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{{翻訳直後|[[:en:Special:Redirect/revision/774200273|en:Attenuation]]|date=2017年4月}} [[物理学]]において、'''減衰'''(げんすい、{{Lang-en-short|attenuation}}、文脈により {{Lang|en|extinction}} とも)は[[媒質]]中のなんらかの[[流束]]の強度が漸減する現象をいう。たとえば、濃色[[ガラス]]は[[太陽光|日光]]を、[[鉛]]は[[X線]]を、[[水]]は[[光]]と[[音]]を減衰させる。 媒質として防音材を例にとると、防音材中を伝播するにつれて[[音エネルギー流束]]が減少する現象は[[音波減衰]]と呼ばれる。音波'''減衰'''は[[デシベル]] (dB) 単位で測定される。 [[電気工学]]および[[電気通信|通信工学]]においては、[[電気回路]]や[[光ファイバー]]、空気中([[電波]]の場合)を伝わる{{仮リンク|label=進行波|波の伝播|en|Wave propagation}}または[[信号 (電気工学)|信号]]が減衰の影響を受ける。電気的[[減衰器]]や{{仮リンク|光減衰器|en|Optical attenuator}}といった部品により意図的に減衰を起こすことも一般に行われる。 == 背景 == [[ファイル:Micrwavattrp.png|サムネイル|電磁波の大気中における減衰率の周波数依存性]] 多くの場合、減衰は媒質中の伝播距離に対して[[指数関数]]的に起こる。[[分光法|分光]]化学においては、これは[[ランベルト・ベールの法則]]として知られる。[[工学]]分野においては、通常減衰は単位長さあたりの[[デシベル]](dB/cm, dB/km など)単位で測定され、媒質毎の減衰[[係数]]により記述される<ref name="Zagzebski">Essentials of Ultrasound Physics, James A. Zagzebski, Mosby Inc., 1996.</ref>。[[地震]]時にも減衰は生じる。[[地震波]]は[[震央|震源]]から伝播するにつれて[[地球|地面]]による減衰を受け、徐々に小さくなる。 == 超音波 == 減衰が重要視される分野の一つとして、[[超音波]]物理学、特に超音波検査の分野が挙げられる。超音波ビームの減衰による振幅の減少は撮像媒体中の伝播距離の関数として表わされる。超音波の減衰効果により振幅が減少すると、撮像品質に影響が出る場合がある。超音波ビームが媒質中を伝播する際に受ける減衰を知ることにより、エネルギーの損失を補償することができ、所望の撮像深度に適した入力信号強度を調節することができる<ref name="Bushong">Diagnostic Ultrasound, Stewart C. Bushong and Benjamin R. Archer, Mosby Inc., 1991.</ref>。 * [[エマルション]]や[[コロイド]]のような{{仮リンク|不均一混合物|label=不均一系|en|Heterogeneous mixture|redirect=1}}における超音波減衰の計測から、{{仮リンク|粒径分布|en|Particle size distribution}}に関する情報を得ることができる。この技術に関する ISO 標準が存在する<ref>ISO 20998-1:2006 "Measurement and characterization of particles by acoustic methods"</ref>。 * 伸長[[レオロジー]]において、超音波減衰が用いられることがある。{{仮リンク|音響レオメータ|en|Acoustic rheometer}}は、{{仮リンク|label=ストークスの法則|ストークスの法則 (音響学)|en|Stokes' law of sound attenuation}}を用いて{{仮リンク|伸長粘度|en|Extensional viscosity}}と{{仮リンク|体積粘度|en|Volume viscosity}}を計測する。 音響減衰を考慮した[[波動方程式]]は[[分数階微積分学|分数階微分形式]]で書くことができる。これについては、[[音波減衰]]の項もしくはサーベイ論文<ref name="Nasholm">S. P. Näsholm and S. Holm, "On a Fractional Zener Elastic Wave Equation," Fract. </ref>を参照されたい。 === 減衰係数 === [[吸収係数|減衰係数]]は、異なる媒質間で入射超音波振幅が周波数に依存してどれだけ減衰するかを表わすために用いられる。減衰[[係数]] (<math>\alpha</math>) を用いて媒質による総減衰を [[デシベル|dB]] の形で次のように表わすことができる。 : <math> \text{Attenuation} = \alpha [\text{dB}/(\text{MHz} \cdot \text{cm})] \cdot \ell [\text{cm}] \cdot \text{f}[\text{MHz}]</math> この方程式が表わすように、減衰は媒質長と減衰係数の他に、入射超音波ビームの[[周波数]]にも線形に依存する。減衰係数は媒質によって大きく異なる。ただ、医療用超音波撮像技術においては、媒質は水であることが最も多い。一般的な生体物質の 1 MHz における減衰係数を以下に示す<ref name="Culjat">{{cite journal|year=2010|title=A Review of Tissue Substitutes for Ultrasound Imaging|journal=Ultrasound in Medicine & Biology|volume=36|issue=6|pages=861–873|last1=Culjat|first1=Martin O.|last2=Goldenberg|first2=David|last3=Tewari|first3=Priyamvada|last4=Singh|first4=Rahul S.|pmid=20510184|doi=10.1016/j.ultrasmedbio.2010.02.012}}</ref>。 {| class="wikitable" style="margin:1em auto;" !物質 ! <math>\alpha (\text{dB}/(\text{MHz}\cdot\text{cm}))</math> |- |空気 | 1.64 (20 °C)<ref>http://www.ndt.net/article/ultragarsas/63-2008-no.1_03-jakevicius.pdf</ref> |- |血液 | 0.2 |- |皮質骨 | 6.9 |- |骨梁骨 | 9.94 |- |脳 | 0.6 |- |乳 | 0.75 |- |心臓 | 0.52 |- |結合組織 | 1.57 |- |象牙質 | 80 |- |エナメル質 | 120 |- |脂肪 | 0.48 |- |肝臓 | 0.5 |- |髄質 | 0.5 |- |筋肉 | 1.09 |- |腱 | 4.7 |- |軟部組織(平均) | 0.54 |- |水 | 0.0022 |} 音エネルギー損失には、{{仮リンク|label=吸収|吸収 (音響学)|en|Absorption (acoustics)}}と[[散乱]]の二つの種類がある<ref>Bohren,C. F. and Huffman, D.R. "Absorption and Scattering of Light by Small Particles", Wiley, (1983), ISBN 0-471-29340-7</ref>。{{仮リンク|均一混合物|label=均一|en|Homogeneous mixture|redirect=1}}媒質中を伝播する超音波は吸収のみを起こし、[[吸収係数]]のみによって記述することができる。{{仮リンク|不均一混合物|label=不均一系|en|Heterogeneous mixture|redirect=1}}媒質中を伝播する場合は散乱の影響を考慮する必要がある<ref>Dukhin, A.S. and Goetz, P.J. "Ultrasound for characterizing colloids", Elsevier, 2002</ref>。損失を考慮した音波の伝播をモデル化するには分数次微分波動方程式を用いることができる。これについては[[音波減衰]]の項および出典を参照されたい。 == 水中における光の減衰 == [[太陽光]]は波長 360 [[ナノメートル|nm]] (紫)から 750 nm (赤)の[[可視光線|可視光]]を含む。海面から入射した太陽光は水による減衰を受け、水深が深くなるにつれて指数関数的に強度を減少させる。特定の深さにおける光の強度は[[ランベルト・ベールの法則]]により計算できる。 清浄で深い水により、可視光は波長の長い成分から先に減衰を受ける。すなわち、赤、橙、黄色の光は浅い部分で吸収され、青や紫の光はより深い部分まで到達する。青と紫の光が他の光に比べて吸収されにくいため、深い海は目に深青に見える。 沿岸部は大洋中心の清浄な海水に比べて、より多くの[[植物プランクトン]]を含む。植物プランクトンの持つ[[クロロフィル|クロロフィル-a]]色素は光を吸収し、また植物プランクトンそのものが光を散乱させるため、沿岸部の海水は深海部よりも清浄で無くなる。クロロフィル-a色素は可視光の中では短い波長(青と紫)の光を最も強く吸収する。植物プランクトンの密度が高い沿岸部の海水は、緑色の光が最も深くまで到達するため、青緑から緑色に見える。 == 地震 == [[地震]]がある地点に及ぼすエネルギーは[[地震波]]の伝播距離に依存する。地震動の減衰は大地震に備える上で重要な役割を果たす。地震波は[[地球|地面]]を伝播するにつれて[[エネルギー]]を失う(減衰)。この[[現象]]は地震波エネルギーの距離につれて拡散することに関係する。次の二種類のエネルギー[[散逸]]が存在する。 * 地震波がより大きな体積へと分散することによる幾何分散。 * 熱としての分散。非弾性減衰もしくは内部減衰とも呼ぶ。 == 電磁波 == {{仮リンク|電磁輻射|en|Electromagnetic radiation}}の強度減衰は[[光子]]の{{仮リンク|吸収 (電磁波)|en|Absorption (electromagnetic radiation)|label=吸収}}と[[散乱]]に起因する。幾何的な広がりに起因する[[逆2乗の法則|逆二乗則]]による強度低下は減衰に含めない。したがって、強度の総変化は逆二乗則と経路による減衰の両方を考慮にいれて計算する必要がある。 物質中の減衰の主な原因は[[光電効果]]、[[コンプトン効果|コンプトン散乱]]、そしてエネルギーが 1.022 MeV 以上の光子については[[対生成]]である。 === X線撮影 === {{仮リンク|吸収係数|en|Attenuation coefficient|preserve=yes}}の項を参照。 === 光 === [[光ファイバー]]中における減衰は[[伝送損失]]とも呼ばれ、伝送媒質中を光(信号)が伝播するにつれて強度を低減させる。光ファイバーは比較的透明度が高いため、減衰係数は通常 dB/km 単位で計測される。媒質は典型的には光を内側に閉じ込めるシリカガラスファイバーである。減衰は長距離デジタル通信における伝送限界の重要な要素である。そのため、減衰を抑え、信号を最大限増幅するために多くの研究が成されている。経験的な研究によると減衰の主な原因は[[散乱]]と{{仮リンク|吸収 (電磁波)|en|Absorption (electromagnetic radiation)|label=吸収}}の両方である<ref name="Vardeny">Telecommunications: A Boost for Fibre Optics, Z. Valy Vardeny, Nature 416, 489–491, 2002.</ref>。 光ファイバーにおける減衰は次の式により計算できる<ref>{{cite news|title=Fibre Optics|url=http://floti.bell.ac.uk/MATHSPHYSICS/5attenua.htm|publisher=Bell College|archiveurl=https://web.archive.org/web/20060224231950/http://floti.bell.ac.uk/MATHSPHYSICS/5attenua.htm|archivedate=2006-02-24}}</ref>。 : <math>\text{Attenuation (dB)} = 10\times\log_{10}\left(\frac{\text{Input intensity (W)}}{\text{Output intensity (W)}}\right)</math> ==== 光散乱 ==== [[ファイル:Reflection_angles.svg|フレーム|[[鏡面反射]]]] [[ファイル:Diffuse_reflection.svg|右|サムネイル|拡散反射]] 光ファイバーのコア中を伝播する光は全反射に基いて説明できる。分子レベルで見て粗く、不規則な表面においては、光線はさまざまな方向へランダムに反射されることがある。このような種類の反射を「[[拡散反射]]」と呼び、典型的には広い範囲の反射角により特徴づけられる。裸眼で物体が見えるのは、ほとんどがこの種類の反射光による。この種類の反射は「[[光散乱]]」と呼ばれることも多い。物体表面からの光散乱は我々の物理観測における主要なメカニズムである<ref name="z">{{cite journal|author=Kerker, M.|year=1909|title=The Scattering of Light (Academic, New York)}}</ref> <ref name="y">{{cite journal|author=Mandelstam, L.I.|year=1926|title=Light Scattering by Inhomogeneous Media|journal=Zh. Russ. Fiz-Khim. Ova.|volume=58|page=381}}</ref>。多くの一般的な表面の光散乱は[[ランバート反射]]によりモデル化できる。 光散乱は散乱される光の[[波長]]に影響を受ける。そのため、入射光波の周波数によって散乱中心の物理的次元(もしくは空間スケール)に限界が生じる。これは通常微視的なスケールである。例えば、[[可視光線|可視光]]は波長スケールが1 [[マイクロメータ|マイクロメートル]]の[[オーダー (物理学)|オーダー]]であるから、散乱中心は同等の空間スケールとなる。 よって、光の内[[界面|表面]]および[[界面]]における{{仮リンク|非コヒーレント散乱|en|Incoherent scattering}}が散乱の原因となる。[[金属]]や[[セラミック|セラミックス]]のような(多)結晶性の物質では、細孔に加えてほとんどの内表面もしくは界面が[[結晶粒界|粒界]]を形成しており、細かな結晶秩序領域に分割されている。近年、散乱中心(粒界)のサイズを散乱される光よりも小さくすると散乱がほとんど起こらないことが示された。この現象は[[透明]]セラミクス材料の開発につながっている。 また、光ファイバーに用いられるレベルの光学ガラスにおける光散乱は、ガラス構造中の分子レベルの欠陥(組成変動)に起因する。実際、ガラスを多結晶の極限状態と見做す考え方が芽生えつつある。この枠組み内では、様々な度合いの近距離秩序を示す「領域」が金属や合金とガラスやセラミックスの両方の物質の構成ブロックとなる。この領域の内側およびその間のどちらにも微視的構造欠陥が分布し、光散乱が起きるのに理想的な場所を提供する。 これと同じ現象が赤外線ミサイルドームの透明性限界で見られる<ref>Archibald, P.S. and Bennett, H.E., "Scattering from infrared missile domes", Opt. </ref>。 ==== 紫外-可視-赤外吸光 ==== 光散乱に加えて、減衰および信号損失は特定波長の選択的吸光によっても起こる。ある素材において起こる吸収については、次のような電子的要因と分子的要因の両方を考慮する必要がある。 * 電子レベルにおいては、電子軌道が紫外および可視光領域の特定の波長もしくは周波数の光量子(光子)を吸収できるような間隔になっているか(量子化されているか)に依存する。これが[[色]]の原因である。 * 原子もしくは分子レベルにおいては、原子および分子、化学結合の振動周波数、原子や分子がどれだけ密に充填されているか、そして原子や分子が長距離秩序を示すかに依存する。これらの要素は物質の[[赤外線]]、[[遠赤外線]]、[[マイクロ波]]、[[電波]]などの長波長な電磁波の伝達能力を決定する。 特定の物質による赤外光の選択的吸光はその物質の振動周波数(もしくはその整数倍)と光波の周波数が一致した場合に起こる。原子および分子が異なれば振動の[[固有周波数]]も異なるため、物質はそれぞれ異る周波数(もしくはスペクトル領域)の赤外線を選択的に吸収することになる。 === 応用 === [[光ファイバー]]において、減衰は信号光の強度減少速度である。この理由から、長距離[[光ケーブル]]には(減衰の少ない)ガラスファイバーが用いられ、減衰の大きいプラスチックファイバーは近距離にしか用いられない。意図的に光ケーブル中の信号強度を減少させるための{{仮リンク|光減衰器|en|Optical attenuator}}も存在する。 光の減衰は[[海洋物理学]]においても重要である。[[気象レーダー]]でも同じ効果が重要となる。なぜなら、雨粒は放射光のある程度の一部を吸収するが、これが波長に依存するからである。 高エネルギー光子は生体組織に対する損傷効果を持つため、医療診断中にそのような放射線を用いる場合はその度合いを知る必要がある。さらに、ガンマ線を用いた{{仮リンク|癌治療|en|Cancer treatments}}に際しては、そのエネルギーのどれだけが健康な組織および腫瘍組織に蓄積するのかを知る必要がある。 === 無線通信 === 現代の[[無線通信]]界でも減衰が重要である。無線信号の到達範囲は減衰によって決まり、また減衰は信号の伝播する媒質(空気、木材、コンクリート、雨粒など)の影響を受ける。無線通信における信号損失については{{仮リンク|経路損失|en|Path loss}}の項を参照のこと。 == 出典 == {{脚注ヘルプ}} {{Reflist|colwidth=50em}} == 関連項目 == {{columns-list|colwidth=15em| * [[音波減衰]] * {{仮リンク|減衰距離|en|Attenuation length}} * [[減衰波]] * [[転写減衰]] * [[減衰振動]] * [[反応断面積]] * [[デシベル]] * [[インピーダンス]] * {{仮リンク|環境浄化|en|Environmental remediation}} * [[平均自由行程]] * {{仮リンク|経路損失|en|Path loss}} * {{仮リンク|放射長|en|Radiation length}} * [[X線撮影]] * {{仮リンク|降雨フェージング|en|Rain fade}} * {{仮リンク|波の伝播|en|Wave propagation}} * [[ショックアブソーバー]](ダンパー) }} == 外部リンク == * [http://physics.nist.gov/PhysRefData/XrayMassCoef/cover.html NIST's XAAMDI: X-Ray Attenuation and Absorption for Materials of Dosimetric Interest Database] * [http://physics.nist.gov/PhysRefData/Xcom/Text/XCOM.html NIST's XCOM: Photon Cross Sections Database] * [http://physics.nist.gov/PhysRefData/FFast/Text/cover.html NIST's FAST: Attenuation and Scattering Tables] * [https://web.archive.org/web/20080724134756/http://www.qsl.net/vk5br/UwaterComms.htm Underwater Radio Communication] {{Normdaten}} {{デフォルトソート:けんすい}} [[Category:音響学]] [[Category:通信工学]]
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