自然結合軌道のソースを表示

[[量子化学]]において、'''自然結合軌道'''（しぜんけつごうきどう、{{lang-en-short|natural bond orbital}}、略称: '''NBO'''）は、電子密度が最大となるよう計算された「結合性軌道」である。NBOは「自然原子軌道」(NAO)、「自然混成軌道」(NHO)、「自然結合性軌道」(NBO)、「自然（半）[[局在化分子軌道]]」(NLMO) を含む一連の'''自然局在化軌道'''の一つである。これらの自然局在化軌道は基底[[原子軌道]] (AO) と[[分子軌道]] (MO) との間の中間体である。

:[[原子軌道]] → NAO → NHO → '''NBO''' → NLMO → [[分子軌道]]

有機化合物の正準分子軌道は原子軌道が分子全体に非局在化している。そのため速度論支配の反応では[[フロンティア軌道理論|フロンティア軌道]]による反応点の予測が困難となる場合がある。NBO解析を行うことにより、反応に関与する最高被占軌道（HOMO）や最低空軌道（LUMO）を構成する原子軌道を特定することができ、正確な反応点の特定が可能となる。分子軌道から自然結合軌道に戻す作業、NBO解析、が重要となる一例である。ホモ共役や超共役を定量的に解析することもできる<ref>{{cite journal | author = Tsuji M. | title = Geometrical Dependence of the Highest Occupied Molecular Orbital in Bicyclic Systems: pai-Facial Stereoselectivity of Bicyclic and Tricyclic Olefins | journal = Asian Journal of Organic Chemistry | year = 2015 | volume = 4 | issue = 7 | pages = 659-673 | doi = 10.1002/ajoc.201500054 }}</ref>。

'''自然（局在化）軌道'''は原子ならびに原子間の結合における電子密度の分布を計算するために[[計算化学]]において使われている。これらの軌道は分子の局在化1中心ならびに2中心領域における「最大占有特性」を有している。自然結合軌道 (NBO) は可能な限り高い電子密度の割合（理想的には2.000に近い）を含んでおり、ψの最も正確で可能な限り「自然なルイス構造」を与える。一般的な有機分子の99%を越えるもので見られる電子密度の高い割合（%-ρ<sub>L</sub>で示される）は、正確な自然ルイス構造と一致する。

「自然軌道」の概念は、''N''-電子[[波動関数]]に内在する[[正規直交系|正規直交]]1電子関数の固有系を説明するために、{{ill|Per-Olov Löwdin|en|Per-Olov Löwdin}}によって1955年に初めて導入された<ref name=Weinhold>{{cite journal|author=Weinhold, F.; Landis, C. R.|url=http://www.uoi.gr/cerp/2001_May/pdf/06Weinhold.pdf |title=Natural bond orbitals and extensions of localized bonding concepts|journal=Chem. Educ. Res. Pract. Eur.|year= 2001|volume=2|pages= 91–104}}</ref>。

==理論==
それぞれの'''結合性NBO''' ''σ''<sub>AB</sub>（ドナー）は、原子AおよびBにおける2つの方向性を持った原子価混成軌道 (NHO) ''h''<sub>A</sub>および ''h''<sub>B</sub>の観点から書くことができる<ref>IUPAC. Compendium of Chemical Terminology, 2nd ed. (the "Gold Book"). Compiled by A. D. McNaught and A. Wilkinson. Blackwell Scientific Publications, Oxford (1997). XML on-line corrected version: http://goldbook.iupac.org (2006-) created by M. Nic, J. Jirat, B. Kosata; updates compiled by A. Jenkins. ISBN 0-9678550-9-8. {{DOI|10.1351/goldbook.NT07077}}. </ref>。

:<math>\sigma_{\mathrm{AB}} = c_{\mathrm{A}} h_{\mathrm{A}} + c_{\mathrm{B}} h_{\mathrm{B}}</math>

上式の''c''<sub>A</sub>および''c''<sub>B</sub>は対応する分極係数である。

結合は[[共有結合]]性（''c''<sub>A</sub> = ''c''<sub>B</sub>）からイオン性（''c''<sub>A</sub> ≫ ''c''<sub>B</sub>）極限まで滑らかに変化する。

完全な価電子軌道空間を張るためには、それぞれの原子価結合性NBO σと対となる'''[[反結合性軌道|反結合性]]NBO''' σ*（アクセプター）が必要である。

:<math>\sigma_{\mathrm{AB}}^{\ast} = c_{\mathrm{A}} h_{\mathrm{A}} - c_{\mathrm{B}} h_{\mathrm{B}} </math>

結合性NBOは「ルイス軌道」型（占有数は2に近い）であり、反結合性NBOは「非ルイス軌道」型（占有数は0に近い）である。理想化された[[ルイス構造]]では、完全[[共有結合|ルイス軌道]]（2電子）は、形式的に空の非ルイス軌道によって補完される。

原子価反結合性軌道の弱い占有は理想化された局在化ルイス構造との決別であり、これは真の「非局在化効果」を意味する<ref name=Weinhold/>。

==ルイス構造==
[[ファイル:Carbon monoxide mesomeric.svg|thumb|320px|[[一酸化炭素]]の[[共鳴理論|共鳴構造]]]]

NBOを計算することのできるコンピュータープログラムを用いて、最適ルイス構造を見ることができる。'''最適ルイス構造'''はルイス軌道に最大量の電荷（ルイス電荷）を持つ構造と定義することができる。ルイス軌道において電荷の量が低い状態は強い電子非局在化の効果を示している。

[[共鳴理論|共鳴構造]]では、寄与が大きい構造と小さい構造が存在する。例えば[[一酸化炭素]]の場合は、[[三重結合]]が最適ルイス構造であることがNBO計算によって示される<ref name=Stefan>{{cite journal|author=Stefan, T.; Janoschek, R.|title=How relevant are S=O and P=O Double Bonds for the Description of the Acid Molecules H<sub>2</sub>SO<sub>3</sub>, H<sub>2</sub>SO<sub>4</sub>, and H<sub>3</sub>PO<sub>4</sub>, respectively?|journal=J. Mol. Model.| volume= 6|issue= 2|year= 2000|pages= 282–288|doi=10.1007/PL00010730}}</ref>。

==脚注==
{{reflist}}

==関連項目==
*[[分子軌道法]]
*[[基底関数系 (化学)]]

== 外部リンク ==
* [http://www.chem.wisc.edu/~nbo5/ Homepage for the NBO computer program]{{リンク切れ|date=2024年2月1日 (木) 16:47 (UTC)}}

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[[Category:電子軌道]]