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{{連続体力学}} '''粘弾性'''(ねんだんせい、{{Lang-en-short|viscoelasticity}})とは、[[粘性]]と[[弾性]]の両方を合わせた性質のことである。基本的にすべての物質が持つ性質であるが、特に[[プラスチック]]や[[ゴム]]などの[[高分子]]物質に顕著に見られる。<!--どちらか片方の性質が、ある一定の条件において高く発現されもう片方の性質を無視出来る場合、また数学的に仮定を行う場合、片方の性質だけで'''弾性体'''また'''粘性体'''と呼ぶことがある。(あえてこの記事で言う事でもないでしょうし、コメントアウト)--> == 概要 == 一般に粘性は[[液体]]の、弾性は[[固体]]の性質と考えられる。どちらもそれぞれにおける[[変形]]のしやすさ(しにくさ)を表すものであるが、その様相には大きな差がある。固体は加えられた力に応じて変形するが、加えた力がなくなれば元の形に戻る。液体の場合にはやはり変形するが、力がなくなっても元には戻らない。 ところが、例えば[[ビニール]]の場合、引っ張ると伸びるが、力を抜いてもすぐには戻らず、ゆっくりと元に戻る。また[[卵白|卵の白身]]は液体に見えるが、かき混ぜた箸をはずすと多少だが跳ね返るように戻る。これらの物質は粘性と弾性を兼ね備えているために、このような挙動をすると考えられる。 ある物質が粘弾性体か、あるいは粘性体または弾性体に近いのかは、その物質に一定のひずみを与えたときの[[応力緩和]](応力の時間変化)の[[緩和時間]]を見ることで判別できる。緩和時間が観測の時間[[オーダー (物理学)|スケール]]に対して十分短ければ粘性体、長ければ弾性体、同等のスケールであれば粘弾性体として扱われる<ref name="atkins">{{Cite|和書 |author=Peter Atkins |author2=Julio de Paula |translator=千原秀昭, 稲葉章 |title=アトキンス物理化学要論 |edition=4 |publisher=東京化学同人 |year=2007 |isbn=978-4-8079-0649-9 |page=194}}</ref>。このことから、緩和時間と観測時間スケールの比は[[デボラ数]]と名付けられ、判別の目安として用いられる。 [[層流]]状態の粘弾性流体と、[[乱流]]状態の[[ニュートン流体]](を粗視化してみた流れ)とが示す振る舞いが似ていることが指摘されている<ref>{{Cite|和書 |editor=横井喜充、下村裕、半場藤弘、岡本正芳 |title=乱れと流れ |publisher=培風館 |year=2008 |isbn=978-4-563-02289-1 |page=85}}</ref>。 == 応力とひずみの関係 == 粘弾性体は、[[弾性体]]と[[粘性体]]の間の性質を持つ。力を加えて変形させ、その応力(力÷面積)を一定に保つとひずみ(変形長さ÷元の長さ)は徐々に大きくなる<ref name=基礎高分子化学 />。このとき、ひずみ速度(ひずみ÷時間)は時間経過に伴い大きくなる。言い換えれば、ひずみを一定に維持しようとするとき、必要な応力は加速度的に小さくなる。完全弾性体では応力とひずみは比例関係にあり、応力を一定に保つとひずみは変化しない。完全粘性体に力を加えるとエネルギーは熱となり失われる。ひずみが一定のとき、応力は無くなる(0になる)。 == 動的弾性率 == {{main|動的弾性率}} 粘弾性は動的弾性率で表現できる。応力を周期的に与え、応力と時間の関数が[[正弦波]]を示すようにすると、完全弾性体ではひずみ-時間関数の挙動は応力-時間関数の挙動と一致する。応力がゼロ点と極値(極大値と極小値)をとる時間はひずみと同じとなる。完全粘性体のひずみ-時間関数は応力-時間関数とπ/2の[[位相差]]を持つ。応力がゼロ点となるときひずみは極値を取り、応力が極値となるときひずみはゼロ点を示す。粘弾性体では、ひずみ-時間関数と応力-時間関数との位相差は-π/2からπ/2の間に存在する<ref name=基礎高分子化学>{{cite book |editor=社団法人高分子学会 |title=基礎高分子化学 |chapter= |author=小澤美奈子 |publisher=東京化学同人 |year=2006 |location=東京 |pages= |url= |isbn=978-4-8079-0635-2}}</ref>。 == 分類 == ; 線形粘弾性 : 粘弾性体に[[ひずみ]]を加えた際の挙動が[[線型性|線形]]で表せる性質のことである。この性質を表すために[[ジェームズ・クラーク・マクスウェル|マクスウェル]]モデルやケルビン・フォークトモデルがよく用いられる。実際には非線形であっても、物体のひずみが1以下の小変形時に[[線形近似]]することで線形粘弾性として扱うことが多い。 ; 非線形粘弾性 : 粘弾性体にひずみを加えた際の挙動が線形で表せず[[非線形]]となってしまう性質のことである。物体のひずみが1以上の大変形の際によく見られる性質である。解析は線形粘弾性より複雑である。 == 複素弾性率 == [[ファイル:Maxwell diagram.svg|thumb|粘弾性のマクスウェルモデル。外力に対して応答の速い[[ばね]](''E'')と、応答の遅い[[ダッシュポット]](η)を[[直列]]に並べたものとして表される。粘弾性体の[[応力緩和]]を表現する。]] [[ファイル:Kelvin Voigt diagram.svg|thumb|ケルビン・フォークトモデル。ばねとダッシュポットを[[並列]]に並べたものとして表される。粘弾性体の[[クリープ]]を表現する。]] [[ファイル:SLS.svg|thumb|標準線形固体(SLS)モデル。上記2つのモデルを組み合わせたもので、応力緩和とクリープの両方を表現できる。]] {{see also|動的弾性率}} 粘性は[[ニュートン流体|ニュートンの粘性法則]]などの応力-ひずみ速度の関係で、弾性は[[フックの法則]]などの応力-ひずみ関係で記述されるが、線形粘弾性に対する、これらに相当するパラメータが'''複素弾性率'''である。粘弾性体に[[正弦波]]形のひずみを入力したときの応力の応答によって定義する。[[電気工学]]で用いられる[[インピーダンス]]や、[[制御工学]]の周波数[[伝達関数]]に良く似た概念である。 右図の各モデルに対して、複素弾性率 ''E''<sup>*</sup>は以下のように[[複素数]]で、かつ入力の[[角周波数]] ωの関数として定義される。 * [[ジェームズ・クラーク・マクスウェル|マクスウェル]]モデル([[:en:Maxwell material]]) : <math>E^*(\omega) = \left(\frac{1}{E}+\frac{1}{i\omega\eta}\right)^{-1}</math> * [[ウィリアム・トムソン|ケルビン]]・[[ヴォルデマール・フォークト|フォークト]]モデル([[:en:Kelvin–Voigt material]]) : <math>E^*(\omega) = E + i\omega\eta</math> * 標準線形固体モデル([[:en:Standard linear solid model]]) : <math>E^*(\omega) = E_1+\left(\frac{1}{E_2}+\frac{1}{i\omega\eta}\right)^{-1}</math> ただし、''i''は[[虚数単位]]である。 ''E''は[[ばね係数]]であり[[エネルギー]]を蓄積する効果を、またηは[[粘性係数]]でありエネルギーを[[散逸]]させる効果を表している。このことから、複素弾性率の実部を'''貯蔵弾性率'''、虚部を'''損失弾性率'''と呼ぶことがある<ref name="atkins"/>。 物質が粘性体に近いとき複素弾性率の[[位相]]はπ/2に近く、弾性体に近いときは0に近い<ref name="atkins"/>。 == 参考文献 == {{Reflist}} * {{Cite |和書|author = 日本レオロジー学会編|coauthors = |title = 講座・レオロジー|edition=1|year = 2001|publisher = 高分子刊行会|isbn = |page = }} == 関連項目 == * [[レオロジー]] ** [[ワイセンベルク効果]] * [[ソフトマター]] * [[シリーパティー]] ― 粘弾性物質を利用した玩具。 {{Normdaten}} {{デフォルトソート:ねんたんせい}} [[Category:物質の性質]] [[Category:材料工学]] [[Category:粘度]] [[Category:弾性]] [[Category:連続体力学]] [[Category:レオロジー]]
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