. |last2=Srinivasan|first2=T. N.|date=1973|title=The general equilibrium theory of effective protection and resource allocation|url=https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0022199673900172|journal=Journal of International Economics|volume=3|issue=3|pages=259-281}}</ref><ref name="Sendo">{{Cite journal|last1=Sendo|first1=Yoshiki |date=1973|title=The theory of effective protection in general equilibrium : An extension of the Bhagwati-Srinivasan analysis|url=https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0022199674900646|journal=Journal of International Economics|volume=4|issue=2|pages=213-215}}</ref><ref name="Uekawa">{{Cite journal|last1=Uekawa|first1=Yasuo |date=1979|title=The theory of effective protection, resource allocation and the Stolper-Samuelson theorem: The many-industry case|url=https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0022199679900011|journal=Journal of International Economics|volume=9|issue=2|pages=151-171}}</ref>。 ==問題点== 関税率が相対的に高い産業の有効保護率は、関税率が相対的に低い産業の有効保護率よりも機械的に高くなり、保護の度合いを誇張してしまうことが問題点として挙げられる<ref name="yamamoto"/>。このことは、以下の推定値において有効保護率の分散の方が平均関税率の分散よりも大きいことからも見て取れる。 ==推定値== {| class="wikitable sortable" ! rowspan="2"|産業 !!colspan="2" | 1965年<ref name="kimura"/> !!colspan="2" | 1985年<ref name="kimura"/> |- ! 平均関税率 !! 有効保護率!! 平均関税率 !! 有効保護率 |- | 1. 農林水産業 || 2.95 || -0.36 || 2.26 || -0.09 |- | 2. 鉱業 || 5.79 || 6.70 || 3.97 || 7.57 |- | 3. 食料品 || 27.95 || 86.97 || 17.47 || 43.88 |- | 4. 繊維産業 || 14.91 || 29.40 || 8.76 || 17.15 |- | 5. パルプ・紙・木製品 || 3.10 || 2.37 || 1.93 || 2.09 |- | 6. 化学製品 || 10.47 || 17.74 || 4.19 || 7.66 |- | 7. 石油・石炭製品 || 7.77 || 10.73 || 1.89 || -2.34 |- | 8. 窯業・土石製品 || 14.05 || 24.61 || 2.04 || 2.56 |- | 9. 鉄鋼 || 1.19 || -3.69|| 1.49 || 1.92 |- | 10. 非鉄金属 || 3.58 || 2.28|| 1.43|| 1.30 |- | 11. 金属製品 || 12.85 || 22.98|| 3.46|| 6.20 |- | 12. 一般機械 || 11.11|| 17.62|| 2.77|| 4.13 |- | 13. 電気機械 || 10.12 || 16.98|| 2.83|| 4.20 |- | 14. 輸送機械 || 8.12 || 10.51|| 3.74|| 5.96 |- | 15. 精密機械 || 14.23 || 23.23|| 4.47|| 6.91 |- | 16. その他製造業品 || 16.96 || 33.13|| 4.65|| 7.08 |} ==脚注== ===注釈=== {{Notelist2}} ===出典=== {{Reflist|2}} {{国際貿易論}} {{デフォルトソート:ゆうこうほこりつ}} [[Category:貿易]] [[Category:国際経済学]]
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