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[[ファイル:Wendelstein7-X Torushall-2011.jpg|thumb|{{仮リンク|マックスプランク・プラズマ物理学研究所|en|Max Planck Institute of Plasma Physics}}の[[ヴェンデルシュタイン7-X|Wendelstein 7-X]](ヴェンデルシュタイン・セブン・エックス)]]
[[画像:The Z Machine (8056998596).jpg|right|thumb|[[サンディア国立研究所]]の[[Zマシン]]]]
[[ファイル:The JET magnetic fusion experiment in 1991.jpg|サムネイル|欧州トーラス共同研究施設 (Joint European Torus, JET)]]
[[ファイル:Large Helical Device 2014.jpg|サムネイル|大型ヘリカル装置（LHD）：ヘリオトロン磁場配位を用いた超伝導プラズマ閉じ込め実験装置]]
'''核融合炉'''（かくゆうごうろ）は、[[原子核融合]]反応を利用した、[[原子炉]]の一種。[[発電]]の手段として[[2024年]]時点では開発段階であり、21世紀前半における実用化が期待される未来技術の一つである。

重い[[原子]]である[[ウラン]]や[[プルトニウム]]の[[核分裂反応|原子核分裂反応]]を利用する[[核分裂炉]]に対して、軽い原子である[[水素]]や[[ヘリウム]]による[[核融合]]反応を利用してエネルギーを発生させる装置が核融合炉である。[[2023年]]現在、[[2025年]]の運転開始を目指し、日本を含む各国が協力して、核融合実験炉[[ITER|イーター（ITER）]]を[[フランス]]に建設中である<ref name="JAIF 20191113">{{Cite web|和書|date=2019-11-13 |url=https://www.jaif.or.jp/191113-a |title=ITER計画：2025年の運転開始に向けトカマク建屋の土木工事が完了 |publisher=[[日本原子力産業協会]] |accessdate=2020-07-29 }}</ref><ref name="NHK 20200729">{{Cite web|和書|date=2020-07-29 |url=https://web.archive.org/web/20200728202749/https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200729/k10012538081000.html |title=新エネルギー源「ITER計画」核融合炉の組み立て開始 |publisher=[[日本放送協会]] |accessdate=2020-07-29 }}</ref><ref>{{Cite web|和書|title=ITER Japan トップページ |url=https://www.fusion.qst.go.jp/ITER/index.html |website=核融合実験炉ITER日本国内機関 |access-date=2023-08-06 |language=ja}}</ref>。ITERのように、核融合技術研究の主流である[[トカマク型]]の反応炉が、高温を利用したものであるので、特に熱核融合炉とも呼ばれることがある。

[[太陽]]をはじめとする[[恒星]]が輝きを放っているのは、全て核融合反応により発生するエネルギーによるものとされている。このため核融合炉は「人工太陽<ref name="人工太陽">[https://www.afpbb.com/articles/-/3339422 1億度で100秒 中国の「人工太陽」、新たな高みへ] [[フランス通信社|AFPBB]]（2021年3月30日配信）2021年5月13日閲覧</ref>」「地上の太陽」に喩えられる。太陽の場合は1600万℃・2400億気圧という高温高圧の状態で核融合反応が発生している<ref>{{Cite web|和書|title=国立科学博物館-宇宙の質問箱-太陽編 |url=https://www.kahaku.go.jp/exhibitions/vm/resource/tenmon/space/sun/sun01.html |website=www.kahaku.go.jp |access-date=2022-06-12}}</ref>。

地球上で核融合反応を発生させるためには、人工的に極めて高温か、あるいは極めて高圧の環境を作り出す必要がある。

これまでに、さまざまな炉の方式が研究されてきた。初期には、[[Zマシン|Zピンチ]]、[[ステラレータ]]、[[磁気ミラー型|磁気ミラー]]の3つに重点が置かれていた。現在主流の方式は、[[トカマク型|トカマク]]と[[レーザー核融合|レーザーによる慣性閉じ込め（ICF）]]である。どちらも、フランスの[[ITER|ITERトカマク]]や米国の[[国立点火施設|国立点火施設（NIF）]]レーザーを筆頭に、大規模な研究が進められている。最近は、より安価な核融合炉の実現を目指して他の方式も研究されている。それらの中で、[[磁化標的核融合]]、[[慣性静電閉じ込め核融合|慣性静電閉じ込め]]、そして[[ステラレータ]]といった新しい方式への関心が高まっている。

核融合反応の過程で[[高速中性子]]をはじめ様々な高エネルギー粒子の放射が発生するため、その影響を最小限に留める必要がある。そういった安全に反応を継続する技術、[[プラズマ]]の安定的なコントロールの技術、[[超伝導電磁石]]の技術、遠隔操作保守技術、[[リチウム]]や[[重水素]]、[[三重水素]]を扱う技術、プラズマ加熱技術、これらを支える材料や部品、支えるコンピュータ・シミュレーション技術などが必要とされ、それぞれに開発が進められている。

現在、国際共同研究のITER、[[中国科学院]]のような国家プロジェクト<ref name="人工太陽"/>に加えて、[[アメリカ合衆国]]や[[カナダ]]、[[日本]]など世界で数十の企業が核融合炉やその部品などの開発に取り組んでいる<ref name="日経産業20210511">『[[日経産業新聞]]』2021年5月11日1面「核融合炉 新興にも商機／京大発、主要な消耗品開発 民間イノベーションの芽」</ref>。

== 国際プロジェクト ==
大型核融合装置として、実験炉である[[ITER]]が建設中である。またITERを補完する[[幅広いアプローチ]]活動で建設された実験装置である[[JT-60]]SA<ref>{{Cite web|和書|title=JT-60SA計画とは - 量子科学技術研究開発機構 |url=https://www.qst.go.jp/site/jt60/5150.html |website=www.qst.go.jp |access-date=2022-06-12}}</ref>が2023年10月23日にファーストプラズマを達成した<ref>[https://www.qst.go.jp/site/press/20231024-1.html JT-60SA初のプラズマ生成に成功～日欧で取り組む幅広いアプローチ活動で大きなマイルストーンを達成～] - 量子科学技術研究開発機構</ref>。

== 核融合反応 ==
{{See also|原子核融合}}
核融合反応は、2つ以上の[[原子核]]が十分な時間近づいたときに起こり、原子核を引き寄せる[[核力]]が、原子核を引き離す[[クーロンの法則|静電気力]]を上回ったとき、より重い原子核に融合する<ref name=":2">{{Cite web|和書|title=クーロン障壁 {{!}} 天文学辞典 |url=https://astro-dic.jp/coulomb-barrier/ |website=astro-dic.jp |date=2017-08-26 |access-date=2023-08-15 |language=ja}}</ref>。[[鉄]]56より重い原子核の場合、反応は[[吸熱反応]]であり、エネルギーの投入を必要とする<ref>{{cite web|url=http://hyperphysics.phy-astr.gsu.edu/hbase/nucene/nucbin.html#c2|title=Fission and fusion can yield energy|publisher=Hyperphysics.phy-astr.gsu.edu|access-date=30 October 2014}}</ref>。 鉄より重い原子核は陽子の数が多く、反発力が大きい。 鉄56より軽い原子核の場合、反応は[[発熱反応]]であり、融合するときにエネルギーを放出する。水素は、原子核に陽子1個だけを持つため、核融合を達成するのに必要なエネルギーは最も少なく、正味のエネルギー出力は最も大きい。また、水素は電子を1つしか持っていないため、完全にイオン化するのが最も簡単な燃料である。

原子核間の反発しようとする静電相互作用は、[[陽子]]や[[中性子]]の直径であるおよそ1[[フェムトメートル]]の範囲でしか働かない強い核力<ref name=":2" />よりも、長い距離で働く。核融合を起こすためには、強い核力が静電気力による反発に打ち勝つのに十分な運動エネルギーを供給して、燃料原子が互いに接近する必要がある。「[[クーロン障壁]]」とは、燃料原子を十分に近づけるために必要な運動エネルギーの量のことである<ref name=":2" />。このエネルギーを生み出すために、原子を非常に高温に加熱したり、[[加速器|粒子加速器]]で加速したりする必要がある。

原子は[[イオン化エネルギー]]を超えて加熱されると電子を失う。その結果、原子核がむき出しになり、これを[[イオン (化学)|イオン]]と呼ぶ。この電離の結果が[[プラズマ]]であり、プラズマは加熱されたイオンとそれに結合していた自由電子の雲である<ref>{{Cite web|和書|title=誰でも分かる核融合のしくみ {{!}} プラズマって何？ - 量子科学技術研究開発機構 |url=https://www.qst.go.jp/site/jt60/4939.html |website=www.qst.go.jp |access-date=2023-08-15}}</ref>。プラズマは[[電気伝導|電気伝導性]]があり、[[電荷]]が分離しているため磁気的に制御できる。この性質は、高温の粒子を閉じ込めるために、いくつかの核融合装置で使われている。

プラズマの温度を高くするために外部から加えたエネルギーと核融合反応により発生したエネルギーが等しくなる条件を「[[臨界]]プラズマ条件」と呼び<ref name=":3">{{Cite journal|author=上田良夫他|year=2004|title=連載講座 よくわかる核融合炉のしくみ 第１回 核融合炉の概要―そもそも核融合炉とは|journal=日本原子力学会誌|volume=46|page=http://www.aesj.or.jp/~fusion/aesjfnt/jp/publications/rensai1/rensai01.pdf|pages=27-34}}</ref><ref name=":5">{{Cite journal|author=桂 井 誠、関 口 忠|year=1983|title=核融合炉の原理と概念|url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/ieejjournal1888/103/11/103_11_1056/_pdf|journal=電気学会雑誌|volume=103|pages=1056-1059}}</ref>、D-T反応（[[重水素]]と[[三重水素]]の反応）では「発電炉内でプラズマ温度1億[[セルシウス度|℃]]以上、密度100兆個/cm<sup>3</sup>とし、さらに1秒間以上閉じ込めることが条件」と、いうことになる<ref name="criticalprasma">{{ATOMICA dic|724|臨界プラズマ}}</ref>。[[2007年]]10月時点、この条件自体は[[トカマク型#JT-60|JT-60]]及びJET（[[欧州トーラス共同研究施設]]）で到達した<ref name="criticalprasma" />とされているが、発電炉として使用出来るまでの持続時間等には壁は高く、炉として[[実用]]可能な自己点火条件と言われる条件<ref name=":3" />を目指し挑戦がつづいている。

== 利点 ==
* 核分裂による[[原子力発電]]と同様、[[温暖化ガス]]である[[二酸化炭素]]の排出がない<ref name="日経産業20210511" />。
* [[核分裂反応]]のような[[連鎖反応]]がなく、暴走が原理的に生じない。
* 海水中に1/7000の割合で存在する<ref>{{ATOMICA|16-03-03-05|ユーレイによる重水素の発見}}</ref>[[重水素]]を利用できる。
* 原子力発電で問題となる[[放射性廃棄物#第一種廃棄物埋設：高レベル放射性廃棄物等の処分方法|高レベル放射性廃棄物]]が生じない。（定期的に交換されるダイバータやブランケットといった[[プラズマ対向機器]]は高ベータ・ガンマ廃棄物と呼ばれ、高い放射能を持つことになる<ref>{{Cite web|和書|title=核融合炉の廃棄物の放射能は速やかに減衰する – NPO法人 国際環境経済研究所｜International Environment and Economy Institute |url=https://ieei.or.jp/2021/12/expl20211228/ |website=ieei.or.jp |access-date=2023-08-04 |language=ja}}</ref>。ただし開発が進められている[[低放射化材料]]を炉壁に利用することにより、放射性廃棄物の浅地処分やリサイクリングが可能となる。）
* 従来型原子炉での運転休止中の残留熱除去系のエネルギー損失や、その機能喪失時の[[炉心溶融]]リスクがない。
などが挙げられる。

== 欠点 ==
* 超高温で超高[[真空]]という物理的な条件により、実験段階から実用段階に至る全てが巨大施設を必要とするため、莫大な予算がかかる。
* 炉壁などの[[放射化]]への問題解決が求められる(後述)。

== コスト ==
発電所の寿命を30年、割引率2%で試算すると、5.4円〜7.6円/kWhと見積もられている<ref>{{Cite web|和書|title=核融合炉は手の届く所にある―必要な投資額は、発電コストは？ |url=https://cigs.canon/article/20211014_6243.html |website=キヤノングローバル戦略研究所 |access-date=2022-06-12 |language=ja}}</ref>。

== 安全性・危険性 ==
;事故の可能性
:事故の可能性と環境への影響は、核融合の[[アクセプタンス|社会的受容性]]、いわゆるソーシャルライセンスにとって極めて重要である<ref>{{Cite journal |last=Hoedl |first=Seth A. |date=2022 |title=Achieving a social license for fusion energy |url=https://doi.org/10.1063/5.0091054 |journal=Physics of Plasmas |volume=29 |issue=9 |pages=092506 |doi=10.1063/5.0091054 |bibcode=2022PhPl...29i2506H |s2cid=252454077 |issn=1070-664X}}</ref>。 核融合炉は壊滅的な[[炉心溶融|メルトダウン]]を起こすことはない<ref name="McCrackenStott2012"/>。 正味のエネルギーを生成するためには、温度、圧力、磁場のパラメーターを正確に制御する必要があり、必要な制御の損傷や喪失があれば、反応は速やかに停止する<ref name=afraid>{{cite web |url=http://www.iter.org/newsline/107/1489 |title=Who is afraid of ITER? |first=Krista |last=Dulon |website=iter.org |date=2012 |access-date=18 August 2012 |archive-url=https://web.archive.org/web/20121130221734/http://www.iter.org/newsline/107/1489 |archive-date=November 30, 2012 |url-status=dead }}</ref>。 核融合炉は数秒から数マイクロ秒の燃料で運転される。積極的に燃料を補給しなければ、反応はすぐに停止する<ref name="McCrackenStott2012">{{cite book|last1=McCracken|first1=Garry |last2=Stott|first2=Peter |title=Fusion: The Energy of the Universe|url={{google books|plainurl=y|id=e6jEZfO2gO4C|page=198}}|access-date=18 August 2012|date=2012|publisher=Academic Press|isbn=978-0123846563|pages=198–199}}</ref>。プラズマの体積は1,000m<sup>3</sup>以上と予想されるが、プラズマに含まれる燃料は通常数グラム程度である<ref name="McCrackenStott2012" />。 一方、[[核分裂炉]]には通常、数カ月から数年分の燃料が装荷されており、反応を続けるために燃料を追加する必要はない。この大量の燃料供給こそが、メルトダウンの可能性をもたらす<ref name="n">{{cite book|last=Angelo|first=Joseph A. |title=Nuclear Technology|url={{google books|plainurl=y|id=ITfaP-xY3LsC|page=474}}|access-date=18 August 2012|date=2004|publisher=Greenwood Publishing Group|isbn=978-1573563369|page=474}}</ref>。
; [[放射性廃棄物]]
: 核融合反応で発生する中性子は、核融合炉壁及び建造物を[[放射化]]する。放射化された核融合炉周辺の機械装置や建物が安全に本来の機能を発揮できるような設計が求められる。たとえば[[ITER]]においては、廃炉直後の[[放射性廃棄物|放射性廃棄物量]]は3万9千トン、100年後には大半がクリアランスレベル以下となるが、最終的に1万2千トンが放射性廃棄物として残る<ref name=":0">{{Cite journal|author=飛田建次、日渡良爾|year=2002|title=小特集 核融合炉の経済性と環境負荷 －その解析と今後の課題－ 3.1 放射性廃棄物削減へ向けた研究の現状|url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspf/78/11/78_11_1179/_pdf/-char/ja|journal=プラズマ・核融合学会誌|volume=78|pages=1179-1185}}</ref>。炉内機器には、[[三重水素|トリチウム]]を含むものもあり、十分な除去が必要である。トリチウム以外の[[放射性同位体|放射性核種]]は構造物内に安定に存在するので、廃棄物管理中の拡散はないと考えられる<ref name=":0" />。
: 核融合炉が実現した場合も、[[高レベル放射性廃棄物|高レベル廃棄物]]は生じないが、プラズマ対向機器であるブランケット、遮へい材は高ベータ・ガンマ廃棄物に分類され、中深度処分が必要となる。その他の大部分は低レベル廃棄物として、浅地（ピットまたはトレンチ）中処分される<ref name=":0" /><ref>{{Cite web|和書|title=低レベル放射性廃棄物｜放射性廃棄物について｜原子力政策について｜資源エネルギー庁 |url=https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/rw/gaiyo/gaiyo01.html |website=www.enecho.meti.go.jp |access-date=2023-08-14}}</ref>。クリアランス廃棄物がリサイクルできると考えた場合、100年待ったときの放射性廃棄物は、低レベル廃棄物が1000トン、高ベータ・ガンマ廃棄物が4500トン程度となる<ref name=":1">{{Cite web|和書|title=核融合炉の廃棄物の放射能は速やかに減衰する – NPO法人 国際環境経済研究所｜International Environment and Economy Institute |url=https://ieei.or.jp/2021/12/expl20211228/ |website=ieei.or.jp |access-date=2023-08-14 |language=ja}}</ref>。これは、[[核分裂炉]]と比べて決して少ない量ではなく、むしろ多い。それでも、高レベル廃棄物の処分がないため、処理費用において、核分裂炉に比べて優位である<ref name=":1" />。
; 三重水素の影響
: 三重水素（トリチウム）は放射性物質であり正しく管理される必要がある。特に環境への漏洩阻止は重要である。トリチウムは容易に通常の水素と置き換わるので、漏洩した場合にはトリチウムを含む水（[[トリチウム水]]）や有機物が自然界で生じ、これらは生物の体内に容易に取り込まれる。[[トリチウム水]]が生物に取り込まれた場合、通常の水と化学的な相違点は僅かであるため特定の臓器などに蓄積されたり体内で濃縮されたりすることはほとんどなく、通常の水と同じように排出される。生物がトリチウム水を取り込んだ場合に半分が排出されるまでの時間（[[被曝#内部被曝の特徴|生物学的半減期]]）は、7日から18日程度とされる<ref name=":4">{{Cite web|和書|url=https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/takakusyu/pdf/011_03_01.pdf |title=トリチウム水およびトリチウム化合物の生体影響について |access-date=2023-08-15 |publisher=経済産業省}}</ref>。また、トリチウム水を取り込むと、約5~6%が有機結合型トリチウムに移行する<ref name=":4" />。有機結合型トリチウムの生物学的半減期は40日程度（短半減期成分）もしくは1年程度（長半減期成分）である<ref name=":4" />。これまでの動物実験や疫学研究から、トリチウムが他の放射線や[[核種]]と比べて特別に影響が大きいという事実は認められていない<ref name=":4" />。従って、生体影響は、他の核種と同様に、被ばく線量および線量率に依存して決まる<ref name=":4" />。
;三重水素の核兵器への転用
:三重水素は初期の[[水素爆弾|核融合兵器実験]]にも用いられたが、後に、核融合燃料に液体三重水素ではなく入手性/取り扱いともにより容易な固体の重水素化リチウムを原料として使用する[[テラー・ウラム型]][[水素爆弾]]が使用されるようになっている<ref>{{Cite web|和書|title=核兵器／核物質の解説長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA) |url=https://www.recna.nagasaki-u.ac.jp/recna/fms/nuclear_commentary |website=www.recna.nagasaki-u.ac.jp |access-date=2023-08-15}}</ref>。また、現在の技術では核融合爆弾の起爆には[[原子爆弾]]を用いる外に手段が無いため、既存の核保有国以外が製造することは容易ではない。ただし、重水素とトリチウムのD-T反応を利用して原子爆弾の威力を増す[[ブースト型核分裂兵器]]やそれを用いた核融合兵器のプライマリー部、D-T反応で放出される中性子をもちいる[[中性子爆弾]]の原料として利用される。また、通常の放射性物質同様、三重水素を原料にした[[汚い爆弾]]は容易に作ることができるがエネルギーが低いため皮膚すら貫通できず、他の材料を使った汚い爆弾に比べると実害は少ないとされる。
; 運転中の放射線
: 核融合炉の運転中はプラズマから強烈な[[中性子線]]が放射されるため、様々な防護措置をとってもある程度漏れることが予想されている。現状、[[ITER]]で予定される運転中の放射線は、敷地境界で1年間に約0.1ミリ[[シーベルト]]以下と[[自然放射線]]の10分の1に当たる量である<ref>{{Cite web|和書|title=参考資料1　ITER計画懇談会審議経過 |url=http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/old/iter01/siryo/siryo16/siryo2sanko22.htm |website=www.aec.go.jp |access-date=2023-08-15}}</ref>。
; マグネットのクエンチ
: [[磁石|マグネット]]・[[超伝導電磁石|クエンチ]]とは、[[超伝導電磁石|超伝導コイル]]の一部が[[超伝導|超伝導状態]]から外れる（[[常伝導|常伝導状態]]になる）際に発生する、マグネット動作の異常終了のことである。これはマグネット内部の磁場が大きすぎたり、磁場の変化率が大きすぎたり（渦電流が発生し、その結果銅の母材が加熱される）、あるいはその2つの組み合わせによって起こる。まれに磁石の欠陥がクエンチの原因となることがある。クエンチが起こると、その場所に急激なジュール熱が発生し、温度が上昇する。これにより、周囲も常伝導状態に転移し、連鎖反応的にさらに加熱が進む。超伝導コイルの大きさにもよるが、磁石全体が数秒かけて急速に常伝導化する。電流の急激な減少は、キロボルトの[[誘導電流|誘導電圧]]スパイクと[[電弧|アーク放電]]を引き起こす可能性がある<ref>{{Cite journal|author=高畑一也|year=2005|title=核融合用超伝導コイル|url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspf/81/4/81_4_273/_pdf|journal=プラズマ・核融合学会誌|volume=第81号|pages=273-279}}</ref>。磁石が永久的に損傷することはまれだが、局部的な加熱、高電圧、大きな機械的な力によって部品が損傷することがある。

== 核反応 ==
核融合炉において、使用が検討されている反応は主に以下の4つである。なお、以下 Dは重水素、Tは[[三重水素]]（トリチウム）、pは水素原子核、nは中性子、Heは[[ヘリウム]]である。

=== D-D反応 ===
:<math>\rm D + D \to T + {\it{p}}</math>
:<math>\rm D + D \to {}^{3}He + {\it{n}}</math>

自然界でも[[原始星]]で起きている反応の一つである。地球上の水素全体の中での存在割合は、軽水素が99.985 %、[[重水素]]は比率としては0.015 %と僅かではあるが自然界に普通に存在し、主な水素の存在形態である水自体が自然界に無尽蔵に近いほど存在するため、重水素もほぼ無尽蔵に得られる<ref>{{Cite journal|author=平田久子|year=2014|title=私の算額：海水の重水素で核融合炉を何年運転できるか|url=https://www.tech.tsukuba.ac.jp/2014/report2014/report11.pdf|journal=筑波大学技術報告|volume=35|pages=47-50}}</ref>。核融合炉として使用する場合、資源の入手性が非常に良いが、D-T反応の10倍厳しい反応条件を達成する必要がある<ref name=":5" />。D-D反応で生ずる[[三重水素|トリチウム]]、[[ヘリウム|ヘリウム3]] をその場で燃焼させる[[ミューオン触媒核融合|触媒式]]D-D反応が検討されている<ref name=":5" />。D-D反応を用いた核融合炉が実用化されれば、「[[プラズマ]]→[[電気]]」という直接的なエネルギー変換が可能な[[MHD発電]]も期待できる。なお、[[JT-60]]を含む多くの核融合開発を目的とした実験装置において、重水素を使う実験が行われている結果、この反応が起きている。もちろん、投入エネルギーを回収出来る程ではない。

=== D-T反応 ===
[[ファイル:Deuterium-tritium fusion.svg|thumb|D-T反応]]
:<math>\rm D + T \to {}^{4}He + {\it{n}} \ (14MeV)</math>

反応条件が緩やかで、最も早く実用化が見込まれている反応である。この反応によって放出されるエネルギーは同じ質量の[[ウラン]]による核分裂反応のおよそ4.5倍、[[石油]]を燃やして得られるエネルギーの800万倍に達する<ref>{{Cite web|和書|title=京大スタートアップが拓く、核融合発電の時代 |url=https://www.technologyreview.jp/s/285517/kyoto-university-startup-pioneers-the-era-of-fusion-power-generation/ |website=MITテクノロジーレビュー |access-date=2023-08-16 |language=ja}}</ref>。核融合炉として使用する場合トリチウムの入手性に課題がある。トリチウムは、自然界においては大気の上層でわずかに生成されるのみであり、半減期の短い放射性物質であるため事実上採取は不可能である。また、[[高速中性子]]が生成するため、炉の材質も検討が必要となる。現在検討されているトリチウム入手法は、核融合炉の周囲を[[リチウム]][[ブランケット]]で囲み炉から放出される高速中性子を減速させつつ核反応を起こし、

:<math>\rm {}^{6}Li + {\it{n}} \to T + ^{4}He + 4.8MeV</math>
:<math>\rm {}^{7}Li + {\it{n}} \to T + {}^{4}He +  {\it{n}} - 2.5MeV</math>

トリチウムを得ることである<ref name=":6">{{Cite journal|author=小西哲之、榎枝幹男|year=2005|title=連載講座 よくわかる核融合炉のしくみ 第６回 エネルギー変換を行い，燃料を生産する ブランケット|url=http://www.aesj.or.jp/~fusion/aesjfnt/jp/publications/rensai1/rensai06.pdf|journal=日本原子力学会誌|volume=47|pages=54-60}}</ref>。このときブランケットは高速中性子を減速して遮蔽し、燃料を生産し、反応熱を取り出すと言う3つの役割をすることになる<ref name=":6" />。[[欧州トーラス共同研究施設]]（JET）および[[TFTR]]においてはこの反応を主反応とするような実験が行われた<ref>{{Cite web|和書|title=核融合炉のエネルギー発生量で新記録 {{!}} Nature ダイジェスト {{!}} Nature Portfolio |url=https://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/v19/n5/%E6%A0%B8%E8%9E%8D%E5%90%88%E7%82%89%E3%81%AE%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E7%99%BA%E7%94%9F%E9%87%8F%E3%81%A7%E6%96%B0%E8%A8%98%E9%8C%B2/113258 |website=www.natureasia.com |access-date=2023-08-16 |language=ja}}</ref><ref>{{Cite journal|author=西谷健夫他|year=1995|title=小特集 TFTRのDT実験|journal=プラズマ・核融合学会誌|volume=71|pages=212-241}}</ref>。出力100万kWの核融合炉では、消費する燃料（重水素と三重水素）は1日で約500gあれば充分である<ref>{{Cite journal|author=岡野邦彦他|year=2006|title=連載講座 よくわかる核融合炉のしくみ 第12回 核融合炉実現に向けて ―核融合研究開発の将来像|url=http://www.aesj.or.jp/~fusion/aesjfnt/jp/publications/rensai1/rensai12.pdf|journal=日本原子力学会誌|volume=48|pages=48-56}}</ref>。

=== D-<sup>3</sup>He反応 ===
:<math>\rm D + {}^{3}He \to  {}^{4}He +  {\it{p}}</math>
イオン温度が10億度の条件において、反応断面積がD-D反応の5 - 6倍程度の条件とD-T反応程ではないが比較的起こりやすく、発生するエネルギーも荷電粒子である陽子が担い[[放射性物質]]も出ないので炉が扱いやすいこと（ただし副反応のD-D反応で中性子が発生する）と、直接電力にエネルギーを変換することが可能なことで注目されている反応である<ref name=":7">{{Cite journal|author=後藤誠一|year=1996|title=太陽の恵みヘリウム3ー月面資源のエネルギー利用に向けてー|url=http://seisan.server-shared.com/481/481-67.pdf|journal=生産と技術|volume=48|pages=67-69}}</ref>。しかしながら、地球上には[[ヘリウム3]]がほとんど存在しないことが大きな問題である。[[アポロ計画]]の探査の結果[[太陽風]]により[[月]]には大量の[[ヘリウム3]]が存在することが明らかになった<ref name=":7" /><ref>{{Cite web |title=NASA Announces Innovative Moon Partnerships {{!}} APPEL Knowledge Services |url=https://appel.nasa.gov/2018/12/12/nasa-announces-innovative-moon-partnerships/ |website=appel.nasa.gov |access-date=2023-08-16}}</ref>が、実用化は非常に遠いと見られる。[[中華人民共和国]]の[[月探査計画]]はヘリウム3採取を最終目的にしている<ref>{{Cite web|和書|title=中国、世界初の「マイクロ波月面」画像作成に成功 {{!}} SciencePortal China |url=https://spc.jst.go.jp/news/090701/topic_1_01.html |website=spc.jst.go.jp |access-date=2023-08-16}}</ref>。

=== p-<sup>11</sup>B反応 ===
材料の問題は、中性子を発生しない核融合によって大幅に低減する。理論的には、最も反応性の高い、中性子を発生しない燃料は<sup>3</sup>Heである。しかし、相当量の <sup>3</sup>Heを得るには、[[月]]や[[天王星]]や[[土星]]の大気中で大規模な地球外採掘を行う必要がある<ref name=":7" />。したがって、これに次ぐ最も有望な燃料の候補は、容易に入手できる[[陽子]]と[[ホウ素]]の融合である。これらの核融合は中性子を放出しないが、エネルギーを直接電力に変換できる高エネルギーの荷電アルファ（[[ヘリウム]]）粒子を生成する<ref name=":5" />。

:<math>\rm {\it{p}} + {}^{11}B \to 3^{4}He + 8.68MeV</math>

上記の反応では中性子は発生しないが、副反応（ホウ素とアルファ粒子の反応など）で、中性子が発生する。その発生率は、陽子とホウ素の１反応あたり、0.005を超えることはない<ref>{{Cite journal|author=深井佑造|year=1990|title=P11B核融合反応プラズマからの中性子発生|url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspf1958/63/4/63_4_248/_pdf/-char/ja|journal=核融合研究|volume=第63巻|pages=248-270}}</ref>。つまり、材料の[[放射化]]は大幅に抑えられる。この反応に最適な温度は123 keVであり、D-T反応に比べて10倍高い<ref>{{Cite journal|last1=Feldbacher|first1=Rainer|last2=Heindler|first2=Manfred|date=1988|title=Basic cross section data for aneutronic reactor |journal=Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section A: Accelerators, Spectrometers, Detectors and Associated Equipment|volume=271|issue=1|pages=55–64|doi=10.1016/0168-9002(88)91125-4|bibcode=1988NIMPA.271...55F|issn=0168-9002}}</ref> 。さらにエネルギー閉じ込めは、D-T反応と比較して500倍良くなければならない。また出力密度は、D-T反応の2500倍低く、現在主流の閉じ込めコンセプトでは核融合炉として成立させるのは難しい。

=== 核融合反応の候補 ===
下記の核融合反応が核融合炉で利用可能と考えられている。
:<math>\rm D + T \to {}^{4}He \ (3.52) + {\it{n}} \ (14.06)</math>
:<math>\rm D + {}^{3}He \to {}^{4}He \ (3.67) + {\it{p}} \ (14.67)</math>
:<math>\rm D + D \to {}^{3}He \ (0.82) + {\it{n}} \ (2.45)</math>
:<math>\rm D + D \to T \ (1.01) + {\it{p}} \ (3.03)</math>
:<math>\rm {\it{p}} + {}^{6}Li \to {}^{4}He \ (1.7) + {}^{3}He \ (2.3)</math>
:<math>\rm {\it{p}} + {}^{6}Li \to {}^{4}He + D + {\it{p}} - 1.5MeV</math>
:<math>\rm {\it{n}} + {}^{6}Li \to {}^{4}He + D + {\it{n}} - 1.5MeV</math>
:<math>\rm D + {}^{6}Li \to {}^{7}Li \ (0.6) + D + {\it{p}} \ (4.4)</math>
:<math>\rm D + {}^{6}Li \to {}^{4}He + T + {\it{p}} + 2.3MeV</math>
:<math>\rm D + {}^{6}Li \to 2^{2}He \ (1.12)</math>
:<math>\rm D + {}^{6}Li \to {}^{7}Be \ (0.43) + {\it{n}} \ (2.97)</math>
:<math>\rm D + {}^{6}Li \to {}^{4}He + {}^{3}He + {\it{n}} + 1.8MeV</math>
:<math>\rm D + {}^{6}Li \to {}^{4}He + 2D + {\it{n}} - 1.5MeV</math>
:<math>\rm {}^{3}He + {}^{6}Li \to 2^{4}He + {\it{p}} + 16.9MeV</math>
:<math>\rm {\it{p}} + T \to {}^{3}He + {\it{n}} -0.8MeV</math>
:<math>\rm {\it{p}} + {}^{11}B \to 3^{4}He + 8.68MeV</math>
（カッコ内は反応生成物のエネルギー [[電子ボルト|MeV]]）<ref>関昌弘編『核融合炉工学概論』[[日刊工業新聞社]] ISBN 4-526-04799-6</ref>

== エネルギー回収方法 ==
核融合が生み出すエネルギーを回収するために、複数のアプローチが提案されている。最も単純なものは、流体を加熱することである。最初に目標とされるD-T反応は、そのエネルギーの大半を高速の中性子として放出する。電気的に中性である中性子は、磁気閉じ込めの影響を受けない。中性子は炉心プラズマを取り囲むリチウムを含むの厚い「ブランケット」に捕獲される。高エネルギーの中性子が当たると、ブランケットが発熱し、そこに冷却材を通すことで、熱を外に取り出すことができる。最終的に水を加熱し、タービンを回して発電する。

他の燃料を使用する設計、特に陽子-ホウ素核融合反応では、荷電粒子の形でより多くのエネルギーを放出する。このような場合、電荷の動きに応じた電力変換システムが可能である。直接エネルギー変換は、核融合反応生成物を直接用いて電圧を維持する方法として、1980年代にローレンス・リバモア国立研究所（LLNL）で開発された。これは、48パーセントのエネルギー回収効率を実証している<ref>{{Cite journal|author=W. L. Barr他|year=1982|title=Experimental results from a beam direct converter at 100 kV|url=https://link.springer.com/article/10.1007/BF01054580|journal=Journal of Fusion Energy|volume=第2巻|pages=131–143}}</ref>。

日本の[[逆転磁場配位型|逆転磁場配位（FRC）]]方式に基づく D-3He 概念設計炉 アルテミス（ARTEMIS）<ref>{{Cite journal|author=百田 弘、高橋俊樹|year=2022|title=直線開放端磁場プラズマによる先進燃料核融合炉の研究例 ～ARTEMIS を振り返って～|url=https://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2022_02/jspf2022_02-86.pdf|journal=プラズマ・核融合学会誌|volume=第98巻|pages=86-90}}</ref> の開発においては、直線[[加速器]]の逆過程を用いて荷電粒子を減速し、発電に利用する進行波型直接エネルギー変換器（TWDEC）が提案され、現在も研究が進められている<ref>{{Cite journal|author=竹野裕正|year=2022|title=直接エネルギー変換の模擬実験研究の現状と展望|url=https://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2022_02/jspf2022_02-91.pdf|journal=プラズマ・核融合学会誌|volume=第98巻|pages=91-95}}</ref>。

スタートアップのヘリオンエナジーおよびTAEテクノロジーの提案する発電炉は、荷電粒子による直接発電を前提に開発を行っているが詳細は不明である<ref>{{Cite web |title=Helion {{!}} Our technology |url=https://www.helionenergy.com/our-technology/ |website=Helion |access-date=2023-08-02 |language=en-US}}</ref><ref>{{Cite web|和書|title=核融合発電が再び流行りだす |url=https://www.axion.zone/12409378/ |website=アクシオン｜次世代ビジネスメディア |date=2023-03-24 |access-date=2023-08-02 |language=ja |last=https://www.facebook.com/TheEconomist}}</ref>。

== 現状と問題点 ==
高温のプラズマが飛び去っていかないで安定的に維持されるためには、何らかの封じ込めが必要である。太陽は重力による封じ込めをおこなっており、地球上では磁場による封じ込め（[[トカマク型]]・[[ヘリカル型|ヘリカル型）]]レーザーによる封じ込めがある<ref>{{Cite web|和書|title=プラズマ中の"揺らぎ"を診る ~ 核融合発電実現に向けて~ |url=https://laborify.net/2020/05/09/kawachi-plasma-nuclear-fusion/ |website=Laborify |date=2020-05-09 |access-date=2022-06-12 |language=ja}}</ref>。

現在最も研究が進んでいるのは、磁気閉じ込め方式の一種である[[トカマク型]]であり、現在計画中のITER（国際熱核融合実験炉）もこの方式を用いている。核融合の際に発生する中性子が炉壁などを傷つけるためにその構成材質の耐久力が問題となるとの指摘がある。とりわけITERでは前述の「D-D反応」よりも[[反応断面積]]が約100倍大きい「D-T反応」を用いる計画であるが、D-T反応では[[高速中性子]]が発生する。

この高速中性子により炉の構成材内部では使用温度等にも依存するが、「照射脆化」が進行する場合がある。つまり原子が弾き飛ばされ材料内部に「原子空孔」（vacancy）や「格子間原子」が生じ（「フレンケル対」）、弾き出しが連鎖衝突した結果発生するつながった「[[格子欠陥]]」（「カスケード損傷」）により、これらの点欠陥集合体や析出物の形成等が生じることによって材料の降伏強度が低まるに伴い脆くなる。また構成材の原子が核変換を起こし発生したヘリウムガスが原子空孔と結びつくことによって材料の内部に空洞を形成し膨張する問題（[[スウェリング (核物理学)|スウェリング]]）も発生する場合がある。こういった劣化が一定以上進めば、もはや十分な耐久性を維持出来ないために交換を必要とする。また、脆化以外にも材料が放射化することから、低レベル放射性廃棄物が生成する問題も挙げられているが、[[低放射化フェライト鋼]]を用いることでITERのテストブランケットの構造材料は目処がたっている。<ref>{{PDFlink|[http://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2016_06/jspf2016_06-444.pdf プロジェクトレビュー ITER 計画の機器開発・製作の進展 １０．ITER テストブランケット計画]}} 河村繕範ら,　J. Plasma Fusion Res. 92, 444 (2016) </ref>また、構成材内部とは別に炉壁表面でも問題が生じる。プラズマイオンが炉壁に衝突すると「物理スパッタリング」と呼ばれる炉壁材料原子のはじき出しが起こる。炉壁面に炭素素材を使用すると、水素同位体の入射でメタンやエチレンなどの炭化水素が発生して、炉壁が損耗する化学スパッタリングという現象も起こる。

その他、各種の閉じ込め方式があり、それぞれ各国で研究が進められている。日本では、核融合研究の中心は[[日本原子力研究所]]の「[[JT-60]]」（[[トカマク型]]）、[[核融合科学研究所]]などで進めている[[LHD]]([[ヘリカル型]])と、[[大阪大学]]で研究が進んでいる[[レーザー核融合]]である。

圧力の低いプラズマを保持することは比較的容易であるが、エネルギーとして利用可能な程度の圧力のプラズマを保持するのは難しく、前述のJT-60で、高圧力プラズマの保持時間は30秒程度である（この30秒という時間は加熱装置である中性粒子ビーム入射装置の稼働時間の上限で決まっている。現在ITERのために1000秒以上稼働できる装置を開発中である。）。また、保持のために投入するエネルギーに比較して反応により得られるエネルギーはまだ小さく（[[エネルギー増倍率]]（Q値） - 1.25）、世界の各種装置で核融合利得1を若干超える程度である。これらの課題については、ITERで研究が進められる予定である（ITERの目標値はQ値 - 10）。<ref>[http://www.fusion.qst.go.jp/ITER/iter/page1_6.php ITERの設計とは？]</ref>

== 実用化に向けて ==
{{See also|核融合エネルギー}}
核融合炉の研究は1940年代から始まった。

1998年8月7日、日本原子力研究所([[日本原子力研究開発機構]]を経て現[[量子科学技術研究開発機構]])の[[JT-60]]は、重水素プラズマ試験において、重水素×三重水素換算で、[[エネルギー増倍率]]Q=1.25の出力を確認した<ref>{{Cite web|和書|title=1.25倍の核融合出力を達成 |url=https://www.qst.go.jp/site/jt60-english/5593.html |website=www.qst.go.jp |access-date=2022-12-16}}</ref>。

小型核融合炉について、米国の[[ロッキード・マーチン]]社は2014年10月16日、10年以内にトラックに積み込める大きさの100メガワット級商用小型核融合炉を開発すると発表した<ref>{{Cite web|和書|date=|url=http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20141016-00000054-biz_reut-nb|title=米ロッキード、10年以内に小型核融合炉実用化へ （ロイター）|work=|author=|publisher=[[Yahoo!ニュース]] BUSINESS|accessdate=2014-10-19}}</ref>。2013年2月7日に発表された[[高ベータ核融合炉]]の続報である。

2015年、[[九州大学]]と[[核融合科学研究所]]は、それまで理論的には予想されていながら実験で確認されていなかったプラズマの流れが磁場の乱れによって脆弱化する現象の観測に成功した<ref>「九州大学と核融合科学研究所、磁場の乱れ影響を観測」『[[日本経済新聞]]』2015年1月19日</ref>。

2016年3月18日、[[文部科学省]]は現在の実証炉ITER（イーター）以降の次世代炉を[[三菱重工]]・[[東芝]]([[東芝エネルギーシステムズ]])と共同で研究し2035年頃の建設を目指す予定と[[日本経済新聞]]が報じた<ref>{{Cite web|和書|date=|url=https://www.nikkei.com/article/DGXLASGG14H3J_Y6A310C1EAF000/|title=核融合炉、国内で研究　文科省が三菱重・東芝などと|work=|author=|publisher=日経新聞|accessdate=2016-03-18}}</ref>

2017年8月9日、[[岐阜県]][[土岐市]]にある核融合科学研究所は[[LHD (プラズマ装置)|大型ヘリカル装置（LHD / 超伝導核融合プラズマ実験装置）]]を使った実験で、世界で初めてプラズマ中のイオン温度を核融合発電に必要とされる1億2000万℃まで達成させることに成功したと発表した。再現実験も行い、恒常的にプラズマ温度を1億2000万℃まで引き上げられることも確認したという。今後は高密度化などによりさらに高性能なプラズマの生成を目指し、今世紀半ばには核融合発電を実現したいとしている<ref>{{Cite news | title = 核融合発電の実用化を目指し1億2000万℃を達成 | newspaper = [[メ〜テレ]]（名古屋テレビ） | date = 2017-08-09 | url = https://www.nagoyatv.com/news/?id=170759&p=3}}</ref><ref>{{Cite news | title = プラズマ1億2000万度 核融研、目標温度に到達 | newspaper = [[岐阜新聞]] | date = 2017-08-10 | url = http://www.gifu-np.co.jp/news/kennai/20170810/201708100904_30238.shtml}}</ref><ref>{{Cite news | title = 核融合研、核融合炉の実用化に不可欠なイオン温度1億2000万度を達成 | newspaper = [[財経新聞]] | date = 2017-08-11 | url = https://www.zaikei.co.jp/article/20170811/391599.html}}</ref>。

2018年3月9日、米国[[マサチューセッツ工科大学]]（MIT）が企業と協力して、発電可能な核融合炉を15年以内に建設する計画を発表した<ref>[http://news.mit.edu/2018/mit-newly-formed-company-launch-novel-approach-fusion-power-0309 MIT and newly formed company launch novel approach to fusion power. Goal is for research to produce a working pilot plant within 15 years.] MIT News（March 9, 2018）2018年3月28日閲覧</ref>。

2021年12月30日、中国科学院合肥物質科学研究院プラズマ物理研究所が、プラズマ維持時間1056秒の世界最長記録を達成したと主張<ref>{{Cite web |title=中国の「人工太陽」、プラズマ維持時間１０５６秒を記録　世界最長 |url=http://jp.news.cn/2022-01/02/c_1310405465.htm |website=jp.news.cn |access-date=2022-05-10}}</ref>。

2022年2月9日、欧州トーラス共同研究施設（JET、トカマク）が、5秒間、59メガジュール（MJ）のエネルギーをD-T反応で発生した。これまでの記録は1997年の4秒間、21.7MJであった。今回の[[エネルギー増倍率]]（Q値）は0.33に相当する。<ref>{{Cite web|和書|title=核融合炉のエネルギー発生量で新記録 {{!}} Nature ダイジェスト {{!}} Nature Portfolio |url=https://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/v19/n5/%E6%A0%B8%E8%9E%8D%E5%90%88%E7%82%89%E3%81%AE%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E7%99%BA%E7%94%9F%E9%87%8F%E3%81%A7%E6%96%B0%E8%A8%98%E9%8C%B2/113258 |website=www.natureasia.com |access-date=2023-08-04 |language=ja}}</ref>

2022年12月5日、米国ローレンスリバモア国立研究所の国立点火施設で、192本の紫外線レーザーで2.05 メガジュール (MJ) のエネルギーを供給することで核融合のしきい値を超え、3.15 MJ の核融合エネルギー出力が得られたと発表された<ref>{{Cite web|和書|title=国立点火施設が核融合点火を実現|url=https://www.llnl.gov/news/national-ignition-facility-achieves-fusion-ignition |website=www.llnl.gov |access-date=2022-12-16}}</ref>。

== スタートアップの動き ==

* 2022年3月10日トカマク・エナジー（英国）がプラズマ温度1億℃を達成。[[球状トカマク]]型。2030年代初頭の核融合パイロットプラントの運転開始を目指している。<ref>{{Cite web|和書|title=イギリスの核融合ベンチャー、トカマク・エナジー。民間初・プラズマ温度｢1億度｣達成 |url=https://www.businessinsider.jp/post-251580 |website=BUSINESS INSIDER JAPAN |date=2022-03-10 |access-date=2022-05-10 |language=ja |first=三ツ村 |last=崇志}}</ref> 出資金額は約76億円。
* コモンウェルス・フュージョン・システムズ（米国）。2030年代初期までに商用化を目指す。<ref>{{Cite web|和書|title=実用的な核融合炉 |url=https://www.technologyreview.jp/l/technology/269661/practical-fusion-reactors/ |website=MITテクノロジーレビュー |access-date=2022-05-10 |language=ja}}</ref> 小型の[[トカマク型]]の実証装置を2025年に向け建設中。<ref>{{Cite web|和書|title=核融合エネの実現近いか 投資マネー呼ぶ |url=https://jp.wsj.com/articles/nuclear-fusion-attracts-startupsand-skeptics-11636597980 |website=WSJ Japan |access-date=2022-05-10 |language=ja |first=Giulia |last=Petroni}}</ref>
* ジェネラル・フュージョン（加）。[[磁化標的核融合]]炉。実証プラントを2025年稼働予定。<ref>{{Cite web|和書|title=近未来テクノロジー見聞録(8) ジェフベゾスも出資の核融合ベンチャーGeneralFusionが実証プラントを建設 |url=https://news.mynavi.jp/techplus/article/kinmirai-technology-kenbunroku-8/ |website=TECH+ |date=2021-06-28 |access-date=2022-05-10 |language=ja}}</ref>
* ヘリオンエナジー（米）。2021年7月商用核融合炉を着工。<ref>{{Cite web|和書|title=ゼロカーボン電力の時代を切り開く――米Helionが初の商用核融合施設を着工 - fabcross for エンジニア |url=https://engineer.fabcross.jp/archeive/210909_fusion-facility.html |website=fabcross for エンジニア - エンジニアのためのキャリア応援マガジン |date=2021-09-08 |access-date=2022-05-10}}</ref>
* TAEテクノロジー（米）。[[逆転磁場配位型]]炉。2030年迄にプロトタイプ炉の稼働を目指している。<ref>{{Cite web|和書|title=世界初の「核融合スタートアップ」を支える、ある日本人科学者の肖像 |url=https://wired.jp/2020/03/29/tae-technologies/ |website=WIRED.jp |date=2020-03-29 |access-date=2022-05-10 |language=ja-JP |first=Condé |last=Nast}}</ref>
* ヘリカル・フュージョン（日）。[[ヘリカル型]]<ref>{{Cite web|和書|title=【日本初】磁場閉じ込め方式で商用核融合炉の開発を目指すフルスタック核融合スタートアップ「株式会社Helical Fusion」を設立 |url=https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000089262.html |website=プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1｜PR TIMES |access-date=2022-06-12}}</ref>。[[核融合科学研究所]]の研究者らによるスタートアップ<ref>{{Cite web|和書|title=Team |url=https://www.helicalfusion.com/team-1 |website=Helical Fusion |access-date=2022-06-12 |language=ja}}</ref>。

== 核融合炉の種類 ==
* [[磁場閉じ込め方式]]
** [[トカマク型]]
** [[球状トカマク]]
** [[ヘリカル型]]
** [[磁気ミラー型]]
** [[逆磁場ピンチ型]]
** [[逆転磁場配位型]]
** [[スフェロマック型]]
** [[高ベータ核融合炉]]
* [[慣性閉じ込め方式]]
** 磁気絶縁方式慣性核融合（Magnetically Isolated Inertial Confinement Fusion＝MICF）：慣性閉じ込め方式と[[磁場閉じ込め方式]]との混合型。迷走ホットエレクトロン（プラズマを構成する電子のうち、プラズマ中の他の粒子に衝突してエネルギーを失うよりも早くエネルギーをもって流出する電子）は磁場を作り出すが、この磁場は熱伝導に対する絶縁効果を備えている。そこでMICFは非常に高効率のレーザーを用いて2つのアイデア、つまり熱絶縁と慣性閉じ込めを同時に実現しようというもの。 [[AT&T]][[ベル研究所]]研究員だった[[長谷川晃 (物理学者)|長谷川晃]]（[[2010年]]時点では[[大阪大学]][[名誉教授]]）が理論を提唱した。
** [[レーザー核融合]]
** [[重イオン慣性核融合]]
** [[バブル核融合]]
** [[フューザー]]
** [[慣性静電閉じ込め核融合]]
** [[Zマシン|Zピンチ核融合]]：米国[[サンディア国立研究所]]が保有する[[Zマシン]]は、この方法で2003年3月に重水素燃料のみを用いた実験において核融合を達成した<ref name="SandiaNewsRelease2003-04-07">[https://share.sandia.gov/news/resources/releases/2003/nuclear-power/Zneutrons.html Huge pulsed power machine enters fusion arena Z produces fusion neutrons, Sandia scientists confirm]</ref>。
* その他
** [[焦電核融合]]
** [[ミューオン触媒核融合]]
** [[磁化標的核融合]]
** 磁気絶縁方式慣性核融合（Magnetically Isolated Inertial Confinement Fusion＝MICF)

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist}}

== 参考資料 ==
*『最新核エネルギー論 エネルギー技術としての「核分裂」と「核融合」』[[学習研究社]]、1990年4月1日発行
*『プラズマエネルギーのすべて』日本実業出版社、2007年3月1日発行

== 関連項目 ==
* [[国際核融合材料照射施設]]
* [[核融合エネルギー]]
* [[毛利衛]] - 元[[宇宙飛行士]]。専門は核融合炉壁材料。

== 外部リンク ==
* [https://www.qst.go.jp/ 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構]
* [https://www.nifs.ac.jp/index.html 自然科学研究機構 核融合科学研究所]
* [http://www.triam.kyushu-u.ac.jp/ 九州大学応用力学研究所高温プラズマ理工学研究センター]
* [https://atomica.jaea.go.jp/ 原子力百科事典 ATOMICA トップページ]

{{原子炉}}
{{核技術}}
{{核融合実験装置}}
{{発電の種類}}

{{Normdaten}}
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[[カテゴリ:エネルギー]]