線積分のソースを表示

{{混同|経路積分|x1=量子力学の理論手法である}}
{{calculus}}
[[数学]]における'''線積分'''（せんせきぶん、{{lang-en-short|line integral}}; 稀に {{en|path integral}}{{efn|{{en|path integral}}は量子力学の[[経路積分]]を指す言葉として定着している。線積分の意味ではあまり用いられない{{要出典|date=2016年4月}}。}}, {{en|curve integral, curvilinear integral}}）は、曲線に沿って評価された[[函数]]の値についての[[積分]]の総称。[[ベクトル解析]]や[[複素解析]]において重要な役割を演じる。閉曲線に沿う線積分を特に'''閉路積分'''（へいろせきぶん）あるいは'''周回積分'''（しゅうかいせきぶん）と呼び、専用の積分記号 {{math|∮}} が使われることもある。[[複素線積分|周回積分法]]は[[複素解析]]における重要な手法の一つである。
[[ファイル:Line_integral_of_scalar_field.gif|サムネイル|表面 {{math|''z'' {{=}} ''f''(''x'', ''y'')}} に沿った曲線 {{mvar|C}}の下の領域と考えることができる]]
線積分の対象となる函数は、[[スカラー場]]や[[ベクトル場]]などとして与える。線積分の値は場の考えている曲線上での値に曲線上のあるスカラー函数（[[弧長]]、あるいはベクトル場については曲線上の微分ベクトルとの[[点乗積]]）による重み付けをしたものを「足し合わせた」ものとなる。この重み付けが、[[区間 (数学)|区間]]上で定義する積分と線積分とを分ける点である。

物理学における多くの単純な公式が、線積分で書くことによって自然に、連続的に変化させた場合についても一般化することができるようになる。例えば、力学的な[[仕事 (物理学)|仕事]]を表す式 {{math|''W'' {{=}} '''''F'''''&sdot;'''''s'''''}} から曲線 {{mvar|C}} に沿っての仕事を表す式 {{math|''W'' {{=}} {{intmath|int|''C''}}'''''F'''''&sdot;d'''''s'''''}} を得る。例えば電場や重力場において運動する物体の成す仕事が計算できる。

== 弧長変数と線素 ==
{{seealso|弧長}}
{{mvar|n}} 次元実[[多様体]] {{mvar|M}} の領域 {{math|&Omega;}} を考える。局所的には {{math|&Omega; &sub; '''R'''<sup>''n''</sup>}} と考えることができる。{{math|&Omega;}} 内の[[滑らかな関数|滑らかな曲線]] {{math|''&gamma;'': ''I'' &rarr; &Omega;}} が {{math|'''''r''''' {{=}} ''&gamma;''(''t'') {{=}} (''&gamma;''{{ind|1}}(''t''), ''&gamma;''{{ind|2}}(''t''), …, ''&gamma;{{ind|n}}''(''t''))}} で与えられているとき、{{math|''s'' {{=}} ''s''(''t'')}} が {{mvar|&gamma;}} の'''弧長変数'''であるとは、それが線分 {{mvar|γ}} に沿って端点から測った {{mvar|γ}} の弧長を与えるものであることを言う。いま {{mvar|γ}} はなめらかであるから、その弧長は区間 {{math|''I'' {{=}} {{bracket|''a'', ''b''}}}} 上の各点 {{math|''t''{{ind|0}}}} に対して
: <math>s(t_0) = \int_{a}^{a + t_0} \left|\frac{\mathrm{d}\gamma}{\mathrm{d}t}\right|\mathrm{d}t 
  = \int_{a}^{a + t_0} \sqrt{ \left( \frac{\mathrm{d}\gamma_1}{\mathrm{d}t} \right)^2 + \left( \frac{\mathrm{d}\gamma_2}{\mathrm{d}t} \right)^2 + \dotsb + \left( \frac{\mathrm{d}\gamma_n}{\mathrm{d}t} \right)^2}\;\mathrm{d}t
</math>
で与えられる。特に {{mvar|s}} は
: <math>\mathrm{d}s = \left|\frac{\mathrm{d}\gamma}{\mathrm{d}t}\right|\mathrm{d}t = |\mathrm{d}\gamma|</math>
を満たすが、これはパラメータ {{mvar|t}} の取り方に依らず定まることに注意すべきである{{sfn|高木|1983|p=135|loc=§40.曲線の長さ}}。記号的には
: <math>|\mathrm{d}\boldsymbol{r}|^2 = {\mathrm{d}x_1}^2 + {\mathrm{d}x_2}^2 + \dotsb + {\mathrm{d}x_n}^2</math>
に {{math|'''''r''''' {{=}} ''γ''(''t'')}} を代入することで得られる。この {{math|d''s''}} を {{mvar|&gamma;}} の'''線素'''（せんそ、{{en|line element}}）と呼ぶ。曲線が区分的に滑らかなら、微分可能な区間の和にわけて同じく弧長を定義することができる。

== 場の線積分 ==
定性的には、ベクトル解析における線積分は、与えられた[[場]]の与えられた曲線に沿っての全体的な効果を計るものと考えることができる。より厳密に言えば、スカラー場上の線積分は、特定の曲線によって曲げられた場の下にある領域の面積と解釈できる。これは {{math|''z'' {{=}} ''f''(''x'', ''y'')}} で定義する曲面と {{mvar|xy}}-平面上の曲線 {{mvar|C}} を使って視覚的に見ることができて、{{mvar|f}} の線積分は曲線 {{mvar|C}} の真上にある曲面上の点で切り取るときにできる「カーテン」の面積になる<ref>{{harvnb|長沼|2011|p=24}} http://pathfind.motion.ne.jp/</ref>。

=== スカラー場に対する線積分 ===
==== 偏線積分 ====
[[スカラー場]] {{math|''f'' : ''U'' ⊆ '''R'''<sup>''n''</sup> → '''R'''}} の滑らかな曲線 {{math|{{bracket|''a'', ''b''}} ∋ ''t'' {{mapsto}} ''&gamma;''(''t'') {{=}} (''&gamma;''{{ind|1}}(''t''), ''&gamma;''{{ind|2}}(''t''), …, ''&gamma;{{ind|n}}''(''t''))}} に沿った各軸方向の'''線積分'''は
: <math>\int_C f\, \mathrm{d}x_i = \int_a^b f \bigl( \boldsymbol{r}(t) \bigr) \frac{\mathrm{d} \,\gamma_{i}(t)}{\mathrm{d}t} \,\mathrm{d}t</math>
で与えられる{{sfn|高木|1983|p=137|loc=§41.線積分}}。

このとき、函数 {{mvar|f}} を'''被積分函数''' {{en|(integrand)}}、曲線 {{mvar|C}} を'''積分領域''' {{en|(domain of integration)}} あるいは'''積分路''' {{en|(path)}} と呼ぶ。

==== 線素に関する線積分 ====
[[スカラー場]] {{math|''f'' : ''U'' ⊆ '''R'''<sup>''n''</sup> → '''R'''}} の[[滑らかな関数|滑らか]]な[[曲線]] {{math|''C'' ⊂ ''U''}} に沿った線素に関する'''線積分'''は
: <math>\int_C f\, \mathrm{d}s = \int_a^b f \bigl( \boldsymbol{r}(t) \bigr) \bigr|\boldsymbol{r}'(t) \bigr| \,\mathrm{d}t</math>
と定義する（[[区分的]]に滑らかの場合は、滑らかな区間ごとの積分の和と定める）。ただし、{{math|'''''r''''': {{bracket|''a'', ''b''}} → ''C''}} は、{{math|'''''r'''''(''a'')}} と {{math|'''''r'''''(''b'')}} が与えた曲線 {{mvar|C}} の両端点となるような、{{mvar|C}} の勝手な[[全単射]][[媒介変数|媒介表示]]とする。

記号 {{math|d''s''}} は直観的には弧長の無限小成分としての'''線素'''と解釈できる。スカラー場の曲線 {{mvar|C}} に沿った線積分は、{{mvar|C}} の媒介表示 {{mvar|'''r'''}} の取り方に依らない。

==== 線素に関する線積分の導出 ====
[[#スカラー場の線積分の定義|上記の如く]] {{math|''f'', ''C''}} を定め、{{mvar|C}} の媒介表示 {{mvar|'''r'''}} を取れば、スカラー場の線積分は[[リーマン和]]として構成することができる。[[区間 (数学)|区間]] {{closed-closed|''a'', ''b''}} を長さ {{math|∆''t'' {{=}} (''b'' &minus; ''a'')/''n''}} の {{mvar|n}}-個の小区間 {{closed-closed|''t''{{ind|''i''&minus;1}},&thinsp;''t{{ind|i}}''}} に分割し、曲線 {{mvar|C}} 上に各小区間に対応する標本点 {{math|'''''r'''''(''t{{ind|i}}'')}} をとる。標本点の集合 {{math|{{mset|'''''r'''''(''t{{ind|i}}'') | 1 &le; ''i'' &le; ''n''}}}} に対して、標本点 {{math|'''''r'''''(''t''{{ind|''i''&minus;1}})}} と {{math|'''''r'''''(''t{{ind|i}}'')}} を結んでできる線分の集まりによって曲線 {{mvar|C}} を近似することができる。各標本点の間を結ぶ線分の長さを {{math|∆''s{{ind|i}}''}} と書くことにすれば、積 {{math|''f''&thinsp;('''''r'''''(''t{{ind|i}}''))∆''s{{ind|i}}''}} は、高さと幅が {{math|''f''('''''r'''''(''t{{ind|i}}''))}} と {{math|∆''s{{ind|i}}''}} で与えられる矩形の符号付面積に対応する。それらの総和を取って、分割の各小区間の長さを {{math|0}} に近づける極限を
: <math>I = \lim_{\Delta t \to 0} \sum_{i=1}^n f \bigl( \boldsymbol{r}(t_i) \bigr) \Delta s_i</math>
と考えるとき、曲線上の分点間の距離は
: <math>\Delta s_i = \bigl| \boldsymbol{r}(t_i+\Delta t)-\boldsymbol{r}(t_i) \bigr| = \bigl| \boldsymbol{r}'(t_i) \bigr| \Delta t</math>
と書けるから、これを代入して得る
: <math>I = \lim_{\Delta t\to 0} \sum_{i=1}^n f \bigl( \boldsymbol{r}(t_i) \bigr) \bigl| \boldsymbol{r}'(t_i) \bigr| \Delta t</math>
は、積分
: <math>I = \int_a^b f \bigl( \boldsymbol{r}(t) \bigr) \bigl| \boldsymbol{r}'(t) \bigr| \,\mathrm{d}t</math>
に対応するリーマン和である。基本的にこの積分は、{{math|''x'' {{=}} ''u''(''t'')}} および {{math|''y'' {{=}} ''v''(''t'')}} となる制約条件下でスカラー函数 {{math|''z'' {{=}} ''f''(''x'', ''y'')}} の下にある領域の面積になっている。

=== ベクトル場に対する線積分 ===
==== ベクトル場の線積分の定義 ====
[[ベクトル場]] {{math|'''F''': ''U'' ⊆ '''R'''<sup>''n''</sup> → '''R'''<sup>''n''</sup>}} の {{mvar|'''r'''}} の向きへの[[滑らかな関数|区分的に滑らかな曲線]] {{math|''C'' ⊂ ''U''}} に沿った線積分は
:<math>\int_C \boldsymbol{F}(\boldsymbol{r})\cdot \mathrm{d}\boldsymbol{r} = \int_a^b \boldsymbol{F} \bigl( \boldsymbol{r}(t) \bigr) \cdot \boldsymbol{r}'(t) \,\mathrm{d}t</math>
と定義される。ただし、“{{math|&sdot;}}” は[[点乗積|ベクトルの内積]]であり、{{math|'''''r''''': {{bracket|''a'', ''b''}} → ''C''}} は、{{math|'''''r'''''(''a'')}} と {{math|'''''r'''''(''b'')}} が曲線 {{mvar|C}} の両端点となる {{mvar|C}} の[[全単射]][[媒介変数|媒介表示]]とする。

従ってスカラー場の線積分は、各ベクトルが常に積分路に接するようなベクトル場の線積分に一致する。

ベクトル場の線積分は、絶対値に関しては媒介変数 {{mvar|'''r'''}} の取り方に依らないが、[[向き]]に関しては依存する。特に、媒介変数の向きを逆にすれば、線積分の符号が変わる。

==== ベクトル場の線積分の導出 ====
[[Image:Line-Integral.gif|300px|thumb|right|ベクトル場内の曲線に沿った粒子の軌跡。下に表示されているのは、曲線に沿って粒子が動いたときに粒子が出会う場のベクトルである。それらのベクトルと軌跡の各点における曲線の接ベクトルとの点乗積の和を取ったものが、求める線積分になる。]]

ベクトル場の線積分も、スカラー場の線積分の場合とよく似た方法で導ける。ベクトル場 {{mvar|'''F'''}}、曲線 {{mvar|C}}、媒介表示 {{math|'''''r'''''(''t'')}} は[[#ベクトル場の線積分の定義|上記の如く]]として、[[リーマン和]]を構成しよう。区間 {{closed-closed|''a'',&thinsp;''b''}} を長さ {{math|∆''t'' {{=}} (''b'' &minus; ''a'')/''n''}} の {{mvar|n}}-個の小区間に分割し、{{mvar|i}}-番目の小区間から標本点 {{mvar|t{{ind|i}}}} を取って、曲線上の分点 {{math|'''''r'''''(''t{{ind|i}}'')}} を考える。ここでは分点間の距離を足し合わせるのではなくて、分点間の[[変位ベクトル]] {{math|∆'''''s'''{{ind|i}}''}} を足し合わせる。[[#スカラー場の線積分の導出|前と同じく]]、{{mvar|'''F'''}} を放射曲線上の各点で評価して、それと曲線 {{mvar|C}} の各小片での {{mvar|'''F'''}} の[[無限小]]寄与を与える変位ベクトルとの点乗積をとったもの全て和の、分割のサイズを {{math|0}} にする極限
:<math>I = \lim_{\Delta t\to 0} \sum_{i=1}^n \boldsymbol{F} \bigl( \boldsymbol{r}(t_i) \bigr) \cdot \Delta\boldsymbol{s}_i</math>
を考える。曲線上の隣り合う分点の間の変位ベクトルは
:<math>\Delta\boldsymbol{s}_i = \boldsymbol{r}(t_i+\Delta t) - \boldsymbol{r}(t_i) = \boldsymbol{r}'(t_i) \Delta t</math>
と書けるから、代入してリーマン和
:<math>I = \lim_{\Delta t \to 0} \sum_{i=1}^n \boldsymbol{F} \bigl( \boldsymbol{r}(t_i) \bigr) \cdot \boldsymbol{r}'(t_i) \Delta t</math>
を得、これにより上記の線積分が定まる。

=== 経路独立な線積分 ===
{{Main|{{仮リンク|勾配定理|en|Gradient theorem}}}}
ベクトル場 {{mvar|'''F'''}} が何らかのスカラー場 {{mvar|G}} の[[勾配 (ベクトル解析)|勾配]]として
:<math>\nabla G = \boldsymbol{F}</math>
と書けるとき、{{mvar|G}} と {{math|'''''r'''''(''t'')}} との[[写像の合成|合成]]の導函数
:<math>\frac{ \mathrm{d} \, G \bigl( \boldsymbol{r}(t) \bigr) }{\mathrm{d}t} 
= \nabla G \bigl( \boldsymbol{r}(t) \bigr) \cdot \boldsymbol{r}'(t) = \boldsymbol{F} \bigl( \boldsymbol{r}(t) \bigr) \cdot \boldsymbol{r}'(t)</math>
は、{{mvar|'''F'''}} の {{math|'''''r'''''(''t'')}} 上の線積分の被積分函数である。従って、積分路 {{mvar|C}} を与えれば
:<math>\int_C \boldsymbol{F}(\boldsymbol{r}) \cdot \mathrm{d}\boldsymbol{r} 
= \int_a^b \boldsymbol{F} \bigl( \boldsymbol{r}(t) \bigr) \cdot \boldsymbol{r}'(t) \,\mathrm{d}t 
= \int_a^b \frac{ \mathrm{d} \, G \bigl( \boldsymbol{r}(t) \bigr) }{\mathrm{d}t} \,\mathrm{d}t 
= G \bigl( \boldsymbol{r}(b) \bigr) - G \bigl( \boldsymbol{r}(a) \bigr)</math>
が成り立つ。言い換えれば、{{mvar|'''F'''}} の {{mvar|C}} 上の積分は、点 {{math|'''''r'''''(''b'')}} および {{math|'''''r'''''(''a'')}} 上の {{mvar|G}} の値のみに依存し、それらを結ぶ積分路の取り方に依らない。特に積分路 {{mvar|C}} が閉経路であるならば、積分は必ず {{math|0}} になるため、ベクトル場 {{mvar|'''F'''}} は{{仮リンク|保存ベクトル場|en|Conservative vector field}}と呼ばれる。また、物理学において、このような性質を持つ[[力 (物理学)|力]]の[[場]]を[[保存力]]と呼ぶ。

このことから、保存ベクトル場の線積分は'''経路独立''' {{lang|en|(path independent)}} あるいは「積分経路に依らない」と言う。

=== 応用 ===
この線積分は物理学でよく用いる。たとえば、ベクトル場 {{mvar|'''F'''}} で表す力場の内側で曲線 {{mvar|C}} に沿って運動する粒子の成す[[仕事 (物理学)|仕事]]を {{mvar|'''F'''}} の {{mvar|C}} 上の線積分で表す。
:<math>W(t_0; t_1) = \int_C \boldsymbol{F} \bigl( \boldsymbol{r}(t), t \bigr) \cdot \mathrm{d}\boldsymbol{r}(t)
= \int_{t_0}^{t_1} \boldsymbol{F} \bigl( \boldsymbol{r}(t), t \bigr) \cdot\frac{ \mathrm{d}\boldsymbol{r} }{\mathrm{d}t}\!(t) \,\mathrm{d}t</math>

== 複素線積分 ==
{{see also|複素線積分}}
線積分は[[複素解析]]における基本的な道具である。{{mvar|U}} を[[複素数平面]] {{mathbf|C}} の[[開集合]]、{{math|''γ'': {{bracket|''a'', ''b''}} → ''U''}} を[[弧長|有限長曲線]]とすると、函数 {{math|''f'': ''U'' → '''C'''}} の線積分
:<math>\int_\gamma f(z)\,\mathrm{d}z</math>
は、区間 {{closed-closed|''a'', ''b''}} の {{math|''a'' {{=}} ''t''{{ind|0}} &lt; ''t''{{ind|1}} &lt; ⋯ &lt;  ''t{{ind|n}}'' {{=}} ''b''}} への細分を考えて得るリーマン和
:<math>\sum_{1 \le k \le n} f \bigl( \gamma(t_k) \bigr) \bigl( \gamma(t_k) - \gamma(t_{k-1}) \bigr)</math>
の、小区間の幅を {{math|0}} に近づける極限として定義する。

{{mvar|&gamma;}} が[[連続的微分可能]]な曲線ならば、この線積分の値は実変数函数の積分
:<math>\int_\gamma f(z)\,\mathrm{d}z=\int_a^b f \bigl( \gamma(t) \bigr) \gamma'(t)\,\mathrm{d}t</math>
として評価することができる{{sfn|木村|高野|1991|p=34|loc=定義7.1}}。弧長に関する線積分も同様に
: <math>\int_{\gamma} f(z)|\mathrm{d}z| = \int f \bigl( \gamma(t) \bigr) \left|\frac{\mathrm{d}\gamma}{\mathrm{d}t}\right| \mathrm{d}t</math>
と定義できる{{sfn|木村|高野|1991|p=36|loc=定義7.3}}。これら二種類の線積分について、特に
: <math>\left|\int_\gamma f(z) \,\mathrm{d}x\right| \le \int_\gamma |f(z)||\mathrm{d}z|</math>
が成り立つ。

複素函数の線積分を計算する方法はいろいろある。例えば、複素函数を実部と虚部に分けて考えれば、2 つの実数値線積分を計算する問題に帰着できる。[[コーシーの積分公式]]を用いて計算する方法もある。後者は複素線積分の被積分函数が、その積分路を含む領域内で[[解析函数|解析的]]かつ[[特異点 (数学)|特異点]]を含まないならば、その線積分の値は単に {{math|0}} になるという[[コーシーの積分定理]]からの帰結である。[[留数定理]]はコーシーの積分定理の一般化である。この定理は複素平面内の周回積分によって実函数（実変数実数値函数）の積分を計算するために、しばしば用いる。

=== 複素線積分の例 ===
複素函数 {{math|''f''(''z'') {{=}} 1/''z''}} と閉路 {{mvar|C}} として {{math|0}} を中心とする[[単位円]]を {{math|1}} から反時計回りに一周するもの考える。{{mvar|C}} は {{mvar|e{{exp|it}}}} ({{math|''t'' &isin; {{bracket|0, 2π}}}}) と媒介変数表示できるから、代入して
:<math>\oint_C f(z) \,\mathrm{d}z 
= \int_0^{2\pi} \frac{1}{e^{it}} ie^{it} \,\mathrm{d}t 
= i \int_0^{2\pi}\mathrm{d}t = 2\pi i</math>
を得る。<!--ここで任意の複素数 {{mvar|z}} が（その[[絶対値]]を {{mvar|r}} として）{{mvar|re<sup>it</sup>}} と書けるという事実を用いた。単位円上では {{math|''r'' {{=}} 1}} は固定であるから、残る変数は {{mvar|t}} で表す偏角のみである。-->上記の積分は[[コーシーの積分公式]]を用いても同じ計算結果が得られる。

=== 複素線積分とベクトル場の積分との関係 ===
[[複素平面]] {{mathbf|C}} を実 2 次の空間 {{math|'''R'''<sup>2</sup>}} と見なせば、二次元ベクトル場の線積分は、対応する複素函数の[[複素共役|共軛]]の線積分の実部に対応する。すなわち、{{math|''x'', ''y''}} 軸方向の単位ベクトル {{math|'''''j''''', '''''k'''''}} を用いて、{{math|'''''r'''''(''t'') {{=}} ''x''(''t'')'''''j''''' + ''y''(''t'')'''''k'''''}} および {{math|''f''(''z'') {{=}} ''u''(''z'') + ''iv''(''z'')}} と置くと
:<math>\int_C \overline{f(z)}\,\mathrm{d}z = \int_C (u-iv)\,\mathrm{d}z 
= \int_C (u\boldsymbol{j}+v\boldsymbol{k})\cdot \mathrm{d}\boldsymbol{r} 
- i\int_C (v\boldsymbol{j}-u\boldsymbol{k})\cdot \mathrm{d}\boldsymbol{r}</math>
なる関係式が、右辺の 2 つの積分がともに存在することから言える。ただし {{mvar|C}} の媒介変数表示 {{math|''z''(''t'')}} は {{math|'''''r'''''(''t'')}} と同じ向きを持つようにとる。同じことだが、微分形式として見れば {{math|''f''(''z'')d''z''}} は
: <math>f(z) \,\mathrm{d}z = \bigl( u(x,y) \,\mathrm{d}x - v(x,y) \,\mathrm{d}y \bigr) + i \bigl( v(x,y) \,\mathrm{d}x + u(x,y) \,\mathrm{d}y \bigr)</math>
と書くことができて、これと共軛複素積分<ref>{{cite book|first1=Lars| last1=Ahlfors | title = Complex Analysis 2nd edition | page=103}}</ref>
: <math>f(z) \,\mathrm{d}\bar{z} \, (= \overline{f(z)} \,\mathrm{d}z) 
= \bigl( u(x,y) \,\mathrm{d}x + v(x,y) \,\mathrm{d}y \bigr) 
+ i \bigl( v(x,y) \,\mathrm{d}x - u(x,y) \,\mathrm{d}y \bigr)</math>
をあわせて考えれば、ベクトル場としての線積分と面積分を考えることができる。

複素正則函数が[[コーシー＝リーマンの方程式]]を満たすことから、[[正則函数]]の共軛に対応するベクトル場の[[回転 (ベクトル解析)|回転]]は {{math|0}} になる。これはどちらの種類の線積分でもそれが {{math|0}} になるときの[[ストークスの定理]]と関連がある。すなわち、[[グリーンの定理|ガウス＝グリーンの定理]]を適用すれば複素関数の面積分は、その領域の境界上の線積分に帰着されるため、複素関数の積分では線積分が本質的である。特に正則関数 {{mvar|f}} の単純閉曲線 {{mvar|&gamma;}} 上の閉路積分に関する[[コーシーの定理]]
: <math>\oint_\gamma f(z) \,\mathrm{d}z = 0</math>
は、{{mvar|&gamma;}} を境界 {{mvar|&part;D}} とする領域 {{mvar|D}} でのグリーンの定理にコーシー・リーマンの関係式を代入することに対応する。

== 関連項目 ==
* [[弧長]]
* [[グリーンの定理]]
* [[ストークスの定理]]
* [[ケルビン・ストークスの定理]]
* [[周回積分]]（留数と複素積分を用いて実積分等を計算する方法）。
* [[多重積分]]
* [[面積分]]
* [[発散定理]]
* {{仮リンク|ナッハビンの定理|en|Nachbin's theorem}}
* {{仮リンク|汎函数積分|en|Functional integration}}

== 脚注 ==
=== 注釈 ===
{{Notelist}}
=== 出典 ===
{{Reflist}}
== 参考文献 ==
{{Refbegin}}
* {{citation | 和書 | first= 貞治 | last= 高木 | title= 解析概論 | edition= 改訂第三版 | publisher= 岩波書店 | year=1983 |ref=harv}}
* {{citation | 和書 | title=物理数学の直感的方法 |last=長沼|first=伸一郎|series=ブルーバックス|publisher=講談社|date=2011|isbn=978-4062577380|ref=harv}}
* {{citation | 和書 | first1= 俊房 | last1= 木村 | first2= 恭一 | last2= 高野 | title= 関数論 | publisher= 朝倉書店 | series= 新数学講座 | volume= 7 | year=1991 |ref=harv}}
{{Refend}}

== 外部リンク ==
* [[Khan Academy]] [http://www.khanacademy.org/video/introduction-to-the-line-integral?playlist=Calculus Lesson 1] [http://www.khanacademy.org/video/line-integral-example-1?playlist=Calculus Lesson 2]
* {{PlanetMath|urlname=LineIntegral|title=Path integral}}
* [http://www.math.montana.edu/frankw/ccp/multiworld/traveling/line-integrals/body.htm A pictoral explanation of the path integral]
* [http://math.fullerton.edu/mathews/c2003/ContourIntegralMod.html Contour Integrals Module by John H. Mathews]
* [http://mathinsight.org/line_integral_vector_field_introduction Line integral of a vector field - Interactive]

{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:せんせきふん}}
[[Category:複素解析]]
[[Category:ベクトル解析]]
[[Category:積分法]]
[[Category:数学に関する記事]]