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[[ファイル:Tresse math.svg|thumb|right|120px|ブレイドの例]] [[数学]]における'''組み紐'''(くみひも)または'''ブレイド''' (braid) とは、垂れ下がる何本かの紐を適当に編んでできる図形を抽象化した数学的対象である。組み紐全体の集合が[[群 (数学)|群]]を成すこと、幾何的対象の絡みを表す様子として[[次元]]がもっとも低いものであることなどから多様な分野に姿を現す。 == 定義 == === 幾何的側面 === 区間 [0,1] の ''n'' 個のコピーを [[立方体]] ''D''<sup>2</sup> × [0, 1] へ滑らかに埋め込んだものが以下の条件をみたすとき、'''''n''-ブレイド''' と呼ぶ。 * 各区間の座標 ''t'' に対応する点は立方体の平面 {(''x'',''y'',''z'') | ''z'' = ''t''} の一点に写る。 * 各区間の ''t'' = 0 に対応する端点は ''y'' 軸に平行に等間隔に並ぶ。''t'' = 1 に対応する端点も同様。 境界を動かさない立方体の連続変形で写りあうブレイドを同一視することにする。 定義の一つ目の条件から、ブレイドの各連結成分の各点での方向ベクトルは正の ''z'' 成分を持つ。特にブレイドの各成分は極大点極小点を持たない。 この様子を、平面内をぶつからずに運動する ''n'' 個の点の軌跡とみることもできる。 <math>X=D^2</math> として、<math>\{(x_1,x_2,\dots,x_n)\in X^n|i\neq j\Rightarrow x_i\neq x_j\}</math> を[[対称群]]の[[作用 (数学)|作用]]で割ってできる空間 <math>C_X</math> を考えると、<math>C_X</math> の[[ホモトピー#基本群|閉道]]はブレイドであり、適当な基点 ''p'' のもと[[ホモトピー|基本群]] <math>\pi_1(C_X,p)</math> がブレイド群(次節参照)となる。 === 代数的側面 === 集合 {σ<sub>1</sub>, σ<sub>2</sub>, ..., σ<sub>''n''−1</sub>} から生成され、次の二つの関係式を満たす群を '''''n''-ブレイド群''' ('''''n''-braid group''') と呼び、'''B'''<sub>''n''</sub> で表す。またその元を'''ブレイド'''と呼ぶ。 # <math>\sigma_i\sigma_j = \sigma_j\sigma_i</math> (<math>|i-j|\ge 2</math>) # <math>\sigma_i\sigma_{i+1}\sigma_i = \sigma_{i+1}\sigma_i\sigma_{i+1}</math> (<math>1\le i\le n-2</math>) 二番目の関係式を'''組み紐関係式''' ('''braid relation''') と呼ぶ。 生成元 σ<sub>''i''</sub> を、''i'' 番目と ''i'' + 1 番目のひもを半回転ひねってできるブレイドとみなすことで幾何的なブレイドの定義と対応する。また、σ<sub>''i''</sub><sup>−1</sup> は ''i'' 番目と ''i'' + 1 番目のひもを逆向きに半回転ひねったブレイドと対応する。 * ''n'' ≤ ''m'' のとき、 '''B'''<sub>''n''</sub> から '''B'''<sub>''m''</sub> への埋め込みが存在する。 * 写像 σ<sub>1</sub> → ''s''<sub>''i''</sub> によって ''n''-ブレイド群から ''n'' 次[[対称群]]への自然な全射が定まる (''s''<sub>''i''</sub> は ''n''次対称群の生成元)。 * 対称群への自然な全射の[[核 (代数学)|核]]を '''純ブレイド群''' ('''pure braid group''') と呼ぶ。 == 絡み目との関係 == ブレイドの上端と下端の点を順につなぐことで[[結び目理論|絡み目]]ができる。逆に任意の絡み目はあるブレイドの上端と下端をつないだものとみなすことができる。但し、一般にある絡み目に対応するブレイドは複数存在する。 二つのブレイドから同じ絡み目がつくられるための必要十分条件は、ブレイドとしての同値を表す移動と以下の'''マルコフ操作'''(Markov move) を繰り返して片方のブレイドを他方に変形できることである。 # 積 ''b<sub>1</sub>b<sub>2</sub>'' の形で書かれているブレイドを ''b<sub>2</sub>b<sub>1</sub>'' に変形する。 # ''n'' -ブレイド ''b'' を ''φ<sub>n</sub>(b)σ<sub>n</sub>'' に変形する、または逆向きの操作で変形する。ただし、''φ<sub>n</sub>'' は '''B'''<sub>n</sub> の生成元 ''σ<sub>i</sub>'' を '''B'''<sub>n+1</sub> の ''σ<sub>i</sub>'' に写すことで得られる埋め込みである。 <gallery widths="300px"> ファイル:MarkovMove_I.svg|マルコフ移動 I ファイル:MarkovMove_II.svg|マルコフ移動 II </gallery> マルコフ操作の両方を一種類の操作で実現できることを 1997年に Lambropoulou と Rourke が示した<ref>S. Lambropulou, C. P. Rourke, ''Markov's theorem in 3-manifolds'', Topology and its Applications 78(1997), 95--122</ref>。 == 表現 == ブレイド群から対称群への自然な全射が存在することから、対称群の表現をもとにブレイド群の表現を構成し、考察されることがある。特に、対称群の表現をパラメータを入れて変形したものは[[岩堀-ヘッケ代数]]、[[量子群]]とも関連し盛んに研究された。 * 行列表現(''スタブ'') * ブレイド群の有限次元表現が与えられたとき、それによるブレイドの行列表現の[[跡 (線型代数学)|トレース]]はマルコフ操作の一つ目で不変となる。これによりブレイドの表現から絡み目の不変量を構成する一つの指針が得られる。実際、[[ジョーンズ多項式]]は表現のトレースをマルコフ操作の二つ目でも不変になるように補正することで得られた。 * カテゴリー表現(ブレイディング)(''スタブ'') == 性質 == * ブレイド群は[[語の問題]](1926年にアルティンが解決<ref>J. Stillwell, ''The word problem and the isomorphism problem for groups'', Bull. AMS (N.S.) Vol 6(1) (1982), 33--56.</ref>))、[[共役問題]](Garside が解決)が解ける群である。 * ブレイド群 '''B'''<sub>1</sub> は[[群 (数学)#具体的な群|自明]]な群、'''B'''<sub>2</sub> は[[巡回群|無限巡回群]]、'''B'''<sub>3</sub> は無限非可換群で[[三葉結び目]]の[[結び目群]](補空間の[[基本群]])と[[同型]]である。 * 自明なブレイド(ブレイド群の単位元)以外のブレイド ''b'' の冪 ''b''<sup>''n''</sup> は任意の ''n'' に対して自明でない。つまりブレイド群は[[ねじれ元]]を持たない。 * ''n''≥3 のとき、ブレイド群 '''B'''<sub>''n''</sub> は二元生成の[[自由群]]を部分群として持つ。 * 不変量''(スタブ)'' == 脚注 == {{Reflist}} == 参考文献 == *[[村杉邦男]] 『結び目理論とその応用』 [[日本評論社]], 1993年. ISBN 978-4535781993。 * C. Kassel and V. Turaev, ''Braid Groups'', Graduate Texts in Mathematics 247, Springer, 2008. ISBN 978-0387338415. == 関連項目 == * [[結び目理論]] * [[タングル]] * [[コクセター群]] {{Knottheory-stub}} {{DEFAULTSORT:くみひも}} [[Category:結び目理論]] [[Category:数学に関する記事]]
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