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数学、特に[[抽象代数学]]において、'''次数付き環'''(じすうつきかん、{{lang-en-short|graded ring}}; 次数付けられた環)あるいは'''次数環'''とは <math>R_i R_j \subset R_{i+j}</math> を満たす[[アーベル群]] <math>R_i</math> の直和として表すことのできる[[環 (数学)|環]]のことである<ref name="Lang, p=427">{{harvnb|Lang|2002|p={{google books quote|id=Fge-BwqhqIYC|page=427|427}}}}</ref>。[[多項式環]]の[[斉次多項式]]への分解を一般化した概念である。添え字集合は通常非負の整数の集合か整数の集合であるが、任意の[[モノイド]]あるいは[[群 (数学)|群]]でもよい。直和分解は通常'''次数化'''(gradation)あるいは'''次数付け'''(grading)と呼ばれる。 '''次数(付き)加群'''(graded module)は同様に定義される(正確な定義は下を見よ)。これは[[次数付きベクトル空間]]の一般化である。次数付き環でもあるような次数付き加群は'''次数付き代数'''(graded algebra)と呼ばれる。次数付き環は次数付き '''Z'''-代数と見なすこともできる。 結合性は次数付き環の定義において重要でない(実は全く使われない)。したがってこの概念は[[非結合的多元環]]に対しても適用できる。例えば、{{仮リンク|次数付きリー環|en|graded Lie algebra}}を考えることができる。 == 基本的な性質 == <math>A = \bigoplus_{i\in \mathbb N_0}A_i = A_0 \oplus A_1 \oplus A_2 \oplus \cdots</math> を次数付き環とする。 * <math>A_0</math> は ''A'' の部分環である<ref name="Lang, p=427" />(とくに、加法の単位元 0 と乗法の単位元 1 は次数 0 の斉次元である)。 *<math>A_+ = \bigoplus_{i\in \mathbb N_+}A_i = A_1 \oplus A_2 \oplus \cdots</math> は<math>A</math>のイデアルとなる(これは自然な全準同型 <math>f : A \rightarrow A_0</math>の核であるため、 <math>A_0 \cong A/A_+</math> となる)。 * 各 <math>A_i</math> は <math>A_0</math>-加群である<ref name="Lang, p=427" />。 * 可換 <math>\mathbb{N}_0</math>-次数付き環 <math>A=\bigoplus_{i \in \mathbb{N}_0} A_i</math> が[[ネーター環]]であるのは、<math>A_0</math> がネーター的かつ ''A'' が <math>A_0</math> 上の多元環として有限生成であるとき、かつそのときに限る<ref>{{harvnb|Matsumura|1986|loc=Theorem 13.1}}</ref>。そのような環に対して、生成元を斉次にとることができる。 分解の任意の因子 <math>A_i</math> の元は次数 ''i'' の'''斉次元'''(homogeneous elements)と呼ばれる。 [[イデアル]]や他の部分集合 <math>\mathfrak{a}</math> ⊂ ''A'' が'''斉次'''(せいじ、homogeneous)であるとは次を満たすことである。任意の元 ''a'' ∈ <math>\mathfrak{a}</math> に対して、すべての ''a<sub>i</sub>'' を斉次元として ''a=a<sub>1</sub>+a<sub>2</sub>+...+a<sub>n</sub>'' であるときに、すべての ''a<sub>i</sub>'' が <math>\mathfrak{a}</math> の元である。与えられた ''a'' に対し、これらの斉次元は一意的に定義され、''a'' の'''斉次部分'''(homogeneous parts)と呼ばれる。 ''I'' が ''A'' の斉次イデアルであれば、<math>A/I</math> も次数付き環であり、次の分解をもつ。 :<math>A/I = \bigoplus_{i \in \mathbb{N}_0}(A_i + I)/I</math> 任意の(次数付きでない)環 ''A'' は ''A''<sub>0</sub> = ''A'' および ''i'' > 0 に対して ''A''<sub>''i''</sub> = 0 とすることによって次数付きにできる。これは ''A'' の'''自明な次数化'''(trivial gradation)と呼ばれる。 == 次数付き加群 == [[加群論]]において対応する概念は'''次数付き加群''' (graded module) である。すなわち次数付き環 ''A'' 上の左[[環上の加群|加群]] ''M'' であって :<math>M = \bigoplus_{i\in \mathbb{N}_0}M_i ,</math> であり :<math>A_iM_j \subseteq M_{i+j}</math> でもあるようなものである。 次数付き加群の間の準同型 <math>f: N \to M</math> は、'''次数付き準同型'''(graded morphism)と呼ばれるが、加群の準同型であって、次数付けを反映したもの、すなわち、<math>f(N_i) \subseteq M_i</math> が成り立つようなものである。'''次数付き部分加群'''(graded submodule)は、それ自身次数付き加群であって集合論的包含が次数付き加群の射であるような部分加群である。明示的に書くと、次数付き加群 ''N'' が ''M'' の次数付き部分加群であることと、''M'' の部分加群で <math>N_i = N \cap M_i</math> を満たすことは同値である。次数付き加群の射の核と像は次数付き部分加群である。 例:次数付き環はそれ自身の上の次数付き加群である。次数付き環のイデアルが斉次であることと次数付き部分加群であることは同値である。定義によって部分環が次数付き部分環であることと次数付き部分加群であることは同値である。次数付き加群の[[零化イデアル]]は斉次イデアルである。 例:次数付き環から次数付き環への像が中心に含まれるような次数付き射を与えることは、後者の環に次数付き代数の構造を与えることと同じである。 次数付き加群 ''M'' が与えられたとき、the ''l''-twist of <math>M(l)</math> は <math>M(l)_n = M_{n+l}</math> によって定義される次数付き加群である。(cf. 代数幾何の{{仮リンク|セールのねじり層|en|Serre's twisting sheaf}}) ''M'' と ''N'' を次数付き加群とする。<math>f: M \to N</math> が加群の射であれば、<math>f(M_n) \subset N_{n+d}</math> のときに ''f'' の次数は ''d'' であるという。微分幾何学における微分形式の[[外微分]]は負の次数をもつそのような射の例である。 == 次数付き加群の不変量 == 次数付き可換環 ''A'' 上の次数付き加群 ''M'' が与えられたとき、形式的ベキ級数 <math>P(M, t) \in \mathbb{Z}[\![t]\!]</math> を関連付けることができる: :<math>P(M, t) = \sum \ell(M_n) t^n</math> (<math>\ell(M_n)</math> は有限であると仮定している。)これは ''M'' の[[ヒルベルト–ポアンカレ級数]]と呼ばれる。 次数付き加群は加群として有限生成なときに有限生成という。生成元は(斉次部分におきかえることで)斉次にとることができる。 ''k'' を体、''A'' を多項式環 <math>k[x_0, \dots, x_n]</math>、''M'' を ''A'' 上有限生成な次数付き加群とする。このとき関数 <math>n \mapsto \dim_k M_n</math> は ''M'' のヒルベルト関数と呼ばれる。この関数は十分大きい ''n'' に対して ''M'' の[[ヒルベルト多項式]]と呼ばれる{{仮リンク|整数値多項式|en|integer-valued polynomial}}と一致する。 == 次数付き多元環 == 環 ''R'' 上の[[環上の多元環|代数]] ''A'' は環として次数付きのときに'''次数付き多元環'''('''次数付き代数'''、graded algebra)である。 ''R'' が次数付きでないような一般の場合には(特に ''R'' が体であるとき)、自明な次数付けが与えられている(''R'' のすべての元は次数 0 である)と考える。したがって ''R'' ⊆ ''A''<sub>0</sub> であり各 ''A''<sub>''i''</sub> は ''R'' 加群である。 環 ''R'' が次数付き環でもあるような場合には、次のことを要求する。 :<math>A_iR_j \subseteq A_{i+j}</math> および :<math>R_iA_j \subseteq A_{i+j}</math>. 言い換えると、''A'' が ''R'' 上左かつ右次数付き加群であることを要求する。 次数付き多元環の例は数学においてよく現れる。 * [[多項式環]]。次数 ''n'' の斉次元はちょうど次数 ''n'' の斉次[[多項式]]である。 * [[ベクトル空間]] ''V'' の[[テンソル代数]] ''T''<sup>•</sup>''V''。次数 ''n'' の斉次元はランク ''n'' の[[テンソル]] ''T''<sup>''n''</sup>''V'' である。 * [[外積代数]] Λ<sup>•</sup>''V'' および[[対称代数]] ''S''<sup>•</sup>''V'' もまた次数付き代数である。 * 任意の[[コホモロジー論]]における[[コホモロジー環]] ''H'' <sup>•</sup> もまた次数付きであり、''H''<sup>''n''</sup> たちの直和である。 次数付き代数は[[可換環論]]と[[代数幾何学]]、[[ホモロジー代数]]、そして[[代数トポロジー]]においてしばしば使われる。1つの例は斉次[[多項式]]と[[射影多様体]]の緊密な関係である。(cf. [[斉次座標環]]。) == G-次数環と多元環 == 上記の定義は添え字集合として任意の[[モノイド]] ''G'' を使った次数付き環に一般化できる。'''''G''-次数環'''(''G''-graded ring)''A'' は直和分解 :<math>A = \bigoplus_{i\in G}A_i </math> をもった環であって :<math> A_i A_j \subseteq A_{i \cdot j}</math> が成り立つようなものである。 今や"次数環"の概念は '''N'''-次数環と同じものである。ただし '''N''' は[[自然数|非負整数]]が加法についてなすモノイドである。次数加群や代数についての定義もまた添え字集合 '''N''' を任意のモノイド ''G'' にとりかえることによって拡張できる。 注意: * 環が単位元をもつことを要求しない場合、[[モノイド]]のかわりに[[半群]]でもよい。 例: * 群は自然に対応する[[群環]]を次数付ける。同様に、[[モノイド環]]は対応するモノイドによって次数付けされる。 * {{仮リンク|超代数|en|superalgebra}} は [[巡回群|Z<sub>2</sub>]]-次数代数の別名である。[[クリフォード代数]]はその例である。ここで斉次元は次数 0(偶数)かまたは 1(奇数)である。 == 反可換性 == いくつかの次数付き環(または多元環)は{{仮リンク|反交換|en|Anticommutativity}}構造をもつ。この概念は、次数化の[[モノイド]]の、2元からなる体 '''Z'''/2'''Z''' の加法的モノイドへの準同型を要求する。具体的には、'''signed monoid''' は対 (Γ, ε) からなる。ただし Γ はモノイドであり ε : Γ → '''Z'''/2'''Z''' は加法的モノイドの準同型である。'''反交換 Γ-次数環'''(anticommutative Γ-graded ring)は Γ によって次数付けされた環 ''A'' であって次を満たす。 :すべての斉次元 ''x'' と ''y'' に対して、<math>xy = (-1)^{\varepsilon(\deg x)\,\varepsilon(\deg y)} yx</math> === 例 === * [[外積代数]]は反可換代数の例である。構造 ('''Z'''<sub>≥ 0</sub>, ε)、ただし ε: '''Z''' → '''Z'''/2'''Z''' は商写像、によって次数付けされている。 * {{仮リンク|超可換代数|en|supercommutative algebra}}('''歪可換結合環'''(skew-commutative associative ring)と呼ばれることもある)は、反可換 ('''Z'''/2'''Z''', ε) -次数代数と同じものである。ただし ε は '''Z'''/2'''Z''' の加法的構造の恒等[[自己準同型]]である。 == 例 == * 多項式環 <math>A = k[t_1, \ldots, t_n]</math> は(多項式の)次数によって次数付きである。これは次数 ''i'' の斉次多項式からなる <math>A_i</math> の直和である。 * ''S'' を次数付き整域 ''R'' のすべての0でない斉次元からなる集合とする。このとき ''R'' の ''S'' による[[環の局所化|局所化]]は '''Z'''-次数付けられた環である。 == 脚注 == {{reflist}} == 参考文献 == * Bourbaki, N. (1974). ''Algebra I'' (Chapters 1-3), ISBN 978-3-540-64243-5, Chapter 3, Section 3. * {{Lang Algebra}} * Matsumura, H. (1986), ''Commutative ring theory.'' Translated from the Japanese by M. Reid. Second edition. Cambridge Studies in Advanced Mathematics, 8. * {{cite book |last1 = Năstăsescu |first1 = C. |last2 = van Oystaeyen |first2 = F. |year = 2004 |title = Methods of graded rings |series = Lecture Notes in Mathematics |volume = 1836 |url = {{google books|ydtyCw1QJyMC|Methods of graded rings|plainurl=yes}} |publisher = Springer-Verlag |isbn = 3-540-20746-5 |mr = 2046303 |ref = harv }} == 関連項目 == * {{仮リンク|付随する次数環|en|Associated graded ring}}: 必ずしも次数付けられていない環とその真のイデアル(の冪からなるフィルター)から得られる次数環 * [[次数付き微分環]] * {{仮リンク|フィルター付き代数|en|Filtered algebra}}、一般化したもの * {{仮リンク|次数付き|en|Graded (mathematics)}} * {{仮リンク|次数付き圏|en|Graded category}} * {{仮リンク|次数付きリー環|en|Graded Lie algebra}} * [[次数付きベクトル空間]] {{DEFAULTSORT:しすうつきかん}} [[Category:抽象代数学]] [[Category:環論]] [[Category:数学に関する記事]]
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