比較優位のソースを表示

{{脚注の不足|date=2016-6-1}}{{経済学のサイドバー}}

'''比較優位'''（ひかくゆうい、{{lang-en-short|comparative advantage}}）とは、[[経済学者]]であった[[デヴィッド・リカード]]が提唱した概念で、'''比較生産費説'''や'''リカード理論'''と呼ばれる学説・理論の柱となる、[[貿易理論]]における最も基本的な概念である。[[アダム・スミス]]が提唱した[[絶対優位]]（absolute advantage）の概念を柱とする学説・理論を修正する形で提唱された。

これは、[[自由貿易]]において各[[経済主体]]が（複数あり得る自身の優位分野の中から）自身の最も優位な分野（より[[機会費用]]の少ない、自身の利益・収益性を最大化できる[[財]]の[[生産]]）に特化・集中することで、それぞれの[[生産性#労働生産性|労働生産性]]が増大され、互いにより高[[品質]]の財や[[サービス]]と高い利益・収益を享受・獲得できるようになることを説明する概念である。

アダム・スミスの絶対優位は、各分野における経済主体間の単純な優劣を表現するに留まるため、自由貿易と[[分業]]の利点や実態が限定的にしか表現できていないのに対し、リカードの比較優位は、各経済主体内において複数あり得る優位分野間の時間的な収益性・効率性の比較とその選択・集中にまで踏み込むため、より精度の高い自由貿易・分業の説明・擁護に成功している。

* 比較優位における労働生産性とは一人当たりの実質[[付加価値]]高を意味する。
* 比較優位の解説に際しては、[[国家]]による[[統制]]を核としている[[重商主義]]に対する批判から始まった歴史的な経緯もあって、国家間の[[貿易]]がよく引き合いにされるが、地方公共団体及び企業や個人などのあらゆる経済主体においても同様である。

== 概念 ==
[[18世紀]]、[[アダム・スミス]]は[[トーマス・マン (経済学者)|トーマス・マン]]が提唱した重商主義を批判した。重商主義に基づき[[貨幣]]などの[[金融資産]]の蓄積を目的として、[[保護貿易]]や貿易相手からの[[搾取]]を行っても、[[植民地]]維持の[[費用]]増大を招き、自国内で[[権力]]者のみが富むだけで、その経済主体全体の[[生活水準]]の向上には結びつかないからである。

そして、アダム・スミスは[[1776年]]に[[自由貿易]]の重要性と[[社会的分業]]による労働生産性の向上を説いた。これは[[絶対優位]]にもとづいていたが、これでは交換の利益を説明しきれていなかった。なぜならば、絶対優位においては[[労働力|労働量]]と[[資本|資本力]]を重視し他の経済主体よりも得意な分野に特化するので、絶対優位にある経済主体と絶対劣位にあるそれとでは、前者が一方的に利益を得て後者が一方的に損害をこうむる。しかし、これは貿易による現実とは相容れない。

デヴィッド・リカードは[[1817年]]に彼の理論を拡張して比較優位の概念を発表した。ここでいう比較とは、労働生産性の各経済主体間の比較ではなく、ある経済主体内での各産業間での比較を意味する{{Sfn|岡田|2009|pp=}}。その各産業間での[[生産性格差]]{{efn|ある経済主体内部における各産業への[[生産性#労働生産性|労働投入係数]]の比率}}を他の経済主体のそれと比較すること、つまり、経済主体内での相対的有利さを経済主体ごとに比較したときにどちらが優位であるかという二重の相対比較が比較優位である。絶対優位であっても、両方に比較優位はあり得ない。

さらに、労働力なども含めた[[資源]]は有限であり、あらゆる産業において絶対劣位にある経済主体でも比較優位な産業は存在する。仮に資源が無限にあれば、絶対優位のある経済主体のみで生産を行うことが最適となるが、現実には資源は有限であるためにある財の生産を行う場合には他の財の生産を諦めるという機会費用が発生する。直接的な費用だけではなく、この機会費用まで含めて考えれば、絶対優位にあるからといってその財を生産することが最適とは限らなくなる。

{| class="wikitable" style="margin: 0 auto;"
|+絶対優位と比較優位の比較
!視点!!絶対優位!!比較優位
|-
|提唱者
|[[アダム・スミス]]||[[デヴィッド・リカード]]
|-
|生産要素
|[[労働力|労働量]]・[[資本|資本力]]||[[生産性⇔労働生産性|労働生産性]]
|-
|生産要素を誰と比較するか
|他者||他者
|-
|他人|他の経済主体と何を比較するか
|労働生産性（最大化）||[生産性⇔機会費用]
|-
|何に特化するか
|他の[[経済主体]]より得意な分野||機会費用の低いもの（生産性の高い方）
|}

==単純化された例==
[[ポール・サミュエルソン]]は、比較優位を「弁護士と秘書」の例で以下のように説明している{{Sfn|Samuelson, Nordhaus|1989|p=902}}。
   
有能な弁護士Aは、弁護士の仕事だけでなく、[[タッチタイピング|タイプ]]を打つ仕事も得意だったとする。秘書は、弁護士・タイプの仕事において、弁護士Aより不得意である。更に、秘書はタイプはそこそこできるが弁護士の仕事はほとんどできない。しかし相対的な比較として各自の弁護士の仕事の能力を基準にすれば、秘書のタイピング能力は弁護士Aより優位であると見ることができる。このような場合、弁護士Aは弁護士の仕事に特化し、秘書にタイプの仕事を任せる。それが、弁護士・タイプの仕事が最も効率よくできるからである。

弁護士がタイプを打つと、弁護士報酬という機会費用を捨てることになる。弁護士がタイプを打つのは、恐ろしい機会費用がかかっていることになる。秘書がタイプを打っても、機会費用は低い。無駄な事をしない＝何がトクかを常に考える(時間でも費用でも)ことが、「比較優位」を実践していることになる。

== 具体例 ==
<!--例えば、<math>X</math>国では労働生産性が<math>3</math>の<math>A</math>産業と労働生産性が<math>1</math>の<math>B</math>産業が有り、<math>Y</math>国では労働生産性が<math>8</math>の<math>A</math>産業と労働生産性が<math>4</math>の<math>B</math>産業が有る場合を考える。

<math>X</math>国での<math>A</math>産業の<math>B</math>産業に対する相対的な優位さは<math>3(=\frac{1}{3})</math>で、<math>Y</math>国での<math>A</math>産業の<math>B</math>産業に対する相対的な優位さは<math>2(=\frac{8}{4})</math>であり、この各国内での相対的な優位さを<math>X</math>国と<math>Y</math>国で比較すると、<math>X</math>国での<math>A</math>産業の<math>B</math>産業に対する相対的な優位さの方が大きい(<math>3_{X}＞2_{Y}</math>)。

{{Gallery|title=比較生産費|width=384|height=256|lines=3
|1=File:Comparative advantage.svg|2={{ubl|<math>X</math>国では<math>A</math>産業に比較優位性が有り、|<math>Y</math>国では<math>B</math>産業に比較優位性が有る。}}
|footer=2国2財1[[生産要素|要素]]モデルに拠る例}}-->
比較優位の提唱者であるデヴィッド・リカードの[[メシュエン条約]]の引用例に従って、[[グレートブリテン王国]]（以降「イギリス」）と[[ポルトガル王国]]（以降「ポルトガル」）の2国及び[[毛織物]]と[[ワイン]]の2財をモデルにする。

今、イギリスの全労働者が1[[単位時間]]分だけ働いた場合の[[生産量]]を、毛織物なら<math>S_{B}</math>[[単位]]とし、ワインなら<math>W_{B}</math>単位とする。一方で、ポルトガルの全労働者が同じだけ働いた場合の生産量を、毛織物なら<math>S_{P}</math>単位とし、ワインなら<math>W_{P}</math>単位とする。

この時、
{{indent|<math>W_{B}<W_{P}</math>}}
であるならば、ポルトガルはワインに関してイギリスに絶対優位であると言う。

又、
{{indent|<math>\frac{W_{B}}{S_{B}}<\frac{W_{P}}{S_{P}}</math>}}
であるならば、ポルトガルはワインに関して（毛織物と比べた場合に）イギリスに比較優位であると言う。

ここで、具体例として、次の表の場合を考える。

{|class=wikitable style="font-size:small"
|+1単位時間分だけ働いた場合の生産量
!!!毛織物!!ワイン
|-
!イギリス
|<math>36</math>||<math>30</math>
|-
!ポルトガル
|<math>40</math>||<math>45</math>
|}

ポルトガルは、ワインと毛織物の双方に関して、イギリスに対し絶対優位である。しかし、毛織物に関してはイギリスの方が比較優位であり、ワインに関してはポルトガルの方が比較優位である。なお、逆の言い方をすれば、毛織物に関してはポルトガルの方が比較劣位で、ワインに関してはイギリスの方が比較劣位である、と言える。

イギリスの絶対優位性と比較優位性とは無関係であるということが、この具体例からも示される。

===効果===
各国の労働力人口と労働投入係数が、次の表で与えられる通り、簡略化の為に、失業者が居ない場合を想定している場合を考える。

{|class=wikitable style="font-size:small"
|+労働力と労働投入係数
!rowspan="2"| ||colspan="1"|労働力||colspan="2"|労働投入係数
|-
!合計!!毛織物!!ワイン
|-
!イギリス
|<math>220</math>||<math>100</math>||<math>120</math>
|-
!ポルトガル
|<math>170</math>||<math>90</math>||<math>80</math>
|}

両国の[[生産可能性フロンティア|生産可能性辺境線]]は、貿易を行う事で、[[自給自足]]状態における状態より大きくなる。要するに、自給自足状態である場合に比べて、両国とも生産可能性領域が増える。

<!--[[生産可能性フロンティア|生産可能性辺境線]] 要加筆
{{Gallery|title=生産可能性領域の増大|width=384|height=256|lines=3
|1=File:en.svg|2=
|3=File:pt.svg|4=
|footer=2国2財1要素モデルに拠る例}}
-->
これは、各国の[[国際分業]]によって全体的な労働生産性が増大することを示し、さらに、自由貿易を前提とした場合には両国が共に消費を増大させられることを示している。すなわち、比較優位にある財を[[輸出]]すると共に比較劣位にある財を[[輸入]]すれば、絶対優位に関係なく貿易で利益を享受できるということを意味する。

もし、どちらの国も生産可能性辺境線上に在る(労働力が逼迫している)場合、一方の財を増産する為にはもう一方の財を減産しなければならない。

例えば、毛織物<math>1</math>単位を増産する為には、イギリスではワインを<math>1.2</math>単位減産せねばならないが、ポルトガルではワインを<math>0.\dot{8}</math>単位減産するだけで済む。逆に考えれば、毛織物を<math>1</math>単位減産する場合に、ポルトガルではワインを<math>0.\dot{8}</math>単位しか増産させられないのに対して、イギリスではワインを<math>1.2</math>単位増産させられる。

これは、比較優位に立つ側は相手側よりも少ない機会費用で生産できる、ということを示している。

===仮定===
現代において、世界各国は、[[グローバリゼーション|グローバル]]な貿易[[社会的ネットワーク|ネットワーク]]に大なり小なりつながっており、貿易を行っている。輸出財は国内[[需要と供給|需要]]よりも多く生産しているということであるので、特化が進んでいることになる。

国内には複数の産業があり、それぞれが他国へ輸出を試みたとすると、より高値で[[販売]]できる順に序列ができる。

*[[固定相場制]]をとる国家または[[共通通貨制]]下の国々では、輸出で利益を得た産業は生産を拡大し、より多くの利益を得ようとする。この際に、最も高い利益を得た産業が、より多く資源（設備や労働力）の[[購買力]]を得て、資源を需要するので、各資源の[[価格]]は次第に上昇する。
*[[変動相場制]]をとる国家では、輸出で得た[[外貨]]は、自国[[通貨]]へ両替されることになる。このとき、より高い利益を得た産業がより多くの自国通貨を得る。比較優位な産業はより高い利益を得て、生産を拡大し、より多くの利益を得ようとする。この際に、輸出拡張で自国通貨高が進む。

これによって、比較劣位な産業は、[[収益]]が悪化し解散するなどして、資源を解放することになる。この結果、比較優位な産業へ資源が集中して、特化が進み、一人当たりの実質[[国内総生産|GDP]]成長をうながす。

== 比較優位の一般化 ==
比較優位の概念は、労働力のみが[[生産要素]]の場合には、2国多数財（あるいは2財多数国）の場合にまで容易に拡張させられる。

<math>X</math>国と<math>Y</math>国の間で貿易を行う状況下において、<math>i</math>財と<math>j</math>財とが有り、それぞれの労働投入係数をそれぞれ<math>a_{Xi}</math>及び<math>a_{Xj}</math>と<math>a_{Yi}</math>及び<math>a_{Yj}</math>とすれば、
{{indent|<math>\frac{a_{Xi}}{a_{Xj}} < \frac{a_{Yi}}{a_{Yj}}</math>}}
が成り立つとき、<math>X</math>国は<math>Y</math>国に対して、<math>i</math>財に比較優位性を持ち、<math>j</math>財に比較劣位性を持つ、と言う。

<math>X</math>国から<math>Y</math>国へ<math>i</math>財が輸出されて<math>j</math>財が輸入されるとは限らない。別の<math>k</math>財が<math>X</math>国から<math>Y</math>国へ輸出され、I財とJ財は共に<math>Y</math>国から<math>X</math>国へ輸出され得る{{Sfn|クルーグマンほか|2017a|pp=46-50}}{{Sfn|クルーグマンほか|2017b|pp=}}{{要ページ番号|date=2014年11月}}。このように、2国多数財のケースでは、比較優位は、それのみでは貿易の方向を決定しない。

貿易論では、3国3財以上の場合は、2国2財あるいは2国多数財の場合とは、様相が大きく異なる。そこで、3国以上の場合を多数国、3財以上の場合を多数財という。以下は[[:en:Ronald Jones|R.ジョーンズ]]が1961年の論文に載せた数値例である{{Sfn|池間|1993|p=883}}。

{| class="wikitable" style="margin: 0 auto;"
|+ ジョーンズの数値例
!  !! A: 米国 !! B: 英国 !! C: 欧州
|-
! 1: 小麦　
| 10 || 10 || 10
|-
! 2: リネン
| 5 || 7 || 3
|-
! 3: 服地　
| 4 || 3 || 2 
|}
このとき、比較優位の単純な比較はできない。2国2財のどのような組合せを取ろうと、特化パタンは正しく定めることはできない。ジョーンズは、このような場合にも、置換積を最小化する特化パタンを求めればよいことを示した{{Sfn|Jones|1961|pp=}}。置換積とは、労働投入係数に対し<br>
　　　　''a''<sub>1σ(1)</sub> ''a''<sub>2σ(2)</sub> ・・・''a''<sub>''N''σ(''N'')</sub>  <br>
という形の積をいう。ここで、σは、{1, 2, ... , ''N''}の[[置換 (数学)|置換]]である。3国3財の場合、置換の数は全部で6個ある。上記ジョーンズの数値例では、A→1、B→3、C→2という特化パタンが唯一実現可能な完全特化パタンである。 

労働のみが投入される経済では、ジョーンズの条件により特化パタンが定まるが、投入財が貿易される場合、比較優位の概念は定義ができない。ディアドルフは、いくつもの定義を与えているが、どれも完全なものではない{{Sfn|Deardorff|2005|p=}}。

これは、きわめて不充分な理論状況である。イギリスの産業革命は綿花の輸入によって可能になったし、日本は、幕末開国以来、加工貿易が基本であった。マッケンジーは1956年の論文{{Sfn|McKenzie|1956|p=}}で、「特化に関する古典的扱いの基本的な誤謬は、... 中間財貿易を無視したことである」（同所、p.56）と指摘しているが、[[塩沢由典]]の研究に至るまで、大きな進展はなかった。[[:en:Ronald Jones|R.ジョーンズ]]が[[1961年]]は[[論文]]でこの問題に取り組んでいるが、投入係数がどの国でも同一の場合しか定式化できなかった。

塩沢の貿易理論（国際価値論）は、多数国多数財で技術選択と中間財貿易が存在する場合にたいし、古典派価値論と同様の理論が成立することを示した{{Sfn|Cassey|2011|p=}}。『リカード貿易問題の最終解決』{{Sfn|塩沢|2014|pp=}}は、2007年論文を概念的に整理し、正則領域における国際価値（各国の賃金率と世界共通の財の価格）が一義的に定まることを基本定理として示している。第4章では、リカードから[[ポール・クルーグマン]]の新貿易論、[[:en:Marc Melitz|マーク・メリッツ]]の新々貿易論に至るまでの貿易論の歴史を詳しく解説している。

{{see also|貿易理論}}

== 産業内貿易 ==
比較優位に従って、分業が既述した様に進むと最終的にはいずれかの経済（国あるいは地域）が自身の比較劣位な財を全く生産しなくなるであろうことが導き出される。しかし、現実には、同種の財を互いに輸出・輸入し合う場合も見られる。これを産業内分業という。産業内分業は、ヨーロッパ諸国のような類似した国々の間で増大する傾向がみられる{{Sfn|Andresen|2003|pp=}}。

[[産業内貿易]]に関する実証的研究は、[[ベラ・バラッサ]]により始まり{{Sfn|Balassa|1986a|pp=}}、{{仮リンク|グリューベル|en|Herb Grubel}}とロイドによる1975年の本{{Sfn|Grubel, Lloyd|1975|pp=}}の出版により多くの経済学者に注目された<ref> Charles van Marrewijk (2008) Intra-industry trade http://www2.econ.uu.nl/users/marrewijk/pdf/marrewijk/Intra%20Industry%20Trade.pdf</ref>。[[ポール・クルーグマン]]は、なぜ産業内貿易が起こるかについて、需要者の[[多様性選好]]と生産者の[[規模の経済]]（収穫逓増）とにより説明する理論を提起した{{Sfn|Krugman|1979|pp=}}{{Sfn|クルーグマンほか|2017a|pp=196-199}}。

産業内貿易は、リカード型の比較優位（技術の違い）に基づく貿易とも、ヘクシャー・オリーン型（HOSモデル）の比較優位（要素賦存比率の違い）にもとづく貿易とも異なる論理によるものである。クルーグマンは、この理論を含む研究により2008年[[ノーベル経済学賞]]を受賞した<ref>http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/economic-sciences/laureates/2008/</ref>。
{{see also|貿易理論}}

== 議論 ==
=== 比較優位論の前提条件 ===
{{see also|貿易理論#リカード理論に関する解釈}}
比較優位論は、当初は極めて限定的な前提（仮定ないし条件）のもとに立っていた。理論の進展とともに、限定的な前提がより一般的なものに置き換えられるが、その過程で当初の概念自体に修正が迫られることもある。

; 2国2財以外の場合
: リカードの貿易論は、2国2財を例題としていた{{Sfn|Ricardo|1817|pp=Chapter 6, Chapter 7}}。2国多数財、あるいは2財多数国の場合には、比較優位の概念は容易に一般化され{{Sfn|Dornbusch, Fischer, Samuelson|1977|pp=}}。3国3財以上の多数国多数財の場合にも比較優位概念を拡張することはできる{{Sfn|McKenzie|1954|p=}}{{Sfn|McKenzie|1956|p=}}{{Sfn|Jones|1961|pp=}}。しかし本項[[#比較優位の一般化|比較優位の一般化]]に見るように、中間財貿易を含む場合の一般化は困難であり、新しいアプローチを必要とする。
:
; 一国内では生産要素の移動は完全に自由であるが、国際間のでは生産要素は移動せず、生産物のみが貿易される
: リカードが仮定した前提である。多くの国際貿易論は、生産要素（労働力・資本・土地）が国・地域を越えて貿易されないと仮定してきた。移民や直接投資などにより生産要素も移動するため、1980年代以降、要素移動の貿易理論も展開された{{Sfn|ウォン|1999|pp=}}{{要ページ番号|date=2015年1月}}。また、中間財（投入財）は貿易されないというのが従来の前提であったが、最近では中間財貿易は、実証的にも理論的にも注目される対象となっている{{Sfn|Baldwin|2012|pp=}}{{Sfn|Jones|2000|pp=}}{{Sfn|Shiozawa|2007|pp=Section 4}}。
:
; 経済主体内外の輸送コスト
: [[運輸業]]を財やサービスの一つとして組み入れて考慮しても比較優位は成立する。輸送コストをモデル化するには、しばしば氷山モデル（iceberg model）が用いられている{{Sfn|Samuelson|1954|pp=}}。このモデルは、クルーグマン{{Sfn|Krugman|1993|p=103}}を含め多くの論文に踏襲されている。
:
; 貿易の利益と国家の追求目標
: 比較優位論は、貿易開始ないし自由化により、貿易の利益および不利益が各経済主体にどのように作用するかを明らかにする。中間財の貿易を含むM国N財の一般的モデルにおいては、雇用されている労働者にとって実質賃金の上昇という貿易の利益を生むが、世界最終需要が増大しないかぎり、短期的には貿易自由化が失業と廃業とを生むという指摘がある{{Sfn|Shiozawa|2007|pp=Section 4}}。従って、貿易の利益は国家（国民）がどのような事態を望ましいと考えるかに依存するとされる。

== 出典・脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}

=== 注釈 ===
{{Reflist|group="†"|}}
{{Notelist|2|}}
=== 出典 ===
{{Reflist|3|}}

== 参考文献 ==
{{参照方法|date=2015年1月|section=1}}
=== 単行本 ===
* {{Citation| 洋書
| author1 = David Ricardo
| year = 1821
| title = On the Principles of Political Economy and Taxation
| url=http://www.econlib.org/library/Ricardo/ricPCover.html|
| publisher = John Murray
| language=[[英語]]
| ref = {{sfnref|Ricardo|1817}}
| isbn = 
}}
*{{Cite book|1=和書|last=|first=|author=デヴィッド・リカード|authorlink=デヴィッド・リカード|last1=|first1=|author1=|authorlink1=|last2=|first2=|author2=|authorlink2=|last3=|first3=|author3=|authorlink3=|last4=|first4=|author4=|authorlink4=|coauthors=|translator=[[羽鳥卓也]]・[[吉澤芳樹]]|editor=|others=|title=経済学および課税の原理(上)|origdate=|origyear=|url=http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/34/2/3410910.html|format=|accessdate=|edition=|date=1987-5-18|year=|publisher=岩波書店|location=|series=|language=|id=|isbn=978-4-00341-091-2}}
*{{Cite book|1=和書|last=|first=|author=デヴィッド・リカード|authorlink=|last1=|first1=|author1=|authorlink1=|last2=|first2=|author2=|authorlink2=|last3=|first3=|author3=|authorlink3=|last4=|first4=|author4=|authorlink4=|coauthors=|translator=羽鳥卓也・吉澤芳樹|editor=|others=|title=経済学および課税の原理(下)|origdate=|origyear=|url=http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/34/0/3410920.html|format=|accessdate=|edition=|date=1987-6-16|year=|publisher=岩波書店|location=|series=|language=|id=|isbn=978-4-00341-092-9}}
*{{Cite web|url=http://www.gci-klug.jp/ogasawara/ricardo1.pdf|title=ricardo1.pdf|accessdate=2014-10-01|last=|first=|author=デヴィッド・リカード|authorlink=|coauthors=[[小笠原誠治]]|date=|year=|month=|format=PDF|work=|publisher=|page=|pages=|quote=|language=|archiveurl=|archivedate=|doi=|ref=}}
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* {{Citation| 和書
| first = 由典
| last = 塩沢
| author-link = 塩沢由典
| title = リカード貿易問題の最終解決 - 国際価値論の復権
| publisher = 岩波書店
| series =
| year = 2014
| isbn = 978-4-00-025569-1
}}

=== 論文・記事 ===
* {{Cite journal|洋書|author=M. A. Andresen|authorlink=|coauthors=|date=|year=2003|month=|title=Empirical Intra-Industry Trade: What we know and what we need to know|journal=Institute for Canadian Urban Research Studies|volume=|issue=|page=|pages=1–60|publisher=|location=|doi=|pmid=|pmc=|naid=|oclc=|issn=|isbn=|id=|url=|format=|accessdate=2020-07-22|ref={{sfnref|Andresen|2003}}}}
* {{Cite journal|洋書|author=R. Baldwin|authorlink=|coauthors=|date=|year=2012|month=jan|title=Global Supply Chains: Why they Emerged, Why they Mater, and Whre are They Going|journal= FUNG Global Institute WORKING PAPER |volume=|issue=|page=|pages=|publisher=|location=|doi=|pmid=|pmc=|naid=|oclc=|issn=|isbn=|id=|url=|format=|accessdate=2020-07-22|ref={{sfnref|Baldwin|2012}}}}
* {{Cite journal|洋書|author=Andrew J. Cassey|authorlink=|coauthors=|date=2011-11-22|year=|month=|title=An Application of the Ricardian Trade Model with Trade Costs|journal=Applied Economics Letters|volume=19|issue=13|page=|pages=1227–1230|publisher=Taylor & Francis|location=|doi=10.1080/13504851.2011.617871|pmid=|pmc=|naid=|oclc=|issn=|isbn=|id=|url=http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/13504851.2011.617871|format=|accessdate=2020-07-22|ref={{sfnref|Cassey|1993}}}}

* {{Cite journal|洋書|author1=Rudiger Dornbusch（[[ルディガー・ドーンブッシュ]]）|authorlink=|coauthors=Stanley Fischer（[[スタンレー・フィッシャー]]）Paul Anthony Samuelson（[[ポール・サミュエルソン]]）|date=1977-11|year=1977|month=nov|title=Comparative Advantage, Trade, and Payments in a Ricardian Model with a Continuum of Goods|journal=[[American Economic Review]]|volume=67|issue=5|page=|pages=823-839|publisher=[[アメリカ経済学会|American Economic Association]]|location=|doi=|pmid=|pmc=|naid=|oclc=|issn=|isbn=|id=|url=http://www.eco.uc3m.es/~desmet/trade/DFSAER1979.pdf|format=PDF |accessdate=2020-07-22|ref={{sfnref|Dornbusch, Fischer, Samuelson|1977}}}}
* {{Cite journal|和書|author=[[池間誠]] |title=国際生産特化パターンの確定:多数国多数財のケース |url=http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/handle/10086/10868 |journal=一橋論叢 |publisher=日本評論社 |year=1993 |month=dec |volume=110 |issue=6 |pages=873-894 |naid= |issn= |accessdate=2020-07-22|ref={{sfnref|池間|1993}}}}
* {{Cite web|和書|url=http://jp.reuters.com/article/idJPnTK024560220090210?sp=true|title=円高イコール交易条件改善は事実でない、輸出産業の受けた被害|accessdate=2009-02-10|last=|first=|author=[[岡田靖]]|authorlink=|date=|year=|month=|format=|work=COLUMN-〔インサイト〕|publisher=[[トムソン・ロイター]]|page=|pages=|quote=|language=|archiveurl=|archivedate=|doi=|ref={{sfnref|岡田|2009}}}}
* {{Cite journal|洋書|author=Béla Balassa |title=Intra-industry specialization: a cross-country analysis |url= |journal=European Economic Review |publisher= |year=1986 |month=Feb |volume=30 |issue=1 |pages=27–42 |naid= |issn= |accessdate=2020-07-22|ref={{sfnref|Balassa|1986a}}}} 
* {{Cite journal|洋書|author=Alan V. Deardorff|authorlink=|coauthors=|date=2005-11|year=|month=|title=How Robust is Comparative Advantage?|journal=Review of International Economics|volume=13|issue=5|page=|pages=1004–1016|publisher=John Wiley & Sons|location=|doi=10.1111/j.1467-9396.2005.00552.x|pmid=|pmc=|naid=|oclc=|issn=0953-8259|isbn=|id=|url=http://fordschool.umich.edu/rsie/workingpapers/Papers526-550/r537.pdf|format=PDF |accessdate=2020-07-16|ref={{sfnref|Deardorff|2005}}}}
* {{Cite journal|洋書|author=R. Jones |title=Comparative Advantage and the Theory of Tariffs: A Multi-Country, Multi-Commodity Model |url= |journal=Review of Economic Studies |publisher=Oxford University Press |year=1961 |month=jun |volume=28 |issue= |pages=161-175 |naid= |issn= |accessdate=2020-07-16|ref={{sfnref|Jones|1961}}}}
* {{Cite journal|洋書|author=P. Krugman |title=Increasing returns, monopolistic competition, and international trade |url= |journal=Journal of International Economics |publisher= |year=1979 |month=jun |volume=9 |issue=4 |pages=469–479 |naid= |issn= |accessdate=2020-07-16|ref={{sfnref|Krugman|1979}}}}

* {{Cite journal|洋書|author=Lionel W. McKenzie|authorlink=|coauthors=|date=1954|year=|month=|title=On Equilibrium in Graham’s Model of World Trade and Other Competitive Systems|journal=[[Econometrica]]|volume=22|issue=2|page=|pages=147-161|publisher=Econometric Society|location=|doi=|pmid=|pmc=|naid=|oclc=|issn=|isbn=|id=|url=https://www.econometricsociety.org/publications/econometrica/1954/04/01/equilibrium-grahams-model-world-trade-and-other-competitive|format=|2020-07-22|ref={{sfnref|McKenzie|1954}}}}
* {{Cite journal|洋書|author=Lionel W. McKenzie |title=Specialization in Production and the Production Possibility Locus |url= |journal=Review of Economic Studies |publisher= |year=1956 |month= |volume=23 |issue=3 |pages=56-64 |naid= |issn= |accessdate=2020-07-22|ref={{sfnref|McKenzie|1956}}}}
* {{Cite journal|洋書|author=P. Samuelson |title=The Transfer Problems and the Transport Cost, II: Analysis of Effectss of Trade Impediments |url= |journal=Review of Economic Studies |publisher= |year=1954 |month= |volume=64 |issue= |pages=264-289 |naid= |issn= |accessdate=2020-07-16|ref={{sfnref|Samuelson|1954}}}}
* {{Cite journal|洋書|author=Yoshinori Shiozawa|authorlink=|coauthors=|date=2007-3|year=|month=|title=A New Construction of Ricardian Trade Theory / a many-country, many-commodity case with intermediate goods and choice of production techniques|journal=Evolutionary and Institutional Economics Review,|volume=3|issue=2|page=|pages=141–187|publisher=|location=|doi=|pmid=|pmc=|naid=|oclc=|issn=|isbn=|id=|url=http://www.researchgate.net/profile/Yoshinori_Shiozawa/publication/233943493_A_New_Construction_of_Ricardian_Trade_Theory--A_Many-country_Many-commodity_Case_with_Intermediate_Goods_and_Choice_of_Production_Techniques/links/0c960515bf6c44d570000000|format=PDF|accessdate=2020-07-22|ref={{sfnref|Shiozawa|2007}}}}

== 関連項目 ==
*[[メシュエン条約]]

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