海況のソースを表示

'''海況'''（かいきょう）とは、[[海]]の状態のことである。[[水温]]や[[海水]]内の[[塩分]]分布、[[海流]]状態、[[水塊]]、[[プランクトン]]の状況、[[水素イオン指数|pH]]、[[波浪]]状態、[[透明度]]、溶存[[酸素]]量などを総合したもので、普通は水温、水塊、[[海流]]を解析して行う。[[日本]]では[[東北]]や[[北海道]]の冷害に対し[[親潮]]との関係が深いと考えられている為、古くから調査が行われている。なお予想は[[天気予報]]に比べると精度は低いが、日本では毎年[[3月]]に[[気象庁]]から発表される。また、海の荒れ模様を数字で表すことも海況という。

== 概要 ==
[[海洋学]]では、海況は大規模[[水域]]の自由な海面について、ある位置と瞬間の風浪とうねりに関する状況のことである。海況は波高、[[周期]]、およびパワー・[[スペクトル]]を含む[[統計]]によって特徴付けられる。海況は時間と共に変化し、[[風況]]かうねりの状態が変化するのに従う。海況は訓練された[[船員]]のような経験を積んだ観察者、或いは気象[[海洋気象ブイ|ブイ]]、[[波高レーダー]]または[[地球観測衛星|遠隔探査衛星]]のような器具を通して評価出来る。

ブイ測定値の場合には、統計は海況が一定であると考えることができる時間間隔の間、決定する。この持続時間は、個々の波の周期よりはるかに長いが、[[風]]とうねりの状態がかなり異なる期間よりは小さくなければならない。通常、100〜1000回の波の周期に関する記録が、波の[[統計]]を決定するのに使用される。

多くの変数を含んだ海況の作成は直ちにも、また容易にも出来ることではないので、より簡単な尺度が使われる。これらは状態について大体の、しかし、簡潔な記述とされており、[[航海日誌]]か同様の記録で報告する用途に使われている。

=== 風浪階級表 ===
[[世界気象機関]]（WMO）の海況コードは[[ダグラス海況階級]]の定義を主に採用しWMO 3700として規格化されている。日本では「風浪階級」と称し、[[気象庁]]風浪階級表として告示され、WMO 3700と同値となっている<ref>[http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/k19530220001/k19530220001.html 昭和二十八年運輸省告示第五十八号（気象庁風力階級表等）]<br />[http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/k19530625001/k19530625001.html 地方海上予報及び地方海上警報に関する発表形式] 運輸省告示第二百六十四号<br />いずれも[[文部科学省]]HP内</ref>。下記に表を掲載する。これらの表の日本語訳は上記告示等に従った<ref>[http://www.jodc.go.jp/data_format/weather-code_j.html 気象関係コード表] [[海上保安庁]]海洋情報部海洋情報課 [[日本海洋データセンター]]（JODC）<br />英語表記はWikipedia英語版および同センター英語版のページ[http://www.jodc.go.jp/data_format/weather-code.html Weather information code table]を参考とした。</ref>。

次項でうねり階級についても表を掲載する。風浪階級は「海洋波を「風浪」と「うねり」に分けた場合の「風浪」の平均波高（1/3有義波高に相当）をクラス分けしたもの」であり、「うねり」については別の尺度が存在するためである<ref>[http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/1996/00567/contents/078.htm 3.　シーステート] 「海外における海洋科学技術情報の収集」内  [[海洋研究開発機構]] 1996年『[[日本財団]]』HP内</ref>。どちらも0から9までの区分となっており、対照的に掲載する場合もある<ref>[http://www.jodc.go.jp/harotokei/waveswell.html 風浪、うねり階級] 『日本海洋データセンター』</ref>。
{| class="wikitable"
!風浪階級
(WMO Sea State Code)
!波高<br />(Wave Height)
!説明<br />(Characteristics)
|-
! style="background-color:#FFFFFF" |0
|0m
|鏡のようになめらかである (Calm / glassy)
|-
! style="background-color:#E0FFFF" |1
|0.1m 未満
|さざ波がある (Calm / rippled)
|-
! style="background-color:#00FFFF" |2
|0.1m 以上 0.5m 未満
|なめらか、小波がある (Smooth / wavelets)
|-
! style="background-color:#ADFF2F" |3
|0.5m 以上 1.25m 未満
|やや波がある (Slight)
|-
! style="background-color:#FFFF00" |4
|1.25m 以上 2.5m 未満
|かなり波がある (Moderate)
|-
! style="background-color:#FFD700" |5
|2.5m 以上 4m 未満
|波がやや高い (Rough)
|-
! style="background-color:#FFA500" |6
|4m 以上 6m 未満
|波がかなり高い (Very rough)
|-
! style="background-color:#FF0000" |<span style="color:#fff;">7</span>
|6m 以上 9m 未満
|相当荒れている (High)
|-
! style="background-color:#8A2BE2" |<span style="color:#fff;">8</span>
|9m 以上 14m 未満
|非常に荒れている (Very high)
|-
! style="background-color:#800080" |<span style="color:#fff;">9</span>
|14m 以上
|異常な状態 (Phenomenal)
|}

*「波の高さ」とは、観測している波浪系の中で比較的大きな形の良い波を観測して得られる平均波高である。
*丁度境界に当たる高さの場合は下のコード値とする。例えば、波高2.5mの場合にはコードは4とする。

=== うねり階級表 ===
うねり階級（Sea swell）の表組み、訳語などは日本海洋データセンター、Wikipedia英語版などに従った。
{| class="wikitable"
! colspan="2" |うねり階級
'''Character of the sea swell'''
|-
! style="background-color:#ADFF2F" |
|0.うねりがない(None)
|-
! style="background-color:#FFFF00" |弱い
Low
|1. 短くまたは中位の弱いうねり（波高2m未満）(Short or average)<br /> 2. 長く弱いうねり（波高2m未満）(Long)
|-
! style="background-color:#FFA500" |やや高い
'''Moderate'''
|3. 短くやや高いうねり（波高2m 〜 4m）(Short)<br />4. 中位のやや高いうねり（波高2m 〜 4m）(Average)<br />5. 長くやや高いうねり（波高2m 〜 4m）(Long)
|-
! style="background-color:#FF0000" |<span style="color:#fff;">高い</span>
'''<span style="color:#fff;">Heavy</span>'''
|6. 短く高いうねり（波高4m以上）(Short)<br />7. 中位の高いうねり（波高4m以上）(Average)<br />8. 長く高いうねり（波高4m以上）(Long)
|-
! style="background-color:#8A2BE2" |
|9. 2方向以上からうねりがきて海上が混乱している場合(Confused)
|}

*下記の言葉は定量的な定義がある
**短く：波長100m未満、周期8.0秒以下 
**中位の：波長100〜200m、周期8.1〜11.3秒 
**長く：波長200m以上、周期11.4秒以上 
*うねりの方向は記録しておく必要がある。
*混濁したうねりが北東の方角から来る場合、「confused northeast」というように記録されなければならない。

== 海洋技術における海況 ==
工学での活用では、海況はよく次の2つのパラメータによって特徴付けられる。

*[[有義波高]]H<sub>1/3</sub>:1/3に最も高い波の平均の波高。

*平均波周期(mean wave period)、T<sub>1</sub>。

Sea Stateはこれら2つのパラメータ(または、この2つの変化)に加え、波スペクトル<math>S(\omega, \Theta)</math>（波高スペクトル<math>S(\omega)</math>と波の進行方向スペクトル<math>f(\Theta)</math>の積）によって記述される。

いくつかの波高スペクトルを下記に記載する。波スペクトルの次元は<math>\{S(\omega)\} = \{{\text{length}}^2\cdot\text{time}\}</math>となり、スペクトルからSea Stateに関する多くの興味深い特性を見い出すことが出来る。

ある波の成分jにおいてスペクトル<math>S(\omega_j)</math>と波の振幅<math>A_j</math>との関係は

: <math>\frac{1}{2} A_j^2 = S(\omega_j)\, \Delta \omega</math>

* ITTC<ref>International Towing Tank Conference</ref>が推奨する完全に荒れた海のスペクトル(ISSC<ref>International Ship and Offshore Structures Congress</ref>スペクトル/[[:en:Pierson-Moskowitz spectrum|Pierson-Moskowitz スペクトル]]を修正):<ref>{{citation | doi=10.1029/JZ069i024p05181 | first1=W. J. | last1=Pierson | first2=L. | last2=Moscowitz | title=A proposed spectral form for fully developed wind seas based on the similarity theory of S A Kitaigorodskii | journal=Journal of Geophysical Research | volume=69 | issue=24 | pages=5181–5190 | year=1964 }}</ref>

: <math>
  \frac{S(\omega)}{H_{1/3}^2 T_1} = \frac{0.11}{2\pi} \left(\frac{\omega T_1}{2\pi}\right)^{-5} \mathrm{exp} \left[-0.44 \left(\frac{\omega T_1}{2\pi}\right)^{-4} \right]
 </math>

* ITTCが推奨する広がりが制限されたスペクトル([[JONSWAP spectrum]])

: <math>
  S(\omega) = 155 \frac{H_{1/3}^2}{T_1^4 \omega^5} \mathrm{exp} \left(\frac{-944}{T_1^4 \omega^4}\right)(3.3)^Y,
 </math>

ここで、

: <math>Y = \exp \left(-\left(\frac{0.191 \omega T_1 -1}{2^{1/2}\sigma}\right)^2\right)</math>

また、

: <math>\sigma =
\begin{cases}
0.07 & \text{if }\omega \le 5.24 / T_1, \\
0.09 & \text{if }\omega > 5.24 / T_1.
\end{cases}
</math>

一例として[[関数 (数学)|関数]]<math>f(\Theta)</math>は下記のようになる。

: <math>f(\Theta) = \frac{2}{\pi}\cos^2\Theta, \qquad -\pi/2 \le \Theta \le \pi/2</math>

したがって、Sea stateは次の関数によって、完全に決定され、再現することが出来る。<math>\zeta</math>が水位変動(wave elevation)であるとき、<math>\epsilon_{j}</math>は0から<math>2\pi</math>の間で均一に分配され、<math>\Theta_j</math>は方向性[[分配関数]]<math>\sqrt{f(\Theta)}</math>からランダムに掃引される<ref>{{citation | first=E. R. | last=Jefferys | title=Directional seas should be ergodic | journal=Applied Ocean Research | volume=9 | issue=4 | year=1987 | pages=186–191 | doi=10.1016/0141-1187(87)90001-0 }}</ref>。<math>\zeta</math>は次式のようになる。

: <math>\zeta = \sum_{j=1}^N \sqrt{2 S(\omega_j) \Delta \omega_j}\; \sin(\omega_j t - k_j x \cos \Theta_j - k_j y \sin \Theta_j + \epsilon_{j}).</math>

上に提示された短期間の波統計に加えて、長期[[海況統計]]がある。これは有義波高と平均波の周期による統合周波数表である。長い、または短い期間統計的な配分によって、[[船舶]]の運航[[寿命]]として期待出来る[[極値]]を見つけることが可能である。船舶の設計者は、最も極端なSea state(H1/3とT1の極値)を統合周波数表から見つけることが出来、また、設計者は波のスペクトルから、最も極端なSea stateにおいて発生し得る最大の水位変動を見出すことが出来、船の個々の部分で発生し得る最高負荷を、船舶の応答振幅要素から予測することが出来る。100年か1000年間で一度の海況に対する抗甚性が船舶や海洋構造物の設計では恒常的に要求される。

== 脚注 ==
{{reflist}}

== 参考文献 ==
* 水産海洋辞典 ([[水産社]]、ISBN 978-4915273520)
* Bowditch, Nathaniel original; <u>H.O. pub No. 9: American Practical Navigator, Revised Edition 1938</u>; United States Hydrographic Office; Not Copyrighted 1938.
* {{Citation 
  | last = Faltinsen
  | first = O. M.
  | title = Sea Loads on Ships and Offshore Structures
  | publisher = [Cambridge University Press]
  | date = 1990
  | isbn = 0-521-45870-6 }}

== 関連項目 ==
* [[波]]
* [[時化]]
* [[巨大波]]
* [[土用波]]
* [[海面]]
* [[:en:Beaufort scale|Beaufort scale]]
* [[:en:Cross sea|Cross sea]]
* [[ダグラス海況階級]]

{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:かいきよう}}
[[Category:船]]
[[Category:海洋学]]
[[Category:漁業]]
[[Category:気象]]