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{{Thermodynamics sidebar}} '''物質の状態'''(ぶっしつのじょうたい、{{Lang-en|state of matter|links=no}})は、[[相 (物質)|相]]の違いにより区別される[[物質]]の状態である。 歴史的には、'''物質の状態'''は[[巨視的]]な性質により区別されていた。すなわち、[[固体]]は決まった[[体積]]と形を持つ。[[液体]]は決まった体積を持つが、形は決まっていない。[[気体]]は体積も形も決まっていない。近年では、'''物質の状態'''は[[分子間相互作用]]によって区別されている。すなわち、[[固体]]は分子間の[[相対配置|相互配置]]が決まっており、[[液体]]では近接分子は接触しているが[[相対配置|相互配置]]は決まっていないのに対し、気体では分子はかなり離れていて、[[分子間相互作用]]はそれぞれの運動にほとんど影響を及ぼしていない。また、[[プラズマ]]は高度に[[イオン化]]した気体で、高温下で生じる。[[イオン (化学)|イオン]]の[[引力と斥力|引力、斥力]]による[[分子間相互作用]]によりこのような状態を生じるため、[[プラズマ]]は「'''第四の状態'''」と呼ばれる。 [[分子]]以外から構成される物質や別の力で組織される'''物質の状態'''も、ある種の「'''物質の状態'''」だと考えられる。[[フェルミ凝縮]]や[[クォークグルーオンプラズマ]]等が例として挙げられる。 また、'''物質の状態'''は[[相転移]]からも定義される。相転移は[[物質の性質]]の突然の変化から構造の変化を示すものである。この定義では、物質の状態とは他とは異なった[[熱力学]]的状態のことである。[[水]]はいくつかの異なった固体の状態を持つといえる<ref>Martin Chaplin, http://www.lsbu.ac.uk/water/phase.html "Water Structure and Science"</ref>。また、[[超伝導]]の出現は相転移と関連していて、「超伝導状態」という状態がある。[[液晶]]や[[強磁性]]が相転移により特別の性質を持つのと同様である。 {{main|相転移}} [[ファイル:Phase change - ja.svg|thumb|right|300px|相転移のダイアグラム]] == 三態 == 固体、液体、気体という古典的な三つの状態はまとめて物質の'''三態'''(さんたい)、'''三相'''(さんそう)とよばれる。三態が共存する点を[[三重点]]という。[[水]]の三重点は[[温度]]の基準となっている。 三態の間での変化を以下のように呼ぶ。 *固体から液体への変化 [[融解]] - 物性値:[[融点]]、[[凝固点]] *固体から気体への変化 [[昇華 (化学)|昇華]]・[[気化]] *液体から固体への変化 [[凝固]]・[[固化]] *液体から気体への変化 [[蒸発]]・気化 - 物性値:[[沸点]] *気体から固体への変化 [[凝華]]・昇華 *気体から液体への変化 [[凝縮]]・[[液化]]・[[凝結]]・[[結露]] === 固体 === {{main|固体}} [[イオン (化学)|イオン]]、[[原子]]、[[分子]]などの粒子は密に詰まっている。粒子間に働く力は、粒子が振動する以外は自由に動けない状態にするのに十分強い。結果として、固体は安定で、定まった形と体積を持つ。ミクロに見れば、物質を構成する原子や分子がその平均位置をほとんど変えない状態である。固体が力によって形を変える時には、壊れたり切れたりする。力学的に言えば、一定の剛性率を持ち、体積圧縮率は小さい。 '''[[結晶]]'''では、粒子は一定の三次元構造をとって配列している。多くの異なった[[結晶構造]]が存在し、1つの物質が2つ以上の異なった結晶構造をとることもある。例えば、[[鉄]]は912℃以下では[[体心立方格子構造]]をとるが、912℃から1394℃では[[面心立方格子構造]]をとる。[[氷]]には、温度や圧力によって15の異なった結晶形が知られている。 === 液体 === {{main|液体}} 温度と圧力が一定なら、体積は一定である。固体が[[融点]]以上まで加熱されると、液体に変化する。[[分子間力]]は残ったままであるが、分子は互いに影響しあったまま動くのに十分なエネルギーを持ち、構造は変わる。これは、液体の形は一定ではなく容器に応じて変わるということを意味している。ミクロに見れば、物質を構成する原子や分子の相対位置は自由に変化できるが、原子や分子の間の距離はほとんど変化できない状態である。力学的に言えば、[[剛性率]]は零だが体積圧縮率は固体と同程度に小さい。体積は通常は固体状態よりも大きいが、この著名な例外として水がある。ある液体が存在しうる最も高い温度を[[臨界点|臨界温度]]という。 === 気体 === {{main|気体}} 気体中の分子は高いエネルギーを持ち、[[分子間力]]の影響は小さい([[理想気体]]では零)。分子はそれぞれ遠く離れて高速で移動している。気体は定まった形や体積を持たず、容器に応じて変わる。容器や力場がなければ体積が無限に[[膨張]]できる。ミクロに見れば、物質を構成する原子や分子の間の相互作用がほとんどなく、互いの位置も距離も自由に変化できる状態である。液体を[[沸点]]以上の温度に加熱するか、温度を一定にして圧力を下げると気体に変化する。 臨界温度以下の温度では、気体は[[蒸気]]とも呼ばれ、温度を下げずに圧力をかけても液体になる。気体の圧力が液体(または固体)の[[蒸気圧]]と等しくなる時には、蒸気は液体(または固体)と[[相平衡|平衡]]状態を保って存在する。 '''[[超臨界流体]]'''は、温度と圧力がそれぞれ[[臨界温度]]と臨界圧力以上である気体である。物理的には気体の性質を持つが、高い密度により[[溶媒]]の性質を示し、便利な応用が可能である。例えば、[[超臨界二酸化炭素]]は[[デカフェ]]コーヒーの製造の際に[[カフェイン]]を抽出するのに用いられる。 == 通常温度でのその他の状態 == === 液晶 === {{main|液晶}} [[液晶]]は液体と固体の中間の性質を持つ。例えば、[[ネマティック液晶|ネマティック相]]は[[パラアゾキシアニソール]]のような長い棍棒状の分子からなり、118度から136度でネマティックの性質を示す<ref>{{cite journal|title=Phase Transitions of Liquid Crystal PAA in Confined Geometries|author=Shao, Y.; Zerda, T. W.|journal=Journal of Physical Chemistry B|year=1998|volume=102|issue=18|pages=3387–3394|doi=10.1021/jp9734437}}</ref>。この状態では、分子は液体のように流動するが、全ての方向が揃っていて自由な回転ができない。 その他の種類の液晶もあり、[[液晶ディスプレイ]]のような技術にとって重要なものもある。 '''[[柔軟性結晶]]'''は液晶とはまた異なる液体と固体の中間状態である。 === アモルファス === {{main|アモルファス}} 非結晶性の[[アモルファス]]は、液体のような乱雑な構造を持つ。しかし分子は比較的固定されているため、通常は固体に分類される。有名な例としては、'''[[ガラス]]'''、'''[[ゴム状態]]'''([[合成ゴム]]など)、[[ポリスチレン]]やその他の[[ポリマー]]等が挙げられる。多くのアモルファスは[[ガラス転移温度]]以上になると軟化し、液体状になる。 ある種の液体は[[非ニュートン流体]]であり、[[せん断応力]]に依存して[[粘度]]が決まるため、一定の流れの条件の下ではアモルファス固体となる。簡単に説明する例は、[[コーンスターチ]]の[[懸濁液]]であり、これは止まっている時には液体だが、突然力が働くと固体のように振舞う。この性質は[[ダイラタンシー]]と呼ばれる。一方、[[ペンキ]]等のように、[[チキソトロピー]]として知られる全く逆の効果を示す懸濁液もある。 === 磁気的に秩序化した状態 === [[遷移金属]]の原子は[[非共有電子対]]の[[電子]]の[[スピン角運動量|スピン]]のためにしばしば[[磁気モーメント]]を持つ。ある種の固体では、異なる原子の磁気モーメントが揃うことによって'''[[強磁性]]'''を作ったり'''[[反強磁性]]'''を作ったりする。例えば鉄のような強磁性体では、磁性ドメインの中の原子の磁気モーメントは同じ方向に配向している。ドメインごとの配向も揃っている場合、外部の[[磁場]]が存在しなくても磁石の性質を示す[[永久磁石]]となる。[[磁化]]は、磁石が[[キュリー温度]](鉄の場合、768度)まで熱せられると消失する。 反強磁性体は、同じ強さで反対向きの2つの[[磁気モーメント]]を持ち、互いに打ち消しあっている。例えば、[[酸化ニッケル(II)]]では[[ニッケル]]原子のちょうど半分ずつが反対向きの[[磁気モーメント]]を持っている。 '''[[フェリ磁性]]'''では、反対向きの2つの[[磁気モーメント]]を持つが、それらの強さが異なるために完全には打ち消しあわず、全体として磁性を持つ。例としては、異なった強さの磁気モーメントを持つFe<sup>2+</sup>イオンとFe<sup>3+</sup>[[イオン (化学)|イオン]]を含む[[磁鉄鉱]]がある。 == 低温での状態 == === 超伝導 === {{main|超伝導}} 超伝導体は、[[電気抵抗]]が0であり、完全な導電性を持った物質である。これらは[[磁場]]も完全に排除するため、[[マイスナー効果]]や[[反磁性]]のような現象を起こす。[[超伝導電磁石]]は[[核磁気共鳴画像法]]に用いられている。 超伝導現象は1911年に発見され、その後75年間は30K以下のいくつかの金属や[[合金]]のみでしか知られていなかった。1986年にある種の[[酸化セラミック]]でいわゆる[[高温超伝導]]が発見され、現在では164Kで超伝導を示す物質まで見つかっている。 === 超流動 === {{main|超流動}} 0Kに近くなると、ある種の液体は[[粘度]]が0になり完全な流動性を示すようになる 。この現象は1937年に2.17Kの[[ヘリウム]]で発見された。この状態では、液体が容器の壁を昇ろうとする現象が観測される<ref>Stephen Fry, The QI Book of General Ignorance, 3rd edition</ref>。また、完全な[[熱伝導性]]も持つため、超流動体の中には[[温度勾配]]がない。 これらの性質は、超流動状態のヘリウム4が[[ボース=アインシュタイン凝縮]]状態になるという理論によって説明される。また近年では、ヘリウム3や[[リチウム]]6は低温でフェルミ凝縮状態の超流動になることが分かっている<ref>{{Cite web |title=MIT physicists create new form of matter |url=https://news.mit.edu/2005/matter |website=MIT News {{!}} Massachusetts Institute of Technology |date=2005-06-22 |access-date=2025-02-17 |language=en}}</ref>。 === ボース=アインシュタイン凝縮 === {{main|ボース=アインシュタイン凝縮}} 1924年、[[アルベルト・アインシュタイン]]と[[サティエンドラ・ボース]]は、しばしば「'''第五の状態'''」とも言われる、ボース=アインシュタイン凝縮の存在を予言した。前述のように、超流動状態のヘリウム4が例として挙げられる。 気体原子でのボース=アインシュタイン凝縮は、長い間証明されなかったが、1995年についに[[ヴォルフガング・ケターレ]]らが実験的に作り出すことに成功した。ボース=アインシュタイン凝縮は、原子が[[絶対零度]]に近く、ほぼ同じ[[量子準位]]をとる時に生じる。 '''[[フェルミ凝縮]]'''はボース=アインシュタイン凝縮に類似した状態であるが、ボース粒子ではなく[[フェルミ粒子]]においておこる。[[パウリの排他律]]によりフェルミ粒子では同じ量子状態になることは妨げられるが、2つのフェルミ粒子が対になることによりボース粒子のように振る舞い、対になったフェルミ粒子は制約を受けることなく同じ量子状態を取り得る。 === 量子ホール状態 === {{main|量子ホール効果}} [[量子ホール効果|量子ホール状態]]とは、低温・強磁場下で[[ホール効果]]に量子化が加わり、ホール伝導率が <math>e^2/h</math> の整数倍となっている状態のことである。 '''[[量子スピンホール効果|量子スピンホール状態]]'''は量子ホール状態の派生の一つである。低エネルギー消費、低発熱により電子デバイス開発に応用が期待されている相。2007年に実在が報告された。 == 高エネルギーでの状態 == === プラズマ === {{main|プラズマ}} [[プラズマ]]は、気体が数千度になると生じる。[[雷]]による大気のプラズマ化や[[恒星]]等が例として挙げられる。 気体が熱せられると、電子が原子から離れ始め、原子の束縛を受けない[[自由電子]]が発生する。自由電子のために導電性が高まり、強い[[電磁場]]を持つようになる。恒星の中のように極めて高い温度では、ほぼ全ての電子が自由電子となっており、高いエネルギーを持ったプラズマがむき出しのまま電子の海の間を泳いでいる様子が推測される。プラズマは[[宇宙]]で最も豊富に存在する状態だと信じられている。 プラズマはイオンの多い気体だと考えることもできるが、イオン間に働く強い力によってかなり異なった性質を持つため、通常は気体とは別の状態だと見なされる。 === クォークグルーオンプラズマ === {{main|クォークグルーオンプラズマ}} クォークグルーオンプラズマは、[[欧州原子核研究機構]]で2000年に見つかった状態である<ref>[http://newstate-matter.web.cern.ch/newstate-matter/Experiments.html A New State of Matter - Experiments]</ref>。この中では、通常は[[陽子]]や[[中性子]]を構成している[[クォーク]]が自由になり、個別に観測される。この状態により、科学者は理論ではなく実際に個々のクォークの性質を観測できるようになった。 == その他の状態 == === 流体 === {{main|流体}} [[流体]]は、その形が自由に変わり流動できる状態である。三態に入る概念ではないが、固体と対立する状態であり、液体と気体は流体である。流体の変形や運動については[[流体力学]]で取り扱われる。前述の[[プラズマ]]も流体である。 '''[[粘弾性|粘弾性体]]'''はある程度の弾性と流動性を併せ持つ状態である。'''弾性流体'''ともいい、その力学は[[レオロジー]]で取り扱われる。 ===過冷却=== {{main|過冷却}} {{節スタブ|date=2023年2月}} === フェルミ縮退 === {{main|フェルミ縮退}} 極めて高い圧力下では、通常の物質は[[縮退]]と総称される特別な状態となる。このような超高圧状態は、[[白色矮星]]や[[中性子星]]等の[[原子核合成]]燃料を使い果たした恒星の内部に存在すると信じられているため、[[天体物理学]]的な興味が持たれている。 '''[[電子縮退]]'''は[[白色矮星]]の地殻でみられる状態である。電子は原子に束縛されているものの、隣接した原子へも移動することができる。一方'''[[中性子縮退]]'''は[[中性子星]]でみられる状態である。巨大な重力による圧力で原子が圧縮され、電子が[[電子捕獲]]によって陽子と結合し、中性子の超高密度の塊となっている。(通常では原子核外にある自由[[中性子]]は 15 分未満の半減期で崩壊するが、中性子星では他の要因により中性子が安定となっている。) === 超固体 === {{main|超固体}} [[超固体]] ([[:en:Supersolid|Supersolid]]) は、超流動の性質を持つ特殊な固体である。超固体は固体であるが、多くの特殊な性質を示すため、別の状態であると言われている<ref>http://prola.aps.org/abstract/PRB/v55/i5/p3104_1</ref>。 === 超ガラス === {{main|超ガラス}} 超ガラス ([[:en:Superglass|Superglass]]) は、[[超流動]]と凍結[[アモルファス]]構造の特徴を同時に持つ[[物質の相]]である。 === String-net liquid === 通常の固体では、電子のスピンは周囲の電子のスピンと逆向きである。しかし、[[:en:String-net liquid|String-net liquid]]中では、隣り合った電子が同じ向きのスピンを持つことがありうる。このことによって、様々な奇妙な性質を持つ。 === リュードベリ状態 === 非理想的なプラズマの[[準安定状態]]の1つに[[リュードベリ状態]]があり、凝縮した励起原子からなる。これらの原子は、一定の温度に達するとイオンや電子になる。 === ストレンジ物質 === {{main|ストレンジ物質}} [[ストレンジ物質]] ([[:en:Strange matter|Strange matter]]) は、'''[[クォーク物質]]''' ([[:en:Quark matter|Quark matter]]) としても知られ、大きな中性子星の内部で実現していると考えられる状態である。一度形成されると、低エネルギー状態でも安定だと考えられる。 === 重力の特異点 === {{main|重力の特異点}} [[重力の特異点]]は[[一般相対性理論]]により[[ブラックホール]]の内部にあると予言されているが、これは物質の相では'''ない'''。重力の特異点は物質ではなく、現在知られている物理法則が成り立たなくなる領域である。 == 脚注 == {{脚注ヘルプ}}<references /> == 関連項目 == *[[物性物理学]] *[[冷却曲線]] *[[相 (物質)|相]] *[[相転移]] *[[過冷却]] == 外部リンク == * [http://web.mit.edu/newsoffice/2005/matter.html 2005-06-22, MIT News: MIT physicists create new form of matter] Citat: "... They have become the first to create a new type of matter, a gas of atoms that shows high-temperature superfluidity." * [http://www.sciencedaily.com/releases/2003/10/031010075634.htm 2003-10-10, Science Daily: Metallic Phase For Bosons Implies New State Of Matter] * [http://www.sciencedaily.com/releases/2004/01/040115074553.htm 2004-01-15, ScienceDaily: Probable Discovery Of A New, Supersolid, Phase Of Matter] Citat: "...We apparently have observed, for the first time, a solid material with the characteristics of a superfluid...but because all its particles are in the identical quantum state, it remains a solid even though its component particles are continually flowing..." * [http://www.sciencedaily.com/releases/2004/01/040129073547.htm 2004-01-29, ScienceDaily: NIST/University Of Colorado Scientists Create New Form Of Matter: A Fermionic Condensate] {{物質の状態}} {{Normdaten}} {{DEFAULTSORT:ふつしつのしようたい}} [[Category:物質|しようたい]] [[Category:物質の相]] [[Category:物性物理学]]
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