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[[ファイル:Centrotherm_diffusion_furnace_at_LAAS_0493.jpg|サムネイル|373x373ピクセル|拡散および熱酸化に使用される炉([[:fr:Laboratoire d'analyse et d'architecture des systèmes|LAAS社製]]、フランス トゥールーズにある同社の技術施設で撮影)]] '''熱酸化'''(ねつさんか、Thermal_oxidation)は、[[:en:Microfabrication|微細加工]]において、[[ウェハー|ウェーハ]]の表面に[[酸化物]](通常は[[二酸化ケイ素]])の[[薄膜|薄膜層]]を形成する方法である。 熱酸化はさまざまな材料に適用されるが、シリコン基板(シリコンウェハーなど)またはシリコン下部構造の表面に[[非晶質]][[二酸化ケイ素]]の[[薄層]]を生成し、表面特性を変化させるプロセスが最も一般的である。シリコンの熱酸化処理は、半導体技術、例えば[[半導体]][[集積回路]]の製造に使用される。このプロセスは、1100℃を超える温度で[[拡散]]させた酸素とシリコンとの[[化学反応]]に基づいている。プロセス時間が非常に短いため、このプロセスは「急速熱酸化」(RTO)としても知られ、非常に薄い酸化シリコン層(< 2 nm)の製造に用いられる。 この技術では、酸化剤を高温でウェーハに拡散させ、反応させる。酸化物の成長速度は、{{仮リンク|Deal-Groveモデル|en|Deal-Grove model|}}で予測されることが多い<ref>{{cite journal|last1=Liu|first1=M.|last2=Peng|first2=J.|year=2016|title=Two-dimensional modeling of the self-limiting oxidation in silicon and tungsten nanowires|url=https://doi.org/10.1016/j.taml.2016.08.002|journal=Theoretical and Applied Mechanics Letters|volume=6|issue=5|pages=195–199|doi=10.1016/j.taml.2016.08.002}}</ref>。 同様のプロセスとして、シリコン基板上に高温で[[窒化ケイ素]]層を生成して[[窒化物半導体]]を製造する方法がある。 == 化学反応 == シリコンの熱酸化は室温でも起こるが、反応速度が技術的な応用に必要な速度をはるかに下回るため、通常は800~1200℃の温度で行われ、いわゆる高温酸化膜(High Temperature Oxide layer、HTO)が形成される。酸化剤には[[水蒸気]](通常[[:en:Ultra-high-purity steam for oxidation and annealing|UHP蒸気]])または分子状[[酸素]]を使用し、それぞれ湿式酸化または乾式酸化と呼ばれる。 反応は以下のいずれかである。 : <math>\rm Si + 2H_2O \rightarrow SiO_2 + 2H_{2\ (g)}</math>(湿式酸化) : <math>\rm Si + O_2 \rightarrow SiO_2 \,</math>(乾式酸化) また、酸化雰囲気には数%の[[塩酸]](HCl)が含まれていることがある。 この塩素によって、酸化物中に含まれる可能性のある金属イオンが除去される。 熱酸化膜は、基板から消費されるシリコンと、周囲から供給される酸素を取り込む。そのため、酸化膜はウェーハの内部で成長し、外部で成長する。単位厚さのシリコンが消費されるごとに、2.17単位厚さ<ref>{{Cite web |url=http://educypedia.karadimov.info/library/I-4-1-Oxidation.pdf |title=Professor Nathan Cheung, U.C. Berkeley. EE143 Lecture # 5. Thermal Oxidation of Si. • |access-date=2022/12/20 |publisher=[[カリフォルニア大学バークレー校]] |page=5}}</ref>の酸化物が発生する。シリコンの表面を酸化させると、酸化物の厚さの46%が元の表面より下に、54%が元の表面より上に存在することになる<ref>{{Cite web |url=http://educypedia.karadimov.info/library/I-4-1-Oxidation.pdf |title=Professor Nathan Cheung, U.C. Berkeley. EE143 Lecture # 5. Thermal Oxidation of Si. |access-date=2022/12/20 |publisher=[[カリフォルニア大学バークレー校]] |page=4}}</ref>。 === Deal-Groveモデル === {{main|{{仮リンク|Deal-Groveモデル|en|Deal-Grove model|}}}}よく使われるDeal-Groveモデルによると、常温で厚さ ''X<sub>o</sub>'', の酸化物を、一定の温度で、裸のシリコン表面に成長させるのに必要な時間τは : <math>\tau = \frac{X_o^2}{B} + \frac{X_o}{(\frac{B}{A})}</math> ここで、定数 A と B はそれぞれ反応と酸化膜の特性に関するものである。このモデルはさらに、シリコンナノワイヤやその他のナノ構造の製造や形態設計に用いられるような自己限定的な酸化過程を考慮するよう適用されている<ref name="slo">{{Cite journal|last=Liu|first=M.|year=2016|title=Two-dimensional modeling of the self-limiting oxidation in silicon and tungsten nanowires|journal=Theoretical and Applied Mechanics Letters|volume=6|issue=5|pages=195–199|DOI=10.1016/j.taml.2016.08.002|postscript=etal}}</ref>。 既に酸化物を含む[[ウェーハ]]を酸化性雰囲気に置く場合、この式に補正項 τ を追加して修正する必要がある。これは、現在の条件下で既存の酸化物を成長させるのに必要な時間で、この項は、上記の''t'' の式を用いて求めることができる。 ''X<sub>o</sub>'' の二次方程式を解くと、次のようになる。 : <math>X_o(t) = A/2 \cdot \left[ \sqrt{1+\frac{4B}{A^2}(t+\tau)} - 1 \right]</math> == 酸化技術 == 熱酸化のほとんどは[[工業炉]]で行われ、温度は800~1200℃である。 1つの炉で、特別に設計された石英ラック(「ボート」と呼ばれる)に入った多数のウェーハを同時に受け入れる。 歴史的には、ボートは各ウェーハを互いに間隔を空けて垂直に立て保持し、ボートを酸化室に横から入れ(この設計は「水平式」と呼ばれる)た。 しかし、最近の炉では、ウェーハを水平に、間隔を空けて積み重ねたボートを炉の底部から酸化室に装填するものが多い。 縦型炉は横型炉より背が高いため、一部の微細加工設備には収まらない場合があるが、ほこりの混入を防ぐのには有利である。落下する粉塵がウェーハを汚染する可能性がある横型炉とは異なり、縦型炉は空気ろ過システムを備えた密閉型キャビネットを使用して、粉塵がウェーハに到達するのを防ぐことができる。 また、縦型炉は、横型炉の問題点であった、成長した酸化物のウェーハ上での不均一性を解消することができる。水平炉は通常、酸化室内に対流があり、管の下部が管の上部よりわずかに低温になっている。ウェーハが酸化室内で垂直になると、対流とそれに伴う温度勾配により、ウェーハの上部は下部よりも酸化膜が厚くなる。縦型炉では、ウェーハを水平に置き、炉内のガス流を上から下へ流すことで、熱対流を大幅に抑制し、この問題を解決している。 また、縦型炉では、[https://semi-net.com/word/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF%E5%AE%A4%E3%80%80%E7%9C%9F%E7%A9%BA%E4%BA%88%E5%82%99%E5%AE%A4 真空予備室]により、酸化前にウェーハを窒素でパージし、Si表面での自然酸化物の成長を抑制することができる。 == 酸化膜の品質 == 湿式酸化は、成長速度が速いため、厚い酸化物を成長させるには乾式酸化よりも有利である。しかし、酸化が速いとシリコン界面に[[ダングリングボンド]]が多く残り、これが電子の[[量子状態]]を作り出し、界面に沿って電流が漏れてしまう(「デバイス界面の汚染」と呼ばれる)<ref>{{Cite thesis|和書|author=木下圭 |url=https://doi.org/10.15002/00011060 |title=枚葉回転湿式技術による半導体表面処理に関する研究 |volume=法政大学 |series=博士(工学) 乙第216号 |year=2015 |doi=10.15002/00011060 |id={{naid|500000935159}}}}<br />{{Cite journal|和書|author=木下圭 |year=2015 |url=https://hdl.handle.net/10114/10779 |title=枚葉回転湿式技術による半導体表面処理に関する研究 |journal=法政大学大学院紀要. 理工学・工学研究科編 |ISSN=2187-9923 |publisher=法政大学大学院理工学・工学研究科 |volume=56 |pages=1-9 |hdl=10114/10779 |naid=120005616117}}</ref>。また、湿式酸化では、酸化物の密度が低くなり、[[絶縁耐力]]が低下する。 乾式酸化では、厚い酸化物を成長させるのに長い時間が必要なため、実用的ではない。 厚い酸化膜を成長させるには、通常、長い湿式酸化と短い乾式酸化を繰り返す(乾湿乾のサイクル)。 乾式酸化の最初と最後には、それぞれ酸化膜の外側と内側に高品質の酸化膜が形成される。 移動性の[[金属イオン]]は[[MOSFET]]の性能を低下させる可能性がある(特に[[ナトリウム]]が懸念される)。 しかし、[[塩素]]は[[塩化ナトリウム]]を生成してナトリウムを固定化することができる。 塩素の導入は、酸化媒体に[[塩化水素]]や[[トリクロロエチレン]]を添加することで行われることが多い。 また、塩素が存在すると酸化速度が速くなる。 == その他の注意事項 == 熱酸化は、ウェーハの特定の領域にだけ行い、他の領域はブロックすることができる。 フィリップス社で開発されたこのプロセスは、一般に[[LOCOS]] (Local Oxidation of Silicon) プロセスと呼ばれている<ref>{{Cite journal |author=APPELS J. A. |year=1970 |title=Local oxidation of silicon and its application in semiconductor device technology |journal=Philips Research Reports |volume=25 |issue=2 |pages=118-132 |id={{CRID|1572261549368729472}}}}</ref>。 酸化させない部分は[[窒化ケイ素|窒化シリコン]]の膜で覆われ、酸化速度が遅いため、酸素や水蒸気の拡散が遮断される<ref>{{Cite journal |author=Kuiper, AET; Willemsen, MFC; Bax, JMG; Habraken, FHPH |year=1988 |title=Oxidation behaviour of LPCVD silicon oxynitride films |journal=Applied Surface Science |volume=33 |pages=757-764 |publisher=Elsevier |url=https://doi.org/10.1016/0169-4332(88)90377-7 |doi=10.1016/0169-4332(88)90377-7}} </ref>。 この工程では、酸化剤分子が窒化物マスクの下で横方向(表面に平行)に拡散し、酸化物がマスク部分に浸入するため、シャープな形状を得ることができない。 シリコンと酸化物では[[溶媒和|不純物の溶解度]]が異なるため、成長中の酸化物は[[ドーパント]]を選択的に取り込んだり、拒絶したりする。 この再分配は、酸化物がドーパントをどれだけ強く吸収または拒絶するかを決定する[[偏析|偏析係数]]と、[[拡散|拡散率]]によって支配される。 シリコンの結晶の向きは酸化に影響する。 [[ミラー指数]]<100>のウェーハは、ミラー指数<111>のウェーハより酸化が遅いが、電気的にきれいな酸化界面を形成する<ref>[https://toolbox.nanofab.ualberta.ca/sithox/index.php Silicon thermal oxidation calculator - nanoFAB sithox]</ref>。 熱酸化は、低温酸化膜を形成する[[化学気相成長|化学気相成長法]]([[オルトケイ酸テトラエチル|TEOS]]の600℃程度の反応)よりも、高品質できれいな界面を持つ酸化膜を形成することができるため、様々な用途で利用されている。 しかし、高温酸化物(HTO)の製造には高い温度が必要であるため、その用途は限定される。 例えば、MOSFETの場合、[[電界効果トランジスタ#端子|ソース・ドレイン端子]]へのドーピング後に熱酸化を行うことは、ドーパントの配置を乱すことになるため、絶対に行われない。 == 脚注 == {{Reflist}} == 参考文献 == * {{Cite book|和書 |title=半導体デバイスの基礎 |year=1986 |publisher=マグロウヒルブック |author=[[アンドリュー・グローブ]] |translator=[[垂井康夫]] 監訳、[[杉淵清]]、[[杉山尚志]]、[[吉川武夫]] |url=https://dl.ndl.go.jp/pid/12599224/1/4 |doi=10.11501/12599224}} * {{Cite web|和書|url=http://www.phys.shimane-u.ac.jp/kageshima_lab/saito/si-oxidation.html |title=シリコン酸化の機構解明 |access-date=2023-09-07 |publisher=島根大学 総合理工学部 物理・マテリアル工学科影島研究室}} * {{Cite book|last=Jaeger|first=Richard C.|title=Introduction to Microelectronic Fabrication|year=2001|publisher=[[Prentice Hall]]|location=Upper Saddle River|isbn=978-0-201-44494-0|chapter=Thermal Oxidation of Silicon}} *Stanley Wolf / Richard N. Tauber, "''Silicon Processing for the VLSI Era: Volume1 - Process Technology"''、Lattice Press、1986年、ISBN 9780961672133 *『シリコン集積素子技術の基礎』 R.M.バーガー著/R.P.ドノファン 編/菅野卓雄 監訳、地人書館、1970年 *{{Cite journal|author=影島 博之, 秋山 亨, 白石 賢二, 植松 真司|year=2022|title=シリコン原子はどこへ行く? まだまだ不思議な熱酸化|url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/oubutsu/91/3/91_155/_article/-char/ja|journal=応用物理|volume=91|issue=3|page=155-159|doi=10.11470/oubutsu.91.3_155}} == 外部リンク == * Online calculator including deal grove and massoud oxidation models, with pressure and doping effects at: [https://toolbox.nanofab.ualberta.ca/sithox/index.php Silicon thermal oxidation calculator - nanoFAB sithox] * {{Cite web|和書|url=http://www.phys.shimane-u.ac.jp/kageshima_lab/saito/papers.html |title=熱酸化、酸化膜に関する論文(査読有り) - 島根大学 総合理工学部 物理・マテリアル工学科影島研究室 |access-date=2023-09-24 |publisher=島根大学 総合理工学部 物理・マテリアル工学科 影島研究室}} {{半導体}} {{DEFAULTSORT:ねつさんか}} [[Category:ケイ素]] [[Category:材料]] [[Category:加工]] [[Category:半導体製造]] [[Category:半導体構造]]
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