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'''溶融炭酸塩型燃料電池'''(ようゆうたんさんえんがたねんりょうでんち、{{Lang-en-short|Molten-carbonate fuel cells}}, '''MCFC''')とは、600 ℃以上の高温で[[融解]]させた[[炭酸塩]]を[[電解質]]として用いる型式の[[燃料電池]]である。 == 概要 == [[負極]]として[[水素]]が反応する[[ニッケル]]電極、[[正極]]として[[酸素]]が反応する酸化ニッケル電極、[[炭酸イオン]]の[[電解質]]となる[[炭酸リチウム]]および[[炭酸ナトリウム]]の混合物で構成された溶融炭酸塩とそれを保持するセラミックで構成されている。 これらは通常{{Convert|650|C|F}} の非常に高い温度で動作するため、[[白金]]等の高価な[[触媒]]を必要としない特長を持つ。 溶融炭酸塩電解質は内部抵抗が低く、リン酸形燃料電池 (PAFC) プラントの効率37~42%よりもかなり高い60%に達する。高温の排熱は更にタービン発電等と組み合わせた[[コジェネレーション]]構成を採ることが容易で、全体的な燃料効率を85%と高くすることができる。 [[アルカリ]]、[[リン酸]]、および高分子電解質膜燃料電池と異なり、MCFCはより多くのエネルギー密度を持つ燃料を水素に分解するための外部改質器を必要としない。MCFCは高温で動作し、これらのガス燃料は内部改質と呼ばれるプロセスによって燃料電池自体の内部で水素に変換されるため、構成がシンプルになる。 MCFCは[[一酸化炭素]]や[[二酸化炭素]]による被毒が発生しないため、これらを含んだガスも燃料として使用できる。この性質により、石炭やバイオマスを燃料源とすることが容易になる。他の形式の燃料電池よりも燃料の不純物に強いため、石炭の改質に起因する硫黄や微粒子などの不純物や、化石燃料のような不純物に耐性があるだろうと多くの科学者は考えている。 MCFCはCO<sub>2</sub>が陰極から排出されるため、排気ガスから高濃度の二酸化炭素を電気化学的に分離するために使用できるだろう。 現在のMCFC技術の主な欠点は耐久性である。これらの電池が動作する高温及び腐食性のある電解質は、部品の破壊および腐食を加速し、電池の寿命を低下させる。科学者たちは現在、コンポーネントの耐腐食性材料や性能を低下させずにセル寿命を延ばす燃料電池設計を検討している<ref>{{Cite web | title = Types of Fuel Cells | work = [[Office of Energy Efficiency and Renewable Energy]], [[United States Department of Energy]] | url = https://www.energy.gov/eere/fuelcells/types-fuel-cells#molten | accessdate = 2016-03-18}} </ref>。 == 仕組み == === 背景 === 溶融炭酸塩型燃料電池 (MCFC) は、装置全体で0.3~3 MWの範囲で実用化されており、小型および大型の発電システムを対象とした、最近開発された種類の燃料電池である<ref>{{Cite web|title = Types of Fuel Cells - Fuel Cell Energy|url = http://www.fuelcellenergy.com/why-fuelcell-energy/types-of-fuel-cells/|website = www.fuelcellenergy.com|accessdate = 2015-11-02}}</ref>。 稼働温度は600~700 ℃の範囲で、圧力は1~8気圧の範囲である<ref name=":0">{{Cite web|title = NFCRC Tutorial: Molten Carbonate Fuel Cell (MCFC)|url = http://www.nfcrc.uci.edu/3/TUTORIALS/EnergyTutorial/mcfc.html |website = www.nfcrc.uci.edu|accessdate = 2015-11-02}}</ref>。装置内の内部改質により化石燃料から一酸化炭素 (CO) および水素 (H<sub>2</sub>) が生成され、その後陽極(燃料極)でこれらのガスが消費される。 === 反応式<ref>{{Cite web|url = http://www.uobabylon.edu.iq/eprints/publication_12_2448_736.pdf|title = High Temperature Fuel Cells|date = |accessdate = 1 November 2015|website = University of Babylon|publisher = |last = |first = }}</ref> === ; 内部改質 :<chem>CH4 + H2O = 3H2 + CO</chem> ; 陽極(燃料極) :<chem>H2 + CO3^{2-} = H2O + CO2 + 2e^-</chem> ; 陰極(空気極) :<chem>\frac{1}{2}O2 + CO2 +2e^- = CO3^{2-}</chem> ; 単セル全体 :<chem>H2 + \frac{1}{2}O2 = H2O</chem> ; ネルンスト方程式 :<math>E = E^o + \frac{RT}{2F}log\frac{P_{H_2}P_{O_2}^{\frac{1}{2}}}{P_{H_2O}}+\frac{RT}{2F}log\frac{P_{CO_2,cathode}}{P_{CO_2,anode}}</math> === 材料=== MCFCの高い動作温度により、構成材料はセル内の過酷な環境に耐えるために慎重に選択される必要がある。以下のセクションでは、燃料電池に含まれるさまざまな材料や最近の研究傾向について説明する。 ==== 陽極(燃料極) ==== 陽極(アノード)材料は、典型的には[[多孔質]](3-6 μm、45-70%の充填率)のニッケルベースの合金からなる。ニッケルは、クロムまたはアルミニウムのいずれかと2-10%の範囲で合金化される。これらの合金は、粒界にLiCrO<sub>2</sub>やLiAlO<sub>2</sub>を形成することを可能にし、材料の[[クリープ]]化現象を防ぎ、燃料電池の高い動作温度で陽極の[[焼結]]を防止する<ref>{{Cite web|url = http://www.diva-portal.org/smash/get/diva2:12059/FULLTEXT01.pdf|title = The anode and the electrolyte in the MCFC|date = 2007|accessdate = 1 November 2015|website = Diva Portal|publisher = |last = Boden|first = Andreas}}</ref>。最近の研究結果では、性能を向上させ、燃料電池の動作温度を低下させようとナノ粒子化したニッケルおよびニッケル合金が試みられている<ref>{{Cite journal|title = Nano Ni layered anode for enhanced MCFC performance at reduced operating temperature|url = http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0360319914009811|journal = International Journal of Hydrogen Energy|date = 2014-08-04|pages = 12285–12290|volume = 39|issue = 23|doi = 10.1016/j.ijhydene.2014.03.253|first = Hoang Viet Phuc|last = Nguyen|first2 = Mohd Roslee|last2 = Othman|first3 = Dongho|last3 = Seo|first4 = Sung Pil|last4 = Yoon|first5 = Hyung Chul|last5 = Ham|first6 = Suk Woo|last6 = Nam|first7 = Jonghee|last7 = Han|first8 = Jinsoo|last8 = Kim}}</ref>。動作温度の低下は、燃料電池の寿命を向上させ(すなわち腐食速度を低下させる)、安価な構成材料の使用を可能にする。同時に温度の低下は電解質のイオン導電率を低下させるので、陽極材料はこの性能低下を(例えば電力密度を増加させることによって)補償する必要がある。他の研究者は、運転時に陽極中のニッケルの質量輸送を減少させるためにNi<sub>3</sub>Al合金陽極を使用することによって耐クリープ性を向上させることを検討している<ref>{{Cite journal|title = Creep mechanism of porous MCFC Ni anodes strengthened by Ni3Al|url = http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/aic.10630/abstract|journal = AIChE Journal|date = 2006-01-01|issn = 1547-5905|pages = 359–365|volume = 52|issue = 1|doi = 10.1002/aic.10630|first = Yun-Sung|last = Kim|first2 = Jun-Heok|last2 = Lim|first3 = Hai-Soo|last3 = Chun}}</ref>。 ==== 陰極(空気極) ==== セルの反対側では、陰極(カソード)材料は、リチウム化されたニッケル酸化物(リチウムがNiO結晶構造内に[[インターカレート]]される)に変換される多孔質ニッケルから構成される。陰極内の細孔径は7〜15 μmの範囲にあり、材料の60〜70%が多孔質である<ref>{{Cite web|url = https://www.diva-portal.org/smash/get/diva2:9666/FULLTEXT01.pdf|title = Development and Characterisation of Cathode Materials for the Molten Carbonate Fuel Cell|date = 2004|accessdate = 2 November 2015|website = |publisher = |last = Wijayasinghe|first = Athula}}</ref>。陰極材料の主な問題点は、陰極が炭酸塩電解質と接触しているときにCO<sub>2</sub>と反応することでNiOが溶解されることにある。この溶解は、電解液中にNi金属の析出をもたらし、導電性であるため、燃料電池が短絡する可能性がある。したがって最近の研究では、この溶解を制限するために酸化マグネシウムを酸化ニッケル陰極に添加することが検討されている<ref name=":1">{{Cite journal|title = The stability of molten carbonate fuel cell electrodes: A review of recent improvements|url = http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0306261911004545|journal = Applied Energy|pages = 4274–4293|volume = 88|issue = 12|doi = 10.1016/j.apenergy.2011.07.009|first = Ermete|last = Antolini}}</ref>。酸化マグネシウムは陰極内のNi<sup>2+</sup>の溶解度を低下させる働きをし、電解質中の析出を減少させる。あるいは従来の陰極材料をLiFeO<sub>2</sub>-LiCoO<sub>2</sub>-NiO合金で置換すると、有望な性能結果が示され、陰極のNi溶解の問題をほぼ完全に回避できている<ref name=":1" />。 ==== 電解質 ==== MCFCはナトリウム(Na)とカリウム(K)の炭酸塩からなる液体電解質(溶融炭酸塩)が使用される。この電解質は、多孔質状セラミック(LiAlO<sub>2</sub>)によって保持され、電極間に液体を収容する。この電解質で酸素が十分なイオン導電できるようにするために燃料電池の高温が必要となっている<ref name=":0" />。一般的なMCFC電解質は、62%の炭酸リチウム (Li<sub>2</sub>CO<sub>3</sub>) および38%の炭酸カリウム (K<sub>2</sub>CO<sub>3</sub>) を含む<ref>{{Cite journal|title = The mechanism of surface modification of a MCFC anode|url = http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022072897002027|journal = Journal of Electroanalytical Chemistry|date = 1998-01-15|pages = 65–68|volume = 441|issue = 1–2|doi = 10.1016/S0022-0728(97)00202-7|first = Baizeng|last = Fang|first2 = Xinyu|last2 = Liu|first3 = Xindong|last3 = Wang|first4 = Shuzhen|last4 = Duan}}</ref>。十分な割合の炭酸リチウムにより、高いイオン伝導性が確保されるが、ガス溶解度および酸素イオンの拡散性能が低いため62%に制限される。さらに非常に腐食性が高いため、炭酸カリウムを添加することで腐食性を抑えている。これらの問題のために、最近の研究では、炭酸カリウムを炭酸ナトリウムで置き換えることが検討されている<ref name=":2">{{Cite journal|title = Materials issues and recent developments in molten carbonate fuel cells|url = https://link.springer.com/article/10.1007/s10008-012-1771-y|journal = Journal of Solid State Electrochemistry|date = 2012-06-08|issn = 1432-8488|pages = 3123–3146|volume = 16|issue = 10|doi = 10.1007/s10008-012-1771-y|first = A.|last = Kulkarni|first2 = S.|last2 = Giddey}}</ref>。リチウム・ナトリウム混合電解質は、リチウム・カリウム混合電解質と比べ良好な性能(より高い導電率および陰極の安定性)を有することが示された。さらに科学者たちは、相変化(γ-LiAlO<sub>2</sub>対α-LiAlO<sub>2</sub>)をセル中の材料に加えることを検討している。相変化は電解質の体積減少に伴い、イオン伝導度が低下する。様々な研究を通して、アルミナ添加α-LiAlO<sub>2</sub>構造は、燃料電池の性能を維持しながら相安定性を改善することが分かった<ref name=":2" />。 電解質の流出もまた問題である。流出するとセパレータやカレントコレクタのような電池材料を腐食する。セラミック(γ-LiAlO<sub>2</sub>)の結晶粒子が粒成長をして隙間が少なくなり、電解質を保持できなくなるためであることがわかってきた。<ref>{{Cite web|和書|title=成果概要 |url=https://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:rPqqmeTyRukJ:https://staff.aist.go.jp/tanimoto-k/HP_MCFC/SeikaGaiyou.htm+&cd=4&hl=ja&ct=clnk&gl=jp |website=webcache.googleusercontent.com |access-date=2022-07-13}}</ref> ==MTU社型燃料電池== ドイツの[[MTUフリードリヒスハーフェン]]社は、2006年に[[ハノーファー・メッセ]]でMCFCを発表した。ユニットの重量は2トンで、バイオガスを含む様々な気体燃料から240 kWの電力を生産することができる。天然ガスなどの炭素を含む燃料で燃料を供給された場合、排出ガスにはCO<sub>2</sub>が含まれるが、海上バンカー燃料で稼動するディーゼルエンジンに比べて50%まで削減される<ref>[http://www.dnv.com/publications/dnv_forum/no3-2006/Fuelcelltechnologyintroducesultracleanships.asp MCFC emission] {{dead link|date=February 2018|bot=medic}}{{cbignore|bot=medic}}</ref>。排気温度は400 ℃であり、多くの産業プロセスに使用するのに十分なほど高温である。[[コージェネレーション]]方式で後段に蒸気タービンを追加してより多くの電力を作り出すことが可能である。ユニット単独の発電効率は供給ガスの種類によって変化するが、12%〜19%である。蒸気タービンの追加により、最大24%向上させることができる。 == 参照 == {{Reflist}} ==関連項目== {{Portal|エネルギー}} *[[:en:Glossary of fuel cell terms]] *{{ill2|水素技術|en|Hydrogen technologies}} ==外部リンク== * [https://web.archive.org/web/20080309072502/http://www.fuelcellseminar.com/pdf/Direct_Carbon_Fuel_Cell_Workshop/Cooper_John.pdf LLNL: The Carbon/Air Fuel Cell Conversion of Coal-Derived Carbons] * [https://web.archive.org/web/20070630191203/http://dodfuelcell.cecer.army.mil/molten.html DoD] * [https://web.archive.org/web/20130320001652/http://live.pege.org/2006-hannover/gas-biogas-fuel-cell.htm MTU 240kW fuel cell] presented on the Hannover Fair 2006 * [https://web.archive.org/web/20090825235248/http://www.loganenergy.eu/ Logan Energy Limited] integrate, install and operate all fuel cell technologies * [https://web.archive.org/web/20130203180025/http://www.fuelcellenergy.com/files/FCE%20WhitePaper%20040308_2.pdf] molten carbonate fuel cells distributed generation challenge * [http://www.netl.doe.gov/publications/proceedings/05/carbon-seq/Tech%20Session%20Paper%20173.pdf] presentation to Fourth Annual Conference on Carbon Capture and Sequestration {{デフォルトソート:ようゆうたんさんえんかた}} [[Category:燃料電池]]
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