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{{Redirect|溶剤|液体状態の混合物|溶液}} [[ファイル:Water droplet blue bg05.jpg|thumb|250px|水は最も身近で代表的な溶媒である。]] '''溶媒'''(ようばい、{{lang-en-short|solvent}})は、他の物質を溶かす物質の呼称。 [[工業]]分野では'''溶剤'''(ようざい)と呼ばれることも多い。 ==概要== 最も一般的に使用される[[水]]のほか、[[アルコール]]や[[アセトン]]、[[ヘキサン]]のような[[有機物]]も多く用いられ、これらは特に'''有機溶媒([[wikt:有機溶剤|有機溶剤]])'''と呼ばれる。 溶媒に溶かされるものを[[溶質]](solute)といい、溶媒と溶質を合わせて[[溶液]](solution)という。 溶媒としては、目的とする物質を良く溶かすこと([[溶解度]]が高い)、化学的に安定で溶質と[[化学反応]]しないことが最も重要である。 目的によっては[[沸点]]が低く除去しやすいことや、[[可燃性]]や[[毒性]]、[[環境]]への影響などを含めた[[安全性]]も重視される。 水以外の多くの溶媒は、極めて燃えやすく、毒性の強い蒸気を出す。また、化学反応では、溶媒の種類によって反応の進み方が著しく異なることが知られている([[溶媒和|溶媒和効果]])。 一般的に溶媒として扱われる物質は[[標準状態|常温常圧]]では無色の[[液体]]であり、独特の臭気を持つものも多い。 有機溶媒は一般用途として[[ドライクリーニング]]([[テトラクロロエチレン]])、[[シンナー]]([[トルエン]]、[[テルピン油]])、[[マニキュア]]除去液や[[接着剤]]([[アセトン]]、[[酢酸メチル]]、[[酢酸エチル]])、染み抜き([[ヘキサン]]、[[石油エーテル]])、[[合成洗剤]]([[オレンジオイル]])、[[香水]]([[エタノール]])あるいは[[化学合成]]や[[樹脂]]製品の加工に使用される。また[[抽出]]に用いる。 == 特性の指標 == === 極性・溶解性・混和性 === {{see also|混和性}} 溶媒と溶質は大別すると「高極性溶媒([[親水性]])」と「低極性溶媒([[疎水性]])」とに区分できるが、比較の問題なので明確な線引きはない。極性は[[誘電率]]や[[電気双極子|双極子モーメント]]等で評価される。経験則として、高極性物質は高極性溶媒に溶けやすく、低極性物質は低極性溶媒に溶けやすい。これは「似たものに溶ける」と言い表される。具体的には、[[無機塩]](例えば[[食塩]])や[[糖類]](例えば[[スクロース|ショ糖]])など極性の大きい物質は水のような高極性溶媒に溶けやすく、また[[油]]や[[蝋]]など極性が小さい物質は[[ヘキサン]]のような低極性溶媒に溶けやすい。また、高極性溶媒と低極性溶媒(例えば、水とヘキサン、[[食酢]]と[[サラダ油]])とは相互に混和せず、良く振り混ぜてもすぐに二層に分離する事が多い。溶解性の定量的な指標としては[[溶解パラメーター]]が用いられる。 === プロトン性 === {{main|プロトン性溶媒}} 極性溶媒は'''プロトン性極性溶媒'''と'''非プロトン性極性溶媒'''とに分類される。プロトン性溶媒とは、プロトン(水素イオン)供与性を持つ溶媒のことである。多くのプロトン溶媒は[[酸素]]あるいは[[窒素]]原子に結合した比較的酸性度の高い[[水素]]を持つ。また、[[酸素]]・[[窒素]]は、非共有電子対も持つことからプロトン受容性(ルイス塩基性)も併せ持つ。この性質によりプロトン性溶媒は溶媒分子間で[[水素結合]]を形成している物が多い。[[水]] (H<sub>2</sub>O)、[[エタノール]] (CH<sub>3</sub>CH<sub>2</sub>OH) 、[[酢酸]] (CH<sub>3</sub>C(=O)OH) などが例として挙げられる。非プロトン性極性溶媒としては[[アセトニトリル]] (CH<sub>3</sub>C≡N) 、[[アセトン]] (CH<sub>3</sub>C(=O)CH<sub>3</sub>) などが挙げられる。プロトン性極性溶媒はイオンを安定化する効果があるため、[[SN1反応|S<sub>N</sub>1反応]]等のイオン生成が律速となる反応によく用いられる。一方、非プロトン性極性溶媒は陽イオンのみを安定化するものが多く、陰イオンの反応性を高める傾向があるため、[[SN2反応|S<sub>N</sub>2反応]]等に好んで用いられる。 === 沸点 === 溶媒の重要な特性に[[沸点]]と[[気化熱]]が挙げられ、それにより蒸発の速さが決定付けられる。[[ジエチルエーテル]]、[[塩化メチレン]]等、一部の低沸点溶媒は室温で秒単位の時間で乾燥する溶媒として用いられる。一方、水や[[ジメチルスルホキシド]]のような高沸点溶媒の乾燥には、加熱・減圧・気流下等の条件が必要である。 === 密度 === 多くの有機溶媒は水よりも[[密度]]が小さく、水の上に浮かぶものが多い。例外的に塩化メチレンや[[クロロホルム]]など[[ハロゲン]]系溶媒の一部や酢酸などは水よりも比重が大きい。<!--化学合成で[[分液]]する場合、物質の[[分配係数]]に応じて溶媒と水とに分別される。(密度と直接関係ない記述なので、コメントアウトします)--><!-- == 化学反応性 == 溶媒は溶した場合に溶質とは化学的に反応しないものが採用される。反応性 は[[分子間力]](双極子相互作用を含む)による影響は比較的弱く、分子間相互作用に応じて強くなる。そして、[[水素結合]](O, N 原子と O−H, N−H 基の水素との結合)を形成するものが最も強い。 --意味がよく分かりません。もう少し説明が必要でしょう。--> == 安全性 == 水は、不燃かつ無毒である{{sfn|L.F.フィーザー、K.L.ウィリアムソン|2000|p=35}}。多くの溶媒には危険性があり、炭化水素やエーテルの可燃性の高さ、エーテル系の爆発性の酸化反応、またベンゼンなどの毒性に注意を払う必要がある{{sfn|J.Leonard、G.Procter、B.Lygo|2012|p=51}}。 === 火災 === 多くの溶媒には[[引火性]]がある。一般的には[[相転移#物理学的性質|揮発性]]が高いものほど引火性が高い。ただし、塩化メチレンやクロロホルム等、難燃性の溶媒もある。また、ほとんどの溶媒蒸気は空気よりも重く、容器下部に沈んで滞留しやすい。そのため、空のドラム缶や溶媒缶の中にも溶媒蒸気は存在し得る。 ジエチルエーテルや[[テトラヒドロフラン]] (THF) などエーテル類や[[2-プロパノール]]、[[クメン]]等は酸素に曝しておくと、爆発性の高い[[過酸化物]]を形成する([[自動酸化]])。特に、光が当たると過酸化物の生成が加速される。これらの過酸化物は蒸留時に高沸点留分に濃縮されることが多い。エーテル類は暗所で [[BHT]] のような安定化剤を加えたりして保存するが、これでも過酸の生成を完全には止められないことに留意する必要がある。 [[ブンゼンバーナー]]ではなく、安全性のため電熱フラスコヒーターを使い、沸点が90度以下であれば水蒸気浴が普通である{{sfn|L.F.フィーザー、K.L.ウィリアムソン|2000|p=7}}。 === 毒性 === ほぼ全ての有機溶媒には有毒性がある。多くの有機溶媒は、麻酔作用を有し、大量吸引時に急激な意識喪失を起しうる。この性質のため、医療用の[[麻酔薬]]や[[鎮痛剤]]として利用されたが、その多くは[[神経毒性]]や[[発癌性]]を併せ持つのため、現在は使用されていない。([[ジエチルエーテル]]は、現在でも麻酔薬として使用されるが、極端に引火性が高いため、先進国では使われる事は稀) [[発癌性]]の観点からは、クロロホルムの他にも、([[ガソリン]]にも含まれる)[[ベンゼン]]や[[ヘキサメチルリン酸トリアミド|HMPA]]などは、発癌性を有する、もしくはその可能性があると考えられている。 [[メタノール]]は代謝により生成する[[ギ酸]]のため、[[視神経]]に障害を与え、[[失明]]さらには死亡することもある。 その他、[[臓器]]に障害を起こすものも多い。[[肝臓]]や[[腎臓]]あるいは[[大脳]]など。 有機溶媒の毒性や環境負荷がしばしば問題となる。このため、強毒性の溶媒から、比較的低毒性な溶媒(時に水)への置き換え、あるいは溶媒量の削減(時に無溶媒反応)、といった化学プロセスの開発が行われている。それらは[[グリーンサスティナブルケミストリー]]で扱われる研究内容である。 抗化学性の手袋には20種類以上あり、つまり全てに対応していることはないためであり、不適切な場合手袋を通過する{{sfn|L.F.フィーザー、K.L.ウィリアムソン|2000|p=32}}。有害な溶媒(あるいは薬品などでも)触れた場合、ただちに石鹸と水で洗う{{sfn|L.F.フィーザー、K.L.ウィリアムソン|2000|p=32}}。 === 使用上の全般的な注意 === * 溶媒蒸気に曝されることは避け、作業環境は[[ドラフトチャンバー]]を用いたり換気を良くする。 * 密閉容器で保存する。 * [[可燃物|可燃性]]溶媒は火の近くで封を開けてはならない。 * [[爆発]]や火災を避けるために[[引火性]]溶媒を床に流してはならない。 * 溶媒の[[蒸気]]を吸入してはならない。 * 溶媒を皮膚につけてはならない。多くの溶媒は皮膚より容易に吸収される。 == 精製 == 大部分の抽出や化学反応で使われる一般的な溶媒の等級は「試薬等級」であり、純度は97-99%で、わずかな水分や揮発性の不純物を含む{{sfn|J.Leonard、G.Procter、B.Lygo|2012|p=51}}。一部の場合には、さらに高純度の溶媒を必要とし、そのために高純度な溶媒を買ったり、あるいは溶媒を精製することになる{{sfn|J.Leonard、G.Procter、B.Lygo|2012|p=51}}。 溶媒には化学的安定性を維持するために[[安定剤]]が添加されている場合がある。また、水分やその他の不純物が混入している場合もある。 溶媒の精製とは、一般的に、[[乾燥]]と[[蒸留]]のことである{{sfn|J.Leonard、G.Procter、B.Lygo|2012|p=52}}。[[モレキュラーシーブ]]などの乾燥剤による乾燥や、[[蒸留]]操作により精製が行われる場合が多い。 == 代表的な溶媒の物性 == 溶媒は、無極性溶媒、極性非プロトン性溶媒、極性プロトン性溶媒に分類した。極性は誘電率で表し、誘電率の順に並べた。無極性溶媒で水より密度の大きいものは太文字で示した。 {| class="wikitable sortable" |+ 代表的な溶媒の物性 |- ! 溶媒 !! 示性式 !! 沸点 (℃) !! 誘電率!! 密度 (g/mL) !! 分類 |- | [[ヘキサン]]<br> ({{lang|en|hexane}}) || <chem>CH3CH2CH2CH2CH2CH3</chem> || 69 || 2.0 || 0.655 || style="background: #dddddd" | 無極性 |- | [[ベンゼン]]<br> ({{lang|en|benzene}})|| <chem>C6H6</chem> || 80 || 2.3 || 0.879 || style="background: #dddddd" | 無極性 |- | [[トルエン]]<br> ({{lang|en|toluene}})|| <chem>C6H5CH3</chem> || 111 || 2.4 || 0.867 || style="background: #dddddd" | 無極性 |- | [[ジエチルエーテル]]<br> ({{lang|en|diethyl ether}}) || <chem>CH3CH2OCH2CH3</chem> || 35 || 4.3 || 0.713 || style="background: #dddddd" | 無極性 |- | [[クロロホルム]]<br> ({{lang|en|chloroform}}) || <chem>CHCl3</chem> || 61 || 4.8 || '''1.498 ''' || style="background: #dddddd" | 無極性 |- | [[酢酸エチル]]<br> ({{lang|en|ethyl acetate}}) || <chem>CH3C(=O)OCH2CH3</chem> | 77 || 6.0 || 0.894 || style="background: #dddddd" | 無極性 |- | [[塩化メチレン]]<br> ({{lang|en|methylene chloride}}) || <chem>CH2Cl2</chem> || 40 || 9.1 || '''1.326 ''' || style="background: #ffccff" | 極性非プロトン性 |- | [[テトラヒドロフラン]]<br> ({{lang|en|tetrahydrofuran}}, THF) || <chem>C4H8O</chem> || 66 || 7.5 || 0.886 || style="background: #ffccff" | 極性非プロトン性 |- | [[アセトン]]<br> ({{lang|en|acetone}})|| <chem>CH3C(=O)CH3</chem> || 56 || 21 || 0.786 || style="background: #ffccff" | 極性非プロトン性 |- | [[アセトニトリル]]<br> ({{lang|en|acetonitrile}})|| <chem>CH3C#N</chem> || 82 || 37 || 0.786 || style="background: #ffccff" | 極性非プロトン性 |- | [[N,N-ジメチルホルムアミド|''N'',''N''-ジメチルホルムアミド]]<br> ({{lang|en|''N'',''N''-dimethylformamide}}, DMF) || <chem>HC(=O)N(CH3)2</chem> || 153 || 38 || 0.944 || style="background: #ffccff" | 極性非プロトン性 |- | [[ジメチルスルホキシド]]<br> ({{lang|en|dimethyl sulfoxide}}, DMSO) || <chem>CH3S(=O)CH3</chem> || 189 || 47 || 1.092 || style="background: #ffccff" | 極性非プロトン性 |- | [[酢酸]]<br> ({{lang|en|acetic acid}})|| <chem>CH3C(=O)OH</chem> || 118 || 6.2 || 1.049 || style="background: #ffcccc" | 極性プロトン性 |- | [[1-ブタノール]]<br> ({{lang|en|1-butanol}}, {{lang|en|''n''-butanol}})|| <chem>CH3CH2CH2CH2OH</chem> || 118 || 18 || 0.810 || style="background: #ffcccc" | 極性プロトン性 |- | [[2-プロパノール]]<br> ({{lang|en|2-propanol}}, {{lang|en|isopropyl alcohol}})|| <chem>CH3CH(OH)CH3</chem> || 82 || 18 || 0.785 || style="background: #ffcccc" | 極性プロトン性 |- | [[1-プロパノール]]<br> ({{lang|en|1-propanol}}, {{lang|en|''n''-propanol}})|| <chem>CH3CH2CH2OH</chem> || 97 || 20 || 0.803 || style="background: #ffcccc" | 極性プロトン性 |- | [[エタノール]]<br> ({{lang|en|ethanol}})|| <chem>CH3CH2OH</chem> || 79 || 24 || 0.789 || style="background: #ffcccc" | 極性プロトン性 |- | [[メタノール]]<br> ({{lang|en|methanol}})|| <chem>CH3OH</chem> || 65 || 33 || 0.791 || style="background: #ffcccc" | 極性プロトン性 |- | [[ギ酸]]<br> ({{lang|en|formic acid}})|| <chem>HC(=O)OH</chem> || 100 || 58 || 1.21 || style="background: #ffcccc" | 極性プロトン性 |- | [[水]]<br> ({{lang|en|water}})|| <chem>H2O</chem> || 100 || 80 || 0.998 || style="background: #ffcccc" | 極性プロトン性 |} ==出典== {{脚注ヘルプ}} {{Reflist}} ==参考文献== *{{Cite book|和書|author=J.Leonard、G.Procter、B.Lygo|traslator=田川義展|title=研究室で役立つ有機化学反応の実験テクニック―実験の基本から不活性ガス下での反応操作まで|publisher=丸善出版|date=2012|isbn=978-4-621-08433-5|ref=harv}} ''Advanced practical organic chemistry'', 2nd ed, 1998. *{{Cite book|和書|author=L.F.フィーザー、K.L.ウィリアムソン|traslator=磯部稔、市川善康、鈴木喜隆、中村英士、家永和治、今井邦雄、中塚進一|title=フィーザー/ウィリアムソン有機化学実験 |edition=第8版|publisher=丸善|date=2000|isbn=4-621-04734-5|ref=harv}} ''Organic experiments'', 8th ed, 1998. == 関連項目 == * [[溶液]] * [[濃度]] * [[シンナー]] * [[有機溶剤作業主任者]] * [[ヘップサンダル事件]] == 外部リンク == * [http://www.speckanalytical.co.uk/products/Tips/bps.html Table] 有機溶媒の特性 {{en icon}} * [http://www.usm.maine.edu/~newton/Chy251_253/Lectures/Solvents/Solvents.html Table and text] O-化学解説 {{en icon}} * [http://virtual.yosemite.cc.ca.us/smurov/orgsoltab.htm Tables] 有機溶媒の特性と毒性 {{en icon}} * [http://www.jaish.gr.jp/user/anzen/kag/kag_main01.html 化学物質情報(安全衛生情報センター)] {{Normdaten}} {{DEFAULTSORT:ようはい}} [[Category:溶媒|*]] [[Category:溶液化学]] [[Category:溶液]] [[Category:有機化学]] [[Category:液体]]
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