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'''物理量'''(ぶつりりょう、{{lang-en-short|physical quantity}})とは、 *「[[物理学]]における一定の理論体系の下で[[量の次元|次元]]が確定し、定められた[[単位]]の[[倍数]]として表すことができる[[量]]」<ref>[[日本産業規格]]JIS Z 8103-2019 計測用語、p.12、番号230</ref>。日本の計量の根本を定めている[[計量法]]においては、「[[法定計量単位#物象の状態の量|物象の状態の量]]」の一部である。 物理量は、 [[工業量]](「複数の物理的性質に関係する量で、測定方法によって定義されている工業的に有用な量。[[硬さ]]、[[表面粗さ]]など」と定義される量)および[[心理量]](または[[心理物理量]])と対比される<ref name="JIS工大辞">日本規格協会『JIS工業用語大辞典(第5版)』(2001/03)、ISBN 978-4542201286</ref>ことがある。 *物理現象を述べるときに出てくる量<ref name="基礎物理学_共立">後藤憲一、小島彬、土井勝、小野広明 『基礎物理学(第2版)』 共立出版(2004/04)、ISBN 978-4320034297 「1.1 物理量と単位」</ref>。現象や物質の一つの[[測定]]できる[[属性]]<ref name="物理大辞_丸善_単位">『物理学大辞典 普及版』丸善(2005/03/31) ISBN=4-621-07586-1 "測定の単位"の項</ref>。 == 概説 == 一般に、自然科学分野の文書では、単に「'''[[量]]'''」という言葉を使う<ref name="SI8_JP">『国際単位系 第8版 日本語訳(PDFファイル)』[http://www.nmij.jp/chishiki/SI8J.pdf]</ref>。例えば自然科学分野の辞典の多くでは「物理量」や「物理単位」などという項目自体がなく、'''単位'''や'''単位系'''の項目の説明では単に「'''量'''」という言葉が使われている<ref name="理化辞岩波">長倉三郎、他(編)『岩波理化学辞典-第5版』岩波書店 (1998/02)</ref><ref name="物理辞培風-三訂">『物理学辞典-三訂版』培風館(2005/09)、ISBN 978-4563020941</ref><ref name="化学大辞-共立3">化学大辞典編集委員会(編)『化学大辞典-第3版』共立(2001/09,初版1960/09)</ref><ref name="科学辞_OXF">山崎昶(訳)『オックスフォード科学辞典』朝倉書店 (2009/07) ISBN 978-4-254-10212-3</ref>。あるいは、「物理量」という言葉を使っているものの、その定義が何なのか示していない文献<ref name="新物事大槻">[[大槻義彦]](編),[[大場一郎]](編)『新・物理学事典 (ブルーバックス)』講談社 (2009/06/19)、ISBN 978-4062576420 p386</ref><ref name="ISO31-0_2.1">「JIS Z8202(量及び単位-第0部) 参考1 2.1 物理量,単位及び数値」 日本規格協会『JISハンドブック 標準化<35> 1992』(1992/04/20)、ISBN 4-542-12667-6</ref>もある。本項目の以下の記載でも単に「量」と記載することがある。 <!--{{要出典}}物理量には[[電荷]]や[[エネルギー]]といった[[スカラー量]]、[[速度]]や[[力 (物理学)|]]といった[[ベクトル量]]、[[テンソル]][[量]]などがある。--><!-- また、加算に対するふるまいから'''示強性'''と'''示量性'''に分類される。(→[[状態量]])--> [[スカラー量]]と[[ベクトル量]]のような、様々な観点からの量の分類については「[[量]]」の項目を参照のこと。 <!--{{要出典}}例えば'''心理量'''や'''感覚量'''、'''感性量'''と呼ばれる量は、測定対象が同じでも受け取る人や生物により異なるので物理量とは言えない。また[[物価]]なども社会的に変化するものなので、物に固有ではなく物理量とは言えない。[[光度]]や[[音の大きさ]] (loudness) のような'''心理物理量'''と呼ばれる量は、感覚量と相関する量ではあるが測定対象が同じなら同じ値となるように定義されており、物理量に含めても差し支えはない{{要出典}}。--> [[SI組立単位]]におもな物理量の単位一覧が掲載されている。 物理量の数値的な演算を行うときには[[単位の換算]]が必要になる場合がある。 == 物象の状態の量 == {{main|法定計量単位#物象の状態の量}} 日本における[[計量]]の基本を定める[[計量法]]においては、物理量・[[工業量]]・[[感覚量]]を広義に捉えて、「'''物象の状態の量'''」と呼んでいる<ref>[https://www.keiryou-keisoku.co.jp/yomikata/ver.4-101022/yomikata-zenfile101022.pdf 計量法の読み方] p.6、高原隆、「物象の状態の量」は、世の中の「長さ」や「質量」などの数値でもって大きさを表す事象や現象等があり、こうした事象等を列挙し「物象の状態の量」と表している。</ref><ref>[https://www.keiryou-keisoku.co.jp/databank/kokusai/si/si.pdf 第1章 計量法の目的] 新計量法とSI化の進め方、p.1、「世の中には「長さ」、「質量」、「時間」など、数値でその大きさを表すことができる事象や現象があるが、計量法ではこうしたものを「物象の状態の量」と呼称している。」、通商産業省SI単位等普及推進委員会、1999年3月</ref>。 計量法では、対象とする「物象の状態の量」を、それらが取引又は証明、産業、学術、日常生活の分野での計量で重要な機能を期待されているという観点から規定しており<ref>[https://www.keiryou-keisoku.co.jp/databank/kokusai/si/si.pdf 第1章 計量法の目的] 新計量法とSI化の進め方、p.1、通商産業省SI単位等普及推進委員会、1999年3月</ref>、「物象の状態の量」として全部で89量を定めている([[計量法#法定計量単位]])。そして、「[[計量]]」とは、これら89の「物象の状態の量」を計ることと定義付けている<ref>[https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=404AC0000000051&keyword=%E8%A8%88%E9%87%8F%E6%B3%95 計量法] 第二条 「この法律において「計量」とは、次に掲げるもの(以下「物象の状態の量」という。)を計ることをいい、「計量単位」とは、計量の基準となるものをいう。」</ref>。 ==物理量の値、大きさ、数値== 物理量の大きさ(質量の大きさ、距離の大きさ、力の大きさ等)のことを単に物理量(質量、距離、力、等)ということも多い。特に等式や不等式の中の物理量記号は必ずその大きさも意味している。物理量の値(質量の値、距離の値、力の値、等)という言葉が物理量の大きさと同じ意味で、または、数値表現したという意味を強めたニュアンスで使われており、[[国際単位系]](SI)の用語では「量の値 (the value of a quantity)」が使われている<ref name="SI8_JP-1">『国際単位系 第8版 日本語訳(PDFファイル)』 1. 序章 [http://www.nmij.jp/chishiki/SI8J.pdf]</ref>。ただし「量の値」という言葉は「(量の値を表す)数値 (numerical value)」と混同しやすいことがあるので、以下の記載ではなるべく「量の大きさ」を使う。量の値とそれを表す数値とは異なる概念であり、両者の区別は重要である<ref name="ISO31-0_2.1"/><ref name=SI8_JP-1/>。前者は単位の選択により変化しないが、後者は単位に依存して変化する。 物理量の値を知るには[[測定]]方法を定めなくてはならない。また、測定方法を定めることにより物理量を定義することもできる。これを操作的な定義という。物理量の多くは[[測定器]]により測定されている。 物理量の大きさを数値として表すためには、ある大きさの量を[[単位]]として定める必要がある<ref name="kindai1">近畿大学工学部・基礎学力支援プログラム(2004/04/02-07)テキスト『物理Basic』(PDF)[http://buturi.hiro.kindai.ac.jp/basic/buturi2003/unit.pdf]</ref><ref name=SI8_JP-1/>。物理量の中からいくつかの種類を'''基本量'''と定め、各基本量について単位をひとつずつ定めれば(基本単位)、物理法則により基本量と定量的関係にある量は基本単位の組み合わせにより数値表現ができる。基本単位の組み合わせによる単位を組立単位とよび、組立単位が表す量を'''組立量'''とよぶ。 [[国際単位系]](SI)では、[[時間]]、[[長さ]]、[[質量]]、[[電流]]、[[熱力学温度]]、[[物質量]]、[[光度 (光学)|光度]]の7つを基本量と定めていて、自然界で知られている限りの量はこれら7つの基本量のいずれかの組立量である。日本国内での[[計量法]]や[[JIS]]による規格もSIに準拠している。 ==比較== 「物理量が大きさを持つ」ということは、それの比較ができることを意味する。すなわち同一種類に属する2つの物理的対象 {{math|a}} と {{math|b}} において、{{math|a}} が持つ物理量 {{mvar|A}} の大きさと {{math|b}} が持つ物理量 {{mvar|B}} の大きさとを適切な物理的操作により比較して、大小関係を知ることができる場合がある。このとき、物理量 {{mvar|A}} と物理量 {{mvar|B}} は「同じ種類の物理量である」という。例えば2本の[[棒]]の長さは両者を並べることで比較でき、2つの[[分銅]]の質量は[[天秤]]により比較できる。このときの物理量同士を比較する物理的操作を、測定、計量、計測、などとも呼ぶ。ただしこれらの用語は、単に大小比較のみならず、量の大きさを数値として決定する操作を指す場合が多い。 「同じ<u>種類</u>の物理量である」ことを「同じ物理量である」ということもあるが、後者の表現は2つの物理量の大きさが等しいことを指す場合もあり、紛らわしい<!--多義性がある-->。「等しい物理量である」と言えば、<u>大きさ</u>が等しいことを明確に指している。同様に「異なる物理量である」といえば、<u>種類</u>が異なる場合と、同じ種類で<u>大きさ</u>が異なる場合とがある。 適切な方法を使えば、異なる種類に属する2つの物理的対象が持つ物理量を比較できる場合もある。例えば全ての物質は、その種類にかかわらず質量の大きさが比較できる。また例えば、紐の長さ、樹木の直径、2地点間の距離、山の[[高さ]]、光の[[波長]]などは互いに比較できる<ref name="ISO31-0_2.1"/>。このように比較できる「異なる種類の物理量」をひとつのグループにまとめて、このグループに属するすべての物理量を「同じ種類の物理量」と考える場合も多い。特に基礎科学分野では、より普遍的現象を扱うことが多いために、同じ種類の物理量の範囲をより広く取る傾向が強い。 ==単位とその表記== ある物理量 {{math|''Q''}} の大きさを数値として求めて表したいときは、一定の大きさの量 {{math|''Q''<sub>1</sub>}} を基準として定め、{{math|''Q''}} が {{math|''Q''<sub>1</sub>}} の何倍であるかという数値 {{math|''q''<sub>1</sub>}} を何らかの物理的操作により求める。このときの基準とした量 {{math|''Q''<sub>1</sub>}} のことを'''[[単位]]'''とよび、特に物理量の単位を[[物理単位]]とよぶことがある。単位としてどのような量を選ぶかは社会的約束だが、物理単位とその表記法に関しては[[国際単位系]](SI)が定められていて、SIに準拠した規則が[[国際標準化機構]](ISO)で定められている。日本国内では[[計量法]]や[[日本工業規格]](JIS)による定めがあり、これらもSIに準拠している。SIでは定められた単位について単位記号をそれぞれ定めており、量の値(量の大きさ)は数値と単位記号の積として表すと定めている<ref name="SI8_JP-5">『国際単位系 第8版 日本語訳(PDFファイル)』 5. 単位の記号と名称の表記法,及び量の値の表現方法 [http://www.nmij.jp/chishiki/SI8J.pdf]</ref>。すなわち、数値 {{mvar|q}} と単位記号 {{mvar|u}} を使い次の[[#eq-1|式-1]]のように表す。以下、この方式をSI方式と呼ぶことにする。 *{{anchors|eq-1}}式-1(SI方式): <math> Q = q \ u </math> ** 例([[圧力]]と[[パスカル (単位)|Pa]]): <math> P = 1 \, \mathrm{Pa} </math> ここで {{mvar|Q}} は量記号であり、SIでは量の種類により推奨される記号が定められている。SI方式の量方程式において、量記号・数値・単位記号はすべて通常の数学の演算規則に従う。このように数式の各項が、すなわちひとつの文字記号(複数のアルファベットから成ることもある)がひとつの量を表すような等式や不等式を'''量方程式'''とよぶ<ref name="ISO31-0 2.2">「JIS Z8202(量及び単位-第0部) 参考1 2.2 量と方程式」 日本規格協会『JISハンドブック 標準化<35> 1992』(1992/04/20)、ISBN 4-542-12667-6</ref>。 数値および単位の定義に従って、[[#eq-1|式-1]]はいつでも[[#eq-2|式-2]]に変形できる。 *{{anchors|eq-2}}式-2(SI方式): <math> Q / u = q </math> ** 例([[圧力]]と[[パスカル (単位)|Pa]]): <math> P / \mathrm{Pa} = 1 </math> SIの定めでは、例えば表の項目名には[[#eq-2|式-2]]の {{math|''Q''/''u''}} という表記を使い、項目には数値のみを表記するという方法が使われる。同様にグラフの軸には数値のみを付記し、軸名には式-2に従い、例えば「圧力/Pa」などと表記する。 ===日本の初中等学校の教科書などの表記=== 日本の初中等学校の教科書では、次のように、[[#eq-3.1|式-3.1]]や[[#eq-3.2|式-3.2]]の括弧方式が広く使われ、[[#eq-3.3|式-3.3]]の上付添字方式も一部で使われている<ref name="中川1">中川邦明、初等中等教育における量と単位について「常盤大学研究紀要」22号,85(2002/01)[http://member.tokoha-u.ac.jp/~kuninaka/quanunit/023TGURR.pdf]</ref>。 *{{anchors|eq-3.1}} 式-3.1(角括弧表記): <math>q\ [u] </math> ** 例: <math>400 \ \mathrm{[nm]},\ 20 \ \mathrm{[kg]} </math> *{{anchors|eq-3.2}} 式-3.2(丸括弧表記): <math>q\ (u) </math> ** 例: <math>400 \ \mathrm{(nm)},\ 20 \ \mathrm{(kg)} </math> *{{anchors|eq-3.3}} 式-3.3(上付き文字表記): <math>q^u </math> ** 例: <math>400^\mathrm{nm},\ 20^\mathrm{kg} </math> [[#eq-3.1|式-3.1]]や[[#eq-3.2|式-3.2]]の表記は一見、括弧の有無以外に[[#eq-1|式-1]]のSI方式との実質的違いがないように見える。ただし、表の項目名にも[[#eq-2|式-2]]に相当する「{{math|''Q''/[''u'']}}」ではなく「{{math|''Q'' [''u'']}}」(例えば「圧力 [Pa]」など)がそのまま使われる場合も多くSI方式とは異なっている。 またSI方式では式の計算の途中で単位記号を省くことは許されないが、日本の初中等学校の教科書では式の計算の途中で一部または全部の単位記号を省略する表記も多く、統一的ルールは存在しない。このような一貫性を欠く表記が、量の概念の理解の妨げや、計算ミスの原因になっているとの指摘がある<ref name="中川1"/><ref name="中川2">中川邦明、初等中等教育における量と単位についてⅡ「常盤大学研究紀要」23号,p191(2003/01)[http://member.tokoha-u.ac.jp/~kuninaka/quanunit/023TGURR.pdf]</ref><ref name="森川">森川鉄朗、西山保子 「上越教育大学研究紀要(ISSN 0915-8162)」第17巻第1号 p.365-375(1997)科学教育における量の計算法について[https://cir.nii.ac.jp/crid/1050282813751072640]</ref>。 ==量方程式と数値方程式== 各項がひとつの量を表すような等式や不等式を'''量方程式'''とよぶ。それに対して、各項がひとつの数値を表すような等式や不等式を'''数値方程式'''とよぶ。距離 {{mvar|l}}, 速度 {{mvar|v}}, 時間 {{mvar|t}} の関係を例に、量方程式として式-4.1、式-4.2を、数値方程式として式-5.1、式-5.2を以下に示す<ref name="ISO31-0 2.2"/>。 *{{anchors|eq-4.1}} 式-4.1(量方程式) <math>v = l/t</math> *{{anchors|eq-4.2}} 式-4.2(量方程式) <math>l = v \cdot t</math> *{{anchors|eq-5.1}} 式-5.1(数値方程式) <math>\left\{\mathit{v1}\right\}_{\mathrm{km/h}} = 3.6\left\{\mathit{l1}\right\}_\mathrm{m} /\left\{\mathit{t1}\right\}_\mathrm{s}</math> *{{anchors|eq-5.2}} 式-5.2(数値方程式) <math>\left\{\mathit{l1}\right\}_{\mathrm{km}} = 3.6\left\{\mathit{v1}\right\}_{\mathrm{m/s}} \cdot\left\{\mathit{t1}\right\}_\mathrm{h}</math> [[#eq-5.1|式-5.1]]の表記では、例えば <math>\left\{\mathit{t1}\right\}_\mathrm{s}</math> がひとつの数値に対応するひとつの項を示し、具体的計算では各項にそれぞれ数値が代入される。例えば、1 m/s の速度で 1 h 進んだ場合の距離を km で表す数値を求める場合は、[[#eq-5.2|式-5.2]]の右辺に数値を代入して次のようになる。 :<math>\begin{align} \left\{\mathit{l1}\right\}_{\mathrm{km}} &= 3.6\left\{\mathit{v1}\right\}_{\mathrm{m/s}} \cdot\left\{\mathit{t1}\right\}_\mathrm{h} \\ &= 3.6\times 1\times 1 \\ &= 3.6 \end{align}</math> [[#eq-4.2|式-4.2]]の表記で同じ計算をするときは、各項にそれぞれ量を、つまり数値と単位の積を代入する。そして通常の演算規則に従って変形すれば、次の結果が得られる。 :<math>\begin{align}l&= v\cdot t \\ &= \mathrm{(1\ m/s)\cdot(1\ h)} \\ &= \mathrm{(1\cdot1)\cdot(m/s)(h)} \\ &= \mathrm{1\cdot(km/1000)(1/s)(3600\ s)} \\ &= \mathrm{1\cdot(3600/1000)(km)} \\ &= \mathrm{3.6\ km} \end{align}</math> ここで次の注意が必要である。 *例えば「<math>\left\{\mathit{t1}\right\}</math>」は独立した記号ではなく、単位情報を示す添字「<sub>s</sub>」がないと意味をなさない。ゆえに、「<sub>s</sub>」のような単位表示を省略してはならない<ref name="ISO31-0 2.2"/>。また式-5.2の「<math>\left\{\mathit{t1}\right\}</math>」だけに具体的数値を代入するのは誤りである。 *「<sub>s</sub>」など添字で示される単位記号は数値の意味を示すための付属情報を示すものであり、単位量そのものを示す変数記号ではない。 *式-3のような表記と式-5.1、式-5.2のような数値方程式の各項の表記とは、見かけは似ていても意味は全く異なるので、混同してはならない。 数値方程式は単位の選択により変化するが、量方程式は単位に依存しないので、通常は量方程式の使用が望ましい<ref name="ISO31-0 2.2"/>。言い換えれば、いくつかの量の間の関係を表すときに、量方程式ならひとつの式で十分だが、数値方程式は単位の組み合わせごとに別の式が必要である。数値方程式が使われる例には、個別的な実験式に表現する場合、計算プログラムや表計算シートの中の式、などがある<ref name="中川1"/>。 ==物理量同士の演算== ===加法、和と差=== ある条件や操作の下で、同じ種類の量の間に加法性が成り立つことがある。このときこれらの量の間に加法が定義できる。もちろん負の値を取らない量の場合は、小さな量からの大きな量の引算は意味をなさない。例えば次のような例がある。 *質量 {{math|''a''}} の物体Aと質量 {{math|''b''}} の物体Bとが合体した物体A∪Bの質量は {{math|(''a'' + ''b'')}} となる。 *電荷 {{math|''a''}} の物体Aと電荷 {{math|''b''}} の物体Bとが合体した物体A∪Bの電荷は {{math|(''a'' + ''b'')}} となる。 *体積 {{math|''a''}} の液体Aと体積 {{math|''b''}} の液体Bとを混合した液体A∪Bの体積は {{math|(''a'' + ''b'')}} となる。ただし液体Aと液体Bが異なる物質のときは、一般には近似的な加法性しか成り立たない。 *長さ {{math|''a''}} の棒Aと長さ {{math|''b''}} の棒Bとを'''一直線に結合した'''棒A∪Bの長さは {{math|(''a'' + ''b'')}} となる。 *静止系から見て速度 {{math|'''''a'''''}} の質点Aがある。質点Aから見て速度 {{math|'''''b'''''}} の質点Bの静止系から見た速度 {{math|'''''v'''''}} は {{math|('''''a''''' + '''''b''''')}} となる。ただしこの加法性は、[[ニュートン力学]]では成り立つが[[特殊相対性理論]]では成り立たない。ここで速度はベクトル量であることに注意。 *温度 {{math|''T''}} と体積 {{math|''V''}} の下で圧力 {{math|''a''}} である気体Aと圧力 {{math|''b''}} である気体Bとを一緒にして体積 {{math|''V''}} の容器に入れ温度 {{math|''T''}} に保つと、その圧力は {{math|(''a'' + ''b'')}} となる。ただしこの加法性は両気体が[[理想気体]]の場合にのみ正確に成り立つもので、実在の気体では近似的にのみ成り立つ。 また、厳密に言えば異なる量の間に加法が成り立つこともある。例えば次のような例がある。 *時刻 {{math|''T''}} から時間 {{math|''t''}} だけ経過した時刻は {{math|(''T'' + ''t'')}} である。 *高度 {{math|''H''}} の位置より距離 {{math|''L''}} だけ低い位置の高度は {{math|(''H'' − ''L'')}} である。 ===乗法、積と商=== 2つの量(同種類でも異種類でもよい)の積や商を別の種類の量として定義することができる。ただし、その定義された量が物理的に大きな意味を持つとは限らない。その定義された量が別の種類の量と比例関係にあったり、[[保存量]]であったりした場合は、物理的に意味を持つ。 ===指数と対数=== 物理法則が指数関数や対数関数を含む場合、その引数が無次元量となるように式を変形できる。したがって、同じ[[量の次元|次元]]の量同士の比の対数や指数関数をひとつの物理量として定義して使うことが多く、無次元ではない物理量の値の対数や指数関数を使うことは少ない。特に、同じ種類の量同士の比の対数として定義され広く使われている物理量がある。例えば、[[音圧レベル]]、[[水素イオン指数]](pH)、[[吸光度]]、天体の明るさの[[等級 (天文)|等級]]、[[ローカル・マグニチュード|リヒターマグニチュード]]である。比の対数の単位として[[ネーパ]](Np)、[[デシベル|ベル]](B)、[[デシベル]](dB)の使用が[[国際度量衡委員会]](CIPM)で認められているが、これらはSI単位とは考えられていない<ref name="SI8_JP_noSI">『国際単位系 第8版 日本語訳(PDFファイル)』 4 4. SIに属さない単位 [http://www.nmij.jp/chishiki/SI8J.pdf]</ref>。 <!--(他の節と重なるのでコメントアウト) ===計算方法の例=== 以下の説明は、ISO31-0[http://en.wikipedia.org/wiki/ISO_31-0],JIS+Z+8202及び機械工学便覧準拠する。([[単位の換算]]も参照のこと) 物理量Q(物理量の値)は、単位[Q]と数値{Q}の積 Q={Q}[Q] (1-1) の形で表すことが可能である。数値{Q}は通常はただの実数だが、場合によっては実数[[空間ベクトル|ベクトル]]、実[[テンソル]]の場合もある。単位[Q]のことを、「物理量Qの単位」と数値{Q}のことを「物理量Qの数値」という。 例えば、 #P=10 m #Q=5 s であるとき、 #{P}=10, [P]=m #{Q}=5 , [Q]=s である。 物理量Qの数値{Q}は、単位[Q]について表現されたものである。このことを強調するべき時には、 <math>Q = \{ Q \}_{[Q]} [Q]</math> (1-1') のように書くことができる。例えば、波長<math>\lambda</math>を単位nmについて表現したときの値が、705であったときには、下記1のように書くことができる。しかし、単位系の公理自体を論じるとき以外には、2-4の表記が好まれる。 #<math>\{ \lambda \}_{[ \mathrm{nm} ]} =705</math> #<math>\lambda\ (\mathrm{nm}) =705</math> #<math>\lambda =705\ \mathrm{nm}</math> #<math>\lambda / \mathrm{nm} =705</math> 特別な物理量として無次元量といわれるものがある。無次元量の扱いは、通常は(1-1)式のような表記をしないが、正式な表記法は、一貫性の観点から大変紛らわしい書き方であり、複雑な単位の換算を行う上で場合によっては重大な誤解を生じさせる場合がある。そのため、いくつかの権威ある文献でも説明上の便宜として、(1-1)式のような表記を導入している場合もあり、本記事でもそのようにする。本記事では、必要に応じ無次元量をUで表し、これも、他の物理量と同様に U={U}[U] (1-2) という形で表記する。当然、無次元量Uの数値{U}は、実数1とは限らない。 先述のように、無次元量Uの単位[U]は表記しないルールとなっている。つまり、正式なルールでは(1-2)式は U={U} (1-2') と書かねばならない。 物理量P,Qの数値が実数であるとき、これらの積、商もまた、物理量である。これらの積PQと商P/Qの定義は、以下のように行われる。 *PQ={PQ}[PQ] (1-3) *P/Q={P/Q}[P/Q] 但し、{Q}≠0 (1-4) ここで、物理量PQの値{PQ}は、 *{PQ}={P}{Q} で定義される実数のことで、物理量P/Qの値{P/Q}は *{P/Q}={P}/{Q} で定義される実数のことである。また、単位同士の積、商は、固有の名称をもつ単位が、規則として定められていない限り、最終的に[PQ]、[P/Q]のような形式的な表記でとどめる。言い換えれば、単位[P]と単位[Q]から新たな単位[PQ]や[P/Q]が生成されたのである。無論、複数の物理量同士の積、商を考える場合には、代数学における結合、簡約、場合によっては交換と同様の操作を可能な限り行い、既約の形にするものとする。 例えば、 *P=10 m *Q=5 s であるとき、 *{P/Q}= 10/5=2 *[P/Q]= m/s である。 物理量Pには有理数rに対する階乗 <math>P^r</math> が、通常の代数法則と同様に定義される。物理量の階乗も又、物理量である。 物理量P,Qの数値が実数であるとき、「物理量PとQが比較可能」とは、P/Qが無次元量となる場合のことである。「物理量PとQが比較可能」とはすなわち、 <math>1[P]=\xi [Q]</math> (1-5) となるような実数<math>\xi</math>が見出せる場合を意味する。このとき、 *<math>P/Q = \xi \{ P/Q \}[U] = \xi \{ P/Q \}</math> (1-6) が成立する。この<math>\xi</math>のことを、「単位[P],[Q]間の換算係数」という。<math>\xi</math>が、「'''単位[P],[Q]間'''の換算係数」であることを強調するときには、本記事では<math>{\xi}_{[P],[Q]}</math> のように書く。 例えば、 *A=5 nm *B=7 m *C=5 s としたとき、AとBは比較可能である。AとC、BとCは比較可能ではない。ここで、 *<math>1\ \mathrm{nm}={10}^{-9}\ \mathrm{m}</math> である。つまり「nmとmの間の換算係数は、<math>1\times{10}^{-9}</math>である。また、以下が成立する。 *<math>{\xi}_{\mathrm{nm}, \mathrm{m}}={10}^{-9}</math> *<math>A\ (\mathrm{m})=5\times{10}^{-9}</math> *<math>B\ (\mathrm{nm})=7\times{10}^9</math> *<math>A/B=(5\ \mathrm{nm})/(7\times{10}^9 \mathrm{nm}) =(5/7)\times{10}^{-9}[U]=(5/7)\times{10}^{-9}</math> *<math>A/B=(5\times{10}^{-9} \mathrm{m})/(7\ \mathrm{m}) =(5/7)\times{10}^{-9}[U]=(5/7)\times{10}^{-9}</math> *<math>{A/B}=(5/7)\times{10}^{-9},\ [A/B]=[U]</math> 物理量PとQが比較可能であるときには、以下の方法で、単位の換算ができる。以下に、物理量PとQの間に(1-5)式の関係がある場合に、単位を[P]から[Q]に変換する。 #<math>[P]=\xi [Q]</math>より、<math>1\cdot[U]=\frac{1}{\xi}[Q/P]</math>が成立する。 #従って<math>P=P\cdot1[U]=P\frac{1}{\xi}[Q/P]</math>が成立する。 #従って<math>P=\frac{{P}}{\xi}[P][Q/P]=\frac{{P}}{\xi}[Q]</math>が成立する。 物理量P,Qの数値が実数であるとき、物理量PとQが(1-5)式の意味で比較可能であるときには、これらの間に足し算、引き算が以下のように定義される。 #<math>P+Q=(\{P\}+{\xi}_{[P],[Q]}\{Q\})[Q]=(\frac{1}{{\xi}_{[P],[Q]}}\{P\}+\{Q\})[P]</math> #<math>P-Q=(\{P\}-{\xi}_{[P],[Q]}\{Q\})[Q]=(\frac{1}{{\xi}_{[P],[Q]}}\{P\}-\{Q\})[P]</math> 別の見方をすれば、物理量同士の足し算、引き算は、その単位を[P]または、[Q]のいずれかに統一した後にのみ意味をもつ。 --> ==おもな物理量の一覧== {| class="wikitable" |+ おもな物理量の一覧 |- !物理量 ![[量の次元|次元]] ![[量記号]] ![[SI単位]] !関連する量 |- ![[長さ]] |L |''l'', ''x'' |m |[[位置]]'''''r'''''([[空間ベクトル|ベクトル]]) |- ![[質量]] |M |''m'', ''μ'' |kg |[[密度]]''ρ''、[[慣性モーメント]]I |- ![[時間]] |T |''t'', ''T'' |s | |- ![[電流]] |I |''I'', ''i'' |A | |- ![[熱力学温度]] |Θ |T |K | |- ![[物質量]] |N |''n'' |mol | |- ![[光度 (光学)|光度]] |J |''I'', ''I''<sub>v</sub> |cd | |- style="border-top: 3px double #aaa" ![[速さ]] |L T<sup>−1</sup> |''v'', ''u'' |m/s |[[速度]]'''''v'''''(ベクトル) |- ![[加速度]] |L T<sup>−2</sup> |''a'' |m/s<sup>2</sup> | |- ![[力 (物理学)|力]] |L M T<sup>−2</sup> |''f'', ''F'' |N |[[運動量]]''p''、[[力積]]、[[トルク]]''N'' |- ![[エネルギー]] |L<sup>2</sup> M T<sup>−2</sup> |''E'', ''U'' |J |[[仕事 (物理学)|仕事]] |- ![[仕事率]] |L<sup>2</sup> M T<sup>−3</sup> |''P'' |W |[[電力]] |- ![[密度]] |L<sup>−3</sup> M |''ρ'' |kg/m<sup>3</sup> | |- ![[圧力]] |L<sup>−1</sup> M T<sup>−2</sup> |''P'' |Pa | |- ![[電荷]] |T I |''q'' |C | |- ![[電圧]] |L<sup>2</sup> M T<sup>−3</sup> I<sup>−1</sup> |''V'' |V |[[電位差]] |} ==参考文献== {{脚注ヘルプ}} <references/> ==関連項目== {{Commonscat|Physical quantity}} *[[量]] **'''物理量''' **[[心理物理量]] **[[心理量]] *[[単位]] *[[次元#物理量の次元|次元]] *[[センサ]] *[[アクチュエータ]] *[[オブザーバブル]] *[[エルミート作用素]] *[[状態量]] {{Normdaten}} {{デフォルトソート:ふつりりよう}} [[Category:物理量|*]] [[Category:指標]] [[Category:量]]
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