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'''自励振動'''(じれいしんどう、{{Lang-en-short|self-excited vibration, self-induced vibration}})とは、ある[[系 (自然科学)|系]]に非振動的な入力のみが加わる場合でも、その系自体の特性により系内部で非振動入力が振動に変換されて引き起こされる[[振動]]現象のことである{{Sfn|日本機械学会|2007|p=607}}。 実際に自励振動を原因として起きた事故として有名なものに、1940年11月に発生した初代'''[[タコマナローズ橋]]'''の崩落事故がある。タコマナローズ橋は当時の最新理論に基づき建設されたが、建設中から風による振動を繰り返し、遂に7月の開通から僅か4か月ほどしか経っていないにもかかわらず、自励振動による振幅増大によって崩壊してしまった。なお、その一部始終は映像として完全記録されており、この詳細な記録によって構造物が風を受けて生じる振動についての研究が急速に進展することとなった。 == 発生原理 == 自励振動を発生させる基本原理は以下の3つである{{Sfn|日本機械学会|2007|p=607}}。 * 非振動的エネルギーが与えられる場にあること * 非振動エネルギーを励振力に変える機構・特性を系が有していること * 初期外乱が与えられること 自励振動の特徴として、一旦発生するとその特性から振動が継続するが、発生しない平衡状態にあるときは全く振動しないという特徴がある{{Sfn|末岡|金光|近藤|2002|p=174}}。自励振動を防ぐ場合の対策は、具体的には個々の対象物の制約条件により決まるが、上記の発生条件を無くす・変えること、あるいは適切な減衰を加えることなどである。 自励振動系の典型例は減衰力の[[符号]]が負となった形で与えられるもので{{Sfn|日本機械学会|2007|p=607}}、減衰力が速度と同じ向きに作用することで、通常の減衰力とは異なり、時間の経過と共に振動系にエネルギを流入させていくこととなる{{Sfn|前澤|1973|p=52}}。このような減衰力を負性抵抗{{Sfn|下郷|田島|2002|p=164}}、負の減衰力{{Sfn|前澤|1973|p=52}}などと呼ぶ。1自由度のばね-質量-ダンパー系で負性抵抗を持つ場合を考えると以下の運動方程式で与えられる。 :<math> m \ddot x - c \dot x + k x = 0</math> <math> c < 2\sqrt{mk}</math>であれば、一般解は以下のようになる{{Sfn|前澤|1973|p=52}}。 :<math> x = e^{\zeta \omega_0 t}\left[ D_1 \cos (\omega_0 \sqrt{1-\zeta^2} t)+ D_2 \sin (\omega_0 \sqrt{1-\zeta^2} t)\right] </math> ここで、<math>\omega_0 = \sqrt{k/m}</math>、<math>\zeta = \frac{c}{2\sqrt{mk}}</math>、''D''<sub>1</sub>、''D''<sub>2</sub>:任意定数、''m'':[[質量]]、''c'':[[減衰係数]]、''k'':[[ばね定数]]である。すなわち、このような系では振動の振幅は[[指数関数]]的に成長することになる。 実際の系では振幅が無限にまで成長することはないので、成長の途中で機械や装置などの振動系自体が壊れる結果となるか、振幅がある程度大きくなると減衰力の符号が逆転してある程度以上に成長しないようになる結果となる{{Sfn|前澤|1973|p=53}}。後者のような自励振動系の代表例として、以下のような運動方程式で表される[[ファン・デル・ポール振動子]]がある。 :<math>\ddot x - \mu(1-x^2)\dot x + x = 0</math> ここで、''μ''は定数である。ファン・デル・ポール振動子は安定な[[リミットサイクル]]を持つ{{Sfn|下郷|田島|2002|p=148}}。 {{Main|ファン・デル・ポール振動子}} == 自励振動の分類と例 == 自励振動の主原因にもとづく分類例を以下に示す。 ;流体励起振動 :流体を系に含む機械や構造物において流体を原因として発生する自励振動{{Sfn|末岡|金光|近藤|2002|p=180}}。後流渦を原因とする場合は渦振動とも呼ぶ。流体関連振動とも呼び、自励振動に限らずに流体が関連する振動全般を指す場合もある{{Sfn|日本機械学会|2007|p=1372}}。 ;摩擦振動 :乾摩擦が原因となって発生する自励振動{{Sfn|日本機械学会|2007|pp=1266-1267}}。系の摩擦要素が相対滑り速度の増加とともに摩擦係数が減少する特性を持つとき発生する種類と、摩擦係数一定のクーロン力を前提にしてもバネ-摩擦-入力の組み合せにより発生する種類がある{{Sfn|末岡|金光|近藤|2002|p=180}}。 ;時間遅れ系による自励振動 :時間遅れのあるフィードバック系で発生する自励振動{{Sfn|末岡|金光|近藤|2002|p=185}}。例として切削加工時のびびり振動などが挙げられる{{Sfn|日本機械学会|2007|p=1097}}。機械的な系のみならず[[制御系]]で時間遅れが存在する場合にも同様な制御系に不安定振動が発生する{{Sfn|末岡|金光|近藤|2002|pp=186-187}}。 ;係数励振振動 {{Main|係数励振}} :振動系の運動方程式の係数が周期的に変化することにより発生する振動。例としては遊戯道具の[[ブランコ]]などが挙げられる{{Sfn|日本機械学会|2007|p=358}}。自励振動に含める場合と含めない場合がある{{Sfn|日本機械学会|2007|p=607}}。 自励振動の具体例を以下に示す。 * [[航空機]][[翼]]の[[フラッター現象]] * [[ポンプ]]のサージング現象 * [[カルマン渦]]による煙突の振動・破損 * [[衝撃波自励振動]] * [[送電線]]などの[[ギャロッピング現象]] * [[ヴァイオリン|バイオリン]]の弦、[[木管楽器]]の[[リード (楽器)|リード]]の振動 * [[チョーク]]などの{{仮リンク|スティックスリップ現象|en|Stick-slip phenomenon}}<ref>{{Cite journal ja |last=平野 |first=元久 |year=2003 |title=超潤滑現象の研究 |journal=表面科学 |publisher=日本表面科学会 |volume=24 |issue=6 |pages=334-339 |doi=10.1380/jsssj.24.334 |mode=ja2}}</ref> * [[鉄道車両]]の[[蛇行動]] * [[自動車]]などの[[シミー現象]] * [[切削加工]]のびびり振動 * [[キツツキ]]のおもちゃ * [[ブランコ]]の遊び方 == 脚注 == {{Reflist|2}} == 参考文献 == * {{Cite book ja |editor=日本機械学会 |year=2007 |title=機械工学辞典 |publisher=丸善 |edition=第2版 |isbn=978-4-88898-083-8 |mode=ja2}} * {{Cite book ja |last1=末岡 |first1=淳男 |last2=金光 |first2=陽一 |last3=近藤 |first3=孝広 |year=2002 |title=機械振動学 |publisher=朝倉書店 |edition=初版 |isbn=4-254-23706-5 |mode=ja2}} * {{Cite book ja |last1=前澤 |first1=成一郎 |year=1973 |title=振動工学 |publisher=森北出版 |edition=第1版 |mode=ja2}} * {{Cite book ja |last1=下郷 |first1=太郎 |last2=田島 |first2=清灝 |year=2002 |title=振動学 |publisher=コロナ社 |edition=初版 |isbn=4-339-04045-2 |mode=ja2}} == 関連項目 == * [[振動]] * [[自由振動]] - エネルギ入力無しの振動現象 * [[強制振動]] - 振動的エネルギ入力による振動現象 * [[減衰振動]] * [[固有振動]] * [[共振]] == 外部リンク == * {{Kotobank}} * {{機械工学事典|id=13:1006009}} * [https://jrecin.jst.go.jp/html/compass/e-learning/31-494/data/8-%E8%87%AA%E5%8A%B1%E6%8C%AF%E5%8B%95/index.html 機械力学基礎知識コース 8-自励振動] - 研究人材のためのe-learning([[科学技術振興機構]]) * [https://jrecin.jst.go.jp/html/compass/e-learning/31-492/index.html 事例に学ぶ動力学コース] - 研究人材のためのe-learning(科学技術振興機構) {{DEFAULTSORT:しれいしんとう}} [[Category:振動と波動]] [[Category:力学系]] [[Category:振動工学]] [[Category:常微分方程式]] [[Category:非線形システム]]
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