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{{Redirect4|行列代数|行列の代数的理論|行列|線型代数学}} [[抽象代数学]]において、'''行列環''' (matrix ring) は、{{仮リンク|行列の加法|en|matrix addition}}および[[行列の乗法]]のもとで[[環 (数学)|環]]をなす、[[行列]]の任意の集まりである。環を成分に持つ ''n''×''n'' 行列全体の集合や'''無限次行列環''' (infinite matrix ring) をなす無限次行列のある部分集合は行列環である。これらの行列環の任意の部分環もまた行列環である。 ''R'' が可換環のとき、行列環 M<sub>''n''</sub>(''R'') は'''行列多元環''' (matrix algebra) と呼ばれる[[結合多元環]]である。この状況において、''M'' が行列で ''r'' が ''R'' の元であれば、行列 ''Mr'' は行列 ''M'' の各成分に ''r'' をかけたものである。 行列環は単位元をもたない環''R''上でも作ることができるが、ここでは終始 ''R'' は単位元 1 ≠ 0 をもつ[[結合的環]]であると仮定する。 == 例 == * 任意の環 ''R'' 上のすべての ''n''×''n'' 行列からなる集合。 M<sub>''n''</sub>(''R'') あるいは Mat<sub>''n''</sub>(''R'') や ''R''<sup>''n''×''n''</sup> と表記される。これは通常「''n'' 次全行列環」(full ring of ''n'' by ''n'' matrices) と呼ばれる。これらの行列は[[自由加群]] ''R''<sup>''n''</sup> の[[自己準同型]]を表す。 * 環上のすべての上(あるいは下)[[三角行列]]のなす集合。 * ''R'' が単位元をもつ任意の環であれば、右 ''R'' 加群としての <math>\textstyle M=\bigoplus_{i\in I}R</math> の自己準同型環は'''列有限行列''' (column finite matrices) の環 <math>\mathbb{CFM}_I(R)\,</math> と同型である。その成分は <math>I\times I</math> で添え字づけられており、その各列は 0 でない成分を有限個しか含まない。''M'' の左 ''R'' 加群としての自己準同型を考えると類似の対象、各行が 0 でない成分を有限個しか含まない'''行有限行列''' (row finite matrices) <math>\mathbb{RFM}_I(R)</math> を得る。 * ''R'' が[[ノルム環]]であれば、直前の例の行あるいは列の条件は弱めることができる。そのノルムによる[[絶対収束]]列を有限和の代わりに使うことができる。例えば、列の和が絶対収束列である行列は環をなす。もちろんアナロガスに、行の和が絶対収束列である行列も環をなす。このアイデアは例えば[[ヒルベルト空間#ヒルベルト空間上の線型作用素]]の作用素を表現するために使うことができる。 * 行と和が有限な行列環の共通部分もまた環をなし、<math>\mathbb{RCFM}_I(R)\,</math> と表記できる。 * [[実二次正方行列|2×2実行列]] の多元環 M<sub>2</sub>('''R''') は非可換結合多元環の簡単な例である。[[四元数]]と同じく ''R'' 上 4 次元であるが、四元数とは異なり、[[行列単位]]の積 ''E''<sub>11</sub>''E''<sub>21</sub> = 0 からわかるように、<!--零でない-->[[零因子]]をもち、したがって[[可除環]]ではない。その可逆元は[[正則行列]]でありそれらは[[群 (数学)|群]]、[[一般線型群]] ''GL''(2, '''R''') をなす。 * ''R'' が[[可換環]]であれば、行列環は ''R'' 上 [[:en:*-algebra|*-algebra]] の構造をもつ、ただし M<sub>''n''</sub>(''R'') 上の[[対合]] ([[:en:involution (mathematics)#Ring theory|involution]]) * は[[転置行列|行列の転置]]である。 * 複素行列多元環 M<sub>''n''</sub>('''C''') だけが、同型を除いて、[[複素数]]体 '''C''' 上の単純結合多元環である。''n'' = 2 に対して、行列多元環 M<sub>''2''</sub>('''C''') は [[角運動量]] の理論で重要な役割を果たす。それは[[単位行列]]と3つの[[パウリ行列]]によって与えられる代わりの基底をもつ。M<sub>2</sub>('''C''') は [[:en:biquaternion|biquaternion]] の形式による初期の抽象代数学の舞台であった。 * 体上の行列環は積の[[トレース (数学)|トレース]] ''σ''(''A'', ''B'') = tr(''AB'') で与えられるフロベニウス形式をもった[[フロベニウス多元環]]である。 == 構造 == * 行列環 M<sub>n</sub>(''R'') はランク ''n'' の[[自由加群|自由]] ''R''-加群の[[自己準同型環]]と同一視できる、M<sub>''n''</sub>(''R'') ≅ End<sub>''R''</sub>(''R''<sup>''n''</sup>)。[[行列の乗法]]の手順はこの自己準同型環における自己準同型の合成にさかのぼることができる。 * [[可除環]] ''D'' 上の環 M<sub>n</sub>(''D'') は[[アルティン環|アルティン的]][[単純環]]、[[半単純環]]の特別なタイプである。環 <math>\mathbb{CFM}_I(D)</math> と <math>\mathbb{RFM}_I(D)</math> は集合 <math>I\,</math> が無限であれば単純''でなく''アルティンでない。しかしながら、それらはなお [[:en:full linear ring|full linear ring]] である。 * 一般に、すべての半単純環は可除環上の全行列環、これは異なる可除環と異なるサイズをもつかもしれない、の有限直積に同型である。この分類は[[アルティン・ウェダーバーンの定理]]によって与えられる。 * M<sub>''n''</sub>(''R'') の両側[[イデアル]]と ''R'' の両側イデアルの間には一対一の対応がある。すなわち、''R'' の各イデアル ''I'' に対して、成分を ''I'' にもつすべての ''n''×''n'' 行列の集合は M<sub>''n''</sub>(''R'') のイデアルであり、M<sub>''n''</sub>(''R'') の各イデアルはこのように生じる。これが意味するのは、M<sub>''n''</sub>(''R'') が[[単純環]]であることと ''R'' が単純環であることは同値である。''n'' ≥ 2 に対して、M<sub>''n''</sub>(''R'') のすべての左あるいは右イデアルが前の構成によって ''R'' の左または右イデアルから生じるわけではない。例えば、2列目から ''n'' 列目まですべて 0 の行列の集合は M<sub>''n''</sub>(''R'') の左イデアルをなす。 * 上のイデアルの対応は実は環 ''R'' と M<sub>''n''</sub>(''R'') は[[森田同値]]であるという事実から生じる。雑に言えば、これが意味するのは、左 ''R'' 加群の圏と左 M<sub>''n''</sub>(''R'') 加群の圏は非常に似ている。このために、左 ''R''-加群と左 M<sub>''n''</sub>(''R'')-加群の ''同型類'' の間と、''R'' の左イデアルと M<sub>''n''</sub>(''R'') の同型類の間には、自然な全単射の対応が存在する。同様のステートメントは右加群と右イデアルに対しても成り立つ。森田同値を通して、M<sub>''n''</sub>(''R'') は森田不変な ''R'' のどんな性質も引き継ぐ。例えば、[[単純環|単純]]、[[アルティン環|アルティン]]、[[ネーター環|ネーター]]、[[素環|素]]、そして[[森田同値]]の記事において与えられているように多数の他の性質。 == 性質 == * 行列環 M<sub>''n''</sub>(''R'') が[[可換環|可換]]であることと ''n'' = 1 かつ ''R'' が[[可換環|可換]]であることは同値である。実は、これは上三角行列の部分環に対しても正しい。交換しない 2×2 行列(実は上三角行列)の例を挙げよう。 :<math> \begin{bmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 0 \end{bmatrix} \begin{bmatrix} 1 & 1 \\ 0 & 0 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 1 & 1 \\ 0 & 0 \end{bmatrix}\, </math> :<math> \begin{bmatrix} 1 & 1 \\ 0 & 0 \end{bmatrix} \begin{bmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 0 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 0 \end{bmatrix}\, </math> :この例は容易に ''n''×''n'' 行列に一般化される。 * ''n'' ≥ 2 に対して、行列環 M<sub>''n''</sub>(''R'') は[[零因子]]と[[冪零元]]をもち、再び、同じことは上三角行列に対しても言える。2×2 行列における例は :<math> \begin{bmatrix} 0 & 1 \\ 0 & 0 \end{bmatrix} \begin{bmatrix} 0 & 1 \\ 0 & 0 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 0 & 0 \\ 0 & 0 \end{bmatrix}\, </math> * 環 ''R'' 上の行列環の[[中心 (代数学)|中心]]は[[単位行列]]のスカラー倍の行列からなる、ただしスカラーは ''R'' の中心に属す。 * 線型代数学において、体 ''F'' 上 M<sub>''n''</sub>(''F'') は任意の2つの行列 ''A'' と ''B'' に対して ''AB'' = 1 ならば ''BA'' = 1 という性質([[デデキント有限環|デデキント有限性]])をもつことに言及される。しかしこれは任意の環 ''R'' に対しては正しくない。行列環がすべてその性質をもつような環 ''R'' は [[:en:stably finite ring|stably finite ring]] と呼ばれる{{harv|Lam|1999|p=5}}。 == 対角部分環 == ''D'' を行列環 M<sub>''n''</sub>(''R'' ) の[[対角行列]]全体の集合、すなわち 0 でない成分があればすべて主対角線上にあるような行列全体の集合とする。すると ''D'' は[[行列の加法]]と[[行列の乗法]]で閉じており、[[単位行列]]を含むので、それは M<sub>''n''</sub>(''R'' ) の[[部分代数系|部分多元環]]である。 [[環上の多元環|''R'' 上の多元環]]として、''D'' は ''R'' の ''n'' 個のコピーの[[環の直積|直積]]に{{仮リンク|多元環準同型|label=同型|en|algebra homomorphism}}である。それは次元 ''n'' の[[自由加群|自由 ''R''-加群]]である。''D'' の[[冪等元]]は対角成分が 0 か 1 であるような対角行列である。 === 例 === ''R'' が[[実数]]体のとき、M<sub>2</sub>(''R'' ) の対角部分環は[[分解型複素数]] (split-complex number) に同型である。''R'' が[[複素数]]体のとき、対角部分環は [[:en:bicomplex number|bicomplex number]]s に同型である。''R'' = ℍ, [[四元数]]の[[可除環]]であれば、対角部分環は [[:en:split-biquaternion|split-biquaternion]]s の環に同型であり、1873 に [[:en:William K. Clifford|William K. Clifford]] によって示されている。 == 関連項目 == * [[中心的単純環]] * [[クリフォード代数]] * {{仮リンク|フルヴィッツの定理 (ノルム可除代数)|en|Hurwitz's theorem (normed division algebras)}} * {{仮リンク|生成行列環|en|Generic matrix ring}} == 参考文献 == * {{Citation | last1=Lam | first1=T. Y. | title=Lectures on modules and rings | publisher=[[Springer-Verlag]] | location=Berlin, New York | series=Graduate Texts in Mathematics No. 189 | isbn=978-0-387-98428-5 | year=1999}} {{DEFAULTSORT:きようれつかん}} [[Category:代数的構造]] [[Category:環論]] [[Category:行列理論]] [[Category:数学に関する記事]]
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