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'''誤差修正モデル''' (ごさしゅうせいモデル、{{lang-en-short|error correction model}}、'''ECM''') とは、基となる変数が長期的な確率的[[トレンド#統計学用語|トレンド]]を持つ、すなわち[[共和分]]しているデータに対して主に用いられる多重[[時系列]]の[[数理モデル|モデル]]の一つである。ECMは理論的に動機づけられたアプローチであり、ある時系列から別の時系列への[[長期と短期|短期と長期]]のいずれの効果の[[推定論|推定]]にも有用である。「誤差修正」という語は、長期の均衡からの直前の期の[[偏差]]、すなわち「[[誤差]]」が短期の変動に影響するという事実に関連してのものである。そのため、ECMはある[[回帰分析#概要|従属変数]]が他の変数の変化の後に均衡に戻る速度を直接推定する。 == 歴史 == {{仮リンク|ウドニー・ユール|en|Udny_Yule|label=ユール}} (1926) と [[クライヴ・グレンジャー|グレンジャー]]&{{仮リンク|ポール・ニューボールド|en|Paul_Newbold|label=ニューボールド}} (1974) は[[見せかけの回帰]]の問題に初めて注目し、時系列分析におけるその問題への対処の解決策を発見した<ref>{{cite journal|last1=Yule|first1=Georges Udny|title=Why do we sometimes get nonsense correlations between time series? – A study in sampling and the nature of time-series|journal=Journal of the Royal Statistical Society|date=1926|volume=89|issue=1|pages=1–63|jstor=2341482 }}</ref><ref>{{cite journal |last=Granger |first=C.W.J. |first2=P.|last2=Newbold |year=1978 |title=Spurious regressions in Econometrics | volume=2| issue=2| journal=[[Journal of Econometrics]] |pages=111–120 |jstor=2231972 }}</ref>。2つの互いに無関係な[[和分]] (非[[定常過程|定常]]) 時系列が与えられたとき、その一方を他方について[[回帰分析]]すると明らかに統計的に[[有意]]な関係を生じる傾向があり、そのため、研究者がその変数間の真の関係の証拠を見つけたと誤信する可能性があった。この状況では通常の[[最小二乗法|最小二乗推定量]]はもはや[[推定量#一致性(Consistency)|一致推定量]]ではなく、広く用いられる[[検定統計量]]も妥当ではない。具体的には、非常に高い[[決定係数]]と[[t検定|t検定量]]、そして低い{{仮リンク|ダービン-ワトソン検定|en|Durbin–Watson_statistic|label=ダービン-ワトソン検定量}}が得られることが[[モンテカルロ法]]を用いたシミュレーションによって示された。厳密には、[[母数]]の[[推定量]]が[[確率変数の収束#確率収束|確率収束]]せず、サンプルサイズの増加に伴い切片が発散し傾きが非[[退化分布]]を持つことが{{仮リンク|ピーター・フィリップス_(統計学者)|en|Peter_C._B._Phillips|label=フィリップス}} (1986) によって示された<ref>{{cite journal|last1=Phillips|first1=Peter C.B.|title=Understanding Spurious Regressions in Econometrics|journal=Cowles Foundation Discussion Papers 757|date=1985|url=http://cowles.yale.edu/sites/default/files/files/pub/d07/d0757.pdf|publisher=Cowles Foundation for Research in Economics, Yale University}}</ref>。しかしながら、変数間の長期的関係を映している以上、両時系列に共通な、研究者にとって本当に興味のある確率的トレンドは存在しうる。 だが、トレンドの確率的な性質のため、和分過程を確定的トレンド (予測可能) とトレンドによる偏差を含む定常過程に分離することは不可能である。確定的トレンドを除去した[[ランダムウォーク]]においてさえ見せかけの回帰は生じる。そのため、トレンド除去ではこの推定の問題点は解決しない。 多くの一般的に[[経済学]]などで用いられる時系列は一階の階差が定常となる形で現れることを踏まえれば、[[ボックス・ジェンキンス法]]を使い続けるために、その時系列の[[階差数列|階差列]]をとって[[自己回帰和分移動平均モデル]]のようなモデルで推定することができる。このようなモデルからの予測はデータに存在する周期や季節性を反映する。しかし、値の水準<ref group="訳注" name="level">差分(フロー)に対する実際の値(ストック)の意味。翻訳元では"level"</ref>のデータに含まれている可能性のある長期の調整についての情報は省かれるので、長期的な予測の信頼性は高くない。 そこで、{{仮リンク|デニス・サーガン|en|Denis_Sargan|label=サーガン}} (1964) は値の水準の情報を保持するECMの方法を開発した<ref>Sargan, J. D. (1964). "Wages and Prices in the United Kingdom: A Study in Econometric Methodology", 16, 25–54. in ''Econometric Analysis for National Economic Planning'', ed. by P. E. Hart, G. Mills, and J. N. Whittaker. London: Butterworths</ref><ref>{{cite journal |last=Davidson |first=J. E. H. |first2=D. F. |last2=Hendry |author-link2=David Forbes Hendry |first3=F. |last3=Srba |first4=J. S. |last4=Yeo |year=1978 |title=Econometric modelling of the aggregate time-series relationship between consumers' expenditure and income in the United Kingdom |journal=[[Economic Journal]] |volume=88 |issue=352 |pages=661–692 |jstor=2231972 }}</ref>。 == 推定 == 上述の通り、改良された動的モデルを推定するいくつかの方法が知られている。その中には、エングル-グレンジャーの2段階アプローチや、ベクトルを基に[[ジョハンセン検定|ヨハンセンの方法]]を用いて1ステップでECMを推定するVECMがある<ref>{{cite journal |last=Engle |first=Robert F. |last2=Granger |first2=Clive W. J. |year=1987 |title=Co-integration and error correction: Representation, estimation and testing |journal=[[Econometrica]] |volume=55 |issue=2 |pages=251–276 |jstor=1913236 }}</ref>。 === エングル-グレンジャーの2段階アプローチ === この方法の第1段階は、用いる個別の時系列が非定常であることを確認するための事前の検定である。これは通常の[[単位根]]の[[ディッキー–フラー検定|DF検定]]や (継続的な誤差項の相関の問題を解決するための) [[拡張ディッキー–フラー検定|ADF検定]]によって行われる。相異なる2つの時系列 {{math|''x''<sub>''t''</sub>, ''y''<sub>''t''</sub>}} を考えてみよう。もし両方とも {{math|''I''(0)}} であれば、通常の回帰分析が適用できる。もしこれらが異なる{{仮リンク|和分の次数|en|Order_of_integration|label=次数}}の和分過程 (例えば一方が {{math|''I''(1)}} で他方が {{math|''I''(0)}} である場合) であれば、モデルを変形する必要がある。 もし同じ次数の和分過程 (普通は {{math|''I''(1)}}) であれば、以下の形のECMモデルを推定できる。 : <math> A(L) \, \Delta y_t = \gamma + B(L) \, \Delta x_t + \alpha (y_{t-1} -\beta_0 - \beta_1 x_{t-1} ) + \nu_t. </math> もし両変数が同じ次数の和分過程でこのECMモデルが存在するならば、エングル-グレンジャー表現定理によりそれらは共和分している。 第2段階では、通常の最小二乗法 {{math|''y''<sub>''t''</sub> {{=}} ''β''<sub>0</sub> + ''β''<sub>1</sub>''x''<sub>''t''</sub> + ''ε''<sub>''t''</sub>}} を用いてモデルを推定する。もし、上で説明した基準によって回帰が見せかけでないと判断されたならば、通常の最小二乗法は妥当であるのみならず、実はsuper consistent<ref group="訳注">このときの収束速度がT<sup>-1</sup>であり、収束速度T<sup>-1/2</sup>である通常のOLSよりも速く収束する一致推定量であることを意味している。</ref>でもある (Stock, 1987)。そして、この回帰からの予測残差 {{math|{{hat|''ε''}}<sub>''t''</sub> {{=}} ''y''<sub>''t''</sub> − ''β''<sub>0</sub> − ''β''<sub>1</sub>''x''<sub>''t''</sub>}} は階差項とラグのある誤差項の回帰に用いられる。 : <math> A(L) \, \Delta y_t = \gamma + B(L) \, \Delta x_t + \alpha \hat{\varepsilon}_{t-1} + \nu_t. </math> この後、{{math|''α''}} について{{要検証範囲|標準的な|date=2021年1月}}t検定を行うことで共和分について検定できる。この手法は適用が容易である一方で、しかしながら大量の問題を抱えている。 * 第1段階で行われる一変量の単位根検定の[[仮説検定#検出力|検出力]]が低い。 * 第1段階での従属変数の選択が検定結果に影響し、例えば、[[グレンジャー因果性]]によって {{math|''x''<sub>''t''</sub>}} が弱外生的であることが必要である。 * 小サンプルのバイアスを持つ可能性がある。 * {{math|''α''}} についての共和分検定は[[正規分布|標準正規分布]]に従わない。 * 共和分ベクトルのOLS推定量の分布が非常に複雑で正規分布ではないため、残差を得る1回目の回帰の段階で長期の母数の妥当性は検証できない。 * 調べられる共和分関係は高々1つである{{要出典|date=2021年1月 (翻訳元2019年3月)}}。 === VECM === エングル-グレンジャーの方法は上記のように多くの弱点があり苦しいものであった。具体的には、従属変数として指定された1つの変数を持つ単一の方程式のみに制限され、関心のあるパラメータに対して弱外生的であると仮定された別の変数によって説明され、変数が {{math|''I''(0)}} か {{math|''I''(1)}} かを調べるために時系列の事前検定にも依存する。これらの弱点は、[[ジョハンセン検定|ヨハンセンの手続き]]の使用を通じて対処できる。その利点は、事前の検定が不要であること、多くの共和分関係があること、全ての変数が[[内生性|内生]]として扱われること、そして、長期の母数に関しての検定が可能なことである。その結果として得られるモデルはベクトル誤差修正モデル (VECM) として知られ、{{仮リンク|ベクトル自己回帰モデル|en|Vector_autoregression}} (VAR) として知られる多因子モデルに誤差修正の特徴を加えたものである。その手続きは以下のように行われる。 # 非定常である可能性のある変数を含む制限無しのVARモデルを推定する。 # ヨハンセン検定を用いて共和分を検定する。 # VECMを形成して分析する。 === ECMの例 === 共和分の考え方は単純な[[マクロ経済学]]的な条件で例示できる。[[消費]] {{math|''C''<sub>''t''</sub>}} と[[可処分所得]] {{math|''Y''<sub>''t''</sub>}} が長期において関係 ([[消費#恒常所得仮説・ライフサイクル仮説|恒常所得仮説]]) するマクロ経済的な時系列であると仮定し、特に{{仮リンク|平均消費性向|en|Average_propensity_to_consume}} が90%、つまり、長期において {{math|''C''<sub>''t''</sub> {{=}} 0.9''Y''<sub>''t''</sub>}} となるとする。[[計量経済学]]者の立場では、この長期の関係(共和分)は、{{math|''Y''<sub>''t''</sub>, ''C''<sub>''t''</sub>}} が非定常でありながら回帰 {{math|''C''<sub>''t''</sub> {{=}} ''βY''<sub>''t''</sub> + ''ε''<sub>''t''</sub>}} が定常であるときに存在する。さらに、{{math|''Y''<sub>''t''</sub>}} が {{math|Δ''Y''<sub>''t''</sub>}} だけ変化したときに {{math|''C''<sub>''t''</sub>}} は {{math|Δ''C''<sub>''t''</sub> {{=}} 0.5Δ''Y''<sub>''t''</sub>}} だけ変化する、つまり、{{仮リンク|限界消費性向|en|Marginal_propensity_to_consume}}が50%であるとする。最後に、現在と均衡の間のギャップは毎期20%減少すると仮定する。 この条件において消費水準の変化 {{math|Δ''C''<sub>''t''</sub> {{=}} ''C''<sub>''t''</sub> − ''C''<sub>''t'' −1</sub>}} は {{math|Δ''C''<sub>''t''</sub> {{=}} 0.5Δ''Y''<sub>''t''</sub> − 0.2(''C''<sub>''t'' −1</sub> − 0.9''Y''<sub>''t'' −1</sub>) + ''ε''<sub>''t''</sub>}} とモデル化される。右辺の第1項は {{math|''Y''<sub>''t''</sub>}} の変化が {{math|''C''<sub>''t''</sub>}} に与える短期の影響を、第2項は変数間の均衡関係へと向かう長期の傾向を、第3項は[[系_(自然科学)|系]]が受けるランダムなショック (例えば、消費に影響する消費者信頼感のショック) を表している。モデルがどのように機能するかを見るために恒久的なショックと一時的なショックを考える。単純にするために {{math|''ε''<sub>''t''</sub>}} は任意の {{math|''t''}} に対して0であるとする。いま、{{math|''t'' −1}} 期においてその系が均衡にある、つまり {{math|''C''<sub>''t'' −1</sub> {{=}} 0.9''Y''<sub>''t'' −1</sub>}} であると想定する。{{math|''t''}} 期に {{math|''Y''<sub>''t''</sub>}} が直前の水準から10だけ増加しその後は直前の水準まで戻ったとすると、{{math|''C''<sub>''t''</sub>}} は初め ({{math|''t''}} 期) に5 (10の半分) だけ増加し、次期以降は減少して初期水準に収束する。対照的に、{{math|''Y''<sub>''t''</sub>}} のショックが恒久的であるならば、{{math|''C''<sub>''t''</sub>}} は当初の {{math|''C''<sub>''t'' −1</sub>}} より9だけ高い値に徐々に収束する。 この構造は全てのECMモデルに共通である。実際には、計量経済学者はしばしば、最初に共和分関係 (元の時系列<ref group="訳注" name="level" />での等式) を推定した後でメインのモデル (階差の等式) に挿入する。 == 訳注 == {{reflist|group="訳注"}} == 参考文献 == {{reflist}} == 関連項目 == * [[時系列分析]] * [[共和分]] {{iw-ref|en|Error_correction_model|2020-12-18|oldid=994938531}} {{DEFAULTSORT:こさしゆうせいもてる}} [[Category:計量経済学]] [[Category:計量経済学モデル]] [[Category:時系列分析]] [[Category:数学に関する記事]]
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