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[[Image:Vacuum polarization.svg|right|250px|thumb|[[量子電磁力学]]における真空偏極の[[ファインマン・ダイアグラム]]。波線は[[光子]]、実線は[[電子]]・[[陽電子]]対を表す。]] [[場の量子論]]において、'''真空偏極'''(しんくうへんきょく、vacuum polarization)とは、[[ボーズ粒子]]が[[仮想粒子|仮想的な]]粒子・反粒子対を生成する過程である。ボーズ粒子の[[自己エネルギー]]とも呼ばれる。 [[量子電磁力学]]においては、[[光子]]が[[電子]]・[[陽電子]]対を生成する反応を表し、[[量子色力学]]においては、[[グルーオン]]が[[クォーク]]・[[反クォーク]]対やグルーオン対を生成する反応として記述される。 ==概要== [[場の量子論]]において、系の[[基底状態]]である[[真空]]は何もない空間ではなく、[[仮想粒子]]としての粒子・反粒子のペアが生成し互いに消滅する反応が絶えず繰り返されている。これは、[[不確定性原理]]により、十分短い時間に起こる過程であれば、十分大きなエネルギーをとることが可能となるからである。 [[量子電磁力学]]においては、空間に[[電荷]]が存在している場合、その電荷が作り出す電場によって、電荷を持つ粒子・反粒子は偏極([[分極]])し、電荷周辺の真空中で「[[電気双極子]]の雲」を作る。このような反応により、元々あった電荷の大きさが、電気双極子がまとわりついた分だけ変化して観測される現象が真空偏極である。実際に観測できる電荷は、裸の電荷に対して逆符号の電荷が加わった状態であるから、裸の電荷より幾らか小さい値となる。 [[量子色力学]]においては状況が異なり、空間に[[色荷]]を持つ粒子が存在している場合、その色荷が作り出すグルーオン場によって、クォーク・反クォーク対や横波偏極のグルーオンが色荷の周囲に集まることで、裸の色荷を小さくするような遮蔽効果を及ぼすが、一方で、縦波偏極のグルーオンは逆符号の遮蔽効果を及ぼし、結果として、観測者が粒子に近づくほどその色荷は小さくなり、粒子から遠ざかるほど色荷は大きく観測される。この性質が[[強い相互作用]]における[[漸近的自由性]]である。 ==真空偏極テンソル== 真空偏極は真空偏極テンソルΠ<sup>μν</sup>(q)を用いて評価される。真空偏極テンソルはボーズ粒子が運ぶ[[四元運動量]]qの関数として記述され、これは真空偏極が運動量スケールのみに依存することを表している。真空が[[ゲージ不変性]]を満たすとき、一般的な表記は :<math> \Pi^{\mu\nu}(q^2) = (g^{\mu\nu}q^2 - q_{\mu}q_{\nu}) \Pi(q^2) \,</math> となる。ただし、この関数はq<sup>2</sup>=0において[[正則関数|正則]]である。 真空偏極テンソルを用いて[[電磁相互作用]]の[[結合定数 (物理学)|結合定数]]である[[微細構造定数]]を運動量に依存する量として書くことができる。1ループの補正まで含めたときの、微細構造定数は以下のように表される。 :<math> \alpha_\text{eff}(q^2) = \frac{e_0^2/ 4 \pi}{1 -\Pi(q^2)}= \frac{\alpha_0}{1 - [\Pi_2(q^2) - \Pi_2(0)]} </math> ここで、e<sub>0</sub>は裸の電荷、α<sub>0</sub>は裸の微細構造定数を表す。Πの添え字2は1ループ(電荷eの2乗)までの寄与という意味である。 ==計算例== [[量子電磁力学]](QED)における真空偏極の[[ファインマン・ダイアグラム]]の計算例を以下に示す。 各々の因子は[[ファインマンルール]]の定義によって異なるが、ここでは[[フェルミ粒子]]の[[伝播関数]] <math>i/(p\!\!/ -m+i \epsilon)</math> 、QEDの頂点因子<math>-ie\gamma^\mu \,</math>などを用いて、最低次の真空偏極を計算する。光子の運動量をq、フェルミ粒子と反フェルミ粒子が運ぶ運動量をそれぞれ、k+q、kとすると、 :[[Image:Vacuum polarization.svg|150px]] = <math> (-1) \int \frac{d^4k}{(2\pi)^4} \mathrm{tr}\left[ (-ie\gamma^\mu) \frac{i}{k\!\!\!/ -m+i \epsilon} (-ie\gamma^\nu) \frac{i}{k\!\!\!/ +q\!\!\!/ -m+i \epsilon} \right] \,</math> となる。ここで、係数-1はフェルミ粒子のループによって生じる因子である。この式は仮想粒子の運動量kについての積分であるので、光子の運動量qのみを変数とする関数である。さらにこの積分は、分子がd<sup>4</sup>k、分母がk<sup>2</sup>に比例するから、kについての2次発散を含むことが分かる。 ==参考文献== *{{Cite book| |author=M.E. Peskin |coauthors=D.V. Schroeder |year=1995 |title=An Introduction To Quantum Field Theory |publisher=Westview Press |isbn=978-0201503975 }} ==関連項目== * [[繰り込み]] {{DEFAULTSORT:しんくうへんきよく}} [[Category:場の量子論]] [[Category:真空]]
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