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磁気流体力学
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{{出典の明記|date=2011年7月}} '''磁気流体力学'''(じきりゅうたいりきがく)または'''磁性流体力学'''(じせいりゅうたいりきがく、{{Lang-en|magnetohydrodynamics}})とは、[[電気伝導体|電導性]]の流体を扱うように拡張された[[流体力学]]であって、'''電磁流体力学'''(でんじりゅうたいりきがく)とも呼ばれ、またしばしばmagneto-hydro-dynamicsの頭文字をとって'''MHD'''と称せられる。 == 総説 == 磁気流体力学の基本的アイデアは、電導性流体の中では流体の運動が[[磁場]]の変化をもたらして[[電流]]を誘起し、その電流と磁場との相互作用から流体への力を生じ、よって流体の運動自身が変化する、というものである。対象とする物質は主に[[液体金属]]([[水銀]]や地球の[[外核]]など)と[[プラズマ]]である。そして基礎方程式として通常の流体力学の基礎方程式([[ナビエ-ストークス方程式]]と[[連続の式]])と[[電磁場]]の[[マクスウェルの方程式]]とを組み合わせて用いる。 磁気流体力学は[[1942年]]に宇宙の諸現象研究の過程で[[スウェーデン]]の[[ハンス・アルヴェーン]]が発表した論文、すなわち今日[[アルヴェーン波]]として知られている磁場中電導性流体特有の波の存在を述べた論文から始まった。そしてアルヴェーン自身を含む多くの人々の研究により大きく発展し、今日では[[宇宙空間物理学]]研究や[[原子核融合|熱核融合]]研究の基礎として広く用いられている。アルヴェーンは「電磁流体力学の基礎研究、プラズマ物理学への応用」により1970年に[[ノーベル物理学賞]]を受賞した。 == 磁気流体力学の仮定 == 磁気流体力学では、使用の実態に即して、近似として通常次の仮定がなされる。 まず、ここで扱うのは[[電気伝導度]]の相当よい流体であるから、導体の電気力学に倣って[[変位電流]]を無視し、磁場 '''B''' と電流 '''j''' とは[[アンペールの法則]]で結び付けられているとする。すなわち {{Indent|<math> \mbox{rot}\boldsymbol{B} = \mu\boldsymbol{j} </math> :(1)}} ここで <math>\mu</math> は流体の[[透磁率]]で、定数と仮定されている。 ついで流体はほぼ中性とし、[[電荷]]を流体が運ぶことで生ずる対流電流は伝導電流と比較して小さいとして無視し、電流は伝導電流のみであるとする。そしてそれは[[オームの法則]]により定まるとする。すなわち {{Indent|<math> \boldsymbol{j} = \sigma\left( \boldsymbol{E} + \boldsymbol{v} \times \boldsymbol{B} \right) </math> :(2)}} ここで <math>\sigma</math> は流体の電気伝導度である。ただし、この仮定は電荷密度<math>\rho_e</math> を 0 とすることではない。実際、上記2つの式から'''E''' を求めてガウスの式 <math> \rho_e = \mbox{div}(\epsilon \boldsymbol{E}) </math> に代入すれば 0 でない <math>\rho_e</math> が求まる。ここで<math>\epsilon </math> は流体の[[誘電率]]である。 また、これら2つの式を用いて、電磁誘導に関する[[マクスウェルの式]] <math>\mbox{rot}{\mathit{E}} + \partial \boldsymbol{B}/\partial t = 0</math> から電場 '''E''' を消去すると、次の誘導方程式が得られる。 {{Indent|<math> \frac{ \partial \boldsymbol{B}}{\partial t} = \mbox{rot} (\boldsymbol{v} \times \boldsymbol{B}) + \frac {1}{\sigma \mu}\Delta \boldsymbol{B}</math> :(3)}} ここで<math>\mbox{rot}\ \mbox{rot}\boldsymbol{B} = \mbox{grad}\ \mbox{div}\boldsymbol{B} - \Delta \boldsymbol{B} = - \Delta \boldsymbol{B} </math> を用いた。また <math>\sigma</math> は定数と仮定した。 なおまた、運動方程式においても電荷密度が小さいので、電場による力は省略して、流体に及ぼす力は磁場による力 <math>\boldsymbol{j} \times \boldsymbol{B} </math> のみであるとする。 こうして、運動方程式と方程式(1)および(3)により方程式系は変数 <math>\boldsymbol{v}</math> と <math>\boldsymbol{B}</math> とで閉じて、見かけ上、電場 <math>\boldsymbol{E}</math> は完全に消去される。これが磁気流体力学の名の起こりである。しかし、電流を規定するという意味で電場の役割は本質的で、具体的問題では電場を考慮せずには解くことができないこともある。 == 有用な諸概念 == === 磁場の圧力と張力 === この節では都合により、'''ベクトル微分演算子''' <math>\nabla</math> を用いる記法で記述する。 流体に働く力 <math> \boldsymbol{f} = \boldsymbol{j} \times \boldsymbol{B} </math> は <math>\boldsymbol{j}</math> に(1)式を代入し、変形すると {{Indent|<math> \boldsymbol{f} = -\nabla \left( \frac{B^2}{2\mu} \right) + \frac{1}{\mu} \left(\boldsymbol{B} \cdot \nabla \right) \boldsymbol{B} </math> :(4)}} となる。ここで右辺第1項は磁場の等方的圧力 (<math> B^2/2\mu </math>) による力と解釈出来る。また第2項はその点での磁場方向の単位ベクトルを <math> \boldsymbol{b} </math>、その方向を ''z''方向にとると {{Indent|<math> \frac{1}{\mu} \left(\boldsymbol{B} \cdot \nabla \right) \boldsymbol{B} = \frac{\partial }{\partial z} \left( \frac{B^2}{2\mu} \right)\boldsymbol{b} + \frac{B^2}{\mu} \frac{\partial}{\partial z} \boldsymbol{b} </math> :(5)}} となり、第1項は磁場方向の張力で、(4)式第1項の ''z'' 成分と打ち消し合う。また第2項は磁力線が湾曲しているとき、 {{Indent|<math> \frac{\partial}{\partial z} \boldsymbol{b} = \frac {1}{R} \boldsymbol{e}_R </math> :(6)}} (ここで ''R'' は磁力線のその点での[[曲率半径]]、<math>\boldsymbol{e}_R </math> はその点から曲率中心へ向かう単位ベクトル)となることから解る通り、大きさ (<math> B^2/\mu </math>) の張力により流体を曲率中心の方向へ引っ張る力である。 かくして結局、流体に作用する力は {{Indent|<math> \boldsymbol{f} = -\nabla_\perp \left( \frac{B^2}{2\mu} \right) + \frac{B^2}{\mu}\frac {1}{R} \boldsymbol{e}_R </math> :(7)}} (<math>\nabla_\perp</math> は磁力線に直角な2次元微分演算子)と書くことが出来て、磁力線に直角に働く大きさ (<math> B^2/2\mu </math>) の磁場の圧力と、磁力線の湾曲を引き延ばすように働く大きさ(<math> B^2/\mu </math>)の磁場の張力とからなる、と言うことが出来る。 === 理想MHD === MHDで、電気伝導度 <math>\sigma </math> を十分大きいとして <math> \sigma \rightarrow \infty </math> とおいたものを '''理想MHD(ideal MHD)''' といい、広い応用をもつ。 そこではオームの法則(2)は電場を <math> \boldsymbol{E} = - \boldsymbol{v} \times \boldsymbol{B} </math> と定めるのに用いられ、電流 <math> \boldsymbol{j} </math> はアンペールの法則(1)により定まるものとされる。そして誘導の方程式(3)は右辺の第2項が省略出来て {{Indent|<math> \frac{ \partial \boldsymbol{B}}{\partial t} = \mbox{rot} (\boldsymbol{v} \times \boldsymbol{B}) </math> :(8)}} となる。理想MHDが使えるのは、式(3)右辺の第2項が第1項に比して十分小さく、(8)が正しくなる場合に限られる。 式(3)の右辺第1項と第2項との大きさの比は、流れを表す代表的な速度、大きさをそれぞれ ''U,L'' とすると、おおよそ {{Indent|<math> R_m = \sigma \mu UL </math> :(9)}} となり、'''磁気レイノルズ数( Magnetic Reynolds number )'''と呼ばれる。そして ''R<sub>m</sub>'' ≫ 1 が理想MHDの適用出来る条件である。通常の実験室内の電導性流体では''R<sub>m</sub>'' は高々1の程度の大きさの量であるが、宇宙プラズマでは ''L'' が非常に大きいため、また超高温プラズマでは <math>\sigma</math> が非常に大きいために、いずれも ''R<sub>m</sub>'' →∞ の仮定が十分正しくなり、理想MHDが適用される。 === 磁力線と流体との凍り付き === 理想MHDのもっとも顕著な特色は磁力線と流体との凍り付きである。ある時刻の磁力線はその時の磁場分布だけで定まり、異なる時刻の磁力線同士を関係付ける方法は一般には存在しない。しかし、理想MHDのもとでは方程式(8)のおかげで、ある点の磁力線はそこでの流体の速度 <math>\boldsymbol{v}</math> で動く、すなわち磁力線は流体と一緒に動くとする扱いが許される。この現象を'''凍り付き(froze in)'''と言う。その結果、磁力線は流体により運ばれて時間とともに移動していく(対流)、もしくは磁力線は流体を凍り付かせて質量密度をもつ実体として運動する、という描像を画くことが出来る。 一方、もとの方程式(3)に戻れば、電気伝導度 <math>\sigma</math> が有限な場合は右辺第2項は磁場<math>\boldsymbol{B}</math> の拡散を表す。すなわち、<math>\sigma</math> が有限な場合は磁力線と流体との凍り付きは完全ではなく、磁場は流体中を拡散する。そしてその緩和時間は <math> t_c = \sigma \mu L^2 </math> で与えられる。 === プラズマベータ === MHDで重要な無次元量は磁気レイノルズ数の他にもう一つあり、それが[[ベータ値 (プラズマ物理)|プラズマベータ]]である。プラズマベータは流体の圧力と磁気圧の比であり、 {{Indent|<math> \beta = \frac{P}{P_{mag}} = \frac{2\mu P}{B^2} </math> :(10)}} と数式では表される。プラズマベータが1より大きいときは流体の圧力の影響が大きく磁力線は流体により運ばれ、1より小さい時は磁力線が流体を凍り付かせて運ぶ。 === 応用例 アルヴェーン波 === 一般に線密度 <math>\rho</math>、張力 ''T'' をもつ糸には速さ <math>\sqrt{T/\rho}</math> の横波が伝播する。上により、磁力線は流体に凍り付いているから、単位断面積の磁力管を考えると、それは線密度 <math>\rho_m</math>の流体の糸と見なせる(<math>\rho_m</math> は流体の質量密度)。そしてそれに大きさ <math> B^2/\mu </math> の張力がかかっているから、磁気流体中には磁力線に沿って速さ {{Indent|<math> v_A = \frac{B}{\sqrt{\rho_m\mu}} </math> :(11)}} の横波が伝播する。これが[[アルヴェーン波]]である。 == 関連項目 == * [[MHD発電]] * [[プラズマ宇宙論]] * [[ダイナモ理論]] == 参考文献 == * [[今井功 (物理学者)|今井功]]・桜井明『電磁流体力学』岩波講座 現代物理学V.H.、[[岩波書店]]、1959年。 * 柴田一成・横山央明・工藤 哲洋『宇宙電磁流体力学の基礎』日本評論社〈宇宙物理学の基礎〉、2023年。{{ISBN2|978-4535603417}} == 外部リンク == * {{Wayback|url=http://www.scholarpedia.org/article/Magnetohydrodynamics |title=Magnetohydrodynamics |date=20061229085358}} - [[スカラーペディア]]百科事典「磁気流体力学」の項目。 {{Physics-stub}} {{Normdaten}} {{DEFAULTSORT:しきりゆうたいりきかく}} [[Category:流体力学]] [[Category:電磁気学]] [[Category:ハンス・アルヴェーン]] [[ru:Электродинамика сплошных сред]]
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