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{{混同|線積分|x1=[[数学]]・[[解析学]]分野の一つである|link1=線積分}} {{脚注の不足|date=2024年11月}} {{Expand English|Path integral formulation|date=2024年6月}} '''経路積分'''(けいろせきぶん)あるいは'''径路積分'''は、[[リチャード・P・ファインマン]]が考案した[[量子力学]]の理論手法である。'''ファインマンの経路積分'''とも呼ばれる。 == 概要 == <div>[[ファイル: Three_paths_from_A_to_B.png|class=skin-invert-image|thumbnail|250px|''t''<sub>0</sub> で同時に A 点を出発した粒子が、別の ''t''<sub>1</sub> で同時に B 点に到達する無数の経路のうちの 3 つを示している。]]</div> [[古典力学]](古典系)では、ある質点の運動の様子(運動の経路)は初期状態を決めてしまえば後は[[運動方程式]]を解くことによって一意的に定まる。一方、量子系では量子的な不確定さ([[量子ゆらぎ]])が存在するため、古典系のような一意的な経路の決定はできない。 量子系で[[素粒子]]などの運動の様子を求める方法はいくつか存在するが、その一つとして'''経路積分'''による方法がある。 経路[[積分法|積分]]の数式では、始点と終点を結ぶ経路は無数にかつ大域的に分布している。それら無数の経路を計算上で合成すると求める結果となる。 経路積分法によって求めた測定値の確率分布は、通常の演算子形式で求めた確率分布と一致する。よって演算子形式と経路積分法は等価な理論である。 演算子形式([[エルヴィン・シュレーディンガー|シュレーディンガー]]による[[波動力学]]や[[ヴェルナー・ハイゼンベルク|ハイゼンベルク]]の[[行列力学]])では、系の時間発展は運動方程式(例えば[[シュレーディンガー方程式]])を解くことで求まるが、経路積分では運動の経路に着目して、経路全体に対する大域的な視点で[[量子力学]]上の問題を扱う。ファインマンは、[[ポール・ディラック]]の論文にあった「時刻 ''t'' と ''t'' + Δ''t''(Δ''t'' は微小とする)の 2 状態間の[[遷移]]の振幅が、該当する系の[[ラグランジアン]]の指数関数に対応する」という記述に着想を得て、この手法を考え出した。ファインマン自身は、この手法を使って[[液体ヘリウム]]の極低温での[[ロトン]]の[[励起]]の問題などを理論的に扱った。 == 発想 == 経路積分は古典力学の基本原理であるラグランジュの[[最小作用の原理]]を元にしている<ref name="yasue">{{Cite book |和書 |author=保江邦夫 |title=Excelで学ぶ量子力学 量子の世界を覗き見る確率力学入門 |publisher=[[講談社]] |series=[[ブルーバックス]] |date=2001-10 |isbn=4-06-257347-4 |page=55}}.</ref>()<ref name="yoshida">{{Cite book |和書 |author=吉田伸夫 |title=量子論はなぜわかりにくいのか 「粒子と波動の二重性」の謎を解く |publisher=[[技術評論社]] |series=知の扉シリーズ |date=2017-04 |isbn=978-4-7741-8818-8 |pages=120-124}}.</ref>。 その際、ファインマンはディラックの著書<ref>[[#dirac|Dirac (1983)]] V. The Equations Of Motion Ş32 P. 128</ref>中の <math display="block">\exp \left[ \frac{i}{\hbar} \int_{t_a}^{t_b} L(t) \,\mathrm{d}t\right] = \exp \left[ \frac{i}{\hbar} S(t_b,t_a) \right]</math> は量子力学の <math> \langle q_{t_b} \mid q_{t_a} \rangle </math> に対応する、という指摘に興味をそそられたと言われている。 {{独自研究範囲| <!--経路積分はラグランジュの最小作用の原理に基づいた計算法であって「そのアイデアを数式で定式化した」ものではない--> 具体的な経路積分の発想は、[[二重スリット実験]]と関連する。二重スリット実験ではスリットの数は 二つであるが、これを無限個に拡張した考え方が経路積分である。 スリットの数が二つなら、経路は二つである。スリットの数が無限個なら、経路の数は無限個である。スリットの数が無限個になるという状況は、スリットの刻まれた衝立が存在しない空間、つまり障害物のない空間を意味する。従って、真空中では経路が無限個であると考えられる。 そのアイデアを数式で定式化したのがファインマンである。 |date=2019年12月}} 経路積分の計算法は形式的手法であって実在を表していないという批判があり<ref name="yoshida" />(p.127-128)、保江邦夫は経路積分が実在しないし数学的に破綻していると断言している<ref name="yasue" />(p.67-69)。 == 経路の干渉 == {{独自研究範囲| <!--経路積分は形式的な計算手法にすぎないとされているので、このような定性的な説明はできないはずである--> [[二重スリット実験]]のように、少し条件が複雑になれば最終的な結論は変化し、古典力学の結論と一致するとは限らなくなる。 二重スリット実験ではスリットが二つあり、途中点が二つある。古典力学では単に経路の足し算があるだけで、ピークが二つ観測されるはずであるが、これは実験事実と異なる。一方、経路積分では経路の干渉を計算すると、縞模様の干渉縞ができる(これは、実験事実と一致する)。二重スリット実験の結果(干渉縞)は古典力学の理論では解釈できないが、経路積分の手法で考えれば妥当な説明を得ることができる。 |date=2019年12月}} == 詳細説明 == 経路とは、位置を時刻 t の関数として表した <math>q(t)</math> のことを指す。 時刻 t<sub>A</sub> に位置 q<sub>A</sub> を出発し、時刻 t<sub>B</sub> に位置 q<sub>B</sub> に到達する粒子の運動を考える。 系の古典的ラグランジアンを <math>L(q,\dot{q})</math> とすると、その作用は <math display="block">S[A,B] = \int_{t_A}^{t_B} L (q, \dot{q}, t) dt </math> で表される。 ファインマンは状態 A から状態 B に遷移する量子力学的な確率振幅は、 A から B へ行くすべての取りうる経路からの寄与についての和をとった <math display="block">K_{A \to B} = \int_A^B \mathcal{D}q\, e^{ (i/\hbar)S[A,B]}</math> として表せることを見出した。 ここで、形式的な積分 <math>\int \mathcal{D}q</math> は、時間を <math display="block">\Delta t=(t_B-t_A)/N,~t_{j+1}=t_j+\Delta t,~ t_0=t_A,~t_N=t_B,~q_j = q(t_j)</math> と分割し、多重積分の極限 <math display="block">\int\mathcal{D}q = \lim_{N\rightarrow \infty} \frac{1}{C} \prod_{j=1}^{N-1} \int dq_j </math> で与えられるものである。 C は極限を収束させる為の規格化因子で、ラグランジアンが <math display="block">L(q,\dot{q}) = \frac{m}{2}\dot{q}^2 -V(q,t)</math> で表されるときは、 <math display="block">C = \left( \frac{2\pi i\hbar\Delta t}{m} \right)^{N/2}</math> となる。 ファインマン自身は、この関係式を古典力学と量子力学を関係付ける基礎原理としてとらえ、量子化を与える新たな手法として提案した('''経路積分量子化''')。 なお、<math> \hbar \to 0</math> とすると、古典力学の問題に帰着する。もう少し詳しくいえば、マクロスコピックな系ならば、量子力学は古典力学に帰着するはずであるから、経路積分ではすべての経路を足し挙げているところが、古典的経路に積分が集中するはずである。このメカニズムは経路が互いに干渉することによる。具体的には、上記の式の被積分関数は系の[[作用積分]]を偏角にもつ絶対値 1 の複素数だけれども、一般の経路では作用積分の経路の依存性が大きいため、被積分関数が激しく振動して相殺してしまう。その相殺がおこらない経路とはすなわち作用積分が停留する点で、それはまさに[[最小作用の原理]]より古典的な経路である。 == 具体例 1 == 1 + 1 次元時空 (''x'', ''t'') を考える。粒子の質量を ''m''(粒子は古典的なものではなく量子力学的なものとする)、粒子の感じるポテンシャル場を ''V''(''x'') とし、始点を A、終点を B とする。これに関しての[[作用積分]](''S''[''x''(''t'')] とする)は、 <math display="block"> S[x(t)] = \int_{t_{\rm A}}^{t_{\rm B}} \left[ {1 \over 2}m \left( {dx \over {dt}} \right)^2 - V(x) \right] dt </math> となり、A → B における確率振幅は、 <math display="block"> K_{\rm A \to B} = \int_{-\infty}^{\infty} dx_1 \int_{-\infty}^{\infty} dx_2 \cdots \int_{-\infty}^{\infty} dx_{N - 1} e^{ { i \over {\hbar}} S[x(t)] } </math> となる。上式右辺の多重積分部分は、時間の経過 ''t''<sub>A</sub> → ''t''<sub>B</sub> を ''N'' 等分したものである(厳密には、''N'' → ∞ と無限の多重積分となる)。つまり時間を離散化して、粒子の運動の経路を細かく分けた微小な直線として、それらすべてをサンプルとした和(つまり経路に対する積分)を行っている。 == 具体例 2 == [[第一原理分子動力学法]]では、電子状態部分と原子の構造の最適化を同時に行う。通常、原子部分は電子よりずっと重いので古典的に扱うが、水素のような非常に軽い原子の動力学(挙動や安定位置)を扱う場合、その量子的効果が無視できなくなる。電子部分はシュレーディンガー方程式を出発点とする従来の方法で扱えるが、水素原子核(=[[陽子]])部分を量子力学的に扱うには、経路積分の手法を用いるのが有効である。これに対応する手法として、[[第一原理経路積分分子動力学法]]がある。 == 脚注 == <references /> == 参考文献 == {{参照方法|date=2024年11月|section=1}} '''論文''' * R. P. Feynman "Space-Time Approach to Non-Relativistic Quantum Mechanics" Rev. Mod. Phys. '''20''' (1948) 367. [http://br.geocities.com/ciencia_traduzida/originais/feynman_arquivos/feynman1.pdf PDF] * R. P. Feynman "Space-Time Approach to Quantum Electrodynamics" Phys. Rev. 76, (1949) pp.769-89 [http://geocities.yahoo.com.br/ciencia_traduzida/originais/feynman_arquivos/feynman2.pdf PDF] '''書籍''' * {{Cite book|和書 |author=P. A. M. Dirac |title=The Principles of QUANTUM MECHANICS |publisher=みすず書房 |year=1963 |isbn=4-622-02512-4 |ref=dirac }} * 崎田文二、吉川圭二:「経路積分による多自由度の量子力学」、岩波書店、ISBN 4-00-005313-2 (1986年8月29日). * 大貫義郎、鈴木増雄、柏太郎:「経路積分の方法」、岩波書店、ISBN 4-00-010442-X (1992年9月) * R.P.ファインマン、A.R.ヒッブス:「量子力学と経路積分」、みすず書房、ISBN 978-4-622-0410-0-9 (1995年5月10日) * L.S.シュルマン、高塚和夫(訳):「ファインマン経路積分」、講談社サイエンティフィク、ISBN 4-06-153217-0 (1995年5月10日) * M.B. メンスキー:「量子連続測定と経路積分」、吉岡書店、{{ISBN2|978-4842702544}}(1995年7月) * スワンソン:「経路積分法:量子力学から場の理論へ」、吉岡書店(物理学叢書 74)、ISBN 4-8427-0258-3 (1996年9月10日) * 中村徹:「超準解析とファインマン経路積分」、河合出版、ISBN 978-4-87999971-9(1997年9月) * 中村徹:「超準解析と物理学」、日本評論社、ISBN 4-535-78248-2 (1998年6月10日). * 杉田勝美、岡本良夫、関根松夫:「経路積分と量子電磁力学」、森北出版、ISBN 4-627-78271-3 (1998年10月6日) * 米満澄、高野宏治:「経路積分ゼミナール: ファインマンを解く」、アグネ技術センター、ISBN 978-4-90004129-5 (1999年7月30日) * 藤原大輔:「ファインマン経路積分の数学的方法:時間分割近似法」、シュプリンガー・フェアラーク東京、ISBN 4-431-70748-4 (1999年10月11日) * 藤川和男:「経路積分と対称性の量子的破れ」、岩波書店、ISBN 4-00-007415-6 (2001年2月23日) * 森藤正人:「量子波のダイナミクス:ファインマン形式による量子力学」、吉岡書店、ISBN 978-4-8427-0333-6 (2005年11月) * {{Cite book|和書 |author=J.J.Sakurai , San Fu Tuan |title=現代の量子力学(上) |publisher=吉岡書店 |year=2009 |isbn=978-4-8427-0222-3 }} * 新井朝雄:「量子数理物理学における汎関数積分法」、共立出版、ISBN 978-4-320-01932-4 (2010年8月10日) * 和田純夫:「今度こそわかるファインマン経路積分」、講談社サイエンティフィク、ISBN 978-4-06-156601-9(2014年12月17日) * 柏太郎:「経路積分:例題と演習」、裳華房、ISBN 978-4-7853-2513-8 (2015年11月15日) * ローリー・ブラウン (編):「ファインマン 経路積分の発見」、岩波書店、ISBN 978-4-00-005330-3 (2016年3月18日). * 鈴木増雄:「経路積分と量子解析」、サイエンス社(臨時別冊・数理科学SGC 137)、(2017年11月21日) * 江沢洋、中村徹:「ブラウン運動」、朝倉書店、ISBN 978-4-254-13792-7 (2020年9月1日) == 関連項目 == * [[ファインマン-カッツの公式]] * [[二重スリット実験]] * [[重ね合わせ]] * [[シュレーディンガーの猫]] * [[コペンハーゲン解釈]] * [[多世界解釈]] == 外部リンク == * {{Wayback|url=http://www.scholarpedia.org/article/Path_integral |title=Path integral |date=20090101014549}} - [[スカラーペディア]]百科事典「経路積分」の項目。 {{量子力学}} {{DEFAULTSORT:けいろせきふん}} [[Category:量子力学]] [[Category:積分法]] [[Category:リチャード・P・ファインマン]] [[Category:数学に関する記事]]
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