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'''比速度'''とは、[[ポンプ]]や[[発電用水車]]などの[[ターボ機械]]の形式を表すために用いられる物理量であり、機械を[[図形の相似|相似]]形で拡大縮小したとき、単位揚程、単位流量を発生するために必要な回転速度である。 == 定義 == ポンプに対しては、比速度''N''<sub>s</sub> は次式で定義される: : <math>N_\mathrm{s} = N\frac{\sqrt{Q}}{H^\frac{3}{4}}</math> * ''N''<sub>s</sub> :比速度(min<sup>-1</sup>, m<sup>3</sup>/min, m 基準)<ref name=unit>比速度は有次元数であり、その単位は定義通りに計算すると * {{sfrac|1|60}} m<sup>3/4</sup> s<sup>-3/2</sup> (ポンプの場合) * {{sfrac|√10|6}} kg<sup>1/2</sup> m<sup>-1/4</sup> s<sup>-5/2</sup> (水車の場合) となる(60や√10などの因子は min や kW を換算したことによるもの)。この単位は複雑であるため、実用上は表記が省略されることが多い。用いる単位については、送風機や圧縮機の場合は流量に [m<sup>3</sup>/s] を用いたり、アメリカなどでは[[ヤード・ポンド法|フィート・ポンド系]]が用いられることもある。そのため、比速度を議論するときには単位系に注意が必要である。</ref> * ''N'' :[[回転速度]] [min<sup>-1</sup>] * ''Q'' :[[流量]] [m<sup>3</sup>/min] * ''H'' :[[水頭|揚程]] [m] 水車の場合、流量より出力が重視されるため、次式が用いられる: : <math>N_\mathrm{s} = N\frac{\sqrt{P}}{H^\frac{5}{4}}</math> * ''N''<sub>s</sub> :比速度(min<sup>-1</sup>, kW, m 基準)<ref name=unit/> * ''N'' :回転速度 [min<sup>-1</sup>] * ''P'' :[[出力]] [kW] * ''H'' :落差 [m] == 物理的意味 == 複数のターボ機械を比較して、以下の条件が成り立つとき、比速度''N''<sub>s</sub> は同じになる: * 機械の幾何学的形状が相似 * [[レイノルズ数]]が一致しており、かつ[[乱流|臨界レイノルズ数]]以上 * [[流量係数]]が一致 * [[マッハ数]] << 1 このことから、形状はほぼ相似だが大きさが異なる機械同士の性能を比較する際に比速度が用いられる。 ターボポンプやターボ送風機に対しては、その種類によって最高効率点での比速度の値は大体決まっており、以下のようになる。 {| class="wikitable" |+ ! 形式 !! 比速度''N''<sub>s</sub> (min<sup>-1</sup>, m<sup>3</sup>/min, m 基準) |- ! 遠心型 | 100 - 300 |- ! 斜流型 | 800 - 1000 |- ! 軸流型 | 1200 - |} 水車の場合は、流量の代わりに出力を用い、以下のようになる。 {| class="wikitable" |+ ! 形式 !! 比速度''N''<sub>s</sub> (min<sup>-1</sup>, kW, m 基準) |- ! 衝動型[[ペルトン水車]] | 8 - 25 |- ! 遠心型[[フランシス水車]] | 50 - 350 |- ! 斜流型[[デリア水車]] | 100 - 350 |- ! 軸流型[[カプラン水車]] | 200 - 900 |- ! 軸流型[[チューブラ水車]] | 500 - |} == 導出 == ターボ機械に関する[[相似則]]を用いると、比速度が機械の大きさによらず一定であることを示すことができる。 流体の種類(具体的には密度)を一定にして、回転速度''N'' と機械の大きさ''D'' が異なる2つのターボ機械を考える(一方の変数に[[プライム記号]] ' をつけて区別する)。流量''Q'' は回転速度と大きさの3乗に比例し、揚程''H'' は回転速度の2乗と大きさの2乗に比例するから、以下の関係が成り立つ: : <math>Q' = Q\left(\frac{N'}{N}\right)\left(\frac{D'}{D}\right)^3,\quad H' = H\left(\frac{N'}{N}\right)^2\left(\frac{D'}{D}\right)^2</math> これら2式から、大きさに関する項を消去するために、''D'' '/''D'' について解き等置する: : <math>\frac{D'}{D} = \left(\frac{N'}{N}\right)^{-\frac{1}{3}}\left(\frac{Q'}{Q}\right)^{\frac{1}{3}} = \left(\frac{N'}{N}\right)^{-1}\left(\frac{H'}{H}\right)^{\frac{1}{2}}</math> したがって、 : <math>N'\frac{\sqrt{Q'}}{H'^\frac{3}{4}} = N\frac{\sqrt{Q}}{H^\frac{3}{4}} = N_\mathrm{s}</math> を得る。つまり比速度''N''<sub>s</sub> は機械の大きさによらず一定である。 == 無次元数としての比速度 == 次の[[無次元数|無次元]]比速度''n''<sub>s</sub> というものが定義されている: :<math>n_\mathrm{s} = N\frac{\sqrt{Q}}{(gH)^{3/4}}</math> * ''N'' : 回転速度 [s<sup>-1</sup>] * ''Q'' : 流量 [m<sup>3</sup>/s] * ''g'' : 重力加速度 [m/s<sup>2</sup>] * ''H'' : 揚程 [m] また[[ISO]]では、[[比エネルギー]]Δ''E'' (=''gH'' )を用いて次式で示す'''形式数'''(type number)''K'' を定めている。 :<math>K = 2\pi N\frac{\sqrt{Q}}{\Delta E^{3/4}}</math> [[バッキンガムのΠ定理]]に基づく[[次元解析]]を考える。ターボ機械に関係する物理量を流量''Q'' 、揚程''H'' 、回転速度''N'' 、羽根径(機械の大きさ)''d'' 、流体密度ρ、流体粘度ηの6つとすると、これらに含まれる[[量の次元|次元]]は[[長さ]](L)、[[質量]](M)、[[時間]](T)の3つなので、6-3=3つの無次元数で運転状態を表せることが分かる。ターボ機械の場合、この3つの無次元数とは[[レイノルズ数]]''Re''、[[流量係数]]φおよび揚程係数ψであり、無次元比速度''n''<sub>s</sub> はこれらと次の関係がある: : <math>n_\mathrm{s} = \phi^{1/2} \psi^{-3/4}</math> 定義の項で述べた有次元の比速度''N''<sub>s</sub> は、無次元比速度''n''<sub>s</sub> や形式数''K'' をポンプや水車など各用途に応じて使いやすく(しかし本質は変えずに)変形したものに過ぎない。 == 脚注 == {{reflist}} == 参考文献 == * {{Cite book|和書 |author = ターボ機械協会編 |coauthors = |title = ターボ機械 入門編 |year = 2005 |publisher = [[日本工業出版]] |isbn = 978-4-8190-1911-8 |page = }} * {{Cite book|和書 |author = ターボ機械協会編 |coauthors = |title = ターボポンプ |year = 2007 |publisher = [[日本工業出版]] |isbn = 978-4-8190-1911-8 |page = }} {{デフォルトソート:ひそくと}} [[Category:流体機械]]
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