有限差分のソースを表示

[[数学]]における'''有限差分'''（ゆうげんさぶん、{{lang-en-short|''finite difference''}}）は{{math|''f''(''x''&nbsp;+&nbsp;''b'')&nbsp;&minus;&nbsp;''f''(''x''&nbsp;+&nbsp;''a'')}} なる形の式を総称して言う{{cn|date=April 2015}}。有限差分を {{math|''b''&nbsp;&minus;&nbsp;''a''}} で割れば、[[差分商]]が得られる。[[微分]]を有限差分で近似することは、[[微分方程式]]（特に[[境界値問題]]）の[[数値解析|数値的解法]]である[[有限差分法]]において中心的な役割を果たす。

ある種の[[漸化式]]は多項間の関係式を有限差分で置き換えて'''差分方程式'''にすることができる。

今日では「有限差分」の語は、特に[[数値解法]]の文脈において、微分の[[#有限差分近似|有限差分近似]]の同義語としてもよく用いられる<ref name="WilmottHowison1995">{{cite book|author1=Paul Wilmott|author2=Sam Howison|author3=Jeff Dewynne|title=The Mathematics of Financial Derivatives: A Student Introduction|year=1995|publisher=Cambridge University Press|isbn=978-0-521-49789-3|page=137}}</ref><ref name="Olver2013">{{cite book|author=Peter Olver|title=Introduction to Partial Differential Equations|year=2013|publisher=Springer Science & Business Media|isbn=978-3-319-02099-0|page=182}}</ref><ref name="Chaudhry2007">{{cite book|author=M Hanif Chaudhry|title=Open-Channel Flow|year=2007|publisher=Springer|isbn=978-0-387-68648-6|pages=369}}</ref>。有限差分近似は冒頭の用語法に則れば有限差分商のことである。

有限差分それ自体も、抽象的な数学的対象として研究の主題となり得るものである。例えば[[ジョージ・ブール]] (1860), {{仮リンク|ルイ・メイヴィル・ミルン゠トムソン|en|L. M. Milne-Thomson}} (1933), {{仮リンク|カロリー・ヨルダン|de|Károly Jordan}} (1939) らの業績があり、それは[[アイザック・ニュートン]]にまで遡れる。そのような観点で言えば、有限差分に関する形式的な計算は[[無限小]]に関する計算の代替となるものである<ref>Jordán, op. cit., p. 1 and Milne-Thomson, p. xxi. 
Milne-Thomson,  Louis Melville (2000):  ''The Calculus of Finite Differences'' (Chelsea Pub Co, 2000)  ISBN 978-0821821077 </ref>。

== 前進・後退・中心差分 ==
主に前進、後退、中心差分の三種類が広く用いられる<ref name="WilmottHowison1995"/><ref name="Olver2013"/><ref name="Chaudhry2007"/>。
; 前進差分
:<math> \Delta_h[f](x) =  f(x + h) - f(x).</math>
; 後退差分
: <math> \nabla_h[f](x) =  f(x) - f(x-h).</math>
; {{Anchors|中心差分}}中心差分
: <math> \delta_h[f](x) =  f(x+\tfrac{1}{2}h)-f(x-\tfrac{1}{2}h).</math>

応用の場面に応じて、歩み {{mvar|h}} は変数と見ることも定数と見ることもある。添字の {{mvar|h}} を省略したときは、{{math|''h'' {{=}} 1}} の意味（{{math|&Delta;[''f''](''x'') {{=}} &Delta;{{msub|1}}[''f''](''x'')}}など）である。

== 微分の離散化としての差分 ==
{{main|[[差分学|差分法]]}} {{Anchors|有限差分近似}}
函数 {{mvar|f}} の点 {{mvar| x}} における[[微分]]は[[函数の極限]]
: <math> f'(x) = \lim_{h\to0} \frac{f(x+h) - f(x)}{h}</math>
で定義される。ここで {{mvar|h}} を零に近づける代わりに非負の値に固定すれば、右辺は
: <math> \frac{f(x + h) - f(x)}{h} = \frac{\Delta_h[f](x)}{h}</math>
と書けるから、これは {{mvar|h}} が小さいとき、歩み {{mvar|h}} の前進差分が微分を近似するものであることを意味する。この近似の誤差は[[テイラーの定理]]から評価することができる。実際、{{mvar|f}} が微分可能であると仮定すれば
:<math> \frac{\Delta_h[f](x)}{h} - f'(x) = O(h)\to 0 \quad  (\text{as }h \to 0)</math>
であり、前進差分に関しても同じ式
:<math> \frac{\nabla_h[f](x)}{h} - f'(x) = O(h)\to 0 \quad  (\text{as }h \to 0)</math>
が満足される。中心差分を用いればより精密な近似が可能で、{{mvar|f}} が二回微分可能ならば
:<math> \frac{\delta_h[f](x)}{h} - f'(x) =  O(h^2)</math>
が成り立つ。しかし中心差分法の主な問題は、振動する函数の微分が零ということになってしまう場合があることである。例えば、奇数の {{mvar|n}} に対して {{math|''f''(''nh'') {{=}} 1}} かつ偶数の {{mvar|n}} に対して {{math|''f''(''nh'') {{=}} 2}} とすれば、中心差分法で計算すると {{math|''f{{'}}''(''nh'') {{=}} 0}} となる。これは {{mvar|f}} の定義域が離散の場合に特に問題になる。

「有限差分」を有限差分近似の意味で用いる文献では、「前進・後退・中心差分」は（前節の意味ではなく）本節で言う商として定義される<ref name="WilmottHowison1995"/><ref name="Olver2013"/><ref name="Chaudhry2007"/>。

{{see also|[[対称微分]]}}

== 高階差分 ==
微分の有限差分近似と対応して、高階微分の有限差分近似が得られる。例えば、中心差分の式を {{math|''f{{'}}''(''x''+''h''/2)}} と {{math|''f{{'}}''(''x''−''h''/2)}} に対して考え、{{mvar|f{{'}}}} の微分の中心差分近似に適用すれば、{{mvar|f}} の二回微分の近似式として
; 二階中心差分
: <math> f''(x) \approx \frac{\delta_h^2[f](x)}{h^2} =  \frac{f(x+h) - 2 f(x) + f(x-h)}{h^{2}} </math>
が得られる。同様にほかの差分公式を繰り返し適用すれば
; 二階前進差分
: <math> f''(x) \approx \frac{\Delta_h^2[f](x)}{h^2} =  \frac{f(x+2h) - 2 f(x+h) + f(x)}{h^{2}} . </math>
なども得られる。より一般に{{mvar|n}}-階前進、後退、中心差分はそれぞれ
; {{mvar|n}}-階前進差分
: <math>\Delta^n_h[f](x) = 
\sum_{i = 0}^{n} (-1)^i \binom{n}{i} f(x + (n - i) h),
</math>
: <math>\Delta^n [f](x)= \sum_{k=0}^n\binom nk(-1)^{n-k}f(x + k)\quad(\text{for }h=1).</math>
; {{mvar|n}}-階後退差分
:<math>\nabla^n_h[f](x) = 
\sum_{i = 0}^{n} (-1)^i \binom{n}{i} f(x - ih),
</math>
; {{mvar|n}}-階中心差分
: <math>\delta^n_h[f](x) = 
\sum_{i = 0}^{n} (-1)^i \binom{n}{i} f\left(x + \left(\frac{n}{2} - i\right) h\right)
</math>
で与えられる。上記において、{{math|({{su|p=''n''|b=''i''}})}} は[[二項係数]]である（各 {{mvar|i}} に対する係数は[[パスカルの三角形]]の各行で与えられる）。

中心差分においては {{mvar|n}} が奇数のとき {{mvar|h}} が非整数倍されることに留意すべきである。これは離散化の幅を変えることになるため、しばしば問題になる。この問題は {{math|&delta;{{msup|''n''}}[''f''](''x'' &minus; ''h''/2)}} と {{math|&delta;{{msup|''n''}}[''f''](''x'' + ''h''/2)}} との平均をとることで除くことができる。

[[数列]]に前進差分を施すことを、その数列の{{仮リンク|二項変換|en|binomial transform}}と呼ぶことがあり、組合せ論的に興味深い様々な性質がある。前進差分を[[ネールント–ライス積分]]を用いて評価することができる。このような種類の級数に対する積分表現は、積分が[[漸近展開]]や[[鞍点法]]で評価されることがしばしばあり、重要である（対照的に前進差分級数は、大きな {{mvar|n}} に対しては二項係数が急速に増大するため、数値的に評価することが極めて難しい）。

これら高階差分と微分との関係はそれぞれ直接的に
:<math>\frac{d^n f}{d x^n}(x) = \frac{\Delta_h^n[f](x)}{h^n}+O(h) = \frac{\nabla_h^n[f](x)}{h^n}+O(h) = \frac{\delta_h^n[f](x)}{h^n} + O(h^2)</math>
となる。高階微分はより良い近似を構成するためにも利用できる。上で述べたように、一階差分近似は {{mvar|h}} の[[ランダウの記号|オーダー]]の項を[[up to|除いて]]一階微分を近似するものであるが、高階微分を組み合わせた
:<math> \frac{\Delta_h[f](x) - \frac{1}{2}\Delta_h^2[f](x)}{h} = - \frac{f(x+2h)-4f(x+h)+3f(x)}{2h} </math>
は {{math|''f{{'}}''(''x'')}} と {{math|''h''<sup>2</sup>}} のオーダーの項しか違わない。これを示すには、先述のように[[テイラー級数]]展開してもよいし、後述のように有限差分の汎函数計算を用いてもよい。

必要ならば、前進・後退・中心差分を混合して任意の点を有限差分の中心にすることができる。

=== 性質 ===
* 任意の正整数 {{mvar|k, n}} に対して
*: <math>\Delta^n_{kh} (f, x) = \sum\limits_{i_1=0}^{k-1} \sum\limits_{i_2=0}^{k-1} \cdots \sum\limits_{i_n=0}^{k-1} \Delta^n_h (f, x+i_1h+i_2h+\cdots+i_nh).</math>
* ライプニッツ則:
*: <math>\Delta^n_h (fg, x) = \sum\limits_{k=0}^n \binom{n}{k} \Delta^k_h (f, x) \Delta^{n-k}_h(g, x+kh).</math>

== 有限差分法 ==
{{main|有限差分法}}
有限差分の重要な応用として、[[数値解析]]、特に[[数値微分方程式]]論において、[[常微分方程式|常微分]]および[[偏微分方程式]]の数値解を得る目的での利用が挙げられる。これは、微分方程式に現れる微分を、それを近似する有限差分で置き換えるという考え方である。これを[[有限差分法]]と呼ぶ。

有限差分法は、計算機科学や工学の[[熱工学]]や[[流体力学]]などといった分野においてよく応用される。

== ニュートン級数 ==
'''ニュートン級数'''は[[アイザック・ニュートン|ニュートン]]の前進差分方程式の項からなる。これは本質的に[[ニュートン補間|'''ニュートン補間公式''']]であり、1687年に著書『[[自然哲学の数学的諸原理|プリンキピア・マスマティカ]]』において最初に公表された<ref>Newton, Isaac, (1687). [https://books.google.co.jp/books?id=KaAIAAAAIAAJ&dq=sir+isaac+newton+principia+mathematica&as_brr=1&pg=PA466&redir_esc=y&hl=ja#v=onepage&q&f=false ''Principia'', Book III, Lemma V, Case 1]</ref>。具体的には、連続的なテイラー展開の離散版
: <math>f(x)=\sum_{k=0}^\infty\frac{\Delta^k [f](a)}{k!} (x-a)_k
= \sum_{k=0}^\infty {x-a \choose k}~ \Delta^k [f](a)</math> 
が任意の[[多項式函数]] {{mvar|f}} に対して成立する。これはさらに多くの（全てではない）[[解析函数]]でも成立する。ここで
: <math>{x \choose k} = \frac{(x)_k}{k!}</math>
は[[二項係数]]であり、
: <math>(x)_k=x(x-1)(x-2)\cdots(x-k+1)</math>
は[[下降階乗]]（下方階乗）である（[[空積]] {{math|(''x'')<sub>0</sub>}} は {{math|1}} とする）。これは後述する一般化において、{{mvar|x}} の変化の歩み (step) が {{math|''h'' {{=}} 1}} であると仮定した特別の場合である。

この結果と[[テイラーの定理]]との形式的な対応に注意せよ。歴史的には、これと{{仮リンク|ファンデルモンド恒等式|en|Chu–Vandermonde identity}}  
:<math>(x+y)_n=\sum_{k=0}^n {n \choose k} (x)_{n-k} ~(y)_k</math>
（[[二項定理]]に対応する）は、[[陰計算]]の体系に至る観察に含まれる。
<!--
To illustrate how one may use Newton's formula in actual practice, consider the first few terms of doubling the [[Fibonacci sequence]] {{mvar|f}}&nbsp;=&nbsp;2,&nbsp;2,&nbsp;4,&nbsp;... One can find a [[polynomial]] that reproduces these values, by first computing a difference table, and then substituting the differences that correspond to ''x''<sub>0</sub> (underlined) into the formula as follows,
:<math>
\begin{matrix}

\begin{array}{|c||c|c|c|}
\hline
 x & f=\Delta^0 & \Delta^1 & \Delta^2 \\
\hline
1&\underline{2}& & \\
 & &\underline{0}& \\
2&2& &\underline{2} \\
 & &2& \\
3&4& & \\
\hline
\end{array}

&

\quad \begin{align}
f(x) & =\Delta^0 \cdot 1 +\Delta^1 \cdot \dfrac{(x-x_0)_1}{1!} + \Delta^2 \cdot \dfrac{(x-x_0)_2}{2!} \quad (x_0=1)\\
 \\
& =2 \cdot 1 + 0 \cdot \dfrac{x-1}{1} + 2 \cdot \dfrac{(x-1)(x-2)}{2} \\
 \\
& =2 + (x-1)(x-2) \\
\end{align}
\end{matrix}
</math>

For the case of nonuniform steps in the values of ''x'', Newton computes the [[divided differences]],
:<math>\Delta _{j,0}=y_j,\quad \quad \Delta _{j,k}=\frac{\Delta _{j+1,k-1}-\Delta _{j,k-1}}{x_{j+k}-x_j}\quad \ni \quad \left\{ k>0,\ \ j\le \max \left( j \right)-k \right\},\quad \quad \Delta 0_k=\Delta _{0,k}</math>
the series of products,
:<math>{P_0}=1,\quad \quad P_{k+1}=P_k\cdot \left( \xi -x_k \right) ~,</math>
and the resulting polynomial is the [[scalar product]], <math>f(\xi ) = \Delta 0 \cdot P\left( \xi  \right)</math> .<ref>[[Robert D. Richtmyer|Richtmeyer, D.]] and  Morton, K.W., (1967). ''Difference Methods for Initial Value Problems'', 2nd ed., Wiley, New York.</ref>
-->
* [[p進解析|{{mvar|p}}-進解析学]]において、[[マーラーの定理]]は {{mvar|f}} が多項式函数であるという仮定は単に連続であるという仮定に緩めることができることを述べる。
* {{仮リンク|カールソンの定理|en|Carlson's theorem}}はニュートン級数が（存在すれば）一意であるための必要十分条件を与える。しかし一般にはニュートン級数の存在は保証されない。
* ニュートン級数、スターリング補間多項式、セルバーグ多項式は、一般の[[差分多項式]]の特別の場合である。これらは全て適当にスケールされた前進差分の言葉で定義される。
* In a compressed and slightly more general form and equidistant nodes the formula reads
*:<math>f(x)=\sum_{k=0}{\frac{x-a}h \choose k} \sum_{j=0}^k (-1)^{k-j}{k\choose j}f(a+j h).</math>

== 有限差分に関する演算子法 ==
{{main|和分差分学}}
前進差分を、函数 {{mvar|f}} を {{math|Δ<sub>''h''</sub>[''f'']}} へ写す[[差分作用素]]と考えることができる<ref>[[George Boole|Boole, George]], (1872). ''A Treatise On The Calculus of Finite Differences'', 2nd ed., Macmillan and Company. [https://archive.org/details/cu31924031240934   On line]. Also, [Dover edition 1960]</ref><ref>Jordan, Charles, (1939/1965). "Calculus of Finite Differences", Chelsea Publishing. On-line: [https://books.google.co.jp/books?hl=en&lr=&id=3RfZOsDAyQsC&oi=fnd&pg=PA1&ots=AqSuAgOKs3&sig=fzPpAdvnzp7sG6PorqIe5qFjD2Q&redir_esc=y#v=onepage]</ref>。この作用素は、歩み {{mvar|h}} の[[シフト作用素]] {{math|''T''<sub>''h''</sub>}} を用いて
::<math>\Delta_h = T_h-I</math>
という和に書くことができる。ここに、{{math|''T''<sub>''h''</sub>[''f'' ](''x'') {{=}} ''f''(''x''+''h'')}} および {{mvar|''I''}} は[[恒等作用素]]である。

高階の有限差分は再帰的に {{math| Δ<sub>''h''</sub><sup>''n''</sup> ≡ Δ<sub>''h''</sub> (Δ<sub>''h''</sub><sup>''n''&minus;1</sup>}}) と定義することができるが、これと同値な別定義として {{math| Δ<sub>''h''</sub><sup>''n''</sup> {{=}}  [''T''<sub>''h''</sub> −''I'']<sup>''n''</sup>}} とすることもできる。

差分作用素 {{math|Δ<sub>''h''</sub>}} は[[線型作用素]]であり、上で述べた特別なライプニッツ則
{{math|Δ<sub>''h''</sub>(''f''(''x'')''g''(''x'')) {{=}} (Δ<sub>''h''</sub>''f''(''x'')) ''g''(''x''+''h'') + ''f''(''x'') (Δ<sub>''h''</sub>''g''(''x''))}} を満足する。後退および中心差分に関しても同様のことが成立する。

{{mvar|h}} に関する[[テイラー級数]]を形式的に適用することで、等式
: <math> \Delta_h = hD + \frac{1}{2} h^2D^2 + \frac{1}{3!} h^3D^3 + \dotsb = e^{hD} - I </math>
が得られる。ここで {{mvar|D}} は函数 {{mvar|f}} をその導函数 {{mvar|f{{'}}}} へ写す連続的な微分作用素である。十分小さな {{mvar|h}} に対して、この展開は両辺が[[解析函数]]に作用するとき有効である。従って {{math|''T''<sub>''h''</sub> {{=}} ''e''<sup>''hD''</sup>}} であり、逆に冪指数に関して解いて
:<math> hD = \log(1+\Delta_h) = \Delta_h - \tfrac{1}{2} \Delta_h^2 + \tfrac{1}{3} \Delta_h^3 + \dotsb</math>
が得られる。この式は両辺が多項式に作用して同じ結果を与えるという意味において正しい。

解析函数に作用する場合でも、右辺の級数の収束は保証されず、[[漸近級数]]となり得る。しかし、微分に対するより精密な近似を得ることには利用できる。例えば、例えばこの級数の最初の二項だけを取り出せば、[[#高階差分]]の節の最後に述べた {{math|''f''{{'}}(''x'')}} の二階近似が導かれる。

後退および中心差分に対する同様の公式は
: <math> hD = -\log(1-\nabla_h),\quad hD = 2 \operatorname{arsinh}(\tfrac{1}{2}\delta_h)</math>
となる。
<!--
このような有限差分の演算子法は、組合せ論に関する [[umbral calculus]] とも関連がある。著しく体系立った対応が、離散的な量 (umbral quantity) の[[交換子]]とその連続版（{{math|''h''→0}} の極限）との間に成り立つ等式
: <math>  \Bigl[ \frac{\Delta_h}{h}, x T^{-1}_h \Bigr] = [ D, x ] = I</math>
を通じて記述できる。通常の微分積分学における函数 {{math|''f''(''x'')}} を含む形式的な微分関係式は、函数 {{math|''f''(''xT''<sub>''h''</sub><sup>−1</sup>)}} を含むその離散版の関係式に「体系的にうつされる」のである。

例えば、単項式 {{math|''x''<sup>''n''</sup>}} の離散版は、上で述べた下降階乗の{{仮リンク|ポッホハマーk-記号|en|Pochhammer k-symbol|label=一般化}}  
:<math>~(x)_n\equiv  (xT_h^{-1})^n=x (x-h) (x-2h) \cdots (x-(n-1)h)</math> 
であり、
:<math>\frac{\Delta_h}{h}(x)_n=n(x)_{n-1}</math>
や、上で述べたニュートン補間公式などが成立する。そして例えば、離散版の正弦函数 (umbral sine) が
: <math>\sin (x\,T_h^{-1}) = x -\frac{(x)_3}{3!} +  \frac{(x)_5}{5!} - \frac{(x)_7}{7!} + \cdots </math>
と定義できる。

連続版の場合と同様に、{{math| Δ<sub>''h''</sub> /''h''}} の固有函数も「指数函数」
: <math>\frac{\Delta_h}{h}(1+\lambda h)^{x/h} =\frac{\Delta_h}{h} e^{\ln(1+\lambda h)x/h}= \lambda e^{\ln(1+\lambda h)x/h}</math>
として得られる。ここから容易に、「連続的な世界の函数のフーリエ和を、離散的な世界のフーリエ和に忠実に写す」ことができる（つまり、上記の離散版指数函数を基底として同じフーリエ係数を持つ和を考えればよい<ref>{{cite journal |last =Zachos|first =C.| authorlink =Cosmas Zachos| year =2008| title =Umbral  Deformations on Discrete Space-Time  | journal =International Journal of Modern Physics A| volume =23 | issue=13| pages =2005&ndash;2014  | doi = 10.1142/S0217751X08040548  }}</ref>）。従って、この離散版指数函数 (umbral exponential) は[[下方階乗]]列の指数型[[母函数]]である。そして例えば、[[ディラックのデルタ函数]]はその離散版として[[sinc函数|基正弦函数]]に写る：
: <math>\delta (x) \mapsto \frac{\sin \bigl[ \frac{\pi}{2}(1+x/h) \bigr]}{\pi (x+h)}</math>
といったようなことも成り立つ<ref>{{Cite journal | last1 = Curtright | first1 = T. L. | last2 = Zachos | first2 = C. K. | doi = 10.3389/fphy.2013.00015 | title = Umbral Vade Mecum | journal = Frontiers in Physics | volume = 1 | year = 2013 | pmid =  | pmc = }}</ref>。こういった対応を通じて、[[差分方程式]]はしばしば[[微分方程式]]の解法と非常によく似た手法によって解くことができる。

前進差分作用素の逆作用素（つまり陰積分）は[[不定和分]]あるいは反差分作用素である。
-->

== 有限差分作用素の計算法則 ==
{{仮リンク|微分法則|en|Differentiation rules}}と対応して、
* '''定数律''': {{mvar|c}} が定数ならば <math>\Delta c = 0</math> が成り立つ。
* '''線型性''': 定数 {{mvar|a, b}} に対して <math>\Delta (a f + b g) = a \Delta f + b \Delta g</math> が成り立つ。
この二つの法則は他の差分作用素でも成り立つ。
* '''積の差分''':
*: <math> \Delta (f g) = f \Delta g + g \Delta f + \Delta f \,\Delta g,</math>
*: <math> \nabla (f g) = f \nabla g + g \nabla f - \nabla f \,\nabla g.</math>
* '''商の差分''':
*: <math>\nabla \left( \frac{f}{g} \right) = \frac{1}{g} \det \begin{pmatrix} \nabla f & \nabla g \\ f & g \end{pmatrix} \left( \det {\begin{pmatrix} g & \nabla g \\ 1 & 1 \end{pmatrix}}\right)^{-1} </math>
*:: あるいは
*: <math>\nabla\left( \frac{f}{g} \right)= \frac {g \,\nabla f - f \,\nabla g}{g \cdot (g - \nabla g)},</math>
*: <math>\Delta\left( \frac{f}{g} \right)= \frac {g \,\Delta f - f \,\Delta g}{g \cdot (g + \Delta g)}.</math>
* '''和分''':
*: <math>\sum_{n=a}^{b} \Delta f(n) = f(b+1)-f(a),</math>
*: <math>\sum_{n=a}^{b} \nabla f(n) = f(b)-f(a-1).</math>
<br />See Refs <ref>{{cite book|last=Levy|first=H.|author2=Lessman, F.|title=Finite Difference Equations|year=1992|publisher=Dover|isbn=0-486-67260-3}}</ref><ref>Ames, W. F., (1977).  ''Numerical Methods for Partial Differential Equations'', Section 1.6. Academic Press, New York. ISBN 0-12-056760-1.</ref><ref>[[Francis B. Hildebrand|Hildebrand, F. B.]], (1968). ''Finite-Difference Equations and Simulations'', Section 2.2, Prentice-Hall, Englewood Cliffs, New Jersey.</ref><ref>{{Cite journal | first1 = Philippe | last1 = Flajolet | authorlink2 = Robert Sedgewick (computer scientist) | first2 = Robert | last2 = Sedgewick | url = http://www-rocq.inria.fr/algo/flajolet/Publications/mellin-rice.ps.gz | title = Mellin transforms and asymptotics: Finite differences and Rice's integrals | journal = Theoretical Computer Science | volume = 144 | issue = 1–2 | year = 1995 | pages = 101–124 | doi = 10.1016/0304-3975(94)00281-M | postscript = <!-- Bot inserted parameter. Either remove it; or change its value to "." for the cite to end in a ".", as necessary. -->{{inconsistent citations}} }}{{リンク切れ|date=2017年10月 |bot=InternetArchiveBot }}.</ref>

== 一般化 ==
'''一般化された有限差分'''は {{math|&mu; {{=}} (&mu;{{msub|0}}, …, &mu;{{msub|''N''}})}} を係数列として
: <math>\Delta_h^\mu[f](x) = \sum_{k=0}^N \mu_k f(x+kh)</math>
と定義されるのが普通である。さらに右辺の和を[[無限級数]]に取り換えた一般化として'''無限差分''' (''infinite difference'') が定義される。別な一般化としては、係数 {{math|&mu;{{msub|''k''}}}} が {{mvar|x}} に依存することを許して {{math|&mu;{{msub|''k''}} {{=}} &mu;{{msub|''k''}}(''x'')}} とすることで、'''重み付き有限差分''' (''weighted finite difference'') が考えられる。あるいはまた、歩み {{mvar|h}} が {{mvar|x}} に依存する ({{math|''h'' {{=}} ''h''(''x'')}}) とすることも考えられる。そのような一般化は別種の{{仮リンク|連続度|en|modulus of continuity}}を構成するのに有用である。

* 一般化有限差分の全体は多項式環 {{math|''R''[''T''{{msub|''h''}}]}} と見ることができる。ここから差分環が考えられる。
* 差分作用素は[[半順序集合]]上の[[メビウスの反転公式|メビウス反転作用素]]に一般化される。
* 畳み込み表現: [[接合環]]の方法論を通じて差分作用素やほかのメビウス反転作用素は'''メビウス函数'''と呼ばれる半順序集合上の函数 &mu; との[[畳み込み]]として表される。差分作用素に対するメビウス函数 {{mvar|μ}} は数列 {{math|(1,&nbsp;&minus;1,&nbsp;0,&nbsp;0,&nbsp;0,&nbsp;…)}} である。

== 多変数の有限差分 ==
多変数の場合にも有限差分は考えることができる。それらは多変数の[[偏微分]]に対応するものである。

中心差分による偏微分近似をいくつか挙げれば
* <math> f_{x}(x,y) \approx  \frac{f(x+h ,y) - f(x-h,y)}{2h},</math>
* <math> f_{y}(x,y) \approx  \frac{f(x,y+k ) - f(x,y-k)}{2k},</math>
* <math> f_{xx}(x,y) \approx  \frac{f(x+h ,y) - 2 f(x,y) + f(x-h,y)}{h^2},</math>
* <math> f_{yy}(x,y) \approx  \frac{f(x,y+k) - 2 f(x,y) + f(x,y-k)}{k^2},</math>
* <math> f_{xy}(x,y) \approx  \frac{f(x+h,y+k) - f(x+h,y-k) - f(x-h,y+k) + f(x-h,y-k)}{4hk}. </math>
のようになる。
<!--
Alternatively, for applications in which the computation of {{mvar|f}}  is the most costly step, and both first and second derivatives must be computed, a more efficient formula for the last case is

:<math> f_{xy}(x,y) \approx \frac{f(x+h, y+k) - f(x+h, y) - f(x, y+k) + 2 f(x,y) - f(x-h, y) - f(x, y-k) + f(x-h, y-k)}{2hk},</math>

since the only values to compute that are not already needed for the previous four equations are {{math|''f''(''x''+''h'', ''y''+''k'')}}   and {{math|''f''(''x''−''h'', ''y''−''k'')}}.
-->
== 関連項目 ==
{{columns-list|colwidth=15em|
* [[陰計算]]
* {{仮リンク|カールソンの定理|en|Carlson's theorem}}
* {{仮リンク|風上差分スキーム|en|Upwind differencing scheme for convection}}（上流法）
* {{仮リンク|ギルブレス予想|en|Gilbreath's conjecture}}
* {{仮リンク|弧弾力性|en|Arc elasticity}}
* {{仮リンク|五点ステンシル|en|Five-point stencil}}
* [[差商]]
* [[シェファー列]]
* [[時間尺度微分積分学]]
* {{仮リンク|数値微分法|en|Numerical differentiation}}
* {{仮リンク|中心差分スキーム|en|Central differencing scheme}}（中心差分法）
* [[テイラー級数]]
* {{仮リンク|ニュートン級数の一覧|en|Table of Newtonian series}}
* [[ニュートン補間]]
* [[ネールント&ndash;ライス積分]]
* [[部分和分]]
* {{仮リンク|有限差分係数|en|Finite difference coefficients}}
* [[有限差分法]]
* [[ラグランジュ補間]]
* {{仮リンク|連続度|en|Modulus of continuity}}
}}

== 参考文献 ==
<references/>
* Richardson, C. H. (1954): ''An Introduction to the Calculus of Finite Differences'' (Van Nostrand (1954)'' [http://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=mdp.39015000982945;view=1up;seq=5 online copy]{{リンク切れ|date=2017年10月 |bot=InternetArchiveBot }}
* Mickens, R. E. (1991): ''Difference Equations: Theory and Applications'' (Chapman and Hall/CRC) ISBN  978-0442001360

== 外部リンク ==
* {{SpringerEOM|title=Finite-difference calculus|urlname=Finite-difference_calculus}}
* [http://reference.wolfram.com/mathematica/tutorial/NDSolvePDE.html#c:4 Table of useful finite difference formula generated using [[Mathematica]] ]
* D. Gleich (2005),  [http://www.stanford.edu/~dgleich/publications/finite-calculus.pdf ''Finite Calculus: A Tutorial for Solving Nasty Sums'']
* [https://mathformeremortals.wordpress.com/2013/01/12/a-numerical-second-derivative-from-three-points/ Discrete Second Derivative from Unevenly Spaced Points]

{{DEFAULTSORT:ゆうけんさふん}}
[[Category:差分法]]
[[Category:解析学]]
[[Category:線型作用素]]
[[Category:数学に関する記事]]