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{{単一の出典|date=2012年12月}} '''素励起'''(それいき、{{lang-en-short|elementary excitation}})とは、[[量子力学]]における基本的な[[励起]]のこと。一般に、[[多体系]]の[[励起状態]]は素励起の複合と考えることができる<ref name="物理学辞典">『物理学辞典』 培風館、1984年</ref>。 == 概要 == マクロな物質の[[物性]]とは、与えられた[[摂動]](外場、外力)に対する[[応答]]、つまり摂動による励起のことである。 [[統計力学]]によると、この励起は[[最低エネルギー状態]]からの秩序の乱れであり、乱れの程度は[[エントロピー]]で表される。 ここでこの乱れが小さいと仮定する。 するとこの乱れはさまざまな波長、周波数の乱れの[[一次結合]]で表されるだろう。 一次結合が成り立つということは[[重ね合わせの原理]]なので、乱れは波動として扱える。 [[量子論]]によると波動と粒子には等価性であるため、乱れ(つまり励起)は「ある種の粒子の集団」として振る舞う。 この場合の「ある種の粒子」のことを素励起と呼ぶ。<ref>{{cite book | 和書 | author= | title=物性 II 素励起の物理 (新装版 現代物理学の基礎 第7巻) | year=2012 | publisher=岩波書店 | isbn=4000298070}}</ref> == 分散関係 == 基底状態にある多体系が素励起に相当する励起状態になった時、この多体系の[[運動量]]がpとなり、[[エネルギー]]がεだけ増加したとすると、この素励起の運動量はpでエネルギーはεであるという。εはpについての関数で、その関係をε=ε(p) と書く時、これを'''分散関係'''という。 素励起は、その集団を[[量子統計力学]]で扱うときに、[[フェルミ統計]]に従うものと[[ボース統計]]に従うものがある。素励起という概念は、'''[[準粒子]]'''という概念と全く同等か、または密接に関係して使われる<ref name="物理学辞典"/>。 == 素励起の例== === 集団励起型 === 素励起の簡単な例として、まず[[調和振動子]]系の運動を考える。多数の[[質点]]が調和ポテンシャルによる力によって相互作用しているとき、個々の質点の運動は一般に非常に複雑であるが、[[基準座標]]を使うと、[[基準振動子]]と呼ばれる互いに独立な調和振動子の集合として書かれる。この基準振動を量子化したものが'''[[フォノン]]'''という準粒子であり、1個のフォノンに相当する[[基準振動]]の励起が素励起である<ref name="物理学辞典"/>。この種の素励起は、調和振動子の各質点の個別的自由度の運動とは対応せず、一般にフォノンの総数は、フォノンを励起する物質の構成粒子の数とは無関係である。また素励起の運動量は、各質点のもつ力学的運動量とは無関係に、基準振動の波動ベクトルを<math>\mathbf{q}</math>とするとき、<math>\mathbf{p}=\hbar\mathbf{q}</math>で与えられ、そのエネルギーは基準振動の[[角振動数]]<math>\omega</math>を使って<math>\varepsilon=\hbar\omega</math>で定義される。フォノンと同様に物質を構成する[[原子]]、[[分子]]、[[イオン (化学)|イオン]]や電子の集団的な運動に対応する素励起には、[[スピン波]]とそれを量子化した[[マグノン]]、[[プラズマ振動]]とそれを量子化した[[プラズモン]]、[[超流動ヘリウム]]中の[[ロトン]]などがある。これらは全てボース統計に従う。 === 個別励起型 === 励起状態には、フォノンなどのような粒子系全体の運動とは異なり、個々の粒子の運動を励起してできる個別励起型のものもある。[[フェルミ気体|完全フェルミ気体]]において、[[フェルミ球]]の内部の運動量<math>\mathbf{p}_1</math>の粒子をフェルミ球外部の運動量<math>\mathbf{p}_2</math>の状態に励起したとする。このとき、この励起状態は、運動量<math>\mathbf{p}_2</math>の「'''粒子'''」と運動量<math>-\mathbf{p}_1</math>の「'''孔'''」を持つと言う。この場合は、粒子、孔のそれぞれを素励起と言う。<ref name="物理学辞典"/> フェルミエネルギーを<math>\varepsilon_F</math>、運動量<math>\mathbf{p}</math>のフェルミ粒子のエネルギーを<math>E(\mathbf{p})</math>と書く時、このような素励起のエネルギーは、粒子に対しては<math>E(\mathbf{p}_1)-\varepsilon_F</math>であり、孔に対しては<math>\varepsilon_F-E(\mathbf{p}_2)</math>で、どちらも正の値を取り、全系の励起エネルギーは、2つの素励起のエネルギーの和<math>E(\mathbf{p}_1)-E(\mathbf{p}_2)</math>になる<ref name="物理学辞典"/>。この場合の素励起は、粒子型の素励起と孔型の素励起が必ず対になって存在し、素励起の総数はフェルミ粒子の総数とは一致しない。フェルミ粒子間に相互作用があると、個々の粒子の運動量とエネルギーは一般には変動し、基底状態でも励起状態でも極めて複雑なものとなる。その場合でも[[超流動状態]]でない限りフェルミ面が定義でき、励起エネルギーが大きくない限りそれぞれの励起状態は粒子型の素励起と孔型の素励起の集団として理解できる。このような素励起としては、フェルミ面に無限に近い運動量を持つものが考えられるから、エネルギーも無限に小さいものが存在する。粒子間に相互作用があると、1個の粒子の運動のみを励起しようとしても、その影響は必ず周囲の粒子の運動も励起し、場合によっては粒子系全体の集団運動の[[モード]]を励起することがある。そうでなくても、最初に励起された粒子は周囲の粒子の乱れを伴って運動しており、この場合の素励起とは、核になる粒子の運動とその周囲の乱れの双方を同時に励起したものに対応している。したがって素励起のエネルギーは、核になる粒子の運動エネルギーとは等しくなく、分散関係も自由粒子中のものとは違ってくる。 金属の伝導電子を自由粒子ということがあるが、実際に観測しているのはこのような相互作用のある電子系での素励起であり、それがフェルミ面を持つなど自由電子と定性的には異ならないふるまいをしているのである。半導体中の伝導電子と正孔も同様に相互作用している電子系での素励起であるが、伝導帯と価電子帯の間にギャップがあるため、素励起のエネルギーはこのギャップに相当する有限の最小値をもつ。なお半導体の場合には、独立の電子と正孔を励起する代わりに電子と正孔をクーロンの引力によって束縛させてできる励起子という素励起をつくることもできる。 == 超流動状態 == 超流動状態にあるフェルミ粒子系の基底状態では、フェルミ面付近の粒子と孔が対になって束縛状態を作っており、この系を励起するには少なくとも一対の束縛された粒子または孔をバラバラにするだけのエネルギーが必要である。そのため超流動状態のフェルミ粒子系の素励起のエネルギーも一般には有限の大きさの最小値を持つ。 == 素励起が従う統計 == なおこれらの個別粒子型の素励起は、その粒子系の構成粒子と同じ統計に従うが、励起子は2つのフェルミ粒子から成る複合粒子のためにボース統計に従う。また素励起自身も相互作用することによって散乱されるので、その寿命は有限であり<ref name="物理学辞典"/>[[不確定性原理]]によりエネルギーの値が幅を持つ。素励起という概念が意味を持つのは、この幅がエネルギーの幅に比べて十分小さい場合のみである。 == 参考文献 == <references/> == 関連項目 == * [[準粒子]] * [[フォノン]] * [[マグノン]] * [[プラズモン]] * [[ポラリトン]] * [[ロトン]] {{DEFAULTSORT:それいき}} [[Category:量子力学]]
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