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赤方偏移
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[[Image:Redshift.svg|thumb|200px|[[太陽]]光の[[スペクトル]](左)と比べ、遠方の銀河の光のスペクトル(右)は、[[フラウンホーファー線]]がより長波長側(赤い方)にずれている。]] {{Physical cosmology}} '''赤方偏移'''(せきほうへんい、{{lang-en-short|redshift}})とは、主に[[天文学]]において、遠方の[[天体]]から到来する[[電磁波]]の[[波長]]が、[[ドップラー効果]]によって長くなる([[可視光線|可視光]]で言うと赤くなる)現象をいう。 赤方偏移による波長のずれは、天体の光を[[分光法|分光]]し、[[フラウンホーファー線]]を観察することによって調べることができる。波長λのスペクトルがΔλだけずれている場合、赤方偏移の量 ''z'' を :<math>z = \frac{\Delta \lambda}{\lambda}</math> と定義する。 観測可能なほぼ全ての[[銀河]]の光に赤方偏移が見られることから、[[宇宙のインフレーション|宇宙が膨張している]]ことを示す証拠であると考えられている。 == 概要 == === 光のドップラー効果 === 遠ざかる音源からの音が[[ドップラー効果]]により低くなるのと同様、遠ざかる光源から発せられた光には赤方偏移がおこる。例えば、地球に対して遠ざかるような運動をしている[[恒星]]のスペクトルを測定すると、地球から見た視線方向の後退速度に対応する赤方偏移が観測される。静止系で波長λの光が観測者に向かってvで運動するとき、観測者から見た光の波長λ'は <math>\lambda'=\lambda\sqrt{\frac{c-v}{c+v}}</math> で与えられる。ただしcは光速で、<math>|v|<c</math> である。 === 宇宙論的赤方偏移 === [[アメリカ合衆国]]の[[天文学者]][[エドウィン・ハッブル]]は、様々な[[銀河]]までの距離とその銀河のスペクトルを調べ、ほとんど全ての銀河のスペクトルに赤方偏移が見られること、赤方偏移の量は遠方の銀河ほど大きいことを発見した([[ハッブルの法則]])。この事象は、銀河を出た光が地球に届くまでの間に空間自体が伸びて波長が引き伸ばされるためであると解釈でき、宇宙が膨張していることを示すと考えられている。2020年現在、観測されている最も z が大きい(すなわち最も遠方にあると考えられる)天体は ''z'' = 10.957 の銀河 [[GN-z11]] である{{R|Jiang2020}}。また、[[HD1]] は2022年4月時点で、観測可能な宇宙において地球から最も遠い距離に位置している可能性がある既知の天体として知られている。 もう一つの代表的な例として、[[宇宙背景放射]]での現象が挙げられる。現在の宇宙では、[[絶対温度]]約 3K の[[黒体放射]]に相当する放射があらゆる方向からやってきており、宇宙背景放射と呼ばれている。これは、宇宙創成期に宇宙を満たしていた高温状態の[[プラズマ]]から発せられた[[熱放射]]が、[[ビッグバン]]後の急激な[[宇宙]]の膨張によって波長が引き伸ばされて極端な赤方偏移を受け、現在観測されるような[[電磁波]](特に、[[マイクロ波]])として観測されているものである。これは現在知られている最大の赤方偏移であり、 ''z'' = 1089 {{R|z1089}}(距離換算で約138.12億光年<ref>[http://www.lizard-tail.com/isana/lab/redshift/redshift-distance.php?h=67.15&m=0.317&l=0.683&scale=0.001&start_z=1089&end_z=1089 z=1089の赤方偏移と距離の関係]</ref>)である。 [[File:Redshift vs cosmological distance (jpn).svg|frame|天体の赤方偏移 z とその天体の距離([[共動距離]]、[[光度距離]]、[[角径距離]])の関係<ref>{{Cite book |和書 |author=松原隆彦 |year=2010 |title=現代宇宙論―時空と物質の共進化 |publisher=東京大学出版会 |isbn=978-4-13-062612-5 |p=95}}</ref>。平坦な宇宙モデルを仮定し、物質の密度パラメータとして <math>\Omega_{m0} = 0.315</math> を採用したもの。]] === 重力赤方偏移 === 重力赤方偏移(gravitational redshift)とは、重力場中の光の波長が長くなる現象である{{R|shin}}。 [[一般相対性理論]]において、時間の流れがどれくらい変化するかは、計量という式によって表わされる。最も簡単な[[シュヴァルツシルトの解]]では、質量Mの天体から距離rだけ離れた地点における計量は以下の式になる。 :<math> \Delta\tau = \sqrt {1- \frac{2GM}{c^2 r} } \Delta t </math> ここで、<math> \Delta\tau </math>は、距離rの地点における時間の流れを表わし、<math>\Delta t</math>はその天体から無限遠方の地点における時間の流れを表わす。この式により、距離rの地点における時間の流れが遅くなることが表わされる。また、<math>2GM/c^2</math>は[[シュヴァルツシルト半径]]を表しており、距離rがシュヴァルツシルト半径に等しいときは遠方からは時間が全く経過しないように見えることを示している{{R|shin}}。 光の波長''λ''、振動数''ν''と光速度''c''との間には、''λν'' = ''c'' の関係がある。光の振動数は単位時間当たりの振動の回数であるから、時間の進み方が遅くなると遠方の観測者からは、振動数は小さく、波長は長く観測される{{R|shin}}{{R|cho}}。 これを使って、重力赤方偏移の大きさを計算すると以下のようになる。天体の中心から距離rの地点で波長<math> \lambda_\mathrm{em} </math>の光が放射され、遠く離れた地点において、その光の波長が<math> \lambda_\mathrm{rec} </math>と観測されたとすると、 :<math> \lambda_\mathrm{em} = \sqrt{-g_{tt}} \lambda_\mathrm{rec} = \sqrt{1- \frac{2GM}{c^2 r} } \lambda_\mathrm{rec} </math> この<math> \lambda_\mathrm{em} </math>を、赤方偏移zの定義、 :<math> z = \frac { \lambda_\mathrm{rec} - \lambda_\mathrm{em} }{\lambda_\mathrm{em}} </math> に代入すると、zの式は<math> \lambda_\mathrm{rec}</math>の式となる。すなわち、''z''の理論上の値が、観測値<math>\lambda_\mathrm{rec} </math>から計算できる。 [[1984年]]、[[宇宙科学研究所]](ISAS)のX線観測衛星 [[てんま]] が、[[中性子星]]の強い重力による重力赤方偏移を世界で初めて捉えたと報じた。 == 赤方偏移を扱った作品 == * 『[[バーサーカー (セイバーヘーゲン)|バーサーカー]]』シリーズ([[フレッド・セイバーヘーゲン]]) * 時の果てのフェブラリー ─赤方偏移世界─([[山本弘 (作家)|山本弘]]) * [[青い宇宙の冒険]]([[小松左京]]) * 時間に挟まれた男([[ロバート・シェクリイ]]) * [[おねがい☆ティーチャー]]、[[おねがい☆チュータ]](時間停止(仮死)状態になる「停滞」患者の外見の特徴としての、「瞳の色」として設定された) == 出典 == {{Reflist|refs= <ref name="shin">{{Cite |和書 |title=新・天文学事典 |editor=[[谷口義明]] |author=大須賀健 |coauthor=高橋労太 |page=404 |publisher=[[講談社]] |date=2013-03-20 |edition=初 |isbn=978-4-06-257806-6}} </ref> <ref name="cho">{{Cite |和書 |title=超・宇宙を解く |editor1=[[福江純]] |editor2=沢武文 |author=福江純 |page=44 |publisher=[[恒星社厚生閣]] |date=2014-07-10 |edition=初 |isbn=978-4-7699-1474-7}} </ref> <ref name="Jiang2020">{{cite journal|first=L. H.|last=Jiang|first2=N.|last2=Kashikawa|first3=W.|last3=Shu ''et al.''|title=Evidence for GN-z11 as a luminous galaxy at redshift 10.957|year=2020|journal=[[Nature Astronomy]]|arxiv=2012.06936|bibcode=2020NatAs.tmp..246J |doi=10.1038/s41550-020-01275-y}}</ref> <ref name="z1089">{{Cite web|和書 |url=https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/story/newsletter/keywords/21/03.html |publisher=東京大学大学院理学系研究科・理学部 |title=赤方偏移 |author=土居守 |accessdate=2016-03-08}}</ref> }} == 関連項目 == * [[青方偏移]] * [[エドウィン・ハッブル]] {{Normdaten}} {{DEFAULTSORT:せきほうへんい}} [[Category:振動と波動]] [[Category:天文学]] [[Category:物理化学の現象]] [[Category:エドウィン・ハッブル]] [[Category:天文学に関する記事]] [[Category:天体分光学]]
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