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'''破壊靱性'''(はかいじんせい、英語:fracture toughness)とは、[[き裂]]・き裂状の欠陥を有する[[材料]]に、[[力学]]的な負荷が加わったときの[[破壊]]に対する抵抗{{Sfn|日本機械学会|2007|p=1026}}。定量的には、[[破壊力学]]で用いられる力学的パラメータである[[応力拡大係数]]や[[J積分]]などで評価される{{Sfn|中井・久保|2014|p=72}}。材料の破壊に対する粘り強さの特性を意味する[[靱性]]の具体的な指標の一種{{Sfn|日本機械学会|2007|p=631}}。 元々は不安定なき裂進展形式の破壊現象である[[脆性破壊]]に対する[[材料定数]]を探るために研究されてきたが、現在では安定なき裂進展による[[延性破壊]]も含めて破壊靱性の手法で評価することが行われている{{Sfn|小林|1993|p=114}}。延性破壊のように[[塑性変形]]が無視できないほど起こるき裂進展に対しては、弾塑性破壊力学パラメータのJ積分やき裂先端開口変位で評価する必要があり、破壊靱性もそれらのパラメータ値で代表される{{Sfn|中井・久保|2014|pp=72–73}}。[[静力学|静的]]に負荷に対する破壊靱性は'''静的破壊靱性'''と呼ばれ、衝撃荷重のような動的負荷に対する破壊靱性は'''動的破壊靱性'''と呼ばれて区別される{{Sfn|大路・中井|2006|p=57}}。 同じ種類の金属材料で比較した場合、一般的傾向として、[[降伏応力]]や[[引張強さ]]が高い材料ほど破壊靱性は低下する{{Sfn|大路・中井|2006|p=50}}。あるいは、破壊靱性が高いほど、降伏応力や引張強さが低下する{{Sfn|東郷|2004|p=120}}。よって、強度的により優れた材料の開発にあたっては、引張強さと破壊靱性の両方をバランス良く向上させることが求められる{{Sfn|東郷|2004|p=120}}。 ==試験方法== 破壊靱性値を得るために、対象の材料から作成した試験片を用いて材料試験が行われる{{Sfn|日本機械学会|2007|p=1026}}。ただし、負荷形式、部材形状に破壊靱性値は影響されて変動する{{Sfn|小林|1993|p=124}}。そのため、破壊靱性試験の方法は規格として定められ、共通化されている{{Sfn|大路・中井|2006|p=51}}。特に、[[平面ひずみ状態]]での破壊靱性は材料が示す破壊靱性値の中でも最少であることから、平面ひずみ破壊靱性は実際の設計などでも重要な指標として用いられる{{Sfn|小林|1993|p=124}}{{Sfn|大路・中井|2006|p=51}}。 ===平面ひずみ破壊靱性試験=== その材料が小規模降伏条件と平面ひずみ条件を満たすときの破壊靭性値を求める試験としては、[[ASTM規格]] E399 による試験が広く用いられている{{Sfn|東郷|2004|pp=126–127}}。モードIの応力拡大係数で破壊靱性を評価するもので、'''''K''<sub>I''C''</sub>試験'''とも呼ばれる{{Sfn|大路・中井|2006|p=52}}。 ASTM E399 では、三点曲げ試験片とCT試験片の2種類が規定されている{{Sfn|金子・須藤・菅又|2004|p=92}}。どちらもスリット状の切欠きを備え、さらにその切欠き先端から疲労き裂をある長さまで予め発生させた試験が用いられる{{Sfn|中井・久保|2014|p=83}}。平面ひずみ破壊靱性値を適切に得るために、疲労き裂導入時の応力履歴、負荷速度、不安定き裂進展開始荷重の仮定など、多くの制約が存在する{{Sfn|大路・中井|2006|pp=53–54}}。また、これらの制約条件を試験後に検証する必要があり、得られた結果が全て有効な値とはならない点が他の材料試験とは異なる{{Sfn|大路・中井|2006|pp=54–55}}。 き裂長さを ''a''、リガメント長さを ''b'' とすると、得られた破壊靱性 ''K''<sub>I''C''</sub> が条件式 :<math>a, b \ge 2.5 \left(\frac{K_{Ic}}{\sigma_Y} \right)^2</math> を満たす場合に小規模降伏条件を満たしていると判断できる{{Sfn|小林|1983|p=1414}}。ここで、σ<sub>Y</sub>は材料の[[降伏応力]]である{{Sfn|小林|1983|p=1412}}。平面ひずみ状態については、試験厚さをBとすると、上式と同型の条件式 :<math>B \ge 2.5 \left(\frac{K_{Ic}}{\sigma_Y} \right)^2</math> を満たす場合に平面ひずみ条件を満たしていると判断できる{{Sfn|小林|1983|p=1414}}。 ===弾塑性破壊靱性試験=== [[靱性]]の高い材料になると、''K''<sub>I''C''</sub>試験の実施が困難になる{{Sfn|大塚・宮田|1983|p=97}}。応力拡大係数による平面ひずみ破壊靱性値を得るには、上記に示したような条件式を満たす必要があり、高靱性材料では大きな寸法の試験片が必要となる{{Sfn|金子・須藤・菅又|2004|p=94}}。また、実際の機械・構造物では、大規模降伏条件で破壊が発生することも少なくない{{Sfn|大塚・宮田|1983|p=97}}。このような大規模降伏条件下における破壊に対する破壊靱性値は、弾塑性破壊力学のパラメータである[[J積分]]や[[き裂先端開口変位]]により表される{{Sfn|東郷|2004|p=122}}。J積分値による破壊靱性の試験方法としては、平面ひずみ破壊靱性試験と同じく[[ASTM規格]]により規定されており、よく引用される{{Sfn|中井・久保|2014|p=82}}。'''''J''<sub>I''C''</sub>試験'''とも呼ばれる{{Sfn|大塚・宮田|1983|p=98}}。ただし、[[へき開破壊]]形式のき裂の進展は対象外となっている{{Sfn|大路・中井|2006|p=55}}。 == 脚注 == {{Reflist|2}} == 参考文献 == *{{cite book ja-jp |author=小林英男 |title=破壊力学 |publisher=共立出版 |edition=初版 |year=1993 |isbn=978-4-320-08100-0 |ref={{Sfnref|小林|1993}} }} *{{Cite book ja-jp |author = 中井善一・久保司郎 |year= 2014 |title = 破壊力学 |series=機械工学基礎課程 |publisher = 朝倉書店 |edition=初版 |isbn = 978-4-254-23793-1 |ref={{Sfnref|中井・久保|2014}} }} *{{Cite book ja-jp |author = 大路清嗣・中井善一 |year= 2006 |title = 材料強度 |series=機械系 大学講義シリーズ |publisher = コロナ社 |edition=初版 |isbn = 978-4-339-04039-5 |ref={{Sfnref|大路・中井|2006}} }} *{{cite book ja-jp |title = 材料強度解析学―基礎から複合材料の強度解析まで |author = 東郷敬一郎 |publisher = 内田老鶴圃 |year = 2004 |edition=第1版 |isbn=4-7536-5132-0 |ref={{Sfnref|東郷|2004}} }} *{{cite book ja-jp |title = 新版 基礎機械材料学 |author =金子純一・須藤正俊・菅又信 |publisher = 朝倉書店 |year = 2004 |edition=初版 |isbn=4-254-23103-2 |ref={{Sfnref|金子・須藤・菅又|2004}} }} *{{Cite book ja-jp |editor=日本機械学会 |title=機械工学辞典 |publisher=丸善 |year=2007 |edition=第2版 |isbn=978-4-88898-083-8 |ref={{Sfnref|日本機械学会|2007}} }} *{{Cite journal ja-jp |author = 小林英男 |year = 1983 |title = 5. 線形弾性破壊じん性 : 破壊力学入門 |publisher=日本材料学会 |journal = 材料 |volume = 32 |issue = 363 |pages = 1410–1415 |naid = 110002300498 |doi= 10.2472/jsms.32.1410 |ref={{Sfnref|小林|1983}} }} *{{Cite journal ja-jp |author = 大塚昭夫・宮田隆司 |year = 1983 |title = 6. 弾塑性破壊じん性, ''J''<sub>I''c''</sub> : 破壊力学入門 |publisher=日本材料学会 |journal = 材料 |volume = 32 |issue = 364 |pages = 97–103 |naid = 110002295439 |doi= 10.2472/jsms.33.97 |ref={{Sfnref|大塚・宮田|1983}} }} *{{Cite journal ja-jp |author = 青木繁 |year = 1983 |title = 7. 動破壊力学と動的破壊じん性 : 破壊力学入門 |publisher=日本材料学会 |journal = 材料 |volume = 32 |issue = 365 |pages = 229–235 |naid = 110002295461 |doi= 10.2472/jsms.33.229 |ref={{Sfnref|青木|1983}} }} *{{Cite web|和書|title=金属材料の破壊じん性試験 |url= http://www.kobelcokaken.co.jp/tech_library/pdf/no13/d.pdf |format=PDF |date=1998-04 |author=木内晃 |publisher=コベルコ科研 |accessdate=2016-02-06 }} {{デフォルトソート:はかいしんせい}} [[Category:破壊力学]] [[Category:物質の性質]] [[Category:物性値]]
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