相関のソースを表示

[[File:Correlation types-Language-neutral.png|thumb|400px|相関の主な四類型。①は無相関。②は非線形相関。③は正の線形相関。④は負の線形相関。]]
'''相関'''（そうかん、{{lang-en-short|correlation}}）<!--または従属（じゅうぞく 英:dependence）-->とは、一方が変化すれば他方も変化するように相互に関係しあうことである。数学や物理学では、二つの[[変数 (数学)|変量]]や現象がある程度相互に[[数列|規則的]]に関係を保って変化することをいう<ref>[[コトバンク]]「[https://kotobank.jp/word/%E7%9B%B8%E9%96%A2-89175　相関]」精選版 日本国語大辞典の解説より。</ref>。[[因果性]]の有無は問わない。広義には、統計的に何らかの関連性があることを言うが、最も一般的な[[相関係数]]である[[ピアソンの積率相関係数]]は二変数における[[線形性]]相関の程度を指す。例えば「親の身長が高いほうが子供の身長も高い」「勉強時間が長いほうがテストの成績も上がる」などの傾向が身近な相関現象である<ref>遠田祐人「[https://atarimae.biz/archives/7966 相関係数とは何か。その求め方・公式・使い方と3つの注意点]」2020年2月9日</ref>。

相関は、実践で活用できる予測的な関係性を示してくれるため実用性がある。例えば、電気事業者は電力需要と天候との相関関係に基づいて、過ごしやすい気温の日には電力を少なめに発電したりもする。この例では、猛暑や厳寒といった極端な天候は人々が大量に電気を使う原因となるため、因果関係にあたる。ただし一般には、相関があっても因果関係があるとは言い切れない（すなわち[[相関関係と因果関係|相関関係は因果関係を含意しない]]）。

<!--この段落では確率論における「従属」の話を省き、統計的な相関について抄訳記述。-->
本質的に相関とは、2つ以上の変数が互いにどの程度関わり合っているかの尺度である。幾種類かの[[相関係数]]があり、多くの場合<math>\rho</math>または<math>r</math>で表記される。[[統計学]]では、主に二変数の線形性相関に着目して関係性の強弱を係数で表しており、その最も一般的な尺度が[[ピアソンの積率相関係数]]である（より堅牢な[[スピアマンの順位相関係数]]などは非線形相関にも対応する）<ref>Croxton, Frederick Emory; Cowden, Dudley Johnstone; Klein, Sidney (1968) ''Applied General Statistics'', Pitman. {{ISBN2|9780273403159}} (page 625)</ref><ref>Dietrich, Cornelius Frank (1991) ''Uncertainty, Calibration and Probability: The Statistics of Scientific and Industrial Measurement'' 2nd Edition, A. Higler. {{ISBN2|9780750300605}} (Page 331)</ref><ref>Aitken, Alexander Craig (1957) ''Statistical Mathematics'' 8th Edition. Oliver & Boyd. {{ISBN2|9780050013007}}  (Page 95)</ref>。

==ピアソンの積率相関係数==
[[File:Pearson Correlation Coefficient and associated scatterplots.png|thumb|様々な相関係数を持つデータ群の散布図。]]
{{main|ピアソンの積率相関係数}}
<!--本来「相関係数」記事に書くべき内容のため簡便に抄訳記述。-->

[[カール・ピアソン]]が考案した積率相関係数は<ref name="thirteenways">{{cite journal | last1 = Rodgers | first1 = J. L. | last2 = Nicewander | first2 = W. A. | year = 1988 | title = Thirteen ways to look at the correlation coefficient | journal = The American Statistician | volume = 42 | issue = 1| pages = 59-66 | jstor=2685263 | doi=10.1080/00031305.1988.10475524}}</ref>、2変数間の相関を示す尺度として最もよく知られており、単に「相関係数」と言えば通常は「[[ピアソンの積率相関係数]]」を指す。数学的には、2変数の[[共分散]]を[[標準偏差]]の積で除算するだけで得られる。

ピアソンの相関係数は、実際のデータ群が[[期待値]]からどの程度外れているかを示すもので、-1から+1までの値で表される。データ群の変数間に何らかの線形的な関係性があれば、数値に正または負の符号がつき{{Refnest|group="注釈"|ピアソン相関係数は線形相関（[[比例]]のような関係性）のみに対応しており、正の符号は一方が増加すると他方も増えていく「正の相関」を、負の符号は一方が増加すると他方が減っていく「負の相関」を表す<ref>統計WEB「[https://bellcurve.jp/statistics/course/9589.html　正の相関と負の相関]」2022年1月3日閲覧。</ref>。}}、無相関であれば値は0になる。

2つの[[確率変数]]を<math>X</math>と<math>Y</math>、各々の期待値を<math>\mu_X</math>と<math>\mu_Y</math>、そして標準偏差を<math>\sigma_X</math>と<math>\sigma_Y</math>とすると、母集団の相関係数<math>\rho_{X,Y}</math>は次のように定義される。
 
{{Equation box 1
|indent =
|title=
|equation = <math>\rho_{X,Y} = \operatorname{corr}(X,Y) = {\operatorname{cov}(X,Y) \over \sigma_X \sigma_Y} = {\operatorname{E}[(X-\mu_X)(Y-\mu_Y)] \over \sigma_X\sigma_Y}  </math>
|cellpadding= 6
|border
|border colour = #0073CF
|background colour=#F5FFFA}}

ここでの<math>\operatorname{E}</math>は期待値の[[関数 (数学)|作用素]]、<math>\operatorname{cov}</math>は[[共分散]]を意味し、<math>\operatorname{corr}</math>は相関係数の代替表記として広く使われている。ピアソン相関は、両方の標準偏差が有限かつ正の値である場合にのみ定義される。[[積率]]の観点から、次の式に書き改めたりもする。

{{Equation box 1
|equation = <math>\rho_{X,Y} =  {\operatorname{E}(XY)-\operatorname{E}(X)\operatorname{E}(Y)\over \sqrt{\operatorname{E}(X^2)-\operatorname{E}(X)^2}\cdot \sqrt{\operatorname{E}(Y^2)-\operatorname{E}(Y)^2} } </math>
}}

===対称性===
この相関係数は対称性があり、<math>\operatorname{corr}(X,Y)=\operatorname{corr}(Y,X)</math>である。これは乗算の[[可換性]]によって証明される。

=== 積のような相関 ===
確率変数<math>X</math>と<math>Y</math>の標準偏差を<math>\sigma_X>0</math>と<math>\sigma_Y>0</math>とすると、次のことが言える。{{Equation box 1
|indent =
|title=
|equation = <math>\operatorname{corr}(X,Y) = \operatorname{corr}(X,\operatorname{E}(X \mid Y)) \operatorname{corr}(\operatorname{E}(X \mid Y),Y)  </math>
|cellpadding= 6
|border
|border colour = #0073CF
|background colour=#F5FFFA}}

===相関と独立===
ピアソン相関係数の<!--絶対値が1より大きくならないのは[[コーシー＝シュワルツの不等式]]の[[系 (数学)|系]]で当然の帰結である。したがって-->値は-1から+1の範囲をとり、完全な正の線形相関にあれば+1、完全な負の相関関係にあれば-1になる。それ以外の場合は-1から+1の範囲内にある何らかの値をとり、変数間における相関の強弱度合いを表す。値がゼロに近いほど関係性が乏しい（無相関に近い）ことになり、-1や+1に近いほど強い相関があることになる<ref name=acdmy>[[内閣府]]統計局「[http://www.stat.go.jp/naruhodo/10_tokucho/hukusu.html　なるほど統計学園　10.特徴を捉える]」2022年1月3日閲覧。</ref>。

変数同士が[[独立 (確率論)]]である場合{{Refnest|group="注釈"|name=depend|[[確率論]]では、各々の変数が独立していない場合に「'''従属'''(dependence)」という用語を使う<ref>具体例で学ぶ数学「[https://mathwords.net/kakuritudokuritu 確率における独立と従属の意味と例]」2018年2月5日</ref>。この従属は「独立でなく何らかの関係性がある」という意味で、相関と同義である。}}ピアソン相関係数は0となる。ただしピアソン相関係数は2変数間の線形相関のみを検出するため、この[[逆]]が真とは限らない。
{{Equation box 1
|indent =
|title=
|equation = <math>\begin{align}

X,Y \text{ が 独 立} \quad & \Rightarrow \quad \rho_{X,Y} = 0 \quad (X,Y \text{ が 無 相 関 })\\
\rho_{X,Y} = 0 \quad (X,Y \text{ が 無 相 関 })\quad & \nRightarrow \quad X,Y \text{ が 独 立}
\end{align}</math>
|cellpadding= 6
|border
|border colour = #0073CF
|background colour=#F5FFFA}}

例えば、確率変数<math>X</math>が対称分布で<math>Y=X^2</math>だとする。その場合<math>Y</math>は完全に<math>X</math>によって決定されるため<math>X</math>と<math>Y</math>は完全に従属だが、線形相関のみを検知するピアソン相関係数では0となる。同様に、ピアソン相関係数が+1や-1に近い値を示したからといって、必ずしも2変量に関係性があるとは限らない。偶然にも相関があるかのような+1や-1に近い係数になることがあり、これは[[疑似相関]]（見せかけの相関）と呼ばれる<ref name=acdmy/>。なお、<math>X</math>と<math>Y</math>が[[多変量正規分布|正規分布]]という特殊なケースだと、無相関は独立と同義である。

無相関のデータが必ずしも独立を含むとは限らないが、[[相互情報量]]が0であれば確率変数が独立しているかどうかを確認可能である。

=== 例 ===
{{main|ピアソンの積率相関係数#例}}

<!--標本相関係数(Sample correlation coefficient)は、「相関係数」記事に書くべき内容のためセクションごと省略。-->
<!--順位相関係数(Rank correlation coefficients)は、「相関係数」記事に書くべき内容なのでセクションごと省略。-->
==確率変数間の従属を表す別の尺度==
[[ピアソンの積率相関係数]]によって与えられる情報だけでは、確率変数間の従属{{Refnest|group="注釈"|name=depend}}構造を定義するのに十分ではない<ref name="wilmottM.com">{{cite journal|author=Mahdavi Damghani B.|title=The Non-Misleading Value of Inferred Correlation: An Introduction to the Cointelation Model|journal=Wilmott Magazine|volume=2013|issue=67|pages=50-61|year=2013|doi=10.1002/wilm.10252 }}</ref> 。この相関係数は、分布が多変量正規分布の場合など、非常に特殊な場合にのみ従属構造を完全に定義する。[[楕円分布]]の場合、それは等密度の楕円という特性を有する。ただし、従属構造を完全に特徴付けるわけではない<!--（例えば、多変量[[t分布]]の自由度によってTail dependenceのレベルが決まる）-->。

[[距離相関]]{{enlink|Distance correlation }}<ref>{{cite journal | last1 = Sz?kely | first1 = G. J. Rizzo | last2 = Bakirov | first2 = N. K. | year = 2007 | title = Measuring and testing independence by correlation of distances | journal = [[Annals of Statistics]] | volume = 35 | issue = 6| pages = 2769?2794 | doi = 10.1214/009053607000000505 | arxiv = 0803.4101 }}</ref><ref>{{cite journal | last1 = Sz?kely | first1 = G. J. | last2 = Rizzo | first2 = M. L. | year = 2009 | title = Brownian distance covariance | journal = Annals of Applied Statistics | volume = 3 | issue = 4| pages = 1233-1303 | doi = 10.1214/09-AOAS312 | pmid = 20574547 | pmc = 2889501 | arxiv = 1010.0297 }}</ref>は、従属確率変数についてゼロになりうるというピアソン相関の欠陥に対処する目的で導入された。距離相関のゼロは独立性を意味する。

確率的依存係数(Randomized Dependence Coefficient,RDC)<ref>Lopez-Paz D. and Hennig P. and Sch?lkopf B. (2013). "The Randomized Dependence Coefficient", "[[Conference on Neural Information Processing Systems]]" [http://papers.nips.cc/paper/5138-the-randomized-dependence-coefficient.pdf Reprint]</ref> は、計算効率の良い多変量確率変数間の[[コピュラ (統計学)]]に基づく依存<ref>野澤 勇樹、中村 信弘「[https://www.ism.ac.jp/editsec/toukei/pdf/68-1-087.pdf 確率的依存構造をもつコピュラモデル]」『統計数理』第68巻 第1号、統計数理研究所、2020年、87-106頁。コピュラモデルに関しては従属ではなく「依存」という訳語を使っている。意味合いは従属・相関と同じ。</ref>の尺度である。RDCは確率変数の非線形[[スケール|スケーリング]]{{要曖昧さ回避|date=2023年10月}}に関して不変であり、関数に関連した幅広いパターンを発見可能であり、独立では値が0になる。

バイナリ変数{{Refnest|group="注釈"|選挙で当選した人は〇、落ちた人は×、のように二つの値だけ（通常0か1）を取る特別な変数のこと。[[計量経済学]]などでは「ダミー変数」とも呼ばれる<ref>コトバンク「[https://kotobank.jp/word/%E3%83%80%E3%83%9F%E3%83%BC%E5%A4%89%E6%95%B0-1183807 ダミー変数]」世界大百科事典 第２版の解説より</ref>。}}2つの場合、[[オッズ比]]はその従属性を測るもので、数値が負になることはなく場合によっては無限大{{math|[0, +infty]}}となる。ユールのY{{enlink|Yule's Y }}や[https://bellcurve.jp/statistics/glossary/528.html ユールのQ]などの関連統計は、これを相関のような{{math|[-1, 1]}}の範囲に正規化している。オッズ比は、[[ロジスティック回帰]]モデルによって従属変数が離散かつ独立変数が1つ以上あっても構わないモデルケースに一般化されたものである。

[[相関比]]、[[エントロピー]]に基づく[[相互情報量]]、[[合計相関]]、[[二重合計相関]]、[[多分相関]]もまた全て、それらの間のコピュラを考慮することで、より一般的な依存関係を検出しうる機能がある。一方で[[決定係数]]は、相関係数を[[線形回帰|重回帰]]へと一般化する。

==データ分布に対する感度==
変数<math>X</math>と<math>Y</math>間の従属度合いは、その変数が表されるスケールに左右されない。つまり、<math>X</math>と<math>Y</math>間の関係性を分析している場合、大半の相関尺度は<math>X</math>を''a''&nbsp;+&nbsp;''bX''へと<math>Y</math> を''c''&nbsp;+&nbsp;''dY''へと変換したところで影響を受けない（ここでのa, b, c, dは定数で、bとdは正値）。 これは、一部の相関統計ならびにその類似群にも当てはまる。[[順位相関係数]]など一部の相関統計は、 <math>X</math>や<math>Y</math>の[[周辺分布]]の[[単調変換]]に対しても不変である。 

[[File:correlation range dependence.svg|300px|right|thumb|2変数の範囲を限定しない場合（オレンジ）と範囲限定する場合（図では<math>X</math>範囲が0-1の水色）とで、<math>X</math>と<math>Y</math>間の各相関係数は異なってくる。]]

大半の相関尺度は、<math>X</math>と<math>Y</math>が標本採集された手法に大きく反応する。（右図で例示されているように）より広い範囲で値を見たほうが従属関係は強くなる傾向がある。したがって、成人男性全員から父親と息子間における身長の相関係数を考えた場合と、父親の身長を165-170cmに絞った場合に算出される同様の相関係数と比較すると、後者の場合は相関が弱くなる筈である。一方または双方の変数における制限範囲を修正しようとする手法が幾つか開発されており、[[メタ解析]]で一般的に使用されている。最も一般的なものが、ソーンダイクによるケースIIとケースIIIの式である<ref>{{cite book|last=Thorndike|first=Robert Ladd|title=Research problems and techniques (Report No. 3)|year=1947|publisher=US Govt. print. off.|location=Washington DC}}</ref>。

<math>X</math>と<math>Y</math>における特定の同時分布では、使われている様々な相関尺度が定義されない場合もある。例えば、[[ピアソンの積率相関係数]]は[[積率]]の観点から定義されるため、積率が未定義であれば定義できなくなる。[[分位数]]に基づく従属性の尺度は常に定義される。母集団の従属性尺度を推定することを目的とした標本ベースの統計には、データ採集された母集団の空間構造に基づく[[偏り|不偏性]]であったり漸近的な一貫性（一致性）<ref>統計WEB「[https://bellcurve.jp/statistics/course/8612.html 18-3. 推定量の性質]」BellCurve、2022年1月3日閲覧。</ref>があるなどの望ましい統計的特性を有する場合もあればそうでない場合もある。

データ分布に対する感度は有益に活用されている。例えば、スケール変換済みの相関{{enlink|scaled correlation}}は時系列のうち短い期間での相関関係を拾い出す目的でその範囲への感度を調整するように工夫されたものである<ref name = "Nikolicetal">{{cite journal | last1 = Nikolić | first1 = D | last2 = Muresan | first2 = RC | last3 = Feng | first3 = W | last4 = Singer | first4 = W | year = 2012 | title = Scaled correlation analysis: a better way to compute a cross-correlogram | journal = European Journal of Neuroscience | volume = 35| issue = 5| pages = 1-21 | doi = 10.1111/j.1460-9568.2011.07987.x | pmid = 22324876 }}</ref>。規定された方法で値の範囲を縮めることにより、長期間スケールの相関が除外され、短期間スケールの相関のみが明らかとなる。

==相関行列==
<math>n</math>の相関行列の確率変数<math>X_1,\ldots,X_n</math> は<math>n \times n</math>の行列で、その[[行列要素|成分]]<math>(i,j)</math>は<math>\operatorname{corr}(X_i,X_j)</math>である。したがって、対角成分はすべて等しく1である。
使用される相関の尺度が積率相関係数である場合、相関行列は標準化された確率変数<math>X_i / \sigma(X_i)</math> for <math>i = 1, \dots, n</math>の[[共分散行列]]と同一である。これは母集団相関行列（その場合<math>\sigma</math>は母集団標準偏差）と標本相関行列（この場合<math>\sigma</math> は標本標準偏差を示す）の両方に当てはまる。したがって、各々が[[行列の定値性|半正定値行列]]である必要性がある。さらに、他の値の線形関数として全ての値を生み出せる変数がない場合、相関行列は厳密に正定値である。

<math>X_i</math>と<math>X_j</math>とが相関関係であり、<math>X_j</math>と<math>X_i</math>との相関も同じであるため、相関行列は対称である。

相関行列は、例えば[[相関係数|重相関係数]]の場合1つの式の中に現れ、[[重回帰分析|重回帰]]における適合度の尺度として表示される。

[[統計モデル]]構築において、変数間の関係を表す相関行列は異なる相関構造に分類され、推定に必要なパラメータの数などの要因によって区別される。例えば、確率変数が交換可能{{enlink||Exchangeable random variables}}な相関行列では、変数同士のあらゆるペアが同じ相関を持つものとしてモデル構築されるため、行列の対角以外の成分は全て互いに等しくなる。一方、尺度は時間的に密接している場合に相関が大きくなりがちなので、変数が時系列を表す場合はしばしば[[自己回帰モデル|自己回帰]]行列が使用される。<!--その他の例としては、独立、非構造化、[[線型独立|M次独立]]、[[テプリッツ行列]]が含まれる。-->

[[探索的データ解析]]の相関図{{enlink|Iconography of correlations}}は相関行列を置き換えたダイアグラムで出来ており、そこでは「顕著な」相関が実線（正の相関）または点線（負の相関）で表されている。

==最近傍相関行列==
一部の応用(例えば、部分的に観測されたデータだけでデータモデルを構築する)において、相関を近似的に表す行列からそれに最も近い相関行列（例えば、計算方法が原因で通常は[[行列の定値性#定義|半正値]]の条件を満たさない行列）を見つけたい人もいる<ref> NAG「[https://www.nag-j.co.jp/naglib/nearest_correlation_matrix.htm　最近傍相関行列の計算]」2022年1月3日</ref>。

2002年、[[ニコラス・ハイアム]]<ref>{{cite journal|title=Computing the nearest correlation matrix-a problem from finance|journal=IMA Journal of Numerical Analysis|date=2002|first=Nicholas J.|last=Higham|volume=22|issue=3|pages=329-343|doi=10.1093/imanum/22.3.329|citeseerx=10.1.1.661.2180}}</ref> は[[フロベニウス標準形]]を
用いて近傍(nearness)の概念を形式化し、[[ダイクストラ法]]を用いて最近傍相関行列を計算する方法を提示した<ref>{{Cite web|url=https://portfoliooptimizer.io/|title=Portfolio Optimizer |website=portfoliooptimizer.io/|access-date=2021-01-30}}</ref>。 

これが主題への関心を巻き起こし、その後数年間で新たな理論的成果（例えば、因子構造を用いた近傍行列の算出<ref>{{cite journal|title=Computing a Nearest Correlation Matrix with Factor Structure.|journal= SIAM J. Matrix Anal. Appl.|date=2010|first=Rudiger|last=Borsdorf|first2=Nicholas J.|last2=Higham|first3=Marcos|last3=Raydan|volume=31|issue=5|pages=2603-2622|doi=10.1137/090776718}}</ref>）や数理上の成果（例えば、最近傍相関行列を算出するために[[ニュートン法]]を用いる<ref>{{cite journal|title=A quadratically convergent Newton method for computing the nearest correlation matrix.|journal= SIAM J. Matrix Anal. Appl.|date=2006|first=HOUDUO|last=Qi|first2=DEFENG|last2=Sun|volume=28|issue=2|pages=360-385|doi=10.1137/050624509}}</ref>）が得られた。

==確率過程の無相関と独立==
2つの[[確率過程]]<math>\left\{ X_t \right\}_{t\in\mathcal{T}}</math>と<math>\left\{ Y_t \right\}_{t\in\mathcal{T}}</math>についても同様である。仮に両者が独立しているのなら、無相関である<ref name=KunIlPark>{{cite book | author=Park, Kun Il| title=Fundamentals of Probability and Stochastic Processes with Applications to Communications| publisher=Springer | year=2018 | isbn=978-3-319-68074-3}}</ref>{{rp|p. 151}}。この命題の[[逆]]が真とは限らない。2変数が無相関だとしても、互いに独立していない場合がある。

==よくある誤解==
===相関と因果===
{{Main|相関関係と因果関係}}{{see also|多変量正規分布#相関と独立性}}

「相関関係は因果関係を含意しない」という慣例的な語句は、相関関係がそれ自体から変数同士の因果関係を推測するのには使えないという意味である<ref>{{cite journal | last=Aldrich | first=John | journal=Statistical Science | volume=10 | issue=4 | year=1995 | pages=364-376 | title=Correlations Genuine and Spurious in Pearson and Yule | jstor=2246135 | doi=10.1214/ss/1177009870| doi-access=free }}</ref>。この語句を、相関関係が因果関係の可能性を示すことができないという意味で捉えてはならない。しかし、相関関係の根底にある原因は間接的であったり未知な可能性もあり、高い相関は因果関係が存在しない[[等号]]関係（[[トートロジー]]）とも重複しうる。それゆえ、2変数間の相関関係は因果関係を（どちら向きにも）確立するだけの十分条件とはならない。

子供の年齢と身長との相関関係はだいぶ因果関係が透明であるが、ヒトの気分と健康との相関関係はそこまでとはいえない。慣用句で「[[病は気から]]」とあるが、病気に罹る・罹らないは我々の気分次第なのか？ 健やかな気分は健康をもたらすのか？ 健康は健やかな気分をもたらすのか？ 何か別の要因が両者の根底にあるのではないか？{{Refnest|group="注釈"|近年の研究では、大きな[[ストレス (生体)|精神的ストレス]]を受けると[[自律神経]]のバランスが崩れて[[免疫力]]が弱まるため、風邪などの[[感染症]]に罹るリスクが高まることが判明している<ref>[[大塚製薬]]「[https://www.otsuka.co.jp/b240/mechanism/reason2.html 免疫力低下の原因]」2022年1月3日閲覧。</ref>。大きなストレスは気分をかき乱すと共に感染症リスクにも影響を与える、両者に関連した根底の別要因（[[潜伏変数]]）だと言える。こうした潜伏要因によって、さも因果関係があるように推測されることを「[[擬似相関]]」という。}}。 相関関係を因果関係の証拠として採用することは可能だが、どんな相関関係があったとしても因果関係が何であるかを示すことはできない。

===単純な線形相関===
[[File:Anscombe's quartet 3.svg|thumb|300px|right|4つのデータ群は、いずれも相関係数が同じ0.816である。]]

[[ピアソンの積率相関係数]]は2変数間の線形関係の強さを示すが、一般にその値は両者の関係を完全に特徴付けるものではない<ref>{{cite journal |first=Babak |last=Mahdavi Damghani |year=2012|title=The Misleading Value of Measured Correlation |journal=[[Wilmott (magazine)|Wilmott Magazine]] |volume=2012 |issue=1 |pages=64-73 |doi=10.1002/wilm.10167}}</ref>。特に、<math>Y</math>の[[条件付期待値]]を<math>X</math>と置いた場合、示された<math>\operatorname{E}(Y \mid X)</math>が<math>X</math>内の線形ではないため、相関係数が完全には<math>\operatorname{E}(Y \mid X)</math>の形に定まらない。

右の図は[[フランシス・アンスコム]]による同一変数の[[散布図]]4組{{enlink|Anscombe's quartet}}を示している<ref>{{cite journal | last=Anscombe | first=Francis J. | year=1973 | title=Graphs in statistical analysis | journal=The American Statistician | volume=27 | issue=1 | pages=17-21 | jstor=2682899 | doi=10.2307/2682899}}</ref>。各<math>y</math>変数はどれも同じ平均(7.5)、分散(4.12)、相関(0.816)および回帰直線(y = 3 + 0.5x)を有する。しかし、散布図で見られるようにその変数分布は大きく異なる。

左上は正常分布しているように見え、相関があって正規性の仮定に従う2変数を考えた場合に期待される事象に対応しているように思える。右上 は正常分布とは異なるもので、2変数間の明らかな関係性は観察できるが線形ではない。この場合、ピアソン相関係数は厳密な関数的関係の存在を示すことはできず、その関係を線形関係で近似したものを示すに過ぎなくなる。左下では、相関係数を1から0.816に下げてしまうのに十分な影響を及ぼす[[外れ値]]1つを除けば、線形関係は完全である。最後の右下は、2変数間の関係が線形でないにもかかわらず、1つの外れ値が高い相関係数を生成するのに十分な例を示したものである。

これらの例は、相関係数が[[要約統計量]]{{enlink|Summary statistics}}として[[データ可視化]]による検討の代替にならないことを示すものである。これらの例は、ピアソン相関がデータが正規分布に従うことを前提にしていることを示すものと言わたりもするが、これは部分的に正しいに過ぎない<ref name="thirteenways"/>。ピアソン相関は、実際に遭遇したほとんどの分布を含む有限[[共分散行列]]を持つ分布について正確に計算することができる。ただし、ピアソン相関係数（サンプル平均値および分散値と一緒に取得）は多変量正規分布からデータが引き出された場合に[[十分統計量]]となるに過ぎないのである。その結果、ピアソン相関係数は多変量正規分布からデータが引き出された場合にのみ、変数間の関係を完全に特徴付けることになる。

==2変量正規分布==
{{Main|多変量正規分布}}
2つの確率変数<math>(X,Y)</math>が[[多変量正規分布#2変量の場合|2変量正規分布]]に従う場合、条件付き平均<math>\operatorname{E}(X \mid Y)</math>は<math>Y</math>,の線形関数である。<math>X</math>と<math>Y</math>間の相関係数<math>\rho_{X,Y}</math>は、[[周辺分布|周辺]]平均および<math> X </math>と<math> Y </math>の分散とともに、この線形関係を決定している。 
:<math>\operatorname{E}(Y\mid X) = \operatorname{E}(Y) + \rho_{X,Y} \cdot \sigma_Y\frac{X-\operatorname{E}(X)}{\sigma_X},</math>

ここで<math>\operatorname{E}(X)</math>と<math>\operatorname{E}(Y)</math>はそれぞれ<math>X</math>と<math>Y</math>の期待値で、<math>\sigma_X</math>と<math>\sigma_Y</math>はそれぞれ<math>X</math>と<math>Y</math>の標準偏差である。

経験的相関<math>r</math>は、相関係数<math>\rho</math>の[[推定量]]である。<math>\rho</math>の分布推定量は、以下の式にて求められる。
<math display="block">\pi (\rho | r) =
\frac{\Gamma(\nu+1)}{\sqrt{2\pi}\Gamma(\nu + \frac{1}{2})}
(1 - r^2)^{\frac{\nu - 1}{2}} \cdot
(1 - \rho^2)^{\frac{\nu - 2}{2}} \cdot
(1 - r \rho )^{\frac{1-2\nu}{2}} F\!\left(\frac{3}{2},-\frac{1}{2}; \nu + \frac{1}{2}; \frac{1 + r \rho}{2}\right)</math>

ここで<math>F</math>はガウスの[[超幾何関数]]であり<math>\nu = N-1 > 1</math>となる。この密度がベイズの[[事後確率|事後]]密度であり、正確な最適[[信頼分布]]密度でもある<ref>{{Cite journal|last=Taraldsen|first=Gunnar|date=2021|title=The Confidence Density for Correlation|url=https://doi.org/10.1007/s13171-021-00267-y|journal=Sankhya A|language=en|doi=10.1007/s13171-021-00267-y|s2cid=244594067|issn=0976-8378}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Taraldsen|first=Gunnar|date=2020|title=Confidence in Correlation|url=http://rgdoi.net/10.13140/RG.2.2.23673.49769|language=en|doi=10.13140/RG.2.2.23673.49769}}</ref>。

==標準誤差==
<math>x</math>と<math>y</math>が確率変数の場合、[[標準誤差]]は次の相関と関連性がある。
:<math>SE_r = \frac{1-r^2}{\sqrt{(n-2)}}</math>

ここで<math>r</math>は相関、<math>n</math>は標本数である<ref>{{Cite journal|last=Bowley|first=A. L.|date=1928|title=The Standard Deviation of the Correlation Coefficient|url=https://www.jstor.org/stable/2277400|journal=Journal of the American Statistical Association|volume=23|issue=161|pages=3134|doi=10.2307/2277400|issn=0162-1459}}</ref><ref>{{Cite web|title=Derivation of the standard error for Pearson's correlation coefficient|url=https://stats.stackexchange.com/questions/226380/derivation-of-the-standard-error-for-pearsons-correlation-coefficient|access-date=2021-07-30|website=Cross Validated}}</ref>。

==関連項目==
<!--英語版はリンク数過剰なため、日本語記事があるものに限定。-->
*[[自己相関]]
*[[カノニカル相関]]
*[[決定係数]]
*[[共和分]]
*[[相関関数]]
*[[相関係数]]
*[[共分散]]
*[[相互相関関数]]
*[[錯誤相関]]
*[[擬似相関]]

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈===
{{Reflist|group="注釈"}}
=== 出典 ===
{{Reflist|2}}

==外部リンク==
{{Commons category|Correlation}}
*統計WEB「[https://bellcurve.jp/statistics/course/　統計学の時間]」-26章「相関分析」
*[[内閣府]]統計局「[https://www.stat.go.jp/teacher/comp-learn-03.html　統計学習の指導のために]」-総合学習のための補助教材
* [http://mathworld.wolfram.com/CorrelationCoefficient.html MathWorld page on the (cross-)correlation coefficient/s of a sample]
* [https://www.scribd.comdoc/299546673/Proof-that-the-Sample-Bivariate-Correlation-has-limits-plus-or-minus-1 Proof that the Sample Bivariate Correlation has limits plus or minus 1]
* [http://nagysandor.eu/AsimovTeka/correlation_en/index.html Interactive Flash simulation on the correlation of two normally distributed variables] by Juha Puranen.

{{統計学|相関}}
{{Authority control}}

{{DEFAULTSORT:そうかん}}
[[Category:統計学]]
[[Category:確率論]]
[[Category:無次元数]]
[[Category:数学に関する記事]]