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'''窒素固定'''(ちっそこてい)とは、[[空気]]中に多量に存在する安定な(不活性)[[窒素]][[分子]]を、反応性の高い他の[[窒素化合物]]([[アンモニア]]、[[硝酸塩]]、[[二酸化窒素]]など)に変換するプロセスをいう。 [[自然界]]での窒素固定は、いくつかの[[真正細菌]]([[細菌]]、[[放線菌]]、[[藍藻]]、ある種の[[嫌気性生物|嫌気性細菌]]など)と一部の[[古細菌]]([[メタン菌]]など)によって行われる。これらの[[微生物]]には、種特異的に他の[[植物]]や、[[動物]]([[シロアリ]]など)と[[共生]]関係を形成しているものもある。また、[[雷]]の[[放電]]や[[太陽]]からの[[紫外線]]、[[山火事]]や[[火力発電所]]、[[内燃機関]]での燃焼により、窒素ガスの[[酸化]]によって[[窒素酸化物]]が生成され、これらが雨水に溶けることで、[[土壌]]に固定される。 これとは逆に窒素化合物を分子状[[窒素]]として大気中へ放散させる作用または工程は[[脱窒]]と呼ばれ、窒素固定と合わさることで[[窒素循環]]が成立している。 また、[[アンモニア]]合成を代表として人工的に窒素分子を他の窒素化合物に変換する手法も幾つか[[開発]]されており、[[工業]]的に非常に重要な位置を占めている。 == 窒素固定の総量 == 研究者によって推定量は異なっている。 * Burns and Hardy<ref>Burns, R.C. and R.W.F. Hardy(1975)Nitrogen fixation in bacteria and higher plants, Springer Verlag, Berlin/New York., {{doi|10.1002/jobm.19780180215}}</ref> によれば(生物由来)、 ** 陸上 140TgN/yr{{Refnest|テラグラム窒素/年。地球表面または海面1m<sup>2</sup>より放出される一酸化二窒素(N<sub>2</sub>O)の窒素(N)換算量<ref>{{Cite journal|和書|author=吉川知里 |year=2016 |url=https://doi.org/10.20665/kakyoshi.64.4_178 |title=海から放出される一酸化二窒素 |journal=化学と教育 |ISSN=0386-2151 |publisher=日本化学会 |volume=64 |issue=4 |pages=178-179 |doi=10.20665/kakyoshi.64.4_178 |accessdate=2023-12-26}}</ref>{{rp|2}}。テラグラム(Tg)は10<sup>12</sup>g|group="注"}} ** 海洋 36TgN/yr * {{harvnb|佐竹(2010)}}<ref>[http://www.airies.or.jp/journal_15-2jpn.html 『地球環境』Vol.15 No.2] 国際環境研究協会</ref>の報告によれば、 ** 人為起源 156TgN/yr ** 海洋生物 121TgN/yr ** 陸上生物 107TgN/yr ** 空中放電 5TgN/yr (3-10TgN/yr の中間値) == 生物学的窒素固定 == [[ファイル:Nitrogen Cycle ja.svg|thumb|410px|[[窒素循環]]のモデル図]] ある種の細菌がもっている[[酵素]]の[[ニトロゲナーゼ]]は、[[大気]]中の窒素を[[アンモニア]]に変換するはたらきを持ち、この作用を'''[[生物学]]的窒素固定'''といい、窒素固定を行う微生物を'''ジアゾ[[栄養]]生物'''(diazotroph)という。 ニトロゲナーゼによる窒素固定反応は、次式のように表される。 :<chem>{N2} + {8H^+} + {8\mathit{e}^-} + 16 ATP -></chem> ::<chem>{2NH3} + {H2} + {16ADP} + 16Pi</chem> * [[アデノシン三リン酸|ATP]] = アデノシン三リン酸 , [[アデノシン二リン酸|ADP]] = アデノシン二リン酸 , [[リン酸|Pi]] = リン酸 この反応による直接の生成物はアンモニア(NH<sub>3</sub>)であるが、これはすぐに[[イオン (化学)|イオン]]化されてアンモニウム(NH<sub>4</sub><sup>+</sup>)になる。生きているジアゾ栄養生物であれば、ニトロゲナーゼで作られたアンモニウムは、グルタミンシンセターゼ/グルタミン酸シンターゼ経路によって[[代謝#同化|同化]]され、[[グルタミン酸]]塩となる。<!-- 単細胞生物やシンプルな生き物に関しての説明文みたいですが、適切な文が思い浮かびませんので、このままにおいておきます。JYOQ2 -->また、[[亜硝酸菌]]や[[硝酸菌]]といった[[硝化細菌]]の存在下では、最終的にアンモニウム塩は[[硝酸塩]]として、[[植物]]が利用できる形になる。 生物学的窒素固定は[[オランダ]]の微生物学者、[[マルティヌス・ベイエリンク]]とロシア(ウクライナ)の[[セルゲイ・ヴィノグラドスキー]]によって発見された。 [[真正細菌]]である[[リゾビウム属]]などの[[根粒菌]]は窒素固定能を持つ<ref>アン・マクズラック著、西田美緒子訳 『細菌が世界を支配する』 p186、白揚社、2012年9月30日、ISBN 978-4-8269-0166-6</ref>。 [[パエニバシラス・ポリミキサ]](''P. polymyxa'')は窒素固定能を持つ<ref name=Grau1962>{{cite journal|author=F. H. Grau; P. W. Wilson |title=Physiology of nitrogen fixation by ''Bacillus polymyxa'' |journal=J. Bacteriol. volume=83 |page=490–496 |year=1962 |issue=3 |url=https://doi.org/10.1128/jb.83.3.490-496.1962 |doi=10.1128/jb.83.3.490-496.1962}}</ref>。 === マメ科植物との共生的窒素固定 === [[シャジクソウ属|クローバー]]、枝豆などの[[マメ科]]植物は根に[[根粒]]があり、窒素化合物を生産する[[根粒菌]]([[リゾビウム属]])の共生細菌を宿しているため、土壌を肥やすはたらきをすることが知られている。マメ科の大部分はこの[[共生]]関係を持つが、2,3の属(例えば、''Styphnolobium'')は持っていない。 マメ科植物に荒れ地でも生育可能なものが多いのは、いわば根で[[肥料の三要素|窒素肥料]]が[[化学合成|合成]]できるためである。また、沖縄の[[ギンネム|ギンゴウカン]][[植生|群落]]に見られるように、ある種のマメ科植物は土質を窒素過多にし、そのため他の植物の侵入が困難となり、長期にわたって単独種の[[植物群落|群落]]を維持する場合がある。 === マメ科以外との共生的窒素固定 === 以下の植物は、マメ科植物と同様に窒素固定生物と共生している。共生微生物はそれぞれ異なっており、藍藻や放線菌と共生するものもある。既知の藍藻(シアノバクテリア)の約半数は窒素固定能を持つ<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~shokusei/fujita/cyanoN2.htm |title=シアノバクテリアの窒素固定|access-date=2022-07-21 |website=www.agr.nagoya-u.ac.jp |publisher=名古屋大学大学院生命農学研究科・農学部}}</ref>。 * {{Snamei||Lobaria lichen}} や、その他の[[地衣類]] * [[アカウキクサ]]属の[[シダ植物]] ({{Snamei||Azolla}} sp.) * [[スギナ]] ({{Snamei||Equisetum arvense}}<ref>吉田重方、松本博紀、トルンブイチ、[https://doi.org/10.14941/grass.31.358 草地雑草根におけるニトロゲナーゼ活性] 日本草地学会誌 Vol.31 (1985) No.3 p.358-361, {{doi|10.14941/grass.31.358}}</ref>) * [[ツノゴケ類]] * [[ソテツ]] * [[グンネーラ]]属の各種植物 * [[ハンノキ属]] ({{Snamei||Alnus}} sp.) * [[ソリチャ]]属 ({{Snamei||Ceanothus}} sp.) * [[ヤマモモ]] ({{Snamei||Myrica}} sp.) * [[マウンテン・マホガニー]] ({{Snamei||Cercocarpus}} sp.) * [[ビターブラッシュ]] ({{Snamei||Purshia tridentata}}) * [[バッファローグミ]] ({{Snamei||Shepherdia argentea}}) * [[モクマオウ]] ({{Snamei||Casuarina}} sp., {{Snamei||Allocasuarina}} sp.) * [[サツマイモ]] * [[珪藻]] ({{Snamei||Rhizosolenia}} sp. など) * 円石藻(''Braarudosphaera bigelowii'') === シロアリの体内共生菌による窒素固定 === [[シロアリ]]の体内共生菌には窒素を固定する種が含まれる<ref name="zensen">[http://www.jst.go.jp/kisoken/seika/zensen/04kudou/ 腸内微生物との共生関係の不思議]</ref>。 == 化学的窒素固定 == [[ファイル:NitrogenReduction.png|thumb|300px|[[リチャード・シュロック|シュロック]]らによる錯体を用いた窒素固定例<ref>{{Cite journal |author=Dmitry V. Yandulov; Richard R. Schrock |year=2003 |title=Catalytic Reduction of Dinitrogen to Ammonia at a Single Molybdenum Center |journal=Science |volume=301 |issue=5629 |pages=76-78 |doi=10.1126/science.1085326 |url=https://doi.org/10.1126/science.1085326}}</ref>]] [[内燃機関]]や燃焼に伴う窒素酸化物の目的外生成のほか人為的にも固定され、[[肥料]]をはじめ様々な工業プロセスに使用されている。最も一般的な方法は[[ハーバー・ボッシュ法]]によるものである。[[石灰窒素]]をふくむ人工肥料の生産は非常に大きな量に達しており、現在では[[地球]]の[[生態系]]において最大の窒素固定源となっている。{{see also|アンモニア}} == その他 == [[稲妻]]の語源は、雷が稲を実らせるという信仰からきているが、これは実際に落雷による放電によって[[窒素酸化物]]が生成され収穫量が増えたため、という説がある。同様に落雷した[[ほだ木]]では[[きのこ]]の収穫量が増えると[[古代ギリシア]]の[[プルタルコス]]の著作である『食卓歓談集』にも記述される程、古来より言われてきた<ref>{{Cite journal|和書|author=[[プルタルコス]]|date=2001年12月14日|title=食卓歓談集|url=|journal=|pages=|publisher=[[岩波書店]]|author2=[[柳沼重剛]]|asin=|isbn=9784003366431}}</ref>。 == 注釈 == <references group="注"></references> == 脚注 == {{脚注ヘルプ}} {{Reflist|2}} == 参考文献 == * {{Cite journal|和書|author=佐竹研一 |year=2010 |url=http://www.airies.or.jp/attach.php/6a6f75726e616c5f31352d326a706e/save/0/0/15_2-02.pdf |format=PDF |title=地球環境に附加される自然起源と人為起源の窒素化合物 (窒素汚染と大気・水環境) |journal=[http://www.airies.or.jp/journal_15-2jpn.html 地球環境] |ISSN=1342226X |publisher=国際環境研究協会 |volume=15 |issue=2 |pages=97-102 |CRID=1520290882883535488 |naid=40017225059 |ref={{harvid|佐竹(2010)}}}} == 関連項目 == <!-- {{Commonscat|Nitrogen fixation}} --> * [[窒素循環]] * [[脱窒]] * [[炭素固定]] * [[ヨハネス・ラハマン]] - 窒素固定の初期の研究者 {{Normdaten}} {{DEFAULTSORT:ちつそこてい}} [[Category:窒素]] [[Category:代謝]] [[Category:土壌生物学]] [[Category:窒素循環]] [[Category:細菌学]]
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