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[[代数幾何学]]において、2つの[[アフィン多様体]] <math>X, Y</math> の間の'''有限射'''(ゆうげんしゃ、{{lang-en-short|finite morphism}})とは、稠密な[[多様体の射|正則写像]]であって、[[アフィン多様体#導入|座標環]]に誘導される写像 <math>k\left[Y\right]\hookrightarrow k\left[X\right]</math> が単射準同型でこれにより <math>k\left[X\right]</math> が <math>k\left[Y\right]</math> の[[整拡大]]になるもののことを言う{{sfn|Shafarevich|2013|loc=Def. 1.1|p=60}}。この定義は{{仮リンク|準射影多様体|en|quasi-projective varieties}}に対して次のように一般化できる。準射影多様体の間の正則写像 <math>f\colon X\to Y</math> が'''有限'''であるとは、任意の点 <math>y\in Y</math> に対してあるアフィン近傍系 V が存在し、<math>U=f^{-1}(V)</math> がアフィンかつ <math>f\colon U\to V</math> が先ほどの意味で有限射になることを言う{{sfn|Shafarevich|2013|loc=Def. 1.2|p=62}}。 == スキーム論での定義 == [[概型|スキーム]]の射 ''f'': ''X'' → ''Y'' が有限射であるとは、''Y'' がある[[アフィン・スキーム]] :<math>V_i = \mbox{Spec} \; B_i</math> による{{仮リンク|開被覆|en|open cover}}を持ち、各 ''i'' に対して :<math>f^{-1}(V_i) = U_i</math> が開アフィン部分スキーム Spec ''A''<sub>''i''</sub> になり、''f'' を ''U''<sub>''i''</sub> に制限した射から誘導される[[環準同型]] :<math>B_i \rightarrow A_i</math> により ''A''<sub>''i''</sub> が ''B''<sub>''i''</sub> 上の[[有限生成加群]]になることを言う{{sfn|Hartshorne|1977|loc=Section II.3}}。またこのとき、''X'' は ''Y'' 上'''有限'''であると言う。 実際は、''f'' が有限であることと、''Y'' の<u>全ての</u>開アフィン部分スキーム ''V'' = Spec ''B'' に対して ''X'' における ''V'' の逆像がアフィンスキーム Spec ''A'' で、環 ''A'' が有限生成 ''B'' 加群となることは同値である<ref name="#1">{{Citation | title=Stacks Project, Tag 01WG | url=http://stacks.math.columbia.edu/tag/01WG}}.</ref>。 例えば、任意の[[可換体|体]] ''k'' に対して <math>\text{Spec}(k[t,x]/(x^n-t)) \to \text{Spec}(k[t])</math> は有限射である。これは、<math>k[t]</math> 加群としての同型 <math>k[t,x]/(x^n-t) \cong k[t]\oplus k[t]\cdot x \oplus\cdots \oplus k[t]\cdot x^{n-1}</math> があることから分かる。幾何的には、これは原点で退化するアフィン直線の分岐 n 重被覆なので、有限であることは明らかである。一方、包含による ''A''<sup>1</sup> − 0 から ''A''<sup>1</sup> への射は有限ではない。[[ローラン多項式]]環 ''k''[''y'', ''y''<sup>−1</sup>] は ''k''[''y''] 上の有限生成加群ではないからである。有限射を幾何的に捉えるならば、有限ファイバーを持つ全射を思い描かなければならない。 == 有限射の性質 == * 2つの有限射の合成は有限射である。 * 有限射 ''f'': ''X'' → ''Y'' の{{仮リンク|スキームのファイバー積|label=基底変換|en|fiber product of schemes}}は有限射である。つまり、''g'': Z → ''Y'' をスキームの任意の射とすると、自然な射 ''X'' ×<sub>''Y''</sub> ''Z'' → ''Z'' 有限は有限射である。これは次の代数的な事実に対応している。''A'' と ''C'' を(可換)''B'' 代数とし、''A'' が ''B'' 加群として有限生成とすると、[[代数のテンソル積|テンソル積]] ''A'' ⊗<sub>''B''</sub> ''C'' は ''C'' 加群として有限生成である。実際、''a''<sub>''i''</sub> を ''A'' の ''B'' 加群としての生成元とすると、''a''<sub>''i''</sub> ⊗ 1 が ''A'' ⊗<sub>''B''</sub> ''C'' の ''C'' 加群としての生成元になる。 * {{仮リンク|閉埋入|en|Closed immersion}}は有限である。閉埋入は、局所的に環 ''A'' と閉部分スキームに対応する[[イデアル_(環論)|イデアル]] ''I'' を用いて ''A'' → ''A''/''I'' とかけるからである。 * 有限射は閉である。したがって、有限射の基底変換は有限射であることに注意すると、有限射は[[固有射|固有]]である<ref name="#1"/>。これは可換環論のコーエン・ザイデンベルクの[[上昇と下降|上昇定理]]の帰結である。 * 有限射のファイバーは有限集合である。したがって、有限射は[[準有限射]]である<ref name="#1"/>。これは、体 ''k'' に対して任意の有限 ''k'' 代数は[[アルティン環]]であることから分かる。また、これと関連することとして、有限な全射 ''f'': ''X'' → ''Y'' があると、''X'' と ''Y'' は同じ[[クルル次元|次元]]を持つ。 * スキームの射が有限であるのは、固有かつ準有限であるとき、かつそのときに限る([[ピエール・ルネ・ドリーニュ|ドリーニュ]])<ref>Grothendieck, EGA IV, Part 4, Corollaire 18.12.4.</ref>。これは、射 ''f'': ''X'' → ''Y'' が[[代数幾何学用語一覧#有限表示|局所的に有限表示]]であるとき(''Y'' が[[ネータースキーム|ネーター]]であるときは、これは他の仮定から従う)は[[アレクサンドル・グロタンディーク|グロタンディーク]]によって示されていた<ref>Grothendieck, EGA IV, Part 3, Théorème 8.11.1.</ref>。 * 有限射は射影的かつ[[代数幾何学用語一覧#アフィン|アフィン]]である<ref name="#1"/>。 == 有限型の射 == {{See also|体上有限生成環の理論}} 可換環の準同型 ''A'' → ''B'' に対し、''B'' が ''A'' 代数として[[体上有限生成環の理論|有限生成]]であるとき、''B'' は '''有限型'''(finite type)の ''A'' 代数と呼ばれる。''B'' が ''A'' 加群として有限生成であるとき、''B'' は '''有限'''(finite )''A'' 代数と呼ばれるが、これは有限型であることよりも遥かに強い条件である。例えば、可換環 ''A'' と自然数 ''n'' に対して、多項式環 ''A''[''x''<sub>1</sub>, ..., ''x''<sub>''n''</sub>] は有限型の ''A'' 代数であるが、有限 ''A'' 加群となるのは ''A'' = 0 か ''n'' = 0 のときだけである。有限型ではあるが有限ではない射のもう1つの例は <math>\mathbb{C}[t] \to \mathbb{C}[t][x,y]/(y^2 - x^3 - t)</math> である。 スキーム論でこれに対応するものは次の通り。スキームの射 ''f'': ''X'' → ''Y'' が'''有限型'''(finite type)であるとは、''Y'' のアフィン開部分スキームによる被覆 ''V''<sub>''i''</sub> = Spec ''A''<sub>''i''</sub> が存在して、''f''<sup>−1</sup>(''V''<sub>''i''</sub>) が有限個のアフィン開部分スキーム ''U''<sub>''ij''</sub> = Spec ''B''<sub>''ij''</sub> によって被覆され、''B''<sub>''ij''</sub> が ''A''<sub>''i''</sub> 代数として有限型であることを言う。またこのとき、''X'' は ''Y'' 上'''有限型'''であると言う。 例えば、任意の自然数 ''n'' と体 ''k'' に対して、''k'' 上の ''n'' 次元アフィン空間や ''n'' 次元射影空間は ''k'' 上(Spec ''k'' 上の意)有限型である。一方、''n'' = 0 でない限り ''k'' 上有限ではない。より一般に、''k'' 上の任意の{{仮リンク|準射影的スキーム|en|quasi-projective scheme}}は ''k'' 上有限型である。 [[体上有限生成環の理論#ネーターの正規化補題|ネーターの正規化補題]]を幾何学的に言い換えると次のようになる。体 ''k'' 上有限型な全てのアフィン・スキーム ''X'' は、''X'' と同じ次元 ''n'' を持つ ''k'' 上のアフィン空間 '''A'''<sup>''n''</sup> への全射の有限射を持つ。同様に、体上の全ての[[射影スキーム]] ''X'' は、''X'' と同じ次元 ''n'' の[[射影空間]] '''P'''<sup>''n''</sup> への全射な有限射を持つ。 == 関連項目 == *[[代数幾何学用語一覧]] *{{仮リンク|有限代数|en|Finite algebra}} ==脚注== {{Reflist|30em}} ==参考文献== {{refbegin}} *{{EGA|book=4-3| pages = 5–255}} *{{EGA|book=4-4| pages = 5–361}} *{{Hartshorne AG}} * {{cite book | last=Shafarevich | first=Igor R. | author-link=Igor Shafarevich| title = Basic Algebraic Geometry 1 | year=2013| publisher=[[Springer Science+Business Media|Springer Science]] | url=https://link.springer.com/book/10.1007/978-3-642-37956-7 | isbn=978-0-387-97716-4}} {{refend}} ==外部リンク== *{{Citation | author1=The Stacks Project Authors | title=The Stacks Project | url=http://stacks.math.columbia.edu/}} [[Category:代数幾何学]] [[Category:射]] [[Category:スキームの射]] [[Category:数学に関する記事]] {{DEFAULTSORT:ゆうけんしや}}
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