焼入れのソースを表示

[[File:Martensite.jpg|thumb|250px|AISI4140鋼（[[炭素]]含有量0.380 - 0.430%）の油焼入れによる[[マルテンサイト]]組織の拡大写真]]
'''焼入れ'''（やきいれ、{{Lang-en|quenching}}）とは、[[金属]]を所定の高温状態から急冷させる[[熱処理]]である{{Sfn|JIS B 6905|1995|p=3}}。'''焼き入れ'''とも表記する<ref>{{Cite web|和書|url=http://dictionary.goo.ne.jp/leaf/jn2/221187/m0u/%E7%84%BC%E5%85%A5%E3%82%8C/ |title=やきいれ【焼（き）入れ】の意味 デジタル大辞泉 |work=goo辞書 |accessdate=2014-10-04 |publisher= NTTレゾナント}}</ref>{{Efn2|本記事では、[[日本工業規格]]{{Sfn|JIS B 6905|1995|p=3}}、[[学術用語集]]<ref>{{Cite web|和書|url=http://dbr.nii.ac.jp/infolib/meta_pub/G0000120Sciterm |title=オンライン学術用語集検索ページ |work=学術用語集 |accessdate=2014-09-21 |publisher= 文部科学省・国立情報学研究所}}</ref>に準じて「焼入れ」の表記で統一する}}。

広義には、金属全般を所定の高温状態から急冷させる操作を行う処理を指し{{Sfn|JIS B 6905|1995|p=3}}、狭義には、[[鉄鋼材料]]（特に[[鋼]]）を金属組織が[[オーステナイト]]組織になるまで加熱した後、急冷して[[マルテンサイト]]組織を得る熱処理を指す{{Sfn|日本機械学会（編）|2007|p=1307}}。本記事では、狭義の方の鋼の焼入れについて主に説明する。

焼入れを行うことにより、鉄鋼材を硬くして、[[摩耗|耐摩耗性]]や[[強度|引張強さ]]、[[疲労|疲労強度]]などの強度を向上させることができる{{Sfn|山方|2010|p=96}}。[[焼入れ性]]がよい材料ほど、材料内部深くまで焼きを入れる（マルテンサイト化させる）ことができる。焼入れしたままでは硬いが[[脆性|脆く]]なるため、[[靭性]]を回復させて粘り強い材料にするために[[焼戻し]]を焼入れ後に行うのが一般的である。焼入れ処理にともなって割れや[[ひずみ]]などの欠陥が起きる可能性があり、冷却方法などに工夫が行われる。

==基本原理==
[[物質]]は、[[組成]]、[[温度]]、[[圧力]]の条件により、[[液体]]や[[固体]]などに代表される[[相 (物質)|相]]と呼ばれる物質の形態が変化する{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=54}}。組成、温度、圧力などを縦軸や横軸として変化させて、どの相が存在するか示した図を[[状態図]]、平衡状態図、あるいは相図と呼ぶ{{Sfn|日本機械学会（編）|2007|p=592}}。[[合金]]の場合は、圧力一定として温度変化と組成変化で状態図を示す場合が一般である{{Sfn|日本機械学会（編）|2007|p=592}}。また、合金の場合は、固体として存在する間でも種々の相に変化するのが特徴である{{Sfn|日本機械学会（編）|2007|p=746}}。このような相の変化を'''変態'''と呼ぶ{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=11}}。

ある1つの金属元素に別の1つの[[元素]]を加えたものを二元合金と呼ぶ{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=61}}。[[鉄]]と[[炭素]]から成る二元合金について、横軸に炭素の[[濃度|質量パーセント濃度]]、縦軸に温度を取り、相の変化を示した図を'''鉄-炭素系二元合金平衡状態図'''、あるいは'''鉄-炭素系平衡状態図'''などと呼ぶ{{Sfn|山方|2010|p=56}}{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=73}}。ここで「平衡」とは、非常にゆっくり冷却・加熱したときの変化を表している{{Sfn|山方|2010|p=56}}。鉄-炭素系二元合金平衡状態図は純鉄と純炭素のみを原料とした合金に基づくものであるが、一般的な[[鋼]]は、不純物として、あるいは性質改善のために、炭素以外の成分も含んでおり、これらの他の成分により状態図が多少変化するので注意が必要である{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=73}}{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=83}}。[[合金鋼]]の場合で、横軸：炭素濃度、縦軸：温度の状態図で比較すると、合金元素の総量が5%以下の低合金鋼では鉄-炭素二元合金とほぼ同形だが、総量10%以上の高合金鋼になると大きく異なってくる{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=83}}。以下では簡単のために鉄-炭素系二元合金平衡状態図を用いて鋼の相変化を説明する。

[[File:Diag binaire aciers.svg|thumb|鉄-炭素系二元合金平衡状態図<br>（鉄-セメンタイト系）<br>質量パーセント濃度2%まで]]
純鉄と呼ばれる炭素質量パーセント濃度が0.022%以下の領域を除いて、鉄-炭素系二元合金平衡状態図を見ていく（右図を参照）。室温では、鋼の相は[[フェライト相]]および[[セメンタイト]]で構成される{{Sfn|山方|2010|pp=56&ndash;57}}。詳しく見ると、炭素濃度0.77%未満ではフェライト+[[パーライト]]で、0.77%丁度ではパーライトのみで、0.77%超過ではパーライト+セメンタイトで構成される{{Sfn|朝倉・橋本|2002|pp=179&ndash;180}}。この0.77%の点を'''共析点'''と呼び、共析点未満の炭素濃度の鋼を'''亜共析鋼'''、共析点丁度を'''共析鋼'''、共析点超過を'''過共析鋼'''と呼ぶ{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=178}}。[[硬さ]]に注目すると、フェライトは軟らかく粘りのある組織で、パーライトも比較的柔らかい組織で、セメンタイトは非常に硬いが脆い組織となっている{{Sfn|山方|2010|pp=60&ndash;62}}。

高温域を見ていくと、A<sub>1</sub>線と呼ばれる727[[セルシウス度|℃]]の温度を超えた領域では、亜共析鋼はフェライト+[[オーステナイト]]に、共析鋼はオーステナイトのみに、過共析鋼はオーステナイト+セメンタイトになる。この温度では亜共析鋼にはまだフェライトが存在するが、さらに温度を上げてA<sub>3</sub>線と呼ばれる温度を超えると亜共析鋼もオーステナイトのみの相となる{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=74}}。オーステナイトもフェライトに似て軟らかく粘りのある組織であるが、炭素固溶領域が大きい特徴を持つ{{Sfn|山方|2010|p=60}}。

オーステナイトあるいはオーステナイト+セメンタイトの高温状態から、逆に冷却していくとする。ゆっくり平衡的に冷やしていくと上記で説明した順序を逆にたどって変態が起こるだけだが、冷却速度を上げて冷やすと、パーライトやフェライトに変態する時間が足りず、[[マルテンサイト]]と呼ばれる平衡状態図には示されない相が現れる{{Sfn|坂本|2007|p=60}}。この変態を[[マルテンサイト変態]]と呼ぶ。マルテンサイト組織は、α鉄が過剰に炭素を強制固溶した組織で、非常に硬い性質を持つ{{Sfn|山方|2010|p=62}}。このように、急冷によるマルテンサイト変態を起こして鋼を硬くさせる操作が、一般的な鋼の'''焼入れ'''である{{Sfn|日本機械学会（編）|2007|p=1307}}{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=125}}。

[[日本刀]]の焼入れなど、焼入れは古来から経験的な鍛冶職人の技術として存在していたが<ref>{{cite book |和書|author=松山晋作|title=今昔メタリカ 金属技術の歴史と科学|publisher=工業調査会|date=2010-08-25|edition=初版|isbn=978-4-7693-2207-8|page=100}}</ref>、1888年、ロシアの冶金学者ドミートリー・コンスタンチノヴィッチ・チェルノフ([[:en:Dmitry Chernov|Dmitry Chernov]])により、焼入れが起こる具体的な加熱・冷却条件が発表され、これが鋼の焼入れ、及び熱処理の理論的な嚆矢とされる<ref>{{Cite Kotobank |word=チェルノフ |access-date=2014-09-12}}</ref>{{Sfn|大和久|2006|pp=31&ndash;34}}。

==方法==
焼入れは、一般的に加工品の加熱、温度保持、冷却という順序で行われ、冷却途中でマルテンサイト変態が発生する。また、通常は焼入れ後に[[焼戻し]]を行う。以下に順を追って説明する。

===加熱===
[[File:Heat-Treating-Furnace.jpg|thumb|982℃まで加熱された炉中の様子]]
[[File:Gluehfarben.JPG|thumb|200px|鋼の加熱温度と加熱色の目安
<ref name="日立金属">{{Cite web|和書|url= http://www.hitachi-metals.co.jp/pdf/cat/sld_3-5e.pdf |title= 高級冷間ダイス鋼 SLD 5.熱処理要領 |accessdate= 2014-10-14 |format=pdf |work= |publisher= 日立金属|page= 16}}</ref>]]
鋼の組織がオーステナイトになるまで加工物を[[炉]]などで加熱する。熱処理用の炉の種類には、熱源の種類別に、電気炉、重油炉、ガス炉、塩浴炉などがある{{Sfn|坂本|2007|p=38}}。加熱前の前処理として、焼入れ不良の原因となるため、加工品に汚れや[[錆]]がある場合は洗浄や[[ショットブラスト]]で取り除く{{Sfn|藤木|2013|p=148}}。

加熱は、一般に、亜共析鋼ではA<sub>3</sub>線から30 - 50℃高い温度まで昇温させ、共析鋼・過共析鋼ではA<sub>1</sub>線から30 - 50℃高い温度まで昇温させて、温度を保持する{{Sfn|山方|2010|pp=96&ndash;97}}。前述の通り、A<sub>3</sub>線・A<sub>1</sub>線を超えるとオーステナイト化されるが、それよりも30 - 50℃高く設定する理由は十分均一なオーステナイトを得る確実性を上げるためである{{Sfn|坂本|2007|p=60}}。このような焼入れのための最高加熱温度を'''焼入れ温度'''あるいは'''オーステナイト化温度'''と呼ぶ{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=125}}。上記の一般的な焼入れ温度は、[[焼なまし]]の一種である完全焼なましとほぼ同じ加熱温度でもある{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=121}}。

亜共析鋼の場合、もし焼入れ温度がA<sub>3</sub>線より低い場合は、A<sub>3</sub>線以下ではフェライトが既に[[析出]]しているので、焼入れ後組織にもフェライトが含まれるようになり十分な硬度が得られない{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=46}}。このような、何らかの原因によりマルテンサイトのみの組織が得られなかった焼入れを'''不完全焼入れ'''、'''甘焼き'''と呼ぶ{{Sfn|大和久|2006|p=153}}{{Sfn|大和久|2006|p=208}}。これに対して、100%マルテンサイト組織が得られた焼入れを'''完全焼入れ'''と呼ぶ{{Sfn|大和久|2006|p=200}}。ただし、100%のマルテンサイトを得ることは現実的には困難なので、およそ90%程度で実用上は完全焼入れと見なされる{{Sfn|大和久|2008|p=44}}。逆に焼入れ温度が高過ぎると、[[結晶粒]]が粗大化して焼入れ後の機械的性質が劣るようになる{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=185}}。また、後述の焼割れや変形の原因にもなる{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=185}}。

過共析鋼の場合、A<sub>1</sub>線を超えて A<sub>cm</sub>線以上まで加熱すれば全ての組織がオーステナイト化されるが、この温度から焼入れしても焼割れや[[残留オーステナイト]]の増加などが発生して上手く焼入れできない{{Sfn|坂本|2007|p=20}}。これは鉄中への炭素の固溶濃度が大きくなり過ぎることが原因で、このため焼入れ温度を A<sub>1</sub>線直上に設定するのが一般である{{Sfn|坂本|2007|p=20}}。ただし、後述の通り高合金鋼使用の場合は、A<sub>cm</sub>線以上で焼入れ温度を設定する場合もある。

===温度保持===
焼入れ温度に保持してセメンタイトをオーステナイト中に固溶させる操作を、'''固溶化熱処理'''、'''オーステナイト化処理'''とよぶ{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=78}}。昇温速度にもよるが、加熱するとき加工品の表面に比べて内部・中心は遅れて昇温するので、表面温度が焼入れ温度に達した後に内部・中心温度は遅れて焼入れ温度に達する{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=119}}。そのため、加工品表面が焼入れ温度に達してから冷却するまでの時間を'''保持時間'''、加工品全体が焼入れ温度に達してから冷却するまでの時間を'''有効保持時間'''と呼び分ける{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=119}}{{Efn2|加工品全体が焼入れ温度に達してから冷却するまでの時間を保持時間と呼ぶ場合もある{{Sfn|大和久|2008|p=35}}。}}。必要な保持時間は、昇温速度、加工品の大きさ、化学成分や加熱前の組織状態によって変わる{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=57}}{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=126}}。

昇温速度の影響としては、A<sub>3</sub>線またはA<sub>1</sub>線を超えると昇温がゆっくりでもオーステナイト変態が進行するので、徐々に加熱した場合は保持時間は短くてもよく、急速に加熱した場合は長くする必要がある{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=126}}。

また、内部・中心温度は遅れて昇温するので、加工品の形状が大きくなるほど全体が均一温度になるのに時間がかかる{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=56}}。表層温度が焼入れ温度に達してから中心部温度が0.25%以内で表層温度と均一になる時間の概算式として、加工品が丸棒形状・低炭素鋼とした場合の次式がある{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=56}}。
:<math>t = d^2 / 200</math>
ここで、''t'' は均一に要する時間 ([[時間 (単位)|h]])、''d'' は直径 ([[インチ|inch]]) である。高合金鋼の場合は[[熱伝導率]]が悪くなり、均一に要する時間は上式よりも長くなる{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=56}}。

材質の影響としては、焼入れ前の組織の結晶粒が微細化されているほど、均質なオーステナイト化にかかる時間が短く、保持時間も短くてよくなる{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=57}}。また、組成の影響も大きく、高炭素クロム軸受鋼、[[高速度鋼]]、ダイス鋼などでは、同じ条件で比較して、機械構造用炭素鋼などよりも約20分程度保持時間が長くする必要がある{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=126}}{{Sfn|大和久|2008|p=268}}。

===冷却===
[[File:CCT diagram for eutectoid steel.tif|thumb|300px|CCT図（連続冷却変態曲線）（亜共析鋼の場合）<br>Ps：パーライト変態開始線<br>Pf：100%パーライト変態完了線<br>Ms：マルテンサイト変態開始線<br>Mf：マルテンサイト変態終了線<br>(2)の冷却曲線が上部臨界冷却速度、(3)の冷却曲線が下部臨界冷却速度]]

加工品の加熱・保持後に冷却を行う。焼入れに必要な冷却速度は大体160℃/秒以上とされる{{Sfn|大和久|2008|p=36}}。冷却速度を下げていくと、マルテンサイト変態の前にパーライト変態、[[ベイナイト]]変態、フェライト変態が発生するようになり、冷却後の組織にマルテンサイト以外の組織が混入し始める{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=127}}{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=46}}。この他の組織が発生するようになる限界の冷却速度を'''上部臨界冷却速度'''、あるいは単に'''臨界冷却速度'''と呼び{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=181}}、完全焼入れになる限界速度でもある{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=126}}。上部臨界冷却速度からさらに冷却速度を下げていくと、他の変態が多くなりマルテンサイト変態の比率が下がっていき、遂にはマルテンサイト変態が発生しなくなる{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=46}}。この限界の冷却速度を'''下部臨界冷却速度'''と呼び{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=45}}、不完全焼入れになる下限速度となる{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=127}}。さらに冷却速度を遅くすると（亜共析鋼の場合は）[[焼ならし]]に、もっと遅くすると完全焼なましに該当するような熱処理操作となる{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=127}}。

このような冷却速度と変態の関係を、亜共析鋼を例にしてCCT図（連続冷却変態曲線）で見ていくと
{{Efn2|name="TTT_CCT"|TTT図は、ある温度まで非常に急冷させた後に一定温度に保持し、変態の開始、進行割合、終了の時間とその一定温度の関係を示したもの{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=71}}。CCT図は、一定速度で冷却させて、変態の開始、進行割合、終了の時間と温度の関係を示したもの{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=71}}。実際の冷却はある速度を持っているので、CCT図の方が実際に近い{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=72}}。ただし、等温焼入れを行う場合は、TTT図が条件設定に利用される{{Sfn|大和久|2008|p=290}}。また、連続冷却の場合でも実際の冷却は一定速度にはならないので、CCT図も実際の冷却とは異なっている{{Sfn|大和久|2008|p=290}}。このように、TTT図もCCT図も、実際の現象と離れた点を含む注意点がある。}}
、上部臨界冷却速度でパーライト変態開始線にかかり出す{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=127}}。上部臨界冷却速度と下部臨界冷却速度の間では、100%パーライト変態する前にパーライト変態領域を抜けて残りはマルテンサイト変態領域に入る{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=45}}。下部臨界冷却速度で100%パーライト変態線にかかり出し、これ以上になると全てパーライト変態となる{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=127}}。

[[File:DiagrammeTTT.GIF|thumb|300px|left|TTT図（恒温変態曲線）<br>V1の冷却曲線がパーライト変態を免れている]]
また、降温中の焼入れ温度から約550℃までの範囲を'''臨界区域'''と呼ぶ。これは[[TTT図]]（恒温変態曲線）で見ると<ref group="注" name="TTT_CCT" />、オーステナイトからパーライトあるいは[[ベイナイト]]への変態開始曲線の左に張り出した鼻のような部分がこの約550℃に相当する{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=73}}。この鼻の部分を通り過ぎるときに、パーライトあるいはベイナイトへの変態が起きやすい{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=182}}。急冷させて鼻の部分を避けるところまで降温させれば、変態開始曲線はC形になっているためベイナイトへの変態開始点は長時間側へ逃げていき、冷却速度を落とせる余裕が生まれる{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=182}}。つまり、臨界区域を抜ける温度まで、できるだけ早く冷却することが完全焼入れを行うために重要となる。

一般的に理想的な冷却の仕方は、焼入れ温度から臨界区域を過ぎて後述のマルテンサイト変態開始温度（Ms点）手前まで出来るだけ早く均一に冷やし、Ms点以下の危険区域はゆっくり冷やすとされる{{Sfn|大和久|2008|p=45}}。焼入れ温度からMs点までの急冷は、上記のようなマルテンサイト変態以外が発生する不完全焼入れを避けるためで、Ms点に到達した後は急冷の必要は無くなり、後述の焼割れや変形などの欠陥を避けるため冷却速度をゆっくりにする。

====二段冷却・等温冷却====
上記で説明したような理想的な冷やし方を実現するため、冷却剤と加工品の温度が平衡になるまで放置せず、降温途中のMs点前で、水冷などの急冷から[[空冷]]などのゆっくりとした冷却に切り替える方法が取られる{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=127}}。このような冷却を'''二段冷却'''などと呼び{{Sfn|大和久|2006|p=44}}、焼入れを'''二段焼入れ'''、あるいは'''引上げ焼入れ'''、'''中断焼入れ'''、'''階段焼入れ'''、などと呼ぶ{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=127}}{{Sfn|JIS B 6905|1995|p=3}}。また、二段焼入れを、水や油などの冷却剤へ漬けた瞬間からの時間を数えて引き上げる方法で実現する方法を、'''時間焼入れ'''と呼ぶ。時間焼入れの場合の目安としては、水焼入れは肉厚3mm当たり1秒、油焼入れは同肉厚当たり3秒で引き上げるのが良いとされる{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=127}}。時間に拠らない場合の目安としては、加工品の振動や水鳴が止んだときに引き上げるのが良いとされる{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=127}}。ただし冷却時間を誤ると、極端に短いときは全く焼きが入らない、短いときは表面は焼きが入るが中心部との温度差で中間部が変態膨張して後述の焼割れが起こる、長すぎると危険区域を通過して同じく焼割れが起こるなどの難しさがある{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=75}}。

二段焼入れに対して、Ms点を通過して常温まで冷却する方法を'''連続冷却'''と呼び{{Sfn|大和久|2006|p=44}}、焼入れを'''普通焼入れ'''と呼ぶ{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=185}}{{Efn2|冷却方法ではなく、[[高周波焼入れ]]のような表面焼入れなどと区別して普通焼入れとも呼ぶ}}。また、冷却の途中で一定時間等温に保ち、その後また冷却する方法を'''等温冷却'''と呼び{{Sfn|大和久|2006|p=44}}、焼入れを'''等温焼入れ'''、'''恒温焼入れ'''などと呼び、後述のマルテンパやオーステンパなどで利用される{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=186}}。

====加工品形状の影響====
[[File:Gradient temperature trempe.svg|thumb|150px|冷却中の加工品温度分布の概念図<br>中心部は温度が高く、表面部から温度が下がる]]
[[File:Difference in cooling speed ratios by shape.png|thumb|200px|局所形状による冷却速度比の目安（隅角効果）{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=131}}<br>3面角：7<br>2面角：3<br>平面：1<br>凹面角：1/3]]

焼割れや変形を避けるためにも、加工品全体が均一に降温するように冷却するのが理想的である。そのためには冷却速度を落とすことが1つの方策だが、その他に降温を不均一にする要因としては加工品形状やサイズの影響が大きい。

一般に、表面が最も冷却が早く、内部深くなるに連れて冷却が遅くなる。そのため、表面は100%マルテンサイトが得られるような冷却であっても、中心部ではパーライトしか得られないような冷却速度まで低下してしまうことがある{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=44}}。このように、内部深くになるほど焼きが入りにくくなるので、加工品のサイズが大きくなるほど焼きが入らない領域が大きくなる{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=44}}。また、内部の冷却が遅くなることに起因して、内部だけでなく、表面側も冷却速度が低下して焼きが不十分となることもある<ref>{{Cite web|和書|url= http://www.daiichis.com/heattreatment/heat_yougo.html#yakisei |title=第一鋼業の熱処理解説：焼入れ性 |accessdate=2014-08-24 |publisher= 第一鋼業}}</ref>。このような加工品の大きさ（=質量）が大きくなるほど焼きが入りづらくなる現象を、'''質量効果'''と呼ぶ{{Sfn|山方|2010|pp=100&ndash;101}}。[[焼入れ性]]が良い材料では深くまで焼きが入りやすいので質量効果を小さくできる{{Sfn|山方|2010|pp=100&ndash;101}}。

大きさの他、加工品の形状（形）によって冷却速度は異なる{{Sfn|藤木|2013|p=70}}。同じ条件で冷却しても、形状が球、丸棒、平材の違いによる冷却速度比は、大まかに以下のように異なる{{Sfn|大和久|2008|p=79}}。
:球：丸棒：平材 = 4：3：2
これを'''形状効果'''などと呼ぶ{{Sfn|藤木|2013|p=70}}。

また、同じ加工品内でも局所的な形状の違いによって冷却速度が異なる{{Sfn|大和久|2008|p=79}}。特に、凸部が冷却が早く、凹部が冷却が遅い{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=131}}。これを'''隅角効果'''などと呼ぶ{{Sfn|藤木|2013|p=70}}。それぞれの冷却速度比は大まかに以下のようになる{{Sfn|大和久|2008|p=81}}。
:3面角：2面角：平面：凹面角 = 7：3：1：1/3

====その他の影響====
その他に、均一な冷却を実現するために、
*冷却中は冷却材を適度に撹拌する{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=62}}。
*加工品の薄肉部に当て物をするなどして冷却する{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=63}}。
*酸化スケールなどの異物が表面に付着しないように冷却する{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=63}}。
などの方法・注意点がある。冷却剤の詳細については後述を参照。

===マルテンサイト変態===
{{see also|マルテンサイト変態}}
素早い冷却により、ある程度まで冷却が進むとマルテンサイト変態が開始する。冷却中のマルテンサイト変態開始温度を'''Ms点'''、マルテンサイト変態終了温度を'''Mf点'''と呼ぶ{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=38}}。Ms点とMf点の間では、時間によらず瞬間的にマルテンサイト変態が発生するが、冷却が進むことがマルテンサイト変態が進む条件となる{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=81}}。つまり、Ms点を通過しても冷却を一端停止させると変態の進行も停止する{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=38}}。

Ms点は鋼の化学成分とオーステナイト化温度によって決まる{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=127}}。化学成分量から、鋼のMs点を予測する実験式は数多く提案されている{{Sfn|平川ほか|2004|p=90}}。以下に例を示す。

*''Ms'' = 538 &minus; 317 &times; ''C'' &minus; 33 &times; ''Mn'' &minus; 28 &times; ''Cr'' &minus; 17 &times; ''Ni'' &minus; 11 &times; ''Mo'' &minus; 11 &times; ''W'' &minus; 11 &times; ''Si'' {{Sfn|坂本|2007|p=21}}
*''Ms'' = 550 &minus; 350 &times; ''C'' &minus; 40 &times; ''Mn'' &minus; 20 &times; ''Cr'' &minus; 17 &times; ''Ni'' &minus; 10 &times; ''Mo'' &minus; 5 &times; ''W'' &minus; 10 &times; ''Cu'' &minus; 35 &times; ''V'' + 15 &times; ''Co'' + 30 &times; ''Al'' {{Sfn|大和久|2008|p=42}}
*''Ms'' = 521 &minus; 353 &times; ''C'' &minus; 24 &times; ''Mn'' &minus; 18 &times; ''Cr'' &minus; 17 &times; ''Ni'' &minus; 26 &times; ''Mo'' &minus; 22 &times; ''Si'' &minus; 8 &times; ''Cu'' {{Sfn|平川ほか|2004|p=90}}

ここで各記号は、''Ms'' はMs点温度 (℃)で、''C'', ''Mn'', ''V'', ''Cr'', ''Ni'', ''Cu'', ''Mo'', ''W'', ''Co'', ''Al'', ''Si'' は各元素の質量パーセント濃度 (%) である。共析鋼の場合で、Ms点は約260℃程度となる{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=38}}。

[[File:Carbon dependance of martensite.svg|thumb|炭素含有量とMs点、Mf点の関係の例]]
Ms点が高くなるとMf点も高くなり、低くなる場合も同様に低くなる傾向を持つ{{Sfn|坂本|2007|p=65}}。[[炭素鋼]]の場合で、Ms点からMf点までは200 - 300℃程度の温度幅である{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=38}}。上式にも示されるように炭素濃度が上がるとMs点は低くなるので、[[高炭素鋼]]の場合はMf点は室温よりも低くなる{{Sfn|坂本|2007|p=65}}。そのため、室温まで冷却が完了してもオーステナイトが変態しきれず、焼入れ後組織中に[[残留オーステナイト]]として残ることになる{{Sfn|坂本|2007|p=65}}。残留オーステナイトは放置しておくと、室温でも時間が経過するに連れて自然にマルテンサイト変態を起こす{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=187}}。このマルテンサイト変態による体積膨張で、最終製品の寸法変化が生じてしまう{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=187}}。これを避けるために、高炭素鋼を用いた製品、特に寸法の経年変化を嫌う精密部品では、焼入れ後直ちに0℃以下に冷却する[[サブゼロ処理]]を実施して、残留オーステナイトをマルテンサイト化させる{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|pp=133&ndash;134}}。

Ms点以下になるとマルテンサイトが発生し始めるが、オーステナイトからマルテンサイトへ変態すると大きな体積膨張が起こる{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=80}}。Ms点以下になるとき、温度が不均一だと、上記の膨張発生と冷却による[[熱膨張率|体積縮小]]の部分的ばらつきにより内部応力が発生して、内部応力が[[引張強さ]]を超えると割れが発生する{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=127}}。そのためMs点以下の温度域を'''危険区域'''と呼び、ゆっくり均一に冷やすことが良いとされる{{Sfn|大和久|2008|p=289}}。このため、上記で説明した二段焼入れや等温焼入れなどの手法がある。

===焼戻し===
{{main|焼戻し}}
焼入れにより鋼の硬さを増大させることができるが、[[靭性]]が低下して非常に脆い状態となる{{Sfn|山方|2010|p=102}}。このため、粘り強さを得るために、焼入れ後には[[焼戻し]]を行うのが一般的である{{Sfn|山方|2010|p=102}}。焼入れと焼戻しの一連の熱処理をまとめて'''焼入焼戻し'''と呼び{{Sfn|JIS B 6905|1995|p=5}}、特に、約400℃以上の高温焼戻しで[[トルースタイト]]か[[ソルバイト]]組織を得る焼入焼戻しは'''調質'''と呼ばれる{{Sfn|JIS B 6905|1995|p=5}}{{Efn2|あるいは、ソルバイト組織を得る焼入焼戻しに限って'''調質'''と呼ぶ場合もある{{Sfn|山方|2010|p=102}}{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=133}}。}}。

焼戻しの種類にもよるが、焼戻しによりシャルピー衝撃値などの靱性や伸び・絞りなどの延性は回復するが、硬さや引張強さはある程度低下してしまう{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=122}}。そのため、不完全焼入れにより焼入れ硬さが低いものも、完全焼入れにより焼入れ硬さが高いものも、焼戻し条件を調整すれば、焼戻し後の硬さ及び引張強さを同じにすることができる{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=181}}。しかし、例え焼戻し後硬さが同じだったとしても、降伏点、伸び、絞り、衝撃値、[[疲労限度]]の値は完全焼入れされたものの方が良好である{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=181}}。よって、完全焼入れを狙った上で、所定の硬さに焼戻しで調整するのが理想とされる{{Sfn|大和久|2006|p=98}}。

==焼入れ後の材質==
===焼入れ硬さ===
{{see also|焼入れ性}}

焼入れ後の最高硬さは、ほぼ炭素含有量によって決定され、他の合金元素の影響は少ない{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=130}}。概算式として、マルテンサイトの含有率に応じた硬さの計算式を示す{{Sfn|大和久|2008|p=44}}。

*90%マルテンサイト焼入れ硬さ
:<math> HRC = 30 + 50C</math>
*50%マルテンサイト焼入れ硬さ
:<math> HRC = 20 + 50C</math>
*微細パーライト焼入れ硬さ（0%マルテンサイト）
:<math> HRC = 10 + 50C</math>

ここで、''HRC'' は[[ロックウェル硬さ]]、''C'' は[[炭素]]質量パーセント濃度 (%) である。ただし、炭素量がある程度以上になると硬さの上昇は飽和して変化しなくなり、上記の概算式は成立しなくなる{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=130}}。炭素量が約0.6%を超えると焼入れ硬さが大体一定となる{{Sfn|大和久|2008|p=103}}。

最高硬さは炭素含有量によって決まるが、どれだけ加工品の内部深くまで硬くなるかは加工品材料の[[焼入れ性]]によって大きく影響され、炭素以外の[[モリブデン]]などの合金元素の影響もある{{Sfn|大和久|2008|p=110}}。

===機械的性質===
硬さ以外の[[機械的性質]]としては、[[引張強さ]]、降伏比（[[降伏点]]/引張強さの比）も焼入れにより向上する{{Sfn|大和久|2008|p=120}}。しかし、硬いが非常に脆い性質になっており、また、後述の焼入れ応力により強度に悪影響を及ぼす[[残留応力]]も発生している{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|pp=82&ndash;83}}。この残留応力は耐摩耗性にも悪影響し、焼入れし放しのものは硬さの割に[[摩耗]]に弱くなる{{Sfn|大和久|2006|p=83}}。

低炭素構造用鋼による結果を例として、熱処理の種類による機械的性質の違いを以下に示す。

{| class="wikitable" style="text-align:center"
|+ 低炭素構造用鋼の機械的性質の熱処理による変化の例{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=123}}<br>（試験片長手方向は圧延方向に平行の場合）
! 熱処理 !! 引張強さ(MPa) !! 伸び(%) !! シャルピー衝撃値(J/cm<sup>2</sup>)
|-
| 圧延のまま || 535 || 39.0 || 254
|-
| 850℃焼ならし || 533 || 40.0 || 303
|-
| 900℃水焼入れ || 1252 || 15.1 || 89
|-
| 900℃水焼入れ・300℃焼戻し || 1240 || 13.5 || 84
|-
| 900℃水焼入れ・500℃焼戻し || 813 || 21.3 || 215
|-
| 900℃水焼入れ・600℃焼戻し || 700 || 25.0 || 272
|}

===その他の性質===
物理的性質としては、焼入れにより、[[電気抵抗]]は増加し、[[熱伝導率]]は低下する傾向にある{{Sfn|大和久|2008|pp=132, 134}}。化学的性質としては、マルテンサイトは、焼戻し後組織の[[トルースタイト]]と比較すると腐食しにくい性質を持つ{{Sfn|大和久|2008|p=135}}。

==冷却剤==
加熱保持後に冷却するために'''冷却剤'''が必要になる{{Sfn|坂本|2007|p=74}}。焼入れに用いられる冷却剤としては、
*[[水]]
*[[油]]
*[[水溶液]]
*塩浴
*加圧ガス
*[[空気]]
などがある{{Sfn|山方|2010|pp=98&ndash;99}}。慣習として、使用する冷却剤の名前を冠して○○焼入れなどと呼ぶ。例えば水中で冷却する焼入れは'''水焼入れ'''、油中で冷却する焼入れは'''油焼入れ'''などと呼ぶ{{Sfn|JIS B 6905|1995|p=3}}。また、冷却液に浸漬させて焼入れする方法を'''ズブ焼入れ'''、冷却液を吹きつけて焼入れする方法を'''スプレー焼入れ'''、'''噴射焼入れ'''、霧状の冷却液中で行う焼入れを'''噴霧焼入れ'''などと呼ぶ{{Sfn|JIS G 0201|2000|p=10}}{{Sfn|大和久|2008|p=50}}。

冷却剤の種類の他に、流体の場合は[[撹拌]]の程度が冷却の強さに大きく影響する{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=52}}。これは、加工品を水や油の冷却液につけると、すぐに加工品表面に蒸気膜が発生・覆い、冷却がゆるやかとなるためである{{Sfn|山方|2010|p=98}}。一般に、実際に冷却剤を使用する上で必要な管理項目は、温度、撹拌、異物混入防止、冷却剤の品質・寿命が挙げられる{{Sfn|坂本|2007|p=74}}。

冷却剤の冷却の強さを表す指標を'''冷却能'''と呼び、次式で示すH値が使用される{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=52}}。
:<math> H = \frac{\alpha}{2 \lambda}</math>
ここで、''α'' は加工品から冷却剤への[[熱伝達率]]、''λ'' は[[熱伝導率]]である。''H'' は (m<sup>&minus;1</sup>) の[[単位]]を持つ。

{| class="wikitable" style="text-align:center"
|+ 各種冷却材の冷却能 ''H''(cm<sup>&minus;1</sup>) の例{{Sfn|山方|2010|pp=99}}
! 撹拌 !! 空気 !! 油 !! 水 !! 食塩水 !! 塩浴（204℃）
|-
| 静止 || 0.008 || 0.098 - 0.118 || 0.354 - 0.394 || 0.79 || 0.197 - 0.315
|-
| わずかに撹拌 || - || 0.118 - 0.138 || 0.394 - 0.433 || 0.79 - 0.87 || -
|-
| ゆるやかに撹拌 || - || 0.138 - 0.157 || 0.472 - 0.512 || - || -
|-
| 中程度の撹拌 || - || 0.157 - 0.197 || 0.551 - 0.591 || - || -
|-
| 強い撹拌 || 0.020 || 0.197 - 0.315 || 0.630 - 0.787 || - || -
|-
| 強烈な撹拌 || - || 0.315 - 0.433 || 1.58 || 1.97 || -
|-
| [[焼入れ性#ジョミニー式一端焼入法|ジョミニー試験]] || - || - || 2.17 || - || -
|}

===水===
水による冷却は、冷却剤の中でも冷却速度が大きく{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=58}}、コストが安く、どこでも手に入りやすいという利点がある{{Sfn|坂本|2007|p=74}}。しかし、Ms点を過ぎた危険区域温度でも急冷してしまうので、焼割れや変形の不具合の可能性が高い{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=58}}。

水温が30℃を超えると冷却能が大きく低下するので、30℃以下に保った使用が推奨される{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=129}}。冷た過ぎても冷却効果が悪くなるので、焼入れを開始するときの水温は、15℃程度が適当とされる{{Sfn|坂本|2007|p=74}}。約60℃くらいでは油と同程度の冷却速度となるので、油焼入れの代わりに使用される場合もある{{Sfn|大和久|2008|pp=48, 245}}。

===油===
油による冷却は、均一な冷却ができ、危険区域でもゆっくり冷却できるので焼割れや変形の危険が少ないという利点がある{{Sfn|大和久|2008|p=48}}。一方、冷却速度が水の約1/3遅く、臨界区域での冷却が遅い点、火災や環境汚染に注意する必要がある点などの欠点がある{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=59}}{{Sfn|大和久|2008|p=48}}。焼入れ用に調整された油を'''焼入油'''と呼び、[[鉱油]]が広く使用されている{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=100}}。

油の場合は、油温を上げると粘度が小さくなり、結果として冷却が早くなる{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=59}}。そのため油の冷却能は60 - 80℃で最も大きくなる{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=129}}。加工品によって冷却油自身も温度上昇することを考えて、焼入れを開始するときの油温は、50 - 70℃程度が適当とされる{{Sfn|坂本|2007|p=74}}。さらに温度を上げて後述のマルテンパなどにも使用される。

===水溶液===
[[水溶性]]の物質を水に溶かして冷却剤として使用するもの。苛性ソーダ、炭酸ソーダ、食塩などは、蒸気幕が発生している時間を短縮できるので水の冷却能を高めることができる{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=58}}。

近年では、[[ポリマー]]を利用したポリマー焼入液が実用化されている{{Sfn|大和久|2008|p=48}}。[[ポリビニルアルコール]]、[[ポリエチレングリコール]]、[[ポリアクリル酸ナトリウム]]、ポリアルキレングリコールなどを利用したものがある<ref name="三木田1987">{{Cite journal |和書|author=三木田嘉男, 中林一朗 |title=水溶性ポリマー焼入れ液によるS55Cの焼入れ残留応力分布 |url=https://doi.org/10.1299/kikaia.53.475 |journal=日本機械学会論文集 A編 |issn=0387-5008 |publisher=日本機械学会 |year=1987 |volume=53 |issue=487 |pages=475-482 |naid=110002377212 |doi=10.1299/kikaia.53.475}}</ref>。液濃度に応じて冷却能が変わり、高濃度では油寄り、低濃度では水寄りになる{{Sfn|大和久|2008|p=48}}。油のように危険区域での冷却速度を落とすことができ、水のように火災の恐れが無いという利点がある{{Sfn|大和久|2008|p=49}}。

===塩浴===
'''塩浴'''、あるいは'''ソルトバス'''は、[[塩 (化学)|塩類]]を浴に満たして加熱して液体化したもの。熱処理塩浴剤をソルトと総称する。150 - 500℃に加熱して使用する{{Sfn|大和久|2008|p=49}}<ref>{{Cite web|和書|url= http://www.daiichis.com/salt/process.html |title=ソルトバス熱処理設備の概要 |accessdate=2014-08-11 |publisher= 第一鋼業}}</ref>。後述のマルテンパ、オーステンパに使用される。150℃程度の塩浴は、50℃程度の油と同程度の冷却能となる{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=61}}。

塩類としては、[[塩化カリウム]]、[[食塩]]、[[硝酸ナトリウム]]、[[亜硝酸ナトリウム]]などが使用される{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=61}}。均一な冷却ができ、焼むらや焼割れが少ないなど利点がある一方、塩浴のコストが掛るなどの欠点がある<ref>{{Cite web|和書|url= http://www.ht-solution.jp/solution/salt.html |title=ソルト焼入れ |accessdate=2014-08-11 |publisher= 金属熱処理ソリューション}}</ref>。

===加圧ガス===
[[水素]]ガスや[[窒素]]ガス、[[ヘリウム]]ガスなどを加圧して吹きつけ、焼入れの冷却剤として利用する{{Sfn|山方|2010|p=98}}。 真空加熱炉と併用して、表面を酸化させない光輝焼入れに利用される{{Sfn|大和久|2008|p=50}}。

0.1 - 0.6 M[[パスカル (単位)|Pa]]程度の加圧ガスで、[[焼入れ性]]の良い高合金鋼に対して行われるのが一般的である{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=61}}。0.5 - 4 MPaまで加圧して低合金鋼へ適用する例もある{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=61}}。ただし、日本国内では1 MPa以上では[[高圧ガス保安法]]で規制されるため採用が難しく、ガスを高速循環させて冷却速度を向上させる方法などが開発されている<ref>{{Cite web|和書|url= http://www.nikkan.co.jp/adv/gyoukai/2011/110517a.html |title=品質・コスト・環境面で期待される 真空熱処理技術 |accessdate=2014-08-11 |publisher= 日刊工業新聞社}}</ref>。ガス焼入れの欠点としては、設備にコストがかかることなどである{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=60}}。

===空気===
通常、[[空冷]]は[[焼ならし]]に使用される。冷却速度が遅いので普通は焼入れには使用しないが、冷間加工用工具鋼は、[[焼入れ性]]が大きいこともあり、変形を嫌う場合は空冷で焼入れする場合もある{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=214}}。

==焼入れの種類==
等温焼入れを利用したものや表面相のみ焼入れするものなど、特別な名称が与えられたような焼入れの種類を以下に説明する。

===マルクエンチ===
[[File:Isothermal quenchings on an isothermal transformation diagram.png|thumb|[[TTT図]]上に重ねた等温焼入れ<br>(1)：マルクエンチ<br>(2)：マルテンパ<br>(3)：オーステンパ<br>Ps：パーライト変態開始線<br>Pf：パーライト変態終了線<br>Bs：ベイナイト変態開始線<br>Bf：ベイナイト変態終了線<br>Ms：マルテンサイト変態開始線<br>Mf：マルテンサイト変態終了線]]

'''マルクエンチ'''(marquench)は、等温焼入れの一種で、焼入れ温度からの急冷途中にMs点直上の200 - 300℃の温度で停止させ、加工品全体の温度が均一になるまで一定時間温度保持し、再び空冷などのゆっくりとした冷却に切り替えて焼入れを完了させる方法である{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=186}}。Ms点以下の危険区域をゆっくり均一に冷却させることで焼割れ、ひずみを防止することを目的とする{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=186}}。マルクエンチ後は普通の焼入れ同様に焼戻しが必要とされる{{Sfn|坂本|2009|p=71}}。

焼入れ温度からの最初の冷却剤としては、停止させたい温度に加熱してある塩浴や油浴を使用する。このような浴を'''熱浴'''と呼ぶ{{Sfn|大和久|2008|p=49}}。途中の冷却停止時間が長すぎると等温変態が開始して、マルテンサイトが得られなくなる注意点がある{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=186}}。

後述のマルテンパと特に呼び分けしない場合も多い{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=128}}{{Sfn|大和久|2008|p=287}}{{Sfn|JIS B 6905|1995|p=4}}。

===マルテンパ===
'''マルテンパ'''(martemper)は、等温焼入れの一種で、焼入れ温度からの急冷途中にMs点・Mf点間の100 - 200℃の温度で停止させ、等温変態が完了するまでそのまま温度保持し、再び空冷などのゆっくりとした冷却に切り替えて焼入れを完了させる方法である{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=186}}{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=74}}{{Sfn|坂本|2009|p=69}}。得られる組織は、焼戻しマルテンサイトと呼ばれる組織と後述の下部ベイナイトの混合組織で、硬くて靱性がある{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=186}}{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=75}}{{Sfn|坂本|2009|p=70}}。マルクエンチ以上にひずみ、焼割れの危険性が小さくなる{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=74}}。

一方で、等温変態が完了するまでの時間がかかり過ぎるという欠点がある{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=186}}。オーダーとして時間 (h) 単位でかかる場合もある{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=75}}。そのため、マルクエンチの方が多用され{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=186}}、等温変態が完了する前に再冷却を開始する方法もある{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=74}}。マルクエンチと同じく熱浴を利用して行われるが{{Sfn|大和久|2008|p=49}}、停止温度が低い分油浴が利用しやすい{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=128}}。

前述のマルクエンチと特に呼び分けしない場合も多い{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=128}}{{Sfn|大和久|2008|p=287}}{{Sfn|JIS B 6905|1995|p=4}}。または、上記の等温変態が完了する前に再冷却を開始する方法をマルテンパと呼ぶ場合もある{{Sfn|平川ほか|2004|p=97}}。

===オーステンパ===
[[ファイル:518UB80Si10 250.jpg|thumb|下部ベイナイト組織の拡大写真]]
'''オーステンパ'''(austemper)は、等温焼入れの一種で、焼入れ温度からの急冷途中に300 - 500℃の温度で停止させ、等温変態が完了したら、再び空冷などのゆっくりとした冷却に切り替えて焼入れを完了させる方法である{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=128}}。焼入れ後に得られる組織は[[ベイナイト]]で、そのため'''ベイナイト焼入れ'''とも呼ぶ{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=128}}。

ベイナイトは硬さと靱性が高い組織で、オーステンパ後は焼戻しを必ずしも必要としない利点がある{{Sfn|大和久|2008|p=45}}。また、高温域で変態が徐々に進行するので、マルクエンチ、マルテンパ以上に、ひずみ、焼割れの危険性は小さくなる{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=75}}。同じベイナイトでも、高めの温度で等温変態させることで靱性が高い上部ベイナイトとなり、低めの温度で硬めの下部ベイナイトとなる{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=128}}。境目の温度は約350℃である{{Sfn|平川ほか|2004|p=96}}。硬さ調整のため、オーステンパ後も焼戻しすることはある{{Sfn|大和久|2008|p=46}}。

加工品が大形品だと内部でパーライト変態が発生する場合があり{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=186}}、加工品の大きさに制限がある{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=128}}{{Sfn|大和久|2008|p=45}}。一次冷却を行う熱浴には、塩浴の他に金属浴を使用する場合もある{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=128}}。

===オースフォーミング===
'''オースフォーミング'''(ausforming)は、塑性加工と熱処理を組み合わせた'''加工熱処理'''(thermo-mechanical treatment:TMT)の一種{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=188}}。焼入れ温度からの急冷途中に鋼の再結晶温度以下Ms点以上の温度で停止させ、準安定オーステナイト領域で[[圧延]]、[[鍛造]]、押出しなどの塑性加工を加えて、再冷却して焼入れを完了させる方法である{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=188}}。通常、オースフォーミング後は焼戻しも必要とされる{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=188}}。オースフォーミング後の機械的性質は、強度向上が大きく、靱性はほとんど低下しないという長所を持つ{{Sfn|平川ほか|2004|p=98}}。

===表面焼入れ===
表面相だけを焼入れして内部は軟らかいままにしておく焼入れが'''表面焼入れ'''で、使用する熱源別に、[[高周波焼入れ]]、[[炎焼入れ]]、レーザー焼入れ、電子ビーム焼入れなどがある{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=214}}。鋼表面の化学成分を変化させる方法を合わせたものとしては、[[浸炭|浸炭焼入れ]]、浸炭窒化焼入れなどもある{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=146}}。

加工品全体ではなく表面の硬化を狙った熱処理を'''表面硬化処理'''(surface hardening treatment)と呼ぶ{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=146}}。表面硬化処理には、鋼表面の化学成分を変化させる'''化学的表面硬化法'''と、化学成分を特に変化させずに行う'''物理的表面硬化法'''がある{{Sfn|大和久|2008|p=57}}。浸炭焼入れ、浸炭窒化焼入れが化学的表面硬化法に相当し、表面焼入れは物理的表面硬化法に相当する。

==焼入れ欠陥==
焼入れ完了後に、加工品に割れや変形、硬さ不足などの不具合が発生する場合がある。割れ、変形の原因となる焼入応力と合わせて以下に説明する。

===焼入応力===
'''焼入応力'''は焼入れにより内部に生じる[[応力]]の総称で、[[残留応力]]の一種{{Sfn|JIS G 0201|2000|p=14}}。不均一な冷却に起因する'''熱応力'''と、変態の体積変化に起因する'''変態応力'''に分けられる{{Sfn|JIS G 0201|2000|p=14}}。後述の焼割れなどの原因となり、引張の残留応力が残る場合は強度にも悪影響を及ぼす。

鋼に限らず、物体はその温度に従って[[熱膨張率|熱膨張・熱収縮]]が発生する。この熱膨張・熱収縮が拘束される場合に物体内に生じる応力を'''熱応力'''と呼ぶ。傾向として、焼入れ後には、内部に[[引張]]の熱応力、表面側に[[圧縮]]の熱応力が発生する{{Sfn|坂本|2007|p=97}}。これは表面で冷却が先行することに起因するもので、単純化すると具体的には次のような順序による{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=66}}。
#表面側が先行して冷却し、収縮しようとする。中心部はまだ高温なので、収縮しようとはしない。
#この体積変化の差により内部応力が発生するが、このとき中心部は高温なので、[[応力緩和]]が発生して次第に応力は0になる。
#さらに冷却が進み、表面側は冷却が完了した状態、内部は冷却を継続して収縮しようとする状態になる。
#この体積変化の差により内部応力が発生する。内部は収縮しようとしているのに固まった表面側により拘束されるので、内部に対しては引張応力が、表面側に対しては圧縮応力が残留する。

マルテンサイト変態により体積変化が発生する（後述の体積変化率なども参照）。このマルテンサイト変態が加工品の場所によって時間差を持って発生することに起因する応力を、'''変態応力'''と呼ぶ{{Sfn|坂本|2007|p=97}}。熱応力ほど一概には言えないが、傾向として、焼入れ後には、内部に圧縮の変態応力、表面側に引張の変態応力が発生する{{Sfn|坂本|2007|p=97}}。これも表面で冷却が先行することに起因するもので、単純化すると具体的には次のような順序による{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=66}}。
#表面側が先行して冷却し、マルテンサイト変態が発生して膨張しようとする。中心部はまだ高温なので、マルテンサイト変態はまだ起こらない。
#この体積変化の差により内部応力が発生するが、このとき中心部は高温なので、[[応力緩和]]が発生して次第に応力は0になる。
#さらに冷却が進み、表面側は冷却が完了した状態、内部は冷却を継続してマルテンサイト変態が発生して膨張しようとする状態になる。
#この体積変化の差により内部応力が発生する。内部は膨張しようとしているのに固まった表面側により拘束されるので、内部に対しては圧縮応力が、表面側に対しては引張応力が残留する。

実際の現象では、これら熱応力と変態応力が複雑にからみ合い、焼入応力が大きくなったり、小さくなったりする{{Sfn|坂本|2007|p=98}}。焼入応力に影響を与える要因としては、冷却方法、加工品炭素量、加熱温度、加工品の大きさ、脱炭、偏析などがある{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|pp=67&ndash;69}}。

===割れ===
マルテンサイト変態や冷却の不均一などを原因として、焼入れにより割れ（[[き裂]]）が発生する{{Sfn|山方|2010|p=192}}。焼入れにより発生する割れを分類すると、'''焼割れ'''、'''置割れ'''、'''研削割れ'''の種類がある。加工品に割れが発生すると再生が利かずほとんどの場合使用不可になるので、致命的な焼入れ欠陥の一つである{{Sfn|山方|2010|p=192}}。

====焼割れ====
'''焼割れ'''とは焼入れの過程で発生する割れのことで、焼入応力を主原因とする{{Sfn|JIS G 0201|2000|p=14}}。焼入応力が加工品の[[引張強さ]]を超えると割れが発生する{{Sfn|山方|2010|p=192}}。

焼割れ発生を防止するためには、
*冷却を全体で均一になるように、加工品の形状を工夫する。穴が開いている加工品は肉厚が均等になるように穴位置を決める、形状の隅角部はなだらかにする、などである{{Sfn|藤木|2013|p=129}}。
*Ms点からはゆっくり全体で均一になるよう冷却を行う。そのための方法として、上記の二段焼入れや等温焼入れが有効である{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=73}}。
*応力集中部となる、肌荒れや傷などの表面欠陥が無いようにする{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=72}}。
*加工品の材質と冷却剤の組み合わせを最適にする。焼入れ性が高い材料を採用して、ゆっくり冷却しても焼きが入るようにする{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=73}}。
*鍛造品などは十分な焼なましを事前に行う{{Sfn|藤木|2013|p=128}}。
*焼入れ温度を上げ過ぎないようにする{{Sfn|藤木|2013|p=128}}。
などの対策が挙げられる。

====置割れ====
焼入れ完了した加工品に常温放置中に生じる割れを'''置割れ'''、あるいは'''自然割れ'''、'''時効割れ'''などとも呼ぶ{{Sfn|JIS G 0201|2000|p=14}}{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=82}}。特に、焼入れ後に焼戻ししないで加工品を放置すると発生しやすい{{Sfn|山方|2010|pp=189}}。焼入れ後の組織には、マルテンサイトの他に残留オーステナイトも発生する。残留オーステナイトは常温でも時間経過によりマルテンサイトへ変化するので、その際の変態応力の発生で加工品の残留応力のバランスが崩れて割れに至る{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=84}}。これが置割れの原因である。

対策として、焼入れ後は間を置かずに焼戻しを実行して、材質を安定化させることが望ましい{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=131}}。必要に応じてサブゼロ処理も組み合わせる{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=84}}。

====研削割れ====
焼入れ完了した加工品に[[研削加工]]する際に発生する割れを、'''研削割れ'''、あるいは'''研磨割れ'''と呼ぶ{{Sfn|山方|2010|pp=198&ndash;199}}。研削時の加熱が研削割れの原因で、約100℃まで加工品表面が昇温することにより発生する'''第1種研削割れ'''と約300℃まで昇温することにより発生する'''第2種研削割れ'''があり、第1種研削割れは研削方向に直角に割れが走り、第2種研削割れは研削方向に直角と平行に割れが走る特徴がある{{Sfn|山方|2010|pp=198&ndash;199}}。これは、再加熱で100℃付近でε炭化物が析出し、300℃付近でセメンタイトが析出するのが原因で、組織変化により体積変化が起こり、置割れと同じように加工品の残留応力のバランスが崩れて割れに至る{{Sfn|山方|2010|pp=198&ndash;199}}。研削中ではなく、研削終了後に発生する傾向を持つ{{Sfn|大和久|2008|p=144}}。

第1種研削割れには100 - 120℃焼戻しが、第2種研削割れには300℃焼戻しが有効とされる{{Sfn|大和久|2008|p=144}}。焼戻しを行わない場合は、できるだけ残留オーステナイトを少なくして、かつ研削による昇温を小さくする{{Sfn|山方|2010|pp=198}}。

===ひずみ===
割れと同様にマルテンサイト変態や冷却の不均一などを原因として、焼入れ完了後に加工品の寸法変化や形状変化が発生する{{Sfn|山方|2010|pp=186}}。このような寸法変化・形状変化を'''焼入変形'''{{Sfn|JIS G 0201|2000|p=14}}、'''焼ひずみ'''{{Sfn|大和久|2008|p=248}}、'''焼入れひずみ'''{{Sfn|藤木|2013|p=130}}などと呼ぶ。形状を[[図形の相似|相似]]に保ったまま[[寸法]]が変化することを'''変寸'''、
曲がり変形やねじり変形のような形状の変化を'''変形'''と呼び分ける{{Sfn|大和久|2006|p=69}}。特に、加工品が変形して反ってしまうことを'''焼曲り'''{{Sfn|山方|2010|pp=189}}と呼ぶ{{Efn2|[[日本刀]]の特徴である刀身の反りは、この焼曲りによるものである{{Sfn|大和久|2008|p=249}}}}。

====変寸====
変寸の原因は、焼入れによる組織変化によるもので、マルテンサイト変態による膨張、残留オーステナイト変態による収縮の合算の結果による{{Sfn|大和久|2006|p=69}}。変寸はマルテンサイトの発生量に影響されるが、焼入れがマルテンサイト変態を利用して加工品を硬化させる方法である以上、変寸を避けることはできない{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=65}}。炭素量が多くなるほど膨張量は大きくなる。例として、炭素鋼の焼入れ焼戻しによる、それぞれの組織変化に従って発生する体積変化率を以下に示す。

{| class="wikitable" style="text-align:center"
|+ 炭素鋼の焼入れ焼戻しによる体積変化の例{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=64}}
! 組織変化 !! 体積変化率(%)
|-
| フェライト + セメンタイト → マルテンサイト || 1.69 x C(%)
|-
| フェライト + セメンタイト → オーステナイト || -4.64 + 2.21 x C(%)
|-
| オーステナイト → マルテンサイト || 4.75 - 0.53 x C(%)
|-
| オーステナイト → ベイナイト || 4.75 - 1.47 x C(%)
|}

====変形====
曲がりなどの変形を起こす原因は、焼割れと同様、焼入れ応力が主原因である{{Sfn|藤木|2013|p=130}}。'''時効変形'''、'''置狂い'''などと呼ばれる、置割れと同じく残留オーステナイトを原因とした経年経過による変形もある{{Sfn|大和久|2006|p=87}}。

変形を防止するための対策も焼割れ、置割れの場合とほぼ同じだが、他には、
*[[機械加工]]などで塑性変形して残留ひずみが発生している場合、これに焼入れひずみが加わり、変形が大きくなる{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=178}}。このため焼入れ前に[[焼なまし|応力除去焼なまし]]を行う{{Sfn|山方|2010|pp=194}}。
*加熱炉内で加工品が自重によって変形しないよう、加工品の支え方を工夫する{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=178}}。
*組織の[[結晶粒]]が大きいと変形も大きくなる傾向がある{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=179}}。そのため結晶粒が粗大化している鍛造品などに対しては、焼入れ実施前に結晶粒を微細化する[[焼ならし]]を行うことで焼入れ後の変形を少なくできる{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=179}}。
などの対策が挙げられる。

変形が発生してしまった場合は、プレスなどで荷重をかけるなどして変形矯正する方法があり、'''ひずみ取り'''と呼ばれる{{Sfn|大和久|2008|p=142}}。特に、焼曲りを矯正することを、'''曲がり取り'''、'''曲がり直し'''などと呼ぶ{{Sfn|藤木|2013|p=150}}。常温でプレスしても矯正できるが、使用中の温度上昇によって再び曲がりが発生したり、残留応力が発生して置狂いの原因になったりするので、ある程度加熱して温間矯正が望ましいとされる{{Sfn|大和久|2008|p=142}}{{Sfn|藤木|2013|p=150}}。あるいは、焼が入らない程度まで局所加熱を行い、変形と逆向きに熱ひずみを与えて矯正する方法もある{{Sfn|大和久|2008|p=143}}。

===焼むら・硬さ不足===
焼入れ後の加工品で、部分的に柔らかく硬さが不均一な場合がある{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=179}}。このような不具合を'''焼むら'''、あるいは'''軟点'''と呼ぶ{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=179}}{{Sfn|JIS G 0201|2000|p=14}}。部分的に焼きが十分入らなかったことが原因で、加熱不均一、冷却不均一、スケールの付着、脱炭層の存在などが部分的な不完全焼入れの原因である{{Sfn|山方|2010|pp=189}}{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=179}}。

焼むらに対して、全体的に所定の硬さが得られないことを'''硬さ不足'''と呼ぶ{{Sfn|山方|2010|pp=189}}。原因は焼むらとほぼ同じである{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=179}}。その他の原因としては、そもそもの材質の焼入れ性が冷却方法に対して十分でなく焼きが入らないことが挙げられる{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=179}}。

==適用==
===鋼種===
炭素を含む[[鉄]]は、炭素含有量により、0.02%以下のものが鉄（純鉄）、0.02 - 2%のものが[[鋼]]、2%以上のものが[[鋳鉄]]と分類される{{Sfn|山方|2010|pp=22&ndash;23}}。焼入れは、一部鋳鉄に対しても行われるが、主に鋼に対して行われる。鋼は、炭素を主として含む[[炭素鋼]]と、性質改善のため炭素以外の元素も特別に加えられた[[合金鋼]]に分けられる{{Sfn|山方|2010|p=30}}。

炭素鋼のうち、炭素含有量が0.25%以下を低炭素鋼、0.25 - 0.6%を中炭素鋼、0.6%以上を高炭素鋼などと呼ぶ{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=9}}。焼入れの対象となるのは0.3%以上の中炭素鋼からで、低炭素鋼を焼入れする場合は浸炭焼入れの適用となる{{Sfn|平川ほか|2004|p=111}}。

また、一般に炭素鋼は、炭素含有量0.6%以下のものを構造用鋼として、0.6%以上のものを[[工具鋼]]として使用される{{Sfn|山方|2010|p=30}}。日本では、構造用鋼は一般構造用と機械構造用に分けられ、[[日本工業規格]](JIS)の[[一般構造用圧延鋼材]]と機械構造用炭素鋼鋼材がそれぞれに対応する{{Sfn|山方|2010|p=30}}。一般構造用圧延鋼材は特に熱処理せずにそのまま使用されることを前提としており、機械構造用炭素鋼鋼材は焼入れを含めた熱処理をされることを前提としている{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=9}}。

工具用鋼は、炭素含有量0.6 -1.5%の[[炭素工具鋼]]、炭素工具鋼に合金元素を加えた[[合金工具鋼]]、タングステンなどさらに多くの合金元素を加えた[[高速度鋼]]の大きく3つに分類される{{Sfn|山方|2010|pp=34&ndash;35}}。工具鋼の場合は、高い硬さを利用するために、焼戻しする場合も組織はマルテンサイトのままにして利用される{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=34}}。また、変形や割れなどを避けるため、組織の炭化物が球状化した状態で焼入れする必要がある{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=204}}。そのため焼入れ前には球状化焼なましが行われる{{Sfn|日本熱処理技術協会（編）|2013|p=204}}。

合金鋼は、合金元素の総量が5%以下のものを低合金鋼、5 - 10%のものを中合金鋼、10%以上のものを高合金鋼と呼ぶ{{Sfn|日本機械学会（編）|2007|p=394}}。また、用途別に見ると、構造用合金鋼、合金工具鋼、特殊用途用合金鋼に大別される{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=9}}。焼きを深くまで入れたいときなどに焼入れ性の良い合金鋼が使用される{{Sfn|山方|2010|pp=32}}。

前述の通り、A<sub>3</sub>線あるいはA<sub>1</sub>線から30 - 50℃高い温度を焼入れ温度とするのが普通だが、高合金鋼使用の場合はさらに高く焼入れ温度を設定する{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=35}}。これは、クロムやモリブデン、タングステン、バナジウムといった合金元素を十分にオーステナイトに固溶させるためで、このような高合金化したオーステナイトの焼入れ焼戻しにより、耐熱性の高く硬い組織が得られる{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=35}}。高速度鋼などでは鋼の溶融温度に近いような1200 - 1300℃を焼入れ温度にする{{Sfn|藤木|2013|p=35}}。

鋳鉄は、熱処理せずにそのまま使用するか、応力除去焼なましをして使用する場合が多い<ref name="鋳鉄の熱処理（第2回）">{{Cite web|和書|url=http://www.j-imono.com/column/daredemo/48.html |title=鋳鉄の熱処理（第2回） |work=誰でも分かる鋳物基礎講座 |accessdate=2014-08-24|author=鈴木克美 |publisher= 日本鋳造工学会関東支部}}</ref>。ただし、[[球状黒鉛鋳鉄]]のFCD450にオーステンパ処理したものは良好な機械的性質が得られる{{Sfn|大和久|2008|p=29}}。オーステンパ処理した球状黒鉛鋳鉄をオーステンパ球状黒鉛鋳鉄と呼び、JISでも規定されている<ref>{{cite book ja-jp |editor=日本工業標準調査会 |title=JIS G 5503 オーステンパ球状黒鉛鋳鉄品 |year=1995}}</ref>。普通焼入れや表面焼入れなども限定された用途だが適用される<ref name="鋳鉄の熱処理（第8回）">{{Cite web|和書|url=http://www.j-imono.com/column/daredemo/54.html |title=鋳鉄の熱処理（第8回） |work=誰でも分かる鋳物基礎講座 |accessdate=2014-08-24|author=鈴木克美 |publisher= 日本鋳造工学会関東支部}}</ref>。また、鋼を[[鋳物]]とした[[鋳鋼]]では、内部応力の除去や組織の微細化などの前処理が必要だが、基本的には一般的な鋼材と同様に熱処理がされ、合金鋼鋳鋼などは調質して使用される{{Sfn|山方|2010|p=168}}<ref name="鋳鉄の熱処理（第2回）"/>。

===製品例===
[[摩耗|耐摩耗性]]が要求される[[軸受]]や[[工具]]、[[強度]]と[[靱性]]の両立が要求される機械構造用部品や搬送用部品などに焼入れが適用される{{Sfn|藤木|2013|p=64}}。実際の製品の例として、以下のような部品や製品で焼入れ処理が施されている{{Sfn|山方|2010|pp=12&ndash;13}}{{Sfn|山方|2010|pp=34&ndash;37}}。
*[[自動車]]の[[エンジン]]、[[パワーステアリング]]、[[トランスミッション]]の部品
*[[オートバイ]]のチェーンリング
*[[農業機械]]の刈刃、
*[[スパナ]]、[[ドライバー (工具)|ドライバー]]などの手工具
*[[エンドミル]]、[[ドリル (工具)|ドリル]]、[[バイト (工具)|バイト]]などの切削工具
*[[ねじ切りダイス]]や深絞り加工機のポンチなどの塑性加工工具

経済規模は、日本金属熱処理工業会の統計によると、2013年の焼入焼戻しの年間加工金額総計は約280億円で、2010年から2013年までの金額の推移をみると、約250億円から約280億円の間で推移している<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.netsushori.jp/toukei.htm#2 |title=統計 加工種別 焼入焼戻し |accessdate=2014-08-24 |publisher= 日本金属熱処理工業会}}</ref>。

==派生語==
* 焼入れした刃（は）を「焼き刃（やきば）」と呼ぶ<ref>{{Cite Kotobank |word=焼き刃・焼刃 |access-date=2014-08-09}}</ref>。この「焼き刃」から転じて「刃（やいば）」と呼ぶ<ref>{{Cite Kotobank |word=刃 |access-date=2014-08-09}}</ref>。
* [[俗語]]として、人に制裁を加える、[[日焼け]]をすることなどの意味で「焼きを入れる」と言う<ref>{{Cite web|和書|url=http://zokugo-dict.com/36ya/yakiwoireru.htm |title=『焼きを入れる（やきをいれる）』の意味 |work=日本語俗語辞書 |accessdate=2014-08-09 |publisher= ルックバイス}}</ref>。

== 歴史 ==
アジアでは、[[戦国時代 (中国)|中国の戦国時代]]中期から焼入れの技術が確認される<ref>渡邉義浩『春秋戦国』洋泉社、2018年、p. 97</ref>。

== 脚注 ==
=== 注釈 ===
{{Notelist2}}
=== 出典 ===
{{Reflist|20em}}

== 参考文献 ==
※文献内の複数個所に亘って参照したものを示す。
*{{Cite book ja-jp|editor=日本工業標準調査会|title=JIS B 6905 金属製品熱処理用語|year=1995|ref={{Sfnref|JIS B 6905|1995}}}}
*{{Cite book ja-jp|editor=日本工業標準調査会|title=JIS G 0201 鉄鋼用語（熱処理）|year=2000|ref={{Sfnref|JIS G 0201|2000}}}}
*{{Cite book ja-jp |editor=日本熱処理技術協会 |title=熱処理ガイドブック |publisher=大河出版 |year=2013 |edition=4版 |isbn=978-4-88661-811-5 |ref={{Sfnref|日本熱処理技術協会（編）|2013}}}}
*{{Cite book ja-jp|editor=日本機械学会|title=機械工学辞典|publisher=丸善|year=2007|edition=第2版|isbn=978-4-88898-083-8|ref={{Sfnref|日本機械学会（編）|2007}}}}
*{{Cite book ja-jp|author=大和久重雄|title=熱処理技術マニュアル|publisher=日本規格協会|year=2008|edition=増補改訂版|isbn=978-4-542-30391-1|ref={{Sfnref|大和久|2008}}}}
*{{Cite book ja-jp |author=大和久重雄 |title=熱処理のおはなし |publisher=日本規格協会 |year=2006 |edition=訂正版 |isbn=4-542-90108-4 |ref={{Sfnref|大和久|2006}}}}
* {{Cite book ja-jp |author=朝倉健二・橋本文雄 |title=機械工作法Ⅰ |edition=改訂版 |year=2002 |publisher=共立出版 |isbn=4-320-08105-6 |ref={{Sfnref|朝倉・橋本|2002}}}}
* {{Cite book ja-jp |author=不二越熱処理研究会 |title=新・知りたい熱処理 |edition=初版 |year=2001 |publisher=ジャパンマシニスト社 |isbn=4-88049-035-0 |ref={{Sfnref|不二越熱処理研究会|2001}}}}
*{{Cite book ja-jp |author=山方三郎 |title=図解入門 よくわかる最新熱処理技術の基本と仕組み |publisher=秀和システム |year=2010 |edition=第2版 |isbn=978-4-7980-2573-5 |ref={{Sfnref|山方|2010}}}}
*{{Cite book ja-jp|author=坂本卓|title=絵とき 熱処理の実務 ―作業の勘どころとトラブル対策―|publisher=日刊工業新聞社|year=2007|edition=初版|isbn=978-4-526-05946-9|ref={{Sfnref|坂本|2007}}}}
*{{Cite book ja-jp|author=坂本卓|title=絵とき「熱処理」基礎のきそ|publisher=日刊工業新聞社|year=2009|edition=初版|isbn=978-4526062629|ref={{Sfnref|坂本|2009}}}}
* {{Cite book ja-jp |author=藤木榮 |title=絵で見てわかる熱処理技術 |publisher=日刊工業新聞社 |year=2013 |edition=初版 |isbn=978-4-526-07170-6 |ref={{Sfnref|藤木|2013}} }}
* {{Cite book ja-jp |author=平川賢爾, 大谷泰夫, 遠藤正浩, 坂本東男 |title=機械材料学 |publisher=朝倉書店 |year=2004 |edition=第1版 |isbn=978-4-254-23702-3 |ref={{Sfnref|平川ほか|2004}} }}

== 関連項目 ==
* [[日本刀]]
* [[焼入れ性]]
* [[焼戻し]]
* [[焼なまし]]
* [[焼ならし]]
* [[超伝導磁石#クエンチ]] - 超電導状態が失われた際に起こる[[冷媒]]の急激な[[沸騰]]が焼入れ作業を連想させるため。

==外部リンク==
{{Wiktionary}}
* {{機械工学事典|id=08:1012827}}
* {{Kotobank}}

{{Good article}}
{{DEFAULTSORT:やきいれ}}
[[Category:熱処理]]
[[Category:鋼]]