歴史地震のソースを表示

[[ファイル:1755 Lisbon earthquake.jpg|thumb|270 px|[[1755年]]の[[リスボン地震 (1755年)|リスボン地震]]による災禍を伝える銅版画 ([[:en:Chalcography|en]]) [[挿絵]]／同年の作。]]
[[ファイル:Kawaraban-of-1855-Ansei-Edo-earthquake.png|thumb|270 px|[[安政の大地震]]絵図／[[1855年]]に発生した[[安政江戸地震]]による災禍を伝えている<!--※上の「銅版画挿絵」ように「木版画」による「瓦版」と書きたいのですが、確証がありません。判る方は加筆を。-->。]]
[[ファイル:大津波記念碑.JPG|thumb|270 px|日本の岩手県宮古市にある[[大津浪記念碑]]／[[1933年]]（[[昭和]]8年）に発生した[[昭和三陸地震]]の教訓を永く後世に伝えるべく同年に建立された[[災害記念碑]]。]]

'''歴史地震'''（れきしじしん）とは、[[歴史時代]]に発生した[[地震]]のうち、[[地震計]]を始めとする近代的[[観測装置|観測機器]]が存在しなかった[[時代]]に属するもので<ref name="kotobank">{{Cite web|和書|url=https://kotobank.jp/word/歴史地震-687806 |title=歴史地震 |work=小学館『デジタル[[大辞泉]]』 |publisher=[[コトバンク]] |accessdate=2018-06-19 }}</ref>、なおかつ、[[記録]]で確かめられるものをいう。それらは、[[古文書]]や[[災害記念碑]]という形で今日まで伝えられてきた。[[英語]]には "'''historical earthquake'''" という語 (''cf.'' [[:en:List of historical earthquakes|en]]) があるが、[[日本語]]の「歴史地震」よりやや広義かも知れない。

日本語（[[専門用語]]）「歴史地震」において[[定義]]されている「[[歴史]]」は、記録された[[人間社会]]の出来事の変遷を指すため、時期的に該当していようとも、伝わっていながら信頼するに足る記録の見当たらないものや、[[考古学]]的・[[地球科学]]的[[知見]]（[[遺跡]]発掘や[[地質調査]]を始めとする様々な学問から得られる[[情報]]と見解）によってその発生が推測あるいは確認されながら歴史として[[検証]]できないものは、歴史地震と見なされない。つまり、確かな記録の残っていることが「歴史地震」の定義上の前提である<ref name="Sugimura">杉村政徳,「{{PDFlink|[https://web.archive.org/web/20110601034655/http://www.seis.nagoya-u.ac.jp/STAFF/ando_new/lecture/sugimura.pdf 歴史地震 -宝永地震を中心に-]}}」（2011年6月1日時点の[[インターネットアーカイブ|アーカイブ]]）</ref><ref group="*">出典の定義するところでは「史料が残っていることが前提」ということであるが、定義上「[[史料]]」には記録だけでなく[[遺物]]・[[遺跡]]・[[口頭伝承]]なども含まれ、「記録」とは意味が大きく異なる。したがって、本項では狭義で「確かな記録の残っていることが前提」とした。このように、本項では「記録」と「史料」を明確に書き分ける。</ref>。

一方、[[先史時代]]（記録が残されるようになる以前の時代）に発生した地震は'''先史地震'''といい<ref name="Sugimura" /><ref name="kotobank-先史地震">{{Cite web|和書|url=https://kotobank.jp/word/先史地震-686520 |title=古地震 |work=『デジタル大辞泉』 |publisher=コトバンク |accessdate=2018-06-19 }}</ref>、[[地質学]]的成果や[[考古学]]的成果などがこれを[[証明]]し得る。なお、[[日本の歴史]]では、中央政権の勢力範囲において[[古墳時代]]以前を先史時代としているが、地域によって差異が大きく、例えば[[蝦夷地]]（北海道）は[[江戸時代]]以降に歴史時代が始まる<ref name="Sugimura" /><ref group="*">出典は歴史地震の範疇を[[奈良時代]]以降としているが、奈良時代の前の[[飛鳥時代]]を先史時代と見なすことには無理があるため、調整した。</ref>。日本では[[1885年]]（[[明治]]18年）に地震計を始めとする近代的観測体制の整備が開始されたため、歴史地震は一般的に[[1884年]]（明治17年）以前に発生したものを指す<ref>青木元・吉田明夫, 2002, [https://doi.org/10.5026/jgeography.111.2_200 内陸地震活動の統計的性質 活動期と静穏期及び大地震の続発性] 地学雑誌 Vol.111, No.2 P.200-211, {{doi|10.5026/jgeography.111.2_200}}</ref>。また、先史時代と歴史時代の別無く、さらには、歴史的（[[歴史学]]的）検証の有無を問わず、近代的観測機器の登場以前に発生した地震を総じて'''[[古地震]]'''という<ref name="Sugimura" /><ref name="kotobank-古地震">{{Cite web|和書|url=https://kotobank.jp/word/古地震-686054 |title=古地震 |work=『デジタル大辞泉』 |publisher=コトバンク |accessdate=2018-06-19 }}</ref>。

歴史地震の調査研究は、将来の発生を想定される地震の予測など、[[防災]]上欠かすことのできないもので、[[巨大地震]]発生の再来間隔などを論ずる[[地震学]]の一分野であり、ある地域の地震災害の正確な評価を行うためには、地震によって開放されるエネルギーを見積もる必要があるが、計器観測が始まって以来の地震のみではデータの蓄積として不充分であり、古地震学の助けを借りる必要性が生じる<ref name="Terry">T.レイ・T.C.ウォレス 『地震学 下巻』 柳谷俊訳、古今書院、2002年, p676-689.ISBN 9784772230162</ref>。

歴史地震は歴史研究の一部を担う考古学の知見でもあり、'''[[地震考古学]]'''の分野も開拓されている<ref name="Sangawa1">寒川旭 『地震考古学 -遺跡が語る地震の歴史』 中公新書、1992年, ISBN 9784121010964</ref><ref name="Sangawa2">寒川旭 『地震の日本史 大地は何を語るのか』 中公新書、2011年, はじめにi-iv.ISBN 9784121919229</ref>。

== 古文書の調査 ==
歴史地震の研究は古文書の調査から始まる。古文書は国家の歴史を記した[[正史]]から個人の[[日記]]など多種多様であり、誤記、誤植、誇張、伝聞によるものなどを含み、その信頼性に疑問点があるものも多く、可能な限り多くの史料を付き合せ、検証する作業が要求される<ref>[[石橋克彦]](2004)、「[https://historical.seismology.jp/ishibashi/feeling.html 歴史地震研究で感じたこと]」, {{naid|10011587208}}</ref><ref name="jgeography.108.4_346"/>。また、偽書も多いが、ある目的に対して偽書であっても、そこに記された事項が全て偽りであるとは限らず、記された天変地異が真実である可能性が否定できない場合もある。天変地異は発生した当時の人々にとっては誤魔化すことができない真実であって、これを記すことにより偽書に真実味を持たせる行為もあり得るからである<ref name="soran">宇佐美龍夫 『最新版 日本被害地震総覧』 東京大学出版会、2003年, p37-48, p564.</ref>。

戦乱による社会的混乱、[[火災]]による焼失、[[津波]]による古文書の流失など、[[地震災害]]自体が過去の記録の喪失につながる場合も少なくない。例えば房総沖における[[慶長地震|慶長津波]]の記録が少ないのは、その後のより甚大な[[元禄地震]]津波で失われた可能性があるとされる<ref>伊藤純一, 2005, {{PDFlink|[http://www.histeq.jp/kaishi_20/23-Ito2.pdf 慶長九年十二月十六日(1605.2.3)の津波の房総における被害の検証]}}, 歴史地震, 第20号, 133-144.</ref>。また、[[宝永地震]]津波により、[[尾鷲]]や土佐[[久礼八幡宮]]でも古記録が流失し、これ以前の歴史は不明な点が多い<ref name="Imamura1943">[[今村明恒]](1943)、「[https://doi.org/10.14834/zisin1929.15.150  慶長九年の東海南海両道の地震津浪に就いて]」 『地震 第1輯』 1943年 15巻 6号 p.150-155, {{doi|10.14834/zisin1929.15.150}}</ref><ref name="ChimeiMie">『日本歴史地名大系24 三重県の地名』 平凡社、1983年</ref><ref name="ChimeiKochi">『日本歴史地名大系40 高知県の地名』 平凡社、1983年</ref>。

=== 記録欠落期間の問題 ===
[[今村明恒]]は、日本の地震活動は、684-887年、1586-1707年、1847年以降が旺盛期であり、[[貞観地震|貞観津波]]など特に規模が大きなものはこの時期に発生していると述べている<ref>[[#Imamura (1941)|今村(1941), p107-121. 地震活動盛衰千五百年]]</ref>。

しかし、各時代の記録密度が均質とは言えず、時代による記録の多寡は見かけ上のものであり、人為的な影響である可能性もある<ref name="Hayakawa">早川由紀夫, 1999, {{PDFlink|[https://www.histeq.jp/kaishi/HE15/HE15_024_029_Hayakawa.pdf 日本の地震噴火が9世紀に集中しているのはなぜだろうか?]}} 歴史地震, 第15号, 24-29.</ref>。地震記録が多くみられる684-887年は、[[六国史]]が編纂された時代に相当し、六国史には[[天人相関説|天人相関思想]]を反映して天変地異が好んで多く収録された背景がある。887年以降は地震の記録量が急速に減少するが、記録欠落期間として認識する必要があり<ref name="jgeography.108.4_346" /><ref>津田秀典・中西達郎, 2017, [https://doi.org/10.5110/jjseg.58.336 日本付近の歴史地震に関するマグニチュード時系列図 -地震記録の欠落の現状-], 応用地質, 第58巻, 第5号, 336-344.</ref>
、室町時代から江戸時代初期の[[検地]]・[[刀狩]]でそれ以前の[[地方書|地方文書]]が回収・処分されたらしいことも影響している<ref>河内一男, 2021, {{PDFlink|[http://www.histeq.jp/kaishi/HE36/HE36_252_kawauchi.pdf ［講演要旨］閖上と汰上は津波起源の地名か]}}, 歴史地震, 第36号, 252.</ref>。

また、記録の地域差も大きく、京都、鎌倉以外の地方は中世以前の記録の現存自体が稀であり、地震の史料集として活用されている武者史料<ref>武者金吉 『大日本地震史料 増訂』,『日本地震史料』 </ref>や新収史料<ref>東京大学地震研究所『新収 日本地震史料 1 - 5巻』,『新収 日本地震史料 補遺』,『新収 日本地震史料 続補遺』</ref>などは、ただでさえ不完全な日本の歴史記録の一部分を抜書きしたものに過ぎない点を認識しておく必要がある<ref name="jgeography.108.4_346" />。

例えば[[伊勢原断層]]の調査の結果、その活動時期は平安時代から江戸時代初期という1000年もの幅を持った推定であったが、その地震が日本三代実録に記録された878年[[相模・武蔵地震]]に対比されたことがある<ref>{{Cite journal|和書|author=松田時彦・由井将雄・松島義章・今永勇・平田大二・東郷正美・鹿島薫・松原彰子・中井信之・中村俊夫・松岡数充 |year=1988 |url=https://doi.org/10.15083/0000032825 |title=伊勢原断層(神奈川県)の試錐による地下調査 : 過去約7000年間の堆積環境と元慶2年地震の変位 |publisher=東京大学地震研究所 |journal=東京大学地震研究所彙報 |volume=63 |issue=2 |page=145-182 |doi.org/10.15083/0000032825 |ref={{SfnRef|松田ら(1988b)}}}}</ref>。しかし、この活動時期には江戸時代以前の大幅な記録欠落期間が含まれ、記録に漏れた大地震である可能性も否定はできない<ref name="jgeography.108.4_346" />。

=== 発震時刻 ===
現代のように時計を持たず厳密な時刻を求めない時代では、発震時刻や地震動の継続時間は記憶や感覚に頼る部分が多く、[[江戸時代]]以前の日本のような[[十二時辰|干支で表現した時刻]]では分解能が低く、2時間程度の不確定性を含むものとなる。不定時法では日の入、日の出の時刻とその前後の[[薄明]]により一時の時間も定時法とは異なり、また[[標準時]]の概念が存在しなかった時代ゆえに、現代の時刻に換算するには[[緯度]]、[[経度]]を考慮する必要が生じる。[[近世]]以前では1日の境が厳密に定められていたわけではなく、[[平安時代]]には[[丑]]刻と[[寅]]刻の間（3時頃）を1日の境界としていた<ref name="jiten">[[宇津徳治]]・嶋悦三・吉井敏尅・山科健一郎 『地震の事典』（第２版）（普及版） 朝倉書店、2010年, ISBN 9784254160536</ref>。

またしばしば、半時、あるいは数刻といった、現代の観測からは信じにくい、1 - 2時間も地震動が継続したような表現が記録にある。これは大地震による恐怖感が誇張的な表現を生んだとする見方もあるが、2011年の[[東北地方太平洋沖地震]]でも観測されたように強い揺れが数分間継続した本震発生以降、数十分間強い[[余震]]が続発し、直後の余震活動をも含めた時間を表しているとも考えられる<ref name="Hoeidaijishin">間城龍男 『[https://ci.nii.ac.jp/ncid/BN12375800 宝永大地震 -土佐最大の被害地震-]』 あさひ謄写堂、1995年, p10-12, p46-106.{{ncid|BN12375800}}</ref>。

=== 暦・日付 ===
; {{Anchors|太陰暦と太陽暦}}太陰暦と太陽暦
世界基準の存在しない時代ゆえ、通常、古記録は国・地域ごとに異なる個別の[[年号]]でもって記されている。
<!--※漢字文化圏もしくは東アジア以外のことも記すのが本来です。その意図をもって改行します。-->

日本・[[朝鮮]]・[[中国]]の場合、[[元号]]の成立以前の時代には、時の為政者（※少なくとも[[改暦]]・[[改元]]の権能者）の治世の何年目かという記述法が採用され、元号の成立以降の時代には、その元号における何年目かという記述法が採用されている。当然、[[日付]]は当時の暦である[[太陰暦]]（今でいう[[旧暦]]）で記されている。当時の太陰暦と現在広く用いられている[[太陽暦]]の日付（旧暦と[[新暦]]の日付）は根本的に違うため、必ずズレが生じる。ゆえに、[[和暦]]の場合など、「□○年○月○日（西暦換算：△年△月△日）」（※□は元号、○は和暦〈太陰暦〉の年月日、△は西暦〈太陽暦〉の年月日）という記述法が、本来は必ずなされるべきである。実際には「□○年（△年）○月○日<!--※ウィキペディアで非常に多い。NHKの歴史番組も該当。-->」「□○年（△年）△月△日<!--※ウィキペディアで散見。-->」「□○年（△年）○月<!--※ウィキペディアとNHKの歴史番組に多い。-->」などという記述法が世に蔓延っているが、これらは「正確でない」のではなく、誤解や新たな誤記の原因となる間違った記述法である。歴史地震研究会では、例えば[[天正地震]]の日付を「1586年1月18日（天正十三年十一月二十九日）」のように、和暦は漢数字を用いて区別するよう推奨している<ref name="histeq">歴史地震研究会, [https://www.histeq.jp/kaishi.html#kitei 会誌「歴史地震」], 『歴史地震』の標準形式.</ref>。

年や月の端境期に近い日付を別の暦の日付に換算すると、月なら1〜2か月、年でも1年、改まる（ズレる）場合が多い。例えば、[[慶長地震]]の発生した日付は[[慶長]]9年[[12月16日 (旧暦)|12月16日]]であるが、西暦換算すると（慶長9年[[11月11日 (旧暦)|11月11日]]が[[グレゴリオ暦]]の1604年12月31日に相当するので）1604年ではなく年を跨いだ1605年の2月3日となる。

; {{Anchors|地震と改元}}地震と改元
元号のある国では、目を見張る[[瑞相]]や治世を危うくするほど禍々しい出来事があった場合、瑞相ならあやからんがため、凶事ならやり過ごす意図などをもって、しばしば[[改元]]が行われた。地震は、ときに瑞相（※厳密には[[仏教]]圏に限る概念）、ときに凶事の最たるものと捉えられ、改元の理由になった<ref>日本における地震と改元の関係についての出典は、神田茂(1970)、「[https://doi.org/10.4294/zisin1948.23.4_335 本邦における被害地震の日本暦の改元について]」 『地震 第2輯』 1970年 23巻 4号 p.335-336 , {{doi|10.4294/zisin1948.23.4_335}}</ref>。一つの例として、安政伊賀地震（[[伊賀上野地震]]）・[[安政東海地震]]・[[安政南海地震]]は[[嘉永]]7年に発生したが、世を安んじるべく「[[安政]]」へ改元されたことで、現在では改元後の元号を冠しているが、地震発生当時の記録者にとっては当然ながら「嘉永」の世であり、「嘉永七年」の出来事として記録されている<ref>湯村哲男(1969)、「[https://doi.org/10.4294/zisin1948.23.4_335 本邦における被害地震の日本暦について]」 『地震 第2輯』 '''22''', pp.253-255, {{doi|10.4294/zisin1948.22.3_253}}</ref>。嘉永年間の出来事に「安政」を冠する整合性については、[[明治]]改元の際にその年（[[慶応]]4年）の[[正月#日本の旧正月|正月]]（旧暦[[1月1日 (旧暦)|1月1日]]）まで遡ったうえでの改元として処理された例に倣い、正しいと解釈されている。

; {{Anchors|誤記}}誤記
歴史記録には日付の[[誤記]]や誤写が少なくない。例えば、[[寛永]]4年[[10月4日 (旧暦)|10月4日]]（{{small|西暦換算}}:1627年11月11日）では、『東宇和郡沿革史』に「地震のため[[道後温泉]]埋没す」、『旧記録抄』に[[伊那谷]]で「大地震、所々に潰家があった」と記録され、さらに寛永4年[[11月23日 (旧暦)|11月23日]]（{{small|西暦換算}}:1627年12月30日）には『泰平年表』に「[[宝永大噴火|富士山噴火]]、江戸降灰四日、其色黒」と記録されているが、この記録を掲載している『大日本地震史料』にそれぞれ[[武者金吉]]と[[大森房吉]]が「寳永四年（[[宝永]]4年、1707年）の誤写なるべし」と註釈を付けている<ref name="Dainippon1943">文部省震災予防評議会 『dcc大日本地震史料 増訂』 1943年 [https://iss.ndl.go.jp/api/openurl?ndl_jpno=46040070 国立国会図書館サーチ]</ref>。このような誤記は歴史地震だけではなく、[[昭和南海地震]]の際に、地震原簿への重複記載により実際には発生していない[[前震]]が記載された例もある<ref>[https://doi.org/10.4294/zisin1948.47.2_183 宇津徳治：1946年南海地震の前震とされている地震について] 『地震 第2輯』 1994年 47巻 2号 p.183,{{DOI|10.4294/zisin1948.47.2_183}}</ref>。地震学者が資料を編纂している際の誤りによっても生じている<ref>加納靖之、{{PDFlink|[http://www.histeq.jp/kaishi_32/HE32_087_093_Kano.pdf ［資料］地震年表や史料集における年月日の取り違え]}} 歴史地震・第32号(2017)</ref>。

; {{Anchors|西暦表記の不統一}}西暦表記の不統一
日本では発生年月日の西暦表記換算は[[グレゴリオ暦]]で一本化されてきた<ref name="jiten" /><ref name="Dainippon1904">[[震災予防調査会]]編 『大日本地震史料』 丸善、1904年 [https://iss.ndl.go.jp/api/openurl?ndl_jpno=59001580 国立国会図書館サーチ]</ref><ref name="soran" /><ref name="rika">国立天文台編 『[[理科年表]]』 丸善</ref>。一方、西洋で使用されていた暦は[[1582年]][[10月4日]]以前は[[ユリウス暦]]であった。グレゴリオ暦とユリウス暦では[[16世紀]]末頃では最大10日の差が存在し、日本の歴史地震は慣例上グレゴリオ暦表記であったため、[[アメリカ海洋大気庁]] (NOAA) の地震カタログは1582年以前はユリウス暦を基本としているのに対し、日本の地震についてはグレゴリオ暦（[[先発グレゴリオ暦]]）と統一されていない<ref>宇津徳治(1990)『[https://ci.nii.ac.jp/ncid/BN04615181 世界の被害地震の表]』, {{ncid|BN04615181}}</ref>。

当時の西洋社会の歴史の上で実際に使われた暦に換算するのが望ましいとの考えから、1582年以前はユリウス暦表記が望ましいとする意見がある<ref name="Hayakawa1997">早川由紀夫・小山真人, 1997, [https://www.jstage.jst.go.jp/article/jgeography1889/106/1/106_1_102/_article/-char/ja 1582年以前の火山噴火の日付をいかに記述するか-グレゴリオ暦かユリウス暦か?], 地学雑誌, 106巻, 1号 p102-104.</ref>一方で、ユリウス暦は西洋で使用されていたのみであり世界共通であったとは言えず、海の潮位の計算など、太陽にリファーされたグレゴリオ暦の方が便利ではないかとの意見もある<ref>茅野一郎, 2003, {{PDFlink|[http://www.histeq.jp/kaishi_19/32-Kayano.pdf 歴史地震の西暦表記について]}}, 歴史地震, 第19号, 181-182.</ref>。歴史地震研究会では、1582年以前の地震の発生日時はユリウス暦表記を推奨している<ref name="histeq" /><ref>歴史地震研究会, [http://www.histeq.jp/kaishi.html#kitei 会誌「歴史地震」], 投稿シート</ref>。{{see also|日本の歴史地震の西暦換算}}

=== 震度分布 ===
[[ファイル:1707Hoei earthquake intensity.png|thumb|right|270px|宝永地震の[[震度分布]]]]
古文書にある記録から、その地域の[[震度]]の推定が可能となる。古文書には「地震」や「小地震」、「大地震」といった記録が見られ、当時は[[マグニチュード]]の概念はなく、これは震度の大小を表すものと解釈される。「小地震」「地震」「大地震」などの記録が登場する頻度と、近年の観測記録との比較から、それぞれの記録がどの程度の震度に相当するかを見積もった研究もある<ref>都司嘉宣, 1982, [https://doi.org/10.4294/zisin1948.35.1_35 安政2年9月28日(1855-XI-7)の遠江沖地震について], 地震 第2輯, 35-51.</ref><ref>宇佐美龍夫, 2002, {{PDFlink|[http://www.histeq.jp/kaishi_18/01-Usami.pdf 歴史史料の「日記」の地震記事と震度について]}}, 歴史地震, 第18号, 1-14.</ref>。684年の[[白鳳地震]]や1707年の[[宝永地震]]などの長い地震動を伴う[[巨大地震]]では「未曾有」や「前代未聞」などの記述も見られる。

家屋の倒壊についても「不残潰レ」、「半潰レ」、「事ナシ」などの記録（宝永地震における『[[谷陵記]]』）、また具体的に何軒のうち、何軒潰れの記録から倒壊率を求めることが可能である。当時の木造家屋と現代の建物を単純比較することはできないが、類似した建物の被害状況を比較することによりその都市における推定震度が求められる。また、[[墓石]]、[[石灯篭]]、[[土塀]]、[[石垣]]などの倒壊、破損状況、地割れ、泥の噴出などの現象、および「大地動震て歩行する事を得ず。」（『[[鸚鵡籠中記]]』）、「庭中水船水コボル、十分之中五分斗也」（『基煕公記』）などの記録も震度推定の材料となる<ref>{{PDFlink|[http://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/kyoukun/rep/1855-ansei-edoJISHIN/1855-ansei-edoJISHIN_04_chap1.pdf 安政江戸地震]}} 安政江戸地震 内閣府防災情報のページ</ref><ref>都司嘉宣・纐纈一起 ほか, {{PDFlink|[https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/daidai/h15seika-hokokusho/honbun_final/3_3_3_2_pp433_454.pdf 震度・史料データに基づくモデル化]}} 東京大学地震研究所</ref>{{sfn|宇佐美龍夫|1994}}<ref>宇佐美龍夫 『[https://ci.nii.ac.jp/ncid/BN00792560 歴史地震事始]』 1986年, {{ncid|BN00792560}}</ref>。

=== 震央および震源域 ===
推定震度分布から、おおよその[[震央]]が推定される。強震域の分布を近代に発生した地震と比較することにより、おおよその震源域の推定が可能である。しかし記録の欠損により正しい震央や震源域が不明であるものも少なくない。また、断層の破壊開始点である地震学的な震源やその地上投影である震央は地震計が無ければ定まらない。宝永地震や安政東海・南海地震の様な震源域が広大な巨大地震では震央位置は無意味である上に誤解を与えることもある<ref>[[#Ishabashi (2014)|石橋(2014), p7-8.]]</ref>。

内陸の地震では、地震学的震央に近い位置では発震後家が直ちに潰れて圧死する場合が多くなると考えられるため、家屋倒壊率ではなく死者数の分布から、より地震学的震央に近いものが推定できるとの研究もある<ref>都司嘉宣・西山昭仁, 2011, {{PDFlink|[http://www.histeq.jp/kaishi_26/HE26_104.pdf ［講演要旨］寛延四年（1751）越後高田地震および文政十一年（1828）越後三条地震の村落別死者数]}}, 歴史地震, 第26号, 104.</ref>。

地震記録が乏しい中世以前の地震の場合、単にその地震報告が発信あるいは記録された、国府や寺社などの位置を震央とみなしただけの例も多い。そして新たな史料が発見されるとその推定震源域が広がり、地震規模も増大していくことになる。つまり史料不足のために規模が過小評価されていたり、あるいは推定誤差が大きい可能性もある<ref name="jgeography.108.4_346" />。

白鳳地震は古記録には[[飛鳥]]周辺と思われる被害の様相と、[[伊予国|伊予]]および[[土佐国|土佐]]の地変、漠然と諸国に大被害が発生したと記されているのみである。しかし、より詳細な記録を有する宝永地震や安政南海地震の記録と付き合わせることにより、ほぼ同様の[[地殻変動]]が生じているものと推定され<ref>[[#Imamura (1941)|今村(1941), p153-160. 白鳳大地震]]</ref>、さらに近代的観測記録を有する1944年の[[東南海地震]]および1946年の[[昭和南海地震|南海地震]]の地盤変動の水準測量結果を比較することにより、繰り返し発生している[[南海地震]]であると推定された<ref name="Sawamura2">高木金之助編・沢村武雄 「五つの大地震」『四国山脈』 毎日新聞社、1959年, p57-63.</ref>。さらに、[[東海地方]]の遺跡の発掘調査による[[液状化現象|液状化]]痕、海岸の地質調査からほぼ同時期に[[東海地震|東海]]・[[東南海地震]]も連動したと推定され、震源域がさらに広い可能性がある<ref name="Sangawa2" />。

869年の[[貞観地震]]は漠然と[[陸奥国]]地大震動、津波が内陸まで遡上したと読める記録があり、歴史資料の調査あるいは、[[仙台平野]]のトレンチ調査により、[[9世紀]]頃、およびさらに幾層かの有史以前の津波堆積物が内陸まで達していることが明らかになっていた<ref>[[吉田東伍]](1906) [https://cir.nii.ac.jp/crid/1130000795781179136 「貞観十一年 陸奥府城の震動洪溢」]『歴史地理』 第8巻、第12号、1906年</ref><ref name="Iinuma">飯沼勇義 『仙台平野の歴史津波 巨大津波が仙台平野を襲う』 宝文堂、1995年</ref><ref>箕浦幸治(2001) [http://web.bureau.tohoku.ac.jp/manabi/manabi16/mm16-45.html 「津波災害は繰り返す」]</ref>。しかし[[明治三陸地震]]よりも甚大な[[津波]]が発生したことを示唆するもので、ここまで内陸に達する津波記録は近代では存在せず、この地震の実体は不明な点が多いとされていた。[[産業技術総合研究所]]による数値実験解析により''M''8.4の巨大地震と推定されたが<ref>[http://unit.aist.go.jp/actfault-eq/Tohoku/press.html 産業技術総合研究所] 産業技術総合研究所 活断層・地震研究センター 貞観地震に関する成果報告，報道等</ref><ref>宍倉正展・澤井祐紀・行谷祐一・[[岡村行信]](2010) {{PDFlink|[http://unit.aist.go.jp/actfault-eq/Tohoku/no.16.pdf 「平安の人々が見た巨大津波を再現する－西暦869年貞観津波－」]}}</ref>、[[東北地方太平洋沖地震]]の発生はこの地震の全容解明のきっかけとなり、ほぼ同域の広い範囲を震源域とする類似した地震であると考えられるようになった<ref>島崎邦彦(2011) {{PDFlink|[https://www.bousai.go.jp/kaigirep/chousakai/tohokukyokun/1/pdf/5-3.pdf 「超巨大地震，貞観の地震と長期評価」]}}『科学』2011年5月号</ref><ref>[http://www.kahoku.co.jp/spe/spe_sys1062/20110822_06.htm 河北新報2011年08月22日] 「気仙沼、6000年に6回大津波「貞観」石巻以北も到達か」 河北新報、2011年08月22日月曜日</ref>。

1099年の[[康和地震]]は、もともと[[摂津国|摂津]]、[[大和国|大和]]の記録しか存在せず[[畿内]]付近が震央とされていたが、土佐の田畑の沈降記録が発見され、より広い範囲を震源域とする南海地震と推定されることとなった<ref name="Kanda">神田茂(1968): [https://doi.org/10.4294/zisin1948.21.2_142 康和元年土佐における大地震], 地震 第2輯, 21, 2, pp.142-143, {{DOI|10.4294/zisin1948.21.2_142}}</ref>。しかし、その解釈にも疑義が唱えられ、康和南海地震は存在せず永長地震が南海地震を含む可能性があるなど、新たな知見により解釈の変更もあり得る<ref name="Ishibashi(2016)">石橋克彦(2016): {{PDFlink|[http://www.histeq.jp/kaishi_31/HE31_081_088_Ishibashi.pdf ［論説］1099年承徳（康和）南海地震は実在せず，1096年嘉保（永長）地震が「南海トラフ全域破壊型」だった可能性―土佐地震記事を含む『兼仲卿記』紙背の官宣旨案の考察―]}}, 歴史地震, 第31号, 81-88.</ref>。

1703年の[[元禄地震]]は[[関東]]南部の広い範囲に強い震動と沿岸に強大な津波をもたらしているが、[[房総半島]]の隆起記録は1923年の[[関東地震]]に類似し、これにより[[相模トラフ]]のプレート間地震と推定され、津波、隆起の規模はより大きいものであった<ref name="jiten" />。この4年後に宝永地震が発生するなど、過去においても巨大地震が時間的に接近して続発する例がしばしば見られる。

=== 津波の規模 ===
[[ファイル:Shimoji obiiwa1.jpg|thumb|right|240px|[[下地島]]の[[帯岩]]。[[八重山地震]]の津波で打ち上げられたとされる。]]
宝永地震や安政地震などでは、地震後暫くして強大な津波が襲来し、その回数、第何波が最大であったか、津波襲来の継続時間など詳細な記録が残る。また、津波の遡上範囲とその[[標高]]および家屋の流失範囲、あるいは神社、寺院の石段の浸水の段数などの記録により遡上高を見積もることが可能である<ref name="Hoeidaijishin" /><ref>寒川旭 『揺れる大地 日本列島の地震史』 同朋舎出版、1997年, p32.ISBN 9784810423631</ref>。

沿岸の浦々の津波遡上高の分布から凡その震源域や断層モデルの推定も行われる<ref name="Aida1">相田勇, 1981a, [https://hdl.handle.net/2261/12810 東海道沖に起こった歴史津波の数値実験], ''東京大学地震研究所彙報'', '''54''', 329-341.</ref><ref name="Aida2">相田勇, 1981b,「[https://hdl.handle.net/2261/12828 南海道沖の津波の数値実験]」 『東京大学地震研究所彙報』 '''54''', 713-730., {{hdl|2261/12828}}</ref>。

宝永地震では[[済州島]]や[[上海]]に津波が到達したと思われる記録があり<ref name="Tsuji">[[都司嘉宣]]・行谷佑一,2007, {{PDFlink|[https://www2.jpgu.org/meeting/2007/program/pdf/T235/T235-010.pdf 連動型巨大地震としての宝永地震(1707)]}}, 日本地球惑星科学連合2007年大会, T235, 010.</ref>、安政東海地震や安政南海地震の津波は[[サンフランシスコ]]の[[験潮所]]で記録されている<ref name="jiten" /><ref name="Omori">大森房吉(1913)、「[https://hdl.handle.net/2261/17114 本邦大地震概説]」 震災豫防調査會報告 68(乙), 93-109, 1913-03-31, {{naid|110006605117}}, {{hdl|2261/17114}}</ref>。

沿岸で観測された最大の高さと被害の発生した沿岸長に基づいて津波の階級 ''m'' (0 - 4) が提案されている<ref>今村明恒(1949)、「[https://doi.org/10.4294/zisin1948.2.1_23 本邦津浪年代表]」 『地震 第2輯』 1950年 2巻 1号 p.23-28, {{doi|10.4294/zisin1948.2.1_23}}, {{naid|20000770212}}</ref>。これに小規模で被害は及ぼさないが頻度の高い規模として「-1」を加え、エネルギーと関連付けた「[[今村明恒|今村]]・[[飯田汲事|飯田]]の津波規模階級」も提唱された<ref>Iida, K., 1958, Magnitude and energy of earthquakes accompanied by tsunami, and tsunami energy, ''J. Earth Sci.'', Nagoya Univ., '''4''' : 101-112., {{naid|10007192325}}</ref>。最大の ''m'' = 4 とされているものは869年貞観地震、1611年[[慶長三陸地震]]、1707年宝永地震、1771年[[八重山地震]]、1896年明治三陸地震<ref name="Kanamori2">金森博雄 『岩波地球科学選書 地震の物理』岩波書店、1991年</ref>、2011年東北地方太平洋沖地震<ref name="rika" />、1700年[[カスケード地震]]、1730年チリ地震、1868年[[アリカ地震]]、1877年[[イキケ地震]]、1946年[[アリューシャン地震 (1946年)|アリューシャン地震]]、1960年[[チリ地震 (1960年)|チリ地震]]、1964年[[アラスカ地震]]<ref name="Tsunami jiten">首藤伸夫・越村俊一・佐竹健治・今村文彦・松冨英夫 『津波の事典』 朝倉書店、2007年</ref><!--、[[スマトラ島沖地震 (2004年)|2004年スマトラ沖地震]] -->などである。

== マグニチュード ==
{{main|マグニチュード}}
地震学の研究の必要上、あるいは将来の地震の発生を予測する上で過去に発生した地震の規模を知ることは欠かせないものである。しかし地震計による観測記録を有しない歴史地震のマグニチュードは古文書の記録や[[発掘調査]]、地質調査による限定的な情報から推定するより他無い。

1935年、[[チャールズ・リヒター]]により、[[ウッド・アンダーソン式地震計]]で観測された最大振幅に基づく地震の規模である[[リヒター・スケール]]（ローカル・マグニチュード）''M''<sub>L</sub> が考案された<ref>C. F. Richter, 1935, [http://authors.library.caltech.edu/47921/ An instrumental earthquake magnitude scale], ''Bull. Seismol. Soc. Am.'', '''25''': 1-32.</ref>。これ以降、[[表面波マグニチュード]] ''M''<sub>s</sub> <ref name="Gutenberg">B. Gutenberg, 1945, [http://authors.library.caltech.edu/47674/ Amplitudes of surface waves and magnitudes of shallow earthquakes], ''Bull. Seismol. Soc. Am.'', 35,'''1''',3 - 12.</ref>、実体波マグニチュード ''m''<sub>b</sub> <ref name="Gutenberg" />などが登場した。

1943年、[[河角廣]]は震央からの距離 100km における平均震度を ''M''K と定義し、歴史地震においても古文書の被害記録から震度が推定され、規模を表すことが可能であるとした。また ''M''K とリヒタースケールの間には以下の関係があるとされた<ref name="Kawasumi">河角廣(1951)、「[https://hdl.handle.net/2261/11692 有史以來の地震活動より見たる我國各地の地震危險度及び最高震度の期待値]」 東京大學地震研究所彙報 第29冊 第3号, 1951.10.5, pp.469-482, {{hdl|2261/11692}}</ref>。
: <math> M = 4.85 + 0.5 M_K</math>
: ''I'' = 2 ''M'' - 4.605 log ⊿ - 0.00166 ⊿ - 0.32 ( ''I'' : [[気象庁震度階級]], ⊿ : [[震央距離]][km] )
この推定された河角マグニチュードは日本の地震において最大のもので[[貞観地震]]、[[仁和地震]]および[[明応地震]]の''M''8.6であった。これらの地震は''M''K = 7.5とされている。一方で、宝永地震や安政東海・南海地震などでは''M''K = 7. と小数点以下が不定とされ、''M''K = 7を換算して''M''8.4とされていたが、何れもこれらの''M''Kの根拠は示されていない。河角廣はさらに過去の地震記録から日本各地の地震地域係数を定めた日本初の地震ハザードマップである河角マップを作成した<ref name="Kawasumi" /><ref>野家牧雄 「[http://www.structure.jp/columns/column13.html 地域係数の謎]」</ref>。

そのほかに震度4, 5, 6の範囲の面積とマグニチュードの関係式も提唱されている<ref>松村郁栄, 1969, [https://hdl.handle.net/20.500.12099/42152 震度分布と地震のマグニチュードの関係], 岐阜大学教育学部研究報告, 『自然科学』, '''4''', 168-176.</ref>。
: <math>M = log\ S_5 + 3.2</math> ({{math|S{{sub|5}}}} : 震度5以上の範囲[km{{sup|2}}])
: <math>M=(log\ S_6 + 6.66)/1.36</math> ({{math|S{{sub|6}}}} : 震度6以上の範囲[km{{sup|2}}])
[[メルカリ震度階級]]では以下の式が提唱されている<ref>Esteva, L. and E. Rosenblueth, 1964, ''Bol.Soc. Mex. Ing. Sismica.'', '''2''', 1.</ref>。
: <math>I = 8.16 + 1.45\ M - 2.46\ {\rm{ln}}\ r</math> ( ''I'' : メルカリ震度階級, ''r'' : 震央距離[km] )
宇佐美(1970)はこの河角の規模と[[気象庁マグニチュード]]の関係を検討したが、日本の歴史地震のマグニチュードは最大でも8.4 - 8.5程度とされた。この当時は後述のモーメント・マグニチュードという概念は存在せず、世界観測史上最大級の1960年の[[1960年チリ地震|チリ地震]]も''M''8.5とされていた<ref>宇佐美龍夫・茅野一郎, 1970,  [https://hdl.handle.net/2261/12546 河角の規模と気象庁の規模との関係], 東京大学地震研究所彙報, 第48冊第5号,  {{hdl|2261/12546}}</ref>。

1977年、[[金森博雄]]は[[地震モーメント]] ''M''<sub>0</sub> が地震のエネルギーと密接な関係があることを見出し<ref>Kanamori, H., 1977, "[https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1029/JB082i020p02981 The energy release in great earthquakes.]" J. Geophys. Res. 82, 2981-2987., {{doi|10.1029/JB082i020p02981}}</ref>、地震断層の規模から誘導される[[モーメント・マグニチュード]] ''M''w が考案され、''M''8を超えても数値の飽和が無く巨大地震の規模をより適切に表すものとして今日では広く用いられる。しかしモーメント・マグニチュードを正確に求めるためには地球規模の観測網を必要とし、断層の大きさなど震源パラメーターを決定するためには膨大な計算を必要とする。機器観測記録の存在しない歴史地震では、古記録から推定される震度分布や津波の高さを、ほぼ同じ震源域と推定される近代に発生した地震の観測記録に基づく断層パラメータから類推して、数値実験を繰り返し最適化された断層モデルが仮定されてモーメント・マグニチュードが推定される<ref name="Ishibashi">石橋克彦 『大地動乱の時代 -地震学者は警告する-』 岩波新書、1994年, p97-99.</ref>。しかし、情報量は乏しく断層モデルを置く位置を少し変えるなどパラメーターを多少変化させるだけでもマグニチュードは大きく変化し、近似の程度も悪く精度は低い<ref name="Danso">佐藤良輔・阿部勝征・岡田義光・島崎邦彦・鈴木保典 『日本の地震断層パラメーター・ハンドブック』 鹿島出版会、1989年, p120-121.</ref>。

1700年の[[カスケード地震]]は当時の北米大陸における地震記録は現存していないが、『田辺町大帳』、『大槌記録抄』など日本各地における遠地津波の記録が存在し<ref name="Dainippon1943" />、地震の発生した凡その日時やマグニチュード ''M''<sub>w</sub> 8.7 - 9.2 が推定されている<ref>Brian Atwater・六角聰子・佐竹健治・都司嘉宣・上田和枝・David Yamaguchi, 2005, {{PDFlink|[http://www.histeq.jp/kaishi_20/39-Atwater.pdf ［講演要旨］日本の津波から推定された1700年の北米カスケード地震]}}, 歴史地震, 第20号, 270.</ref>。その他、[[チリ]]や[[ペルー]]における地震津波も日本に襲来した記録があり、その規模からこれらのおおよそのマグニチュードの推定が可能である。

== 地震の記録 ==
=== 中東 ===
[[中東]]には[[紀元前20世紀]]以前から地震の記録がある。[[紀元前2150年]]頃の[[ヨルダン]]の[[カラク (ヨルダン)|カラク]]付近の地震は[[旧約聖書]]にある[[ソドムとゴモラ]]の滅亡との関連も唱えられている<ref>ROBERT L. KOVACH., 1988, [https://link.springer.com/article/10.1007%2FBF00137230 Earthquake Hazard in Jordan], ''Natural Hazards'' '''1''', 245-254.</ref>。このほかにも[[聖書]]には[[シリア]]付近と考えられる地震の記述があり、例えば[[サムエル記]]上14・15および[[マタイ]]27・51、28・2などが挙げられる。

[[紀元前2000年]]頃には、シリア、および[[トルクメニスタン]]でそれぞれ地震が発生したとされる<ref name="NOAA">NOAA Significant Earthquake Search [http://www.ngdc.noaa.gov/nndc/struts/results?bt_0=&st_0=1500&type_17=EXACT&query_17=None+Selected&op_12=eq&v_12=&type_12=Or&query_14=None+Selected&type_3=Like&query_3=&st_1=&bt_2=&st_2=&bt_1=&bt_4=&st_4=&bt_5=&st_5=&bt_6=&st_6=&bt_7=&st_7=&bt_8=&st_8=&bt_9=&st_9=&bt_10=&st_10=&type_11=Exact&query_11=&type_16=Exact&query_16=&display_look=1&t=101650&s=1&submit_all=Search+Database NOAA]</ref>。

=== 中国 ===
[[中国]]も古い記録を有する国の一つであり、[[夏 (三代)|夏朝]]の[[紀元前19世紀|紀元前1831年]]に[[泰山]]付近で発生したとされる泰山地震は『[[竹書紀年]]』に記録され、中国で確認される記録としては最古のものである<ref>呉階平・喩滄・季羨林, 2002, 世紀中國學術大典: 測繪學, 大氣科學, 固體地球物理學, 應用地球物理學, 海洋科學. 福建教育出版社.</ref><ref>Bamboo Annals, listed under Xia chapters on King Fa's 7th year.</ref>。[[アメリカ海洋大気庁|NOAA]]の地震年表に登録されているものとしては[[紀元前193年]]および[[紀元前186年]]の[[甘粛省]]における地震の記録がある<ref name="NOAA" />。

138年に甘粛省で発生した隴西地震は700km離れた[[洛陽]]に設置された[[張衡 (科学者)|張衡]]の製作による[[地動儀]]が感知し、これは最古の地震計の一つとされる<ref>[[力武常次]] 『固体地球科学入門 -地球とその物理-』 共立出版、1994年, ISBN 9784320046702</ref>。

中国では内陸部の[[巨大地震]]の記録が多く存在し、直下型の巨大地震の様相を呈し、1556年の[[華県地震]]など数十万人の死者を出すような甚大な被害を伴うものがしばしば見られる。史上最大規模とされる地震は1668年に[[山東省]]で発生した[[郯城地震]]とされている。

=== ヨーロッパ ===
[[ヨーロッパ]]で最古の記録を持つのは[[古代ギリシア]]であり、[[紀元前1410年]]頃（[[紀元前1450年]]頃とも）、[[紀元前550年]]頃、紀元前479年、[[紀元前432年]]（[[古代ローマ]]）、紀元前426年、紀元前373年、紀元前330年、紀元前282年、紀元前227年、および紀元前223年などに地震の記録がある<ref name="NOAA" />。

[[紀元前17世紀]]ないし紀元前1450年頃、[[サントリーニ島]]の噴火と地震は[[エーゲ海]]に甚大な津波をもたらし、[[クレタ島]]の[[ミノア文明|フェストス宮殿]]が崩壊したとされる。

1755年に[[ポルトガル]]沖で発生した[[リスボン地震 (1755年)|リスボン地震]]は、西[[ヨーロッパ]]、北アフリカの広い範囲に強震をもたらし、大津波発生の比較的稀な[[大西洋]]全体に津波が波及した<ref name="Kanamori2" />。この地震による[[経済]]など社会的影響は多大なもので、これを機に地震学が発足した。

=== 朝鮮半島 ===
[[朝鮮半島]]は地震の発生が比較的少なく津波記録もほとんどないと言われるが、実際には古くからの地震の記録が存在し、最古のものとしては『[[三国史記]]』に2年に発生した地震の記述が見られる。以下被害記録があるものとして27年、34年、37年、89年などと、[[京畿道]]広州における大地震、家屋倒壊および[[液状化現象|液状化]]の記録がある<ref name="Dainippon1943" />。『三国史記』や『[[高麗史]]』『[[朝鮮王朝実録]]』に記された被害内容などからマグニチュード6.0以上と推定されるものもあって<ref name="hanto">秋教昇・朴昌業・都司嘉宣, 2005, {{PDFlink|[http://www.histeq.jp/kaishi_20/28-Chu.pdf 韓半島で発生した最大級の地震-1681 年6 月韓国東海岸地震-)]}}, 歴史地震, 第20号, 169-182.</ref>、16世紀から17世紀にかけて比較的多くの地震が発生している。史上最大規模とされる地震は1681年6月28日の[[江原道 (朝鮮八道)|江原道]]、[[襄陽郡]]・[[三陟]]の地震（[[襄陽地震]]）とされ、推定されるマグニチュードは7.0〜7.5で[[海震]]や津波と見られる記述もあるという<ref name="hanto"/>。

=== 日本 ===
[[ファイル:Asakawa-kannnondo-hoei.jpg|thumb|right|240px|浅川観音堂、宝永津波の犠牲者を供養するために建立された[[観音堂]]。徳島県[[海陽町]]浅川。]]
日本は最も詳細な記録が現存している国である。[[1892年]]（明治25年）に[[濃尾地震]]を契機として震災予防調査会が組織され1893年から[[関谷清景]]らにより調査研究が開始された<ref name="jgeography.100.115">宇佐美龍夫, 1991, [https://doi.org/10.5026/jgeography.100.115 わが国における歴史地震史料収集の歴史] 地學雜誌 Vol.100, No.1 P.115, {{doi|10.5026/jgeography.100.115}}</ref>、これらの調査結果は1904年に震災予防調査会により集大成として『大日本地震史料』が刊行され<ref name="Dainippon1904" />、その後も地震史料の収集と研究が継続され、[[武者金吉]]らにより『増訂大日本地震史料』(1941)や[[宇佐美龍夫]]らによる『新収 日本地震史料』などが作成された<ref name="Dainippon1943" /><ref>東京大学地震研究所 『新収 日本地震史料 一巻-五巻』 日本電気協会、1981-1987年</ref><ref>宇佐美龍夫 『日本の歴史地震史料 拾遺 二』 東京大学地震研究所編、1993年</ref><ref>東京大学地震研究所 『新収 日本地震史料 続補遺』 日本電気協会、1994年</ref>。また、津波に関する歴史資料は『日本被害津波総覧』(渡邉偉夫,1985,1998)がある<ref name="jgeography.108.4_346">[https://doi.org/10.5026/jgeography.108.4_346 小山真人:日本の史料地震学研究の問題点と展望 次世代の地震史研究に向けて] 地學雜誌 Vol.108 (1999) No.4 P.346-369, {{doi|10.5026/jgeography.108.4_346}}</ref>。

『[[日本書紀]]』の[[允恭天皇]]5年条（416年と換算されるがはっきりしない）に初めて地震の記録が登場する（[[允恭地震]]）。599年には、地震被害についての記録が初めてあらわれる（推古地震）。679年の[[筑紫地震]]は、[[筑紫国|筑紫]]と震源域が判明する初の記録である。684年の白鳳地震は日本最古の巨大地震、津波の記録である。この白鳳地震を嚆矢とする[[南海トラフ]]沿いの巨大地震と推定される一連の地震はプレート間地震の繰り返しの記録としては世界最長のものとされる。しかし、[[飛鳥時代]]には[[大和国|大和]]や筑紫など西日本と思われる記録しかなく、断片的、限定的なものである。当時の交通事情に加え、[[関東地方|関東]]は、朝廷にとって辺境とも言える土地であり、さらに遠くの[[東北地方]]は「まつろわぬ」[[蝦夷]]の力が強く、未だ朝廷の支配が完全には及んでいなかったためと思われる。

『[[日本三代実録]]』では869年の貞観地震など、[[陸奥国|陸奥]]の地震も登場するが、地震活動が活発な[[東北地方]]の確かな巨大地震記録はこれ以降1611年の[[慶長三陸地震]]まで確認されておらず記録の空白域となっており、僅かに[[享徳地震]]など[[会津]]の地震記録が見られるのみである。

南海トラフ沿いや東北地方太平洋沖の様に、明応地震、宝永地震および慶長三陸地震津波などで従前の記録が失われたと考えられる場所においては<ref name="Iinuma" />、これ以前の現地で記された現存記録は極めて少ないが、都で記された『日本書紀』や『日本三代実録』には古い巨大地震の記録があり、当時は[[律令制]]が稼働し始め、[[国司]]らによって地方の地震被害が報告されていたものと考えられている<ref name="Hayakawa" />。

これら[[六国史]]時代以降は正史が途絶え、[[鎌倉時代]]には『[[吾妻鏡]]』などに地震の記録が登場するが、[[京都]]や[[鎌倉]]など一都市における限定的な記録のみとなり震源域の推定が困難なものが多い。[[室町時代]]には『[[太平記]]』などに地震の記録が登場するが<ref name="Yata">矢田俊文 『中世の巨大地震』 吉川弘文館、2009年, p60-62.</ref>、[[正平地震]]津波の「俄に太山の如なる潮漲来て」など軍記物語ゆえに文学的、誇張的な表現も見られる。

[[江戸時代]]以降は町人らの記録も見受けられるようになり全国各地の豊富な被害記録が残されている。しかし、依然、巨大地震の数が多いと考えられる北海道における記録は乏しい。これは、[[先住民]]の[[アイヌ]]が文字を持たなかったため、記録は口伝に頼るほかなかったことによる。また、文字を持っていた[[大和民族|和人]]も江戸時代、北海道の僻地までは住んでおらず、アイヌと和人の両者は敵対的な関係であった時代も長かったため、情報が和人の元に集まらなかったことも影響していると思われる。この時代には、慰霊のため、地震の被害者を供養した寺社などの施設がいくつも建てられ、今に残っているものも少なくない。

[[明治維新]]の後、1880年（明治13年）4月に、世界ではじめて、[[地震学]]を専門とする学会「[[日本地震学会]]」が設立される。以後、日本で発生した地震の数々の記録と、西洋式の学問が組み合わさり、日本の地震研究は発展していくこととなる。

==== データベース化 ====
古文書を調査した結果は武者金吉『増訂大日本地震史料』全3巻（1941 - 43年）・『日本地震史料』（1951年）<ref group="*">『日本地震史料』は、本来『増訂大日本地震史料』第4巻として刊行されるはずであったが、戦局の悪化などのために公刊が遅れていたものである。『日本地震史料』所収「日本地震史料完成に際して」参照。</ref>や宇佐美龍夫『日本被害地震総覧』<ref group="*">初版は『資料日本被害地震総覧』（1975年）。以後、『新編日本被害地震総覧』（1987年）、『新編日本被害地震総覧［増補改訂版］ 416-1995』（1996年）、同・CD-ROM版（1997年）、『最新版 日本被害地震総覧 ［416］-2001』（2003年）、『日本被害地震総覧 599-2012』（2013年）とたびたび改版を重ねている。</ref><ref>[http://www.utp.or.jp/book/b306587.html 日本被害地震総覧 599-2012] </ref>などとしてまとめられているが、史料の吟味方法や推論過程の詳細が不明なため原史料を遡って更なる調査や推論には使えないと言う指摘<ref name=jgeography.108.4_346 />や研究用データベースの不在が指摘されていた<ref>石橋克彦 (1995) : 古地震研究の問題点.太田陽子・島崎邦彦編 : 古地震を探る.古今書院, 193-207.</ref><ref>岩崎伸一, [https://doi.org/10.5026/jgeography.108.4_465 歴史地震史料集電子データベースの現状と課題] 地学雑誌 Vol.108 (1999) No.4 P.465-471, {{doi|10.5026/jgeography.108.4_465}}</ref>。これらの問題を解決するため2000年代から「歴史地震史料集電子データベース」の作成が進められている<ref name=zisin.61.509 />。

; 史料の信憑性:日本の歴史地震の史料全文をまとめた「歴史地震史料集電子データベース」（古代中世地震噴火史料データ）<ref name=zisin.61.509>石橋克彦、[https://doi.org/10.4294/zisin.61.509 歴史地震史料の全文データベース化] 地震 第2輯 Vol.61 (2008-2009) No.Supplement p.509-517, {{doi|10.4294/zisin.61.509}}</ref>では信憑性を、5段階で評価している<ref>行谷佑一・矢田俊文、[https://doi.org/10.4294/zisin.66.73 史料に記録された中世における東日本太平洋沿岸の津波] 地震 第2輯 Vol.66 (2013-2014) No.4 p.73-81, {{doi|10.4294/zisin.66.73}}</ref>。
:* 5段階評価
:** 等級A:基本史料（同時代史料）
:** 等級B:参考史料（主として近世までに成立した史料）
:** 等級C:主として明治以降に書かれた文献
:** 等級D:史料としては使えず削除すべきもの
:** 等級E:保留史料（信頼性がまだ確認できていない史料）

=== 南米 ===
南北アメリカ大陸の先住民のほとんどは、文字の文化を持っておらず、そのため古くの地震の記録は乏しい。南米の[[ペルー]]や[[チリ]]で地震の記録が現れるのは[[15世紀]]以降である。[[マヤ文字]]で書かれた、さらに古い記録があったのかもしれないが、[[スペイン人]]を始めとする侵略者のヨーロッパ人によって破壊された可能性がある。ヨーロッパ人たちは[[スペインによるアメリカ大陸の植民地化|アメリカ大陸の植民地化]]において、現地の文化や文物を徹底的に破壊した他、先住民に対しても過酷な[[大量虐殺]]を実行して記録を伝える者も皆殺しにしていった。以降、征服者のヨーロッパ人たちによる、西洋の科学に基づく詳細な記録が伝えられていくこととなる。

1960年のチリ地震に代表されるように[[ペルー・チリ海溝]]の[[沈み込み帯]]は、[[南アメリカプレート]]との境界で[[ナスカプレート]]が低角で沈み込み、[[プレート]]間の強い固着により[[アスペリティ]]を形成していると推定され、プレート間地震と推定される巨大地震の記録がしばしば見られる。これらの地震津波は[[太平洋]]全体に波及したものと推定され、日本における遠地津波の記録も存在する。

ペルーは1471年に巨大地震の最古の記録が現れ、チリは1520年<!--または1521年-現時点で検証不可能-->から記録に登場するようになり、両国ともこれ以降、巨大地震の記録が頻繁に現れている。年月日まで判明している地震としての最古は1555年のペルー地震。1960年の日本におけるチリ地震津波被害と同様、1730年のチリの地震津波が[[陸前国|陸前]]に到達し、田畑を損じた記録が『東藩史稿』にある<ref name="Dainippon1943" />。

観測史上最大級の1960年チリ地震と同じ地域で発生した1575年[[バルディビア地震]]は、古記録および地質調査から、1960年とほぼ同規模、一部の研究者によってはそれ以上<!--（''M''w 9.5）-->である可能性が指摘され、さらに同地域では平均して約300年毎に津波堆積物などの痕跡を残すような大規模な地震が繰り返されていることが示された<ref name="Shishikura">鎌滝孝信・澤井祐樹・宍倉正展, 2006, {{PDFlink|[http://www.histeq.jp/kaishi_21/P087-091.pdf 1960年チリ地震震源域でくり返し生じた過去の巨大地震]}}, 歴史地震, 第21号, 87-91.</ref>。これ以外にも津波堆積物などの地質調査から、カスケード、[[スマトラ島沖地震|スマトラ沖]]、[[南海トラフ]]、[[千島海溝]]、[[日本海溝]]沿いなど世界各地のプレート境界の沈み込み帯において、300 - 600年程度の周期で特に大規模な地震が繰り返されていることが明らかに成りつつある。

== 伝承および口碑 ==
土佐の各地に白鳳地震に関する[[口碑]]が伝わり、東北地方の太平洋側各地に貞観地震津波と思われる伝承が存在する<ref>渡辺偉夫, 2001, {{PDFlink|[https://www.histeq.jp/kaishi/HE17/HE17_130_146_Watanabe.pdf 伝承から地震・津波の実態をどこまで解明できるか-貞観十一年（869年）の地震・津波を例として-]}}, 歴史地震, 第17号, 130-146.</ref>。しかし、白鳳地震に関する口碑は後世に書き記されたものもあり、[[土佐湾]]の陥没など信頼性に疑いのあるものもある<ref>沢村武雄 『日本の地震と津波 -南海道を中心に-』 高知新聞社、1967年, p59-62.</ref>。

地震の文献記録は無くても北米大陸には[[インディアン]]の間に、カスケード地震津波と見られる洪水の言い伝えが存在し<ref>Brian Atwater・六角聰子・佐竹健治・都司嘉宣・上田和枝・David Yamaguchi, {{PDFlink|[http://pubs.usgs.gov/pp/pp1707/pp1707.pdf The Orphan Tsunami of 1700—Japanese Clues to a Parent Earthquake in North America.]}}</ref>、北海道には[[アイヌ]]の間で津波に関する伝承が存在する<ref>髙清水康博, 2005, {{PDFlink|[http://www.histeq.jp/kaishi_20/29-Takashimizu.pdf 北海道における津波に関するアイヌの口碑伝説と記録]}}, 歴史地震, 第20号, 183-199.</ref>。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Reflist|group="*"}}
=== 出典 ===
{{Reflist|2}}

== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書|author=飯沼勇義|authorlink=飯沼勇義 |title=仙台平野の歴史津波 巨大津波が仙台平野を襲う |publisher=宝文堂 |date=1995 |isbn= |ref=Iinuma (1995)}}
* {{Cite book|和書|author=今村明恒|authorlink=今村明恒 |title=鯰のざれごと |publisher=[[三省堂]] |date=1941 |isbn=|ref=Imamura (1941)}}
* {{Cite book|和書|author=石橋克彦|authorlink=石橋克彦 |title=南海トラフ巨大地震 -歴史・科学・社会- |publisher=[[岩波書店]] |date=2014-03 |isbn=978-4-00-028531-5 |ref=Ishabashi (2014)}}
* {{Cite book|和書|author=金森博雄|authorlink=金森博雄 |title=岩波地球科学選書 地震の物理 |publisher=岩波書店 |date=1991 |isbn= |ref=Kanamori (1991)}}
* {{Cite book|和書|author=間城龍男 |title=宝永大地震 -土佐最大の被害地震- |publisher=あさひ謄写堂 |date=1995-01 |isbn= |ref=Mashiro (1995)}}
* {{Cite book|和書|author=力武常次|authorlink=力武常次 |title=固体地球科学入門 -地球とその物理- |publisher=共立出版 |date=1994 |isbn=9784320046702 |ref=Rikitake (1994)}}
* {{Cite book|和書|author=寒川旭 |title=地震の日本史 -大地は何を語るのか- |publisher=[[中公新書]] |date=2007-11 |isbn=978-4-12-101922-6 |ref=Sangawa (2007)}}
* {{Cite book|和書|author=高木金之助編、沢村武雄 |title=「五つの大地震」四国山脈 |publisher=毎日新聞社 |date=1959 |isbn= |ref=Sawamura (1959)}} 
* {{Anchors|usami1}}[[宇佐美龍夫]] 『最新版 日本被害地震総覧』 東京大学出版会、2003年
* {{Anchors|Utsu0}}[[宇津徳治]]、嶋悦三、吉井敏尅、山科健一郎『地震の事典』朝倉書店、2001年
* {{Cite book|和書|author=矢田俊文|authorlink=矢田俊文 (歴史学者) |title=中世の巨大地震 |publisher=吉川弘文館 |date=2009-01 |isbn=978-4-642-05664-9 |ref=Yata (2009)}}
* {{Cite book|和書|author=宇佐美龍夫, 大和探査技術株式会社, 日本電気協会 |title=わが国の歴史地震の震度分布・等震度線図 |publisher=日本電気協会 |year=1994 |NCID=BN10781006 |url=https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002533920 |ref={{harvid|宇佐美龍夫|1994}}}}<!--NCIDによるリンク先の情報と不整合が有ったので修正した-->

== 関連項目 ==
* [[地震考古学]]
* [[地震の年表]]
* [[日本の地震年表]]
* [[歴史的な津波の一覧]]

== 外部リンク ==
* [http://www.histeq.jp/ 歴史地震研究会]
* [https://web.archive.org/web/20150425170959/http://earthquake.usgs.gov/earthquakes/world/historical.php USGS Historic World Earthquakes]

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