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[[抽象代数学]]において、[[アーベル群]] ''X'' の'''自己準同型環'''({{lang-en-short|endomorphism ring}}){{math|End(''X'')}} は、''X'' からそれ自身への[[準同型|準同型写像]]({{mvar|X}} 上の[[準同型#自己同型群・自己準同型環|自己準同型]])すべてからなる集合である<ref>{{harvtxt|Fraleigh|1976|p=211}}</ref><ref>{{harvtxt|Passman|1991|pp=4–5}}</ref>。加法は{{仮リンク|点ごとの和|en|pointwise addition}}([[#説明|後述]])で定義され、積は[[写像の合成]]で定義される。 自己準同型環の元となる「準同型」が何を指すものかは文脈によって異なり、これは考えている対象の[[圏 (数学)|圏]]に依存する。その結果、自己準同型環は対象のいくつかの内在的な性質を受け継いでいる。自己準同型環はしばしばある環上の[[環上の多元環|多元環]](代数)であり、'''自己準同型多元環'''({{lang-en-short|'''endomorphism algebra'''}}; 自己準同型代数)とも呼ばれる<ref>が、多元環という意味においても短く「自己準同型環」と呼ばれることが殆ど。</ref>。 == 説明 == {{math|(''A'', +)}} をアーベル群とし、''A'' から ''A'' への準同型を考える。このとき2つのそのような準同型の和を[[点ごと]] (pointwise) に定義して新たに群準同型を作ることができる。具体的には、''f'' と ''g'' が与えられたとき、''f'' と ''g'' の和 {{math|''f'' + ''g''}} は : {{math|1=(''f'' + ''g'')(''x'') := ''f''(''x'') + ''g''(''x'')}} で与えられる準同型である。この演算によって {{math|End(''A'')}} はアーベル群となる。さらに準同型の合成という演算を考えることによって、{{math|End(''A'')}} は乗法の単位元をもつ環となる。合成を明示的に書けば : {{math|1=(''fg'')(''x'') := ''f''(''g''(''x''))}} である。乗法の単位元は ''A'' 上の[[恒等写像]] {{math|id{{sub|''A''}}}} である。 集合 ''A'' が「アーベル」群でないとき、上の構成は必ずしも和を保たず、2つの準同型の和が準同型にならない<ref>{{harvtxt|Dummit|Foote|p=347}}</ref>。自己準同型からなるこの集合は環でない near-ring(環において分配法則の仮定を片側のみにゆるめたもの)の自然な例である。 == 性質 == * 自己準同型環はつねに加法と乗法の単位元をもつ。[[零写像]]と[[恒等写像]]である。 * 自己準同型環は[[結合環|結合的]]だが、一般には[[非可換環|非可換]]である。 * 加群が[[単純加群|単純]]なら、その自己準同型環は[[可除環]]である。これは[[シューアの補題]]と呼ばれることがある{{sfn|Jacobson| 2009|loc=p. 118}}。 * 加群が[[直既約加群|直既約]]なのはその自己準同型環が非自明な[[冪等]]元をもたないとき、かつそのときに限る{{sfn|Jacobson|2009|loc=p. 111, Prop. 3.1}}。[[移入加群]]については、直既約であることと自己準同型環が[[局所環]]であることは同値である{{sfn|Wisbauer|1991|loc=p.163}}。 * [[半単純加群]]の自己準同型環は[[フォン・ノイマン正則環]]である。 * 0 でない右{{仮リンク|単列加群|en|uniserial module}}の自己準同型環は1つか2つの[[極大イデアル|極大右イデアル]]をもつ。加群が[[アルティン加群|アルティン的]]、[[ネーター加群|ネーター的]]、[[射影加群|射影的]]、[[移入加群|移入的]]のいずれかであれば、自己準同型環は唯一の極大イデアルをもち、それゆえ[[局所環]]である。 * アルティン的[[ユニフォーム加群]]の自己準同型環は局所環である{{sfn|Wisbauer|1991|loc=p. 263}}。 * 組成列の長さが有限である加群の自己準同型環は[[半素環]]である。 * 連続加群または離散加群の自己準同型環は clean ring である{{sfn|Camillo|Khurana|Lam|Nicholson|Zhou|2006}}。 * ''R'' 加群が有限生成かつ射影的(すなわち射影生成加群)ならば<!--progenerator は f.g. projective generator のことだが generator はどこから?-->、その自己準同型環と ''R'' はすべての森田不変な性質を共有する。森田理論の基本的な結果は、''R'' と同値なすべての環は射影生成加群の自己準同型環として生じるというものである。 == 例 == * ''R''-加群の圏において、''R''-加群 ''M'' の自己準同型環は ''R''-準同型からなり、これは一般にはアーベル群としての自己準同型環の真部分集合である<ref>アーベル群は整数環上の加群と見做せる。</ref>。''M'' が有限生成射影加群のとき、自己準同型環は加群の圏の[[森田同値]]を考える際に中心的な役割を果たす。 * <math>\operatorname{End}(\mathbb{Z}_2\times \mathbb{Z}_2, +)\cong M_2(\mathbb{Z}_2)</math>。加法群 <math>(\mathbb{Z}_2\times \mathbb{Z}_2, +)</math> の自己準同型環は <math>\mathbb{Z}_2</math> 上の <math>2\times 2</math> 行列環に同型である<ref>Dummit-Foote, Abstract Algebra 3rd edition, example (5), pp. 338 and example (5), pp. 346 を見よ。</ref>。 * ''K'' を[[可換体|体]]とし、''K''上の[[数ベクトル空間]] ''K''<sup>''n''</sup> を考えると、''K''<sup>''n''</sup> の自己準同型環は ''K''<sup>''n''</sup> から ''K''<sup>''n''</sup> へのすべての ''K''-[[線型写像]]からなる。これは ''K''-多元環になる。基底を選べば、この環は自然に ''K'' 係数の ''n'' 次全行列環と同一視される{{sfn|Drozd|Kirichenko|1994|loc=pp. 23–31}}。より一般に、[[自由加群]] {{nowrap|1=''M'' = ''R<sup>n</sup>''}} の自己準同型環は自然に環 ''R'' 上の ''n'' 次[[全行列環]]である。 * 直前の具体例として、任意の単位的環 ''R'' について、{{nowrap|1=''End''(''R''<sub>''R''</sub>) = ''R''}} である。ただし ''R'' の元は ''R'' に ''左'' からの積で作用する。 * 一般に、自己準同型環は任意の[[前加法圏]]の対象に対して定義される。 == 脚注 == {{reflist|2}} == 参考文献 == *{{citation |last1=Camillo |first1=V. P. |last2=Khurana |first2= D. |last3=Lam |first3=T. Y. |last4=Nicholson |first4=W. K.|last5=Zhou |first5=Y. |title=Continuous modules are clean |journal=J. Algebra |volume=304 |year=2006 |number=1|pages=94–111 |issn=0021-8693 |mr=2255822 |doi=10.1016/j.jalgebra.2006.06.032}} * {{citation |first1=Yu. A. |last1=Drozd |first2=V.V. |last2=Kirichenko |title=Finite Dimensional Algebras |publisher=Springer-Verlag |location=Berlin |year=1994 |isbn=3-540-53380-X }} * {{citation |first1=David |last1=Dummit |first2=Richard |last2=Foote |title=Algebra }} * {{ citation | first1 = John B. | last1 = Fraleigh | year = 1976 | isbn = 0-201-01984-1 | title = A First Course In Abstract Algebra | edition = 2nd | publisher = [[Addison-Wesley]] | location = Reading }} * {{SpringerEOM|title=Endomorphism ring|urlname=Endomorphism_ring}} * {{Citation| last=Jacobson| first=Nathan| author-link=Nathan Jacobson| year=2009| title=Basic algebra| edition=2nd| volume = 2 | series= | publisher=Dover| isbn = 978-0-486-47187-7}} * {{citation | first1 = Donald S. | last1 = Passman | year = 1991 | isbn = 0-534-13776-8 | title = A Course in Ring Theory | publisher = [[Wadsworth]] & Brooks/Cole | location = Pacific Grove }} *{{citation |last=Wisbauer |first=Robert |title=Foundations of module and ring theory |series=Algebra, Logic and Applications |volume=3 |edition=Revised and translated from the 1988 German edition |publisher=Gordon and Breach Science Publishers |place=Philadelphia, PA |year=1991 |pages=xii+606 |isbn=2-88124-805-5 |mr=1144522}} A handbook for study and research {{デフォルトソート:しこしゆんとうけいかん}} [[Category:環論]] [[Category:加群]] [[Category:加群論]] [[Category:圏論]] [[Category:数学に関する記事]]
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