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[[線型代数学]]における有限次元[[内積空間]] ''V'' の'''正規直交基底'''(せいきちょっこうきてい、{{lang-en-short|''orthonormal basis''}})は[[正規直交系]]を成すような ''V'' の[[基底 (線型代数学)|基底]]である<ref>{{cite book | last=Lay | first=David C. | title=Linear Algebra and Its Applications | publisher=[[Addison–Wesley]] | year=2006 | edition = 3rd | isbn=0-321-28713-4}}</ref><ref>{{cite book | last=Strang | first=Gilbert | authorlink=Gilbert Strang | title=Linear Algebra and Its Applications | publisher=[[Brooks Cole]] | year=2006 | edition = 4th | isbn=0-03-010567-6}}</ref><ref>{{cite book | last = Axler | first = Sheldon | title = Linear Algebra Done Right | publisher = [[Springer Science+Business Media|Springer]] | year = 2002 | edition = 2nd | isbn = 0-387-98258-2}}</ref>。 == 概要 == 有限次元[[内積空間]] ''<math> V </math> における''基底 <math> B = \{ \boldsymbol{e_i} | i \in I \} </math> が全ての <math> \boldsymbol{e_i} </math> において <math> \langle \boldsymbol{e_i}, \boldsymbol{e_j} \rangle = \delta_{ij} </math> ([[クロネッカーのデルタ]])を満たすとき、この基底 <math> B </math> を正規直交基底という。すなわちノルムが1に正規化され全ての元が互いに直交した基底をいう。 例えば、[[ユークリッド空間]] '''R'''<sup>''n''</sup> の[[標準基底]]は、ベクトルの[[点乗積]]を内積としての正規直交基底である。また、標準基底の[[回転変換|回転]]や[[鏡映変換|鏡映]](一般に任意の[[直交変換]])による像もまた正規直交基底であり、なおかつ '''R'''<sup>''n''</sup> の任意の正規直交基底はこの方法で得られる。 一般の内積空間 ''V'' に対して、その正規直交基底は ''V'' 上の正規化された[[直交座標系]]を定めるのに利用できる。そのような座標系のもとでは内積をベクトルの点乗積と同一視することができるから、正規直交基底の存在については(一般の[[ハメル次元|有限次元]]内積空間を調べるのではなくて)点乗積を伴う '''R'''<sup>''n''</sup> の場合を調べれば十分である。従って任意の有限次元内積空間は正規直交基底を持つが、実際にこれを得るには任意の基底に[[グラム・シュミットの正規直交化法]]を用いればよい。 [[函数解析学]]では、正規直交基底の概念を一般の(必ずしも有限次元でない)内積空間([[前ヒルベルト空間]])に対しても定義することができる<ref>{{cite book | last=Rudin | first=Walter | authorlink=Walter Rudin | title=Real & Complex Analysis | publisher=[[McGraw-Hill]] | year=1987 | isbn=0-07-054234-1}}</ref>。前ヒルベルト空間 ''H'' が与えられたとき、''H'' の正規直交基底とは、''H'' の[[正規直交系]]であって、''H'' を位相的に生成するものをいう。即ち、''H'' の各ベクトルが、基底に属するベクトルの[[線型結合#一般化|''無限''線型結合]]として一意に表される。この場合の正規直交基底を、''H'' の'''ヒルベルト基底'''と呼ぶこともある。この意味での正規直交基底は、無限線型結合を用いることから、一般には[[基底 (線型代数学)|ベクトル空間としての基底]](ハメル基底)でないことに注意すべきである。よりはっきり述べれば、正規直交基底によって[[線型包|張られる部分空間]](正規直交基底に属するベクトルの''有限''線型結合全体)は全空間 ''H'' において[[稠密集合|稠密]]ではあるが、全空間 ''H'' に一致するとは限らない。 == 例 == * ベクトルの集合 {''e''<sub>1</sub> = (1, 0, 0), ''e''<sub>2</sub> = (0, 1, 0), ''e''<sub>3</sub> = (0, 0, 1)} は '''R'''<sup>3</sup> の正規直交基底を成す(標準基底)。実際、これら三つのベクトルの内積が零となること(⟨''e''<sub>1</sub>, ''e''<sub>2</sub>⟩ = ⟨''e''<sub>1</sub>, ''e''<sub>3</sub>⟩ = ⟨''e''<sub>2</sub>, ''e''<sub>3</sub>⟩ = 0)および大きさが 1 に等しいこと(‖''e''<sub>1</sub>‖ = ‖''e''<sub>2</sub>‖ = ‖''e''<sub>3</sub>‖ = 1)は計算すれば直接的に分かるから {''e''<sub>1</sub>, ''e''<sub>2</sub>, ''e''<sub>3</sub>} は正規直交系である。'''R'''<sup>3</sup> の各ベクトル (''x'', ''y'', ''z'') は線型和<div style="margin: 1ex 3em;"><math> (x,y,z) = xe_1 + ye_2 + ze_3</math></div>として表せるから、 {''e''<sub>1</sub>, ''e''<sub>2</sub>, ''e''<sub>3</sub>} は '''R'''<sup>3</sup> 全体を張り、基底を成す。またさらに、標準基底を原点を通る軸の周りで回転させたものや、原点を通る平面に関して反転させたものも '''R'''<sup>3</sup> の正規直交基底となることが示せる。 * [[指数函数]] ''f''<sub>''n''</sub>(''x'') = exp(2π''inx'') を元とする集合 {''f''<sub>''n''</sub> : ''n'' ∈ '''Z'''} は自乗可積分函数の成す複素線型空間 L<sup>2</sup>([0, 1]) の基底になる。このことは[[フーリエ級数]]論において基本的である。 * 集合 {''e''<sub>''b''</sub> : ''b'' ∈ ''B''} を<div style="margin: 1ex 3em"><math>e_b(c)=\begin{cases}1 & (\text{if }b=c)\\ 0 & \text{(otherwise)}\end{cases}</math></div> で定めると、これは自乗総和可能数列の成す空間 ℓ<sup>2</sup>(''B'') の基底を成す。 * [[スツルム・リウヴィル固有問題]]の固有函数全体 * [[直交行列]]は、その各列ベクトルから成る集合が正規直交系を成す。 == 基本公式 == === 正規直交展開 === 任意のベクトル ''<math> \boldsymbol{x} \in V </math>'' は正規直交基底 <math> B </math> を用いて次のように展開できる。 <math>\boldsymbol{x} = \sum_{\boldsymbol{b}\in B} \langle \boldsymbol{x} , \boldsymbol{b}\rangle \boldsymbol{b}</math> すなわち展開対象と各基底ベクトルの内積がその基底ベクトルの係数となっている。このことは基底による線形結合<ref group="注釈">基底は ''<math> V </math>'' を張るため ''<math> \boldsymbol{x} \in V </math>'' を線形結合で表現できる</ref>と基底ベクトルの内積を取ることで証明できる<ref group="注釈"><math>\langle \boldsymbol{x} , \boldsymbol{e_i}\rangle = \sum_{j} c_j \langle \boldsymbol{e_j}, \boldsymbol{e_i}\rangle = \sum_{j} c_j \delta_{ij} = c_i</math></ref>。 === ノルム === ''x'' の[[ノルム]]は :<math>\|x\|^2=\sum_{b\in B}|\langle x,b\rangle |^2</math> と書ける。''B'' が[[非可算無限集合|非可算]]の場合であっても、この和に現れる項は[[ほとんど (数学)|可算個の例外を除いて]]全て 0 となるので、和は[[well-defined|意味を持つ]]。''x'' をこのような和として表したものを ''x'' の'''フーリエ級数展開'''とも呼び、上記ノルムの表示式は普通[[パーセヴァルの等式]]として知られる。{{仮リンク|一般化されたフーリエ級数|en|Generalized Fourier series}}を参照。 ''B'' がヒルベルト空間 ''H'' の正規直交基底であるとき、[[全単射]]な[[線型作用素]] Φ: ''H'' → ℓ<sup>2</sup>(''B'') で、''H'' の各元 ''x'', ''y'' に対して :<math>\langle\Phi(x),\Phi(y)\rangle=\langle x,y\rangle</math> を満たすものが存在する、という意味で ''H'' は(狭義のヒルベルト空間)ℓ<sup>2</sup>(''B'') に「同型」である。 == 不完全直交系 == ヒルベルト空間 ''H'' と ''H'' の互いに直交するベクトルからなる集合 ''S'' が与えられたとき、''H'' の ''S'' を含む最小の閉部分空間 ''V'' をとれば、''S'' は ''V'' の直交基底になる。''V'' は全空間 ''H'' よりも小さいかもしれないし、一致するかもしれないが、前者のとき直交系 ''S'' は'''不完全''' (''incomplete'') であるといい、後者のとき'''完全''' (''complete'') であるという。 == 正規直交基底の存在 == [[ツォルンの補題]]と[[グラム・シュミットの正規直交化法]]を用いて(あるいはもっと単純に、整列順序と超限帰納法を用いて)、「任意の」ヒルベルト空間が基底を持つこと、従って正規直交基底を持つことが示される。さらに、一つの空間のどの二つの正規直交基底も同一の[[濃度 (数学)|濃度]]を持つことが示せる(このことは、大きいほうの基底が可算濃度となりうるかどうかで場合分けして、通常の有限次元ベクトル空間の場合({{仮リンク|ベクトル空間の次元定理|en|dimension theorem for vector spaces}})の証明とほぼ同じ方法で示せる)。ヒルベルト空間が[[可分距離空間|可分]]となるのは、それが[[可算]]正規直交基底をもつときであり、かつそのときに限る(これは選択公理を用いなくとも言える)。 == 等質空間として == {{Main|スティーフェル多様体}} 一つの空間に対して、その正規直交基底全体の成す集合は[[直交群]] ''O''(''n'') に対する[[主等質空間]]となり、正規直交[[標構|''n''-標構]] (''n''-frame) 全体の成す[[スティーフェル多様体]] ''V''<sub>''n''</sub>('''R'''<sup>''n''</sup>) と呼ばれる。 別な言い方をすれば、正規直交基底全体の成す空間は、直交群と似ているが、しかし基点が決まっていないという点で異なる。つまり、直交空間が与えられたとき、その正規直交基底の標準的な選び方というものは存在しないが、正規直交基底を一つ決めれば基底と直交群との間に一対一対応が存在する。具体的に、線型写像は基底の行き先を決めれば一つに決まるから、可逆な線型変換で任意の基底を別の任意の基底に写すことができるのと全く同様に、直交変換によって任意の'''直交'''基底を別の任意の'''直交'''基底に写せることが確かめられる。 他にも、''k'' < ''n'' のときの「不完全」正規直交基底(正規直交 ''k''-標構)全体の成すスティーフェル多様体 ''V''<sub>''k''</sub>('''R'''<sup>''n''</sup>) は、やはり直交群の等質空間となるが、しかし'''主'''等質空間ではない。実際、任意の ''k''-標構は直交変換で他の任意の ''k''-標構に写すことができるが、そのような直交変換は一意には決まらない。 == 脚注 == {{脚注ヘルプ}} === 注釈 === {{Notelist}} === 出典 === {{reflist}} == 関連項目 == * [[基底]] * [[シャウダー基底]] * [[グラム・シュミットの正規直交化法]] {{Linear algebra}} {{DEFAULTSORT:せいきちよつこうきてい}} [[Category:線型代数学]] [[Category:関数解析学]] [[Category:フーリエ解析]] [[Category:数学に関する記事]] [[da:Ortonormal basis]]
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