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[[数学]]における'''緊密性'''(きんみつせい、{{Lang-en-short|tightness}})とは、[[測度論]]の分野に現れるある概念である。直感的には、ある与えられた測度の全体が「[[無限|無限大]]へと逃げない」ことを意味する。 == 定義 == (''X'', ''T'') をある[[位相空間]]とし、Σ を ''X'' 上の [[完全加法族|σ-代数]]で位相 ''T'' を含むようなものとする(したがって、''X'' のすべての[[開集合|開部分集合]]は[[可測集合]]であり、Σ は少なくとも ''X'' 上の[[ボレル集合|ボレル σ-代数]]と同程度良質なものである)。''M'' を Σ 上の測度([[符号付測度]]あるいは[[複素測度]])の全体とする。そのような全体 ''M'' が'''緊密'''(あるいは、'''一様緊密'''ともしばしば呼ばれる)であるとは、任意の ''ε'' > 0 に対して、ある ''X'' の[[コンパクト空間|コンパクト部分集合]] ''K''<sub>''ε''</sub> が存在し、 :<math>|\mu| (X \setminus K_{\varepsilon}) < \varepsilon</math> が ''M'' 内のすべての測度 ''μ'' に対して成立することを言う。ここで <math>|\mu|</math> は測度 <math>\mu</math> の{{仮リンク|全変動|label=全変動|en|total variation}}を表す。扱う測度が[[確率測度]]であることは頻繁に起こり、その様な場合、上式は :<math>\mu (K_{\varepsilon}) > 1 - \varepsilon \,</math> と書き換えられる。緊密な全体 ''M'' が単一の測度 ''μ'' のみで構成されるとき、そのような ''μ'' は(研究者によって)'''緊密測度'''(tight measure)あるいは'''[[内部正則測度]]'''と呼ばれる。 ''Y'' が ''X'' に値を取る[[確率変数]]で、その ''X'' 上の[[確率分布]]が緊密測度であるなら、そのような ''Y'' は'''可分確率変数'''(separable random variable)あるいは'''ラドン確率変数'''(Radon random variable)と呼ばれる。 == 例 == === コンパクト空間 === ''X'' が[[距離化定理|距離化可能な]][[コンパクト空間]]であるなら、''X'' 上のすべての(複素測度でもあり得る)測度の全体は緊密である。距離化不可能なコンパクト空間に対しては、この限りではない。区間 <math>[0,\omega_1]</math> を{{仮リンク|順序位相|en|order topology}}を備えるものとすると、その上にはある内部正則ではない測度 <math>\mu</math> が存在する。したがって単元集合 <math>\{\mu\}</math> は緊密ではない。 === ポーランド空間 === ''X'' が[[ポーランド空間]]であるなら、''X'' 上のすべての確率測度は緊密である。さらに[[プロホロフの定理]]によれば、''X'' 上の確率測度の全体が緊密であるための必要十分条件は、それが{{仮リンク|測度の収束|label=弱収束|en|convergence of measures}}位相において[[相対コンパクト部分空間|プレコンパクト]]であることである。 === 点質量の全体 === 通常のボレル位相を備える[[実数直線]] '''R''' を考える。''δ''<sub>''x''</sub> を[[ディラック測度]]、すなわち '''R''' 内の点 ''x'' における単位質量とする。次のような全体 :<math>M_{1} := \{ \delta_{n} | n \in \mathbb{N} \}</math> は緊密ではない。なぜならば'''R''' 内のコンパクト部分集合は必ず[[閉集合|閉]]かつ[[有界集合|有界]]で、その有界性のためにそのような任意の集合は、十分大きな ''n'' に対して ''δ''<sub>''n''</sub>-測度ゼロとなる。一方、次のような全体 :<math>M_{2} := \{ \delta_{1 / n} | n \in \mathbb{N} \}</math> は緊密である。実際、コンパクトな区間 [0, 1] が任意の ''η'' > 0 に対する ''K''<sub>''η''</sub> としての役割を担う。一般に、'''R'''<sup>''n''</sup> 上のディラックデルタ測度の全体が緊密であるための必要十分条件は、それらの[[台 (測度論)|台]]の全体が有界であることである。 === ガウス測度の全体 === 通常のボレル位相と σ-代数を備える ''n''-次元[[ユークリッド空間]] '''R'''<sup>''n''</sup> を考える。また、次のような{{仮リンク|ガウス測度|en|Gaussian measure}}の全体 :<math>\Gamma = \{ \gamma_{i} | i \in I \},</math> を考える。ここで測度 ''γ''<sub>''i''</sub> の '''R'''<sup>''n''</sup> 内における[[期待値]]([[平均]])は ''μ''<sub>''i''</sub> であり、[[分散 (確率論)|分散]]は ''σ''<sub>''i''</sub><sup>2</sup> > 0 である。このとき、全体 Γ が緊密であるための必要十分条件は、全体 <math>\{ \mu_{i} | i \in I \} \subseteq \mathbb{R}^{n}</math> および <math>\{ \sigma_{i}^{2} | i \in I \} \subseteq \mathbb{R}</math> がいずれも有界であることである。 == 緊密性と収束 == 緊密性はしばしば、確率測度の列の{{仮リンク|測度の収束|label=弱収束|en|convergence of measures}}を証明するために必要な条件となる。特に、測度空間が[[無限]][[次元]]であるときに、そのようになる。次の記事を参照されたい。 * [[有限次元分布]] * [[プロホロフの定理]] * {{仮リンク|古典ウィーナー空間|label=古典ウィーナー空間における緊密性|en|Classical Wiener space}} * [[スコロホッド空間における緊密性]] == 指数緊密性 == 緊密性の一つの一般化として、[[大偏差理論]]に応用される、指数緊密性(exponential tightness)という概念がある。ある[[ハウスドルフ空間|ハウスドルフ位相空間]] ''X'' 上の[[確率測度]]の族 (''μ''<sub>''δ''</sub>)<sub>''δ''>0</sub> が'''指数的に緊密'''(exponentially tight)であるとは、任意の ''η'' > 0 に対して ''X'' のあるコンパクトな部分集合 ''K''<sub>''η''</sub> が存在し、 :<math>\limsup_{\delta \downarrow 0} \delta \log \mu_{\delta} (X \setminus K_{\eta}) < - \eta</math> が成立することを言う。 == 参考文献 == * {{cite book | last=Billingsley | first=Patrick | title=Probability and Measure | publisher=John Wiley & Sons, Inc. | location=New York, NY | year=1995 | isbn=0-471-00710-2}} * {{cite book | last=Billingsley | first=Patrick | title=Convergence of Probability Measures | publisher=John Wiley & Sons, Inc. | location=New York, NY | year=1999 | isbn=0-471-19745-9}} * {{ cite book | last1 = Ledoux | first1 = Michel | last2 = Talagrand | first2 = Michel | author2-link = :en:Michel Talagrand | title = Probability in Banach spaces | publisher = Springer-Verlag | location = Berlin | year = 1991 | pages = xii+480 | isbn = 3-540-52013-9 }} {{MathSciNet|id=1102015}} (See chapter 2) {{DEFAULTSORT:そくとのきんみつせい}} [[Category:測度論]] [[Category:数学に関する記事]]
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