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[[環論]]という[[数学]]の分野において、'''環の根基''' (radical of a ring) は[[環 (数学)|環]]の「悪い」元からなる[[イデアル]]である。 根基の最初の例は[[環の冪零根基|冪零根基]]であった。これは {{harv|Wedderburn|1908}} のサジェスチョンに基づいて、{{harv|Köthe|1930}} で導入された。次の数年間でいくつかの他の根基が発見された。それらのうち最も重要な例は[[ジャコブソン根基]]である。根基の一般論は {{harvs|last=Amitsur|year1=1952|year2=1954|year3=1954b}} と {{harvtxt|Kurosh|1953}} によって独立に定義された。 == 定義 == 根基の理論において、環は通常結合的なものを考えるが、可換である必要はなく、単位元をもつ必要はない。特に、環のすべてのイデアルはまた環である。 '''根基クラス''' (radical class)('''根基性質''' (radical property) や単に'''根基''' (radical) とも呼ばれる)は単位元の存在を仮定しない環のクラス σ であって、以下を満たすものである: (1) σ に入っている環の準同型像はまた σ に入る。 (2) すべての環 ''R'' は σ に入っているすべての他のイデアルを含む σ に入っているイデアル ''S''(''R'') を含む。 (3) ''S''(''R''/''S''(''R'')) = 0。イデアル ''S''(''R'') は ''R'' の根基、あるいは σ-根基と呼ばれる。 そのような根基の研究は '''torsion theory''' と呼ばれる。 環の任意のクラス δ に対して、それを含む最小の根基クラス ''L''δ が存在し、δ の '''lower radical''' と呼ぶ。作用素 ''L'' を '''lower radical operator''' と言う。 環のクラスはクラスに入っている環のすべての 0 でないイデアルがクラスに入る 0 でない像をもつとき'''正則''' (regular) と呼ばれる。環のすべての正則クラス δ に対して、最大の根基クラス ''U''δ が存在し、δ の upper radical と呼ばれ、δ との共通部分は 0 である。作用素 ''U'' は '''upper radical operator''' と呼ばれる。 環のクラスは、クラスに入っている環のすべてのイデアルがまたクラスに属しているときに、'''遺伝的''' (hereditary) と呼ばれる。 ==例== ===ジャコブソン根基=== : {{main|ジャコブソン根基}} ''R'' を可換とは限らない任意の環とする。'''''R''''' '''のジャコブソン根基''' (Jacobson radical of ''R'') はすべての[[単純加群|単純]]右 ''R''-加群の零化イデアルの共通部分である。 ジャコブソン根基のいくつかの同値な特徴づけが存在する。例えば: *J(''R'') は ''R'' の正則極大右(あるいは左)イデアルの共通部分である。 *J(''R'') は ''R'' のすべての右(あるいは左)原始イデアルの共通部分である。 *J(''R'') は ''R'' の極大右(あるいは左)準正則右(resp. 左)イデアルである。 冪零根基のように、この定義を任意の両側イデアル ''I'' に拡張することが J(''I'') を射影 ''R''→''R/I'' の下での J(''R/I'') の原像と定義することによってできる。 ''R'' が可換であれば、ジャコブソン根基は常に冪零根基を含む。環 ''R'' が有限生成 '''Z'''-代数であれば、冪零根基はジャコブソン根基に等しく、より一般的に: 任意のイデアル ''I'' の根基は ''I'' を含む ''R'' のすべての極大イデアルの共通部分に常に等しい。これは ''R'' が[[ジャコブソン環]]であると言っている。 ===Baer根基=== 環 ''R'' の Baer 根基は''R'' の[[素イデアル]]全部の共通部分である。同値だが、それは''R'' の最小の半素イデアルである。Baer 根基は冪零環のクラスの lower radical である。次のようにも呼ばれる。"lower nilradical"(そして Nil<sub>∗</sub>''R'' と表記される)、"prime radical"、"Baer-McCoy radical"。Baer 根基のすべての元は[[冪零]]であり、そのためそれは{{仮リンク|冪零元イデアル|en|nil ideal}}である。 可換環に対して、これは単に[[冪零根基]]であり、[[イデアルの根基]]の定義が密接に従う。 ===upper nil radical あるいは Köthe radical=== 環 ''R'' の{{仮リンク|冪零元イデアル|en|nil ideal}}全体の和は upper nilradical Nil<sup>*</sup>''R'' あるいは Köthe radical であり、''R'' の唯一の最大の冪零元イデアルである。[[ケーテ予想|Kötheの予想]]は任意の左冪零元イデアルがその nilradical <!--環の upper nilradical のこと-->に入るかどうかを問う。 === 特異根基 === (非可換でもよい)環の元はある[[本質部分加群|本質]][[左イデアル]]を零化するときに左'''特異''' (singular) であると言う。つまり、''r'' が左特異とは、ある本質左イデアル ''I'' に対して ''Ir'' = 0 ということである。環 ''R'' の左特異元全体の集合は両側イデアルであり、[[特異部分加群|左特異イデアル]]と呼ばれ、<math>\mathcal{Z}(_R R)\,</math> と表記される。<math>N/\mathcal{Z}(_R R)=\mathcal{Z}(_{R/\mathcal{Z}(_R R)} R/\mathcal{Z}(_R R))\,</math> であるような ''R'' のイデアル ''N'' は <math>\mathcal{Z}_2(_R R)</math> と表記され、''R'' の'''特異根基''' (singular radical) あるいは'''ゴルディートーション''' (Goldie torsion) と呼ばれる。特異根基は素根基(可換環の場合にはこれは冪零根基である)を含むが、可換環の場合ですら、それを真に含むかもしれない。しかしながら、[[ネーター環]]の特異根基は常に冪零である。 === レヴィツキ根基 === Levitzki 根基は最大の局所的冪零イデアルとして定義され、群論の{{仮リンク|ヒルシュ・ポロットキン根基|label= Hirsch–Plotkin 根基|en|Hirsch–Plotkin radical}}とアナロガスである。環が[[ネーター環|ネーター]]であれば、Levitzki 根基はそれ自身冪零イデアルであり、それゆえ唯一の最大左、右、あるいは両側冪零イデアルである。 === ブラウン–マッコイ根基 === Brown–McCoy 根基(バナッハ代数の理論では'''強根基''' (strong radical) と呼ばれる)は以下の方法の任意で定義できる: * 極大両側イデアル全体の共通部分 * すべての極大モジュラーイデアルの共通部分 * 単位元をもつすべての[[単純環]]のクラスの upper radical Brown–McCoy 根基は 1 をもつ結合的環よりもはるかに一般的な設定で研究される。 === フォン・ノイマン正則根基 === [[フォン・ノイマン正則環]]は環 ''A''(単位元を持たない非可換環でよい)であって、すべての ''a'' に対してある ''b'' が存在して ''a'' = ''aba'' となるようなものである。フォン・ノイマン正則環は根基クラスをなす。それは可除代数上のすべての行列環を含むが、冪零元環 (nil ring) は全く含まない。 === アルティン根基 === アルティン根基 (Artinian radical) は通常両側[[ネーター環]]に対して[[アルティン加群]]であるすべての右イデアルの和として定義される。定義は左右対称的であり、実際環の両側イデアルを生み出す。この根基は {{harv|Chatters|1980}} で概説されているように、ネーター環の研究において重要である。 <!-- ===The Thierrin radical=== The Thierrin radical is the upper radical of all division rings. It is hereditary. ===The Jenkins radical=== The Jenkins radical is the upper radical of all simple prime rings. --> == 関連項目 == 環の根基ではない''根基''の関連した使用: * [[加群の根基]] * {{仮リンク|キャプランスキー根基|en|Kaplansky radical}} (Kaplansky radical) * [[双線型形式#反射性・直交性|双線型形式の根基]] (Radical of a bilinear form) == 参考文献 == *{{SpringerEOM|title=Radical of ring and algebras|last= Andrunakievich|first=V.A.|urlname=Radical_of_rings_and_algebras}} *{{citation |author1=Chatters, A. W. |author2=Hajarnavis, C. R. |title=Rings with chain conditions |series=Research Notes in Mathematics |volume=44 |publisher=Pitman (Advanced Publishing Program) |place=Boston, Mass. |year=1980 |pages=vii+197 |isbn=0-273-08446-1 |mr=590045}} *{{Citation | last1=Divinsky | first1=N. J. | title=Rings and radicals | publisher=University of Toronto Press | location=Toronto, Ont. | series=Mathematical Expositions No. 14 | mr= 0197489 | year=1965}} *{{Citation | last1=Gardner | first1=B. J. | last2=Wiegandt | first2=R. | title=Radical theory of rings | publisher=Marcel Dekker Inc. | location=New York | series=Monographs and Textbooks in Pure and Applied Mathematics | isbn=978-0-8247-5033-6 | mr = 2015465| year=2004 | volume=261}} * {{Citation | last1=Goodearl | first1=K. R. | title=Ring theory | publisher=Marcel Dekker | isbn=978-0-8247-6354-1 | mr= 0429962 | year=1976}} *{{Citation | last1=Gray | first1=Mary | title=A radical approach to algebra | publisher=Addison-Wesley Publishing Co., Reading, Mass.-London-Don Mills, Ont. | mr=0265396 | year=1970}} *{{Citation | last1=Köthe | first1=Gottfried | title=Die Struktur der Ringe, deren Restklassenring nach dem Radikal vollständig reduzibel ist | doi=10.1007/BF01194626 | year=1930 | journal=Mathematische Zeitschrift | volume=32 | issue=1 | pages=161–186}} *{{Citation | last1=Stenström | first1=Bo | title=Rings and modules of quotients | publisher=[[Springer-Verlag]] | location=Berlin, New York | series=Lecture Notes in Mathematics | doi=10.1007/BFb0059904 | mr= 0325663 | year=1971 | volume=237 | isbn=978-3-540-05690-4 | zbl=0229.16003 }} *{{Citation | last1=Wiegandt | first1=Richard | title=Radical and semisimple classes of rings | publisher=Queen's University | location=Kingston, Ont. |mr = 0349734 | year=1974}} {{DEFAULTSORT:かんのこんき}} [[Category:イデアル]] [[Category:環論]] [[Category:数学に関する記事]]
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