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{{統計力学}} '''統計集団'''(とうけいしゅうだん、{{lang-en-short|statistical ensemble}})とは、[[統計力学]]における基本的な概念の一つで、巨視的に同じ条件下にある力学的に同じ系を無数に集めた仮想的な集団である<ref name="ichimura_ss13-1">[[#ichimura|市村『統計力学』]]pp.66-67, §13.1</ref><ref name="kubo_ss5-2">[[#kubo|久保『熱学・統計力学』]] pp.196-198, §5.2</ref>。'''統計的'''(とうけいてき)'''アンサンブル'''、'''確率集団'''(かくりつしゅうだん)、'''ギブズ集団'''、あるいは単に'''アンサンブル'''とも呼ばれる。 アンサンブルの考え方は[[ウィラード・ギブズ]]によって初めて導入された<ref name="ichimura_ss13-1"/>。 巨視的には同じ条件下にあっても、力学系が取り得る力学的な状態は一つに定まらない。統計力学の立場では各々の力学状態が確率的に表れるものと考える。アンサンブルの考え方では、無数に集めた系の内である状態を取っている系の割合を、系がその状態を取る[[確率]]であると考える<ref name="ichimura_ss13-1"/>。この確率で重み付けした{{何の|date=2024年9月}}[[加重平均]]を'''アンサンブル平均'''と呼ぶ。系に課される条件の違いに応じたアンサンブルを考えることができて、状態の出現確率はアンサンブルによって異なる。 == 概要 == [[ボルツマン]]らによる[[気体分子運動論]]の立場では、[[理想気体]]を多数の[[分子]]の集まりであると考える<ref name="kubo_ss5-2"/>。多数の分子が衝突を繰り返して、個々の分子の力学状態が確率的に現れるものと見なされる(分子的混沌)。当時はまだ分子の存在が確証されていなかったため批判を受けた。 これに対して統計集団の立場では、力学系全体の力学状態が確率的に現れるものと見なされる<ref name="kubo_ss5-2"/>。この立場では必ずしも分子の存在を仮定する必要がない。今日では統計集団の考え方が統計力学の主流となった。 気体分子運動論の立場では {{mvar|N}}-粒子系の状態は '''{{mvar|μ}}-空間'''に分布する {{mvar|N}} 個の点の集まりとして表され<ref name="kubo_ss5-2"/>、{{mvar|μ}}-空間上の分布関数から気体の性質が導かれる<ref name="kubo_ss5-2"/>。 一方、統計集団の立場では同じ {{mvar|N}}-粒子系の状態が'''{{mvar|Γ}}-空間'''の一つの点として表される<ref name="kubo_ss5-2"/><ref name="toda">[[統計集団#Toda|"Statistical Physics 1"]] p.19</ref>。系の無数のコピーであるアンサンブルは {{mvar|Γ}}-空間に分布する点の集まりとして表される<ref name="toda" />。 == 主要なアンサンブル == [[File:Statistical Ensembles.png|600px|thumb|none|5つの統計集団の視覚的表現。]] 巨視的な制約条件が異なれば、アンサンブルも異なり、それに特定の統計的性質がある。次のようなものが代表的である:<ref>小正準集団、正準集団、第正準集団における要約は、北 孝文『演習しよう熱・統計力学』p.93、p.95、p.98を参考にした。</ref> ; [[小正準集団]] :(ミクロカノニカルアンサンブル、microcanonical ensemble、''NVE'' ensemble) : 全[[エネルギー]]が一定である系のアンサンブル。熱的に孤立しており、熱力学的には[[孤立系]]に当たる。系が許す全ての微視的状態は同じ確率で現れる([[等確率の原理]])。つまり、微視的状態{{mvar|ω}}が出現する確率{{Math|''p''(''ω'')}}は {{Indent|<math>p(\omega) = \frac{1}{W}</math>}} :で与えられる<ref>田崎『統計力学Ⅰ』 p.93</ref>。ここで、{{Math|<math>W</math>}}は系が取りうる微視的状態の総数であり、{{Math|<math>W</math>}}はエントロピー<math>S</math>と {{Indent|<math>S=k_{B}\ln W</math>}} :の関係にある<ref>田崎『統計力学Ⅱ』p.321</ref>([[ボルツマンの原理]])。 ; [[正準集団]] : (カノニカルアンサンブル、canonical ensemble、''NVT'' ensemble) : 巨大な熱浴との間でエネルギーをやりとりできる系のアンサンブル。熱浴の[[熱容量]]は十分大きく、系の[[温度]]は一定であると仮定できるとする。これは閉鎖系に当たる。この集団で、微視的状態{{mvar|ω}}が出現する確率{{Math|''p''(''ω'')}}は {{Indent|<math>p(\omega) = \frac{1}{Z} e^{-\beta E(\omega)}</math>}} :で与えられる<ref>田崎『統計力学Ⅰ』 p.106</ref>。ここで、{{mvar|β}}は[[逆温度]]、{{Math|''E''(''ω'')}}は微視的状態{{mvar|ω}}のエネルギーである。{{mvar|<math>Z</math>}}は<math>Z =\sum_{\omega} e^{-\beta E(\omega)} </math> :で定義される[[分配関数]]<ref name=":0">田崎『統計力学Ⅰ』 p.107</ref>と呼ばれる量である。{{Math|<math>Z</math>}}は[[ヘルムホルツの自由エネルギー]]と {{Indent|<math>F=-\frac{1}{\beta}\ln Z</math>}} :の関係にある<ref>田崎『統計力学Ⅰ』p.123</ref>。 ; [[大正準集団]] : (グランドカノニカルアンサンブル、grand canonical ensemble) : やはり熱浴と接触しているが、粒子のやり取りもでき、温度が一定であるような統計集団である。微視的状態{{mvar|ω}}が出現する確率{{Math|''p''(''ω'')}}は {{Indent|<math>p(\omega) = \frac{1}{\Xi} e^{-\beta \left(E(\omega)- \mu N(\omega)\right)}</math>}} :で与えられる<ref name=":1">田崎『統計力学Ⅱ』 p.293</ref>。ここで、{{mvar|β}}は[[逆温度]]、{{mvar|μ}}は[[化学ポテンシャル]]、{{Math|''E''(''ω'')}}、{{Math|''N''(''ω'')}}は微視的状態{{mvar|ω}}のエネルギーと粒子数である。{{Math|<math>\Xi</math>}}は :<math>\Xi = \sum_\omega e^{-\beta \left( E(\omega)-\mu N(\omega)\right) }</math> :で定義される[[大分配関数]]<ref name=":1" />と呼ばれる量である。{{Math|<math>\Xi</math>}}は[[グランドポテンシャル]]{{Math|<math>J</math>}}と {{Indent|<math>J=-\frac{1}{\beta}\ln \Xi</math>}} :の関係にある<ref>田崎『統計力学Ⅱ』p.295、p.316</ref>。 ;[[等温定圧集団]]:(isothermal–isobaric ensemble、''NPT ensemble'') :[[温度]]、[[圧力]]''、''粒子数が一定であるアンサンブル。 == 古典力学系のアンサンブル == {{要出典範囲|古典力学系のアンサンブルの統計的性質は {{mvar|Γ}}-空間上における[[確率測度]]から導かれる。{{mvar|Γ}}-空間の領域Aが領域Bより大きな測度をもつならば、アンサンブルからランダムに選んだ系は、微視的には領域Bよりも領域Aに属している可能性が高い。力学系のミクロな性質を記述する[[ハミルトン関数]]やその他の[[物理量]]と、アンサンブルに課したマクロな条件により確率測度の形が決められる。確率測度の[[正規化]]因子はアンサンブルの分配関数と呼ばれる。物理学的には分配関数によってその系の熱力学的性質が導かれる。測度が時間に依らないならば、アンサンブルは静的であるといわれる。|date=2024年9月}} == エルゴード仮説 == 分子の状態に[[相関]]がない[[分子的混沌]]状態を仮定すれば、十分長い[[時間]]スケールに対して、系の時間発展に伴って可能な総ての微視的状態をとると考えられ、これは'''[[エルゴード仮説]]'''と呼ばれる<ref name="ichimura_ss12-2">[[#ichimura|市村『統計力学』]]pp.64-66, §12.2</ref>。エルゴード仮設により、同一の力学系を無数に集めたアンサンブルは、1つの力学系を繰り返し観測することと同等であると考えることができる<ref name="ichimura_ss12-2"/><ref>[[#kubo|久保『熱学・統計力学』]]p.199, </ref>。 エルゴード仮説が等確率の原理を根拠付けると考えられており、統計力学を基礎付けるとされてきたが<ref name="ichimura_ss12-2"/>、今日では統計力学の基礎付けとしては的を外しているという主張も専門家によってなされている<ref>[[#tasaki1|田崎『統計力学1』]]</ref><ref>[[田崎晴明]]による解説 [http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/statbook/ 統計力学 I, II(培風館、新物理学シリーズ) ]</ref><ref>[[大野克嗣]]による解説 [http://www.rinst.org/](Statistical Mechanics, Japanese versionというpdf)</ref>。 == 脚注 == <references /> == 参考文献 == * {{Cite book|和書 |author= [[原島鮮]] |title= 熱力学・統計力学 |edition= 改訂版 |year= 1978 |publisher= 培風館 |isbn= 978-4-563-02139-9 |ref= harashima }} * {{Cite book |author= [[戸田盛和|M.Toda]], [[久保亮五|R.Kubo]] and N.Saito |title= Statistical Physics 1 |edition= 2nd |year= 1992 |publisher= Springer-Verlag |isbn= 3-540-53662-0 |ref= Toda }} * {{Cite book|和書 |author= 市村浩 |title= 統計力学 |edition= 改訂版 |year= 1992 |publisher= [[裳華房]] |series= 基礎物理学選書 |isbn= 978-4-7853-2134-5 |ref= ichimura }} * {{Cite book|和書 |author= 久保亮五 |title= 大学演習 熱学・統計力学 |edition= 修訂版 |year= 1998 |publisher= [[裳華房]] |isbn= 978-4-7853-8032-8 |ref= kubo }} * {{Cite book|和書 |author=[[田崎晴明]] |title=統計力学Ⅰ |year=2008 |publisher=[[培風館]] |series=新物理学シリーズ |isbn=978-4-563-02437-6 |ref=tasaki1}} * {{Cite book|和書 |title=統計力学Ⅱ |publisher=[[培風館]] |author=田崎晴明 |date=2008 |series=[[培風館]] |isbn=978-4-563-02438-3}} * {{Cite book|和書 |title=演習しよう熱・統計力学 |year=2018 |publisher=数理工学社 |isbn=978-4-86481-053-1 |author=北 孝文}} {{DEFAULTSORT:とうけいしゆうたん}} [[Category:統計力学]] [[Category:統計集団|*]]
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