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自発的対称性の破れ
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{{出典の明記|date=2017年6月}} {{物理学}} '''自発的対称性の破れ'''(じはつてきたいしょうせいのやぶれ、spontaneous symmetry breaking)とは、ある[[対称性]]をもった系がエネルギー的に安定な[[真空]]に落ち着くことで、より低い対称性の系へと移る現象やその過程を指す。類義語に明示的[[対称性の破れ]]や[[量子異常]]による対称性の破れ、またこれらの起源の1つとしての力学的対称性の破れなどがある。 主に[[物性物理学]]、[[素粒子物理学]]において用いられる概念であり、前者では[[超伝導]]を記述する[[BCS理論]]で[[クーパー対]]ができる十分条件、後者では[[標準模型]]において[[ゲージ理論|ゲージ対称性]]を破り、[[ウィークボソン]]に[[質量]]を与える[[ヒッグス機構]]等に見ることができる。また、この他、磁気学における[[強磁性]]体の[[磁化]]についても発生の前後で自発的対称性の破れが考えられている。 有限自由度の量子系では、[[ハミルトニアン]]がある対称性を持つとき、その真空状態もまた同じ対称性を持ち自発的対称性の破れは起こらない{{Sfn|益川|1998|p=111}}。これは、古典的には複数のエネルギー極小状態を持つ系であっても、量子論では[[トンネル効果]]のために有限の確率でこれらの状態間の遷移が可能であり、これらの重ね合わせ状態として真空状態が実現することに由来する{{Sfn|益川|1998|pp=108-112}}。しかし無限自由度系ではこのようなトンネル確率はゼロであり{{Sfn|益川|1998|p=1112}}{{Sfn|Weinberg|2005|pp=163-167}}、対称性が自発的に破れている系には複数の真空状態が縮退して存在する{{Sfn|益川|1998|p=112}}{{Sfn|Weinberg|2005|p=163}}。このことは[[南部・ゴールドストーン粒子]]の存在やヒッグス機構によるゲージ場の質量獲得と関係している{{Sfn|益川|1998|pp=112-115}}。 ==メキシカン・ハット(ワイン・ボトル)型ポテンシャル== [[Image:Spontaneous_symmetry_breaking.jpg|right|thumb|190px|(*)式で <math>\mu=-10,\lambda=1</math> とした場合の自発的対称性の破れの図( <math>\theta</math> は谷の円周方向である)]] [[Image:Spontaneously_symmetry_breaking.png|right|thumb|190px|]] 理論物理学では場の対称性は全て作用(もしくは[[ラグランジアン]]、ハミルトニアン)に含まれるとされる。 特にラグランジアンの[[ポテンシャル]]([[相互作用]])項は系の状態を如実に表す。自発的対称性の破れの説明にて取り上げられる最も簡単なモデルのひとつが「メキシカン・ハット(ワイン・ボトル)型ポテンシャル」である。 複素[[スカラー場]] <math>\phi=\phi_0\,e^{i\theta}</math> が次のような運動項、ポテンシャル項 V(φ) をもつ系を考える。 :<math>L = \partial^\mu\phi^*\,\partial_\mu\phi - V(\phi)\ ,</math> ::<math>V(\phi) = \mu|\phi|^2 + \lambda|\phi|^4 \quad \cdots (*)</math> このとき μ、λ は任意の定数であり、θ の値を任意に変化させてもラグランジアン L は不変である(対称性がある)。スカラー場の[[基底状態]](真空)はポテンシャルの[[安定点]]で決まる。 μ,λ がともに正値のとき、ポテンシャルVは全域で下に凸となる。その中心でもある極小点が唯一の安定点であり、 φ=0 ( <math>\phi_0=0</math> )でありラグランジアンも真空も θ の値によらず、対称性は破れようがない。 一方 μ<0,λ>0 のときには右図のような原点近くのみ上に凸の面となる(これがメキシカンハットに形容される)。このときには、中心からずれた :<math>\phi=\sqrt{-\frac{\mu}{2\lambda}}\ e^{i\theta}</math> の円の上が安定な基底状態(真空)である。 この系について、中心のφ=0は依然として[[ユニタリー群|U(1)]] 対称性(図のポテンシャルの周方向回転、 0<=θ<2π の回転)を備えた真空に対応はするものの不安定である。一方でこの系が、より安定な真空に移る、すなわち、ある θ の値をもってポテンシャルの谷のうちの一点が無作為に自然と選ばれると、その点について U(1) 対称性は失われている。この論理や相当する現象が”自発的対称性の破れ”と呼ばれる。 素粒子物理学の[[ワインバーグ=サラム理論]]では、同様のポテンシャル(ただし、複素スカラー場は2つ)を考えることにより、ゲージ対称性<math>SU(2)_L \times U(1)_Y</math> を <math>U(1)_{em}</math> をもって破り、ラグランジアンでは質量ゼロであった[[ウィークボソン]]に質量を与えている。 ==自発磁化と自発的対称性の破れ== 強磁性体では外部から[[磁場]]を掛けなくとも物質内部の[[磁気モーメント]]が揃った領域([[磁区]])ができること([[自発磁化]])が知られている。この現象は[[原子]]間の[[スピン角運動量|スピン]]の向きに関する[[相互作用]]による。この相互作用は3次元[[古典ハイゼンベルク模型|ハイゼンベルク模型]]では :<math> H_{int} = J\sum_i^n \vec{S}_i \cdot \vec{S}_{i+1} </math> で表されるが、この相互作用ハミルトニアンは[[座標]][[回転]]に対応した[[直交群|O(3)]][[変換 (数学)|変換]]に対して不変である。ここで <math>\vec{S}_i</math> はスピンベクトル、<math>J\,(>0)</math> は交換相互作用定数を表し、<math>n</math> はスピンの数である。これを見るとどの方向に自発磁化ができるかは全く等価であり、いずれも等しく系の基底状態で理論から定めることはできない。 一方で自発磁化が発生した後にはその方向が系の基底状態であり、それ以外の方向を磁気モーメントが向くことは系を[[励起]]させることになる。つまり元々あった対称性が壊れており、「自発的対称性の破れが起こった」と表現される。 == 脚注 == {{Reflist |2}} == 参考文献 == * {{Cite book |和書 |author=益川敏英 |authorlink=益川敏英 |title=いま、もう一つの素粒子論入門 |series=パリティブックス |publisher=丸善 |date=1998 |isbn=4-621-04495-8 |ref={{SfnRef|益川|1998}} }} * {{Cite book |last=Weinberg |first=Steven |authorlink=スティーヴン・ワインバーグ |title=The Quantum Theory of Fields Volume II Modern Applications |publisher=Cambridge University Press |date=2005 |isbn=978-0-521-67054-8 |ref=harv}} ==関連項目== *[[南部陽一郎]] *[[対称性]] *[[対称性の破れ]] *[[磁化]] *[[BCS理論]] *[[ヒッグス機構]] *[[標準模型]] *[[ワインバーグ・サラム理論]] *[[カイラル対称性]] ==外部リンク== * {{Wayback|url=http://www.scholarpedia.org/article/Spontaneous_symmetry_breaking_in_quantum_systems |title=Spontaneous symmetry breaking in quantum systems |date=20120403021839}} - [[スカラーペディア]]百科事典「量子系における自発的対称性の破れ」の項目。 * {{Wayback|url=http://www.scholarpedia.org/article/Spontaneous_symmetry_breaking_in_classical_systems |title=Spontaneous symmetry breaking in classical systems |date=20120403021848}} - 同「古典系における自発的対称性の破れ」の項目。 {{DEFAULTSORT:しはつてきたいしようせいのやふれ}} [[Category:物性物理学]] [[Category:素粒子物理学]] [[Category:対称性]] [[Category:南部陽一郎]]
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