生産性のソースを表示

{{Otheruses|経済学における生産性|言語学における生産性|生産性 (言語学)|生態学における生産性|生産性 (生態学)}}
{{経済学のサイドバー}}
[[経済学]]における'''生産性'''（せいさんせい、{{lang-en-short|Productivity}}）は、経済政策に対する[[生産要素]]（[[労働]]・[[資本]]など）の寄与度、あるいは、[[資源]]から[[付加価値]]を産み出す際の[[効率]]の程度である。次の式で定義される<ref>"生産性とは、output（産出） ／ input（投入）の関係を表す指標であり" [[日本生産性本部]]「''[https://www.pref.okinawa.lg.jp/site/kikaku/chosei/staff/roudouseisansei/documents/r1_roudouseisansei.pdf 労働生産性と全要素生産性とは]」''『生産性データベース』 2023-06-06閲覧.</ref>：

: 生産性 = 産出量 / 投入量

すなわち、より少ない投入量（インプット）からより多い産出量（アウトプット）が得られるほど、より生産性が高いという関係にある。ゆえに、[[生産]]活動の[[効率性]]を測る指標として利用される。

生産性には何を基準に置いて評価するかによって幾つかの種類がある。これはインプットとアウトプットの対象によって、生産性という言葉の意味が異なるためである。一定の資源からどれだけ多くの付加価値を産み出せるかという測定法と、一定の[[付加価値]]をどれだけ少ない資源で産み出せるかという測定法がある。また、それぞれの生産性の数値尺度は、それ単独で用いるよりも、他者の生産性と比較することによってさらに有用な指標（[[ベンチマーク]]）となる<ref>http://www.jpc-net.jp/movement/productivity.html</ref>。

生産性は、企業や国の生産実績を左右する重要な要素である。国の生産性を向上させることは、[[生活水準]]の向上につながる。それは実質所得の増加は、人々が[[商品]]や[[サービス]]といった[[財]]を購入したり、余暇を楽しんだり、住宅や教育を改善したり、社会的・[[環境教育プログラム|環境的プログラム]]に貢献したりする能力を向上させるからである。また、生産性の向上は、企業の収益性向上にもつながる<ref>Courbois & Temple 1975, Gollop 1979, Kurosawa 1975, Pineda 1990, Saari 2006, Hitt and Brynjolfsson 1996, Sickles and Zelenyuk (2019)</ref>。

また、国際的には生産性の高い産業は生き残ることが出来るため、各方面で生産性の改善が活発に行われている。実際、国際的な競争下にある[[製造業]]（[[貿易]]財）の生産性は、非貿易財である[[第三次産業|サービス業]]に比べて概して高い。 生産性改善は、生産性という発想のもとである、製造業の[[ライン生産方式|生産ライン]]においては最も強く発揮されている。一方で、サービス業は、フローの把握や[[分業]]が進展していないこともあり、生産性の向上も遅れている。

== 部分的生産性 ==
'''部分的生産性'''（{{lang-en-short|partial productivities}}）は1種類の投入/産出要素で指標化された生産性である<ref name="Sumanth">{{cite book|last1=Sumanth|first1=David J.|title=Total Productivity Management (TPmgt): A Systemic and Quantitative Approach to Compete in Quality, Price and Time|publisher=CRC Press|isbn=9781574440577|page=5|url=https://books.google.com/books?id=mLAv09ocvTsC&q=%22Total+productivity%22&pg=PA5 |language=en|date=1997-10-27}}</ref> 。

用いる要素の種類によって様々な部分的生産性が定義されている。次の表はその一例である。
{| class="wikitable"
|+Table. 部分的生産性の分類
! colspan="2" rowspan="2" |
! colspan="2" |算出
|-
!物的
!付加価値
|-
| rowspan="2" |投入
|資本（[[生産性#資本生産性|資本生産性]]）
|物的資本生産性
|付加価値資本生産性
|-
|労働（[[生産性#労働生産性|労働生産性]]）
|物的労働生産性
|付加価値労働生産性
|}
[[マクロ経済学]]において部分的生産性とは、一般的に労働生産性のことである。また、一般的な経済指標で単に「労働生産性」と言った場合、通常は付加価値労働生産性を指す。

=== 資本生産性 ===
資本（[[機械]]・[[貨物自動車]]等の設備）1単位に対してどれだけ価値が産めたかを指す。通常、資本が遊ばないようになるだけ多く労働者を充てると、資本の回転率が上昇し'''資本生産性'''が高まる。ただし、この場合は'''労働生産性'''が低下する。
関係式としては、資本生産性＝生産量÷有形固定資産があてはめられる。

=== 労働生産性 ===
[[File:Labour productivity levels in europe.svg|thumb|right|300 px|欧州の労働生産性（時間あたりGDP）]]

'''労働生産性'''（{{lang-en-short|Labour productivity}}）は[[労働力]]1単位に対する産出量である<ref>"労働生産性は労働者 1 人当たりで生み出す成果、あるいは労働者が 1 時間で生み出す成果を指標化したもの" [[日本生産性本部]]「''[https://www.pref.okinawa.lg.jp/site/kikaku/chosei/staff/roudouseisansei/documents/r1_roudouseisansei.pdf 労働生産性と全要素生産性とは]」''『生産性データベース』 2023-06-06閲覧.</ref>。すなわち次の式で定義される：

{{Indent|<math>\text{labour productivity} = \frac{\text{output volume}}{\text{labor input use}}</math>}}

労働生産性の生産量を物的な量で表す場合は「'''物的労働生産性'''」、付加価値額で表す場合は「'''付加価値労働生産性'''」と言う。

通常、労働力が遊ばないようになるべく多く資本を装備すると、労働力の回転率が上昇して労働生産性が高まる。ただし、この場合は資本生産性が低下する。

関係式としては、
* （物的労働生産性）＝（生産量）÷（従業者数）
* （価値労働生産性）＝（生産額）÷（従業者数）＝（（生産量）×（製品価格））÷（従業者数）
* （付加価値労働生産性）＝（付加価値額）÷（従業者数）
といったものがあてはめられる。

<gallery widths="400 px" heights="220 px">
OECD Productivity levels 2007.svg|OECD諸国の時間あたりのGDPで算出した'''労働生産性'''の平均比較 (青線: OECD平均)
Productivity - GDP per hour worked in OECD.svg|OECD諸国の時間あたりのGDPで算出した労働生産性の推移（米国を100とする比率%）
</gallery>

なお、俗に[[サービス残業]]などに因る労働強度の増加に拠って、生産あるいは利益を増やすことを生産性を上げると表現することがあるが、上記から明らかなように、その場合は労働力投入というインプットが増加しているため、仮にアウトプットが増加しても生産性が上昇するとは限らない。経済学者が生産性を上げるべきだと主張する時は、上記のようなあくまでインプット対比でのアウトプットについてであるが、これが「労働強度を高めて酷使されるという意味である」と混同される場合があり、注意が必要である。

== 多要素生産性 ==
'''全要素生産性'''（{{lang-en-short|Total factor productivity}}; '''TFP'''）は複数の投入/産出要素で指標化された生産性である。

通常は緩やかな上昇基調であるが、[[イノベーション]]の際に高い上昇を見せる。[[交通革命]]や[[情報革命]]などが、その革新に該当する（IT革命による'''全要素生産性'''の改善については、なお、議論の余地が有る）。

[[国民経済]]の生産性産出量としての[[国内総生産]]（GDP）を投入量としての就業者総数で除したもの。労働生産性の国際比較において使用される際には、各国の購買力平価（PPP）でUSドル換算したGDPが用いられる。

==生産性と景気循環==
[[景気循環]]は生産性に大きく影響している。通常、大規模な[[イノベーション]]が起こらない場合、労働生産性と資本生産性は逆の動きをする。

景気回復時には見かけ上での労働生産性の伸びが高めに出る傾向がある。これは労働者一人あたりの効率性が改善しなくても稼働率を高めることによって生産高を増加させることができるためである。逆に、景気後退時には、労働生産性の伸びが低めに出る傾向がある。

労働力の調整が硬直的な[[経済]]（[[終身雇用]]制など）の場合、資本がより循環するため、景気回復時には労働生産性が上昇し、景気下降時には労働生産性が低下する。

労働力の調整が柔軟な経済（[[解雇]]が比較的容易など）の場合、労働力がより循環するため、景気回復時には資本生産性が上昇し、景気下降時には資本生産性が低下する。

==生産性の向上要因==
[[File:Average wages and GDP per hour worked in G7.svg|thumb|right|350px|G7各国の平均賃金（破線）と、時間あたりGDP（実線）]]

* 投資による資本財（生産手段）蓄積の増加
* 教育による人的資本（労働力）の質の向上
* 低生産部門から高生産部門への資源の再配分による効率性の向上
* 研究開発による技術進歩<ref>[http://www.toyokeizai.net/shop/books/detail/BI/b9e8982055643a4fdd5901944bb72744 スティグリッツ マクロ経済学]{{リンク切れ|date=2015年3月}}</ref>

===最低賃金の引き上げ===
[[ノーベル経済学賞]]受賞者[[ポール・クルーグマン]]は、近年の実証研究の蓄積に基づき、最低賃金の引き上げが雇用に正の影響を与えることを指摘する。そして賃金上昇が労働のターンオーバーを減らし生産性を高めると結論づける<ref>[https://www.nytimes.com/2015/07/17/opinion/paul-krugman-liberals-and-wages.html?ref=opinion Liberals and Wages]P. Krugman, The New York Times, The Opinion Pages, 17 June 2015 </ref>。米国では、2016年までに最低賃金を10.10ドルまで引き上げる法案を[[トム・ハーキン]]が提出し、これに多くの主要経済学者が賛同している<ref name=cnnmoney2014january14MW >[http://money.cnn.com/2014/01/14/news/economy/raising-minimum-wage/ 75 economists back minimum wage hike] CNN Money, January 14, 2014</ref> <ref name=EPI600MW>[http://www.epi.org/minimum-wage-statement/ Over 600 Economists Sign Letter In Support of $10.10 Minimum Wage] Economist Statement on the Federal Minimum Wage, Economic Policy Institute</ref>。また2020年までに米国の最低賃金を15ドルと設定する法案を[[バーニー・サンダース]]が提出した<ref name=guardian2015jul24MWAC>[http://www.theguardian.com/us-news/2015/jul/24/rapid-success-15-dollars-minimum-wage-new-york The rapid success of Fight for $15: 'This is a trend that cannot be stopped']S. Greenhouse, The Guardian, US-News, 24 Jul 2015 </ref>。

==生産性向上のための活動==
[[電通#新入女性社員の自殺（2015年）|電通の新入女性社員の自殺(2015年)]]もあり、政府が過剰な残業をなくし（労働）生産性の向上を目指して働き方改革を進めている<ref>{{Cite web|和書|title=働き方改革の実現|url=https://www.kantei.go.jp/jp/headline/ichiokusoukatsuyaku/hatarakikata.html|accessdate=2017-12-13}}</ref>。
人材への投資による生産性の向上による経済成長を目指している<ref>{{Cite web|和書|title=経済財政運営と改革の基本方針2017 人材への投資を通じた生産性向上|url=https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/service/premium-friday/kihonhoushin2017.pdf|accessdate=2017-12-13}}</ref>。

===生産性の向上===
各企業では、働く人がモチベーション（動機付け）を高め、やりがいを感じ組織へのエンゲージメントを高めることで、顧客付加価値をもたらす業務に集中し生産性向上を実現する活動が行われている{{Sfn|入江|2018}}<ref>{{Cite web|和書|title=次世代 生産性向上方法論 |url=http://iandco.jp/戦略モデル/pmqir/|accessdate=2017-12-13}}</ref>。

=== 生産性の個人的要因 ===
謙虚・誠実さは生産性と高い関連性があり<ref>{{Cite journal|last=Lee|first=Youngduk|last2=Berry|first2=Christopher M.|last3=Gonzalez-Mulé|first3=Erik|date=2019-12|title=The importance of being humble: A meta-analysis and incremental validity analysis of the relationship between honesty-humility and job performance.|url=https://doi.apa.org/doi/10.1037/apl0000421|journal=Journal of Applied Psychology|volume=104|issue=12|pages=1535–1546|language=en|doi=10.1037/apl0000421|issn=1939-1854}}</ref>、生産性の高いスタッフはカルト主義者になりにくい<ref>{{Cite journal|last=Mackey|first=Jeremy D.|date=2021-06-01|title=Why and how predators pick prey: Followers’ personality and performance as predictors of destructive leadership|url=https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0148296321001557|journal=Journal of Business Research|volume=130|pages=159–169|language=en|doi=10.1016/j.jbusres.2021.03.002|issn=0148-2963}}</ref>。

== 脚注 ==
{{reflist}}

== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書|authorlink=入江仁之|last=入江|first=仁之|year=2018|title=「すぐ決まる組織」のつくり方 ー OODAマネジメント|publisher=[[フォレスト出版]]|isbn=978-4-866800-09-7|ref=harv}}

== 関連項目 ==
* [[効率性]]
* [[リーン生産方式]]
* [[景気後退の形状]]
* [[成果主義]]
* [[知的生産性]]
* [[石高]] - 土地の生産性を[[石 (単位)|石]]という単位で表したもの。
* [[杉田水脈#LGBT|杉田水脈]] - [[LGBT]]に対して「生産性がない」という詭弁が批判された。

== 外部リンク ==
* [https://www.jpc-net.jp/ 公益財団法人 日本生産性本部]
* {{PDFlink|[http://home.uchicago.edu/~syverson/productivitysurvey.pdf What Determines Productivity?]}} {{en icon}} Chad Syverson, Journal of Economic Literature 2011, 49:2, 326–365.

{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:せいさんせい}}
[[category:経営の指標]]
[[Category:経済学]]
[[Category:生産経済]]