湿度のソースを表示

[[File:Kondensierender Wasserdampf01.jpg|thumb|相対湿度が100%になると結露を生じる。]]
'''湿度'''（しつど、{{lang-en-short|humidity}}）とは、[[大気]]中の[[水蒸気]]量（いわゆる「しめっぽさ」）を表す数値である。様々な定義がある。

[[気象予報]]などでは、一般に'''相対湿度'''が用いられる。相対湿度とは、飽和水蒸気量（水蒸気として存在可能な最大の水蒸気量）に対する、実際の水蒸気量の比率である。なお、飽和水蒸気量は温度ごとに異なり、同じ温度のもとでは一定する。

'''絶対湿度'''（{{en|absolute humidity}}）とは、国際的には'''容積絶対湿度'''のことである。しかし、日本では[[空気調和工学]]の分野では'''重量絶対湿度'''（[[混合比 (気象用語)|混合比]]）が「絶対湿度」と呼ばれる。

== 分類 ==
=== 容積絶対湿度 ===
'''容積絶対湿度'''（{{Lang-en|volumetric humidity}}、略称: VH）とは、大気[[容積]]あたりの水蒸気[[質量]]である。単位は[[グラム]]毎[[立方メートル]]（g/m{{sup|3}}）が用いられる。

容積 {{math|''V''{{sub|a}}}} の空気中に含まれる水蒸気の質量を {{math|''m''{{sub|w}}}} とすると、容積絶対湿度 {{math|''&rho;''{{sub|w}}}} は
{{Indent|
<math>\rho_\text{w} =\frac{m_\text{w}}{V_\text{a}}</math>
}}
と表わされる。水蒸気を[[理想気体]]とみなして近似すれば、気温を {{mvar|&theta;}}、水蒸気分圧を {{mvar|e}} として
{{Indent|
<math>\rho_\text{w} \approx \frac{e/\text{hPa}}{\theta/^\circ\text{C} +273.15}\times 216.7\ \text{g}/\text{m}^3</math>
}}
と近似される<ref name="tanaka">[[#tanaka|田中 他『建築環境工学』]]、pp. 245–246</ref>。これは、[[飽和水蒸気量]]に相対湿度をかけた値に等しい。

=== 相対湿度 ===
'''相対湿度'''（{{Lang-en|relative humidity}}、略称: RH）とは、ある[[気温]]における飽和水蒸気圧に対する実際の空気の水蒸気分圧の[[比]]である。一般に百分率（[[パーセント]]、%）で表される。

空気の水蒸気分圧を {{mvar|e}}、気温 {{mvar|&theta;}} における飽和水蒸気圧を {{math|''e''{{sub|s}}(''&theta;'')}} とすると、相対湿度 {{mvar|&phi;}} は
{{Indent|
<math>\phi =\frac{e}{e_\text{s}(\theta)}\times 100\%</math>
}}
と表わされる<ref name="tanaka" /><ref name="gakugei">[[#gakugei|気象学概説（学芸大）]]の講義ノート</ref>。
水蒸気を理想気体とみなして近似すれば、水蒸気分圧は水蒸気量に比例する。空気中に含まれる水蒸気量を {{math|''&rho;''{{sub|w}}}}、気温 {{mvar|&theta;}} で空気が含むことのできる最大の水蒸気量（[[飽和水蒸気量]]）を {{math|''&rho;''{{sub|w,s}}(''&theta;'')}} とすれば
{{Indent|
<math>\phi \approx \frac{\rho_\text{w}}{\rho_\text{w,s}(\theta)}\times 100\%</math>
}}
と近似される<ref name="tanaka" />。

分母の飽和水蒸気量は、気温が高くなるほど大きくなり、1度あたりの増加量も拡大する。このため、相対湿度が同じでも、気温が高いほど空気中の実際の水蒸気量は多い。また、気温が下がると分母は小さくなるので、相対湿度は上昇する。相対湿度が100%になると空気中の水蒸気が飽和し、それ以上の水蒸気は[[凝集]]して[[液体]]となって[[結露]]を生じる。このときの温度を'''[[露点温度]]'''という。

==== 臨界相対湿度 ====
[[尿素]]や[[クエン酸]]などの水溶性物質では低湿度では全く吸湿が起こらず、ある相対湿度以上で急激に吸湿量が増大する場合がある。このような変化の起こる相対湿度を'''臨界相対湿度''' (critical relative humidity、'''CRH''') と呼ぶ。臨界相対湿度は[[飽和水溶液]]の[[蒸気圧]]が空気中の蒸気圧に等しい点である。したがって、臨界相対湿度以上の相対湿度では固体が完全に溶解され、さらに希釈されてその溶液の蒸気圧が空気中の蒸気圧に等しくなるまで吸湿が進行する。一般に臨界相対湿度の高いものは吸湿しにくく、低いものは吸湿しやすい。

[[混合物]]の臨界相対湿度は各成分の臨界相対湿度より低く、混合物ABの臨界相対湿度 CRH<sub>AB</sub>は、各成分A、Bそれぞれの臨界相対湿度 CRH<sub>A</sub>、CRH<sub>B</sub> の積に近似することができる。
:CRH<sub>AB</sub> = CRH<sub>A</sub> × CRH<sub>B</sub>
これは'''エルダーの仮説''' (Elder's hypothesis) と言われ、この場合、A、B両成分の飽和水溶液の蒸気圧が臨界相対湿度に対応する。

=== 重量絶対湿度 ===
[[ファイル:Umiditàspecifica.svg|thumb|right|300px|1気圧における重量絶対湿度のグラフ。横軸が気温、縦軸が乾き空気1kgあたりの水分量（g/kg（DA））。相対湿度100%時と50%時について示す。]]
{{Main|混合比 (気象用語)}}
'''重量絶対湿度'''、あるいは'''混合比'''（{{Lang-en|mixing ratio, humidity ratio}}）とは、'''乾燥空気'''（{{en|dry air}}）の質量に対する水蒸気の質量の比である。単位には kg/kg(DA) が用いられる（DA は {{en|dry air}} を意味する）。水蒸気を含む混合空気を'''[[湿潤空気]]'''（湿り空気）という。湿潤空気から水蒸気を除いた空気の成分が乾燥空気である。[[空気調和工学]]においては、[[湿り空気線図]]などで一般的に用いられる。

水蒸気量を {{math|''&rho;''{{sub|w}}}}、乾燥空気の密度を {{math|''&rho;''{{sub|DA}}}} とすると、重量絶対湿度 {{mvar|x}} は
{{Indent|
<math>x =\frac{\rho_\text{w}}{\rho_\text{DA}}</math>
}}
と表わされる<ref name="gakugei" />。
水蒸気と乾燥空気をそれぞれ理想気体とみなして近似すれば、水蒸気分圧を {{mvar|e}}、空気の圧力を {{mvar|P}} とすれば
{{Indent|
<math>x \approx \frac{0.622\, e}{P-e}</math>
}}
と近似される<ref name="tanaka" /><ref name="gakugei" /><ref name="satomura">{{Cite web|和書|url=https://ocw.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2012/04/2012_faculty_of_science_physclim3.pdf |title=第3章 大気の状態方程式と諸量 |access-date=2015-10-12 |author=里村 雄彦 |year=2012 |month=4 |format=PDF |website=https://ocw.kyoto-u.ac.jp/course/973/ |work=物理気候学　講義ノ－ト |publisher=[[京都大学]]オープンコースウェア（OCW） |language=ja}}</ref>。

=== 比湿 ===
{{Main|比湿}}
比湿（{{Lang-en|specific humidity}}）とは、'''湿潤空気'''の質量に対する水蒸気の質量の比である。

水蒸気量を {{math|<math>\rho_w</math>}}、乾燥空気の密度を {{math|<math>\rho_{DA}</math>}} とすると、比湿 {{mvar|s}} は
{{Indent|
<math>s =\frac{\rho_\text{w}}{\rho_\text{DA} +m_\text{w}}</math>
}}
と表わされる<ref name="gakugei" />。
水蒸気と乾燥空気をそれぞれ理想気体とみなして近似すれば、水蒸気圧を {{mvar|e}}、空気の圧力を {{mvar|P}} とすれば
{{Indent|
<math>s \approx \frac{0.622\, e}{P-0.378\, e}</math>
}}
と近似される<ref name="gakugei" /><ref name="satomura" />。

=== その他の湿度表現 ===
; 顕熱比
: 湿り空気の状態変化で、全熱量変化に対する[[顕熱]]量変化分の割合を言う。

== 湿度の変化 ==
地球上の各地における湿度は、各地の[[降水量]]や[[気温]]に大きな影響を受ける。降水量が多い地域は湿度が高く、気温の低下は飽和水蒸気量の低下につながるので絶対湿度は下がる。また、湿度は季節によっても大きく変化し、[[雨季]]には高くなり、[[乾季]]には低くなる。

日本では一般に夏季に湿度が高く、冬季に湿度が下がるため、材木などの含水量が低下し冬季に[[火事]]が多い。これは、夏湿冬乾である[[温帯湿潤気候]]や[[温帯夏雨気候]]、[[亜寒帯湿潤気候|冷帯湿潤気候]]の地域などでも同様である。一方、夏乾冬湿である[[地中海性気候]]の地域では、冬季に湿度が上がり、夏季に湿度が低くなって[[山火事]]が多発する。乾燥による火災の目安として、[[実効湿度]]という指標が用いられる。[[乾燥注意報]]の基準には、相対湿度の日最小値である最小湿度と、実効湿度が用いられる。一日の変化は、ほぼ気温に依存し、昼間は低下し、夜間に気温が下がるにつれて湿度は上がる。気温が低下する夜間に夜露が生じたり、早朝に霧が出て日が昇ると消えるのは、このためである。

気象観測上、1日のうち最も低かった湿度の値を最小湿度として記録し、統計をとっていて、最低値は[[1971年]][[1月19日]]に[[鹿児島県]][[屋久島]]で<ref>[https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/view/rank_s.php?prec_no=88&block_no=47836&year=1971&month=&day=19&view= 日最小相対湿度の項目（屋久島）] 気象庁｜過去の気象データ検索</ref><ref>当時の屋久島測候所は島の北端にあった</ref>、[[2005年]][[4月9日]]に[[岐阜県]][[高山市]]で<ref>[https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/view/rank_s.php?prec_no=52&block_no=47617&year=2005&month=4&day=9&view= 日最小相対湿度の項目（高山）] 気象庁｜過去の気象データ検索</ref>0%が記録されている。一方、最大湿度は100%に近い値になることが珍しくなく、統計は取られていない<ref name=rikanen>[https://web.archive.org/web/20070525053059/http://www.rikanenpyo.jp/kaisetsu/kisyo/kisyo_003.html 相対湿度の月別平年値] 理科年表、国立天文台。</ref>。

また、都市化により、湿度は長期的に低下する傾向がある。東京（大手町）では、20世紀の間に年平均相対湿度が20%程度低下した<ref name="rikanen" />。土壌などの吸湿性のある地表が少なくなった影響とみられている。

== 湿度の影響 ==
生物の成分の大部分は水であるから、湿度はその体や活動に大きな影響を与える。ヒトに対しては、乾燥は[[唇]]のひび割れや乾燥肌などを引き起こす原因となる。

また、[[体感温度]]などの感覚的な温度にも湿度の大小が影響する。一般的に、湿度が高いほど暖かく感じられ、その（体感温度に対する湿度の大小の）影響度は気温が高いほど大きくなる。そのため、[[不快指数]]は温度に湿度を勘案して計算される。また[[空気調和設備]]では湿度も制御の対象であり、湿度の観測を行い、[[加湿器]]や[[除湿機]]などを用いて制御を行う。また、住宅などを中心に、加湿器や除湿器を単独で用いることがある。高い湿度の環境を避けるために、[[除湿機]]や[[乾燥剤]]などの部分的な除湿装置が日常生活で使用されることがあるほか、工業用、科学実験・研究用（[[デシケーター]]）など、広い用途に用いられている。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
<references />

== 出典 ==
* [https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kansoku_guide/d1.html 温度計・湿度計／観測の原理] 気象庁
* [http://www.sankikeiso.co.jp/tec_humidity.html 湿度について勉強しよう] 三基計装株式会社
* [https://www.shinyei.co.jp/STC/index.html 神栄株式会社電子機器部]
* {{Cite book|和書
 |author= 田中俊六 他
 |title= 最新 建築環境工学
 |edition= 改訂4版
 |year= 2014
 |publisher= 井上書院
 |isbn= 978-4-7530-1757-7
 |ref= tanaka
}}

== 関連項目 ==
* [[常湿]] - JISでは相対湿度45-85%。
* [[実効湿度]]
* [[含水率]]
* [[湿度計]]
* [[ぴちょんくん]]（[[ダイキン工業]]のマスコット。湿気を擬人化したキャラクター）
*[[湿重量]]

== 外部リンク ==
* {{EoE|Atmospheric_humidity|Atmospheric humidity}}
* {{wiktionary-inline|湿度}}
* {{Cite web|和書|url=http://kishou.u-gakugei.ac.jp/lectures/basic/doc02.pdf |title=気象学概説 大気の熱力学 |access-date=2015-10-12 |format=PDF |publisher=[[東京学芸大学]] 気象学研究室 |ref=gakugei}}

{{気象要素}}
{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:しつと}}
[[Category:湿度|*]]
[[Category:物理量]]
[[Category:大気熱力学]]
[[Category:暖房換気空調]]
[[Category:建築環境工学]]